タイトル:釣鐘寺ノ清姫様マスター:戌井 凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/05 17:11

●オープニング本文



「クフフ。やはり女子が一番良い」
 近畿地方の山奥にある釣鐘寺の境内で不敵に笑う女の姿があった。
「かわいいの」
 チューブトップで前後が少し短くレースであしらわれたキャミソールドレスに身を包んだその女は、
 千早に鮮やかな紅袴を履き帯びには一本の刀を刺した一人の女の子の食事を眺めていた。
「清姫よ。やはり、男の方がうまいのか」
『‥‥』
 清姫と呼ばれた其の少女は、返事をすることなく食事をし続ける。
「そろそろ、祭り時じゃの」
『‥‥祭リ‥‥ニク』
「そうじゃ、祭りじゃ。我は出席できぬが、お主は楽しむと良い」
 女は清姫の横に座る角を生やした狗達の毛を撫でる。
「そうじゃ、招待状を出さねばならんの」
 女は不気味な笑みを漏らし、御簾の奥へと消えていった。


 釣鐘町では、明後日に催される祭事の為に一生懸命作業が行われていた。
「神輿はあと少しで出来るが‥‥清姫の方はどうなんじゃ?」
 一人の老人がせっせと作業する男達に話しかけていた。
「容態を伺う為に昨日律が釣鐘寺へ行った筈だが‥‥」
「そういえば、まだ帰ってきてないな」
 男達は山の方を見詰める。
「ふむ‥‥体調が良くなっておればいいのじゃが‥‥」
 と、そこに一人の男性が悲鳴と共にやって来た。
「おー、律。待っておったのじゃ。清姫は如何じゃった?」
「き‥‥清‥‥姫。ヒ‥‥ヒィ」
 律と呼ばれた男は、頭を抱えその場にしゃがみ込んでしまう。
「一体何があったんだ? って、お前震えてるのか?」
 男達は律を囲むように座る。
「お‥‥俺は、見たんだ‥‥アイツは‥‥人を‥‥喰っていた」
 律は震えながら見てきた光景を男達に伝える。
「お前、何か悪い夢でも見たんじゃねぇか?」
 男達は笑いながら律を覗き見る。
「ち‥‥違う! 本当に‥‥本当に人をバリボリ喰ってやがった」
 初めは男達も笑っていたが、律が蒼白になりながら真剣な眼差しで説明する為
 夢や冗談でないと察する。
「そ‥‥そういえば、ここんとこ若い衆の行方不明が多くなったよな?」
「あ‥‥あぁ、山に行ったらしいが何処を探しても見つからないんだ」
「ま‥‥まさか、なぁ?」
 男達は顔を見合わせる。
「長老、清姫様の具合が悪くなって町に顔を出さなくなったのは何時ごろからだった?」
「んーむ。あれは確か一週間ほど前じゃったかのぅ」
「失踪しだした時期と丁度重なるじゃねぇか」
「そ‥‥それじゃ、やっぱり」
 次第に男達の顔から血の気が引いていったかと思うと、慌ててその場を離れていった。
「ち‥‥長老。信じてください。本当に‥‥見たんです」
 長老は長い白髭を触りながら考える。
「‥‥どうしたものか‥‥」
 困り果てた顔で山の方を見詰める長老であった。


 翌朝。
 町の広場の掲示板に一枚の張り紙がされていた。
「お‥‥おい、これは‥‥」
「こ‥‥これは俺たちを殺すつもりなんだよ」
 昨日の律が話した内容は尾鰭はひれがつき町の皆が知るところとなっていた。
「ち‥‥長老! このままじゃ、俺達は‥‥」
 その場へやって来た長老も困り果てた顔をしながら張り紙を見詰める。

『 ――招待状――
  寒気きびしき折柄 あわただしい師走となり、
  皆様におかれましては何かとご多用のことと存じます。

  明後日開催されるお祭りに是非ともご参加願いたく招待状をお出ししました。

  今年はとても楽しいお祭りを企画しておりますので
  皆様、奮ってご参加願いますようお願い申し上げます。
                                    草々
                             釣鐘寺  主 清姫 』

