タイトル:巫女ト大蛇ト少年マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/06 13:52

●オープニング本文



 とある物置小屋。
「明日、例の場所で落ち合おう‥‥」
「で‥‥でも」
「いいんだ‥‥一緒に逃げよう」
 コソコソ話す少年と少女の姿があった。
「いいね? 必ずだよ?」
 少年は少女に再度念を押すと、二人は其々の家へと帰っていった。

 明くる日の夕刻、閑静な田舎町の祭壇。
「‥‥どうか‥‥あの人を‥‥」
 巫女装束を身に纏い、祈るように月を望む一人の少女が立っていた。
 少女の瞳には月光で照らされた滴が光っていた。
「ど‥‥どうしてっ!?」
 少女に向って大声で叫ぶ一人の少年。
 少女は黙ったまま俯き何も返さない。
「約束したじゃないかっ! なのに何でっ!?」
 少年は尚も叫び続ける。
「おい! お前何してる!!」
 数人の町人が駆けつけ少年を押さえ込む。
「離せっ! 俺はアイツと一緒に‥‥」
「お願いです。その人を早くどこかへ」
 少年の言葉を遮り、少女が口を開く。
「わ‥‥わかった。悪く思うなよ」
 町人は嫌がる少年を無理やり連れ去っていく。
「はっ! 離せ! コンチクショー!!」
 シンシンと降る雪の中、少年の怒声が辺りに響く。
(‥‥ごめんなさい。そしてありがとう‥‥)
 少女は心の中で何度も呟き少年の姿を思い浮かべていた。


「畜生っ! 畜生っ何で‥‥」
 壁を只管殴り続け拳が血だらけになった少年の姿が一角にあった。
「何でアイツなんだ」
 理不尽な現実を受け入れる事ができず、少年はただただ叫ぶ。

 事の発端は数ヶ月前――
 突然、町外れの洞穴に七つの頭と七つの尾を持つ大蛇とも龍とも言えそうな魔物が出現した。
 キメラという名前はもちろん知って居るが、町の住人にとっては魔物としか言えぬ怪物。
 その魔物は夜な夜な町に出現しては人々を襲っていった。
 恐怖の余り、町を出て行く者も居たが次の日大抵の人が死体となって見つかっていた。
「八岐大蛇の再来じゃ、早う怒りを静めねば!」
 町の長老が突然その様な事を言い出した。
「しかし‥‥傭兵はのぅ」
 町人達は昔の事を思い出す。
「傭兵なんか当てに出来るものかっ! 他に方法は無いのか!?」
 昔、傭兵に魔物退治を依頼し討伐されたのだが、その際町の半分が壊滅状態となった事があった。
 勿論犠牲者も大勢出た為、町人は傭兵に対してあまり良い感情を持っていなかった。
「他に方法‥‥伝承では、娘を差し出せば怒りは治まるとある」
 長老が一冊の巻物を広げ生贄の提案を行う。
 町人達は、怪訝な顔をしたが傭兵に頼むよりは良いと考え其の案に乗る事となった。
 そして選ばれたのが少年の想い人である少女だった。
 選考理由としては、少女に親族が居ないなどがあるようだが、
 少年からしてみればそんな事は知った事ではなかったし、町の事などどうでもよかった。
 だからこそ、逃げる約束をした。
 しかし彼女は逃げずに生贄の道を選択していた。
「何でだ‥‥俺はお前が居ればそれだけで‥‥」
 ふと少年はついこの間聞いた噂話を思い出す。
 どんな相手でも一発で仕留めてくれる凄腕の傭兵が近くに来ているそうだ。などという噂を。
「そうだ‥‥アイツさえ居なくなれば救えるかもしれない」
 少年は慌てて長老の元へ赴き、必死に説得をする。
「この先ずっと生贄を差し出して町に人が居なくなるまで続いたらどうするんだ?!」
 少年は思いつく限りの事を全て吐き出す。
 長老は難しい顔で少年の話を聞いていたが、重い口を開く。
「しかし、もし倒せなかった時はどうするつもりなんじゃ?」
「その時は‥‥俺が生贄になる」
 少年の瞳は真直ぐに長老だけを見詰めている。
「‥‥わかった。報酬は町から出そう」
 長老は溜息を一つ溢すと、少年に蔵の鍵を渡した。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
月見里 由香里(gc6651
22歳・♀・ER
弓削 火乃香(gc8129
12歳・♀・HG

