タイトル:【BD】堕ちた戦場―破―マスター:岩魚彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/26 01:12

●オープニング本文


●南米後方支援部隊襲撃事件
 鬱蒼とした密林に、舗装のされていない野道。ここは南米ジャングルの入口付近。後方支援部隊は前線部隊に火器・弾薬と食糧、医療道具を届ける為にジープを走らせていた。
 ルートはなるべく安全なものを選択し、護衛も最低限しか付けていない。大規模作戦という戦力が必要な時に、あまり護衛は付けられないというのが、主な理由であった。
 そんな後方支援部隊に参加する女性の傭兵がいる。戦闘は不得手だが、それ以外で役に立ちたいと思って後方支援部隊からの依頼を引き受けた。いつもはアルバイト先で酷い目に遭っていたが、今回こそはきちんと依頼をこなしたいと思っている。
「おいおい、お嬢ちゃん。こういう戦場は初めてかい?」
 UPC軍後方支援部隊の一人が薄ら笑いながら軽口を叩く。彼はベテランの兵士で幾度となく後方支援を成功させてきた。
「あ、はい。いつもはあまり戦場に行かないもので‥‥」
 傭兵は苦笑いを浮かべて曖昧な返事をする。流石に戦闘が苦手ですとは言えない。
 戦場における心構えのレクチャーを受けていると、突如太陽が隠れ薄暗くなる。何が起きたのかと空を見上げると、そこには巨大な何かが大きな影を落としていた。
「な、何ですかアレ! サイズが無茶苦茶ですよ!」
「チッ! アレはバグア軍のビッグフィッシュだな。見つからなければいいが‥‥」
 空に浮かんでいたのは、800m近くのサイズを誇る最大級のビッグフィッシュ。ジープを木の影に隠して発見されないように試みるが、それは無駄に終わる。何故なら、最初からこの部隊を狙っていたからだった。
 ビッグフィッシュから多数のキメラが投下される。あっという間に、支援部隊はキメラに包囲されてしまった。逃げ場はなく戦う他に道は無い。
 女性の傭兵も自分の武器を構えてキメラに向かう。戦闘が苦手とか言っている場合でない。一匹でも多くのキメラを撃破し、脱出口を切り開かねばならない。
「はぁッ! このぉ!」
 傭兵はキメラを撃破していくが、一人、また一人と仲間は倒れていく。そして、傭兵もキメラに囲まれ苦戦を強いられた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥。こんな所で死ねないよっ!」
 必死に抵抗するものの体力は底を尽き、錬力も尽きようとしていた。支援部隊はほぼ壊滅。絶望的な状況は傭兵の心を折る。
「も、もう、駄目‥‥」
 体力を使い果たした傭兵は膝から崩れ落ちた。そして、急激に意識が遠のいて行く‥‥。

●バグアの秘密プラント
 傭兵は自分が死んだと思い込んでいた。後方支援部隊は全滅し、自分もキメラに囲まれていたし無事であるとも思えない。だが、何故か妙に心地よい。
 薄らと瞳を開けると、細長い肉のようなものに絡まっている人が見えた。ただ、その肉はまるで自分の意思を持っているかのようにその人に絡みついて、蠢いている。
(「アレは何? 何をされているのかな‥‥」)
 ぼんやりとはっきりしない頭でも、すぐに自分の体がどの様な状況になっているのか理解できた。心地よいと思っていたのは体の表面を這いずり回る細長い肉。完全に拘束されて身動き一つとれない。装備は剥がされ、下着を残すのみ。
(「やだ‥‥どうしてこんな恰好を?」)
 次第に意識がはっきりしてくると、自分の他に多くの人が捕まっている事に気付く。全員意識を失っているのかぐったりとしたまま動いていない。数にして10人はいるだろうか。同じ支援部隊の人もいれば、知らない人もいる。
(「早く逃げ出さないと、どうなるか分からないわ!」)
 逃げ出そうと試みるが、体は完全に拘束され覚醒しても脱出は無理であった。
(「私の力では無理‥‥誰か助けて!」)
 助けは絶望的だと分かっていても、そう願わずにはいられなかった‥‥。

