タイトル:剣舞ノカタリア。マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/12 13:21

●オープニング本文



 ジリリリリ! ジリリリリ!!
 頭を叩き割るかのような甲高い機械音と共に、
 甘ったるい夢の国に別れを告げる一人の女性。
「ふわぁぁー」
 大きな欠伸をし朝日に目を細める。
「お目覚めになりましたか?」
 と、そこに白衣を身に纏った一人の男性が近づいてくる。
「ぇ‥‥ぁ‥‥」
「昨夜の事を覚えていませんか?」
 男の質問に対して、必死に考えるが何も思い出すことが出来ない女性。
「記憶‥‥は、問題ないようですね。後は身体ですが」
 ジロジロと女性を見詰める男性。
「‥‥ぁ‥‥あの。わたしは?」
「ふむ。特に問題ないようですね。あなたはカタリア。カタリア=クォーツ」
 男は何やら手に持っていたタブレット型のノートにチェックしながら答える。
「カタリア‥‥」
 必死に何かを思い出そうとするカタリア。
 だが、何かが邪魔しているのか靄がかかった様な状態に襲われ、何一つ思い出す事は出来なかった。
「わたしは一体、何者なのですか?」
「貴女は、我軍の貴重な一兵卒ですよ」
「それで、あなたは?」
「僕は貴女の上司、とでも言っておきましょう」
 淡々とカタリアの質問に答える男。
「起き抜けですみませんが、お仕事の時間です」
 男がそう言った次の瞬間、カタリアの瞳の輝きが突然消失する。
「イエス。マイロード」
 カタリアとはまったく別のモノが呼び起こされたかの様に目覚める。
「さっそく、僕の為に一仕事してきて下さい」
 男はそう告げ、クローゼットから身の丈より大きな大剣を持ち出しカタリアに手渡す。
「気をつけて行ってくるのですよ?」
 我が子を愛でるかのように頭を撫でる。
 カタリアは無表情のまま、コクリと頷き戦場へと駆けて行った。

「こ‥‥こちら第七十六部隊。至急応援願います」
 あちらこちらで悲鳴が聞こえる中、無線に向って必死に呼びかける一人の少女。
『ザザザ‥‥コチ‥‥ザザザ‥‥何がありまし‥‥ザザザ』
 電波状況がとてつもなく悪いのか無線が途切れ途切れになる。
「突然現れた頭にツノを生やした敵に苦戦中。手には大剣を携えています。至急応援を」
 それでも必死に呼びかける少女。
 と、そこに影が一つ忍び寄ってきた。
「き‥‥きゃあぁぁ」
 少女は、必死に震える手で銃を構えトリガーを弾き、一発の銃弾をカタリアに向けて放つ。
 が、顔に当たった銃弾は硬い皮膚に弾かれ少女の横に転がる。
 少女は必死に何度も何度も銃を撃つが、照準を定めていなかった為当たる筈がなかった。
 空しい抵抗の末、少女は流れるような剣捌きの餌食となった。
 カタリアが少女の血を浴びた次の瞬間。
 輝きを失っていた瞳に、薄く淡い光が戻る。
「‥‥ア‥‥リス‥‥?」
 大剣を握り締めるカタリアの手が止まる。
「ぁ‥‥ぁぁ‥‥」
 大剣を落とし横たわる少女の遺体を抱きしめるその瞳からは淡い水色の滴が零れ落ちていた。
「ぅ‥‥ぁぁ‥‥あたしは‥‥うわぁぁ」
 頭を抱えその場に塞ぎ込むカタリア。
 カタリアが切り殺したアリスと呼ばれた其の少女は、誰よりもよく知った自身の妹だったのだ。
 自分が犯してしまった事を理解できず叫び続けるカタリア。
「い‥‥一体‥‥わたしは‥‥え‥‥分からない」
 困惑しながら周囲を見回すカタリア。
 辺りには、無惨にも切り倒されその場に朽ち果てて行った兵士達が転がっている。
 呆然としながらその光景を望むカタリア。
「‥‥お‥‥思い出した。わたしは‥‥」
 カタリアは忘れてしまった記憶をまるでフラッシュバックでもしたかのように鮮明に思い出す。
(そうだ‥‥わたしは死んだ筈なんだ)

