タイトル:闇夜ニ蠢クモノ。マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/24 10:28

●オープニング本文



 西の空を茜色に染めながら、徐々に太陽はその勢力を衰えいく。
 その代わり、東の空は既に紫色から蒼黒く変わり星々や月の光が煌々と木々を照らしていた。
 そんな移り変わりが両方楽しめるとある森の中での事だった。
 少年と少女は、星空のデートを楽しむべくこの森の奥にある小高い丘を目指していた。
「ここは星見で有名なんだ」
「そうなんだ‥‥楽しみだなぁ」
 自慢げに話す博翔の横顔を見て、嬉しそうに微笑む莉愛。
 森をやや半分くらい進んだ頃だっただろうか。
 左奥の方から葉を揺らす何かが蠢いたのだ。
 気になった二人は、音がした方へと足を進めると――。
 数m先に大きな羽を上下に動かす黄色と黒色の縞模様の大きなおしりが目に飛び込んでくる。
 その数は十数匹以上だ。
 スズメバチの様な姿をしたその巨大なモノは、目前にあった食事に夢中だった為、
 二人に気付いた様子はなかった。
「ぇ‥‥ァ‥‥アレは、な、何?」
 巨大なスズメバチを目前にし、ただただ戸惑う莉愛。
(に‥‥逃げなきゃ‥‥俺達も喰われる‥‥)
 周囲に充満する鉄の様な匂いに気付き、莉愛の手を握り締めそっとその場を離れようとする博翔。

 パキッ――。

 莉愛が地面に落ちていた枯れ木を踏んだ音が辺りに響き渡る。
(や‥‥やばい‥‥)
 危険を感じた博翔は、莉愛の手を引き無我夢中で森の中を駈けて行く。
 巨大なスズメバチ達は食事を止め、触覚を左右に振り周囲を見渡す。
 逃げ行く二人に気付くと、耳障りな羽音を立てながら狩りを愉しむかの如く飛んでいくのであった。


「博翔‥‥手を離して。私はもう‥‥」
「何言ってるんだ莉愛! もう少し、後もう少しで村だから‥‥」
「こんな所で止まっていたらダメだッ!!」
 握り締める手を振り払おうとする莉愛。
 一方、莉愛の手をどんな事があっても離さないとばかりに握り締める博翔。
「ま‥‥待って‥‥博翔に貰った大切なお守りが‥‥」
 莉愛は必死に辺りを見回しお守りを探そうとする。
「そんなのッ! ‥‥また新しいのをやるからッ!」
 そうこの二人には立ち止まっている暇などなかったのだ。

 ガサッ ガサガサッ!

 森の奥のほうで草木を掻き分けてコチラに向ってくる音が聞こえる。
「ほら! 早く逃げるんだッ!!」
 森を先程よりも急いで駈けて行く二人。
 と、その時。
「‥‥ッきゃ!」
 木の根に足を取られてしまいその場に転倒してしまう莉愛。
 綺麗な白い細い足に一筋の紅い血が流れ落ちる。
「ごめん‥‥少しの間我慢して‥‥」
 自身の服の裾を破って拵えた包帯で、傷口部分をグルッと巻く博翔。
「だ‥‥大丈夫よ? これくらい‥‥ひゃ‥‥ひ、博翔?」
「ちゃんと捕まってて!」
 莉愛の腕を自身の背中から胸に手を回させ、ひょいッと担いでみせる博翔。
(大丈夫‥‥きっと、きっとここを抜ければ‥‥)
 必死に自分に言い聞かせながら暗くなった森を駈けて行く。

 どれ位走っただろうか。
 遠くに村の明かりがポツリポツリと見えてきたその時。

 ドンッ――。

「ぃ‥‥痛たたた」
 人にぶつかってしまい、その場に尻餅をついてしまう博翔。
「す‥‥すみません」
 差し出された手を掴み立ち上がる博翔と莉愛。
 ぶつかった人達は、自分達が傭兵であり怪しい者ではないと身の上を明かした後、
 こんな夜中に森で何をしていたのかなどを二人に尋ねる。
 ハッと何かを思い出し博翔と莉愛はこれまでの経緯を傭兵達に説明する。
 そして「早く逃げなければ」と必死に話していたまさにその時。
 羽が擦れているかの様な不快音が、博翔と莉愛や傭兵達の周囲に鳴り響く。
 傭兵達は、咄嗟に二人を囲い警戒するのであった。

