タイトル:バレンタインの怪マスター:岩魚彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/02 08:48

●オープニング本文


●とある田舎町の雑貨屋
 山と森に囲まれた田舎町は食物こそ困る事は無かったが、生活必需品は一日に一回送られてくる物資に頼るしか無かった。
 そんな田舎町の雑貨屋で、リズ・ミヤモト(gz0378)はアルバイトに勤しんでいる。人手が足りないという事を聞きつけて、わざわざこんな山奥へとやってきたのだ。
「‥‥そろそろ、物資が届く時間のなのに、遅いわね」
「おかしいな‥‥いつもならとっくに到着しているというのに‥‥」
 雑貨屋の店主も輸送トラックが到着しない事を不思議に思う。そして、少し焦りの色が見えた。
 明日は2月14日。バレンタインデーである。
 バレンタインデーには恋人や親しい人にプレゼントを贈る日で、雑貨屋としては儲け時だ。それに、物資の消費も激しくなる。このまま輸送物資が届かないと、住民が不安になる恐れもあった。
 だが、結局、輸送トラックがこの田舎町に到着する事は無かった。

 翌日、2月14日、バレンタインデー。
 田舎町で輸送トラックの運転手が保護される。運転手の話では、ここに来るまでの廃墟で強化人間らしき男に襲われたという事であった。そこで、例の男から手紙を渡されたのである。
 その手紙は酷く汚い文字で、かつ文脈も分かり辛く、解読は困難を極めた。だが、かろうじて解読できた部分を要約すると、『輸送物資は頂いた。返して欲しくば、傭兵を連れてこい。最低、一人は美女がいる事が絶対条件だ』という事らしい。
「強化人間が‥‥傭兵を? 一体、どうして‥‥」
 これには町長もその理由が思いつかない。傭兵を雇うにしても、女性が来てくれる保証もない。
「うちの雑貨屋に来ているアルバイト‥‥確か傭兵だったはずだ! リズちゃんに任せれば、万事解決じゃないか?」
 雑貨屋の主人は意気揚々と声を上げる。
 こうして、リズが知らない所で輸送物資奪還のメンバーが決まった。

●田舎町に近い廃墟にて
 輸送トラックを襲い、強奪した男はその積み荷を漁っていた。そして、目的のモノを見つけたのか、荷台から姿を現す。その姿は、黒い短髪に、端正な顔つき、という好青年であった。革のジャケットにTシャツ、ジーンズというラフな格好は決して格好いいとはいい難いが、男性には似合っている。
「バレンタイン前日なら、絶対にあると思ったぜ‥‥これがなぁ!」
 男は手に持った包装された何かを掲げた。その何かとは‥‥。
「後は、傭兵がここに来るのを待つだけ‥‥いや、その前にもうひと仕事やらないとな‥‥」
 男は別の荷物を取り出す。爆薬に起爆装置の付いた簡単なものだが、輸送トラックを吹き飛ばすのには十分な装置であった。
「くくく‥‥これで脅せば、手出し出来ないだろ‥‥ようやく、オレの夢が叶うって訳だ!」
 男は大きな口を開けて、思い切り笑う。寂れた廃墟には、男の笑い声だけがこだました。

●参加者一覧

勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
伊万里 冬無(ga8209
18歳・♀・AA
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
南 日向(gc0526
20歳・♀・JG
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
煌 闇虎(gc6768
27歳・♂・DF

●リプレイ本文

●呼び出された傭兵達
 傭兵達は村の近くの廃墟に集合していた。
「リズ様、お久しぶりです」
 親しげに微笑みながら挨拶をするのは、リュティア・アマリリス(gc0778)。
「はーい、又々リズちゃんの要請に応えて、お姉ちゃんが参上よ」
 容器にブイサインをしているのは、樹・籐子(gc0214)。彼女達は今回の依頼を受けてくれた傭兵である。
「リュティアさんに、籐子さん! それに、見慣れた顔が‥‥よろしくお願いします!」
 今回の事件に巻き込まれたリズ・ミヤモト(gz0378)が頭を下げた。
「美女の傭兵を要求‥‥これは、期待して良いんですよね!?」
「はぁ‥‥またですの?」
 カウガール姿の伊万里 冬無(ga8209)は、カメラを片手に体をくねらせていた。その様子を眺めつつ、大鳥居・麗華(gb0839)は頭を軽く抑える。