 時は遡る事数日前。
 妹の所属部隊よりも早く現地入りしたカタリアの部隊は、
 バグアの襲撃に遭い戦闘開始の狼煙が揚げられていた。
「わ‥‥わたしは‥‥まだ‥‥」
 次々と同胞達が殺されていく中、必死に立ち向かい一矢報いようとしたカタリアだったが、
 バグア一体にすら太刀打ちする事は出来なかった。
 が、カタリアの中にある何かに魅力を感じたバグアは、片腕を失ったカタリアを拾い連れ帰った。
 そして、カタリアはヒトではないものとなった。

「こんな事になるくらいなら‥‥わたしはあの時に死ぬべきだったんだ‥‥」
 全てを思い出したカタリアは、自害の道を選ぼうとしていた――
 それが軍人として出来る最後の仕事だと考えたのだ。
「見に来て正解でしたね‥‥」
 溜息混じりに呟き、カタリアに近づく一人の男性。
「貴女には、まだまだ働いてもらわなければならないのです」
 男性はそう呟き、カタリアの腹を殴り気絶させると担いでどこかへと消えていった。


 部隊の全滅を受け、北米東海岸のとある前線基地では会議が行われていた。
 一軍が消失するなど日常茶飯事だったが、どうやら今回は無線の内容が問題視されていたようだ。
「あの無線を聞く限りでは、カタリア=クォーツ中尉が強化人間若しくはバグアのヨリシロになった様にも捉えられるが‥‥」
「基地の内部情報が漏れそれを利用して仕掛けられたら厄介な事になるぞ」
「忌々しき事だ!」
 どうやら問題なのは軍出身の人間が敵の手に落ちた事ではなく、
 軍の機密事項が敵に知られてしまい攻め込まれるという事の様だ。
「しかし、捜索兼討伐に割くだけの人員はないぞ」
「それでは放置しろと?!」
「ん〜む‥‥このまま手を拱いている訳にもいくまい」
 難しい顔をし、沈黙する一同。
「傭兵に依頼するというのはどうでしょうか?」
 何かを思いついたかの様に話を切り出すシグナス中尉。
「今はまだ、情報が利用された様子はなく、敵がクォーツ中尉を情報源として見ていない可能性があります。しかし、こちらが動いた事を察知された場合、敵は我々の目的を知ると同時に、彼女の『価値』に気付くでしょう。傭兵達には、秘密裏に作戦を遂行していただくよう願い出てみましょう」
 頭の固い上司達を必死に説得するシグナス中尉。
「相分かった。何かあれば、シグナス。貴様が責任を取るのだな?!」
 上司の言葉に溜息を吐きながらも、大きく頷くシグナス中尉。
 こうして、一見の事件の捜査と犯人の討伐は傭兵達に託される事となった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
加賀 弓(ga8749
31歳・♀・AA
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
滝沢タキトゥス(gc4659
23歳・♂・GD
玄埜(gc6715
25歳・♂・PN

●リプレイ本文


 北米東海岸のとある前線基地にて。
「すまない、待たせてしまった」
 写真を片手にメンバーと合流する白鐘剣一郎(ga0184)の姿があった。
 どうやらシグナス中尉から、カタリアの写真を借りてきた様だ。
「これが、カタリアだそうだ」
 写真を横に回しつつ、メンバー全員に入手したカタリアの情報を伝える。
 白鐘が入手した情報は、
 一つ、背丈が約百五十〜百六十cmであるという事。
 二つ、靴の大きさは約二十四cm程であるという事。
 三つ、髪色は蒼、瞳は銀色。
 四つ、襲撃したモノは、カタリアで間違いないが角が生えていたらしいという事だった。
「この方が、カタリア中尉ですか」
 写真を見つめ、特徴を覚える加賀 弓(ga8749)。
 その瞳には、何やら固い決意の様な物が宿っていた。
「名前からして分かってはいましたが、女性ですねぇ」
 相手が強化人間等であれば仕方がないと言わんばかりに溜息を一つ溢すジョシュア・キルストン(gc4215)。
「作戦は連絡の途絶えた先行部隊を捜索する傭兵隊で問題ない?」
 今回の作戦について説明をする綾河 零音(gb9784)。
「基地のー方から、来たのが、分かればー、軍が動いてるとー思われるーかもしれません、から〜。班を分けてはー?」
 事前に綾河が入手した地図を見詰めながら意見を提案するラルス・フェルセン(ga5133)。
「そうですね。自分も他方向からのアプローチがいいと思いますよ」
 ラルスの意見に賛同する滝沢タキトゥス(gc4659)。
「遠近バランスとか考えたら、こんな感じかなー?」
 砂地部分に名前を記し、班をざっくりと分ける綾河。
「‥‥私は特に異論はありません‥‥」
 班分けに対して答える鈴木 一成(gb3878)。
「私はA班だな。異存はないぞ」
 A班のメンバー達の顔を見回しつつ話す玄埜(gc6715)。
「それじゃ、これを渡しとくわ」
 くるくるっと巻かれた地図を加賀へと渡す綾河。