「そ‥‥そうだ。傭兵に願い出るのはどうだ?」
「お‥‥おおう。傭兵なら何でも倒してくれるそうじゃねぇか」
 町人達は、皆傭兵に来てもらう事を口々に話す。
「んーむ。律が見た光景が真ならば、不用意にこの招待を受ける訳にもいくまいか」
 長老は溜息を一つ吐く。
「この件、長老預かりとさせてもらうがよいかの?」
「しかし‥‥このままでは‥‥」
「傭兵にはワシから願い出ておこう。皆は祭りの準備をするのじゃ! いいな!」
「しかし‥‥祭りには清姫が‥‥」
「いいから任しておくのじゃ。よいな!」
 普段閉じている瞳を見開き、町の者共に一喝すると長老は自宅へと戻っていった。
 町の者達は長老の言葉を信じ、祭りの準備へと戻っていった。

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
東條 夏彦(ga8396
45歳・♂・EP
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
加賀・忍(gb7519
18歳・♀・AA
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文


 町に着いた一行は、長老から荷車を借りるべく散策を行っていた。
「戦略目的のまったく見えない事件‥‥ただの趣味で動いているであろうバグアは許せませんわね」
 蒼い空を見上げながら呟くミリハナク(gc4008)。
「失踪、男の証言‥‥どう考えてもクロじゃねぇか」
 冷静に物事を分析する須佐 武流(ga1461)。
「清姫‥‥という方について‥‥もう少し知りたいです‥‥」
 少し何かを考えつつ歩みを進めるセシリア・D・篠畑(ga0475)。
「あの‥‥すみません‥‥清姫様について‥‥少しお伺いしたいのですが‥‥」
 祭の準備に追われる町人に質問するセシリア。
「‥‥清姫‥‥す‥‥すみません。今、手が離せないので‥‥」
 町人達は、清姫と言う言葉を聞くや否や顔色が蒼白になり口を噤んだ。
「‥‥長老さんにお伺いするしかないのでしょうか‥‥?」
「ま、当たって砕けろだ」
 セシリアの頭を左手でワシワシ撫でる緋沼 京夜(ga6138)。
「ねぇねぇ、おじちゃん強いの?」
 クィッと裾を子供に引っ張られ立ち止まる緋沼。
「おじちゃん‥‥俺か。俺はどうだろうなぁ」
 少し苦笑しながら子供たちの頭をクシャクシャっと撫でつつ、
 帰りを待っている妹や子供みたいにやんちゃな娘の事を思い出す。
「恐いのをやっつけてくれたら‥‥またお外で遊べる?」
 瞳一杯の涙を浮かべながら質問する子供たち。
「大丈夫‥‥必ず‥‥」
 子供たちの頭をそっと撫でる終夜・無月(ga3084)。
「お姉ちゃんは‥‥巫女様??」
 覚醒し完全に女装化した上で巫女装束を身に纏い箒を手に持つ終夜。
「ふふっ‥‥お祭りがあるって聞いたからね」
「でも‥‥箒? お掃除でもするの?」
「ん? これは、必需品で‥‥なんていうかな‥‥セット?」
「箒がセット??」
 子供たちの頭の上には大きなクエスチョンマークが浮んでいる。
「ふふっ‥‥そう。巫女はね如何なる時でも箒を持っているものなんだよ」
 子供たちに力説する終夜。
「あはは。お姉ちゃん面白いね」
 先程まで泣いていた子供たちにパァーっと笑顔が戻る。
「律って言う人に会いたいのだが、何処にいるか知ってるかな?」
 優しい口調で尋ねるエイミー・H・メイヤー(gb5994)。
「お兄ちゃんなら、多分お家だよー? お家まで案内してあげるー!」
 エイミーの手を取り、走り出す子供たち。
「こっちこっち! ここだよ」
「ありがとぅ。親御さんが心配してるといけないからもうお帰り?」
 案内してくれた子供たちに礼を告げ、帰宅するように促すエイミー。
「すいません。律氏はご在宅でしょうか?」
「ん? あ? 俺だけど?」
 家の中から一人の青年が顔を出す。
「清姫について二・三尋ねたいのだが‥‥」
「き‥‥清姫‥‥アイツは‥‥化け物だ‥‥」
 エイミーの質問に全身を震わせながら答える律。
「どこか以前と変わった所とか気になった事とかがあれば教えて欲しいのだが」
「どこも変わっちゃいねぇ‥‥だが‥‥人を‥‥喰っていた‥‥」
「字体などはどうだろうか?」
「字体‥‥それは、俺にはわからねぇが‥‥長老なら知ってるかもしれん」
「そうですか‥‥有難うございました」
 丁寧に礼を述べるエイミー。
「‥‥やはり‥‥長老に会わないと‥‥ですね」
 知りたい情報がなかなか聞き出すことが出来ず少し戸惑うセシリア。
「荷車も借りなければいけませんし‥‥長老の家に向かいましょう」
 有力な情報を手に入れることが出来ず、ヤキモキしながら長老の家へと足を進める一行。
「こんにちわですわ。あの‥‥長老さんでしょうか?」
 門戸の前を掃除していた一人の老人に声を掛けるミリハナク。
「そうじゃが‥‥お主達は?」
 一同を不思議そうに見詰める長老。
 町人の代わりに清姫主催の祭りに出る為に普段とは全く違った服装をしていた為、傭兵だとは分からなかったようだ。
「あ‥‥はい。依頼を受けて来たのですが少し宜しいですか?」
 清姫の招待に応じて祭りに参加するため、武器等を隠せる荷車を貸してもらえるよう願い出るミリハナク。
「それなら、これを使うといいじゃろぅ」
 長老は物置に置いてあった台車を引っ張り出してくる。
「すみません‥‥二・三お聞きしたいのですが‥‥」
 他のメンバーが荷車に武器を格納している間に話を聞くセシリア。
「清姫‥‥と言う方は、一人で暮らしているのですか?」
「確か一人のはずじゃ。幼い頃に両親を亡くしてのぅ」
「そうですか‥‥では、張り紙の字体は‥‥清姫のもので間違いないのでしょうか?」
「うーむ‥‥少し待っててくれるかの。確か家に昔書いてもらった札があったはずじゃ」
 長老は慌てて家の中に入ると一枚の札を持って来る。
「‥‥お借りしても宜しいですか? すぐ返しますので‥‥」
「それは構わないが‥‥」
「‥‥それでは‥‥お借りします」
 札を借りるや否や、張り紙されている広場へと向うセシリア。
「質問ばかりですまない。清姫とはどういった性格の持ち主なんだろうか?」
 シエルクラインを荷車に乗せ終え長老に質問するエイミー。
「そうじゃのぅ‥‥大人しく優しい子じゃった‥‥だからまだ信じれんのじゃ」
 長老は清姫について知っている限りの事を話す。
「そうですか。とても気遣いの出来るお嬢さんだったんですね」
 ギュッと拳を握り答えるエイミー。
 律の話からして既にヒトではないと言う事は判明しているが、
 強化人間もしくはヨリシロはたまたキメラで操作している黒幕がいるのかなど色々な事が頭をよぎる。
 分かっている事は、油断は禁物だと言う事のみだった。
「町人の代わりに必ず正体を暴いてきます」
 長老に一礼し荷造りを手伝うエイミー。
「‥‥ゼェハァ‥‥皆さん‥‥字体が清姫と‥‥一致しませんでした」
 荷造りを丁度終えた其の頃、広場へと駈けて行ったセシリアが戻ってくる。
「どういうことですの?」
 呼吸が乱れているセシリアの背中を擦りながら聞くミリハナク。
「‥‥字体が‥‥全く別人のものでした‥‥」
 張り紙の文字と清姫が書いた札の文字が全く別物だった事を説明するセシリア。
「ということは、黒幕がいるということだな」
 自分が予測していた事に確信を持つエイミー。
 聞き込みをして分かった事は数点。
 まず一つ、清姫がヒトを食していたという事。
 二つ、外見は何一つ変わっていないという事。
 三つ、清姫は一人で暮らしていたと言う事。
 四つ、招待状の書き手は清姫ではないと言う事。
「これ以上、被害を大きくしない為にも最善を尽くしましょう」
 固い決意を持ち一同は、清姫の待つ寺へと向っていった。


