タイトル:S級計画 〜海の豹〜マスター:一本坂絆

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/03 23:40

●オープニング本文


 ドイツ連邦共和国シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州キール。北欧の玄関口として栄えたこの港町に、HKW(ヒンデンブルク社‐キール造船所)は存在する。
 元はヒンデンブルク製造所と呼ばれていたこの造船会社は、クリーグスマリーネ(ドイツ海軍)の潜水艦建造にも携わっていた老舗である。
 クルメタル社の傘下に収まり社名を改めた後も、水上艦船及び潜水艦建造のノウハウを蓄え続けてきた。
 そのHKWの会議室では、集まった十数名の技師達が、眉間に皺を寄せた小難しい表情を並べて向き合っていた。
「結局、ファーベルグ氏とグランハルト女史の協力は得られなかったか。グランハルト女史は滅多なことで本社の地下研究所から出てこないと聞き及んでいるが、ファーベルグ氏にまでも断られるとはな」
 技師の一人が失望に呻く。今回の開発計画を進める上で、二人の助力を得られなかったのは痛い。
「ファーベルグ氏は現在多忙フ身であると。謝罪の言葉を送ってこられました。何でも、今は英国王立兵器工廠に出向いているとか」
「英国にかね? 一体何のために」
「はぁ、私にも詳しい事はわかりませんが、エンジンの‥‥‥」
 その時、テーブルを軽くノックする音が響き、技師達の会話は遮られた。全員の視線が一番奥の席に腰掛ける男へと向けられる。
「人型可変戦闘機開発の実績者たる両氏の助力が得られなかったのは痛恨の極みであるが、結果が出ている事をいくら論じたところで意味は無い。東洋には『時は金なり』との諺があると聞くが、時間は金での買戻しがきかない貴重なもの。これ以上無為に消費する事は避けねばならぬ。今回の懸案は独力で解決するより他あるまい」
 男は低く通った声で言った。灰色を帯びた頭髪と顎鬚を伸ばし放題にし、真っ直ぐ背筋を伸ばしてパイプ椅子に腰掛ける様は年老いた獅子の如き風情を醸し出している。
 その男―――班の技術長を務めるヘルべルト・ドレヴァンツは若い技師に手振りで会議の続行を促した。
 プロジェクターが操作され、スクリーンに見慣れぬ機体の図面が映し出される。鋭いラインを描く機首と、ずんぐりとした胴体を併せ持つKVだ。
 それはかつて大西洋を震撼させた狼の系譜に連なる末孫。
 図面の右下には『ゼーフント級特殊潜航艇』の文字が記されている。
 そう、クルメタル社は遂に、水中用KVの開発に着手したのだ。
「既にドローム社がW‐01を、MSIがRB−196を、カプロイア社がKF−14を販売し、英国王立兵器工廠とメルス・メス社もまた水中機開発を推し進めているという。これらの機体が市場のニーズに合わせた性能を有している事は疑うべくも無い。故に各社は自己の技術力の結晶こそが最も優れた機体であると夢想しているに違いない。しかし、敢えて言おう。クソであると! 彼等は気付いておらんのだ。自ら全世界に対して醜態を晒し続けているという現実に。近い将来、彼等はその事実を直視せざるを得なくなる」
 強い口調をもって断言するドレヴァンツであった。それ程までに、彼は今回の開発計画に絶大な自信を持っていた。
 そも潜水艦建造のパイオニアを自負する彼等が、他社の先行を許す現状にいつまでも甘んじているわけが無い。また水中機の早期開発はクルメタル本社上層部の意向でもあった。


