タイトル:新兵の補給物資輸送マスター:岩魚彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/16 09:43

●オープニング本文


 ここは、とある地域にあるUPC基地の会議室。そこには上官であろう男性と、まだあどけなさの残る女性の新米兵士が向かい合って座っていた。その雰囲気は決していいと呼べるような代物ではなく、新米兵士は顔を青ざめている。
「先程の話は本当なのですか?」
 新米兵士の言葉に、上官は眉をピクリと動かした。
「アンナ二等兵! 先程の命令を復唱せよ」
「は、ハッ! 私、アンナ二等兵は補給物資を確実に東部基地へ輸送いたします!」
 任務自体はきちんと把握している事を確認した上官は、その表情を少し和らげる。
「よし、兵士なら命令はきちんとこなせよ」
「そ、そんな‥‥。私、まだ補給物資の輸送なんて、一度も先輩に同行したこともありませんよ!」
 アンナはこの命令を撤回してもらうべく、慌てて自分の状態を報告した。だが、上官はそんな事は分かっていると言いたげな表情でアンナを見つめる。
「おいおい、私は君の上官だよ? 知らない訳ないだろ。本来なら私も同行するはずだったのだが、作戦に参加する事になって君に一任する事を決めたんだ」
 大規模作戦が発動した事により各地の基地から援軍が向かっている。この基地では援軍を出したことにより、一時的な人手不足に陥っていた。
「ですが、東部基地へのルートでキメラが確認されたという話を聞きました。私一人では力不足だと言わざるを得ません‥‥」
 不安と情けない自分への悔しさで、アンナの表情は強張っていた。
「おいおい、いくら無責任な上官とはいえ、君を一人で行かせはしないよ。大事な補給物資に何かあったら、大変だからね」
 上官はアンナの緊張を解こうと、自分なりのユーモアを加えて話をしたつもりであった。だが、逆に彼女の自信を喪失させる事になってしまう。
「そう、ですよね‥‥補給物資は大切ですよね」
 どことなく虚空を見つめるアンナを見た上官は、慌ててフォローに入る。
「ははは、冗談だよ。君は大切な部下だからね。こちらで傭兵が手伝ってくれるように手続きをするさ。彼らは歴戦の猛者達だからな、下手な仲間の護衛より安全なはずだ」
 上官はなるべく不安にさせないよう、顔の筋肉を緩めながら言って聞かせた。それでも、アンナは緊張したままで、体を強張らせている。
「私のような新米に傭兵だなんて‥‥その、いいんですか?」
「こちらのミスだからな。それぐらいの事は上に認めさせるさ。お前は下手に遠慮するより、必ず任務を成功させるよう努めろ。いいな?」
 上官の視線がアンナを捕らえると、つい生唾を飲み込んでしまった。いくら、傭兵が護衛についてくれても、自分がドジをすれば失敗する恐れがある。それだけは、どうしても避けなければならなかった。
「了解! 全力で任務を遂行します!」
 アンナは上官の期待を受けて、緊張しながらも敬礼をする。
「その意気だ。それでは、詳細を説明する」
 二人の間にあるテーブルに上官が地図を広げる。この基地から東部基地までのルートが記されていた。
「いいか? 東部基地まではおよそ500km。そこを輸送トラックで補給物資を運んでもらう」
 アンナは輸送機の操縦をまだ覚えていない。それに、東部基地との間にはワームの通り道があり、空路を通る事は好ましくない。ワームを相手するくらいなら、キメラの相手をした方がよっぽどマシである。ワームがそこを通る度にキメラを投下していくようで、最近現れたというキメラも、そうして送り込まれたと推測できた。
「トラックには、武器、弾薬の他にKVの部品もある。できるだけ衝撃を受けないように気を付けろ。多少無茶な運転しても問題ないだろうが、キメラの体当たりでも食らったら武器が暴発したり、精密部品が駄目になったりするかもしれん。振り切れると判断した場合はいいが、無茶な運転は控えて傭兵に退治してもらった方が無難だな」
 思った以上に条件が多いので、アンナのプレッシャーが高まっていく。そして、ゴクリと息をのんでしまった。
「途中、道路の状態が良くない場所がある。キメラが確認された場所にも近い。タイヤがパンクしないよう気を付けろ。特にガラス片が落ちていたら、トラックを止めて排除しておくべきだろう」
 アンナは忘れないうちに、自分の地図に注意するべき場所を記していく。その懸命な姿に上官は少し安心して話を続けた。
「500kmの道のりで特に気を付けなければならないのが、この廃墟付近だ。先ほど言った状態が悪い道路とはここの事だ。距離にして100km、道路の状態を考えると三時間以上かかるだろう。ここさえ気を付ければ、どうとでもなるだろう」
 説明を終えた上官はアンナを正面から見据える。アンナは自分の地図に今まで説明をきちんと記しており、この地図さえあれば特に問題ないように思えた。
「質問はあるか?」
「あの‥‥東部基地へたどり着いた後はどうするんですか?」
「そうだな。護衛の傭兵はそこで任務終了という事になるな。帰りはお前一人だからな、荷物もないし護衛も必要ないだろ」
「えっ!」
 上官のあんまりな言葉に、アンナは驚きの声を上げてしまう。上官はその様子を見て声を殺して笑っていた。
「ククク‥‥、冗談だよ。東部基地に滞在しているうちの兵士がいるはずだ。彼らを連れて戻って来い。ついでに護衛もさせれば問題ないだろ」
 上官の意地の悪さにアンナは頬を膨らませたが、今度はなんとなく気持ちが軽くなった気がした。
「あんまり力むなよ。いつものようにやればいい。一応はそれだけの事を教えてきたつもりだ」
「はい。了解です」
「じゃあ、私は作戦に向けて準備があるから、これで失礼する。アンナ二等兵、君の活躍を期待する」
「ハッ!」
 お互いに敬礼をした後、片付けをして二人は会議室を後にした。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
ピアース・空木(gb6362
23歳・♂・FC
ホキュウ・カーン(gc1547
22歳・♀・DF
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER
エメルト・ヴェンツェル(gc4185
25歳・♂・DF
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
毒島 風海(gc4644
13歳・♀・ER