●リプレイ本文


「何が生贄だ‥‥ナメてんじゃねェぞ‥‥命ってヤツ何だと思ってやがるッ!」
 奥歯をギリッと噛み締めなる赤槻 空也(gc2336
 幼馴染やその彼女の事を思い出しその時と重なったのか少しあせり憤りを感じていた。
「生贄ね‥‥それが続いたらどうなるか、火を見るより明らかってことになるわね」
 空也の後方で黄金色の銃を丁寧に磨き上げながら進むクレミア・ストレイカー(gb7450
「全くじゃ。ばば様がお聞きになったらさぞお嘆きになるじゃろうて」
 神代の時代ならまだしも、今の御時世に生贄を捧げて怒りを静めようなどと考える連中がいる事を残念に思う弓削 火乃香(gc8129
「騎士として見過ごせないな」
 女子が生贄として捧げられるというのを聞きつけ騎士精神に火がついたエイミー・H・メイヤー(gb5994
「‥‥少年少女の一途な想いと言うのは、眩しいものやね。
 その想いに応えるんがうちらの仕事なんやから、きっちりとキメラを退治せんとあきまへんわね」
 はんなりしながら空を仰ぐ月見里 由香里(gc6651
「僕が生贄役になるよ」
 生贄などという行為で一人の未来が失われる事に対し苛々しながら、一同に提案を投げかけるトゥリム(gc6022
 初めから其のつもりで仕度をしてきたのか巫女装束を身に纏っていた。
 この意見に対して賛否両論な答えが出たが、少女を確実に救うには代役を立てる事が一番望ましいという結論に至る一行であった。


 街に到着した一行を待っていたのは、街人からの冷ややかな目線だった。
 想像はしていたもののやはりいい気分ではない。
 広場に差し掛かり人影を見つけて駆け寄る
「すみません。この街の長老と生贄になった方の婚約者にお会い‥‥」
 老人と若い青年に対し丁寧に質問する石動 小夜子(ga0121
「待ってたんや」
 青年が小夜子の手を握り上下に振り回す。
「あなたが依頼主の方ですか。それなら話は早いです、祭壇の場所を教えてください」
 青年に話しかるトゥリム。
 彼女は逸早く祭壇へと向かい、少女を救ってやりたいと考えていた。
 青年から地図を受け取ると街人の説得を仲間に託し祭壇へと向っていった。
「うちもいきますへ」
 地形等を調べたかった由香里が同行する。
「要するに前の傭兵がヘボだったってこったろ? ‥‥まぁ、見てろって」
 戦闘出来そうな場所等を捜索したいと考えトゥリムを追うブレイズ・S・イーグル(ga7498
 行動に役割分担を付け、祭壇急行組と街人説得の二班に分かれることとなった一同。
 街に残った一同は生贄の少女と傭兵のすり替えを提案する。
「しかしじゃの、これは街人の総意じゃての」
 長老の言葉を聴くと慌てて青年が街人を広場へと引っ張り出してくる。
 再度、街人に対し提案を持ちかける火乃香。
 街人達は疑心の眼差しで一同を見る。
「どうせ、また」
「そうだそうだ。丸く収まるものを蒸し返しやがって!」
 罵声を吐く輩もいたがグッと堪える一同。
「このままでは貴方達は少女を犠牲にした後ろめたさを感じ続ける事になる。
 あたし達を信じて欲しい、村に被害を出さないように最大の努力をする事を約束する。」
 右手を胸元に当て、深々と頭を下げるメイヤー。
「この村の先の未来、想像出来るぜ‥‥俺ぁ故郷をアイツ等にブッ壊されたンスよ。
 オトナもコドモも! 皆チギれた肉になる! 俺もう見たくねェんスよ!
 それに! ちっせー女の子の命タテにして、自分らの命守ったって‥‥アンタらガキに言えんのかよ!? 頼むッ! 俺等に戦わせてくれッッ!」
 頭を地面につけ土下座する空也。
「皆お願いだ。俺はアイツを死なせたくないんだ!」
 空也の傍らに駆け寄り共に土下座し懇願する青年。
 街人はそれでも尚、疑心の目を向ける。
「本当の敵は貴方達の信仰を利用したキメラでここを襲ったバグアのはずだ」
 街人達に必死に訴えるメイヤー。
 渋々、街人達が囮作戦を受け入れたが、やはり対応は冷ややかなものだった。
 大蛇の出現経路などは知らぬ存ぜぬで有力な情報は何一つ手に入れる事は出来なかった。
「では、皆さん。出来る限り遠くへ避難してください」
 少し溜息を漏らしながら街人に出来る限り祭壇から遠くへ避難するように伝える小夜子。
 街人は小夜子の言葉を聞くや否や、慌てて家に戻ると荷物を纏め街外れの方へと避難していった。


