●リプレイ本文
鮮やかな緑に囲まれ、さわやかな風が駆け抜ける。人類の勢力圏と競合地域の境界となる森の中、キメラが目撃されたという地点に傭兵たちはいた。
「9匹の狼キメラ、か。一般兵には荷がかち過ぎるだろうな」
そう呟いたのは、熟練した傭兵である榊 兵衛(
ga0388)。槍を担ぎ無造作に立つその姿に、およそ隙というものは見受けられない。
「森の平和のためにも、頑張っていかないと‥‥」
上之木 秋水(
gc7727)はそう自分自身に言い聞かせ、気合を入れる。まだまだ経験は浅いけれど、皆の足を引っ張るわけには行かないと、思う。
「何かありました?」
「うーん‥‥、やっぱり近くにはいないみたいです」
あたりを見回していたロジー・ビィ(
ga1031)の質問に、バイブレーションセンサーを使い周囲の様子を探っていたララ・スティレット(
gc6703)答える。感知できたのは昆虫や小動物と思わしき小さな反応のみで、大型の獣がいるような気配はない。予想はしていたが、すでに移動してしまった後なのだろう。
そうこうしているうちにウルリケ・鹿内(
gc0174)とカルブ・ハフィール(
gb8021)の2人が戻ってくる。皆の注目を受け、首を横に振るカルブ。
「残念だが、何もなかったな」
「こっちもダメでした」
2人は別々に周囲の探索をしていたのだが、こちらも狼の行き先を示すようなものは見つけられていなかった。
「新たな情報はナシ、ですわね」
「どうやらそのようだな」
ロジーの言葉に答える兵衛。今後の行動を決めるため、傭兵たちは一箇所へ集まる。
「これからどうします?」
そう言いながら、軍から借りてきた地図を広げるララ。基地周辺の地理情報が載っているその地図には、狼キメラの行動予測範囲が記されていた。
「やはり、しらみつぶしか」
「それしかなさそう、ですよね‥‥?」
カルブの言葉に答える秋水。たった一度の目撃情報で作られた狼の行動予想はかなり大雑把なもので、それに伴い地図に記された行動範囲もやはり広大であった。全ての範囲を探すとなるとなかなかに骨が折れそうだが、これしか情報がないのでは、仕方ない。
「何かあったら、またそのときに考えましょう!」
笑顔で言うウルリケ。会議をし続けたところで新たな情報が手に入るわけでもなく。とりあえず動いてみるかと、狼たちが移動していったという方向へ向けて、傭兵たちは歩き出すのであった。
最初にそれに気がついたのは、仲間たちから少し離れ、一人探索をしていたウルリケだった。気の抜けた歌を口ずさみながら地面を探っていたウルリケ。ふと顔をあげると、白毛の狼が数匹、遠く離れた木々の合間からこちらの様子を伺っている。おそらくこちらは既に見つかっていたのだろう、ウルリケと目が合った狼たちは、迷うことなくこちらに向かって歩いてくる。
ウルリケは急いで通信機を手に取り、近くにいるであろう仲間たちに状況を告げる。すぐに向かうという返事を聞いたウルリケはその場で覚醒をすると、武器を手に取り構え9匹の狼を睨みつける。少しずつ彼我の距離が短くなっていく。知らせを受け駆けつけた仲間たちが各々の得物を構えたその直後、狼たちが一斉に走り出した。残り30m程の距離を一気につめようとする狼の群れ。その先頭の1匹に狙いを定めた兵衛、十分に引きつけたところでエアスマッシュを放つため、渾身の力を込めて槍を振るう。
「はぁっ!」
気合の掛け声と共に放たれた衝撃波は狙いを過たず、群れの先頭を走る狼に突き刺さり、その大きな体を吹き飛ばす。好機と見た兵衛は迅雷を発動、巻き添えを避けるため、左右に分かれた狼の群れの間を一瞬にして駆け抜けると、苦痛にもがく狼に槍を突き立てる。