 ※注意事項
 参加者の皆様は他の依頼を終え帰路に着く途中、彼らに遭遇しました。
 その為、生命・練力が10%減の状態で戦闘となります。

 上記条件でこの依頼が開始すると考えてください。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
殺(gc0726
26歳・♂・FC
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
クリスティン・ノール(gc6632
10歳・♀・DF

●リプレイ本文


 夜闇に包まれた森の一角が、暖かく優しいランタンの光で照らされていた。
「もう‥‥大丈夫、だ。怖かったな。よくここまで頑張った‥‥」
 羽が擦れているかの様な不快音にビクつく博翔の頭をワシワシっと撫でながら話す國盛(gc4513)。
 博翔は少しだけホッとした様な表情を浮かべると、自分達が目にしてきた光景について語りだす。
 周囲に充満していた鉄の様な嫌な匂いの事。
 巨大なスズメバチがヒトを喰らっていた事。
 そして無我夢中で逃げてきた事など。
「あたし達が通り掛かったというのは不幸中の幸いね」
 ランタンを足元に置き、莉愛の頭を軽く撫でる小鳥遊神楽(ga3319)。
「ぁ‥‥そ、そうだ‥‥お守り‥‥」
 突然何かを思い出したかの様に言葉を発する莉愛。
「お守り‥‥ですの?」
「ぁ‥‥は、はぃ。博翔から貰った大切なお守り‥‥探さなきゃ‥‥」
「今はソレどころじゃないだろっ!」
 クリスティン・ノール(gc6632)の問いかけに対して答えながら、探しに行こうとする莉愛。
 そんな莉愛に対して怒鳴ってしまう博翔。
 と、その時。

 ブーン、ブゥーーン!

 不快な羽音が、博翔と莉愛や傭兵達の周囲で鳴り響く。
「羽音? さっきよりも近いな。博翔君が言っていたスズメバチのキメラか‥‥」
 博翔達よりやや前方にて、凄皇弐式を握り締める神棟星嵐(gc1022)。
「けっひゃっひゃっ、取り囲まれたのだ〜!」
 先見の目を発動させ状況を確認し、周囲を睨むドクター・ウェスト(ga0241)。
 確認できただけでも十数匹が、彼等を取り囲んでいた。
「わたくし達から離れないで下さいませ」
「アトはゆっくり治せばいいなんて思わないで全快させておくべきだったね〜!」
 博翔と莉愛のすぐ目の前に立つメシア・ローザリア(gb6467)。
 メシアと対になる様な場所を陣取り、治療を先にしていなかった事をボヤキながら、全員に対して練成治療を行うドクター。
「ここにもキメラが‥‥。隠れて‥‥動かないようにね‥‥。必ず守るから‥‥」
 人見知りの性格故に内心ドキドキしていたのだが、
 ポーカーフェイスを守りつつ前へと出る幡多野 克(ga0444)。 
「ここからは、俺達の仕事だ‥‥待っていろ」
「博翔さまと莉愛さま、安心してそこで待っていて下さいですの!」
 幡多野より右方にて待ち構える國盛。
 そして國盛よりやや右下方にてワルキューレを天へと掲げるクリスティン。
「いきなりだな。って、アチラさん随分ご立腹だことで‥‥」
 博翔達よりやや左下方にて、必ず守ると言わんばかりに立ち塞がる殺(gc0726)。
「ご飯の邪魔でもされて怒ってるんでしょう」
 小銃を構えつつ、持っていたランタンで周囲を照らす小鳥遊。
 博翔と莉愛を円で囲むかの様な陣形を取るメンバー達。
 お互い遠すぎず、また近すぎない攻防の一閃が計れる距離を保っているようだった。


