●リプレイ本文
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桜華春祭が開催される小さな町へと軽快な足取りで進んでいく一行。
「やっちゃん、お花見楽しみだね」
「あぁ‥‥そうだな」
優しく微笑む天水・紗夜(
gc7591)に腕を引っ張られるながら歩く天水・夜一郎(
gc7574)。
傍から見ていると姉弟とは思えない光景だ。
「ふんふん♪ ふんふ〜♪」
その二人よりやや前方では、楽しみにしていた祭りに心踊らせ鼻歌を口ずさむ終夜・無月(
ga3084)の姿が。
薄桜色に珊瑚色など様々な花吹雪が吹き、町の入り口に差しかかったその時。
――ドンッ!!
慌てて駆けて来た警察官らしき服を着た男性とぶつかってしまう。
「大丈夫ですか?」
「あんた達、早く町の外に避難するんだッ!!」
イスネグ・サエレ(
gc4810)が差し出した手を借り、立ち上がるや否や慌てた様子で話す男性。
ただ事ではないと感じた一同は男性から話を伺う事に。
男性の話によると――。
突如出現した大きなぬいぐるみが人々を襲いだしたそうだ。
観光客らしき一人の女の子が必死にそのぬいぐるみ達を食い止めているらしい。
そしてその女の子に「傭兵の緊急依頼を出すように」と指示されたらしい。
「俺達は傭兵だ。後のことは任せてくれ」
警察官らしき男性に「もう大丈夫」と伝える烽桐 永樹(
gc8399)。
「お祭を邪魔する無粋な輩ですわね‥‥許しませんわ!」
雅な振袖を身に纏ったミリハナク(
gc4008)の瞳は怒りにも似た輝きを放つ。
その手にはコンテストで披露する扇舞の為に持参した鉄扇が。
陽の光を浴びた鉄扇に仕込まれている刃が銀色に輝いていた。
「素敵なお祭りの席にキメラ‥‥無粋ですわ! 何としてでも消えて頂きます」
お気に入りのバトルピコハンを強く握り締めるロジー・ビィ(
ga1031)。
「とりあえず、急ごうぜ」
男性が言う一人の少女の安否を気にして広場の方を見詰める永樹だった。
一行は屋台などが両脇に並ぶ通りを駆け広場を目指す。
「助けられなかったか‥‥無力だ、でもこれ以上被害出さないように、その少女だけは助けないとな」
惨劇を見て悄然とした表情を浮かべるが、少女だけは助けようと心に誓うイスネグ。
(‥‥守れなかった命‥‥きっと本人もご親族も浮かばれない‥‥だからせめて、敵は討つ。今は、私は私にできる事を‥‥!)
「夜一郎、行くわよ‥‥!」
「ああ‥‥これ以上はさせん!」
横たわる人々を少し見た後、まっすぐ前を向く紗夜と夜一郎だった。
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「ク‥‥ぬ、ぬいぐるみのくせにッ!!」
機械剣αの柄を必死に握り締めるルリル・ツン・デレッタ(gz0468)の姿が。
その体はボロボロに傷ついており今にも倒れそうだった。
と、そこに。
「助けに来ましたよ」
「そこの女の子、大丈夫?」
必死に戦うルリルに声を掛けるイスネグと紗夜。
「ル‥‥ルリルは子供じゃなぁ〜いッ!!」
残っていた全ての力を使い叫ぶルリル。
どうやら祭りにきてからというもの子ども扱いばかりされていた為、その事に対してかなり敏感になっていた様だ。
「‥‥槍持って来てねぇんだけどなぁ〜。‥‥ま、あんな女の子が戦ってるんだし、やるしかねえか‥‥」
(‥‥俺のが年下っぽいけど)
心の中で呟きながら、拳を握り締める永樹。
ルリルの前方へと回り込む無月、そして左右に駆けて行く永樹と紗夜。
後方にはロジー、夜一郎、イスネグ、ミリハナクの姿が。
どうやらキメラとルリルをグルッと包囲する作戦のようだ。
「行きますわッ」
自身の後方に夜一郎を従え、ルリルに向かって猛進していくロジー。
――ピコッ! ピコピコッ!!
