タイトル:飛来、漆黒の竜群マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/04 12:49

●オープニング本文



 静寂な夜の空、今にも零れ落ちてきそうな星空に酔っていた。
 こんな静かな夜、僕は一人の女の子の事を思い出す。
 ――必ず無事に帰ってくるって約束してね?
 白銀のストレートな長い髪をなびかせ、紅い瞳で真直ぐに僕を見詰める瑠華。
(大丈夫。今日もこんなに静かでいい夜じゃないか)
 シンは心の中で呟き、周辺の警戒飛行を続けた。
 危険が背後より忍び寄ってきている事など気付きもしないで‥‥


「こ‥‥こちら、2405号機。し、至急応援をっ」
 顔色を蒼白にし、必死に操縦桿を握るシン。
 機体の後ろには巨大な漆黒の竜達が迫っていた。
(何時‥‥どこで現れたんだ‥‥)
 レーダーには何の反応もなかった為、突然現れた様にシンは感じたのだろう。
 実際は夜空を眺めていた頃、二万ft左上空辺りから狙われていたのだが‥‥
 そんな事は知る由もなかった。
 パニックになりながら必死に振り切ろうと操縦するシン。
『こちら管制室。2405号機、現状報告を願います』
「早く! 追いかけられているんだ!!」
 報告する余裕など蟻ほどもなかったシンは、兎に角叫んだ。
 漆黒の竜は、大きな二枚の翼を羽ばたかせ、上空へと一気に昇る。
「‥‥アレ?」
 後部から伝わってきていた殺気が急に消えた為、恐る恐る後ろを振り返るシン。
「いない? 助かったのか?」
 少し安堵した次の瞬間。
 頭上から物凄い衝撃が伝わる。
「ウ‥‥ウワアァァ」
 後部に居たはずの竜の鉤爪がコックピット部分を鷲掴みしていたのだ。
『どうしました? 2405号機、応答願います』
「り‥‥竜が‥‥ウ、ウワアァァ‥‥」
 こうしてシンとの応答は途切れ、
 翌日、海原にシンの乗っていた機体がバラバラとなりゆらゆらと揺られていた。


「ど‥‥どうして‥‥」
 シンの死亡を空軍のとある一室にて報告される瑠華。
「すまない‥‥入籍したばかりだというのに‥‥」
 拳を握り締め、唇を強く噛み締める上官。
「‥‥何故‥‥約束したのに‥‥必ず帰るって‥‥」
 両手で目を覆いその場に泣き崩れてしまう瑠華。
「お腹の子に障ってしまうといけないから、せめて椅子に座ってくれ」
 瑠華の腕を強く握り、ソフェに座らせる上官。
「シンは‥‥どこで‥‥?」
「報告によると、伊奈宵島より南南西に150キロ付近だそうだ」
「そ‥‥うですか‥‥すみません、上官。今日は‥‥早退‥‥させて頂きます」
 ふらっと立ち上がりその場を後にする瑠華。
 この時、上官は何やらとても恐怖にも近い不安を抱いた。

 ――其の夜。
 空軍の飛行場に瑠華の姿はあった。
「ダメです。瑠華さんの出向は許可されていません!!」
 必死に叫ぶ声が響き渡る。
「どいて! 今から行くところがあるの!!」
 瑠華は止める手という手を薙ぎ払い、愛機であるラプターに乗り込む。
(待ってて‥‥必ず、必ず仇は討つから‥‥)
 コックピットにシンから貰ったペンダントをぶら下げ誓いを立てる瑠華。
 操縦桿を強く硬く握り締め、瑠華は夜空へと飛び立っていった。


