タイトル:月夜の雫マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/03 13:46

●オープニング本文


◆ガラス玉
 それはそれはとても月明かりが綺麗な日、一人の女性が水面に佇んでいた。
「お願いです。私の願いを届けて」
 願うように手を合わせ、湖に浮ぶ鳥居を望むその瞳には淡い水色の雫が浮んでいる。
時刻は子夜を少し過ぎた頃だろうか、どこからともなく狼の遠吠えが聞こえてくる。
「いけない。早く帰らなくちゃ」
 そう呟き振り返った彼女の目の前に、一つのガラス玉が浮んでいた。
それはとても綺麗な紅い光を放っていた。
彼女は徐に手を翳しそのガラス玉を手に取り覗き見る。
「綺麗‥‥きっとこれは」
 彼女がそう言いかけた時、ガラス玉が放光したかと思うと電気が走る感覚に襲われる。
「痛っ! ‥‥え? 何?」
 コトンコロコロ
「割れちゃったかな?」
 思わず落としてしまった為しゃがみ、生い茂っている草を掻き分けガラス玉を探す。
その時、草間からガサガサッという音がし彼女は恐々そちらを見る。
「キャアァァァ」
 静粛な夜に彼女の悲鳴が響き渡る。
逃げる彼女の後からヒトにも思える小さな影が怒涛の勢いで追ってくる。
必死に逃げる彼女は小石に足を取られこけてしまう。
月明かりに照らされ自ずと相手の姿も見えてきた。
彼女が見たその姿は、ヒトのようでヒト成らざるモノだった。
薄く綺麗な羽衣のようなものを羽織り、薄いボロ布を身に纏っている。
顔はというと、目の様な物はあるが鼻や口はなかった。
「あ‥‥あぁ」
 シュルルと羽衣が彼女を包むと、辺りはいつもと同じ静かな森へと姿を変えた。

◆天人さん
 翌日。
一人の青年が長老に彼女が湖に祈祷に行った後、帰宅していない事を話していた。
町中の者が総出で辺りを捜索するが彼女の姿を見つける事は出来なかった。
「も‥‥もしや」
 長老は慌てて自宅に戻ると一冊の書を手に走って来る。
少し埃がかかったその本には「天人さん録」と書かれていた。
天人さんとは、この地方で語り継がれている伝承の一つで、
月の綺麗な夜、祈りに引き付けられどこからともなく現れるのだという。

―湖水に月明かり差し夜 一人の娘降り立たんかな―
―月夜に一滴の雫こぼれしや 娘の願い天に仰ぐ―
―惹かれしモノ来たりて 天に戻ること叶わん―

 この町に語り継がれている伝承の一説を長老が口ずさむ。
その姿は確認されておらず、飽く迄伝承という事で人々の記憶から風化されていた。
「それは飽く迄、伝承だろう」
 町人達は声を揃えて言う。
「じゃが、昨日は月明かりがとても綺麗じゃった。しかも祈祷しにいったそうじゃないか」
「それじゃ、あいつは」
 彼は顔を蒼白にし地に膝を着け、それ以上口にする事は出来なかった。
町人達も長老の話を聞き、不安に駆られたのか次々と家へと引き篭もる。
「ど‥‥どうしたものか‥‥このままでは」
 伝承によると、天人さまが出現した夜から七日の間に町から人の姿がなくなると語られていた。
静かな時間だけが過ぎ去っていき、太陽もすっかりその勢いを失いかけたその時
「そ‥‥そうだ。傭兵を雇ってくれ」
 口を開いたのは青年の方だった。
「傭兵なら、どんなヤツが相手でも倒してくれる筈じゃねぇのか? それにもしかしたら‥‥」
「そうじゃ、傭兵じゃ。町の一大事に来てくれぬ訳が無い」
 青年に促され、長老は慌てて自宅へと戻っていった。

●参加者一覧

比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
南 日向(gc0526
20歳・♀・JG
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ララ・スティレット(gc6703
16歳・♀・HA
柊 美月(gc7930
16歳・♀・FC