 祭壇周辺に着いた三人は少女説得と周辺捜索に別れる。
 祭壇には一人の少女が祈るように生贄として控えていた。
「あなたが死ぬ必要は無いですよ」
 優しい声を掛けながら少女に近づくトゥリム。
「え? あなたは?」
 少女は少し驚きながらもこちらを見詰める。
「僕は傭兵です。僕以外にも七人の仲間が来ています」
 少女の戸惑いを感じさらに言葉を続ける。
「大丈夫ですよ。街には被害を出さないようにします。それに、仲間がきっと街人を説得してくれている筈です」
 優しい笑みを浮かべながら少女の手を取るトゥリム。
「あなたには待っていてくれる人がいる。皆の幸せを守ってみせるから、ここは僕達、傭兵に任せて下さい」
「ですが、ここに私がいないと‥‥」
 少女は不安そうに洞穴を見詰める。
 どうやら、後方にある街の事、そしてカレの事を心配しているようだ。
「僕があなたの代わりになります。だから安心してください」
 少女はトゥリムが身に纏っていた衣装の意味をようやく理解する。
「それじゃあ、貴女が‥‥駄目です、そんなの!」
「僕は大丈夫ですよ? 傭兵ですから。だから待っている人の所に帰ってあげて下さい」
 首をひたすら横に振っていた少女の頭を優しく撫でるトゥリム。
「トゥリム嬢の言うとおりですよ」
 街人の説得を行った後、急いで祭壇へと駆けつけてきたメイヤー。
「もう説得は終わったのですか?」
 トゥリムの問いに対し、少し苦笑いしながら頷く。
「僕と交代です。安全なところへ行って下さい」
「あ‥‥あの! どうか御武運を」
 少女は諦めたのかトゥリムにお辞儀をすると、メイヤーに手を引かれその場を後にした。
 一方捜索はというと。
「蛇の通り道とか見つかればえんやけど」
 周囲を見渡す由香里。
 だが、辺りは真新しい雪で完全に覆われており、蛇道を探すのは不可能に近かった。
 ここ連日この地方では、人の通った道なども一瞬で掻き消されてしまうほどの豪雪が降り注いでいた。
「崖とかも気をつけないきまへんなぁ」
 高台を注意深く見詰める由香里。
「チッ、どこを見ても真っ白じゃねぇか」
 由香里からやや左前方にある少し開けた場所を行くイーグル。
「ここなら、ちったぁ殺り合えるか」
 足場を注意深く確かめながら一歩ずつ進む。
 雪で全体が覆われているという事は、どこに池や川などがあるか分からない。
 それ故に慎重に調べなければならなかったのだった。
 二人がある程度の目安を付けた丁度其の時、街で説得を行っていたメンバー達が祭壇付近に到着した。
「さっき少女をエスコートしているメイヤーとすれ違ったわよ」
「其の姿は宛ら騎士の様だったんスよっ」
 由香里のいる高台へ向うストレイカー。
 そして、広場にいるイーグルの元へ駆け寄る空也。
「これが祭壇か」
 祭壇の階段をグルッと一周し辺りを確認する火乃香。
 メイヤー以外のメンバーが揃ったと言う事もあり、由香里とイーグルは現状確認できている事を皆に伝える。
 丁度其の頃。
 街へ入るメイヤーと少女の姿があった。
 そこに一人の青年が駆け寄り少女を抱きしめる。
「よかった‥‥本当によかった」
 青年の瞳からは大粒の涙が止まることなく溢れ出している。
「ご、ごめんね? 本当にごめん」
 少女は今まで堪えていたモノが全て溢れ出しやがて滴となり地を濡らしていた。
「あたし達はあの蛇を倒してくる。姫は任せたよ王子様」
 二人の様子を微笑ましい気持ちで眺め青年に少女を託し祭壇の方へと駈けて行くメイヤー。


