タイトル:【Pr】津軽海峡防衛線マスター:一本坂絆

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/18 22:14

●オープニング本文


■千歳
 ついてねぇ‥‥。
 細身の安葉巻を咥えた飛田は、溜息の代わりに紫煙を吐き出す。
 千歳基地の第二航空団に所属する飛田は、部下の川相を連れて市街を歩いていた。
 二人で行きつけの蕎麦屋へ昼食を取りに繰り出したのだが、店は閉っており、入り口の張り紙には、『本土へ非難する』との旨が丁寧な文字で書かれていた。
 北海道の半分以上が敵占領地となった現在、軍が駐屯している千歳でも、疎開が進みつつある。市街には負傷兵の姿が目立ち、至る所で軍の治安部隊がユダによるテロや脱走兵に目を光らせている。
 飛田の隣を歩く川相が、すれ違った負傷兵に視線をやりつつ、
「知っておられますか? 前線部隊―――特に、消耗の激しい陸軍では、再編成の為後方へ下がった精鋭部隊の穴埋めに、混成部隊とかいう、原隊を失った兵や捕まえた脱走兵を寄せ集めただけの隊が使われているとか‥‥‥上層部は認めていませんが、今や前線は穴だらけですよ」
 無論知っている。再編成の名目で後方へと下げられた精鋭部隊が、そのまま本土へ撤退するであろう事も、 北海道軍上層部に『本土への出張命令』が下っている事も知っている。
 戦線の後退。相次ぐ破壊活動。司令部は今や混乱の極みに達している。
「ま、いざとなりゃ、千歳基地に逃げ込むか函館市内に入っちまえば、撤退する時間くらいは稼げらぁ」
 神妙な顔をする川相を元気付けるように、飛田はことさら明るい口調で言った。
 千歳基地の周りには、強固なトーチカ群が設置されている。そして、函館は北海道と本土を結ぶ重要拠点とされ、前面に位置する渡島半島に厚い外郭陣地と、山岳地帯を利用して無数の砲を設置した縦深陣地が設置され、渡島要塞と呼ばれる防衛ラインを構築していた。
「とりあえず腹ごなしをしようぜ」と、今度はラーメン屋に向かい歩き出した二人の身体を、突如―――轟音と振動が震わせた。
「なんだぁ?!」
 遥か彼方の空に、黒煙が立ち上っている。
 飛田の小型無線機に、基地からの緊急通信が入った。
『スクランブルがかかりました。今すぐ基地に戻ってください』
 通信機越しに聞こえる冷静な声に、飛田が噛み付くように叫ぶ。
「何が起こったんすか! こんな市街地の近くまで敵が浸透してくる何ざ、よっぽどのことが―――」
『札幌、千歳間を結ぶ千歳線及び道央自動車道が敵の手に落ちました』
「馬鹿な!」
 道央自動車道と千歳線は交通の要所だ。それ故、常にいくつもの精鋭部隊が警備に当たり、敵の浸透を食い止めていた。
 前線は今や穴だらけ―――
 先程の会話が脳裏をよぎる。
『バグア軍はヘルメットワーム40、超大型キメラ88、大型キメラ104、中、小型キメラに至っては数万の規模で、渡島半島へ向けて進行しています。兎に角、急いで基地へ戻ってください』
 飛田は通信機をしまうと、川相と共に、基地へ向かって駆け出した。