●リプレイ本文

 そよそよと気持ちの良い風に背中を押されながら一行は町を目指す。
「うぅ‥‥それにしても、落ち着かないなぁ‥‥」
 周りをキョロキョロしながら一行から一歩退いて歩く比良坂 和泉(ga6549)の姿があった。
「何か言ったかしら?」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)がふいに後ろを向き、和泉は更に慌てる。
「い‥‥否? 何もないです」
「今回の任務は女の人ばっかり〜だから、両手に華ですね〜」
 おっとりした口調で柊 美月(gc7930)が語りかけていた。女性が苦手な自分にはそれが原因だ、ともいえず和泉は視線を下へ。

●天人サマノ町
 町に着いた一行は捜索と聞き込みの二班に別れていた。
「天人なんてものは迷信なのである。美紅に言わせれば天人はプラズマで説明できるのである!」
 南 日向(gc0526)に着いて来た美紅・ラング(gb9880)が力説する中、日向は微笑みながら宥めていた。

「無事に見つかるとよいのですが‥‥ともかく、出来る事を全力でやって頑張りましょう!」
 手を胸の前で軽く握り締めるララ・スティレット(gc6703)。
「そうですね。失踪してからどれ位経っているのかも聞きたいところですし青年の所に行きましょうか?」
 爽やかな笑顔を浮かべるマヘル・ハシバス(gb3207)。
「湖の場所も知りたいかも」
 穏やかな口調で語るシクル・ハーツ(gc1986)の三人が先行し、聞き出した青年の家へと向かった。
「すいません。こちらに‥‥」
「待ってたんだ! 自分らが傭兵の人?」
 ゴツン!
「あ‥‥すいません」
 中から一人の青年が勢いよく出て来た為マヘルはドアと頭突きをする羽目になる。
「痛たた‥‥いえいえ大丈夫です。それではあなたが?」
「だ‥‥大丈夫ですか?」
 慌てて日向と美紅も駆けつける。
「本当にすいません。僕が彼女の婚約者です」
 青年は申し訳なさそうな顔をしながら何度も頭を下げる。
「あのさ湖の場所教えてくれる?」
 一刻も早く捜索に向いたかったシクルが青年に尋ねる。
「湖は町を抜けて街道沿いに真直ぐ行った先にあります」
「時間がかかると手遅れになるかもしれないし、私は、その湖に行ってみるね」
 青年の答えを聞くとシクルは湖の方へと駆けていった。
「数点お聞きしたいのですが、まず彼女の写真などありますか?」
 日向の質問に青年はコクンと一つ頷くと、中から写真を一枚持ってくる。
「これが彼女です」
「可愛い方ですね。出かけた時間なども分かる範囲で教えて頂きたいのですが?」
 青年は少し考えながら、日向の質問に答える。
 青年の話によると、家を出たのは二日前で亥の刻を過ぎた頃だったそうだ。
「望み薄かもしれませんね」
 日向が少し難しい顔をして考えていると青年に聞こえない位の小さな声でマヘルが呟く。
「現場は事件で起こっているのである。日向もう行くのである!」
「美紅さん、それを言うなら事件は現場でーですよ」
 突然、美紅が日向をずるずるひっぱり森のほうへ行こうとする。
 ララとマヘルも唖然としてしまうが、一番驚いていたのは青年のほうだった。
「あの‥‥えっと?」
「あ、すいません。伝承などについて教えていただけますか?」
 慌ててララが青年に話を振る。
「伝承についてはワシから話そう」
 後ろから一人の老人がやって来て二人に伝承について語りだす。
 どうやらこの町の長老のようだ。
「一人の羽衣を羽織った女子が湖に現れての‥‥」
 重い口調で老人は伝承について語った。
 ある夜、女子が月に願いを届けようとしたが叶う事はなかった。
 願いの対価として羽衣を取られ女子は帰ることも出来ず悲しみに囚われ、やがて憎悪を糧とし天人となった。
 天人さまが出現した夜から七日目に町は負の池に呑み込まれるという。
「最後の七日間が気になりますね」
 老人の話に耳を傾けていたマヘルが口を開く。
「森の地図などありましたら、お借りできますでしょうか?」
「数年前のものじゃが」
「ありがとうございます」
 二人は老人から一枚の地図を受け取り軽く会釈をしその場を離れた。