「何だって!!」
 瑠華が無理やり飛行した事の知らせを受け叫ぶ上官。
(クソッ! あの時感じた不安はコレだったのか)
 心の中で呟き、何故あの時止めなかったのかと後悔する。
『シンの機体から回収した映像を分析した結果、敵と思わしきものが映っていましたが‥‥』
「なんだっ?!」
『ぁ‥‥はい。巨大な漆黒の物体が‥‥』
 そこまで聞いた次の瞬間、上官は電話を切ると慌てて上層部に連絡し出動要請についてかけあう。
 が、別の戦場に人員を割いている事を理由に突っぱねられてしまう。
「困った‥‥今、手が空いている人員は‥‥」
 KVが全て任務で出払っている事とギッシリと詰まった予定表とを見詰め、大きな溜息を溢す。
(機体もなければ人員も割けないか‥‥)
「悩んでいる暇はない。外部でも何でもいいから応援を‥‥」
 ポンッと手を合わせ、ULTの存在を思い出す上官。
「夜中にすまない。近畿UPC軍南方警戒飛行部隊長 御影雪路中尉だが‥‥」
『ULT本部オペレーターのルリルです。御影中尉殿? どうなさいました?』
 オペレーターのルリル・ツン・デレッタ(gz0468)が少しビックリしながら応答する。
 UPC軍から電話がかかってくるという事は、本当に稀な事だったからである。
「頼む! 依頼を引き受けてくれ‥‥お願いだ‥‥」
『‥‥わかりました。詳しくお聞かせ願います』
 尋常ではない雰囲気に圧倒されつつも依頼内容を聞くルリル。
 御影中尉は起こった出来事を全てルリルに話す。
 ――無線でのやり取りの内容。
 ――伊奈宵島より南南西に150キロ付近で警戒飛行していた機体が堕とされた事。
 ――そのモノの嫁が、お腹に子供がいるにも関わらず特攻してしまった事。
 ――敵は、巨大な漆黒の物体が複数であるという事。
「頼む! アイツの身体はもうアイツ一人のモノじゃないんだ。これで何かあれば‥‥」
 亡くなったシンに申し訳が立たないと言わんばかりに懇願する上官。
『わかりました。お引き受けします。そこで、悪いのですが至急資料を持ってきてくださいますか?』
「あぁ、分かった。今すぐ持っていく。ありがとう‥‥」
 電話を切り、慌てて資料をかき集め最寄のULT出張所へと駆けて行くのであった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
殺(gc0726
26歳・♂・FC
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文


「すまないが、宜しく頼む」
 伊奈宵島まで案内し瑠華の事を一行に託す御影雪路中尉。
「‥‥お腹の中にいる赤ちゃんのことを考えないなんて、お母さん失格なの!
 ファリスがきちんとお説教して基地に帰還して貰うの!」
 叔母夫婦の子供の顔を思い浮かべながら約束するファリス(gb9339)。
「幾らなんでも無茶だ」
 間に合ってくれと願いつつ、敵を討つ事で瑠華の気持ちが少しでも落ち着けば‥‥と考える殺(gc0726)。
「気が治まらんともなれば‥‥突っ走る気持ちもわからんでもねぇが」
 絶対に守り通すという決意を瞳に宿しつつ、
 事前に御影中尉より確認した瑠華機の識別番号を一同に伝える館山 西土朗(gb8573)。
「クソッタ‥‥いえ。バグアの寄生虫野郎のせいで忘れ形見まで死なせる訳にはいかないわよ」
 満天の星空を見上げ、瑠華の無事を願うエリアノーラ・カーゾン(ga9802)。
「これ以上犠牲者は出させませんわ。竜が悪役というのも許せませんしね」
 自機の外見を思いっきり改造させ飛竜に似せる程、竜や爬虫類が大好きなお姉様。
 ミリハナク(gc4008)の瞳には怒りにも似た炎が燃え滾っていた。
「頼むよチョコ。みんな守るんだっ」
 無謀な一人での特攻を阻止しなければならないという思いを胸に秘めつつ夜空を見詰めるヨグ=ニグラス(gb1949)。
 一行は行動に優先順位を付け、其々ロッテを組み満点の星空を翔けて行くのであった。