「人喰いの姫の祭りねえ、ああ嫌になるなコレは」
 ショットガンをコートの中の服の内側に隠し持ちながら呟く湊 獅子鷹(gc0233)。
「さて鬼が出るか蛇がでるか‥‥」
 煙管刀に火をつけ煙を吸いながら荷車を押す東條 夏彦(ga8396)。
「どちらにせよ、斬るだけだ」
 着物を着こなしつつ祭の賑やかし手を演じる加賀・忍(gb7519)。
「まぁ祭気分でぶらっと行こうぜ」
 片手で荷を抑えつつ歩く緋沼。
 そうこうしている間に寺につく一同。
 寺の門は、開けっ放しの状態だった為そのまま門をくぐり、庭園へと歩みを進める。
「‥‥綺麗‥‥」
 庭園に着き、その雄大さに少し感動するセシリア。
 広大な敷地に築山が築かれ、水の波紋や水流を白砂などで見事に描かれ
 庭石などがバランス良く配置されておりその周囲には竹が植栽されていた。
「祭への招待ありがとうございます。どのような祭を見せてくださるかとても楽しみですわ」
 庭園の東屋に座っている清姫に対して丁寧に挨拶するミリハナク。
『‥‥‥』
 しかし、清姫は何も答えることなく、ただただ微笑んでいた。