仲間が倒されたことなど意にも介さず、狼たちの突進はとまらない。待ち受ける傭兵たちは群れのリーダーがいるはずだと目を凝らすも、見つけることはできず。狼の群れは、すぐ目の前にまで迫ってくる。
左右の二手から接近する狼の群れに、奇しくも傭兵たちは挟み撃ちの状態になってしまっていた。包囲されてしまう前に十字撃を撃つべきかと迷うロジー。いつでも撃てるよう構えを取るが、しかしこのままでは味方を巻き込んでしまうと思いとどまる。彼女の攻撃力は傭兵たちの中でも図抜けている。その一撃を食らったら、敵だけでなく味方もただでは済まないだろう。
左の群れに狙いを定めていたウルリケは、その接近にあわせるように自身も突撃をしかけると、先頭の1匹に対して薙刀で斬りかかる。勢いよく振りぬいたその刃先は、飛び掛ろうと身構えていた狼の体を捕らえるが、咄嗟に飛びのかれたため傷は浅い。この機を逃すまいとさらに薙刀を振るう。連撃で狼を追い詰めていくも倒しきれず、逆に4匹の狼に囲まれてしまう。
「不味い‥‥」
なんとかして囲みを突破したいがそれもできず、四方からの攻撃を受けてしまう。必死に回避しようとするも、その全て捌ききれるはずもなく。なんとか致命傷は避けているが、積もったダメージは大きい。
右側から回り込んできたもう一つの狼の群れ。ウルリケの背後に向かって突進する4頭の狼の、その眼前にロジーとカルブが立ちはだかる。狼たちは左右に分かれ、目の前の人物を無視してすり抜けようとするが、2人はそれを許さない。
目の前に立ったにもかかわらず食らいついてこない狼に、軽く拍子抜けしつつも小太刀を振るうロジー。無造作に振りぬかれたそれは、自らの真横にいた狼の背を大きく切り裂く。思いもしないダメージを受けた狼は、反射的に飛び退り、ロジーから距離をとった。カウンターの構えを取るロジーと警戒した狼が睨み合う。
「オオオオオオオオオッ!」
雄たけびを上げ、ツヴァイハンダーを振り上げるカルブ。その重さを利用して、目の前を駆け抜けようとする狼に思いきり叩きつける。攻撃を食らった狼は、大きな衝撃に一瞬怯むもすぐに体勢を立て直す。勢いをつけてカルブへと襲い掛かり、剣を振り上げた無防備な体に鋭い爪をつき立てた。胸の皮が引き裂かれ血が滲むも、カルブはそれにかまわず両手で持った長剣を叩きつける。二度の攻撃によろめく狼。致命傷とまではいかないが、ダメージは大きい。
「ほしくずに呑まれて、己も分からず惑うがいい!」
ララの発動させたほしくずの唄に影響され、残りの2匹は混乱状態に陥っていた。1匹は完全に目標を見失い、ウルリケの横を駆け抜けるとその場で立ち止まり、何かを探すように周囲を見回している。もう1匹は目標をララへと変え走り出すが。
「ララに触れさせはしない!」
彼女を守るため隣に控えていた秋水が、その間に割って入る。混乱したままの狼は、わけもわからず目の前の人間に襲い掛かるも、疾風脚を使った秋水はこれを回避。カウンターでがら空きになった腹を蹴りあげ、靴に取り付けられた足爪によって傷を与える。一撃の重さはないものの、さらに蹴りを追加し確実に体力を削っていく。
先の敵に止めを刺した兵衛は、後ろを振り返り戦況を確認する。
「む、いかんな」
そう呟くと、迅雷を発動、木々の間を一瞬で駆け抜け、ウルリケを狙っていた狼の前に立つ。急に現れた邪魔者に驚き飛び退る狼の、その隙をついて兵衛は槍を振るう。低く小さく払われた槍の先が狼の前足を掠め切り、着地に失敗した狼はバランスを崩し倒れてしまう。起き上がる間もなく槍による追撃を受け、狼は動かなくなった。
「すみません、下がります」