「よくもシンを! 私はお前達を許さないっ!!」
 ラプターを華麗に操縦し、一体の巨大な漆黒竜の後ろに張り付く瑠華。
 主兵装であるレーザーを用いて攻撃しようとした次の瞬間。
 ラプターは、多数の竜に囲まれてしまった。
「死なば諸共、お前達を殺してやるっ!!」
 瑠華が鋭い目で竜達を睨みつけていた其の時。
「諦めるな」
 高出力ブースターを用いて極超音速流で現場へと翔けつけるUNKNOWN(ga4276)。
 小型ホーミングミサイルを発射させる事により出来た隙間に、
 翼の特殊コーティングした刃を用いて瑠華機後方の敵を切り刻みつつ、
 前へと機体を捩じり込ませていく。
 その後、「この場を撤退し、シンを探せ」と瑠華に伝えるUNKNOWN。
「五月蝿い! シンは‥‥シンはもうどこにもいないのよっ!!」
「自分の目で確かめたのか? そうじゃないだろ?」
 怒鳴る瑠華に対して尚も続けようとした次の瞬間。
 竜が鋭い鉤爪で鷲掴みにしようと襲い掛かってきた為、
 煙草を銜えつつ機体を軽く捻り返すと共に翼を用いて敵を牽制する。
「どうして‥‥どうして私の邪魔をするのっ!!」
 叫びながら、前へと出ようとする瑠華を必死に抑える。
「信じろ。生きてい‥‥」
 シンの生存を信じろと伝えようとした其の時。
 後方にて銃声がしたかと思うと、月明かりの夜空を一層明るく照らし出す。
 ミリハナクが放った照明弾だ。
 どうやら他のメンバー達も近くまでやって来ているようだ。
「何? 照明弾?!」
「仲間が来た。いいか? 瑠華、お前は一人ではないのだよ」
 訳が分からず戸惑う瑠華に自分達が来た理由を伝えるUNKNOWN。
 と、そこに天馬の紋章が刻まれた一体のKVが翔け抜けて来る。
「待たせたな」
 UNKNOWNを追い加速して来た白鐘剣一郎(ga0184)だ。
「愛する者を失い仇を討ちたいという気持ちは否定しない。
 が、それも状況による。何より君は今普通に戦える状態ではあるまい」
 瑠華に落ち着いた声で話しかける白鐘。
「五月蝿い! 私はシンを殺したアイツラを討つんだ!!」
 操縦桿を握り締め二機を追い抜くために、上空へと舞い上がる瑠華。
「仕方ない」
 上方に進路を変更しつつラプターと同じ軌道を取るUNKNOWN。
「全く無茶をする」
 瑠華の進路を塞ぐ為、やや下方の進路を塞ぐ白鐘。
「どうして! 何で邪魔するのよっ!!」
 瑠華の瞳からは、次から次へと止まる事を知らない滴が零れ落ちていく。
「先程も言ったが邪魔をしているのではない」
 冷静にとても落ち着いたトーンで語りつつ、瑠華機が前に出ないように操縦するUNKNOWN。
「お願いだ。後退してくれ」
 必死に説得を試みる白鐘。
 本来なら、多少強引な手を使ってでも後退させるのだが、
 瑠華の身体を考えるとそうする事はできなかった。
 UNKNOWNと白鐘が必死に瑠華の足止めを行いつつ援護してから数分が経った頃。
 可能な限りスピードを出し現場へと向っていたメンバー達が到着する。
「お待たせ。なの」
 挨拶と共にジークルーネより長距離ガトリング砲を用いた弾幕射撃を行うファリス。
「闇夜のカラスじゃあるまいし‥‥」
 竜達が群れているのを見て呟きつつ、
 ファリスの攻撃に合わせる様に天人よりKP−06ミサイルポッドを発射させる殺。
 竜達は、攻撃を避けるため分断されていった。
「そっちは任せたよ」
 ヨグと館山に声を掛けつつ、敵陣へと翔けて行く殺。
「仇が討ちたいんでしょ? なら手伝ってあげるわ」
 横目で瑠華機を流し見つつ前線へと出るエリアノーラ。
「瑠華さん、僕達はあなたを邪魔する為に来たんじゃありません。
 だから一緒に倒す事を考えて!」
 まるで瑠華機に寄り添う様に飛行しつつ、ミサイルを用いて敵を牽制するヨグ。
「そうだぜ。だから少し作戦会議をしようじゃねぇか」
 UNKNOWNとバトンタッチする様な形で瑠華機の前へと躍り出る館山。
 こうして竜戦の火蓋は切られた。


「邪魔しに来たのじゃないのなら、そこをどいて!!」
「お願いです! 無茶な特攻をしないで!」
 必死に瑠華を説得するヨグ。
 それでも、特攻しようと機会を探っては前へ出ようとする瑠華。
「貴方軍人さんでしょっ!無謀すぎますっ」
 思いつく限りの言葉を発し瑠華に伝えるヨグ。
「俺たちを信用してくれねぇか?」
 ラプターの進路を塞ぎ、特攻しないように注意する館山。
 しかしどんな言葉を掛けようとも、全く引く気配を見せない瑠華。
「もうお母さんになるんでしょ! お腹の赤ちゃんの事を考えて!
 旦那さんの忘れ形見なんでしょ!」
 必死に瑠華の心に向って叫ぶヨグ。
「そうだぜ。母親が守ってやらなくてどうすんだ!」
 ヨグに続き言ノ葉を瑠華に投げる館山。
 旦那の忘れ形見という言葉を聞き、ハッと我に返り片手でお腹をさする瑠華。
「赤ちゃん‥‥私とシンの結晶‥‥
 シンが夢にまで見た大切な大切な命‥‥」
 瑠華の瞳から涙が一滴また一滴と零れ落ちていきそれ以上言葉にする事は出来なかった。

