タイトル:【AS】来襲、ホーネットマスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/26 20:58

●オープニング本文


 薄いベール状の雲が月に笠を被せていた丁度其の頃。
 一隻の艦船が北太平洋を横断していた。
「艦長、明日は雨ですかね?」
 空を見上げていた航海士が舵を握り前方を注意深く望んでいる艦長に声をかける。
「そうじゃな。このまま何事も無く積荷を運びたい所じゃが」
 艦長は少し厄介そうな顔をして後方をチラッと見るが、直に視線を戻す。
「例の積荷は、ワシントン奪還作戦で用いられるのですか?」
「否、ワシも深くまで聞いてはおらん。が、形状からして戦車じゃな」
 積荷というのは、確かに戦車車両だが船員達の知るところではなかった。
 そしてこの荷物をSC近海まで届ける引き渡すというのが今回の彼等の仕事内容だ。
「何にせよ、厄介な仕事だ」
 艦長はそう言って、空を仰ぐ。
「ん? 急速全開! 右舷四十五度!!」
「レーダーには何も反応ありませんが‥‥」
「いいから早くっ!!」
 宙に漂う無数の黒点を見つけた艦長の怒声が響き渡る。
 艦船はエンジンをフルスロットルさせ右へと進行方向を変えるが、時は既に遅かった。 
「こちら甲板! 大群の蜂が行き成り‥‥う‥‥ウワアァァ」
「こちら機関室! 天井から無数の槍がっ! このままでは‥‥」
 彼方此方から無数の救援と悲鳴のベルが飛び交う。
 艦長の読みは正しかったが、機動力の差が有り過ぎた。
「エマージェンシー! こちらHWBC1175!」
 艦長は必死に無線に向って叫ぶ。
「こちら海兵本部‥‥」
「大型の蜂の群集が‥‥無数の数でっ!」
「落ち着いてください。何がありました?」
「無数の蜂に我艦が‥‥あれは何だ?」
 パニックの余り出てきた言葉を訴え救援を要請していた艦長の前に突然一体の戦闘機が出現する。
「ホ‥‥ホーネット‥‥味方なのか?」
「ホーネットですか? その周辺で飛行許可は降りていない筈ですが‥‥」
 無線越しに聞いていた海兵本部の職員は思わず首を傾げる。
 次の瞬間、轟音と人々の悲鳴が無線越しに聞こえたかと思うと、通信は途絶えてしまった。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
クゥオーター(gb9452
20歳・♀・SF
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA
D‐58(gc7846
16歳・♀・HD

●リプレイ本文


「こちら傭兵部隊。HWBC1175‥‥応答願います」
 襲撃を受けた艦船に通信を行うクゥオーター(gb9452
『ザザザ‥‥ザザ』
(やっぱり通信出来ないか)
 ふぅっと一息吐き海の彼方を見詰めていた。
 程無くして他のメンバーがやって来る。
「こんばんわなのでス〜我輩のどっぽちゃんとデータリンクするのダー」
 明るく無邪気な声で駆けくるラサ・ジェネシス(gc2273
 どうやらどっぽちゃんと呼ばれたKVオロチ改と其々の機体をリンクさせたい様だ。
「準備できました」
 セシリア・D・篠畑(ga0475)はシレンスより降りオロチ改を見上げていた。
「‥‥雲行きが悪い。一雨来そうだな」
 空模様を仰ぎながら呟く煉条トヲイ(ga0236
「そうですね。雲の動きから察すると雨でしょうね‥‥」
 D‐58(gc7846)が雲の動きを観察した結果を伝える。
 全ての機体をリンクした一行は作戦会議を行う。
 行動について役割を分担し
 a班ホーネット、b班ホーネット+周辺のキメラ、c班キメラ、d班艦上キメラの四班に分かれる事となった。