可愛らしい音とは裏腹に次々とバトルピコハンを用いて、立ち塞がるキメラ達を払い飛ばしていくロジー。
バトルピコハンが強く輝いた次の瞬間、踏み出した際に生じた反動を利用し飛び上がる。
重力を利用し一気にバトルピコハンを振り下ろすロジー。
その後も、目にも留まらない速さでピコピコ叩いていった。
「夜一郎、今ですわっ!」
ルリルの元へと駆け抜ける為の一筋が出来るや否や叫ぶロジー。
その掛け声とともに、ルリルの横にまるで瞬間移動したかのごとく翔けつける夜一郎。
「‥‥すまない、遅くなった。奮闘感謝する」
ふらふらになっているルリルの手を軽く引くと同時に腰を少し下ろす。
安堵した為か全身の力という力が抜けたルリルは、そのまま夜一郎の腕の中にすっぽりと収まった。
「ぇ‥‥ぁ、有難うございます」
お姫様抱っこをされ耳まで真っ赤にするルリル。
「ここは塞がせませんわっ!」
夜一郎の後方へと回り込もうとするキメラを見事なスイングで殴り飛ばすロジー。
「あと少しの辛抱だ。しっかり持ってろ」
恥ずかしい気持ちを抑え、キュッと夜一郎を掴み顔をうずめるルリル。
夜一郎はルリルをお姫様抱っこしたまま、ロジーが必死に守りぬいた救出用の穴を駆け抜けていった。
夜一郎は後方で待機するミリハナクとイスネグの元へと辿り着くと、そっとルリルを降ろす。
「よくがんばりましたわ。後は任せてくださいね」
一人で足止めし被害拡散を防いだルリルの頭をソッと撫でるミリハナク。
「女の子なのに傷が残ったら大変だね」
優しい笑みを浮かべ、ルリルの傷を癒すイスネグ。
すると、ルリルの体が白く優しい淡い光に包まれていった。
「それじゃ、この子の事は任せる」
ミリハナクにルリルを託し、遊撃の為に前へと出る夜一郎だった。
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「一気に片を付けるわ‥‥!」
クリスダガーを二本構え、キメラの懐目掛けて一気に躍り出す紗夜。
右手に備えたクリスダガーで切り裂き、ついた反動を利用し体を反転させる。
その後、再度左手に備えたクリスダガーにてキメラを斬り払う。
倒しても次から次へと襲い掛かってくるキメラ達。
左方より襲い来るキメラに対して、クルスシューズを履いた右足でキメラの足元を払う紗夜。
その際に生じた反動を利用し、更に左足で蹴り飛ばす。
衝撃に飛ばされ、永樹の目の前で転倒するキメラ。
「糸がほつれやすそうな場所! ‥‥な、気がする‥‥」
拳を握り締める永樹。
前へと出した左足を軸とし、上へと飛び上がると同時に拳を引いた。
「超紅蓮突き(スーパークリムゾン・ストレート)!! ‥‥アレ? 正拳突きとストレートって別物‥‥?」
落下の際についた力を利用し、頭と体を繋いでいる部分目掛け一気に拳を叩きつける永樹。
「し、仕組みと型は異なると思いますが‥‥」
味方回復を行いながら思わず突っ込んでしまうイスネグ。
「無月さん! 後方から一体ソチラにっ‥‥!!」
紗夜の声に応じて、左手をキメラに向かって一気に突き出す無月。
体重を乗せ、指を軽く曲げた状態で手のひらの下部をキメラの胸元目掛け叩き付ける。
そのまま流れるかの様に右足を用いてキメラの腹部を蹴り上げる。
蹴り上げた際に生じた反動をそのまま利用し、反転すると後方より襲い来るキメラの襲撃に備える無月。
素手で戦う彼は、仲間が止めを刺しやすいようにキメラを引き付け、誘導していく。
「Unbeaten hero is proud loneliness. (無敗を誇る孤高の英雄)」
金色に輝く瞳でキメラを睨みつける無月の体が、白く淡い光に包まれていった。
一方その頃。
(‥‥ぬいぐるみ‥‥チャックや綻びなんかあるんでしょうか?)