●天人御座ス森
「よし、ここは確認したわ」
 森の一角にて何やら木にマークを書いているフローラの姿があった。
 草をより分け捜索していた跡が各地に残っている。
「ないわね。次の場所を探そうかしら?」
 と、湖の方に目をやると大木を見つめる和泉の姿が目に入る。
「そっちは何かあったかしら?」
 急に背後から話しかけられた和泉は驚きのあまり思わず木に登る。
「な‥‥な‥‥特に何も見つかってないませんよ? フローラさんの方はどうなんです?」
「こっちも特に今の所‥‥って、そこだわ」
 フローラは和泉より少し上を見上げ、何やら傷跡の様なものを指差すと同時に柊に連絡をする。
 和泉がそのまま木に登り調べた所、傷は鋭利な刃物で切りつけられ時間的にも新しいモノだった。
「一体どうしたんですかぁ〜?」
 連絡を受けた柊も駆けつけ、更に周辺をくまなく探す。
 傷の付いた大木と湖を線で結んだ先に町があるため、フローラはこの周辺に何か手がかりがあると踏んだのだ。
「何かありましたか〜?」
「こっちはないわね」
「お‥‥おい。こっちにも同じ様な傷があったぞ。それに洞門のようなものがある」
 女性に木登りはさせられないという事で一人木登りをしていた和泉は二人と目を合わせないようにしながら叫ぶ。
 慌てて二人は駆けつけ、崖にぽっかりと開いた場所を見つめる。
「あらあら〜」
「全ての点を線で結んだ感じだと、ここで間違いわ」
 お手柄と言わんばかりに木から降りてきた和泉の背中を叩く。
「皆さんに知らせなくちゃですね〜」
 終始ふわふわした口調で柊が話していた。

●合流
 先程まで勢力を伸ばしていた太陽も西に沈みかけた頃、町の一角にておまじないをする日向の姿があった。
「夜なんて怖くない」
 そう呟くといつもの変身ポーズを何度も行い覚醒を試みる。
「こ、これで大丈夫です」
 そう言うと仲間の元へと駆けつける。
 一行は昼間得た情報を共有し分析する。
 伝承からしてやはり夜が望ましいという事、湖の近くに洞門があった事そして、
「湖で見つけたものなんだけど、どうやら婚約者の簪と似ているらしい」
 そう言いながら、シクルは簪を皆に見せる。
「似てるってことは彼女の簪の可能性もあるってことだな?」
 一歩退いた場所から見ていた和泉が口を挟む。
「ただ、青年もさすがに婚約者の物だって断言できないみたい」
 少し困った顔をしつつ大事そうに簪を直す。
「伝説がある以上祠とか洞窟とかゆかりの物があると美紅は思ってたのである。それで中は?」
「洞門の中まで調べれなくてごめんなさいです〜」
 柊が申し訳なさそうな顔をしながら美紅の方を見る。
「こちらは特に何も見つけることが出来ませんでしたわ」
 マヘルとララは残念そうな顔をして少し俯く。
「やはりここは美紅が囮を買って出るのである」
「それじゃ、この簪が見つかった場所に案内するね」
 現段階での情報では、決定打がない為止むを得なしに囮作戦を実行する事となった。