■津軽海峡
「まるで地獄の釜だな」
 津軽海峡に展開した護衛艦隊の一隻。ミサイル護衛艦の艦長は、艦外カメラが捕らえた函館市街の映像を見て呟いた。
 モニターには、地上と海上を覆い尽くすキメラの大群が映し出されている。
 渡島要塞はたったの四日で陥落した。
 札幌、千歳間を横断しながら進行してきた敵軍と、海上を東進してきた敵軍に挟撃されたのだ。
 惨敗と言っていい、記録的な敗北だった。防衛ラインを構築していた軍は、民間人の避難を進めながら撤退を開始。青函トンネルは敵地上ユニットの本土進攻を防ぐため、明日の一七○○時をもって爆破が決定している。
 要塞幻想などまやかしに過ぎないが、それでも、函館の陥落は軍上層部を大いに動揺させたことだろう。
 しかし、自分達には動揺する暇さえ与えられては居なかった。
 今や敵本土上陸阻止の最終防衛ラインとなった津軽海峡には護衛艦隊が展開し、函館から発進したヘルメットワームや、キメラの大群と熾烈な戦闘を繰り広げている。
「敵は他のバグア軍と同じく名古屋を目指しているのか? それとも、名古屋へ集結するUPC軍の戦力を分散させるつもりか?」
 或いはその両方か。
 戦術画面を覗きながら呟く艦長に、オペレーターが声を荒げて戦況を報告する。
「敵キメラは防衛ラインの左側に攻撃を集中! 戦線に開いた穴を広げるように、ヘルメットワームが進行しています! 艦長―――!」
 敵軍のキメラに対抗するため、対空・対潜装備で固めた駆逐艦が多数防衛に当たっているが、いかんせん物量が違いすぎる。キメラの数に物をいわせての浸透突破は、敵の得意とする戦法だった。
「落ち着きたまえ、諸君。紳士たるもの、如何なる時でも心に余裕を持たねばならん」
 艦長は顎に手を当て、チェス盤を覗き込むように思考に耽る。
 キメラならいざ知らず、空中を自在に飛び回るワームを、海上に浮かぶ艦艇の砲で捕らえるのは至難の業だ。機関砲の火線と航空榴弾による弾幕で進路を阻み、艦載ミサイルやレーザー砲を撃ち込む。これが対ワーム戦の常套手段だ。だが、ただ護っているだけではいつか力尽きてしまう。敵の戦力を有効に削る戦力が必要だ。頼みの航空戦力も、航空母艦に搭載されている戦闘機では決定打に欠けた。三沢から飛び立つF15Jでも同じことだ。
 後一手が必要だった。
「UPCからの増援は?」
「ラスト・ホープ本島へ緊急スクランブルを要請しました。直に能力者が搭乗するKVが増援として駆けつけるとの事です」
「よろしい―――状況はすでに動いている。ならば、我々は我々の務めを果たすとしよう」
 艦長は戦術画面に映し出される敵影の中、突出して飛行する一機のワームに狙いをつける。
「火器管制、標的をロック。対バグア用艦対空ミサイル、一番、二番発射。続けて三番発射。一番、二番は私の合図と同時に自爆させろ」
「アイ、サー!」
 護衛艦からのミサイル発射。
 ミサイルは一瞬でM3.2の速度に達し、自動でコースを補正―――目標のヘルメットワームへ襲い掛かる。
 しかし、最高速度M6、慣性制御装置を搭載したヘルメットワームは、やすやすと二基のミサイルを回避―――しようとした所で、二基のミサイルが自爆。爆風に殴りつけられ姿勢を崩したワームに、やや遅れて発射された三基目のミサイルが直撃した。
 爆発。
 艦長は戦果に気を止める事無く、難解な数式に挑むように戦術画面に視線を戻し、静かに言った。
「紳士諸君、敵の速力に惑わされるな。焦りは度し難いミスを生むぞ。今この瞬間を楽しみたまえ」

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
間 空海(ga0178
17歳・♀・SN
高木・ヴィオラ(ga0755
24歳・♀・GP
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ルクシーレ(ga2830
20歳・♂・GP
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN

●リプレイ本文

●津軽海峡上空
 ラストホープから飛び立った8機のKVは、三沢基地での補給を済ませ津軽海峡へと向った。
 戦域に到着するや、里見・さやか(ga0153)は眼下の光景に息を呑む。
「これは、すごい‥‥」
 海峡を越えようと押し寄せる敵の軍勢を、海上砲台と化した護衛艦隊が旺盛な砲火で迎え撃ち、敵に制空権を渡すまいと、戦闘機、戦闘ヘリ、武装ティルトローター機が艦隊上空を飛びまわっている。
 上空まで砲撃音が聞こえてくるかのようだと、間 空海(ga0178)は思った。
 この防衛線が突破されれば、眼下を埋め尽くす敵の軍勢が本土へと上陸する事になる。それだけは阻止せねばならない。
「艦船つえー! つーか、火力だけならKVなんか話になんねえじゃん!」
 戦況を見下ろし、ルクシーレ(ga2830)がはしゃいだ声を上げる。
 KVは高性能だが、かっこよさでは断然F−15だな。
 ルクシーレは艦船を観察する一方で、航空機のフォルムにも目を奪われていた。
 因みに、全長十数mで空を飛ぶKVと、全長数百mで海上に浮く艦船で火力に差が出るのは当然の事である。逆に、高い機動力を武器とする航空機に対し、陸上では運用困難な大火力を展開できるという事が、艦船にとっての大きな武器だと言えるだろう。
 上空を飛ぶ8機のKVの無線に、艦船からの通信が入った。
「此方は護衛艦『天佑』艦長、木突だ。これより各機に艦隊の無線周波数を送る、チャンネルを合わせたまえ」
 砂嵐に混じり聞こえてきたのは、まるで難解な数式に挑んでいるかのような、深く硬い声音だった。
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)は無線の周波数を合わせると、早速声の主、木突と名乗った艦長へ通信を送る。
「こちらシーガルー。楽しそうなパーティ中の様だが、オレ達の『ごちそう』は残っているかい?」
「オードブルからデザートまで。好きなだけ食して行くと良い」
 艦長は声音を崩す事無く、ジュエルの軽口に応える。
「Jem、シーガルーではなくシーガル、君の場合はシーガル5だよ」
 通信に割って入った赤村 咲(ga1042)は、ジュエルの発言に訂正を加えつつ、
「ヘルメットワームには極力此方のみで対処するよう努力するが、有効火力を搭載している艦には出来るだけワームの撃破に協力して貰いたい」
「私達が追い込み、そちらが仕留める。要はそう言う事と御理解下さい」
 間が赤村の言葉を引き継ついで作戦を進言する。
 艦長は一瞬の逡巡の後、
「各駆逐艦に支援射撃の要請を出そう。それと軽空母一隻も支援に回す。整備兵にはKV整備のマニュアルを送付済みだ、長期戦に備え、必要ならば補給を受けろ」
 通信が終わると、能力者達は操縦桿を倒し、空域への降下を開始した。


●防衛線
 緋霧 絢(ga3668)は降下と同時にAIを覚醒させる―――目指すは戦線右翼。
 海峡東側は西側よりも水深こそ深いが、わずかばかりだが距離が短い。敵航空戦力はキメラの渡海距離を少しでも縮めるつもりか、ここに戦力を集中させていた。
 緋霧は上空から、海上を遊弋するヘルメットワームの中の一機に狙いを定める。
「シーガル8―――Crow。目標捕捉、確実に当てましょう」
「了解! ブービー、エンゲージ! Crowオレがあんたの二番機だ! あんたの背中、任された!」
 緋霧に続いてルクシーレも降下を開始した。
 ルクシーレは、ノリは軽いが今作戦における要点をしっかりと理解している。安心して背を任せられる。
 緋霧はブレス・ノウを発動させると、降下しながら84mm8連装ロケット弾ランチャーを発射。8発の対地ロケット弾が、ヘルメットワームを頭上から殴りつける。
 攻撃を受け、姿勢を崩しながらも緋霧機に狙いを定めるヘルメットワームを、ルクシーレが20mmバルカンで牽制。
 流石に一度のアタックでは撃墜には至らないようだ。追撃を加える為、機首を返そうとした緋霧の視界に、降下しながら大量の短距離ミサイルを放つKVの姿が飛び込んでくる。
「ミサイルのてんこ盛り! 食らいなさい!」
 高木・ヴィオラ(ga0755)は緋霧機による打撃を受けたヘルメットワームに対し、アグレッシヴ・ファングを発動させ、H12ミサイルポッドから大量のミサイルを放つ。
「あったれぇー!!」
 放たれた45発の短距離ミサイルが、細い雲の糸を引いてヘルメットワームを強襲―――上部装甲に次々と激突し、爆炎で空を彩る。
「ディオネ、私のミサイルがきれるまでは突出は控えてください」
 高木機の後に続く里見からの通信―――要請。
「おいおい、横取りはよくねーぞ?」
 ルクシーレ機からは茶化すような通信が入った。
「ごめんごめん。でも、私バグアって大嫌いなのよね。なんか得体が知れないし―――だから!」
「攻撃してくるなら倒すだけよ!」と高木は次なる獲物を求めて視線を走らせる。