「出来るだけ、伏せて下さいませ。貴方方が逃げ切れるような、敵では御座いません」
 博翔と莉愛に姿勢を低くするように伝えるメシア。
 と、そこに三匹のスズメバチが、前衛の包囲網を掻い潜り左右より飛来する。
 咄嗟に二人を庇うように立ちはだかるメシア。
 スズメバチ達の針がメシアまで後数ミリに近づいた次の瞬間。 
「けっひゃっひゃっ、我輩が相手だ。覚悟したまえ〜」
 蒼白く輝く超圧縮レーザーがメシアの目前を横切る。
 ドクターの機械剣αだ。
 スズメバチ達は、羽を削ぎ落とされ地面にて足をバタつかせる。
「一応、礼は言っておきますわ」
 礼を述べつつ、手に持っていたグロウを軽く一振りするメシア。
 すると地に這いつくばっていたスズメバチは、ピクピクと体を震わせる。
 その後、二度と動く事はなかった。
 一方、前衛では。
「迅速にキメラを排除する事にしましょう」
 飛来する前方のスズメバチ達に向って、銃弾の嵐を浴びせる小鳥遊。
 スズメバチ達は銃弾を避ける為、四枚の羽を先程よりも激しく羽ばたかせる。
「お前たちの相手はこっちだ、来い」
 甲高い排気音と共に全身が薄く発光する幡多野。
 まるで月の光を反射しているかのように輝く刀を軽く握り締め、大顎で噛み付こうとするスズメバチ達に対して弧を描いてみせる。
 スズメバチ達は、羽や胴体部分を真っ二つに切り裂かれその場へと堕ちて行った。
「さて‥‥一気に片付けるか」
 ターミネーターを脇に抱え、扇状に銃弾を撃ち放つ國盛。
 立て続けに打ち出されていた弾丸の餌食となり、複数のスズメバチ達が地へと這い蹲って行く。
(この子達は必ず護るっ!)
 右手に構えた颯颯にて左から右へと斬り流し、左手に構えたライトピラーにてスズメバチを突き上げる殺。
 更についた反動を利用し、颯颯にて猛襲して来るスズメバチ達を一瞬で斬り落とす。
 その手は淡い光を帯びていた。
「暗闇の中羽音だけがするというのは、とても不愉快ですね‥‥。二人のトラウマに為らなければいいのですが」
 仲間との距離や博翔達を気に掛ける神棟。
 流れるような動作で凄皇弐式を操り、スズメバチ達の胴を真っ二つに両断していく。
「行くですの」
 自身の身長よりも大きなワルキューレを両手で握り締めているとは思えない程のスピードで、スズメバチの右側へと回り込むクリスティン。
 しっかり腰を据え中央に置いた重心を軸に一気にワルキューレを左側へと振り払う。
 スズメバチ達は必死に針で攻撃してくるが、ワルキューレの刀身に阻まれていく。
 残り数匹になった瞬間。
 一匹のスズメバチが、先程とはまるで違う羽音を立て始める。
「一体何だ?!」
 襲い掛かろうとしていたスズメバチが、急に後退し驚く小鳥遊。
 残存するスズメバチ達が高い羽音を立て、突然一箇所に集まりだしたのだ。
「敵が大したこと無くとも、こう暗くては‥‥」
 一通り周回し終えたスズメバチは、一気に神棟の頭上へと下降する。
 慌てて凄皇弐式を振り上げる神棟。しかしスズメバチ達は空気抵抗を利用しひらりとかわし、強靭な顎で凄皇弐式を持つ腕に噛み付いていった。
「動かないでっ!!」
 スズメバチ達の急所に狙いをつけ、銃弾を放つ小鳥遊。
 颯颯を口に銜えるや否や、流れるような動作で左腰の苦無を投げつける殺。
 FFに弾かれながらも牽制としては十分で、神棟から敵を遠ざける事に成功した。
「負傷は治療するが、毒は耐えたまえ〜」
 ランタンを掲げ傷口を癒すドクター。
「逃しても村に被害が出る‥‥一匹残らず殲滅する」
「そうですの‥‥やるですのっ!」
 月詠を強く握り締める幡多野と、ワルキューレを再度持ち直すクリスティン。
「散開しなっ!」
 金色に輝く瞳でスズメバチ達を睨みつけながら、残弾を全て撃ち放つ小鳥遊。
 小鳥遊の攻撃に合わすかの様にシャドウオーブを用いて黒弾を撃ち放つ國盛。
 射撃終了後、スズメバチの懐に一気に入り込むと、右脚に重心を置き地面を蹴り上げる。
 宙を舞うと同時にステュムの爪を用いて、スズメバチを地へとたたきつける國盛。
「これで終わりだ」
 重心を置いた片足にて地面を蹴り、國盛を襲おうとするスズメバチの頭上に舞い上がる幡多野。
 眩いばかりに輝く刃が、スズメバチの頭部と腹部を分断する。
 運よくその場を逃れた最後の一匹はというと。
「必殺! 両 断 剣っ! ですのー!」
 身体の軸とワルキューレの重さを利用しながら、狙いを定めた首周辺を回し斬っていくクリスティン。
 こうして、全てのスズメバチが撃退される。
「けっひゃっひゃっ、サンプルを採取するのだ〜」
 地面に転がるスズメバチキメラを目を輝かせながら調査するドクター。
 敵の容姿や大きさなどを一通り計り終えると、神棟の腕にある赤く腫れた傷跡をマジマジと見詰める。
「むむむ、このスズメバチはどうやら顎部分にも毒を持っているようだね〜」
「熱は‥‥ないですわ。吐き気とかはないですの?」
 救急セットに入っていた消毒薬を傷口付近に吹き付けるドクター。
 神棟の額と自身の額に手を当てながら熱を確認するメシア。
「いえ‥‥それは特にないですよ」
 神棟の答えを聞くや否や安心するメンバー達だった。