 日暮れと共に、辺りは一層暗さを増していった。
 月が出ていれば明かりが反射し、雪原の銀楼を楽しめそうなくらい辺りには雪が降り積もっている。
 一行は、高台と祭壇の両左右にあった茂みに隠れ大蛇の出現を待つ。
 大蛇に気付かれてはならない為、周囲を照らすのは祭壇の明かりのみ。
 今か今かと待ち焦がれる一同。
 祭壇には、一人の巫女の姿があった。
 洞穴をジッと見詰め、両手を合わせ、ただ只管祈る振りをするトゥリム。
 何処からどう見ても生贄の少女がいた頃と何も変わらない。
「どうか‥‥どうか」
 少女の真似をするトゥリムの袴の下には、黒い小さな拳銃が隠されていた。
 大蛇がいつ出現するか分からない為、常に目を光らせる。
 自身の運を少し上げる事で、全てを見逃さないようにしていた。
 どれ程の時が過ぎただろうか。
 祭壇に飾られていた松明が揺らめき始めた其の時
 辺りを地響きが襲うと共に、洞穴より七つの大蛇とも龍とも思える頭が出現する。
(早く来い! 早く‥‥)
 左方の茂みに身を潜め浮き足立つのを必死に堪えている空也。
 七つの頭のうちの一つの頭で祭壇の上にいる巫女を見つめる大蛇。
 残り六つの頭は周りをキョロキョロ眺めている。
 祭壇で生贄の役をしているトゥリムは敵の攻撃に備え、全神経を研ぎ澄ませる。
 大蛇はゆっくりのっそりと祭壇へと歩みを進める。
 周囲に緊張の糸が走る。
 勿論仲間達はトゥリムの回避能力などを信じているが失敗すれば軽症ですむ筈が無い為、万が一に備える。
 手には拳銃を携え全身には雪でコーティングした布を被り大蛇を只管見詰めるストレイカー。
 いつでも撃てるといった物腰だ。
 其の横には、双眼鏡に移る大蛇を食い入るような眼差しで見詰める小夜子。
 と、其の時。
 大蛇の頭がトゥリムに向って突然大口を開け近づいてきた。
 後少しで噛み付かれるという距離になった瞬間、後方へと華麗なステップをすると一気に祭壇の下へと飛び移るトゥリム。
 大蛇は勢いよく大口を開け飛びついた為、思いっきり自分の舌を噛んでしまう。
『シャアァァ』
 大蛇は怒り狂い祭壇をぶち壊す。
 走り回りながら降り注ぐ木片を回避しつつ一発の銃弾を大蛇へと打ち込むトゥリム。
 この銃弾が合図となり、左右に身を潜めていた空也とイーグルが一気に前へと躍り出る。
「神様キドりかよコラ‥‥!ブッ潰すッッ来いよ出来損ない!」
 怒りを大蛇にぶつける空也。
「首の1本‥‥貰ってくぜェ!」
 先程まで閉じていたイーグルの右目が金色に輝き、身に纏っている紅い闘気がまるで周囲の雪を溶かすかのように閃く。
 二人は大蛇を挟むように斬りつけては、お互いの位置を常に交錯させていた。
 さすがに頭の数が多い事もあり、大蛇の牙が容赦なく前衛の二人を襲う。
「させませんえ?」
 二人の身体を淡い光が包んだか思うと傷が癒えていく。
 由香里が練成治療を施したようだ。
「あの尻尾に巻き付かれると本当にヤバイわね」
 前衛の補佐を行いながら冷静に分析するストレイカー。
「任せてください」
 雪で反射され銀光りする刀を手に持ち俊敏に崖を駆け巡る小夜子。
 前衛が戦っている隙に大蛇の背後へと回り込む。
「切り刻んで差し上げます!」
 崖を一気に飛び降り、そのまま一直線に尻尾を薙ぎ払う。
 尻尾が無くなればバランスを崩すと考えたようだ。
 大蛇は首を捻らせ紫色の液体を吐き出す。
 周囲を飛び回りながら避ける。
 雪がシューッという音を立てながら異臭を放っていた。
「やはり毒ですか」
 他のメンバーに注意を促しながら尚も尻尾を切りつける小夜子。
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて‥‥と言うじゃろ? 汝には馬の蹴りではなく鉛弾を呉れてやるわえ!」
 小夜子の後を追いながら大蛇の首に向って銃弾の雨を降り注ぐ火乃香。
 弾丸を受けた蛇の頭は数秒間揺らめいた後、火乃香の方へと二本の首が飛んでくる。
 間合いを見定めギリギリの所まで惹き付けると崖の下へ飛び降りる。
 すると勢いをつけすぎたのか二つの頭は見事に崖へ正面衝突しそのままめり込んでしまった。
「火乃香嬢、左後方へ」
 少女を送り届け急いで戻り一同に合流したメイヤー。
 金色に輝く瞳と淡く光る刀を手に一気に駆け抜けてくる。
「切り刻む」
 崖にめり込んだ状態の大蛇の首へ刀が振り落とされたかと思うと、頭が削ぎ落とされる。
 五本の頭になった大蛇は怒りで我を忘れ所構わず頭を振りかざす。
「チッ、手間取らせんなよ」
 一気に横合いへと回り込み大剣で首を薙ぎ倒すイーグル。
「ヒキョーたぁ言わねェェよなぁクソ外道がよォ!」
 アフェランドラが淡く赤い色に一瞬光ったかと思うと全身が紅いオーラを包む空也。
 焔を纏った拳をイーグルが斬りつけた所に捻り込む。
 紅い焔に包まれながら一本、そしてまた一本と頭が落ちていく。
「残すは後一本」
 最後の頭を流し見るメイヤー。
 牙を向けながら、ジリジリ後退していく大蛇。
「エンマ様に代わってェ‥‥! ブッ飛ばす! 明王拳‥‥烈火ッ!」
 アフェランドラを大蛇へと向けると一気に側面へと駆け抜ける空也。
 拳に纏った焔を次々に大蛇へと浴びせる。
 バランスを崩した大蛇が腹を天に向け、背を地に着け足をバタバタさせる。
「がら空きなんだよッ!! 喰らいやがれェー!!」
 大蛇の側面左下方部より大剣を薙ぎ払い空へと大蛇を舞い上げるイーグル。
「これで終わりですね」
 打上げられた大蛇に向って銃弾を浴びせるストレイカー。
「地に果てろ」
 淡く光る蛍火にエネルギーを蓄えられたかと思うと衝撃波を放つメイヤー。
 衝撃波をまともに喰らった大蛇は半分に切り落とされ、雪原へと堕ちていった。