「シーガル6、敵を貫く」
 艦隊の火線と敵の間をすり抜けながら、ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はヘルメットワームに射撃を加えた。
 目標補足―――降下を開始。レーザー砲の三点バースト。
 単調だが、だからこそ気の抜けない作業。
 ホアキンは元闘牛士と言う経歴の持ち主だった。マントの変わりに翻すのは巨大な銀翼。獲物を貫くのは3.2cm高分子レーザー砲だ。
 ホアキンの射撃を受けたヘルメットワームに対し、エレメントを組む間がガドリング砲を撃ち込む。彼女の役割は先行するホアキンのサポート―――追撃と牽制射撃である。
 2機は次なる獲物を求めて機首を返す。
「シーガル2よりシーガル6へ―――機体はまだ持ちますか?」
「飛行速度15%減といったところだな。敵の機動力が此方を圧倒している以上、無理はできん。手堅くいこう滋藤」
「流石は慣性制御装置といったところでしょうか‥‥乱戦に持ち込まれると部が悪いですね。Quena、あまり無理はしないように」
 間は事務的にホアキンへ通信を返す。覚醒状態の間は、外見の変化こそ少ないが、口調が冷徹且つ事務的なものに変化している。
「了解―――と言いたい所だが、敵も待ってはくれないようだ!」
 一機のヘルメットワームが砲火の間を文字通りすり抜け、二機に迫ってきた。
 ホアキンは操縦桿を倒して機体を旋回させると、レーザー砲を撃った。しかし、敵機はまるで体軸をずらすかのような異常な軌道で、これを回避する。
「‥‥目標捕捉、照準固定。射撃開始します」
 照準環に敵機を収めた間がトリガーを引くと同時に、スナイパーライフルが火を噴いた。ライフル弾が敵機装甲を削り取るが、決定打には至っていない。
 二機の攻撃を凌ぎ、ビームの発射体制に入ったヘルメットワームが、突如として爆発する。
 艦隊からの、対空ミサイルによる支援射撃だ。
 炎を上げて落下するヘルメットワームを横目に、間とホアキンは操縦桿を引いて機体の上昇を開始した。


「これは中々いい連携だな‥‥」
 赤村は射撃を終えた3.2cm高分子レーザー砲から、使用済みのカードリッジを排出しながら言った。
 放電装置とアグレッシヴ・ファングを併用して赤村をサポートするジュエルが、通信をよこす。
「思った以上に楽だな。敵さんも流石に息切れかね?」
「そうでもないさ、Jem。シーガル2とシーガル6の方を見てみろ」
 ジュエルは、間とホアキンの機体へと視線を向ける。射撃を終え、背を向けた二機に襲い掛かろうとするヘルメットワームの進路を、艦隊からの火線が阻んだ。
「俺達も同じだ。艦隊が上手く援護して、敵の追撃や連携を阻んでくれている」
 KVの攻撃の間、艦隊の砲火が敵の連携を分断。敵がKVに喰らい付こうものなら、その腹に対空ミサイルが突き刺さる。これならば、ヘルメットワームが絶対的優位を占める格闘戦へと持ち込まずとも、艦隊の援護を受けながら一旦上空へと戻り、砲火に囚われている敵に再度上空から攻撃を仕掛けるという、一撃離脱戦法も可能だ。
「どうするBrave? このまま敵を狩るか、それとも一度上空へ戻るか‥‥」
 ジュエルに言われ、赤村はしばし考え込んだが、直ぐに通信を返した。
「ヘルメットワーム相手に深追いは禁物だ。一旦上空へ上がって、戦線全体の動きを把握してから再度、降下攻撃をしよう」
 エレメント単位で動くよりも、他のエレメントと共同で敵を狩った方がより確実だ。
 二機のKVは敵をすり抜けながら、上空を目指して飛翔する。


●護衛艦隊
 どうやら、護衛艦隊の指揮官は、自分達能力者を存分に扱き使うつもりらしい。
 長期戦を睨んだ各KVは、必要に応じて交互に補給と損傷箇所の応急修理を受けていた。特に、大量に消費される燃料と弾薬の補給は必須である。
 機体損傷率が40%を越えた緋霧機と、燃料を消費したジュエル機が軽空母の飛行甲板に向けて降下を開始する。
 緋霧は損傷率が70%を越えるまで粘るつもりであったが、機体の修復は早い内に行った方が楽に済む、と言われそれに従う事にした。
 それぞれの僚機が上空を警戒飛行する中、AIによる操縦補正を受けた二機のKVが、無事甲板に着艦を果す。機体が甲板脇に身を寄せると、燃料チューブを抱え、弾薬や予備パーツ等を乗せた台車を押す整備兵が猛然と駆け寄り、機体に張り付く。
「整備には20分程かかる。機体を降りて休め」
 整備班長に促され、ジュエルと緋霧が機体を降りた。瞳が激しく動き回っている。神経が高ぶっているのだ。敵味方が入り乱れる中を飛び続けたのだから、当然である。
 機体を降りた二人に、整備班長が小さな紙袋を差し出した。
「これは?」
 首を傾げる緋霧に、班長はにやりと笑みを浮かべる。
「メロンパンだ。少しでいいから腹に入れておかんと、身体がもたねぇぞ」
「ありがてぇ」
 ジュエルが笑みを浮かべて紙袋を受けとった。
「材料はプラント産だが、パンそのものは青森の市街で手に入れた手作り品だ。プラントの大量生産品とは味が違うぞ」
 二人は整備の様子を遠目に見ながら、艦橋の外壁に背をつけて座り込んだ。パンを一欠け口に含むと、口の中に粗目砂糖の甘味が広がる。疲れが少し和らいだ気がした。