●作戦開始
 各地で人を拉致し続けるビッグフィッシュをついに地上へと落とすことに成功した。今までに捕らえられた人々を救うべく、救出作戦が決行される。
 まず、キメラをビッグフィッシュから引き離す陽動作戦が実行された。その作戦が実行されると、キメラの数が徐々に減っていく。
 ビッグフィッシュ内部へと侵入するタイミングを見計らう。
 この作戦は迅速な行動、確実な救助が求められた。陽動部隊が上手く機能しないと、入口からキメラが入り込んでくる可能性がある危険な任務である。
 救助部隊は緊張した面持ちで侵入のタイミングを待ち続けた。

●参加者一覧

相沢 仁奈(ga0099
18歳・♀・PN
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
御沙霧 茉静(gb4448
19歳・♀・FC
樹・籐子(gc0214
29歳・♀・GD
リュティア・アマリリス(gc0778
22歳・♀・FC
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

●救助班突入
 落ちたBFが見える場所で、救助班は待機していた。
「陽動班が始めたみたいね。じゃあ、行きましょう!」
 BFからキメラが離れていく様子を見て、シャロン・エイヴァリー(ga1843)が先頭に立ってBFへと向かう。
「行くぞ、ティナ。依頼中はお前で遊んだりはしないので安心しなぁ。‥‥依頼中は、ね」
 レインウォーカー(gc2524)は陽動班を心配するティナ・アブソリュート(gc4189)に向かってニヤリと笑う。
 救助班はBFの後方から内部へと突入した。陽動が上手く行っている為、艦内にキメラの姿は殆ど見えない。
「囚われている方々を無事に救出できる様、全力を尽くします」
 硬い決意を胸にリュティア・アマリリス(gc0778)は二本の短剣を握りしめる。
「今回の任務は、捕らえられた人達の救出‥‥。必ず助ける‥‥、この身に代えても‥‥」
 悲痛な想いを胸に御沙霧 茉静(gb4448)は、先が見えない程長い通路を見つめた。

●救助者を救え
 作戦時間は5分。時間が非常に少ない為、救助班は左右二手に分かれてBF内を探索する事にした。
 A班の構成は相沢 仁奈(ga0099)、シャロン、遠石 一千風(ga3970)、茉静の四名。
 A班は先ず左手にある部屋へと侵入する。
「ウチは先頭に立って行動するでー」
 仁奈と共に先頭を進む茉静は部屋の扉を開けた。次の瞬間、部屋の奥から触手が伸びてきて、仁奈と茉静を拘束すると部屋の中に引きずり込む。
「! こ、これは‥‥!」
 ぬるぬると蠢く触手が仁奈と茉静をがんじがらめにすると、その肉体を味わうように撫でまわす。触手は容赦なく服の間にまで入り込んできた。
「んっ‥‥はぁ‥‥こ、これが触手なんやね‥‥」
「そんな‥‥そこは‥‥駄目‥‥」
 うっとりとする仁奈と茉静をシャロンが眺め、一千風は背を向けて顔を真っ赤にしていた。
「何でかしら‥‥あんまり罪悪感を感じないのだけど‥‥」
 シャロンは苦笑いを浮かべると、二人が脱出するのを待つ。

 B班の構成は樹・籐子(gc0214)、リュティア、レインウォーカー、ティナの四名。
「集中集中‥‥よし!」
 ティナはいつものように自分へと言い聞かせる。
 B班は右手を進んでいくとあからさまに怪しげな通路を発見する。周りの通路とは材質が違い、うねうねと蠢いていた。
「‥‥なんて悪趣味。女性陣は気をつけなぁ、って言っても遅かったかぁ」
 レインウォーカーは女性達に注意を促したが、既に遅かったようだ。
「お姉ちゃん、どちらかというと絡まれるより絡む方が好きなのよねー‥‥」
 先頭を進んでいた籐子が突如伸びてきた触手に絡まれた。その豊満な体を弄ぶように、触手が籐子の体を拘束し這っていく。
「籐子様が引き受けている間にお早く!」
 触手に捕まった籐子の隣をB班は通り過ぎて行った。
「はぁんっ! ‥‥うんっ‥‥はぁ‥‥」
 上気した顔の籐子の口からこぼれる色っぽい声が、廊下中に響く。ティナは顔を真っ赤にして視線を落とした。
 B班は無事に触手廊下を通過する。その奥には扉があり、開ける為に手をかけた。

