●リプレイ本文
●呼び出された傭兵達
傭兵達は村の近くの廃墟に集合していた。
「リズ様、お久しぶりです」
親しげに微笑みながら挨拶をするのは、リュティア・アマリリス(
gc0778)。
「はーい、又々リズちゃんの要請に応えて、お姉ちゃんが参上よ」
容器にブイサインをしているのは、樹・籐子(
gc0214)。彼女達は今回の依頼を受けてくれた傭兵である。
「リュティアさんに、籐子さん! それに、見慣れた顔が‥‥よろしくお願いします!」
今回の事件に巻き込まれたリズ・ミヤモト(gz0378)が頭を下げた。
「美女の傭兵を要求‥‥これは、期待して良いんですよね!?」
「はぁ‥‥またですの?」
カウガール姿の伊万里 冬無(
ga8209)は、カメラを片手に体をくねらせていた。その様子を眺めつつ、大鳥居・麗華(
gb0839)は頭を軽く抑える。
廃墟なだけあって身を隠す障害物は沢山あり、傭兵達は瓦礫の影に身を隠しながらターゲットを探す。輸送トラックの周囲には犬型のキメラと、強化人間だと思われる男性がいた。
「でも、なんで敵は妙な要求をしたんでしょうか‥‥」
南 日向(
gc0526)は首を傾げつつ、今回の事件を訝しむ。
「まったく‥‥気持ちは分かるがテロを起こすほどでは無かろうに‥‥」
とある怒りを胸に冷静を装う赤い霧(
gb5521)は、今回の件でそのストレスを発散するつもりである。
「何でもいいから、とっとと片付けようぜ」
一方、煌 闇虎(
gc6768)はさっさと依頼を片付けたい様子であった。
ここに、7人の女性と2人の男性が集った。
「犯人の要求だから仕方なく、仕方なく何だからなっ!」
女装させられた勇姫 凛(
ga5063)が、誰にともなく言い訳をする。「でもこれだけ美人が揃ってれば安心だね、じゃあ凛はキメ‥‥」と逃げ出そうとしたが、どうやら回り込まれてしまったようだ。籐子のコーディネイトによって、今は立派な乙女である。
「わざわざ傭兵を呼びつける‥‥余程腕に自信があるのでしょうか?」
リュティアは軽く息を吸って、意識を集中させる。すると、体が淡い茶色の光に包まれた。スキル『バイブレーションセンサー』で、敵の数と位置を詳細に入手する。
トラックを守るのは、犬型キメラが3体。そこで、傭兵達はチームを二つに分ける事にした。
●その要求とは?
「まったく、あんなヤツの言う事を聞かないといけないなんてっ。爆弾の解除、なるべく早く頼みますわよ?」
囮班に抜擢された麗華は嫌な汗をかきつつ、キメラ班のメンバーに訴えかける。
「良いじゃないですか麗華さん、こんな素敵な状況は見過ごせませんです♪」
麗華と同様、囮班となった冬無は今の状況を楽しんでいるように見えた。
「とりあえず、お姉ちゃん達が来たからには、KENZENな結末になるのは絶対に無縁よねー」
籐子も囮班として、やる気十分のようだ。
「私などが囮役でいいのでしょうか‥‥」
「リュティアさんが駄目なんて、私は一体‥‥」
自分の容姿を不安に感じるリュティアに、リズは自分の体と見比べて酷く落ち込む。
「仕方なく、仕方なく何だからなっ!」
男性でありながら囮班となった凛は、同性の仲間へ訴えかけていた。
囮班は強化人間の男性から分かるように、正面から近付いて行った。
「おお! ようやく来たな! 待ちわびたぜ!」
囮班を見つけた男性は腰を上げると、傭兵達に近づいていく。
「いいか? オレのいう事に逆らったら、この起爆スイッチでトラックはドカン! だぜ」
男性は傭兵達を脅しているようだが、冬無が先陣を切って近付く。
「んふふふっ。皆さんの姿を記念にどうぞです♪」