 大蛇を討伐した一同は街へと戻り長老と青年に報告をしていた。
「オメー‥‥この村にいねー方が良いんじゃねーのか?」
 心配そうに青年と生贄だった少女を見詰める空也。
「一度は捨てようと思いました。ですが」
 大蛇が倒された事を受け、お祭りムード一色の街を見渡す青年。
「ここには沢山の思い出とカレに出会わせてくれた恩があります」
 青年の袖を掴んでいた少女が答える。
 そんな少女を見て優しく微笑みかけるトゥリム。
「‥‥ま、生涯一個っきゃねぇ故郷‥‥だもんな‥‥まぁオシアワセになお二人サン!」
 多少心配はあるものの二人が選んだ道ならばソレでいいと思う空也。
「厄介ごとも片付いたことじゃし。
 後は八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を……となれば良いの、御両人?」
 神須佐能袁命が奇稲田姫との愛を詠んだ和歌を交えながら話す火乃香。
 青年と少女は頬を少し赤くしながら小さく頷いていた丁度其の頃
 街の外れの雪を真っ赤に染めるイーグルの姿があった。
「‥‥ったく、ざまぁねぇな」
 覚醒する事でボロボロになっている身体に更に鞭を打ちつけたため副作用を伴っていた。
 煙草を吸いながら平常心を装うが眩暈もありその場で休んでいるようだった。