 同時期、キメラと接触したA班は戦闘へと突入していた。
「‥‥ここの設計者、ホント嫌いだわ」
 グールを見つけたシャロンは手にしたガラティーンを二回振るうと、その息の根を止める。死者を持て遊ぶような設計者に対して、真剣に怒っているようだ。
 その先にある部屋へと慎重に踏み込むと、謎の装置を見つける。
「もしかして、キメラプラントかしら‥‥」
 一千風はその装置を見て、顔をしかめた。悲痛な表情を浮かべた茉静は、その機械を見上げながら、武器の刀に手をかける。
「間違いなさそうやね。こんなモンとっとと壊すッ!」
「こういう力仕事は任せなさい!」
 A班はプラントを一瞬で破壊し尽くすと、さっさとその部屋から出て行った。

 扉を開けたB班は部屋の奥へと入っていく。すると、突如扉が閉まり三体のグールが出現した。
「死んだ人間の再利用、か。合理的なのは理解できるけど、悪趣味すぎて反吐がでるなぁ」
 最初に動いたのはレインウォーカーであった。疾風で回避力を上げておき、刹那で目にも止まらぬ一撃を放つ。そして、円閃を使用した一撃を決めた。
「参ります‥」
 レインウォーカーが攻撃したグールに対して、リュティアが二刀の短剣を振るい止めを刺した。
「援護します!」
 ティナが真デヴァステイターの銃口をグールに向けると、射線に気を付けながら発砲する。それに合わせて籐子もターミネーターを乱射した。
 残ったグールは突っ込んで来ると誰彼かまわず噛み付いてきた。レインウォーカーは回避したが、他のメンバーはダメージを負ってしまう。
 リュティアが銃弾を受けたグールに止めを刺すと、残りのグールをレインウォーカーがダメージを与える。
「これで、止めです!」
 ティナの放った銃撃を受けてグールは息絶える。
 B班は部屋の奥にある装置を操作して、扉を開き外へ出た。

 その時、A班も同じようにキメラ部屋に侵入していた。
「やらせない」
 一千風の放ったエーデルワイスによる素早い攻撃で、グールは既にバラバラになっていた。
「私も負けてられないわね!」
 シャロンも例のごとく、グールをあっさりと料理した。
「ウチもいっくでー!」
 仁奈は両手に装着したベルニクスでグールをズタズタに切り裂く。
「お願い、これで引いて‥‥!」
 素早い太刀筋でグールを切り裂くが、命までは奪わない。茉静は完全に無力化され床に倒れるグールを寂しそうな瞳で眺めていた。

 作戦開始から1分経過。
 A班、B班共に大した被害無く、BF内を探索していた。
 A班は扉を見つけるとすぐに突入した。つい、シャロンと一千風が先行して突入してしまった。
「きゃああっ! ふ、服ひっぱるんじゃないわよっ!」
「このっ、こんなので」
 運悪くそこは触手部屋で触手に捕まってしまう。
「二人だけずるいで!」
 仁奈はちょっと違う所で怒っていた。

 B班も同様に触手の餌食となっていた。
「ここは、自力で‥‥何‥とか、致し‥ます、皆様は‥‥進んでっ‥‥下さい」
 先頭を歩いていたリュティアが触手に捕まっていた。戦闘用のメイド服に触手が巻き付いており、その姿は妙に色っぽい。
「可愛い子が絡まってる状況も悪くないねー」
 籐子がリュティアの姿を堪能している後ろを、レインウォーカーは無言で通り過ぎていく。
「い、いけません‥‥そ、そんな‥‥所‥‥」
 ついに触手がスカートの中を襲い始めた。
「さ、先を急ぎましょう」
 ティナはリュティアの名誉を守る為、籐子を連れて先へと進む。籐子は残念そうな表情をしていたが、大人しく指示に従った。

 何とか触手部屋を抜け出したA班が通路を進んでいると、突然グールが襲い掛かってきた。先頭を歩いていた仁奈と茉静はダメージを受けてしまう。一千風はその素早い身のこなしで難なく回避した。
「邪魔やでー! とっととどきな!」
 仁奈が攻撃を仕掛け、一千風が止めを刺す。
「先に進みましょう」
 一千風は時間を気にしながら、先に進もうとする。
「待って。通信機から‥‥」
 茉静の言葉でA班の全員は無線機に耳を傾けた。

