タイトル:【Pr】コードミグラントマスター:一本坂絆

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/02 22:21

●オープニング本文


 作戦司令室へと召集された能力者達を前に、眼鏡をかけた司令官はゆっくりと口を開く。
「まずはこれを見て欲しい」
 司令官がプロジェクターを操作。後方のスクリーンに、髭面のおっさんが映し出される。
「ロシア極東部のUCP所属、ミハイル・ツォイコフ中佐だ」
 ただのおっさんではなかったようだ。
「中佐は近日、二十一名の部下と共に、補給物資を積んだG-207C大型長距離輸送機で日本を訪れる」
 司令官がプロジェクターを操作。後方のスクリーンに、ずんぐりとしたデザインの航空機が映し出される。
 ガリーニン207C大型長距離輸送機(G-207C)。ロシアプリロフ製武装巨大輸送機だ。
 機体の二十一箇所に取り付けた連装レーザー砲塔を始め、各種対空装備をハリネズミのように備えている。嘘か真か、その姿を見た将校が『まるで百貨店のような航空機だ』と漏らしたという逸話を持つ、実にロシアらしい多砲塔型の機体である。
「重武装とはいえ、G-207Cは鈍足だ。キメラならまだしも、ヘルメットワームに捕捉された場合、撃墜は免れ得ない。当初、ツォイコフ中佐自身も来日を渋っていたが、有能な護衛をつけると言うことで、なんとか納得していただいた」
 司令官は『有能な護衛』の部分で能力者達に視線を送り、
「ロシア極東部から名古屋にかけてのG-207C 移送の間、諸君には護衛として、BAR CAP―――即ち、護衛機から先行しての戦闘空中哨戒を行ってもらいたい」
 現状、地球軍はバグア軍の妨害電波の影響で、視認可能距離での戦闘を余儀なくされている。その為、敵機が護衛機を射程に納める前に、こちらから敵機に接近して排除する任務が重要となる。
「先行哨戒には高い索敵能力を有するH-114電子偵察機を出す予定だが、この機体の戦闘能力では、例えワームを早期発見できたとしても対抗することはできん。そこで諸君等にはKVに搭乗し、H-114と共に先行偵察隊として航行。敵機発見の際はH-114に代わり、敵機と交戦、撃破してもらいたい」
 依頼の名目はガリーニンの護衛だが、実質『護衛の偵察哨戒機の護衛』といえる内容だ。
 無論―――指令もその矛盾は十分に承知しているようで、
「手間ではあるが、貴重な戦力である能力者諸君を、あんな―――紙と針できたような機体に乗せるわけにもいかんしな」眼を伏せながら、眼鏡の位置を直す。
「万一G-207Cが撃墜されるような事があれば、日本UPC軍の沽券に関わる。諸君は最大の警戒と、最高の連携を持って任務に当ってくれ」




『現状のKV搭載可能兵器』
下記の兵器からKVに積み込むものを選択してください。
武装が多くなればその分機体重量が増えます。

・20mmバルカン(装備可能数2)
コクピット傍から撃ちだされる機銃。攻撃力は高くないが、命中率は高い。変形後も使用可。

・ガトリング砲(装備可能数1)
近距離戦用の銃。高速で弾丸を撃ち出す事により、敵に反撃の隙を与えないが、変形後は使用不可。

・収束レーザー砲(装備可能数1)
ナイトフォーゲルR-01のメイン武装。強力な攻撃力に、そこそこ長い射程を誇るが、チャージに時間がかかる。

・ディフェンダー(装備可能数1)
実体剣。至近距離での格闘の他、中距離戦での防御にも効果有だが、変形後にのみ使用可。

・ホーミングミサイル(装備可能数4)
中距離でも有効な誘導式のミサイル。非常に高い命中率を誇るが、装弾数は少ない。変形後使用不可。


『電子偵察機H-114(通称岩龍)』
バグアの持つ様々な電子妨害装置の効果で、味方編隊は目や耳をふさがれた状態で戦わざるを得ない状態にある。これを解決する為、奉天北方工業公司が開発した電子戦闘試作機。ジャミング装置を搭載しており、味方の命中と回避値を上げる事が出来る。ただし、この機体は、変形機構に難がある上、基本兵装しか持ち合わせていない。回避能力、飛行速度共に、KVを大幅に下回る。