●願イ叶ウ湖
「見つけたのはこの辺りだ。誘い出せる可能性がありそうなのはこの周辺だと思うが‥」
 簪が発見された場所に美紅を案内するとシクルは茂みに身を隠す。
 全員が姿を隠したのを確認した美紅は、囮としてその場に一人待機し手を併せ目を閉じる。
「美紅とたっくんが幸せになれますように」
 月明かりでほんのりとしか見えないが彼女の頬は少し赤くなっているのが見える。
「きゃー」
 単調な歓声が辺りに響き渡る。
 少し離れた場所で見守っていた一同は思わずビックリする。
「なっ‥‥絶対願い事してただろっ!」
 後方で身を隠していた和泉が悲鳴ではない叫びが聞こえた為、思わず顔を出す。
「何の事か美紅には分からないのである」
 月が昇り時は亥の刻を過ぎた頃、ちゃっかりお願い事をしていた美紅だが恍ける。
「顔だって赤くなってるし‥‥」
「和泉さん、駄目ですよ〜」
 更に体を乗り出す和泉に、思わず顔を覗かせてしまう柊。
「天人さまとやらが出てこなかったらどうするつもりだ‥‥」
 覚醒しているシクルの口調が二人を牽制し、和泉と柊は慌てて再度身を潜める。
「‥‥あんぱんと牛乳がありません‥‥張り込みとしては赤点です」
「あはは。面白いわね」
「刑事かよっ!」
 少し肩を落とすララに対しフローラは苦笑し和泉はまたしても突っ込みを入れてしまう。
「シィー。静かにして下さい」
 そんな三人を見つつマヘルが注意を促す。
 美紅は微動だにする事なく願い事を続ける。
 よっぽど叶えたい事があるのかすごい集中力で願う美紅だったが、突然背後に気配を感じ閃光手榴弾を片手に振り返る。
 が、時既に遅しだった。
「う‥‥うわあぁ」
 美紅の叫び声が辺りに木霊するが、メンバー達は焦る事はなかった。
 むしろ、囮としてわざと捕まったのだと思っていた。
「来たか‥‥。うまくいくといいが‥」
 ゴーグルを装着し少し不安そうな顔をしながら実紅を追うシクル。
「うまくいきましたね〜」
「そうね。後は根城まで案内してくれれば‥」
 柊、日向は顔を合わせ見失わないようにシクルの後を着いて行く。