 瑠華を説得していた其の頃。
 次々と飛来する竜達を分断させ、瑠華機から引き離すメンバー達。
「どれだけの数が居るんだ?」
 次から次へと飛来する竜達をバルカンとミサイルで撃ち落していく殺。
「敵はファリス達が惹きつけておく。なの」
 殺よりやや後方を飛行しつつ、誘導弾を用いて自機へと惹き付けていくファリス。
 殺とファリスは、互いに螺旋を描くかのように飛来し確実に1匹ずつ堕としていく。
 惜しみなく放たれる弾の爆発により、辺りは紅い閃光で照らされる。
「前方より一匹来るの」
「任せろ」
 ファリスの通信を受け、エアロダンサーを用いて歩行形態へと瞬時に変形させ、
 獅子王を握り締める殺の愛機天人。
 一気に敵の真下へと潜り込み獅子王を振り上げ敵を撃破する殺。
「さて、と。今から本番、だな」
 静かに冷たい瞳で竜達を睨み、敵分布位置などを把握していくUNKNOWN。
「これが竜なのかしら? ふふふ‥‥喰らってみればホンモノかわかりますわね」
 九頭竜を用いて、夜空を真っ二つに割るかの様な攻撃を繰りなすミリハナク。
 両者は機体を軽く翻し、上方や下方へと移動する。
 四体の竜が二人に飛びつこうと必死に後ろを追い出す。
「右回りを心掛けてくれ」
 瑠華機の位置を考慮しつつ指示を出すUNKNOWN。
「了解ですわ」
 指示を受け、操縦桿をやや右へと傾け竜達と戯れるミリハナク。
(やっぱり私のぎゃおちゃんの方がかっこいいですわ)
 竜達を観察し心の中で愛機ぎゃおちゃんに惚れ惚れしていた。
 そのぎゃおちゃんはというと、
 本物の竜かの様に翼を羽ばたかせまるで竜達を嘲笑うかの様に夜空を飛行する。
 ぎゃおちゃんと竜達の距離は縮まる事を知らず、
 とうとうイラついたのか竜は口を大きく開いたかと思うと炎弾を放つ。
 ミリハナクが戯れている間に、竜達の背後へと回りこむUNKNOWN。
 対流や抵抗を駆使しまるで鷹が舞うかのように飛行しつつ、
 一気に至近距離まで捻り込み、ソードウィングにて竜の足を薙ぎ斬る。
 足を無くした為バランスを崩しふらふらしながら飛行する竜。
 さらに追い討ちをかけるかの様に、
 ビームコーティングされたぎゃおちゃんの翼を用いて、竜の翼を斬り裂いていくミリハナク。
 飛行手段である翼を失った竜は、海面へと一直線に堕ちていった。

 さらに左前方では。
「余り時間は掛けたくない。最初から全開で行く」
 エリアノーラに常に声を掛けつつ連携を図る白鐘。
「左方より三体、前方より一体接近。来るわよ」
 敵数や敵の増援など多少気になる点もある為、やや後衛に徹するエリアノーラ。
「前方のヤツを頼む」
 操縦桿をやや右上へと傾け左方より襲撃してくる二体を自機に惹き付ける白鐘。
 竜達は高速の炎弾を吐き出し、翼をバタつかせながら流星皇に喰らい付いていった。
「んーぅ、仕方ないわね」
 フォロー中心に動くつもりだったが、
 タフさにはそこそこ自信があった為、前へと出るエリアノーラ。
 PCB−01ガトリング砲を用いて、前方より襲来する竜と真っ向勝負をする。
 数十発の砲弾を竜の翼や胴体部分に命中させ、
 薄墨色へと塗り替えられた空域を一気に翔けて行く愛機空飛ぶ剣山号。
 コーティング加工された翼部分を光らせながら、空域の中にある黒い影へと一気に突き進む。
 黒い影を二分したかと思うと、海原へと堕ちていく一体の竜。
「ふぅ、これでお終いかしら?」
 上空にて戦っている白鐘の方を見詰めつつ、腰部分まである金色の美しい髪をなびかせるエリアノーラ。
 其の頃、流星皇はというとやや上空にて二体の竜に追い回されていた。
 初弾を回避したところで安心することはできない、敵は二体。
 横滑り運動を終えた自機に第二、第三の矢が放たれる事くらい理解している白鐘。
 数での不利を、腕でカバーしていく。
(上昇時多少スピードが落ちているな‥‥)
 どうやら、スピードや攻撃など敵の機動力を調べていたようだ。
(それなら‥‥!!)
 機体を左右へ滑らせに空を泳ぐ海豚の如く敵の攻撃を華麗にかわし、
 一瞬出来た隙に上空へと舞い上がったかと思うと、一気に下降させる白鐘。
「悪いが俺は少々機嫌が悪い。トカゲども、この空から早々に退場して貰うぞ」
 上昇する竜と下降する自機が対面した次の瞬間、ソードウィングを用いて竜の腹部を斬り裂く白鐘。
「残るは、あと一体」
「うん、アレは弱らせておきましょ」
 こうして最後の一体を瑠華に討たせてあげるべく、
 確実に弱らせていく六人であった。