●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
ツィレル・トネリカリフ(ga0217
28歳・♂・ST
レティ・ヴェルフィリオ(ga0566
17歳・♀・SN
アイロン・ブラッドリィ(ga1067
30歳・♀・ER
獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166
15歳・♀・ST
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
五代 雄介(ga2514
25歳・♂・GP
大賀 龍一(ga3786
34歳・♂・SN

●リプレイ本文

●ウラジオストック基地
 KVでウラジオストック入りした先行偵察護衛部隊の面々は、食堂に集合し、集合がかかるのを待っていた。
 気を利かせたつもりか、能力者達にはチューブパックに入ったレーションと飲み物が配られている。
「俺達が優秀な護衛、だとよ」
 ツィレル・トネリカリフ(ga0217)は苦笑を浮かべ、
「まあ、それが世辞でなくなるように頑張りますか」口元を皮肉っぽく歪める。
 エミール・ゲイジ(ga0181)がそれをとりなす様に、
「えらく重要な仕事だそうだけど‥‥早い話が、邪魔なワームどもを片っ端から片付ければいいんだろ?」
「端的にいえばそのとおりですが、ワームにばかり気を取られすぎて、キメラに足元を掬われないようお気を付けて。‥‥おや? KVは変形しないと足は有りませんでしたね」
 アイロン・ブラッドリィ(ga1067)はおっとりと軽口を叩いた。重要任務を前にしての、彼女なりの気遣いである。
「前回の撮影以上に危険だなぁ。気合入れていかないとっ!」
「私も初の空戦ですが、頑張りたいと思います」
 拳を握り締めるレティ・ヴェルフィリオ(ga0566)に、如月・由梨(ga1805)は微笑を浮かべてこたえた。
「それにしたってAWACSの一機くらい飛ばしてくれりゃいいのにねぇ」
「AWACSは飛行性能が低い上に、今回は途中に緊急着陸できる飛行場は無いのだよー。既存のレーダーではバグア相手には役に立たないと聞くしねェー」
 大賀 龍一(ga3786)の発言に、冷静にツッコむ獄門・Y・グナイゼナウ(ga1166)。
 そして五代 雄介(ga2514)は、
「皆で無事に帰ってこれるなら、それでいいよ」とサムズアップ。


「それにしても、ガリーニンの大きさには驚きました」
 由梨は格納庫に収められた大型輸送機を思い出すように、虚空に視線を彷徨わせた。
「アレだけデッカイと、『狙らわないと外せない』な」
 カラカラと笑うエミールに、アイロンは長い髪を揺らして、
「だからこそ我々が雇われたのですよ」
「しっかし、あんだけの重武装であっさり落とされたらどうするよ? 笑い話にもならんぜ」
 ツィレルの言葉に獄門が頷く。
「元々、陸地の上を飛ぶ航空機なのかも知れないねェー。今の御時勢、あんな巨体で海を越えるのはかなり勇気がいると思うねェー」
「つーか、多砲塔はロシアの伝統みたいなもんだろ?」
 大賀が肩をすくめる。五代が目をぱちくりさせた。
「そうなのか? だったら意外に設計者の趣味だったりしてな」
「ボクは日本のアニメ映画を思い出したよ」
 レティはたくさんのプロペラをつけて飛ぶ飛行艇を思い浮かべながら言った。
 能力者達が好き勝手な事を言って盛り上がる。そこに集合がかかり、能力者達はゾロゾロと食堂を後にした。