●崖近クノ洞
「一体何なのである! 離すのである」
 羽衣で羽交い絞めにされ囚われた美紅は必死に抵抗する振りをしていた。
 捕まった時の事を考慮し重装甲だった為、殆ど痛みを感じる事はなかったが思っていた以上に羽衣の強度が硬い。
 ピチョン‥‥ピチョン‥‥
 洞の内部は身に纏わり憑く様な湿気具合で、明かりという明かりがまるで射さない空間が広がっていた。
 何度か曲がり角が有り美紅はメンバー達が本当に跡をつけてくれているのか不安になる。
(お願いである‥‥誰かナイトビジョンを持ってきていますように‥‥)
 そんな事を心の中で願っていると、女性のか細い声がふと耳に入る。
「お‥‥願い‥‥です‥‥こ‥‥こから‥‥出‥‥して‥‥」
 女性の声が段々大きくなってきたかと思うと、少し明るく開けた一室に到着する。
「今であるっ! 女性発見なのであるっ!!」
 美紅は女性の顔と失踪人の女性が同じである事を確認し、ここぞとばかりに叫ぶ。
 美紅の合図と共に仲間達が一斉に潜入し、シクルと柊が疾風の如く切り込む。
「返して頂きますね〜」
「やはりキメラだったか。拐った人を返して貰う!」
 柊は黒刀鴉羽を用いてキメラの攻撃を受流し軌跡の上を流れるかの様に駆け抜け美紅を助ける。
 シクルは素早く女性に巻き付けられていた羽衣を切り裂き女性の保護をしようとしたその時、
 シュルルッ
 球体型キメラが紅い光を放った瞬間、天女型キメラの羽衣がシクル達を切り裂こうと空を切る。
「させないわ!」
 フローラが羽衣を蹴り飛ばしている間に女性を後方に運ぶ。
 和泉が慌てて軍用歩兵外套を女性に羽織らせ、マヘルが女性と美紅に最優先で練成治療にて回復を行う。
「大丈夫ですかっ。もう大丈夫ですよっ! 気をしっかり持って下さい!」
 ララが女性に懸命に話しかけ励まそうとする。
 球体型キメラはその場を微動だにする事無く、更に紅く点滅し続ける。
 次の瞬間、天女型キメラがスルリと羽衣を翻し敏捷な動きでフローラを振り切る。
 宙に静止したキメラは自身の羽衣を一回、二回と摺り合わせる。
 ガラスを摺り合せたかのような不快な音が辺りに響き、一行の体に電撃が走ったかのような痺れが襲った。
「やっぱりです。あの紅い玉が命令を出しているのだと思われます!」
 鋭く観察していた日向が叫ぶが、身体が上手く言う事を聞かない。
「惑え、煌く星々の前に跪き、心を折れ――」
 ララの周囲を淡い銀色の光が包んだかと思うとほしくずの唄が奏でられる。
「ナイスアシストなのである」
 天女型キメラは暫しの間、星屑の海で虚ろんでいる間に一同は回復する。
「私がコイツをひきつけておくわ」
 フローラの片目には美術鑑賞時などによく用いられる様な単眼鏡が装着され、
 天女型キメラを電気がスパークしている様な球体にて捕捉する。
「万物の欠片 集いて 砕かれん――」
 白衣の裾を掃い球体型キメラとの距離が三十メートル以内である事を確認しつつマヘルが練成弱体を繰り広げる。
 パーンパパァーンッ
 数発の弾丸が軌跡を描きつつ球体型キメラに向って放たれる。
 綺麗な深紅色で装飾された銃を両手に握り締める美紅と少し重そうに銃を構える日向の姿があった。
 球体型キメラは螺旋を描くかのように舞い、銃弾の軌道をずらし紅黒い閃光を放ったかと思うと美紅の目前に突然姿を現す。
「おっと、そう易々とは行かせませんよ?」
 暖かい光を射す盾を片手に和泉が擁護する。
「後ろから失礼」
 つい先程まで後方にいた筈のシクルが球体型キメラの背後に立ち、
 濃紺色の光を放つ剣を両手に持ち飛鳥のような剣捌きで球体型キメラを薙ぎ倒す。
 終始球体型キメラを見つめていた筈の美紅と和泉だったが、シクルの動きを捉えることは出来なかったようだ。
 バキバキ、パリーンッ
 ガラスが割れる様な音と共に球体型キメラが消失すると、天女型キメラも静止する。
 日向の読みが正しかったのだ。
「総攻撃ですね〜」
「わざわざ伝承を真似てまでご苦労様なことだけど、倒させてもらうわよー」
「心と体に砂を詰め、溺れるように沈みなさい!」
 一同は天女型キメラに向って総攻撃を仕掛ける。
 司令塔を失ったキメラはまるで人形の様だった。
 先程まであれ程苦戦していたのが嘘の様にいとも簡単に撃破する。
「もう大丈夫ですよ〜?」
 キメラを一掃した後、柊が女性に話しかけるがふわふわした口調のせいか一瞬で緊張感が消えてしまう。
「この簪は貴女の?」
「ぁ‥‥はい‥‥これをどこで?」
「ちょっと拾ったからさ」
 シクルは大事に終っていた簪を女性に渡す。
 女性は立ち上がり簪を受け取ろうとしたが安心して腰を抜かしてしまう。
「仕方ない。俺が町まで負ぶさって行くとするか」
 和泉は女性を背中に背負うと一同は町へと帰還する事となった。

■依頼終了
 一同が町に戻ると、婚約者の青年が慌てて此方に駆けて来る。
「ほ‥‥本当によかった」
 二人の瞳からは淡い青色の雫がポタリポタリと落ちていた。
 バターンッ
 その様子を眺めていた日向が突然倒れてしまう。
「ひ! ひなっち!!」
「くぅーすぴぴぃー」
 慌てて駆け寄り日向の様子を見た一同は思わずその場に笑い崩れてしまう。
「しゃーない。男は俺一人だしもう少し頑張りますよ」
 和泉はそう言うと少し苦笑いをしながら日向を背中に負う。
 一同は長老に今回の事件についての詳細を説明し終えると一礼をしその場を後にする。
「それにしても起きないね」
「本当にである」
「ねぇ〜」
 女性陣は談笑しながら日向の寝顔を観察し、和泉は背中に集まる視線にドギマギしながら帰路に着くのであった。