「敵の狙いはやはり積荷、ですかね」
 雨にけぶる海面を眺めながら呟く立花 零次(gc6227
「狙い‥‥そうですね。積荷だと思います」
 夜の闇と雨の飛沫を見詰めため息を一つ溢しながら相槌を打つマヘル・ハシバス(gb3207
「何で新兵器輸送中ってどこでもいつでも襲われるんだろうネ」
 眉間に少し皺を寄せながら考えるラサ。
「そういえば‥‥どうしてでしょうね?」
 口を少し尖がらせながら右頬に右手の人差し指を当てるセラ・ヘイムダル(gc6766
「宇宙でバグアが見てるのカ」
 両手をポンッと合わせ一人でスッキリした顔をする。
 が、次の瞬間機体がやや左に傾いた為、慌てて操縦桿に手を当てるラサ。
「ラサさん、気をつけてくださいね」
 ラサのやや後方を飛行していたクゥオーターが注意を促す。
 空は相変わらず真っ黒な雲に覆われ機体に豪雨を叩きつけている。
 前方では天の怒声が鳴り響き、金色の稲妻が鉤状に屈折しながら駆け抜ける。
(この近くに敵はいる)
 目に見えなくとも戦場を駆け抜けてきた経験が濃厚な予感となって一同を襲う。
 敵にはキメラも居る。レーダー以外にも目視を利用している筈だ。
 しかし現在の荒れ模様を考慮すると、敵がこちらの情報も大雑把な情報の筈。
 そんな考えが一同の頭を横切る。
 一同は深呼吸をし操縦桿を軽く握り締め真直ぐ前を望む。
「そろそろ目的空域の筈だが‥‥レーダーに反応無しだと? 何処かでジャミングでも発生しているのか」
 煉条はレーダーを怪訝な顔で見詰める。
(‥‥レーダーに映らない事から、ジャミングを出している可能性が高いですね)
 心の中で呟きつつセラの機体を見詰めるセシリア。
 彼女はジャミング中和を用いれば、誘導弾ミサイルは使用可能と踏んでいた。
「ぶんぶんぶん♪ ハチさん見つけちゃいますよ♪」
 陽気に鼻歌を歌いながら空域上を索敵するセラ。
 彼女の愛機エンゼルランプにはジャミング中和装置が載せられている。
 敵が如何にジャミングをしていようが半径二十km以内であればある程度中和する事が出来る。
 其の為、索敵時の正確さは群を抜いているのだが生憎の天気だ。
「エンゼルランプのセラです。雨と夜間と言う事で多少違いがあるかもしれませんが‥‥」
 前方二十km圏内に飛行物体四体を検知したようだ。
 少し頬を膨れさせながら結果を全機に伝える。
「‥‥飛行物四体。了解だ」
 位置情報を確認する煉条。
「サンキューなのダー」
 元気よくラサが応答する。
 目視で飛行するには余りにも天候が悪すぎる。
 視界が雨雲に閉ざされ、しかも夜間と言う事もあり視程が悪すぎる。
 その為、一同はセラが入手した情報を元に敵から最も発見しづらい空域へと飛行する。
 襲撃をされない為に。
 距離測が後数kmの空域に達した其の時。
「各機に警告‥‥。照明弾、発射します‥‥」
 視界確保の為にH−11照明銃を使用する警告を一同に通達するD‐58。
 照明弾が打ち上げられると共に、先程まで暗闇に包まれていた視界が一気に明るくなる。
 照らされるのは雨雲と、海。
「ホーネット発見!‥‥見敵必戦ダー」
 ラサが演算システムを用いて位置情報を確認し更にこれまでの経験を活かし予測データを各機にリンクする。
「あれは、Hornet? ‥‥いや、違う。バグアに改造されたワームか。
 ――ならば、あれが女王蜂――ジャミング源である可能性が高い‥‥!」
 空に浮ぶ一体の飛行物体を睨む煉条。
「ホーネット‥‥データ照合。‥‥と言っても中身は別物でしょうね‥‥」
 瞬時に既存のホーネットとの違いを探すD‐58。
「翼部分に相違点を発見。通常よりも二枚程、翼が多いと見受けられます」
「カ‥‥カタログスペックならKVが勝ってるけどバグアお得意魔改造だからナァ」
 目視出来たホーネットに対し一行は各々に口を開く。
「まずは先制、といきますか」
 立花はハチ型キメラを見据え瞬時に艦船とキメラの距離を測ると、どす黒い雲を斜めに切り裂き突入角六十度で必中への急降下を行う。
 百発にも及ぶ弾丸がキメラの頭上に降り注ぐ。
 弾丸は爆発する事は無く捉えたキメラに対し放電し足止めを行っていた。
「お先にどうぞ。援護します」
 a班とb班をホーネットの元へ行かせる為に道を切り開く立花。
「周りのキメラは引き受けます」
 キメラ二体に向けてミサイルポッドを発射させるマヘル。
 その機体は金色に輝き闇を照らされ、其の光にキメラは誘われる。
 ポッドからはやがて小さなプラズマミサイルが射出されキメラ達は陣形を崩し出した。
「ここは私達が喰い止めます」
 すかさずセラがバルカン砲をキメラに浴びせ、弾幕が辺りに広がる。
「了解。ここは任せた」
 煉条は弾幕に紛れ、一気にブーストし駆け抜けホーネットの左方より砲弾の猛雨を降らせる。
 周囲からしてみれば、まるで瞬間移動を行っているかの如く見え辺りにはKVの残像がちらほら残っていた。
 煉条の後に続くD‐58。
 艦船から遠ざける為にH−112長距離バルカンを用いて陽動する。
 ホーネットは急旋回し、砲弾を跳ね除け後方へと退き始めた。
「逃がさないのダー」
 慌ててホーネットを追うラサ。
 そして其の後方を守るかのように追いかけるマヘルの姿があった。