●日本海上空
 空気を切り裂く鋼の轟音。
 日本海上空には雲も少なく、上も下も青一色の世界が続く。
「このまま何事も無く、お空のお散歩と行きたいね」
 五代が陽気に言った。
 偵察隊からの報告によれば、日本海上をかなりの数のワームやキメラが飛び回っているらしい。そう簡単に事が運ばないのはわかっていたが、三時間、ずっと周囲を警戒しながら飛行を続けるのは、それだけで精神的にも肉体的にも堪える。滅入る気を紛らわすためのお喋りだった。
「サンセーイ! お弁当持って、ピクニックしようよピクニック♪」
 レティがはしゃいだ声で言う。
「そう言えば、Herald9。あんたのTACネーム聞いてなかったな」
 大賀が岩龍のパイロットに問いかけた。
「俺のTACネームはヴェールヌイだ」
「それはどういう意味なんだ?」
「ロシア語で、『信頼できる』という意味さ」
「成る程」
 しばらく、無線越しの会話が続いたが、突如、岩龍のレーダーが敵の到来を告げた。
「レーダーに敵影を確認! 10時の方向。距離19000」
 無線越しの緊迫した声―――能力者達は直ちに臨戦態勢をとる。
 その間にも岩龍からの報告は続く。
「敵小型ワーム6、中型ワーム1。クソ、速度を上げた! 接触まで―――5、4、3‥‥エンゲージ!」
 由梨は見た。
 カウントを聞くまでも無い。
 遥か彼方―――ゴマ粒程だった敵機影が、相対速度により瞬く間に眼前に姿を現す。
 計七機のワームは、まるでミキサーで撹拌されているかのような、出鱈目な軌道で飛行―――高速で接近。
 入り混じり、乱れ飛び―――その状態から射撃を敢行。
「全機散開!」
 とっさに叫んだのは誰だったか。慌てて回避行動に移ったKV達が空けた空間を、奇怪な色の光線が焦がす。
 通常、一点に収束された光線は、側面から見る事ができないはずだ。敵の兵器はレーザー(熱線)というよりビーム(怪光線)といった類のものなのだろうか。
「舐めるな!」
 五代が全ての火器管制システムをONに―――搭載兵器の一斉射撃。
 ワームはこれを散開して回避。
「動きが速すぎて当たらない!」
 目まぐるしく位置を変える敵を前に、五代が思わず叫んだ。
 これでは攻撃を当てるどころか、狙いをつける事さえ侭ならない。
 高い機動力を誇るヘルメットワームとの空中格闘戦は、人類側が圧倒的に不利である。だからこそ、敵は慣性制御装置を最大限に利用した動きでこちらの狙いを散らし、超高速で格闘距離へと喰らい付いてきたのだ。
「落ち着きたまえー。予定通り、Herald3・4・5、Herald6・7・8で小隊を組んで、敵の迎撃を―――」
 岩龍から送られてくるデータを元に、指示を下す獄門。それをあざ笑うかのように、中型ワームがビームを一斉射撃―――ビームの後を追うようにブーストを発動。空域突破を図る。
「させるかよ!」
 ツィレルが吼え、アグレッシブファングを発動―――機体のエネルギーが収束レーザー砲へと流れ込む。機体を旋回させ、中型ワームを標準に納める。
「覚悟しやがれ、この蟲野郎!」
 ツィレルがトリガーを押した、その時、
「小型ワーム1。8時の方向よりHerald5に急速接近! 避けて下さい!」
 アイロンの切迫した声が無線越しに響く。
「チィィィイッ?!」
 ツィレルは咄嗟に操縦桿を倒す。急激な旋回運動―――回避行動。機体にかかる急激なG。強化された能力者の身体をして、全身が軋みを上げる。ツィレルの顔が苦痛に歪んだ。
 その横を、一機の小型ワームが、一直線に駆け抜ける。敵はフォースフィールドと強固な装甲に物を言わせて、音速で飛ぶ機体そのものをぶつけに来たのだ。
 辛くも敵の突撃を回避したツィレルであったが、おかげで、中型ワームを狙ったレーザーの一撃は、装甲を掠めるだけに止まった。しかし、それを悔やんでもいられない。
 突進を回避された小型ワームが、冗談じみた軌道で向きを変え、ビームを撃ちながら襲い掛かってきた。