 一方。
 探査の眼を発動させつつ、罠や伏兵がいないかどうか確認する東條。
(左右に狛犬が六匹か‥‥他は特になさそうだが‥‥どうもざわつきやがる‥‥)
 現状を耳打ちし、メンバーに伝える。
「釣鐘寺で祭があるとお聞きしましたので、物見遊山に来ました」
 箒を丁寧に両手で握り丁寧にお辞儀しながら一歩前に出る終夜。
「あ‥‥この箒は、必需品でして。清姫様も箒とかお持ちになっていらっしゃらないのですか?
 ダメですよ〜。巫女は常に箒を持っているものです」
 箒について力説しながらクルッと一回転しながら業と隙を見せる終夜。
 セシリア、須佐は顔を見合わせ、終夜の後に続く。
「折角の祭‥‥そんな所に座ったままだと‥‥楽しめませんよ?」
 微笑みながら一歩また一歩と歩みを進めるセシリア。
 後方でセシリアを心配そうに見詰める緋沼。
 其の目はまるで歩き始めた子供を不安そうに見詰める父親と良く似ていた。
「物見遊山じゃ、つまんねぇぜ?」
 左手を胸に当て、右手を差し出す須佐。
 清姫まで後数メートルに迫っていく三名。
「一緒に楽しもう」
 着物の袖を軽く摘みつつゆったりと流れるような動きで舞ってみせる加賀。
 しかし清姫はその場を動くどころか言葉を発する事すらなかった。
「供物はどこに収めれば宜しいのでしょう?」
 食べ物や衣服が山積みにされた荷車を見せながら清姫に語りかけるミリハナク。
『‥‥』
 微笑みながら手招きする清姫。
 靴紐を直す振りをしてその場にあった小石を拾い、清姫目掛け投げ込むエイミー。
 コツン‥‥コロンコロン‥‥
 清姫の胸部へと一直線に飛んでいくが、当たる寸前で小石は何かに遮られ弾かれてしまう。
 フォースフィールドが発動された事を受け、清姫がヒトではないと言う事が判明した次の瞬間。
『祭り‥‥開始‥‥』
 不気味な笑みを浮べ立ち上がり手を天へと突き上げる清姫。
 合図を受け、下方左右に隠れていた狛犬達が一斉に躍り出す。
 正体を見破る為に突出していた前方組と後方組を分断するかのように間に割ってはいる狛犬たち。
「探査の眼を使ったてぇのに、今回は運が悪りぃな」
 チッと舌打ちをする東條。
 敷地が余りにも広大すぎた為、全てを把握する事は出来なかった様だ。
「分断されてしまいましたねぇ」
 仕込み箒を握り締めつつ後方を垣間見る終夜。
『‥‥ニク‥‥』
 不気味な声と共に清姫は蒼光りする刀を背後より取り出し壇上より降り立ちあがる。
 パーンッ!!
 一発の銃声が庭園に響き渡る。
「聞こえてるか? ‥‥お前達を退治しに来た」
 隠し持っていたブラッディローズを清姫目掛けて撃つ須佐。
『グゥ‥‥』
 清姫は咄嗟に刀身で弾道を逸らすが、左腕からは青い血が滲み出ていた。
「いきなり撃ってくるとは思ってなかったか?」
 不敵な笑みを溢しつつ清姫に罵声を浴びせる須佐。
「一気に沈めるッ!」
 清姫がヒト成らざぬモノであることを確認し開戦の狼煙が揚げられる事となった。