「お先にどうぞ」
 立花が援護をしつつクゥオーターがスラスターを下方に向け艦へと垂直着陸する。
 艦上にキメラが降り立っていない事を確認すると周囲を警戒する。
「本当に切りが無いですね」
 十二枚の翼を変形させつつキメラを撃破する立花。
 その際に出来た一瞬の隙を見逃すことなく、即座にバーニアをフル稼働させ着陸を行い歩行形態へと瞬時に切り替える。
「これだけ暗くて海が荒れていると、下手に前に出れんな」
 艦の様子を確認しながら周りを見渡す立花。
「そうですね。間違って落ちないように注意しなければいけませんね」
 海面が雨に逆巻きされている状態を見てゾッとするクゥオーター。
「にしても、大穴だらけですね‥‥海に浮んでいるのがやっとの様な‥‥」
 そう話しかけたその時。
「これ以上、やらせるわけにはいきませんね」
 白銀色に輝く太刀を下段に構える立花。
「はい。これ以上の狼藉、許すわけにはいきません!」
 その背後には20mmバルカンを携えたクゥオーター。其々背中合わせになり、飛来してきたキメラの襲撃に備える。
 接近したキメラを閃光のような速さで切り裂き薙ぎ倒す立花。
 飛来していたキメラをバルカンで上空へと追いやるクゥオーター。
「キメラ一体上昇! 追撃願います」
 空中で戦っていた仲間に追撃要請を出す。
 艦船付近空中では、キメラを着実に撃ち落していくセシリアとセラが。
(‥‥兎に角目の前の敵を一体ずつ確実に。数を減らします)
 下方から飛来したキメラをセシリアが放った追尾ミサイルが華麗に追っかけていた。
「針で串刺しにされたらたまったもんじゃないです」
 セシリアの後方では、ジェレゾを大きく振り回しキメラを投げ飛ばしている。
 コックピットには少し膨れた顔をしているセラが。
「本当にしつこいのです」
(見敵必殺)
 セラが投打したキメラを即時に打ち落とすセシリア。
「ナイスアシストです♪」
 セラのテンションが段々上がっていく。
「にしても、次から次へと沸いてきますね♪」
「そんなルンルンでいわないで下さい。ホーネットを倒さなければいけないという事ですかね」
 少し困り果てた声で立花が応答する。 
(周囲に味方無し。発射OK)
 セシリアが常に周囲を照らす為に照明弾を打ち上げた次の瞬間キメラに囲まれる。
 操縦桿を軽く握り一気に機体を急上昇させ上空よりキメラの群集を見詰めるセシリア。
(分析完了)
 尾翼を天へと向け急降下すると共にやや後方に引きキメラの後方へと回り込む。
 次々と海へ堕ちていくキメラの残骸。
 一匹のキメラが急旋回しセシリアの後ろに憑く。
 やや左方より捻り込みながらセシリアの背後からにじり寄って来る。
(王道ですね)
 キメラの動きを瞬時に判断し、操縦桿を握りしめると高く高く空へと駈けて行く。
 右翼を少し傾けつつ急降下し一気にキメラの脇腹を望む。
 キメラの腹を捉えたスラスターライフルが銀色に輝いていた。
「お見事です♪」
 セラは思わず拍手していた。