 B班は扉の前でリュティアを待っていた。
「送れて申し訳ございません」
 触手から抜け出したリュティアは軽く肩で息をしていた。乱れていたメイド服もある程度整えられている所から、メイドとしての拘りが窺える。
 四人揃った時点で扉を開けると、そこには触手に捕らえられた人々がいた。

●犠牲を乗り越えて
 触手を片っ端から切り裂いて、捕まった人々を救出する。
 人数は15人。
 先ずは捕らえられた人たちの健康チェックから始めた。
 触手によって人々が捕らえられていた事を思い出した籐子は、嫌悪感を露わにした。
 リュティアとティナは怪我をした人がいないか一人一人見て回る。
「‥‥酷い格好だなぁ。ほら、貸してやるよぉ。後で返せよぉ」
 レインウォーカーは一際酷い格好をした女性にコートを貸してあげた。
「あ、あのお名前を‥‥」
「ボクは、ただの道化さぁ」
 名前を聞いてきた女性に対して一言いうと、その女性の前から去っていく。
 15名救助した事を無線機にてA班に伝え、B班は脱出の準備に取り掛かった。

 無線を受けたA班は少しホッとする。別働班は上手く要救助者を助けられたようだった。
「15名‥‥無事でよかった‥‥」
「次はウチらの番やね!」
 仁奈と茉静は意気込んで先に進む。そして、見えてきた扉を開けた。
「‥‥なんでここまで‥‥ホントにもう!」
 中は一面触手だらけ。10名程度が捕まってぐったりとしている。その様子を見たシャロンは嫌悪感を露わにした。
「な、何てことを」
 一千風はこんな仕打ちをするバグアに怒りを覚えつつ、触手を斬って要救助者を助けていく。
 一千風と茉静は要救助者の体調を見て回る。実験に使われていた為か、外傷は治っており体調も良好そうであった。
「ウチらが来たんや、もう安心やでー」
「助けが来たんですね‥‥ありがとうございます」
 黒髪に黒い瞳の日本人風の女性が、仁奈に頭を下げる。どうやら、傭兵の一人のようだったが、詳細は分からなかった。
「全員、目を覚ましなさい! 脱出するわよ!」
 シャロンは11名いた要救助者に対して檄を飛ばす。脱出の事を考えると、いつまでもゆっくりしている訳にはいかない。
 茉静は無線機で11人全員無事であることを、B班に伝えた。そして、A班は要救助者を連れて脱出する。

 作戦開始から2分経過。
 B班の元に茉静からの救出連絡が入った。これで、後は脱出するだけである。
「全員無事と‥‥後は脱出するだけだなぁ」
「ええ、本当によかったです」
 そんなレインウォーカーとティナの前に触手通路が立ち塞がる。流石に捕まったばかりの要救助者達は、その触手に少々怯えた。
「ここは、お姉さんに任せないさいよー」
 籐子が触手通路へ足を踏み込むと、あっという間に触手に拘束される。再び獲物を得た触手は、喜ぶかのようにその体を堪能していた。
「さぁ、皆さん今なら安全です」
 リュティアが要救助者を誘導していく。
「んっ‥‥これ‥‥中々じゃない‥‥の」
 要救助者達は赤くなった顔を伏せながら、触手の脇を通って行った。

 作戦開始から3分経過。
 要救助者のスピードに合わせている為、探索時より時間がかかっていた。ゆっくりと進むしかないが、その分慎重に動ける。
「今度はウチの番やからね!」
 触手通路を前にした仁奈は嬉々として突撃していった。すぐさま触手に絡まれた仁奈の隣を通って行くと、その向こうにはグールが接近していた。
「食い止めるから、進んで」
 一千風が先手をとってグールへと突っ込んでいくと、あっという間にグールを切り刻む。
 仁奈の豊満な体に触手もご満悦のようで、その体を舐めまわすように這っていった。
「う、ウチ‥‥おかしくなりそうや‥‥」
 仁奈も触手にご満悦である。