「骨に異常はないが痛みが引かなければ、病院で診てもらいたまえ〜」
「大きな怪我はないみたいで‥‥安心した‥‥。2人は‥‥仲良さそうだね‥‥?」
 莉愛の白く綺麗な細い足に出来た傷の具合を確認するドクター。
 傷口を消毒し、手際よく包帯をくるくるっと巻いてみせる。
 ドクターの様子を見て一安心する幡多野。
「ぁ‥‥ぇっと‥‥なんていうか‥‥つ、付き合ってて‥‥」
 耳まで真っ赤にしながら答える博翔。
「諦めずに、良く逃げましたね。博翔君は実に男らしいですよ」
「そ‥‥そんな事ッ! ぃぇ、皆さんに出会えなかったらどうなっていたか‥‥」
 ポンポンっと博翔の頭を撫でる神棟。
 メンバー達にお礼を述べつつ、自身の頼りなさを痛感する博翔。
「それにしても、女性を見捨てなかった‥‥素敵な方ね」
 莉愛に優しく微笑みながら話すメシア。しかし、その笑顔はどこか寂しそうだった。
(わたくしを守って亡くなった愛しい人‥‥今も彼を愛してるのだけど、だけど‥‥)
 博翔と莉愛を見詰めながら心の中で呟くメシア。
 どうやら、彼女には気になっている男性がいるのだが、秘め事とするか悩んでいるようだった。
「ぁ‥‥は、はい! とっても優しい人です」
「なれ初めを聞きたいわね」
「ぇ‥‥な、なれ初めですか?!」
 メシアの問いかけに対して、真っ赤になった頬を両手で隠す莉愛。

 ――莉愛がなれ初めについて話していた丁度その頃。

 メンバー達にコッソリお守りを探してくると告げ、森を散策する五人の姿があった。
「足跡があったぞ」
 忘れられぬ過去という名のお守りにもにたドッグタグを握り締めながら、探査の眼とGooDLuckを用いて周囲を注意深く見詰める國盛。
「頑張って一緒に探しましょうですの!」
 自身にも大切なお守りであるネックレスがあるクリスティン。
 もしそれを失くしてしまったら、物凄く悲しくなると思い必死に草木を掻き分ける。
「お守り‥‥見つけられるといいな」
 そんなクリスティンの頭をポンッと優しく撫でる國盛。
(今を逃したら‥‥見つからないかも‥‥しれない‥‥だから‥‥必ず見つける‥‥)
 草木で手を切っている事など構いもせず探す幡多野。
 その黒い瞳には決意にも似た何かが光っていた。
「こっちには‥‥ないなぁ」
 夜間に森の中に入るのは危険だったが、皆で探す方が早いと考えお守り探しに同行する小鳥遊。
「こっちにもないな」
 戦闘の際に投げた苦無を回収するがてら、お守り探しに同行する殺。
 同じ場所を探さないように互いに注意しながら足跡を辿っていく。
「國盛さま、あの木の枝とかにはないですか? ですの」
「ん? あの木か。少し待ってくれ」
 背の高い國盛に木の枝部分を見てもらえるよう頼むクリスティン。
 もしかしたら、木の枝に引っかかっているのでは? と考えたようだ。
 クリスティンに言われた場所をランタンで灯しながら探す國盛。
「これは?」
 何やら小さなお守り袋の様なモノを見つける國盛。
「可愛らしいですの」
 お守り袋らしきものを受け取り眺めるクリスティン。
 周辺を汲まなく探したのだが他に目ぼしい物は見つからなかった。
 袋の中身まで確かめるわけにはいかず確証はなかったが、取りあえず博翔と莉愛の下へと帰ることとなった。

