●リプレイ本文
●
停泊中の白を基調とした豪華クルーザー「チャール丸」。そのスタッフルームでは、来客に備えて従業員が準備の最中であった。
「リズさんは、いつもこういうバイトをしてるんですか?」
スタッフとして参加した諌山美雲(
gb5758)はリズ・ミヤモト(gz0378)に訊ねる。
「そうよ。いつもはこんな普通のバイトしてるんだけどね‥‥」
若干その表情に影が落ちた。
「一緒にクリスマスを祝う相手とかいないんですか?」
「ふふふふ‥‥美雲ちゃん、言葉には気を付けましょうね〜」
無邪気な美雲に対して、リズは俯き口だけで笑っている。そんな二人の肩にポンと手が置かれた。
「さ、アルバイトをして貰おう、か」
UNKNOWN(
ga4276)が二人の耳元で囁いた。彼が用意したのは、二着のイブニングドレス。
「なに。これも仕事と言うもの、だ」
「はわー、綺麗です」
「ステキなドレス‥‥」
思わぬUNKNOWNからのプレゼントに、女性二人は目を奪われた。
●
パーティの真っ最中という事もあり、貨物室には余計な荷物や空き箱が大量に置かれていた。その荷物が少し動いたかと思うと、少年が姿を現す。彼の名はソウマ(
gc0505)、潜入に成功しニヤリと微笑むと、スキルを使用して姿を消した。
それから少しあと、また別の荷物が動いた。動いたのは段ボールと、その上にあるクリスマスツリーである。
「潜入の基本は段ボール! 段ボールをかぶりながら移動するにゃ」
何とクリスマスツリーに偽装した段ボールの中には白虎(
ga9191)が潜んでおり、そのまま出口へと向かう。直後ガンと、扉にぶつかる音がした。
●
時間は午後8時直前、港に停泊する「チャール丸」へと、続々とカップル共が乗り込んでくる。だが、乗り込んでくるのはそれだけではない。彼らを地獄へと叩き込む使者もまた、紛れ込んでいるのだ。
「今日は誘ってくれてありがとう☆ でもこの船のお客、おっさんおばはんばっかだね♪」
「本当にセンスの無いカップルばかりだ。俺達を見習って欲しいね」
秋月 愁矢(
gc1971)と崔 美鈴(
gb3983)は偽装カップルとして、このパーティに潜入していた。わざと周囲に聞こえる大きな声で、眉を顰めるカップルが現れ始める。
その二人とは別にカップルとして潜入した使者がいた。姫川桜乃(
gc1374)と、髪をまとめ男装した春夏秋冬 立花(
gc3009)である。
「いいですか? 暴走しすぎに注意して下さい。悪戯は終わったあと笑い話になる程度ですよ?」
立花は無線機に向かい、注意を促していた。この忠告を聞いてくれる人がどれだけいるのか、それを考えるだけで、頭が痛い。
「特に姫は」
振り返って後ろから付いて来る桜乃をキッと睨む。
「大丈夫大丈夫。安心して」
「その顔に不安要素しか見出せない」
●
カップル達が集まったイベントホールに、美しいドレスを纏った女性を両脇に従えて、UNKNOWNが入場する。
「ナイトクルージングだから、ね。パーティらしくしよう」
その女性の一人はリズで、大胆に片足が露出した青と白のドレスと纏っていた。いつものポニーテールはシニョンに纏められて、銀の髪飾りで止められている。
もう一人は美雲。黒色のロングスカートという落ち着いたドレスを纏っており、爪は輝くように磨かれていた。
「リズさんを見てると、なんか私のお姉さんみたいに見えますっ♪」
「そ、そんな私なんて、美雲ちゃんみたいに可愛くないし‥‥」
美雲の無邪気な言葉に、リズは真っ赤になってもじもじと答える。
「一緒に頑張りましょうねっ!」
その煌びやかな様子に、男女共にその視線を奪っていく。そして、軽い喧騒が聞こえてきた。