 廃墟なだけあって身を隠す障害物は沢山あり、傭兵達は瓦礫の影に身を隠しながらターゲットを探す。輸送トラックの周囲には犬型のキメラと、強化人間だと思われる男性がいた。
「でも、なんで敵は妙な要求をしたんでしょうか‥‥」
 南 日向(gc0526)は首を傾げつつ、今回の事件を訝しむ。
「まったく‥‥気持ちは分かるがテロを起こすほどでは無かろうに‥‥」
 とある怒りを胸に冷静を装う赤い霧(gb5521)は、今回の件でそのストレスを発散するつもりである。
「何でもいいから、とっとと片付けようぜ」
 一方、煌 闇虎(gc6768)はさっさと依頼を片付けたい様子であった。
 ここに、7人の女性と2人の男性が集った。
「犯人の要求だから仕方なく、仕方なく何だからなっ!」
 女装させられた勇姫 凛(ga5063)が、誰にともなく言い訳をする。「でもこれだけ美人が揃ってれば安心だね、じゃあ凛はキメ‥‥」と逃げ出そうとしたが、どうやら回り込まれてしまったようだ。籐子のコーディネイトによって、今は立派な乙女である。
「わざわざ傭兵を呼びつける‥‥余程腕に自信があるのでしょうか?」
 リュティアは軽く息を吸って、意識を集中させる。すると、体が淡い茶色の光に包まれた。スキル『バイブレーションセンサー』で、敵の数と位置を詳細に入手する。
 トラックを守るのは、犬型キメラが3体。そこで、傭兵達はチームを二つに分ける事にした。

●その要求とは?
「まったく、あんなヤツの言う事を聞かないといけないなんてっ。爆弾の解除、なるべく早く頼みますわよ?」
 囮班に抜擢された麗華は嫌な汗をかきつつ、キメラ班のメンバーに訴えかける。
「良いじゃないですか麗華さん、こんな素敵な状況は見過ごせませんです♪」
 麗華と同様、囮班となった冬無は今の状況を楽しんでいるように見えた。
「とりあえず、お姉ちゃん達が来たからには、KENZENな結末になるのは絶対に無縁よねー」
 籐子も囮班として、やる気十分のようだ。
「私などが囮役でいいのでしょうか‥‥」
「リュティアさんが駄目なんて、私は一体‥‥」
 自分の容姿を不安に感じるリュティアに、リズは自分の体と見比べて酷く落ち込む。
「仕方なく、仕方なく何だからなっ!」
 男性でありながら囮班となった凛は、同性の仲間へ訴えかけていた。