胸に出来た深い谷間を強調しつつ、冬無は男性にデジカメを手渡した。
「そ、そうだな‥‥お前と、金髪‥‥ちょっと耳を貸せ」
麗華は自分が呼ばれた理由が分からずに首を傾げていたが、男性の話を聞くと顔が真っ赤に染まっていく。
「しかしなんで私がこんなことしないと‥‥うぅぅ、わかってますわよ! やればよいのでしょう、やれば!」
男性が起爆スイッチをチラつかせて、麗華に言う事を聞かせる材料とする。一方、冬無は心なしかワクワクしているように見えた。
二人が準備の為に瓦礫の影に隠れると、男性は次の犠牲者へ目を付ける。
「メ、メイドさん‥‥是非、これをオレに渡してくれ! その時は『武様バレンタインチョコです‥‥』と恥ずかしがりながら‥‥頼む!」
言葉の意味をあまり理解していないリュティアだったが、包装されたチョコを武から受け取った。そして、武の前に立つと胸の前でチョコを抱いて見せる。
「あ、あの‥‥武様バレンタインチョコです‥‥」
若干、俯いたリュティアが顔を朱に染めながら武にチョコ渡した。
「うおおぉぉぉぉぉぉ! メイドさん! ありがとう!」
何故か感極まった武は、リュティアに抱きつくと胸に顔をうずめてすりすりする。
「あ、あの‥‥武様?」
困惑してリュティアは抵抗する事ができない。
「あ、そこの果実が未成熟なポニーテール二人。上目づかいで「ご主人様アーン」と言いながらオレにチョコを食わせろ!」
凛とリズは若干顔を引きつらせるが、機嫌を損ねる訳にはいかない。
「こんなんで女の子に言うこと聞かせようなんて、最低何だぞ‥‥」
「だ、誰が未成熟よ‥‥」
「あ、オレに抱きついても追加ね」
武は素直でない二人に追加注文を出す。二人は諦めて、武に抱きつくと、さっきのチョコを手に取った。
「ご主人様‥‥あ、アーン‥‥」
「ご、ご主人サマ‥‥あ、アーンなんだぞ‥‥」
武はリュティアに抱きついたまま、差し出されたチョコをかぶりつく。
「ヒッ!」
そして、チョコを持っていた手までベロベロと舐めまわした。突然の事態に凛は手を引っ込めてしまう。
「満足だ。次は‥‥そうだな‥‥。そこのポニテに芸者遊びさせてもらうか」
武の顔は欲望によって、だらしなく歪んでいる。リズの代わりに凛が受けようとするが、男性である事がばれる恐れがある為、リズが受ける事になった。
「つまり解けた帯を引っ張ってくるくる廻し。『あれ〜お代官様〜』な事をやりたい訳ね
‥‥乗った!」
何故かノリノリな籐子は、リズを引っ張って瓦礫の影へと隠れる。それと、入れ替わりに、冬無と麗華が姿を現した。
「あふぅ、こ、これで良いんですか♪」
冬無は胸を大きく肌蹴て、そこにチョコをコーティングしている。溶けたチョコはかなりの熱さなので、その熱で冬無自身が上気しているようにみえた。
「この変態! こ、これでいいんですの! くぅ」
麗華は先ほどとあまり変わらないが、短いスカートの裾を引っ張っている。何かを気にしているように見えた。
武は冬無へと飛びつくと、コーティングされたチョコをしこたま舐めまわす。
「はぁぁ、そ、それはナッツじゃ、あぁ、か、噛っ、あぁぁ♪」
一体、何が行われているのかここでは詳しく書けないが、冬無の熱い呼気と艶めかしい嬌声が辺りに響く。その場にいる囮班全員が顔を赤くして、その様子に釘付けとなってしまった。
「さぁて‥‥お次は金髪ちゃんだぁ‥‥」
もはや獣と化した武は、猛然と麗華のスカートの中に顔を突っ込む。
「ベロベロ‥‥じゅるじゅる‥‥」
「んっ! そ、そこは‥‥はぁんっ!」
一体、麗華のスカートの中で何が起こっているのか‥‥ここで明記できない事が残念でならない。