少し首を傾げながらキメラの攻撃をかわすロジーの姿が。
どうやら敵の弱点などがないかどうか確認しているようだ。
(ぁ! あれはッ!!)
キメラの後ろを取ったロジーが何やら銀色に輝くモノを見つける。
スライダーらしき銀金具とエレメントらしき物体だ。
「そこですわ!」
敵の背後へと忍び込み、一気に銀金具を下へと下げるロジー。
上止から下止まで滑り降ろそうとした次の瞬間、白い綿のようなものが噛んで動かせなくなる。
キメラはロジーを振り切ろうとして、慌てて左右へと体をゆらゆらと揺らす。
仕方ないと言わんばかりの表情を浮かべ、クリスダガーをキメラの背中へと突き刺すロジー。
次の瞬間、キメラの中から白いふわふわした綿のようなものが舞い上がっていた。
ロジーよりやや右方では。
「夜一郎を傷付けようだなんて、百年以上早いわよっ!!」
夜一郎の後方より爪を輝かせていたキメラの目前へと躍り出す紗夜の姿が。
(弟に手出しは絶対させないッ‥‥!!)
振り下ろされた爪に対してクリスダガーで応戦する。
キメラの振り下ろしてくる力を受け流し、右足のすね部分にて蹴り倒す紗夜。
キメラがよろめいた次の瞬間、キメラの胸元を切り裂いていった。
その紗夜の体は闘気にも似た炎のような赤いオーラに包まれているように見えた。
「無理するな、紗夜」
姉である紗夜を心配する夜一郎。
前方に立ちふさがるキメラの足を機械剣にて薙ぎ払う。
足を無くし地に這い蹲るキメラの目から脳に目掛けて機械剣を突き刺す夜一郎だった。
姉弟コンビよりもやや後方では。
キメラの懐に一瞬で移動するイスネグ。
その体が淡く白い光に包まれたかのように見えた次の瞬間、スピスピと気持ちよさそうに眠るキメラ。
「今です」
「やっつけちゃいますっ!」
機械剣αを握り締め踏み込むルリル。
ルリルを護衛しながら合わせるかのように飛び出すミリハナク。
左から流れるように敵を斬り払うルリル。
その背中を護ると言わんばかりに立ちはだかり、襲い来るキメラ達を鉄扇を用いて薙ぎ払っていくミリハナク。
鉄扇の中骨部分に軽く手を添え、上方へと流れるように払う。
その後、円を描くかのごとくひらりひらりと鉄扇を舞わせて見せるミリハナク。
キメラ達は次々と切り刻まれその場へと倒れていた。
ミリハナクのその姿はまるで、剣扇舞を披露してるかの如く優美なものだった。
こうして一同の活躍によりキメラ達は一掃されたのであった。
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「何してるのですか?」
不思議な顔で永樹を見詰めるルリル。
「‥‥いや、チャックとかあったらおもろいなって‥‥」
「あ〜‥‥ありますよ? ほら?」
永樹の質問に対して、キメラをていやっと蹴りつけひっくり返し指差すルリル。
「ぉ〜!! 本当にあるんだ‥‥」
「コラッ!! 二人ともサボりはいけませんですわっ!」
感心する永樹の背後からミリハナクの叫び声が聞こえてくる。
二人は慌てて謝ると必死に手を動かすのだった。
一方、町の通りでは。
(もっと早く気付けていれば‥‥もし‥‥この迂闊さが次に紗夜を死なせたら‥‥俺は‥‥)
町の片付けを手伝いながら、両手を見詰める夜一郎。
平静を装いながらも、自身の無力さに深く落胆しているようだ。
(‥‥やっちゃん、相当滅入ってる‥‥仕方ない‥‥わよね)
夜一郎の傍らで手伝いながら様子を伺う紗夜。
夜一郎が後悔の念に囚われてしまわないようにトビっきりの笑顔を向ける。