 囮班は強化人間の男性から分かるように、正面から近付いて行った。
「おお! ようやく来たな! 待ちわびたぜ!」
 囮班を見つけた男性は腰を上げると、傭兵達に近づいていく。
「いいか? オレのいう事に逆らったら、この起爆スイッチでトラックはドカン! だぜ」
 男性は傭兵達を脅しているようだが、冬無が先陣を切って近付く。
「んふふふっ。皆さんの姿を記念にどうぞです♪」
 胸に出来た深い谷間を強調しつつ、冬無は男性にデジカメを手渡した。
「そ、そうだな‥‥お前と、金髪‥‥ちょっと耳を貸せ」
 麗華は自分が呼ばれた理由が分からずに首を傾げていたが、男性の話を聞くと顔が真っ赤に染まっていく。
「しかしなんで私がこんなことしないと‥‥うぅぅ、わかってますわよ! やればよいのでしょう、やれば!」
 男性が起爆スイッチをチラつかせて、麗華に言う事を聞かせる材料とする。一方、冬無は心なしかワクワクしているように見えた。
 二人が準備の為に瓦礫の影に隠れると、男性は次の犠牲者へ目を付ける。
「メ、メイドさん‥‥是非、これをオレに渡してくれ! その時は『武様バレンタインチョコです‥‥』と恥ずかしがりながら‥‥頼む!」
 言葉の意味をあまり理解していないリュティアだったが、包装されたチョコを武から受け取った。そして、武の前に立つと胸の前でチョコを抱いて見せる。
「あ、あの‥‥武様バレンタインチョコです‥‥」
 若干、俯いたリュティアが顔を朱に染めながら武にチョコ渡した。
「うおおぉぉぉぉぉぉ! メイドさん! ありがとう!」
 何故か感極まった武は、リュティアに抱きつくと胸に顔をうずめてすりすりする。
「あ、あの‥‥武様?」
 困惑してリュティアは抵抗する事ができない。
「あ、そこの果実が未成熟なポニーテール二人。上目づかいで「ご主人様アーン」と言いながらオレにチョコを食わせろ!」
 凛とリズは若干顔を引きつらせるが、機嫌を損ねる訳にはいかない。
「こんなんで女の子に言うこと聞かせようなんて、最低何だぞ‥‥」
「だ、誰が未成熟よ‥‥」
「あ、オレに抱きついても追加ね」
 武は素直でない二人に追加注文を出す。二人は諦めて、武に抱きつくと、さっきのチョコを手に取った。
「ご主人様‥‥あ、アーン‥‥」
「ご、ご主人サマ‥‥あ、アーンなんだぞ‥‥」
 武はリュティアに抱きついたまま、差し出されたチョコをかぶりつく。
「ヒッ!」
 そして、チョコを持っていた手までベロベロと舐めまわした。突然の事態に凛は手を引っ込めてしまう。
「満足だ。次は‥‥そうだな‥‥。そこのポニテに芸者遊びさせてもらうか」
 武の顔は欲望によって、だらしなく歪んでいる。リズの代わりに凛が受けようとするが、男性である事がばれる恐れがある為、リズが受ける事になった。
「つまり解けた帯を引っ張ってくるくる廻し。『あれ〜お代官様〜』な事をやりたい訳ね
‥‥乗った!」
 何故かノリノリな籐子は、リズを引っ張って瓦礫の影へと隠れる。それと、入れ替わりに、冬無と麗華が姿を現した。
「あふぅ、こ、これで良いんですか♪」
 冬無は胸を大きく肌蹴て、そこにチョコをコーティングしている。溶けたチョコはかなりの熱さなので、その熱で冬無自身が上気しているようにみえた。
「この変態! こ、これでいいんですの! くぅ」
 麗華は先ほどとあまり変わらないが、短いスカートの裾を引っ張っている。何かを気にしているように見えた。
 武は冬無へと飛びつくと、コーティングされたチョコをしこたま舐めまわす。
「はぁぁ、そ、それはナッツじゃ、あぁ、か、噛っ、あぁぁ♪」
 一体、何が行われているのかここでは詳しく書けないが、冬無の熱い呼気と艶めかしい嬌声が辺りに響く。その場にいる囮班全員が顔を赤くして、その様子に釘付けとなってしまった。
「さぁて‥‥お次は金髪ちゃんだぁ‥‥」
 もはや獣と化した武は、猛然と麗華のスカートの中に顔を突っ込む。
「ベロベロ‥‥じゅるじゅる‥‥」
「んっ! そ、そこは‥‥はぁんっ!」
 一体、麗華のスカートの中で何が起こっているのか‥‥ここで明記できない事が残念でならない。
「はぁー‥‥はぁー‥‥♪ あ、麗華さん、お尻が弱いですよ♪」
「く、伊万里‥‥んぁ、後でお仕置きですわ! ‥‥んひん!?」
 冬無のアドバイス以降、何故か麗華の反応が激しくなり、顔は真っ赤で呼吸は荒くなる一方である。
 麗華のスカートから出て来た武の顔はチョコまみれであったが、その表情は清々しかった。
「お待たせしたわね! って、何か面白い事があったみたいじゃない」
 リズの着付けが終わって、顔を出した籐子は少し残念そうであったが、事後の様子も満更ではなさそうだ。
「〜〜‥‥」
 籐子に引っ張られて、現れたリズは艶やかな着物姿であった。日系という事もあって、それなりに似合っている。
「よっしゃ! 早速、やるぜぇ!」
 武はおもむろに、リズの帯を掴む。
「リズちゃん! 『あれ〜お代官様〜』を忘れちゃ駄目よ!」
「え? あ〜れ〜‥‥」
 籐子のアドバイスも虚しく、帯が思い切り引っ張られた。
 そして、次の瞬間上空で大きな爆発が起こった。つまり、反撃の狼煙である。