「はぁー‥‥はぁー‥‥♪ あ、麗華さん、お尻が弱いですよ♪」
「く、伊万里‥‥んぁ、後でお仕置きですわ! ‥‥んひん!?」
冬無のアドバイス以降、何故か麗華の反応が激しくなり、顔は真っ赤で呼吸は荒くなる一方である。
麗華のスカートから出て来た武の顔はチョコまみれであったが、その表情は清々しかった。
「お待たせしたわね! って、何か面白い事があったみたいじゃない」
リズの着付けが終わって、顔を出した籐子は少し残念そうであったが、事後の様子も満更ではなさそうだ。
「〜〜‥‥」
籐子に引っ張られて、現れたリズは艶やかな着物姿であった。日系という事もあって、それなりに似合っている。
「よっしゃ! 早速、やるぜぇ!」
武はおもむろに、リズの帯を掴む。
「リズちゃん! 『あれ〜お代官様〜』を忘れちゃ駄目よ!」
「え? あ〜れ〜‥‥」
籐子のアドバイスも虚しく、帯が思い切り引っ張られた。
そして、次の瞬間上空で大きな爆発が起こった。つまり、反撃の狼煙である。
●輸送トラックを救え
「うおおぉぉぉぉぉぉ!」
リズのつけっぱなしになった無線機から、キメラ退治班へと状況が送られてくる。
「こっちを気にしてる様子が全くないな‥‥」
武のはしゃぎ様に、闇虎は少し拍子抜けする。
「その分、暴れられる訳だ。問題ない‥‥」
赤い霧は獲物である両手斧のガノを構える。その目は若干座っているようだ。
「では、行きます!」
日向が変身ポーズを取ると、その姿は黒いスーツに覆われてヒーロー然とした格好へ変身する。
先ず、赤い霧が先行してキメラへと襲い掛かる。初っ端の一撃でその頭部を叩き割った。一撃でキメラは悲鳴を上げる暇も無く絶命する。
「‥‥ほら、遊んでやるよワン公共」
全力移動で闇虎がキメラの注意を引く。その合間、日向の援護射撃によって、キメラの攻撃を殆ど受けない。
「犬が虎に勝てると思うか? できるだけ静かに逝け」
武の視界外へとキメラを誘導すると、ハルバードでキメラへと攻撃を仕掛ける。一撃では倒せないが、何度も攻撃を仕掛けて止めを刺した。
「この調子なら、ばれる事は無さそうです!」
日向は弓で援護に徹する。
「グォウオオオオオオオオオオオッ!」
大斧の一撃で、最後の犬型キメラは体を真っ二つにされて息絶える。
そして、闇虎はすぐさまトラックを調べる。分かり易い事に、トラックの裏に爆発物が設置されていた。軽く見ただけで振動、傾斜等のセンサーが付いてない事が分かる程、単純な作りである。
「任せたっ!!」
闇虎は爆弾を取り外すと、爆弾を空高く放り投げた。
日向は前もって準備した弾頭矢を番え、爆発物に標準を合わせた。
「任されましたっ!!」
放物線を描く爆発物が、頂点に達する時少し止まる。そのタイミングを狙って矢を放つ。
見事に爆発物が空で爆発した。
「待たせたな! 後は奴を倒す‥‥だけ?」
闇虎と赤い霧が囮班に追いつくと、その惨状に唖然とする。呼吸を荒くした冬無と麗華に、着物でグルグル回るリズ。二人の目の前で、リズの回転が止まった。
「おぉっ♪ 目の保養だな♪」
はらりと、着物の前が開くとリズの素肌が露出する。
「着物に下着は邪道よねー」
籐子は何度も頷きながら、いい仕事をしたと感無量であった。
「えーっと‥‥トラックは無事なのですね?」
そのリュティアの言葉に、武はハッと我に返る。そして、咄嗟に起爆スイッチを押したが、何の反応もない。次の瞬間、武は凄まじい殺気を感じて振り返る。
「ふ、ふふふふふふふふ。よくもやってくれましたわね? 覚悟は出来てますわよね?」
麗華は一見笑っているように見えるが、完全に目が本気である。人を殺す事も厭わない本気の目だ。
「ま、まて‥‥これには深い理由が!」