 アメリカ市場を御し、欧州市場の拡大を虎視眈々と狙い続けるクルメタル社は、同時に戦争の長期化に対して危機感を覚えていた。
 対バグア戦争によって繁栄の絶頂に立ったメガコーポレーションであるが、現在の欧州経済が逼迫した状況に置かれている事を忘れてはならない。刃の上を歩くような現状が、何時までも続くわけが無い。
 利に徹するが故に戦争の早期終結を望むクルメタル社が、失地奪回の折に必要とされるであろう水中機体の開発に着目したのは当然の流れと言える。
 本社の後押しもあって、研究者達のボルテージは右肩上がりを続けた。
 この機体開発に際し当初唱えられたのは、沿岸部での運用を第一義とした高速迎撃機とする案であった。
 一人乗りの水中機は小型のため搭載燃料量や搭乗人数に制限があり、通常艦艇同様の日数を要する長距離航行が不可能だからだ。
 しかし直ぐに考えは改められた。母艦に搭載して運搬すれば、外洋への進出も可能であると。
 ならば必要なスペックとは如何なるものか。
 侃々囂々の議論の末に辿り着いた解答は、実にクルメタル社らしいものだった。
 即ち通常航行時は低出力ながら長時間稼動し、戦闘時には瞬間的ながら高い機動力と打撃力を発揮する状況適応型の機体である。
 これを可能とする為、技師達は通常動力と共に燃料電池を機体に搭載する事を決定した。
 通常の潜水艦の動力は大気依存型であり、水上ではエンジンを、水中では二次電池に蓄えられたエネルギーを用いて航行する。これに対し非大気依存型の燃料電池は、水中であってもエネルギーの自己生成が可能である。
 一番の問題は出力の低さだが、SESを介する事で、出力は非戦闘時の航行程度ならば問題無いレベルにまで引き上げられた。
 推進装置も電磁力推進型のスクリュープロペラとウォータージェットエンジン両方を搭載し、低速航行時と高速航行時の切り替えによってよりエネルギー効率を上げる努力が成された。
 しかし技術的努力だけでは解決できない問題もある。
 機動性を売りとするKVと言え、艦艇の宿命として航空機程の速やかな展開は期待できず、活動範囲に限界が伴う事は避けられない。
 ならば開いた穴は物量で補うべし。
 広大な海洋面積をカバーするには、それに見合った数が必要である。高級高性能を売りとするクルメタル社だが、ここは価格をリーズナブルに押さえて生産台数を揃えることこそが大事。
 過去の潜水艦建造で得たノウハウは、此処でも生かされたわけだ。


「ですが設計や実用性に関する細かなマッチングでは、やはり経験が物を言います。こう言っては何ですが、我々は艦艇の設計製造にこそ慣れているものの、KVと言うジャンルに足を踏み出すのはこれが初めてなのです。道無き道を行くのであれば、注意に注意を重ねても過ぎる事は無いでしょう」
 不安を拭い切れずにいる技師とは対照的に、ドレヴァンツからは然して気に留めた様子は見られない。
 彼は言った。
「ここは『先人に習え』の精神で事に当たるとしよう。両氏の機体開発成功の鍵は、現場からの意見を積極的に取り入れた所に有ったという。無論度が過ぎれば設計を破綻させる恐れも在るが、どうせ現場サイドとの意見交換は必須なのだ」
 研究室長が発したこの提言によって、HKW第4研究室へ傭兵を召集する事が決定された。

●参加者一覧

エリク=ユスト=エンク(ga1072
22歳・♂・SN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
憐(gb0172
12歳・♀・DF
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
ルーイ(gb4716
26歳・♂・ST

●リプレイ本文

 造船所のエントランスで傭兵達を出迎えたヘルべルト・ドレヴァンツ技術長の眉間には深い皺が刻まれていた。
 それもそのはず、諸般の事情によりUB−XX「ゼーフント」級特殊潜航艇の開発が滞っている間に、競合機体と目されていたメルス・メス社のGF−M「アルバトロス」が先に発売されてしまったからである。
「テンタクルズより高性能、ビーストソウルより低価格」をウリに中堅水中用KVの市場を狙っていたドレヴァンツにしてみれば先手を取られてしまったわけだ。だからといって彼はクルメタル初の水中用KVの開発を諦めるつもりはなさそうだが。

 所内の開発室に案内された傭兵達は、まずUB−XXの性能や特徴について配布された完成予想図を見ながら一通りの説明を受けた。
「‥‥デルフィン、でどうでしょう‥‥」
 予想図をひと目みて早速愛称を付けているのは憐(gb0172)。
「この子の大軍団が大海原の勢力図を塗り替えるのなら、憐も一匹欲しいかも‥‥」
 早くも量産されたUB−XXが大規模作戦で活躍する光景を思い描いているらしい。
 対照的に、エリク=ユスト=エンク(ga1072)は少し難しい顔で、渡された機体性能の資料に無言で目を通していた。
 開発コンセプトや機体性能の概要を聞き終えた傭兵達は、意見交換会に先立ちヴァーチャル・シミュレーターで同機の操縦と戦闘を疑似体験することになった。
「【アクアリウム】所属、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)。海が賑やかになるのは歓迎。よろしく頼むぜ」
 大規模作戦では水中戦を得意とする小隊に所属する陽気な青年が、所員達にサムズアップしながらシミュレーター・ブースへと乗り込んでいく。
「憐ちゃーん、一緒にシミュレーター乗ろ? ヴァレスさんもどうです?」
 ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)は友人の憐やヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)に声をかけた。
 中にはルーイ(gb4716)のように水中戦の経験はないものの、水中用KVへの興味から参加したものもいる。
「防御性能と生存性、可能ならば単機で統合火器管制システムを何回程度使えるものなのか確認したいものですね」
 こうして7名の傭兵がポッドの中へ入ったが、エリクのみは
「いや、俺は遠慮しておこう。水中戦未経験だしな」
 と、外部モニターからの見学を希望した。