 戦闘空域を突破した中型ワームの後を二機の小型ワームが追う。
 それを見たレティは、すぐさま機体を旋回上昇させた。
「待てー!」
「やめておくんだねェー」
 三機のワームを追おうとするレティに、岩龍を護衛しながら、戦闘空域からやや離れた位置で指示を出している獄門からの通信が割って入った。
「小型ワーム四機だけでも、当初想定していた戦力を越えているんだねェー。ここは素直に、後衛に譲ろうではないかー」
 レティにはそう言ったものの、獄門自身、現状には苛立ちを禁じえない。『後方への敵機突破を許さず』を目標としていただけに、その思いは獄門の心を強く押しつぶした。
 基本戦術として、ワーム一機に対しKV三機であたる算段だったが、ワームがそれを素直に許すわけも無い。イニチアティブを奪われ、敵の速力に振り回されている。
「こちらEisen。ガリーニンへの現状報告を終えました。さて、ここからが正念場ですね」
 アイロンは、宙に漂いキャノピを叩く髪の内、計器のスイッチに触れそうになった一房を指で絡めとり、
「全体の損傷率が44%を超えました。そろそろ撤退を視野に入れる頃合ですが‥‥」
「そうだねェー。しかし、ここまで速力に差があると、背を向けたとたん蜂の巣にされてしまいそうだねェー」
「では、流れを作りましょう。私は、Herald 7、Herald8、Herald 9の援護に回ります。SilberはHerald3・Herald4・Herald5の援護に回ってください」
「Silber了解。任せたまえ、よもや初の実戦がこんな激戦とは思わなかったが‥‥必ず、生きて帰らねば。こんな所で死んでいられないのだよー!」
 獄門はふてぶてしい笑みを浮かべた。まだ意志は死んでいない。
「ヴェールヌイ。君は現状で待機を。君にもしもの事があったら‥‥その、なんだ。報酬がもらえなくなるのでねェー」
 獄門の軽口に、岩龍のパイロットは、
「了解。そう思うなら報酬分しっかり働いてこい」と軽口で返した。
 アイロンと獄門。二機のKVが旋回しながら風を切り裂き、流れるように降下を開始する。


 激しいGに耐えながら、エミールは口元に無理やり笑みの形を作る。
「飯食わなくてよかったよ」
 呻く代わりに軽口を叩いた。
 一機の小型ワームが、エミールの機体を中心に螺旋を描く軌道で飛行し、追いたて、射撃を加えてくる。
 エミールは囮役として敵にミサイルを撃ち込み、注意を引き付けてから、ずっと逃げ回っていた。
 機体に衝撃。
 またも敵の攻撃を食う。
(「逃げられないし、かわせない‥‥!」)
 KVを圧倒する速力に、ビームという光速の兵器。如何に音速で飛ぼうとも、一度ロックされてしまえば光速の攻撃をかわす事はできない。人類を散々に苦しめてきた超兵器が、エミールに牙を向く。
「此方Wizardy。Skull、Ku−ga! 援護射撃はまだか?!」
 機体のダメージを知らせる警告音が、引っ切り無しに鳴り響いている。このままでは落ちるのも時間の問題である。
「此方Ku−ga。そう纏わり付かれてたんじゃ、KVごと撃ち抜いてしまう! 何とか引き離せないか?」
「無茶言ってくれるなぁ‥‥とぅわ!?」
 またも衝撃。
 今度は片翼の端を焦がすに止まった。
 エミールは下っ腹に力を込める―――覚悟を決めた。
「チャンスは多分一回だけだ。まかせたぜ!」
 エミールが操縦桿を倒す―――機体が急速上昇を開始。
 レーダーには相変わらずぴったりと追いかけてくる敵機の姿。
 エミールは敵が十分に食いついてきたのを確認すると、機体を空中で人型に変形させた。
 急激な減速―――肉体へのダメージ甚大。ブラックアウトしそうになる意識を、奥歯を食いしばって繋ぎ止める
 霞む視界に、エミール機を追い越してしまった敵の姿を捉え―――呟く。
「知ってるか? 地球じゃ、しつこい男は嫌われるんだぜ?」
 急角度でこちらを振り向いたワームの横っ腹に、下方から伸びたレーザーが突き刺さる。
 爆発。
 破片を撒き散らして錐揉みするワームに、別方向から伸びたレーザーが止めを刺した。
 一撃目のレーザーは五代だ。では二撃目は誰だ? 一瞬、ツィレルかと思ったが、違う。
「こちらHerald2・ Silber。Herald5・Skullが現在、敵と一対一で交戦中なんだねェー。至急応援に向かってくれたまえ」
 獄門からの指示に、エミールは機体を飛行形態に戻しながら、身体の痛みをこらえて苦笑を浮かべた。
「これって昼休みとかあるかな?」