 こうして、一行は二つに別れ現場へと赴くのであった。

●A班(加賀・ジョシュア・鈴木・玄埜)
 基地より直進する進路にて目的地へと歩みを進めていた。
「バグアによる悲劇ですか」
 地図を開き、足跡等がないかどうか確認する加賀。
「悲劇‥‥そうですねぇ‥‥
 それにしてもレディをこんな所に一人でほっぽり出すとは‥‥」
 やや後方にて双眼鏡を覗き込みながら話すジョシュア。
「‥‥そうですね‥‥」
 足跡等が残されていないかどうか注意深く地面を見詰める鈴木。
「仕方ねぇな。バグアってのはそういう奴等だぜ」
 目に入った砂埃を拭いつつ言葉を吐く玄埜。
 季節のせいかそれとも別の要因のせいなのか、草木が全く生えていない荒野を進む四人。
 基地を出発してから数十分経った頃。
「‥‥すみません‥‥あそこに‥‥」
 鈴木が指差した先には。
 壊された機材や、人々の遺体や血痕などが辺り一体に広がっていた。
「これまたすごいですねぇ」
 想像していたよりも悲惨な現場を目にし、思わず呟くジョシュア。
「ここで間違いなさそうですね」
 持っていた地図を確認しつつ、目的地である事を告げる加賀。
「この切り口から察するに、敵の得物は大剣か?」
 遺体や両断された機材を確認し、敵の所有武器を判別する玄埜。
「‥‥すみません‥‥皆さん‥‥これを見ていただけますか?」
 周囲を警戒しつつ索敵していた三人を呼び寄せる鈴木。
「‥‥女性の靴跡‥‥だと思うのですが‥‥」
 そこには、二十四cm位の足跡と二十七cm位ある足跡が残されていた。
「片方は、多分カタリア中尉のモノでしょうね‥‥」
 足跡が続く方向へと目を向ける加賀。
「どこかで様子を見ているヒトがいたのかもしれませんね」
 双眼鏡にて周囲を見回すジョシュア。
「どちらにせよ、気をつける事だな」
 今回の作戦を悟られぬよう、地面を触り調査の振りを行う玄埜。

 一方、B班(白鐘、綾河、滝沢、ラルス)
 基地よりやや周回するような進路にて目的地へと向っていた。
 どうやらB班は、A班とは反対側から侵入するつもりのようだ。
「今の所は側面・後方共にクリア、だよ」
 バイク形態にて先行しつつ仲間に連絡する綾河。
「‥‥バグアはよほど人の心を弄ぶのが好みらしいな」
 入手した写真を眺めつつ呟く白鐘。
「そうですね‥‥」
 自身も元兵士だったため、複雑な表情で写真を覗き込む滝沢。
 何やら思うところがある様だった。
「実の妹をー手にかけるーですかー」
 洗脳されている方が幸せだっただろうと考えつつも、
 相手は多くの命を奪った犯人であることに変わりはないと考えるラルス。
「そろそろ、目的地周辺ですかね?」
 周囲を警戒しつつ確認する滝沢。
 出発してから約一時間程、周囲の景色は変わり映えのしない荒野ばかりだった。
 太陽の位置を確認し、進んでいる方角は解っているもののその他は何も分からなかった。
「そろそろ、A班と直線上になってもいい頃だが‥‥」
 先行する綾河に質問を投げかける白鐘。
「待って、確認してるから」
 方位磁石は無かったが、地図と太陽を見比べながら慎重に現在地を割り出す綾河。
 目的地まではあと数kmの所まで来ていると推測できた。
「了解」
「一層警戒がー必要ですねー」
 迂回するという事は、様々なリスクが出てくるのだが‥‥
 綾河が借りた地図のお蔭もあり、迷子になる事無く歩みを進めるB班。
 程無くして。
「ん? 足跡みたいなのを発見したわよ」
 綾河より足跡を発見したという連絡が入る。
 慌ててその場へと駈けて行く三人。
「まだ新しいな」
 砂埃が舞い上がる荒野についた足跡を覗き見る白鐘。
「見て下さいーあっちにもーありますよー」
 足跡が延びている方角を指差すラルス。
「目的地の方じゃないですか?」
 自分達のいる場所など色々な事を考え口を開く滝沢。
 と、そこに。
『こちらA班。セイゾンシャを発見しました』
 加賀からの無線連絡が入って来る。
「セイゾンシャ‥‥?」
 四人はハッと顔を見合わせる。
 そう、セイゾンシャとはカタリアの事なのだ。
 こうして四人は現場へと駈けて行くこととなった。
 