 仮想敵は7体の量産型メガロ・ワーム。これには過去の戦闘報告を元に割り出した、最も標準的と推測される性能データが設定されている。
 対する傭兵側のUB−XXはガウスガン×1、重魚雷×2を装備。
 新居・やすかず(ga1891)の希望により、単機戦闘、及び集団戦をそれぞれ10分ずつシミュレートすることになった。
「うーん、空とはやはり違うのね。動きが重い‥‥」
 ヴェロニクは水中で人型変形し様々な動きを試して見たが、やはり陸上で動く様には行かない。
「それにしても、折角人型に変形出来るのに、格闘武器装備して無いんですか?」
 モデル兵装に疑問を呈するヴェロニクだが、これがクルメタル側のテスト条件なのだから仕方がない。
 そうこうするうちにアラート音が鳴り、まず1対1の単機戦闘が開始された。
 各々のシミュレーター・ブースの中でメガロと相対した傭兵達は、まずその機動力に手を焼いた。通常時のスピードではまず勝負にならない。遠距離から放った重魚雷は2発ともかわされ、FFを展開し突進してきたメガロの体当たりを許してしまう。
「にゃーーーっ! 食らうにゃ鉄拳っ!!」
 近接兵器のないもどかしさに業を煮やした憐は、思わず人型変形してアームで殴りつける。残念ながらFFに防御され、さしたる効果はなかったが。
「図体の割にチョコマカすばしこい奴だな!」
 ジュエルはブーストでいったん距離を取り、機体特殊性能の統合火器管制システムを起動させガウスガンによる中距離攻撃を図った。
 アーク・ウイング(gb4432)もまた特殊性能のテストも兼ね、突撃を繰り返すメガロから間合いをとりつつガウスガンを撃ち込む。その際もう1つの特殊性能、状況適合型航行システムを起動、航行形態でブーストをかけることによりメガロの移動力に対抗できることが判った。
 徐々にコツを掴んできた傭兵側は勢いを盛り返し、時間内にメガロ全機を撃破。UB−XXの損傷率は、個人差はあるがだいたい50%前後という結果に終わった。
 ルーイが数えたところ、統合火器管制システムの使用は3回だった。ブーストに消費しなければあと1回くらいは使えたかもしれない。

 引き続いて行われた7対7の集団戦では、同機最大の特徴ともいうべき統合火器管制システムが効果を発揮した。単機の場合は1回の使用に練力60を消費するのに比べ、半径1Km以内に他のUB−XX2機以上存在する場合、消費練力を半分の30に抑えられる。つまりずっと効率的な水中戦闘が可能となるわけだ。
 その恩恵で、単機戦闘時に比べ遙かに早い時間、少ない被害で7機のUB−XXは同数のメガロを駆逐することができた。
 近接武器がないため人型形態時の性能が充分確かめられなかった嫌いはあるが、とりあえずデータ上はメガロ・ワームに充分対抗できる性能を証明し、シミュレーター・テストは無事終わった。

 30分の休憩時間を挟み、傭兵達は所内の会議室へと移動した。バーチャル戦闘の結果も踏まえ、ドレヴァンツを始めとするクルメタル側技術陣とUB−XXについての意見交換を行うためである。
 会議の冒頭、ヴァレスは傭兵同士で話し合った内容を技術者達に発表した。
「まずは、みんなで出し合って纏まった意見を伝えるよ? 各自、個人的に他にも言いたい事があると思うけど基本的な纏めと思ってほしい」