「攻を成す」
 如来荒神を荷車から取り出し一気に清姫の下へと駆け抜ける加賀。
「しゃーねぇな」
 重い腰を上げ、煙管の小刀で狛犬を切り払いつつ荷車を探る東條。
 須佐のスコルとミスティックTを一緒に持ち出し前衛の元へ駆け寄る東條。
「すまねぇ」
 武器を持ってきてくれた東條に礼を述べスコルとミスティックTを受け取る須佐。
「退いてなッ! ワンコ風情がッ」
 飛び掛ってくる狛犬に業と右腕の防御用義手を噛ませつつ、地へと叩きつける湊。
「仕方ないですわね」
 飛びついて来る狛犬を脚甲で回し蹴りしつつスカートの下に隠してあったCL−06Aを抜くミリハナリク。
「ピィ〜ユィ」
 少し距離を取りつつ様子を伺う狛犬に対して口笛を吹きつつ挑発する湊。
 耳をピクピクッと動かすや否や湊に噛み付く狛犬たち。
 周囲への被害がないように出来る限り自身に近づかせ至近距離からショットガンを放つ。
「所詮ワンコだなッ」
 自身を省みないその行動は帰宅後説教の嵐かもしれないが、そんな事はお構いなしで自身を盾にする湊。
 僅かに出来た隙を見つけ、愛銃シエルクラインを荷車から取り出すエイミー。
「させません」
 セシリアに後方より噛み付こうとしていた狛犬を打ち抜くエイミー。
 左足部分を打ち抜かれて尚も噛み付こうとする狛犬。
 狛犬たちの攻撃を華麗に交わしつつ煙管に仕込まれた小刀で狛犬を切り刻みセシリアの元へ駆け寄る緋沼。
「セシリア、大丈夫か?」
「‥‥大丈夫です‥‥それより、あまり無理はしないで下さい‥‥」
 義手を外している緋沼を心配するセシリア。
「大丈夫だ。怪我でもした日には‥‥だから、セシリアも無理だけはするんじゃねぇ」
 帰りを待つモノ達の泣き顔がよぎる緋沼。
 そんな事にならない為にもセシリア共々傷を負う訳にはいかなかった。
「犬はこちらで片付けます」
 ギリッと奥歯を噛み締め、次々と弾丸の嵐を浴びせるエイミー。
 と、次の瞬間四方から狛犬たちが襲い掛かってくる。
「チッ」
 左右に身体を捻らせながら自身の周囲範囲を扇を描くかのように乱射するエイミー。
 連射の威嚇攻撃により、狛犬たちはその場にひれ伏せてしまう。
「犬と言えども油断は禁物ですわ」
 突進してくる狛犬を蹴り払いつつ、周囲に警戒を呼びかけるミハナリク。
「限がねェ」
 アイギスで狛犬の角攻撃を受け流しつつショットガンを腹部へと打ちつけ荷車から如来荒神を回収する湊。
 其の右目からは黒い闘気が止まることなく血の様に溢れ出ていた。
「本当に次から次へと‥‥」
 狛犬の頭を打ち抜いていくミリハナリク。
 一方。
「邪魔」
 狛犬達を蹴り上げながら、荷車へと向う加賀。
「狛犬如きが、道を塞ごうなんぞ百年早ぇ」
 飛び掛る狛犬の腹部分をブラッディローズで撃ちつけながら後退する須佐。
「巫女同士のバトル‥‥としゃれこみますか」
 清姫の斬撃を箒で受け止め、腹部を一気に衝いて返す終夜。
『グゥゥ』
 鈍い声を上げ後方によろめいたかと思うと、一気に体勢を立て直し刀を振りかざす清姫。
「ワンパターンですね」
 剣先を見切り、スゥッと流れるように左方へ避けると箒という鞘を抜き斬り下ろす終夜。
 しかし、清姫はまるで舞いを舞うかのように剣撃を華麗に避ける。
「犬ッコロは、俺達が何とかするさ」
 休むことなく飛びかかってくる狛犬を足蹴りしつつ、柔らかい笑みを浮かべセシリアの背中を守る緋沼。
「‥‥宜しくお願いします‥‥」
 真直ぐに清姫だけを見て前へと足を進めるセシリア。
 其の瞳は赤く輝き、目元と掌から肘にかけて血管の様な赤い模様が浮かび上がっていた。
「私の糧となれ」
 清姫の懐へと一気に入り込み、金色の太刀を振り落とす加賀。
『グゥゥ』
 刀の背で受け流し、右足を一歩後ろへと下げそのまま回し斬りを行う清姫。
「甘い」
 疾風を用いつつ、剣撃範囲から離脱する加賀。
「こうやるから退治ってんだよ!」
 清姫の後方より装飾されたトパーズが虹色に輝く篭手を用いて強力な電磁波を浴びせ、
 スコルを用いて姿勢を制御しつつ清姫を蹴り上げる須佐。
『ギアァァ』
 電磁波はかわす事ができたが、蹴りは予想できず宙へと舞い上がる。
「闇裂く月牙(LUNAR†FANG)!」
 天高く飛び上がり、箒に仕込まれた刀が輝いたかと思うと一気に薙ぎ落とす終夜。
 宙から叩きつけられ地へと這い蹲る清姫。
「‥‥逃がしません‥‥」
 電波増強 を発動させようとしていたセシリアの手が止まる。
 どうやら、超機械武器を忘れてしまったようだ。
 仕方がなく十字架の模様が刻まれた白銀のグローブで叩き付けるセシリア。
 しかし、その拳が清姫を打つと同時に、腕を掴まれ振り払われる。
「っと、あぶねぇ」
 地面に叩き付けられそうになったセシリアを庇う緋沼。
 其の隙に左方から踏み込む加賀。
「覚悟」
 金色に輝く刀を清姫目掛け振り下ろす。
『ギギャアァァ』
 苦痛に顔を歪めながら尚も立ち上がり刀を構える清姫。
「そろそろ終いだ」
 躊躇することなく清姫の懐に再度潜り込み、下から上へと剣を斬り上げる加賀。
 キィンッ!!
 乾いた金属音と共に、鍔迫り合いが幾度となく行われる。
「チッ! 面倒くさい」
 ウンザリした表情を浮かべながら、清姫の足を払いのける加賀。
 足元を崩され体勢を崩した次の瞬間、清姫を薙ぎ払う。
 が、少し浅かったようだ。
 すぐさま切っ先を相手の眉間へとつけ、お腹から拳を一つ程開けた場所で構える清姫。
「面倒臭ぇんじゃ」
 青みがかった銀色の太刀を軽く握り清姫を斬り刻む東條。
 フラフラしながらも必死に剣撃を薙ぎ払う清姫。
 元々女性という事もあり、相当のダメージが腕にきている様だ。
「楽しませろや、人喰い!」
 狛犬たちを排除し終え、そのまま流れるように清姫を斬り付け背後へと廻り足を両断する湊。
『‥‥ニ゛‥‥ク゛‥‥』
 足部を失い両手で必死に前へと進もうとする清姫。
「果てるがいい、円閃!!」
 懐まで一気に飛び込み、如来荒神を上から下へと振り落とし更に左方から右方へ滑らせ、
 更に、鋭利な剣先を心臓目掛けて突き刺す加賀。
『キアァァァッ!!』
 清姫は金切り声を一声上げたかと思うと、その場に倒れこんでしまった。
「‥‥安らかに‥‥」
 微動だにする事がなくなった清姫の瞳を閉じて上げ手を合わせるセシリア。
「この方も被害者かもしれませんね」
 セシリアの横で手を合わせるミリハナク。
「少し寺の周囲を確認してくるよ」
 手を合わせた後、一同に一言告げ周囲の散策を行うエイミー。
「俺も行こう。清姫が元々人間だってんならコレを見てる奴がいるかもしれねぇしな」
 探査の眼を使用しつつエイミーの後を追う東條。
「‥‥私も‥‥行きます‥‥」
 残存するキメラの有無と行方不明者の遺品を見つけたいと考え、二人を追いかけるセシリア。
 しかし、寺の周辺で怪しいモノを見つける事はできなかった。