●リプレイ本文

●傭兵と新兵の出会い
 朝日がまだ上る前の早朝、依頼を受けた傭兵達は護衛すべき新兵のいるUPC基地へとやってきた。。
 認証ゲートをくぐってすぐの場所に、一人の女性兵士が立っていた。女性兵士は傭兵達に対して敬礼する。
「依頼を受けて下さった傭兵の皆さんですね。自分はアンナ二等兵、これから宜しくお願いします!」
 アンナはどうやら、傭兵達が来るのをゲートで待っていたようだ。
「新兵のはじめてのお使いにしちゃあ、随分物々しいな‥‥。本当に単なる部下を心配してのことなのかねぇ。おめぇらデキてんじゃねぇ? ま、おいちゃんが来たからには心配ねぇよ? 気楽にしてりゃーいいさ」
 伊佐美 希明(ga0214)は緊張してガチガチになっているアンナに対して、軽口を叩いてその緊張を解そうとする。
「新人の女兵隊‥‥ね♪ 男臭ぇモンに染まンなよ?」
 希明の話に便乗して、ピアース・空木(gb6362)も会話を合わせながら喉を鳴らして笑った。
「そ、そんな訳ないです!」
 必至に否定している所がまた怪しく感じられる。アンナの緊張がいい感じに解れてきた所で、軽く自己紹介を交わした後、輸送トラックが格納されている車庫へと向かった。
 その道すがら、ホキュウ・カーン(gc1547)から補給物資の重要性を教え込まれる。
「いいですか? アンナさん。軍隊という組織は経済的観点から言えば何も生み出さない。ただ、無為に物資を消耗する。しかし同時に消費という活動を行うことで経済を活性化させることが出来る戦争特需というものを引き起こします。その象徴がメガコーポですね。問題はその物資を確実に届ける手段と、それが出来るかどうかです。出来なければ戦えず、生き残る事ができません。だからアンナさんは無茶をせず、トラックの運転に専念してください」
 アンナはその言葉を一字一句逃さずよう聞き取り心に留めた。
 車庫には事前に搬入された希明とピアースのジーザリオがあった。アンナが輸送物資の再確認を行っている間に、出発準備を行う。
 希明のジーザリオにはスペアタイヤと修理道具を積み込み、不備が無いか事前点検を行う。
ピアースのジーザリオは後部座席を取り外し、M−121を設置。エメルト・ヴェンツェル(gc4185)がトラック用のスペアタイヤを積み込む。
「‥‥物資を運ぶのにタイヤをパンクさせるなど、言語道断な気がしますが‥‥」
 積み込みが終わったエメルトは同様に確認を終えたアンナに近づく。そして、これからの任務において予想されるハプニング等の注意、特にキメラと遭遇した場合はけして突出しないことを念入りに説明した。
「‥‥ですので、貴女はどうしたら積荷を基地に送り届けられるか、それを第一に考えてくださいね」
「はい! 了解です!」
 返事は良かったのだが本当に理解しているのか、少々不安が残る。どことなく気負いすぎているような感じを受けた毒島 風海(gc4644)はそっと、アンナに語りかけた。
「ええと‥‥。私も新米ですけど‥‥結構なんとかなってますし。落ち着いて任務にあたれば大丈夫‥‥です。それに長い道程ですので、肩に力を入れ過ぎると、逆によくありませんからね‥‥」
 風海は独特なガスマスクを装着しており、その表情は分からないがアンナを励まそうとしているようであった。
 準備が済んで、各々の自動車に乗り込んでいく。その最中、エメルトが仲間である那月 ケイ(gc4469)に釘を刺しておいた。
「‥‥では、”しっかり”と任務をこなしましょう」
「大丈夫。任せとけって」
 ケイは軽い調子で答えると、輸送トラックへ乗り込んでいく。トラックの中ではカーラ・ルデリア(ga7022)がアンナにレクチャーを行っていた。
「奪われるのも、壊されるのも論外。早く着いても遅く着いてもアウト。補給ってのはかなり大変なお仕事だよん。弱いけど重要なだけに敵が襲ってくる可能性もあるしね。まっ、そんなことはさておき、こいつを無事に届けなきゃならないやね」
 話を聞き終えた後、アンナはエンジンをかけて輸送トラックを発進させた。