 一方、上空では。
「‥‥視界もレーダーも当てには出来んか。ラサ、座標と映像は宜しく頼む」
 後退したホーネットを追う煉条、その左方を飛行するD‐58と、お付のキメラを殲滅するマヘルの姿があった。
「今から送るのダー」
 ホーネットを執拗に追うラサが演算システムを用いながら、予測データと映像を仲間へ送信する。
 演算と共にスナイパーライフルD−02でホーネットに向け地点を予測し射撃を行う。
 しかし、ホーネットはひらひらっとすり抜けていく。
「ムゥ‥‥やっぱり魔改造ダー」
 射撃の目的は堕とす事ではなくあくまで誘導なのだが、悔しいものは悔しい。
 従来のホーネットであれば性能に大差は無く、経験測を用いれば容易に落とせる筈だがそう簡単にはいかなかった。
「後ろは任せてください」
 ラサの後方を守るように飛行するマヘル機。
 どこからともなく来襲するキメラをラサが捉え、瞬時にマヘルへとデータ送信される。
 データと経験を活かしDR−2荷電粒子砲の居合い抜きがキメラの羽を爆砕していく。
「とってもイイ感じなのダー」
 マヘルのサイファーEが鉄壁の守りをしてくれているお陰でラサは安心して飛ぶ事が出来た。
「この機体がどこまでやれるか、試してみましょうか‥‥」
 ラサから送信された予測ポイントにて待機するD‐58。
「五、四、三‥‥」
 カウントダウンと共にラサが後退する。
 それに伴い活路を斬りあけるマヘル。
 カウントダウンが0になったと共に煉条がM−118照明銃を左上方へと打ち上げる。
 予測地点より少し後方でジッと待っていたD‐58は、空中変形をし歩行形態に変わるや否やドミネイターを構え近接攻撃をしかけんと宙を舞う。
 ホーネットは回避する為に左に捻り込む。
 ドミネイターを左に斬り流し、ブースターを起動させホーネットの前方へと踊り出る。
 前方に突然現れた機体にビーム砲を放つホーネット。
「行きます‥‥」
 ホーネットに対して素早い斬撃が繰りなされる。
 緊急回避をされたもののホーネットの右翼が綺麗に分断され、飛行するのも難しい状態へと追い込む。
 空中を宙返りしつつ逃亡を図るホーネットの目前に煉条機が立ちふさがる。
 尚も機速を上げ逃亡しようとする其の姿は余りにも情けない。
「堕ちろ!」
 煉条の叫びと共に翼がホーネットを一刀両断する。
 左翼と水平尾翼が引きちぎられ胴体部分だけが残ったホーネットは回転しながら海へと堕ちていく。
 その軌道は、自然な落下というわけではなかった。
「危険、下に戦艦がいるのダ! このまま堕ちると直撃なのダー」
 ラサが慌てて叫ぶ。
 操縦桿に手を添え一息呑み込むと、一気に急降下をかける煉条。
 ホーネットの前に躍り出ると試作型のリニア砲を構える。
 これまでの全ての経験を活かし、威力に対してかかる重力や射程を計算しつつ砲撃する。
 赤褐色の噴煙が巻き起こり、粉砕された鉄の破片が海へと落下する。
 やがて海面に水紋の華が咲き乱れる。
 どうやら、ホーネットを粉砕する事が出来たようだ。
 飛行士であれば最悪いつか自分が辿る道かもしれないと心の中で思いつつ、敬礼をする煉条の姿があった。
「なかなか思うようにはいきませんね‥‥」
 戦闘を終えD‐58は遠い空を眺めている。
 機体の挙動などを確認していたようだが、まだまだ満足出来る段階ではなかった様だ。


 a班、b班が艦船周辺に戻ってきた頃、キメラも全て討伐されていた。
 其の為一行は艦船乗組員の救助活動にあたる事となった。
「敵が狙っていたのは、この艦船の積荷だったのか?」
 少し頭を斜めに傾けながら呟く煉条。
「積荷、とっても気になりますネ♪」
 すかさず詰め寄るセラ。
「チラッと見せてくれないかナァ」
 新しい玩具を目の前にした子供のように瞳を輝かせるラサ。
 どうやら三人は、狙われた原因であろう新兵器が気になって仕方が無かったようだ。
「ダメですよ。ああいった物は軍の秘密事項なんですから」
 少し苦笑いをしながら三人を止めるマヘル。
 だが、乗員は別に新兵器などではない、と苦笑した。どうやら、前線向けにかき集められた戦車のようだ。
 必要なものには違いないが、彼らの期待していた秘密事項には程遠い。
「残念なのダー。ところでこの船ダレが動かすのカナ?」
 物凄く残念そうに俯きながら、ふと頭に浮んだ疑問を口にするラサ。
 艦船はキメラとホーネットに来襲された際に受けたダメージで浮んでいるのがやっとの状態だった。
 回収の艦が回ってくるのは今しばらく時が掛かる。
 一同は顔を見合わせため息を吐いた。
「やっぱりこうなるのか」
「仕方ないですね。もうしばらく護衛につきますか」
 肩をがっくり落とす煉条の背後で、苦笑する立花の姿があった。