(「これが―――空の戦いッ!」)
 今回が初の空戦となる由梨は、目の前で展開される戦闘に息を呑んだ。由梨は武芸を修める身であったが、気を抜けば、遠いのに狭い―――航空戦独特の間合いに酔いそうになる。
(「いけない、しっかりしなければ!」)
 由梨は自分に気合を入れる―――精神統一。
 眼下では、今正に、僚機が怨敵に撃墜されんとしていた。
 当初、大賀はワームを後方に引き連れたまま、速力と運動性を最大限に発揮しつつ、その隙に僚機に攻撃させる。という作戦を考えていたが、速力で勝るヘルメットワームを相手に『引き連れる』という発想自体が大きな間違いだった。
 ワームは二機で連携し、一機が大賀の進路を封じるように回り込み、もう一機は火線が交差する位置に回り込んで、十字砲火を形成。
 敵との遭遇から瞬く間に二度の直撃を食らい、大賀機は早くも悲鳴を上げていた。後一撃でも食らえば、航行すら侭ならなくなる。
「クソ!」
 大賀は何とか振り切ろうと足掻くが、あっさりと回り込まれてしまう。
「此方、Dragon! Valkyrie、Lily、攻撃を―――頼む!」
「Valkyrie了解!」
 大賀の声に応えて、レティがトリガーを引いた。バルカン砲とガトリング砲の射撃が、一機のワームの装甲を削り取る。
 敵へのダメージは微々たるものだが、それでいい。本命は他にいる。
「今だよ、Lily!」
「はい!」
 由梨は操縦桿を倒し右旋回降下。レティの攻撃を受けたワームを、照準環に捕らえる―――ロックオン。レーザーの発射ボタンに指をかけ、
「あ!?」
 照準環に収めた敵機が弾かれたかのような速度で、レティの背後へと回り込んだのだ。これではレーザーを撃つ事ができない。
 後ろへ回りこまれたレティは、これを引き剥がそうと機体を下に落とすと同時に人型に変形―――急激な減速を行い敵機をやり過ごそうとするが、ワームは急角度で旋回し追撃してきた。
 これに重装備のレティ機は、咄嗟の対応ができない。不気味な色の光線が、レティの機体を貫いた。
 直撃。
 錐揉みしながら落下するレティ機を、ヘルメットワームが追う。グルグルと回る世界で、レティには何故か、迫り来る敵の姿がはっきりと見えた。
(「これはかなりマズイかも‥‥」)
 レティの心が絶望に飲まれかけたその時―――上空から放たれたミサイルが、ワームを直撃した。火を噴くワームに由梨の機体がレーザーを撃ち込み、これを大破させる。
「大丈夫ですか、レティさん!」
 TACネームの事も忘れて叫ぶ由梨の声に、レティは我に返った。
「此方Valkyrie。何とか大丈夫だよ‥‥ちょっとキツイけど」
 レティは機体を飛行形態に戻し、アフターバーナーを噴かして、機体を持ち上げる。
「Herald1よりHerald 7へ。ご無事でなりよりです」
 おっとりした声が無線越しに響く。さっきミサイルを撃ったのは、アイロンだったのか。これは当分、頭が上がりそうにない。
「Dragonだ。Herald2から向こうの小隊で二機片付けたと報告が入った。残る一機は、勝ちは薄いと見て撤退したようだな」
 その報告を聞いて、レティは無意識に安堵の息を漏らした。
 何とか敵を退けた能力者達だったが、その被害は甚大だった。
 半数の機体が中破。部隊全体の残弾数も30%を切っている。
「これでは任務続行も危ういですね」
 データに目を走らせたアイロンが呟き、
「そうだねェー。一旦、後方の部隊と合流した方がよさそうだよ」
 戦闘指揮担当である獄門もこれに同意した。
「ヴェールヌイより各機へ。名古屋まで持ちそうに無いやつは早目に言えよ。航路上の空母や飛行場に連絡とってやる」
 岩龍からの通信を受けつつ、後方部隊と合流を果たすため、能力者達は操縦桿を傾けた。