「あの‥‥お守りって、コレの事ですの?」
「ぁ‥‥わぁ‥‥あ、ありがとうございますっ! ど、どこで見つけたんですかっ?!」
 見つけたお守り袋を大切そうに莉愛に手渡すクリスティン。
 お守り袋を見るや否や、ぱぁっと笑顔になる莉愛。
 どうやら間違いないようだ。
「うん、えっと‥‥ちょっと行った所に落ちてたですの。合っててよかったですの」
 莉愛の笑顔につられて嬉しくなるクリスティン。
 そんな二人を嬉しそうに眺める殺、小鳥遊。
 その傍らで、なにやらポットセットを広げる國盛。
 付属の瓶でお湯を沸かせる一分程置いた後、湯を細く置くような気持ちでゆっくりと注いでいく。
「いい香りですわ」
 周囲に広がるコーヒーの香りに酔いしれるメシア。
「皆、体が冷えただろう? これでも飲んで温まってくれ」
「ありがとう。それで、星を観に来たと言っていましたがどうします?
 星を観に行くというのならこのまま付き合いますし、後日にするなら近くの村まで送りますよ」
 國盛の煎れたコーヒーに舌鼓みしながら話を切り出す神棟。
「そ‥‥そうだ。星‥‥どうする? 怖いなら止めとくけど」
「皆さんも一緒に来てくださるんですよね?」
 気遣う博翔に対して、周囲を見渡しながら答える莉愛。
「そうですね。道案内をお願いできますか?」
 二人の気持ちを重視し答える殺。
 こうして、博翔と莉愛と共に森の奥にある小高い丘へと歩みを進めるのであった。


 煌々と眩いばかりの光を放つ星々が、辺り一面に広がる小高い丘。
「敵襲を警戒しておりますので、お二人の時間を過ごしなさいな」
 折角のデートをキメラに邪魔されてしまった二人に、二人っきりの時間という最高のプレゼントを贈るメシア。
「綺麗‥‥今にも星が降ってきそう‥‥」
 怖い思いをした事など忘れてしまう位の景色に惚れ惚れする莉愛。
 そんな莉愛の横顔を嬉しそうに見詰める博翔。
「ぁ‥‥あのさ、も、莉愛! よ、良かったらコ、コレッ!!」
 真っ赤に顔を染めながらピンクフローライトがあしらわれた指輪を差し出す博翔。
「ぇ‥‥これって‥‥」
 指輪を見て思わずビックリする莉愛。
(頑張りたまえ〜、若者よ)
 心の中で二人の恋愛を応援するドクター。
 下手に手を貸すのは下世話だと思ったが、莉愛の頼みこまれ送り届ける事にしたようだ。
 莉愛は、指輪を左の薬指にはめて貰うと、涙ぐみながら最高の笑顔を見せていた。

「こんなに綺麗に見える場所が在ったんだ」
 二人から少し離れた場所にて、思わず呟いてしまう殺。
「満天の星空‥‥どれがどの星座なのか分からないくらいだ」
 空に広がる星々に見惚れてしまう神棟。
 どうやら春の大三角形とダイヤモンドを探しているようだ。
「綺麗ですの‥‥ね? 國盛さま」
「ぁ‥‥あぁ、本当に綺麗だ」
(‥‥この星空‥‥恋人にも見せてやりたかったな)
 そっと二人を見守りながら心の中で呟きながらクリスティンの問いかけに答える國盛。
(‥‥こうして、時間を共有したかったわ、わたくしも)
 今は亡き愛しい人を思い出しながら二人をそっと見守るメシア。
「‥‥良かった‥‥幸せそう‥‥」
 お守り袋を握り締めながら嬉しそうに微笑む莉愛と博翔を見守る幡多野。
「そうね。キメラの生き残りがまだ居るかもしれないと思ったけど‥‥大丈夫そうで良かったわ」
 周囲を警戒しつつ、チラッと星空を見上げる小鳥遊。

 夜空に浮ぶ星々達は、其々の想いを乗せやがて西の空へと帰っていった。

 〜Fin〜