●リプレイ本文
緑々と茂る木々に挟まれた長い階段を抜け、長いフェンスに囲まれた池のほとりに5人の傭兵が立っていた。池を囲ったフェンスの中に木は生えておらず、その周りを取り囲む鬱蒼とした森の中とは違ってとても明るい。
「ここが例の池ですか。一体なんの用でスライムはこんなところに来たんでしょうね」
静かな池を眺めながら、立花 零次(
gc6227)はそう言った。
「本当ですよ。わざわざ山奥まで送り出されるこっちの身にもなってほしい」
疲れた体を伸ばしながら、零次に返す本郷 勤(
gc7613)。神出鬼没のキメラにそんなことを言っても仕方が無いのはわかっているが、蒸し暑いなか延々階段を上ってきたのだ、愚痴の一つも言いたくはなる。
「それにしても、本当に静かねー」
「とてもキメラがいるとは思えませんね」
さざなみ一つない水面を見つめながら、フローラ・シュトリエ(
gb6204)とD‐58(
gc7846)が話している。目を凝らして見ているが大量にいるというスライムの影は一つも見当たらない。水と同化してしまうため水中にいると発見できないという事前情報がなければ不審に思っていただろう。
「えっと、とりあえず一回りしてみます‥‥?」
そう提案したのは若羽 ことみ(
gc7148)。戦闘の前に情報を集めておくのは重要だ。皆は頷き、池に近づきすぎないよう気をつけながら歩き出すのであった。
一方残りの3人は、最初にスライムが発見されたポンプ小屋の中を探りに来ていた。
「うーん、何もいないみたいね」
ドアを開け、中を見回したシクル・ハーツ(
gc1986)が言う。ざっと見たところ、小さな小屋の中には配電盤やポンプに配管くらいしかないようだ。
「ここからスライムは侵入してきたのか‥‥?」
天水・夜一郎(
gc7574)が壊れたポンプを覗きこみながらつぶやく。その視線の先には溶かされたような大きな穴が開いていた。
「他に侵入口になりそうなところはないな」
と、部屋の中を見て周っていたヘイル(
gc4085)が言う。水質調査用の棒などが置かれてないか探していたのだが、残念ながらそういったものはなさそうである。
3人はさらに詳しく探ってみるが、それ以上のものは出てこない。おそらくは池の中にいたスライムが配管を通りポンプを溶かして小屋の中に出てきたものの、出口がないためまたそこから戻っていったのだろうと結論付け、仲間たちと合流するため小屋を後にした。
外にいた5人の傭兵は、池の中だけでなくフェンスの外にも注意を払いながら移動するも何事も無く、元の位置に戻ってきたところでちょうどポンプ小屋の探索を終えた3人と合流した。お互いめぼしい成果はなく、とりあえず斜面には入らないように、スライムを釣り出せるか試してみることにする。
「さて、どうかな?」
放り投げた生肉の塊が、斜面に止まったのを見てつぶやくヘイル。しばし観察を続けるが、水面に変化は見られない。次にヘイルは拾ってきた小石を水面に投げ入れるが、やはりスライムは出てこない。間を空けて2つ3つと投げてみるも、陸上から把握できるような変化はおこらず、これだけでおびき出すのは不可能のようだ。
「今度は俺が試してみよう」
そう言う夜一郎、ヘイルに分けてもらった肉を槍に刺し、水面に向けて突き出す。生肉を見せ付けるように、左右にゆらゆらと揺らすが反応は無く、これではダメかと地面を跳ねるように動かしてみせる。しばらく続けていると、水面に小さな波紋が広がり勢いよく何かが飛び出してきた。急いで槍を引く夜一郎。先ほどまで肉があった場所に落ちた物体は、ゼリー状の透明な体を震わせる。うまくスライムを釣り出せたようだ。
釣り出されたスライムは斜面の上にいる生きた人間を察知し動き出す。が、それをそのまま放置するほど傭兵は甘くない。武器を構えて控えていた零次と勤はすぐさま覚醒、スライムの柔らかい体に矢と銃弾が突き刺さる。
「とりあえず1匹、ですね」
零次の言葉通り、2人の攻撃を受けたスライムはその場から動くこともできずに倒されてしまう。弾力のあった体はどろりと崩れ落ち、小さな水溜りのようになってしまっていた。
「1匹ずつならたいしたことないみたいですね」
「そうだな。この調子で数を減らしていこう」
メガネを外しながら言った勤に、ヘイルが返す。多少時間がかかっても、安全に倒せるのならそれに越したことは無い。