UNKNOWNはバイオリンの生演奏。そして、リズと美雲はウェイトレスとして、ホール中を駆け回る。
同じホール内では従業員の制服を拝借したソウマが、執事として行動していた。誰にも気付かれない様、すれ違いざまに男性のベルトを切断。そんなソウマの隣を美雲が駆け抜けていった。
「ペペロンチーノ、お待ちどわぁあああっ!」
何もない所で躓いた美雲は、手に持っていたトレイを豪快に放り投げてしまう。そして、何かに掴もうと、必死に手を伸ばした。
ぱおぉ〜ん
という効果音が聞こえそうな状況が、美雲の視界に飛び込んでくる。先程、咄嗟に掴んだのは、男性のズボンとパンツであった。
「せっかくの色男が台無しですね。ここまでになるとは思いませんでしたが‥‥」
その状況を横目で眺めていたソウマは、クスリと笑う。
「熱〜〜〜い!!」
同時期、リズや警備員、来客の悲鳴が遠くから響いてきた。
ソウマはお酒を運びながら、次のターゲットを探す。すると、乱暴な客がトレイの上に乗った酒を乱暴に奪って、一気飲みした。高アルコールのカクテルを飲んだ男性は、その場でぶっ倒れてしまう。
「お酒は程々に♪」
ソウマはその男性に呟いてその場を後にした。
演奏を終えたUNKNOWNは、トイレに行った相手を待ち、退屈していた女性へと声をかける。
「Shall we dance?」
ゆっくりとしたテンポの曲に合わせて、ソシアルダンスを楽しむ。そして、踊り終わった後は女性と雑談に興じた。
「そうだね、レディ」
そのうち、相手の男性が戻ってくる。その男性はUNKNOWNに詰め寄るが、女性が庇い喧嘩へと発展していった。
再びグラスを運ぶソウマは格好の獲物を見つける。イチャイチャと食事を楽しむカップルに近づき、グラスを置いた。その際、少しだけ水を女性の服に零す。
「申し訳ございません、お客様」
女性に微笑みかけるソウマだが、相手の男性は「何すんだコラァ!」と激怒して立ち上がった。その勢いでテーブルがガタンと揺れ、グラスが倒れてしまう。
こぼれた水は女性のスカートにかかってしまい、下着が透けて見えてしまった。ソウマはドキドキしながら、ハンカチをそっとかけて女性を着替えへと、エスコートする。
そして、二人はイベントホールを後にする。
その直後、
「クリスマスを僕らお子様の手に取り戻すのだー!!」
爆竹と発炎筒がばら撒かれ、激しい破裂音と、煙にイベントホールはパニックとなる。廊下にいた警備員が向かおうにも、出入り口は既に封鎖されていた。
ホール内は煙を火事と察知したセンサーが自動でスプリンクラーを起動させて、土砂降りの酷い状態へとなってしまう。まさに阿鼻叫喚といった様相であった。
警備員が扉を破り、ホール内にやって来た。そして、犯人を捜すが全く見当たらない。
ずぶ濡れになって、涙を流す女性にハンカチを差し出す男性がいた。
「そんな姿、君には似合わない」
何故か全く濡れていないUNKNOWNである。彼は彼女の手を取り、そのまま何処かへと行ってしまった。
戻ってきたソウマはあまりの惨状に、女性を連れたままイベントホールを後にする。
●
ホールに繋がる廊下は、意外と落ち着きたいカップルが集まっていた。美鈴と愁矢はイチャイチャとしながら、水鉄砲に入った白濁とした糊をカップル共へと発射していく。
服、髪、顔、スカート‥‥とにかく相手目掛けて糊を発射いていった。糊の存在に気付くのは、随分と経ってから‥‥白濁液がかかった状態で羞恥を晒す事になるだろう。
「ほらほらカメムシちゃん、出番よ」
美鈴は依頼主に準備させたカメムシを廊下に撒いていった。だが、何故かカメムシは美鈴へと寄って来る。