崩れた包囲を抜けたウルリケは、追撃を警戒しながら後方へと下がる。追ってきたのは1匹。さきほど倒し損ねたヤツだ。逃すまいと飛び掛ってくる手負いの狼を、薙刀の柄で打ち落とすウルリケ。流し切りを発動させするりと側面に滑り込み、先ほどつけた傷口に思い切り刃をねじり込む。今度こそ確実に止めを刺した。
ウルリケを先ほどまで包囲していた狼は、新たな脅威である兵衛を狙い動いていた。数を生かして取り囲もうとするも、しかし兵衛の足裁きはそれを許さず。痺れを切らして襲い掛かるが、その攻撃は空を切り槍に阻まれ、兵衛に傷をつけることはない。
一方、対峙する狼に先手を取られたカルブ。素早く回り込んでくる狼の動きに対応しきれず、脇腹に食らいつかれてしまう。咄嗟に剣の柄で殴りつけ、払い落とす。食いちぎられはしなかったが、それでも小さな傷ではない。
「ガアアアアアアアアッ!」
ひときわ大きな咆哮を放ったカルブ、怯むことなく狼にツヴァイハンダーを叩きつける。狼は必死で逃げるがかわしきれず、2度3度と振られる剣に少しずつ体力を削られていく。そして4撃目、動きの鈍った狼の背を振り下ろされたツヴァイハンダーが大きく切り裂いた。動かなくなった狼に、カルブは次の獲物を探し始める。
睨み合いを続けていたロジーと狼だが、その均衡を崩したのは狼の方だった。突如走り出した狼に、冷静に対応するロジー。その構えには一分の隙もなく、しかしそれでも狼は突き進む。すさまじい速度で間合いを詰め、わが身を切り裂こうとする狼の前足を、右の小太刀で難なく払う。がら空きになった狼の腹に流れるように左の小太刀をつき立てると、それをねじり引き抜く。小さくうなる狼。致命傷だ。
「終わりですわ」
かろうじて意識を保ったらしく尚ももがく狼に、ロジーは両の小太刀を振り下ろし止めを刺す。
ララを守るために盾となり戦う秋水、そのサポートをするためにララは呪歌を歌う。
「心と体に砂を詰め、溺れるように沈みなさい!」
ララと狼の体が白色の光に包まれる。抵抗に失敗した狼は、急に自由の利かなくなった自分の体に戸惑い、その場に立ち止まってしまう。
「隙あり!」
棒立ちの狼に、思いきり釘バットを振りぬく秋水。ダメージを受け我に返った狼が、お返しとばかりに秋水に襲い掛かるもその動きはぎこちなく、戦い慣れしていない秋水でも簡単に見切ることができた。狼の攻撃を難なく回避し、回り込みながら追撃の蹴りを叩き込む。狼はまだ耐えている。
戦闘を開始してから20秒ほど、9匹だった狼は残り4匹と大きくその数を減らしていた。
「そろそろ終わりですわね‥‥」
そう呟いたロジー、兵衛に意識を取られていた狼に背後から近づくと、強刃と剣劇を発動させる。一瞬のうちに8発の残撃が繰り出され、狼の体が赤く染まった。
「最後まで油断はするなよ」
涼しい顔で言う兵衛。仲間が倒されわずかに反応した狼の、その一瞬の隙を逃さず勢いよく槍を繰り出す。息もつかせぬ連続突きに、狼は回避を取ることすらできずに倒されてしまう。
「シュウちゃん、いくよ!」
「わかった!」
麻痺した狼と対峙する秋水を援護すべく、ララは超機械「スズラン」を作動させる。麻痺の効果が残り体の自由が利かない狼は、数多くの蹴りにより弱りきったその体に電磁波を受け、くずおれる。
「ウオオオオオオオオッ!」
最後に残った狼に、獲物を探していたカルブが襲い掛かる。ツヴァイハンダーの斬撃により傷を負った狼は、身を守るためにカルブから距離をとるが、しかしそこにはウルリケが待ち構えていた。
「これで終わりです」
薙刀を振るい、逃げようとする狼に止めを刺す。
狼は全て倒された。
多少の傷は受けたものの、大きな被害はなく無事に全てのキメラを倒した傭兵たち。依頼が終了したことを知らせるため、その場を後にし基地へと帰還する。