●輸送道中
 輸送トラックを先導するのは、ピアースが運転するジーザリオ。同乗者はホキュウとエメルト。設置したガトリングの砲手はエメルトが担当する。
 輸送トラックがその後に続いていく。運転手はアンナ。同乗者にカーラとケイ。
 殿を務めるのは、ハーモニー(gc3384)の操るジーザリオ。その高い操縦技術が買われて、運転手を務めていた。同乗者に希明と風海。希明はスナイパーライフルを構え、いつでも撃てるように準備している。風海は双眼鏡を使って、周囲を確認していた。
 UPC基地から出発した後、順調に輸送は進む。先導とケイのナビゲーションがあれば、道を間違える事もない。実に順調な輸送であった。

 問題の廃墟付近に到達すると、輸送トラックに備え付けられた無線からピアースの声が聞こえて来る。
「この先ぁ気合いでいかねぇとならねぇしな。一服しよぉや☆」
 その無線の後、先導していたジーザリオが停車しトラックも停止した。
 各々、自分が楽な状態で体を休める。アンナは休んでいいか不安でそわそわしていると、希明が何かを手にしてやってきた。
「おう、嬢ちゃん。先はなげぇかんな。兵隊っつーのは休めるときに休むのも仕事なんだよ。便所も今のうちに済ませきな」
 その言葉アンナの気持ちは軽くなり、腰を下ろして休むことができた。アンナとハーモニーは軽く雑談を交わす。
「その場その場で最良なことが出来るとは限りません。理性に従ってもっとも成功確率の高いことを選択すると良いですよ。後悔することは増えますが、犠牲が少なくてすみます。だけど、戦場という場所でも良い仲間に出会えたたのしさを忘れなければ、戦場で一秒でも長く生き残れますから。たのしむ心を忘れないでください」
 ハーモニーはそう言った後、矛盾してますね。忘れてください。と付け加えて照れていた。再出発の時間となり雑談はお開きになった。

 廃墟付近は前情報通り道路の状態が悪く、スピードを出すことが出来ない。キメラの存在も確認されている為、スピードを落としての走行となった。
「ふっふ〜ん。この為にエキスパートに転職したんだもんね」
 カーラは探査の眼を使用し、周囲の確認を行う。索敵に障害物の発見とその能力をフルに発揮していた。