「ああああああああ! もう!! 臭いって言ってるでしょ!! なんでこっち来るの!? なんなの!? 死ぬの!!??」
「ちょ! おい! 何してんの! うおッ! 臭ッ!!」
その様子にカップル達は気分を害していく。被害に遭っている本人が犯人などと、警備員も考える事はない。美鈴と愁矢は修羅と化しながら、カメムシを潰していった。
「何だか騒がしいわね‥」
無線機で警備員の位置を連絡していた立花は、少し心配しながら呟く。だが、獲物を見つけると、特別に貸与されたデジカメとプリンターを抱えて向かって行った。
「お似合いですね? 記念に一枚撮っていいですか?」
べったりとくっつくカップルに向けて、シャッターを押し、落書き機能で老人風に修正。その写真を相手に手渡す。カップルがその写真を見て、硬直している間に立花は姿を消した。
警備員の動きがおかしい事に気付いた立花は、イベントホールへと向かう。
「リア充は粛清だー!」
イベントホールから飛び出してきた白虎は、巨大ぴこぴこハンマーを振りかざし、警備員、カップル達をぽかぽかと叩いていた。
「子供!?」
困惑する警備員、カップルに対してイカ墨の入った水鉄砲を発射していく。
「隙ありにゃ!」
目つぶしされた警備員から逃げる事もせず、カップル共をロープで簀巻きにしていった。だが、そんな中でも密着してさらにイチャイチャする連中も存在する。
「て、手強いにゃ‥‥これは、機会を改めて念入りに粛正する必要があるッ!」
そう言いつつも白虎はカップル達を簀巻きにして行くと、何者かが背後から羽交い絞めにした。
「少しは自重しろよ!」
これ以上野放しにすると、ガチバトルへと突入しかねない白虎を抑え込んだ立花は、そのまま貨物室へと運ばれる。そして、白虎は簀巻きにされて放置される事となった。
●
「チャール丸」の3階には混浴で楽しめるスパが存在する。水着着用という事もあり、非常に健全な施設である‥‥はずだった。
桜乃は立花の指示により、男性がいない時を狙って男性用脱衣所に潜入する。
「だいたい、温泉を水着で入る時点で混浴でも温泉でもないのよ。邪道中の邪道よ‥」
ぶつぶつと言いながら、桜乃は慣れた手つきで下着を女性ものにすり替えたり、赤い褌を残したりして、脱衣所を後にした。その後、脱衣所からは男性のすすり泣く声が聞こえたという。
続いて桜乃は浴場へとやってきた。その恰好は何と危険な個所を、絆創膏で隠しただけである。
「隠してるところは隠してあるし、文句は言わせないわよ!」
スタッフから厳しい視線を向けられるが、逆に睨み返して堂々とした態度で浴室内を闊歩していた。すると向かいから、イベントホールから追い出された美雲が冷たい飲み物を持ってやってくる。
「冷たいカクテルわわわっっ!!」
またも何もない所で躓いた。だが、何かにぶつかって事なきを得る。
「っと、危ない危ない‥‥」
美雲が冷や汗を拭って、視線を前に向けると湯船に真っ白な桃が浮かんでいた。何故、こんな所に桃があるのかと、観察していると、突然現れた立花が桃の前に立ちはだかる。
「はいはい。これ以上は見せられないから」
立花は何が起きたかを説明すると、美雲はもの凄い速さで桃を救い上げた。
「ご、ごご、ごめんなさ〜〜い!!」
その頃、美鈴は人がいない時を見計らって、女性の脱衣所へとやって来る。そして、ほぼ紐だけの下着と交換して行った。
「今夜は甘い夜‥‥なんて、そんな事させないんだからっ♪ えへ☆」
ガラッ
下着を交換する最中、浴室側の扉が開く。