 一方、瑠華護衛班。
「作戦は以上です。瑠華さん身体の方はどうです?」
 落ち着いた瑠華に一通りの作戦を伝えるヨグ。
 笑顔で「大丈夫」と答える瑠華。
 その瞳からはもう涙は零れていなかった。
「それじゃ行くぜ!」
 館山の掛け声が合図となり、前線へと翔けていく三人。
「仇を残しておいたわよ。だけど無理はなしよ?」
 合流した三人に話しかけるエリアノーラ。
「まずは無事に戻ることからだ。くれぐれもシンが君に残した幼い命を大切にな」
 小さな命と瑠華の身体を気遣う白鐘。
「‥‥瑠華姉様は一人きりじゃないの。
 お腹の赤ちゃんの為にも、生きてお父さんのことを伝えないと駄目なの。
 だから、死に急ぐのは最大の裏切りなの!」
 瑠華機に寄り添い、再度念を押すファリス。
「はい‥‥皆さん、有難う」
 笑顔で無理をしない事を伝える瑠華。
「後数発でヤツは沈むはずですわ」
 瑠華に優しく微笑みかけるミリハナク。
 瑠華機を守るかのように周囲を取り囲む一同。
「行って来い」
 煙草を銜えつつ瑠華の背中を押すUNKNOWN。
 一同に守られながら、最後の一匹の元へと飛ぶラプター。
 先導を切って敵へと突っ込む館山。
 完全無力化を図るために爪などに狙いを定めつつホーミングミサイルを放つ。
 その後も、敵の周囲を円を描きながら飛行する館山。
 瑠華機が敵を射撃できる距離に到達するまで、惹きつけておくつもりの様だ。
 その間に瑠華機を先導するかのように前へと出るヨグ。
「作戦開始ですっ!」
 チョコの右翼をやや下方へ傾けつつ、瑠華を誘導する。
「館山さん、いきます!」
 ミサイルが発射準備に入った事を知るや否や、下方へと翼を翻す館山。
 ヨグの攻撃と合わせるように、ホーミングミサイルを竜へと撃ち放つ。
「皆も残っている全てを一点に叩き込んで!」
 ヨグの言葉を受け、メンバー達も残存ミサイルなどを用いて一点集中砲火を竜に浴びせる。
「今です!!」
「シンの‥‥シンの仇だ!!」
 ヨグの掛け声と共にメンバー達が与えた大きな傷口へとレーザーを発射させる瑠華。
 こうして一同の苦労の甲斐もあり、敵は瑠華の一撃で沈み海の藻屑と消えていったのであった。


 その後――。
 一行の姿は、シンの機体が回収された場所周辺にあった。
「確かこの周辺ですね」
 注意深く周囲を見詰めるUNKNOWN。
「やはり、いないな‥‥」
 眉間に皺を寄せつつ海面を睨む白鐘。
「機体の損傷から考えると生存の確率は低いですわね」
 少し切ない表情でたゆたう波を眺めるミリハナク。
「諦めずに頑張りましょ!」
 沈む気持ちを必死に振り払い海を見るヨグ。
 どうやらUNKNOWNの諦めないという精神に当てられ、シンを捜索しに来たようだ。
 本来であれば、瑠華も連れてきたかったのだろうが‥‥
 多少無理をしていた為、大事をとり一足先に送り届けた様だ。
 満天の星空もやがて徐々に朝焼けの空へと移り変わっていく。
 夜からずっと飛行し戦闘している為、一同の疲労は相当な筈だが、
 それでも諦めることなく、探し続ける。
 が、とうとうシンを見つける事は出来なかった。
「仕方ない‥‥な」
 朝日を眩しそうに見詰め、煙草を銜えるUNKNOWN。
「やれる事はやったさ」
 まるで、肩をポンと叩くかの様に寄り添う館山。
「そうね。忘れ形見は守ったもの」
 朝焼けで赤く染まっていく空を望むエリアノーラ。
「シン兄様、赤ちゃんは無事なの。だから‥‥安心してなの」
 祈りを捧げるかのように天を仰ぐファリス。
「空から二人を見守ってやってくれ」
 空を見上げ、今は亡きシンに願う殺。
 一同は、其々の思いを空に託し帰路を翔けて行くのであった。