その笑顔には「少しでも元気になりますように」という願掛けがされているかのようだった。
「‥‥俺は、弱いな」
どんな時でも励ましてくれる大切な姉の笑顔を見て思わずポツリと弱音を吐いてしまう夜一郎。
「ん? 何? さ、やっちゃん、片付けも終わったし、桜にお祭り、思いっ切り楽しみましょう!」
「‥‥なんでもない。桜でも見に行くか。折角来たんだし、な」
弱音が紗夜の耳に届いていなかったことに少し安堵する夜一郎。
この先どんな事があっても守れるように‥‥無理をして笑わなくてもいいように頑張る事を舞い散る花びらに誓う夜一郎だった。
一方、その頃。
(ごめんね、守れなかったよ‥‥もっと早くに気がつけば‥‥)
一同と共に遺品を残された家族達に渡すイスネグの姿があった。
遺品を受け取りその場に泣き崩れる家族に対して心の中で謝罪し続けていた。
自分達が出来ることはしたのだから‥‥と言わんばかりにポンッとイスネグの肩を叩く無月。
実際、傭兵の皆がこの祭りの為に近くまで来ていたからこそ被害は最小限で済んだのだ。
でなければ、この小さな町などひとたまりも無かっただろう。
「これでお終いですわ」
ルリルと共に掃除していたミリハナクと永樹が、遺品と思わしきものと共にやってくる。
「小さいのによく頑張ったね、わたあめあげよう。怪我は無いかい?」
私服姿のルリルを未だに子供だと勘違いしているイスネグの姿があった。
「ル‥‥ルリルは子供じゃな〜いっ!!」
ルリルの悲痛な叫びが町全体に木霊する。
が、差し出されたわたあめを大切そうに受け取りハムっと口に含むルリル。
「ち‥‥違うんだからッ! た、食べてほしそうにしてたからなんだからっ‥‥ゴニャゴニャ‥‥」
訳の分からない事を言うルリルに対して、優しく微笑むイスネグだった。
一同の手伝いの甲斐もあり、無事に桜華春祭が再開される。
どうやら亡くなった人達の弔いも兼ねて催すようだ。
「ルリル、一緒にお店巡りなど散策でも行きませんか?」
「行くっ! 見に行きたいっ!!」
ロジーの誘いに対して嬉しそうに答えぴょんぴょん跳ねてみせるルリル。
――ぴこ。ぴこぴこっ。
戦闘していたときとは打って変わって可愛らしい音をだすピコハン。
「かわいい音だが‥‥それで突っ込まれたら‥‥」
思わず何かを想像し、顔を真っ青にするルリルだった。
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勢力を誇っていた太陽が沈み、辺りは優しい提燈の光に包まれていた。
「とても綺麗‥‥」
まるで弔いの様な夜桜を望む紗夜。
その瞳には「二度とこんな事が起きない様に‥‥前に進まなければ」という強い意志が輝いていた。
一方、その頃。
「日本酒頂けますでしょうか?」
夜店にて一献戴くロジーの姿があった。
綺麗に咲き誇る桜達を見詰めているうちに、瞳から淡い水色の雫が頬をつたい落ちる。
「あ‥‥あれ? 嫌ですわ」
鞄の中からハンカチを取り出しそっと涙を拭うロジー。
どうやら今にも掌から零れ落ちていきそうな、大事な二人の人との思い出がよぎった様だった。
その頃、中央に設置された舞台では。
鉄扇を用いた演舞を披露するミリハナクの姿が。
せめて弔いになればという思いを鉄扇に乗せ舞っているのだった。
ひらひらと舞い散る桜の花びらたちを扇面でそっと舞い上げ踊らせていた。
その様子を後ろのほうで見詰めるイスネグ。
(夜桜がとても綺麗だね‥‥)
桜の枝にそっと手を伸ばし、その場を後にする。
こうして其々の想いを舞い散る桜の花びらに秘めるのだった。
〜Fin〜