 B班も同様にキメラと交戦中であった。背後から迫ってきたグールの対処を行う為、後衛のティナとレインウォーカーが戦っていた。
「うんっ‥‥皆さま‥‥早く‥‥お願い‥‥見ないで‥‥」
「早くしちゃってねー。こら、そこ見上げないの!」
 触手通路で囮となったリュティアが触手の餌食となっていた。迫るキメラから逃れる為、リュティアが犠牲となり、籐子が要救助者を誘導していた。
 後衛はまずティナがゼフォンで敵を切り裂くが、止めには浅い。
「レインウォーカーさん!」
 ティナとの連携で、レインウォーカーは【OR】黒刀「歪」に円閃を乗せて振るう。
「嗤って逝け。この世に留まる必要はないだろぉ」
 無表情にそう告げるが、グールは既に息絶えていた。
 一方、前方からもキメラが襲い掛かってきた。
「アタシそういうの気に入らないんだけど?」
 覚醒して冷徹になった籐子がターミネーターを撃ちまくる。だが、グールは徐々に接近して来ていた。このままでは要救助者が攻撃範囲内にという所で、メイド服を乱したままのリュティアが颯爽と現れる。
 両手には機械剣をもってグールへと斬りかかる。そして、止めとばかりに全スキルを発動した。
「参ります‥‥死の舞踏(ダンスマカブル)!」
 二連撃、疾風、迅雷を併用した連続攻撃がグールをバラバラに切り刻んだ。

「新しい敵戦力! バグアと、とんでもないキメラだ!」
 突如、無線機から別働隊の連絡が入る。その声はかなり焦っているようであった。
 A班もB班も先ずは任務を遂行する事を優先する。
 A班は再び触手通路に出くわす。触手係の仁奈はまだ前の触手に捕らわれたままだ。
「早く、脱出しなくては‥‥」
 前衛を務める茉静が意を決して触手通路へと足を踏み入れ、その餌食となってしまう。その肢体を這いまわりながら、触手は茉静を拘束した。
「‥‥設計者、頭おかしいんじゃないのっ?」
「私は、大丈夫‥‥。皆を連れて早く外へ‥‥!」
 後衛のシャロンは茉静の代わりに前衛に立つと、要救助者を先導していく。茉静の犠牲を無駄にしないためにも、シャロンと一千風は心を鬼にして通路を進んでいった。
 そして、この廊下には仁奈と茉静の艶っぽい声が響き渡る。

「こちらターニャ・クロイツェン。艦内北東部に大量のキメラを視認、退却します」
 また別働隊からの通信が入る。その様子はかなり深刻なようだ。
「北東部、男性が倒れています、至急応援を」

 作戦開始から4分経過。
 距離的に近かったB班が先に出入り口へと到着する。そこで待ち構えていた別働隊が要救助者を運んでいく。
 レインウォーカーは毛布にくるまれた女性から、コートを返してもらうと無言で羽織った。そして、B班は増援を考慮して出入り口でキメラを待ち構えた。
 だが、キメラの増援が来ることは無く、A班が到着した。

●任務完了
 要救助者26名を誰一人負傷させる事なく、任務は終了した。
 ティナは任務終了を陽動班に向けて無線機で報告した。
「無事終わったなぁ、ティナ。言っただろ、依頼中は真面目だって。しかしまあ、疲れたねぇ。帰ったらゆっくり休んで、たっぷり遊ぶとしよう‥‥お前でぇ」
「え? え? なんで、私でなんですか!」
 服装をしっかりと正したリュティアが頭を下げる。
「皆さまお疲れ様でした」
「お姉ちゃん服がボロボロになっちゃったわー」
 そういう割に籐子は楽しそうであった。
「お疲れ様でした‥‥」
「ウチはもう少し触手と遊んでたかったなぁ」
 茉静は疲れた様子だったが、仁奈はまだまだ元気いっぱいであった。
「あんなモノ、私は二度とごめんですから!」
「みんなが無事で良かった」
 怒りを露わにするシャロンと、穏やかに微笑む一千風は対照的に見える。
 救助任務は成功で幕を閉じた。
 だが、気になる通信をキャッチしていた為、傭兵達の心にはわずかな不安が残る。だが、別働隊も同じ傭兵、きっと無事任務を全うするに違いない。