「うふふ‥クリスマスって素敵。今年のプレゼントは何かなぁ‥‥ふふふ‥そうだ、彼が別の女にフラフラしないように、ちゃんと縛っとかなきゃ‥五寸釘で打ち付けたらどこにも行けないよね‥‥うふふ、あははは」
とっさの事に、危ない女を演じてみるが、入ってきたのは立花であった。
「現実を受け入れろ」
美雲によって救われた桜乃は、湯に浸かってスパを堪能した後、悪戯を再開する。積極的にカップルの前を通過し、彼氏の視線を掻っ攫っていった。当然、視線は桜乃に集中しその後の展開は推して然るべきである。
脱衣所から出た立花は、スパの前で待ち惚けを受けている愁矢を発見する。
「カクテルでもいりません?」
「俺はいいよ」
「大丈夫。体に深刻な問題は起きないと思いますから」
立花は冗談で言ったのだが、愁矢は喉が渇いていたのか手に取って飲み干してしまった。
「ちょ、ちょっと‥‥大丈夫?」
額にSAGAとかかれたフェイスマスクを装着し始めた愁矢を立花が心配する。
「フォォォォォォォォ!」
愁矢は叫び声と共に装備品をキャストオフし始めた‥‥。
●
放送室はとある人物の襲撃を受けた後であった。その人物とは額にSAGAと記された仮面を付け、ビキニパンツ一丁で鍛え抜かれた肉体を惜しげもなく披露する男性である。
放送担当者は捕縛され、完全に意識を失っていた。
イベントホールの片付けが終わり、人が戻って来た頃ステージに一人の男性が仁王立ちしていた。
「颯爽推参‥‥ビキニ美少年! しっと仮面サァアガっ!!」
とある世界的ダンサーの代表曲をBGMに、しっと仮面が踊り出す。そして、何処から出てきたのか、彼のバックではスキンヘッドにパンツ一丁のマッチョな兄貴が、ゾンビに扮した踊りをしていた。
ホールは何故か完全に施錠されており、誰も逃げ出す事ができない。げっそりとしながら、しっと仮面オンステージを見続ける。
「まだまだっ! 祭りはこれからだっぜっ!!」
BGMは超兄貴的曲へと変わり、そのダンスは更に男臭くなっていった。
●
ホールの喧騒とは無縁なスカイラウンジでは、UNKNOWNがゆっくりと女性と共にお酒を交わしていた。その相手はハンカチを渡した女性で、先程とは全く違う豪華なドレスを纏っている。
ソウマも女性と共にスカイラウンジで雑談に興じていた。流石に酒を飲めないソウマは、ジュースを嗜んでいる。
「キョウ運の招き猫は気まぐれに禍福を招き寄せるんですよ♪」
ソウマが無邪気に微笑むと、ラウンジの窓から流星群が流れていくのが見えた。それはまるで、クリスマスを祝っているようであった。
●
パーティの時間が終わり間近になり、ようやくしっと仮面のダンスが終了する。
「俺は! 俺のステディが出来るまで! リア充を追い続ける!」
とうっ! という掛け声と共にドライアイス発動、煙が晴れる頃しっと仮面はステージから姿を消した。
ホール付近の廊下にはパンツ一丁という姿の愁矢が隠れていた。このままでは、警備員に見つかってしまう。その時、立花が警備員へと声をかけ、注意を逸らし他の場所へと誘導した。
「詰めが甘いわよ!」
装備を持った立花が愁矢の前に現れ、危機は去った。
●
パーティは終わり、カップル達はげっそりとした表情で、クルーザーを後にした。
「秋月 愁矢‥‥いや、しっと仮面SAGA! しっと団に入らないかにゃ?」
「な、何故その事を‥‥」
「簀巻きにされてた筈なのに‥‥」
白虎の言葉に、愁矢と立花が息を飲む。その様子を見て、白虎は微笑むばかりで答える事はしない。
「‥考えさせてくれ」
「残念だにゃ‥‥誰かがしっとに燃えるとき、しっと団は現れる! 覚えておくのだ」
白虎はその言葉を残していった。
●
後日、「謎のヒーロー! しっと仮面SAGA現る」と新聞の片隅を賑わせた。