●カタリアとご対面
 出発前に写真で見たモノとは全く違うカタリアがA班の前に立ちはだかっていた。
 瞳には輝きがなく角を生やしたモノだった。
「こんにちは。お茶でもどうですか‥‥と言いたい所ですが、どうもそんな空気じゃないですねぇ」
 見た目からして人在らざるモノだったが、
 カタリアが目的だという事を悟られぬよう後方より話しかけるジョシュア。
 しかしカタリアは話す気配がなかった。
 それどころか、背負っていた大剣を抜刀したかと思うと構え振り下ろしてきたのだ。
「柄ではないですが、介錯仕ります」
 加賀は無風にも関わらず長い髪と着物の袖を煽らせたかと思うと、
 赤色を放つ刀を抜きカタリアの大剣を受け止めた。
(クッ‥‥重い‥‥)
 上から振り下ろされたカタリアの大剣が想像していたのよりもずっと重かった為、
 自身の剣を左下方へと流すと共に、大剣を振り落とし後方へと飛ぶ加賀。
「‥‥させません‥‥」
 カタリアは即座に構えようとしたが、その瞬間を狙い大剣の柄を狙いトリガーを引き銃弾を放つ鈴木。
「仕方ありませんねぇ」
 女性と戦う趣味はないと言わんばかりに少し溜息を溢しながら、
 小銃ルナを構えるジョシュア。
 カタリアの右側へと回り込み援護射撃を行う。
「大層な業物よな、それで己が妹を斬り潰したか!」
 蛇剋を構えつつ、カタリアを揺さぶる玄埜。
『妹』という単語を聞き、一瞬躊躇するが尚も大剣を振りかざすカタリア。
「肉親を手にかけるなど、随分と罪深きことよ」
 カタリアの大剣を受け止めつつ、更に言葉を発する。
「どうした化け物、私も潰してみろ、貴様が、自分の手で、仲間と妹を潰したようにな!」
「ぁ‥‥ぅぅ‥‥」
 膝を突き片手で頭を抱えその場に倒れこむカタリア。
 その瞳には、淡く今にも消えてしまいそうな光が宿されていた。
 どうやら玄埜の投げ掛け続けた言葉を聞き、感情という物が出てきた様だ。
「ぁ‥‥わ‥‥わたしは‥‥」
 混乱し握り締めていた大剣を見詰めるカタリア。
 その剣には、沢山の返り血が染み込んでいた。

 と、そこにB班が合流する。
 洗脳が不完全なのか、カタリアの戦意が失われている事は一目瞭然だった。
「‥‥話があるなら聞こう」
「分からない‥‥わたしは、確か‥‥」
 白鐘の問いに対して、カタリアは必死に何かを思い出そうとする。
 きつく締め付けるような頭痛を堪えながら、全ての経緯を話す。
「そうだ‥‥わたしは‥‥アリスを‥‥皆を‥‥」
 次から次へと零れ出る滴を掌で受け止めるカタリア。
「貴女の事情は理解しますし同情もしますが‥‥」
 人を殺める前であればとジョシュアがいいかけようとしたその時、
 カタリアは縋る様に手を伸ばす。
「お願いです‥‥わたしを‥‥わたしを殺して下さい‥‥」
 必死に願いを伝え様とするカタリア。
「言い残す事があれば聞きましょう。人間として死ぬのであれば、語りたい事の一つや二つあるでしょう?」
 悔いが残らぬ様にと、話しかけるジョシュア。
「アイツは‥‥」
 自身をこんな姿に変えたヤツについての情報を必死に語ろうとする。
 が、遠くの崖を見るや否やカタリアの顔色が見る見るうちに青白く変わってしまう。
「おい?! 大丈夫か?」
 蒼白色へと形相を変えていったカタリアに声を掛ける白鐘。
 だがその瞳には、先程までの薄い光はなかった。
 立ち上がり大剣を構えるカタリア。
「‥‥死という逃げ道へ案内しましょう。楽になれる保証はしかねますが」
 アルファルを構えるラルス。
 こうして再戦の狼煙が揚げられた。