●輸送トラックを救え
「うおおぉぉぉぉぉぉ!」
 リズのつけっぱなしになった無線機から、キメラ退治班へと状況が送られてくる。
「こっちを気にしてる様子が全くないな‥‥」
 武のはしゃぎ様に、闇虎は少し拍子抜けする。
「その分、暴れられる訳だ。問題ない‥‥」
 赤い霧は獲物である両手斧のガノを構える。その目は若干座っているようだ。
「では、行きます!」
 日向が変身ポーズを取ると、その姿は黒いスーツに覆われてヒーロー然とした格好へ変身する。
 先ず、赤い霧が先行してキメラへと襲い掛かる。初っ端の一撃でその頭部を叩き割った。一撃でキメラは悲鳴を上げる暇も無く絶命する。
「‥‥ほら、遊んでやるよワン公共」
 全力移動で闇虎がキメラの注意を引く。その合間、日向の援護射撃によって、キメラの攻撃を殆ど受けない。
「犬が虎に勝てると思うか? できるだけ静かに逝け」
 武の視界外へとキメラを誘導すると、ハルバードでキメラへと攻撃を仕掛ける。一撃では倒せないが、何度も攻撃を仕掛けて止めを刺した。
「この調子なら、ばれる事は無さそうです!」
 日向は弓で援護に徹する。
「グォウオオオオオオオオオオオッ!」
 大斧の一撃で、最後の犬型キメラは体を真っ二つにされて息絶える。
 そして、闇虎はすぐさまトラックを調べる。分かり易い事に、トラックの裏に爆発物が設置されていた。軽く見ただけで振動、傾斜等のセンサーが付いてない事が分かる程、単純な作りである。
「任せたっ!!」
 闇虎は爆弾を取り外すと、爆弾を空高く放り投げた。
 日向は前もって準備した弾頭矢を番え、爆発物に標準を合わせた。
「任されましたっ!!」
 放物線を描く爆発物が、頂点に達する時少し止まる。そのタイミングを狙って矢を放つ。
 見事に爆発物が空で爆発した。