 先導していたジーザリオが停車し、発見した大きなガラス片をホキュウが丁寧に取り除いていく。
「‥‥一応、軍用のトラックなのにガラスの破片程度でパンクしかねないとは、現地徴用品なのでしょうか? 正規の大型トラックなら、そうそうパンクなんぞしないのに」
 今回の依頼に少々疑問を抱きつつも作業を終えて、再びジーザリオへと乗り込んだ。
 特に問題が無いまま、廃墟付近100kmの道のりの半分を通過した頃、探査の眼を使っていたカーラがその異変にいち早く気が付いた。
 カーラの判断でトラックを停止させ、無線で動く影を発見した事を伝える。

 風海が双眼鏡でその付近を確認すると、それは間違いなく情報にあったカバキメラであった。
「カバ型キメラですか‥‥。アフリカだと、ライオンよりも恐れられているとか‥‥。パワーもあり質量も大きく、時速40kmで走れる‥‥。まさに陸の王者ですね。そういえば、カバ肉の味はワニ肉に近いそうで‥‥」
 風海は涎をすすりながら、キメラ発見の報告を行う。キメラの群れの縄張りだったのか、その数は中々に多い。キメラもこちらに気付いたのか徐々に接近しつつあった。

 ピアースは開けた場所でキメラを撃退しようと、輸送トラックを先導する。その間にも近寄るキメラをエメルトがM−121で牽制し、接近の阻止を試みていた。
「9時方向、2体!」
「外敵なんてない。戦う相手は常に自分自身のイメージ‥‥」
 後方では、風海が敵の位置を知らせ、希明がスナイパーライフルで確実にキメラの数を減らしていく。
 開けた場所への移動の際中、突如輸送トラックの動きがおかしくなり、そのまま停止してしまう。どうやらタイヤがパンクしてしまったようだ。
 傭兵達は予定を急きょ変更し、その場に乗り物を停止させた。
「予定変更ぉ! ちぃっとばかし視界が悪いがここでカバを殲滅すンぜぇ」
 無線からピアースの声が聞こえて来る。
「あ〜、例のキメラっぽいやね‥‥。じゃ、ちょっくら片付けてくるから、指示が無い限りは動かないでねん」
 カーラに釘を刺されたアンナだったが、どうしてタイヤがパンクしたかまるで分らずに、茫然自失となっていた。
「大丈夫。物資にも君にも手出しはさせないからさ」
 そんなアンナを心配して、ケイはそう声をかけてから、そっとキーを引き抜いた。
 そして、傭兵達はキメラ殲滅に向かう。

●トラック防衛戦
 トラックを囲むように現れたキメラに対し、傭兵達もトラックを囲むように布陣を組む。キメラは一番大きなトラックめがけて一直線に向かってきた。
 希明は後方から迫ってくるキメラに対して、弾丸を撃ち込んでいく。ハーモニーは錬成強化を使用する事で、希明のスナイパーライフルを強化した。
 カーラは探査の眼で周囲を確認すると、瓦礫の陰に隠れたキメラがいる事に気付く。
「瓦礫の陰にも例のキメラがいるみたいやね‥‥」
 トランシーバを使い、全員に状況を伝えながら敵に向かっていく。
 風海が人形のような超機械をギュッと抱きしめると、銃弾を受け興奮したキメラに対して超機械が発動する。そして、強力な電磁波によってキメラは絶命した。

 その頃、輸送トラックからアンナが飛び出してきた。それを見つけたケイは慌てて声をかける。
「何やってんだ! トラックから降りるなって言われただろ」
「トラックのタイヤがパンクしたのは、私のせいなんです。今のうちにタイヤ交換を‥‥」
 彼女の深刻な顔に、ケイは軽くため息を吐くと彼女のやりたいようにさせた。
(「体張ってでも守るしかないな」)

 一方、トラックの前方を守るピアースは、疾風による素早い動きでキメラを翻弄しながら攻撃を繰り出していく。そして、隙を見つけ腹に潜り込み円閃を乗せた足払いでバランスを崩し、若干柔らかい腹にルベウスを叩き込んだ。
 このキメラはこれで十分と判断し、迅雷で次のキメラへと移動する。ピアースの動きを見ていたホキュウは、握ったマジシャンズロッドを構えた。
「行くぜ! 新型機購入予算のために! あんたらを丸焼きにしてやんよ!」
 覚醒し好戦的になったホキュウの攻撃が、ピアースの攻撃でバランスを崩したキメラに炸裂する。
 そのキメラにエメルトが接近していく。そこに、何処からともなく飛んできた弾丸が跳弾によってキメラに命中した。ここぞとばかりにエメルトは武器に両断剣を乗せてカバを切り裂く。暫くもがいていたキメラは絶命したのかその動きを止めた。