 竜の翼を用いて一気にカタリアの側面部へと入り込み一撃をお見舞いする綾河。
 その後、即座にリンドヴルムに練力を流し込み真上へと蹴り上げていた。
「超無様なんですけど何それ? もーっと上手に踊って下さらない?」
 自身で妹を殺したから死にたいなど、
 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに攻撃と罵声を浴びせる綾河。
「当たれば痛いだけではすまないぞ」
 奉天製SMGを構え宙を舞うカタリアに向って銃弾を浴びせる滝沢。
 体勢を崩しているカタリアは、全てをかわす事が出来なかった。
 カタリアが地に着く前に瞬間移動したかの如く背後へと入り込む玄埜。
「ハーハハハハ! 
 始末屋が日中堂々と正面から来てやったのだ、安心して黄泉路へ旅立たせてやろう!」
 カタリアの首筋に向ってまるで円を描くかの様な打突を行う。
 咄嗟に身体を捻り玄埜の攻撃をかわそうとしたその時。
「弓だからと安易な判断はしない事です」
 自身より左斜め前にやや弓を押し開き、手の内を整え構えつつ矢を放つラルフ。
 矢を避けることを優先したカタリアに対して、
 蛇剋の剣先は逃がす事無くカタリアの頚動脈を斬り裂いていった。
 吹き上がる血吹雪きを片手で押さえ立ち上がり、尚も一同へと大剣を向けるカタリア。
 力の限り振り落としてくる大剣をインフェルノで受け止める綾河。
 武器の重量で言うなら両者共にいい勝負というところだろうか。
 虫の息にも等しくなっていくカタリアには、競り合う力すら残されていなかった。
「貴女の喜劇を終わりにしよう」
 足元から崩れ落ちるカタリアを更に弾き飛ばす綾河。
 大剣を地に突き必死に立ち上がろうとするカタリアに対して、
「天都神影流秘奥義 神鳴斬っ!」
 甲高い排気音を鳴らす紅炎をカタリアに向って突きつける白鐘。
 その姿は薄く光っているようにも見えた。
 やがて紅炎が紅色に光輝いたかと思うと、カタリアの胸元へと紅い一閃が描かれた。
 紅く染まった空を見上げながら、その場へと倒れ行くカタリア。
「‥‥ぁ‥‥ありが‥‥と‥‥」
 地へと倒れ行くほんの僅かな間、カタリアという自我を取り戻した彼女が残した最後の言葉だった。
 こうして、カタリアの討伐は終わりを迎えたのであった。


 カタリア討伐後。
 カタリアや部隊の方々の遺体に手を合わせる鈴木の姿があった。
 カタリアを含め犠牲になった全ての人の為に、せめて冥福だけは。
 と考えているようだった。
「‥‥」
 鈴木はカタリアに対して掛ける言葉を必死に考えるが、何と言えばいいのか分からなかった。
「せめて、安らかに逝け‥‥それが自分に出来る弔いだ」
 一歩間違っていれば彼女と同じ道を歩んでいたかもしれないなど、
 様々な気持ちが入り混じり複雑な表情を浮かべる滝沢。
「もうどこにも居ない貴女の為に‥‥」
 その場に散らかされた残骸の中から、墓標になりそうなモノを見繕う加賀。
 もし自身がカタリアと同じ境遇であった場合、
 自身も死を選んでいただろうなどと考えながら十字架を地へと突き刺していた。
「うむ。この悲劇はここにしかないモノ」
 自身にとって悲嘆など縁がない事だと考えつつ、手を合わせる玄埜。
「きっと彼女の願いは叶えられたのではないでしょうか?」
 一歩後ろにて、ヘルムを外し墓標に向って一礼するジョシュア。
「然るべき場所で妹さんにも会ってる事でしょう」
 罪が消えるわけではないから楽にはなれないかもしれない。と、
 心の中で呟くラルス。
「せめて安らかに眠ってくれ」
 カタリアだけではなく、全てのモノ達に黙祷を捧げる白鐘。
「それじゃぁ帰るわよ」
 綾河は、黒幕である謎の人物の警戒に当たっていたのだが、
 どうやら現れる気配がなかった為、メンバーの元へ戻ってきたようだ。
 一同は、沈み行く太陽に見送られながら前線基地へと歩みを進めるのであった。

 〜Fin〜