 ○価格(120万〜150万C)については異論なし。
 ○統合火器管制システムは「数が増えると消費が減る」ではなく「数が増えると効果が上がる」の方が良い。
 ○統合火器管制システムを確実に使えるかどうかシミュレートした方が良い。
 ○人型形態での運用が不安。
 ○集団戦前提だからといっても、このままじゃ売れにくい。
 ○抵抗を上げてほしい。
 ○電子戦機にできないか?
 ○状況適応型航行システム案
  その1:単独の練力使用(30くらい)スキルにして、ブーストとも併用可能。
  その2:加えて超電導で人型形態でのブーストで1行動後移動力1での追加行動を得る。
  その3:水中戦闘時、10分間の消費錬力を増やすことで、戦闘機形態での移動力にプラス修正。オンオフ可能。

 ヴァレス自身は水中戦未経験者だが、空と比べてどの程度動けるのか、どの程度無理が効くのか、そして統合火器管制システムがどの程度役に立つのか、もう少しシミュレーションに時間をかけてみたかった。
(「シュテ乗りとしてクルメタルには期待してるけど、同時にビーストソウルと並ぶ程度の価格と性能のものを作ったほうがいいのが出来るんじゃないかな?」)
 ふとそんな考えが頭を過ぎったりもする。
 何しろ同価格帯の新型水中用KVとして「アルバトロス」が発売されたばかりだ。
 スペック上の性能は全般的にUB−XXの方が優れているようだが、その分価格の高騰を抑えられるか、また150万Cを超えた場合、やはりBSに見劣りしてしまうのではないかと不安は拭えない。

「‥‥このままでは売れん‥‥」
 あえて仮想戦闘に参加せず、外部からモニターしていたエリクが呟いた。
「UB−XXは使い続けられる移動特化KVに仕上げる必要があるのではないか?」
 そのため、エリクは回避は下げてもいいから生命と移動を上げるべきと主張した。
「生命は低いと敬遠されるし、防御重視ならば回避は不要。移動はこのままだとブースト時の移動力が小さいからな」
 機体特殊性能について、彼自身は統合火器管制システムをオミットしてその分を能力値の増加に回すこと、逆に状況適応型航行システムは同機体の「目玉」として強化するべきという考えを述べた。
「具体的には‥‥燃料電池機構の数を倍にし、ブースト時の強化と非ブースト時の単体で移動力強化、両方出来るようにすること。そして、ブースト使用時は合計移動力を10以上にしたい」
 超伝導技術の導入により航行システムの強化を提案したのもエリクだった。
「名前は‥‥『シール』がいいな」
「ギミックは面白いけど、効果が一瞬だと使いどころが難しいねえ」
 仮想戦闘を体験したジュエルが、統合火器管制システムについて所感を述べた。
「攻撃を下げてもいいから、命中はそのまま1ターン持続できるよう改良に期待、だな」
 状況適応型航行システムについては、
「ブーストがキーだと使用時間が極端に短く、移動か命中の上昇が無駄になりやすいな。個別の移動スキルの方が望ましいんじゃないか?」
 価格については、ヴァレスとは逆に130万C以下に抑えるべきとジュエルは考えていた。
「それ以上だとどうせならBSを買うまで我慢‥‥ってなりそうだぜ。あと装備は初期値300もあれば充分。知覚も削れるだけ削り、その分スキルや他能力に回していいな」
「‥‥回避と抵抗は逆にして欲しいかな」
 控えめな口調で、やすかずが言った。
「防御重視の機体なら、回避より抵抗の方が優先順位高いんじゃないかと思いますので。あと、水中用武器は攻撃>命中という傾向があるので、命中を若干優先しても良いかもしれません」
 やすかずは僅かに思案し、
「火器管制システムは、大規模作戦や正規軍向けですね。『火器』管制ということは、射撃武器でしか使えないのか? それとも、格闘武器にも適用されるのか? その辺りは、気になるところです」
 ドレヴァンツからの返答はない。ただ腕組みして黙り込んでいるだけだ。
「数を揃えることが前提の機体みたいだから、通常依頼だと使い勝手が悪いかな? このままの性能だと、アーちゃんはあまり売れないと思うな」
 呟くようにアークがいった。
「シュテルンの貸出権はかなり高額だけど、それでも大きなシェアを持っているのは、性能の高さによるところが大きいと思うから、いくら価格が抑えられていても性能が低ければ、傭兵にはあまり売れないと思うんだよね。だから、現状のコンセプトはコンセプトとして、バージョンアップ対応も整備しておいた方がいいと思うけど」
 次にアークはクルメタルの技術陣に尋ねた。
「火器管制のために得た各種情報を他の機体に送ることで、他の機体の命中精度を高めることはできますか?」
「それについては‥‥社内で検討してみますので、暫くお時間を下さい」
 むっつり沈黙したままの技師長に代わり、同席の技術者がおずおず返答する。
「通常依頼でUB−XXが3機揃うというのは少し考えにくい。機体の錬力にもよるが単機での使用を考えれば、今の消費錬力と修正値を減らして数が増えると効果が上がるとした方が実用的ではないかな?」
 ルーイも傭兵使用KVという観点から指摘した。大規模作戦ならいざ知らず、通常依頼でUB−XXの乗り手ばかり集まるという保障はないのだ。
 同特殊性能について「数が増えれば練力消費が減る」ではなく「効果が上がる」に変更した方がいい――という傭兵達の総論はこのあたりに由来する。
「例えば、消費錬力30で攻撃+50、命中+30の修正。一機増える毎に攻撃+25、命中+10づつ上昇という感じで‥‥上限は大量配備を目的とするなら、あえて設定しないのもありだと思う。現状では3機以上揃えるうまみがないが、これならば大規模作戦に大量配備する事で戦果を得られるのではないか?」
 かくのごとく現状では改善論の強い統合火器管制システムだが、
「‥‥売れれば売れるほど‥‥この子は強くなるのです‥‥クルメタルさんも商売が上手です‥‥おぬしもわるよのう‥‥」
 淡々とした口調で述べながら、うんうん頷く憐のような者もいる。
「ただ単機運用では効率が悪いので‥‥錬力消費を30位で固定し、範囲内の同型機の数によって威力と命中が上昇、の方が良いですね」
 一例として初期値攻撃+50命中+20で、一隻につき攻撃+25命中+10、最大リンク自機+10機(攻撃+300命中+120)と言う案を憐は提唱した。
「バグアの水中要塞に放たれる、数十機のこの子の一斉雷撃‥‥憐も見たいです‥‥」
 よほど同機を気に入ったのか、無表情ながらどこか夢見るような目つきで語る憐。
 スペックや細かい特殊性能についての意見は仲間達に任せていたヴェロニクが、視点を変えてパイロットの生存性確保について注文をつけた。
「回避が低下している分の防御力増強‥‥対水中専用の防御兵装の開発とか。魚雷やミサイル防ぐ為の柔らかい盾みたいなの出来ませんかね?」
「空と違って海では軟着陸も落下傘も無理なのですよね‥‥脱出装置の方は大丈夫なのですか?」
 憐もまた、ふと思い出したように尋ねた。
「ああ、それならご安心ください。現行の機体も含めて、水中用KVは非常時にはコクピットごと機体から離れて、海面へ浮上する仕組みになってますから」
 クルメタル技術者が答える。
「航行システムは、高機動を売りの1つにするなら、もっと使いやすくして欲しいというのが正直な気持ちです」
 やすかずが話題を航行システムの方に戻した。
「今のままでは、使用条件が限定的な上に回数使えませんから、柔軟性を増すとか汎用性を増すとかしたいものです。動力や推進装置を、通常航行時と戦闘機動時で切り替えることはできないでしょうか?」