「ハッ。一度狙った獲物は絶対に逃さねぇんだよ」
 射線を遮られた状態でも、跳弾によってキメラに命中させる。そして、希明は次の獲物に弾丸を撃ち込み、風海もそのキメラに攻撃を加えた。
 颯爽と現れたカーラはキメラの首めがけて大鎌を振り下ろす。しかし、カバの首は頑丈で途中で止まってしまった。
 カーラは迫るカバの巨大な口から逃れようとするが、避けるのは無理と判断し鎌でその攻撃を受け止めた。キメラはすぐにトラックへ向けて駆けてく。
 その先にはハーモニーが待機しており、カーラに錬成強化、キメラに錬成弱化を使用した。そして、マーシナリーによる攻撃で止めを刺す。

 ケイはキメラの接近を察知してアンナから少し距離を取り、キメラに向けて発砲する。しかし、カバの巨体を止められる程の威力は無い。接近したキメラの噛み付きを盾で受け止めた。
「この先には行かせねぇよ!」
 何とか進行を防ぐことができたが、このままいくとキメラがトラックに到達してしまう。

「5時方角、ケイさんがキメラと交戦中です」
 風海の言葉を受けて、希明は銃口を指定された方向へ向ける。そこではケイとキメラが戦っている最中であった。
 希明は引き金を引くたびリロードを行い、何発もの弾丸をキメラに叩き込む。
「今度こそ!」
 カーラは弾丸を受けて弱ったキメラに追いつき、再びキメラの首めがけて強化された大鎌を振り下ろす。相手の硬さを考慮した一撃は見事にカバの首を刈り取る事に成功した。

 疾風を纏ってキメラを翻弄しながら、ピアースが連続攻撃を繰り出していく。かなりのダメージを受けて弱った所にホキュウのマジシャンズロッドによる攻撃が決まった。そして、キメラの体力が限界を迎えたのか地に倒れる。

●新兵から兵士へ
 周囲のキメラを全て退治した傭兵達は、トラックの周囲に集まる。そして、パンクした前輪を基地から持ってきた予備のタイヤへと交換する。
「あの、タイヤなのですが、私が確認を怠ったんです。ごめんなさい。きっとかなりの距離を走ったタイヤだと思います」
 アンナは自分のミスの謝罪と状況を説明した。隊長がガラス片に気を付けろと言ったのは、この事を予想していたからだろうか。
「ダブルタイヤってな、片側生きてりゃ走れンのよ♪ 先ずはここから抜け出す事を考えようや」
 ピアースの判断によって、縄張りから去っていった。
「遠足は帰るまでが遠足だぜ。気を抜くのはもうちょっと後だ。ちっ、早く帰ってキンキンに冷えたビールでも飲みてぇな」
 廃墟付近を抜けて、少し気が緩んだ頃に無線から聞こえる希明の注意によって、アンナは気を引き締め直した。

 その後、大きなトラブルは無く、なんとか無事に東部基地へと到着する。
 日は沈み辺りは暗くなっていたが、指定された時間に大きな遅れなく補給物資を受け渡すことができた。
 受け渡しを終えたアンナは、ジーザリオで待つ傭兵達の元へとやってきた。
「今回は本当にお世話になりました。おかげで無事、補給物資を届ける事が出来ました。色々と面倒を見ていただき、本当にありがとうございました!」
 アンナは一回り成長した顔つきで、敬礼をする。今朝出会った時に感じた心もとなさは無く、一人の兵士のように見えた。
 それから一人一人とお別れの挨拶を交わしていく。
「たとえ先輩の意見でも納得いくまで議論してからおこなうと良いですよ。操り人形ではたのしくないですから」
 ハーモニーは真面目な顔で言う。アンナの脳裏には彼女との雑談が思い出された。
 そして、ピアースからコーヒーを手渡された。
「お疲れだ☆ よく頑張ったな。良い兵隊になれよ♪」
 アンナは少し涙ぐみながら、そのコーヒーを口に含む。今まで飲んだ中で最も苦いコーヒーであったが、最も美味しいコーヒーでもあった。
 傭兵達はアンナが一人前の兵士になる事を祈りつつ、東部基地を後にしたのであった。