「よし、もう一度行くぞ」
再び夜一郎が槍を構える。全員が覚醒し待ち構える中、再び穂先につけた肉を跳ねるように動かすと、すぐに1匹のスライムが飛び出してきた。今度はシクルの矢とことみの散弾がその体を捕らえ、やはりスライムは何もすることなく水溜りへと姿を変えてしまう。
「ずいぶんとあっけないですね‥‥」
「スライムは数で押すタイプだからな」
単体は弱いことが多いのだと、スライムの死骸を見ながら呟くことみに返すシクル。
「今回もそのパターンっぽいし、池の中にはたくさんいるはずよね」
「全くそんなようには見えないのが難しいですね」
シクルの後をついだフローラに、D−58が返したその瞬間、水面がゆれ新たなスライムが飛び出してくる。すかさず超機械を作動させるフローラとヘイル。光線がその身を穿ち、電磁波がその身を焼き。あっという間にスライムは絶命する。
「そうね。何匹いるかもわかんないのがねー」
スライムが溶けたのを確認したフローラは、何事も無かったかのように会話を再開する。
「このまま全て釣れれば安全で良いのだがな」
「ええ、まったくです」
シクルの言葉に頷く零次。そうしている間にも、水面から次のスライムが飛び出してきたが、やはりこれも一瞬で倒されてしまう。今のところは順調に進んでいるようだ。
その後も夜一郎の槍によるおびき出しを続けた傭兵たち。1匹ずつ倒して確実に数を減らしていたが、しかし、しばらく続けたところで状況が変わる。岸辺近くに集まってきていたのであろう、次々とスライムが水中から飛び出してきたのだった。
「これは大漁ですね‥‥」
すばやく弾頭矢を取り出した零次は、斜面を登ってこようとしているスライムにこれを撃ち込んだ。小さな爆発と共にスライムがはじけ飛ぶ。猛火の赤龍を発動したヘイルと電波増幅を使用したフローラも次々とスライムを屠ってゆくが、スライムの増える速度には追いつかず。
「敵が減りません‥‥!」
「下がろうっ!」
ことみの言葉を受けて、ヘイルが短く叫ぶ。一斉に斜面から離れ、急いで陣形を整える傭兵たち。
最後列まで下がった勤が振り返ると、先頭のスライムは既に斜面を登りきり、武器を構えた前衛の目前まで迫っていた。すぐさま背後の守りを発動させ、味方の背後から檄を飛ばす。
「後ろに敵はいません、思う存分暴れてください!」
応援を受けた前衛が、スライムの先手を取って動き出す。
「いくぞ!」
掛け声と共に先手必勝と疾風脚を発動させた夜一郎、槍を振り上げながら一歩踏み込む。一瞬溜め、先頭のスライムが間合いに入った瞬間に、思い切り槍を振り下ろす。穂先がスライムの体に切り裂くのを確かめ、すばやく槍を引くと間を空けずに突きを繰り出しその身を穿つ。さらにひねりも加えられ、耐え切れずに絶命したスライムはどろりとその場に溶け落ちた。
「敵性体の接近を確認、攻撃行動に入ります」
手近なスライムへと狙いを定めたD−58は、そう言うと疾風を発動させて走り出す。敵の接近に気づいたスライムも襲い掛かろうとするものの、反応するのが遅く、すでにD−58の持つ剣は振るわれている。縦と横と同時に襲い掛かる剣がスライムの体を捕らえるが、その弾力のある体に刃が押し戻され、与えた傷はあまり深くないようだ。さらに2度3度と振るるもスライムは倒れない。見た目にも変化はなく効いてないのかと疑うも、手ごたえは確実に深くなっていると思い直し、D−58は双剣を構えなおす。
弓から持ち替え大太刀を構えたシクルは、獲物の長さを生かしてスライムを牽制する。切っ先で掠め切られたスライムはシクルを狙って接近し、力を溜めて飛び掛る。これを予測していたシクル、スライムの動きに合わせて斜めに踏み込み、体当たりを回避すると共に体重をかけた一撃を食らわせた。一刀両断。二つの水の塊が地面に落ちる。
「1匹ならたいしたことは無い、が」
いったい何匹いるのかと、増え続けるスライムを見て呟くシクル。囲まれるとやっかいだなと思う。
前衛が動き出すのに少し遅れて、援護射撃を始める後衛たち。矢が飛び散弾が飛び、光線が走り電磁波が渦巻き。次々と現れ押し寄せてくるスライムを打ち倒してゆく。
「いやー、大漁ですねー」
「ああ、まさかこんなに釣れるとはな」