 会合も終りの刻限が近づいてきた。
「戦闘時の練力使用を重点におくってのは良いけど、現状だと敵を倒す前にガス欠になりそうだ。スキル自体は悪くないと思うんで、もうちょい柔軟にできれば。あと知覚を削ってる分、水中では変形の出番はなくていいと考えてる。人型時は気にしなくて良いから、潜水深度はもうちょい深くならないもんかね? MSIのダイバーフレーム必須、なんてのは勘弁だろ?」
 と、ジュエル。
「戦闘機形態での高機動集団戦法を想定した機体という印象ですね。問題は能力の練力消費量が多いこと、状況適応型というには柔軟性に欠けるきらいがあることだと思います」
やすかずの私案はヴァレスがまとめた総論の方に盛り込まれている。
「推奨兵装についてだけど、非売品もしくは店売りでも、個数限定になるのは勘弁して欲しいなあ」
 店売りでも限定商品はあっという間に売り切れてしまう最近の風潮を憂いつつ、アークが注文する。
「‥‥ぜひとも、頑張ってほしい」
 最後に一言エールを送るエリク。
 終始無言だったドレヴァンツはおもむろに席を立ち、
「本日は諸君の意見を聞けて実に有意義だった。また次の機会があれば、よろしく頼む」
 それだけ言い残すと、部下の社員に傭兵達の見送りを命じ、自らはどこか重い足取りで薄暗い造船所の奥へと歩み去った。

<了>
(代筆:対馬正治)