「おーっほっほっほ! 今更許すと思ってますの! ミンチになりなさいな!」
麗華は鉄扇を取り出すと全力で攻撃を繰り出す。叩きつけたり、突き刺したりして武へ徹底的に攻撃した。
「覚悟さえ決めれば、倒す事だってきっとためらわずに出来るはず‥‥」
日向はもう一度、変身ポーズを取り、勇気を奮い起こす。洋弓「タランチュラ」を構え、仲間の援護を行った。
「同情の余地は無いよね!」
大鎌「紫苑」で凛は何度も武を切り刻む。
「このままやられるか!」
先程駆けつけた赤い霧と闇虎に向けて、発砲と斬撃を繰り出す。
「っ! 痛ぇなっ!」
攻撃を避けそこなった闇虎は軽くダメージを受けてしまった。そこに、赤い霧が割って入り、ガノで攻撃を受け止める。
「おいおい、俺を忘れるなよ‥‥」
赤い霧によって攻撃を受け止められてしまった武に、もう道は残されていない。
「あはぁ、逃がしませんです♪ 解体して差し上げますです♪」
瞳の光を失い、狂気の笑みを浮かべた冬無の言葉は、武の心を凍らせる。何処に隠していたのか、大量のアーミーナイフを取り出すとそれで思う様に切り刻んだ。
「先ずは動きを封じます」
覚醒と同時にリュティアの瞳が明るい青から、鮮やかな緑へと変わっていく。呪歌を口ずさむと、リュティアと対象の武が淡く白い光に包まれた。
「か‥‥体が痺れて‥‥いう事聞かねぇ」
呪歌によって、麻痺を受けた武はその能力を大幅に落としてしまう。
「おい‥‥貴様覚悟出来てるよな?」
動きの鈍った武に向けて、ガノを思い切り振り下ろす赤い霧。「GYAAAAAAAAAAAA」という咆哮が廃墟にこだまする。
「あっ! 全裸のねーちゃんが笑顔でこっちに手を振ってるぜ!? ‥‥って、んなわけあるかあぁぁっ!!」
嘘だと分かっても、そちらに視線が向いてしまうのは、男の悲しい性である。
「襲牙虎撃!! つぶれやがれっ!!」
闇虎は武の背後に回り込むと、軽く飛んで最上段から地面叩き割る勢いで、ハルバードを打ち降ろした。
傭兵達の容赦ない猛攻は続く。
●一片の悔い無し
血だまりに倒れる武は、ピクリとも動かない。強化人間とはいえ、これだけのダメージを負っては生きてはいられないだろう。
「麗華さん、そろそろ許してあげて‥‥」
まだ攻撃を続ける麗華を日向が止めた。
「ふ、すっきりしましたわ♪」
麗華は返り血で真っ赤になっていたが、その表情は実に爽やかである。様々な痴態の入った冬無のデジカメもどさくさに紛れて、粉砕していた。
もう、息をしていないと思われた武の体がピクリと動き、立ち上がる。
「オレは‥‥女の子から‥‥チョコを貰った事が‥‥一度も‥‥無かった。このまま‥‥死ぬわけにはいかないッ!」
武は最後の力を振り絞り、起き上がる。
「話は聞かせてもらったぁ! 俺も姉貴のチョコしかもらった事がねぇ!!」
闇虎が魂の籠った雄叫びを上げる。まぁ、嘘なのだが。
「バレンタインです! チョコどうぞ! もう悪さしないでくださいね?」
日向から差し出されたチョコを武は手に取る。
「同性として気持ちは分かるから‥‥信じてないな、りっ、凛は男だっ! 彼女だって‥‥」
凛は武に誤解されたままだったが、同性の同情としてチョコを手渡した。
「チョコはありませんが、お茶でもお淹れ致しましょう」
ポットセットを取り出したリュティアはお茶の準備を始める。
「オレは‥‥オレは‥‥もう‥‥思い残すことは‥‥何もない‥‥」
武は立ち上がった姿勢のまま、息を引き取る。
輸送物資は無事、村に届けられた。バレンタインという事もあり村は賑わっている。だが、忘れてはいけない。その陰で寂しい思いをしている人がいるのだと。