「待たせたな! 後は奴を倒す‥‥だけ?」
 闇虎と赤い霧が囮班に追いつくと、その惨状に唖然とする。呼吸を荒くした冬無と麗華に、着物でグルグル回るリズ。二人の目の前で、リズの回転が止まった。
「おぉっ♪ 目の保養だな♪」
 はらりと、着物の前が開くとリズの素肌が露出する。
「着物に下着は邪道よねー」
 籐子は何度も頷きながら、いい仕事をしたと感無量であった。
「えーっと‥‥トラックは無事なのですね?」
 そのリュティアの言葉に、武はハッと我に返る。そして、咄嗟に起爆スイッチを押したが、何の反応もない。次の瞬間、武は凄まじい殺気を感じて振り返る。
「ふ、ふふふふふふふふ。よくもやってくれましたわね? 覚悟は出来てますわよね?」
 麗華は一見笑っているように見えるが、完全に目が本気である。人を殺す事も厭わない本気の目だ。
「ま、まて‥‥これには深い理由が!」
「おーっほっほっほ! 今更許すと思ってますの! ミンチになりなさいな!」
 麗華は鉄扇を取り出すと全力で攻撃を繰り出す。叩きつけたり、突き刺したりして武へ徹底的に攻撃した。
「覚悟さえ決めれば、倒す事だってきっとためらわずに出来るはず‥‥」
 日向はもう一度、変身ポーズを取り、勇気を奮い起こす。洋弓「タランチュラ」を構え、仲間の援護を行った。
「同情の余地は無いよね!」
 大鎌「紫苑」で凛は何度も武を切り刻む。
「このままやられるか!」
 先程駆けつけた赤い霧と闇虎に向けて、発砲と斬撃を繰り出す。
「っ! 痛ぇなっ!」
 攻撃を避けそこなった闇虎は軽くダメージを受けてしまった。そこに、赤い霧が割って入り、ガノで攻撃を受け止める。
「おいおい、俺を忘れるなよ‥‥」
 赤い霧によって攻撃を受け止められてしまった武に、もう道は残されていない。
「あはぁ、逃がしませんです♪ 解体して差し上げますです♪」
 瞳の光を失い、狂気の笑みを浮かべた冬無の言葉は、武の心を凍らせる。何処に隠していたのか、大量のアーミーナイフを取り出すとそれで思う様に切り刻んだ。
「先ずは動きを封じます」
 覚醒と同時にリュティアの瞳が明るい青から、鮮やかな緑へと変わっていく。呪歌を口ずさむと、リュティアと対象の武が淡く白い光に包まれた。
「か‥‥体が痺れて‥‥いう事聞かねぇ」
 呪歌によって、麻痺を受けた武はその能力を大幅に落としてしまう。
「おい‥‥貴様覚悟出来てるよな?」
 動きの鈍った武に向けて、ガノを思い切り振り下ろす赤い霧。「GYAAAAAAAAAAAA」という咆哮が廃墟にこだまする。
「あっ! 全裸のねーちゃんが笑顔でこっちに手を振ってるぜ!? ‥‥って、んなわけあるかあぁぁっ!!」
 嘘だと分かっても、そちらに視線が向いてしまうのは、男の悲しい性である。
「襲牙虎撃!! つぶれやがれっ!!」
 闇虎は武の背後に回り込むと、軽く飛んで最上段から地面叩き割る勢いで、ハルバードを打ち降ろした。
 傭兵達の容赦ない猛攻は続く。

●一片の悔い無し
 血だまりに倒れる武は、ピクリとも動かない。強化人間とはいえ、これだけのダメージを負っては生きてはいられないだろう。
「麗華さん、そろそろ許してあげて‥‥」
 まだ攻撃を続ける麗華を日向が止めた。
「ふ、すっきりしましたわ♪」
 麗華は返り血で真っ赤になっていたが、その表情は実に爽やかである。様々な痴態の入った冬無のデジカメもどさくさに紛れて、粉砕していた。
 もう、息をしていないと思われた武の体がピクリと動き、立ち上がる。
「オレは‥‥女の子から‥‥チョコを貰った事が‥‥一度も‥‥無かった。このまま‥‥死ぬわけにはいかないッ!」
 武は最後の力を振り絞り、起き上がる。
「話は聞かせてもらったぁ! 俺も姉貴のチョコしかもらった事がねぇ!!」
 闇虎が魂の籠った雄叫びを上げる。まぁ、嘘なのだが。
「バレンタインです! チョコどうぞ! もう悪さしないでくださいね?」
 日向から差し出されたチョコを武は手に取る。
「同性として気持ちは分かるから‥‥信じてないな、りっ、凛は男だっ! 彼女だって‥‥」
 凛は武に誤解されたままだったが、同性の同情としてチョコを手渡した。
「チョコはありませんが、お茶でもお淹れ致しましょう」
 ポットセットを取り出したリュティアはお茶の準備を始める。
「オレは‥‥オレは‥‥もう‥‥思い残すことは‥‥何もない‥‥」
 武は立ち上がった姿勢のまま、息を引き取る。

 輸送物資は無事、村に届けられた。バレンタインという事もあり村は賑わっている。だが、忘れてはいけない。その陰で寂しい思いをしている人がいるのだと。