 甲板から飛び立つKVに向かって帽子を振り、見送る整備兵に、緋霧は機体を空母上空で旋回して見せる。
「お待たせしました」
「腹も膨れた事だし、気合入れていくか」
 そう決意を新たにした時―――無線からホアキンの緊迫した叫びが飛び込んできた。
「こちらシーガル6、敵に抜かれた! そちらに向かっているぞ!」
 その通信が終わらぬ内に、ヘルメットワームの姿が視界に飛び込んでくる。
 弾幕の中を猛進してきたヘルメットワームは、機体全体から火花を散らしながらもビームを発射。内一条の光線が空母の甲板を貫いた。衝撃で艦が傾き、甲板上にいた整備兵が海に落下する。ビームの余波を受け、火達磨になった整備兵が甲板上を転がりまわる。
 その光景を眼下に見下ろす緋霧の脳の中心に、カッと火がついた。
「畜生! あいつら、やりやがったな!」ルクシーレが敵機を睨みながら吼えた。
 ルクシーレ機に取り付けられたガドリング砲の回転機構が唸りを上げ、高速で打ち出される弾丸がキメラの群れを引き裂いて道を作る。
「シーガル8、エンゲージ!」
 緋霧は機体の速度を上げると、敵機との交戦に突入した。


「そんな‥‥」
 高木の怒気を孕んだ声を無線越しに聞きながら、里見は愕然と呟いた。
 飛行甲板を守る為、空母上空を重点的に防衛していた里見の努力は、無常にも破られた。
 津軽海峡は陸地間の距離が20km程度しかない。ヘルメットワームが全速力で飛行すれば、10秒弱で渡りきる事ができてしまう。艦隊上空の制空権だけでなく、海峡全体の制空権に気を配るべきであった。元々、敵の攻勢を押し戻す為に投入されたKVである。艦隊の防衛に集中し過ぎたのが、逆に仇となった。
「ヘルメットワームが更に2機接近! 艦隊に接近する前に叩く! シーガル4、エンゲージ!」
「シーガル5、エンゲージ!」
「私達も行くわよ、Anahite! シーガル3、エンゲージ!」
 そうだ、まだ終わりではない。
「シーガル1、了解。シーガル1、エンゲージ!」
 里見は顔を上げると、高木機に続いて緩降下を開始―――敵機に襲い掛かった。
「捉えた‥‥‥っ。シーガル1、フォックス2!」
 里見は高木機の放つミサイルを回避しようとしたヘルメットワームに、ここぞと言う時の為に取って置いたミサイルを撃ち込む。里見機のミサイルを喰らって錐揉みするヘルメットワームに、高木機の放つアグレッシヴ・ファングで強化された短距離ミサイル、45発中10発が突き刺さった。
 先行して降下を開始するホアキンに続き、降下を開始した間は小さな声で呟く。
「これは手痛い失態ですね」
 兎に角、これ以上艦隊への攻撃を許すわけには行かない。
 間は新手のヘルメットワーム二機の内、一機に狙いを定めるとブレス・ノウを発動。命中率を高めた状態で、ホーミングミサイルを発射する。
「‥‥ここは外しません」
 間の宣言通り、白煙の尾を引いて敵機に吸い込まれていった。
 爆炎を上げるヘルメットワームに、更に赤村機とジュエル機が降下しながら射撃を加える。
「この距離貰った!」
 赤村機のレーザー砲による追撃に、ジュエル機のアグレッシヴ・ファングを付加した放電装置による追撃が続く。
 撃墜されたヘルメットワームは、艦隊に届く事無く海面へと落下していった。


 艦船に幾分かの損害を出したが、函館を占領して間もない敵は、維持しきれぬと見たか、函館市街へと撤退。防衛線は維持された。
 この後、函館を占領したバグア軍と護衛艦隊は、津軽海峡を挟んでの睨み合いを続ける事になる。