攻撃しながら話す零次とヘイル。ヘイルは前衛を抜けてくるスライムがいないか警戒していたが、どうやらスライムはより近い敵を狙うという性質らしい。前衛へと向かっていくばかりで、その後方へと抜けてくるような気配は無い。
「こっちにはこないみたいですね‥‥」
「そうね。今のところ、こっちは安全みたい」
ことみの言葉に返すフローラ。全てのスライムは前衛を狙って行動していた。
傭兵たちの猛攻によりスライムはかなりの数が倒されているが、その増える速度はそれ以上で、前衛を射程に捕らえたスライムは数を増し、次第にその攻撃は対処が難しくなってゆく。スライムの行動は遅く読みやすいため、1対1で正対していればほとんど何もさせずに倒せるのだが、数が増えてくるとそうは行かない。
3体のスライムに囲まれたD−58、三方からの連続攻撃をなんとか捌いていたものの全てを回避しきるのは難しく、死角から体当たりを仕掛けてきたスライムへの反応が遅れてしまう。とっさに左腕を出し、体をかばうD−58。スライムを受け止めた瞬間、D−58の腕に焼けるような痛みが走った。そのまま張り付き肉を溶かそうとするスライムを、D−58は腕を振って振り落とそうとするが、離れない。
「離れろ‥‥!」
D−58は右手に持った剣を突き刺し、ようやく引き剥がすことに成功する。服が溶け皮膚が爛れているものの、ダメージを受けたのは腕の表面だけで戦闘に支障は無さそうだ。夜一郎とシクルもスライムの攻撃を受けるものの、こちらは難なく回避しダメージは無い。
D−58の負傷を見た零次は練成治癒で回復を試みようとする。兵装を弓から超機械へと持ち替えようとするも携帯するのを忘れており、発動することが出来ない。
「失敗しましたね‥‥」
そうつぶやき、弓を構えなおした零次。代わりに前衛の援護を行うため、援護射撃を発動する。錬力の残りが少なくなってきた勤は、背後の守りでなく防御陣形を発動し、援護を続ける。
援護を受けたシクルが大太刀を振るい、手近にいたスライム2匹を斬り飛ばす。刀を振りぬいた隙に別のスライムが襲ってくるも、それを見切っていたシクルはあっさりと回避。体当たりを外したスライムはそのまま落下、落ちた瞬間にフローラのエネルギーガンで狙い撃たれ、絶命する。
3匹のスライムに囲まれていたD−58は、零次からの援護射撃を受けて脱出する。そのまま後ろに回りこんで手傷を負わせたスライムに斬りかかり、双剣による6連撃を食らわせて止めを刺す。いつの間にかスライムの増援は途絶えており、残った敵は数少ない。
ヘイルは超機械を作動させ、2匹のスライムを葬り去る。最後の1匹にことみが散弾を打ち込み、弱ったところを夜一郎が止めを刺した。
大量に釣られたスライムを駆逐し傭兵たちは、ひとまず休憩をとることにする。
救急セットを持ってきていたフローラとことみがD−58に簡単な手当てを施している間に、ヘイルはバイク形態のAUKVを池のほぼ全域をカバーする位置に置き、不眠の機龍を使用する。隠密性の高いスライムだけにすぐに反応は無かったが、やがて、僅かな水の揺らぎにAUKVが反応、甲高いクラクションの音が辺り一体に響き渡る。
「ふむ、やはりまだ残っているか」
「さきほどので大半は倒したと思いますけど、どれだけ残ってますかねー」
ヘイルの言葉に返す零次。すでに傭兵たちは30体以上のスライムを倒している。残った数はそれほど多くは無いだろう。
「これでオッケーっと」
「ありがとうございます」
「手当て、終わりましたよー!」
D−58の手当てが終わり、ことみが皆に呼びかける
「よし、再開といこうか」
槍を手に池へと近づいていく夜一郎。仲間が配置につくのを確認し、残ったスライムをおびき出すため槍を構える。先の戦闘の影響で肉が使えなくなっていたため槍の穂先で地面をなでるように動かしていると、しばらくして最初と同様に1匹のスライムが飛び出してきた。覚醒して待っていた後衛組はすかさず攻撃を仕掛け、6人の集中砲火により一瞬でスライムは息絶える。しかしAUKVのクラクションは変わらず鳴り続けており、まだ残っているスライムはいるようだ。1匹ずつ釣り出しながらスライムの駆除を繰り返し、クラクションが鳴り止んだのは再開してから4匹目のスライムを倒した後だった。
こうして全てのスライムを倒した傭兵たちは、その場を後にしラスト・ホープへと帰還する。討ち漏らしもなく被害も非常に軽微であり、依頼の出来ばえは完璧であったと言えるだろう。