 清姫と狛犬たちを討伐した一同は町へと戻り、長老と話をしていた。
「そうか‥‥やはり清姫がのぅ」
 一同の報告を受け、溜息を溢す長老。
「はい‥‥討伐し、寺の裏に遺体を埋葬してきました」
 清姫の遺体をそのままにしておくわけにはいかないと考え埋葬した事を伝えるミリハナク。
「今宵の祭は、犠牲になった全ての者達を追悼する意味も込め町人達に用意をさせたんじゃ。
 もし良かったら、参加していってくれんかのぅ」
 重たい気持ちを心の中にしまいつつ一同に提案する長老。
「あの‥‥これが‥‥寺の周辺に落ちていた物です‥‥」
 少し躊躇いながら血の着いた守り袋や指輪など遺品と思われる物を手渡すセシリア。
「ふむ‥‥たしかに受け取った。後日、被害者の家族に見せるとしよう」
 ハンカチで丁寧に包まれた遺品を受け取り大事そうに仕舞う長老。
「‥‥宜しくお願いします‥‥」
「そうじゃ、お前さん方の中で誰か神輿に乗ってくれないかのぅ。他にも舞い手なども欲しいのぅ」
 長老は女性陣をチラッと見ながら呟く。
「哀しい事件があったからこそ、盛大に祭りは楽しんであげないといけませんわ」
 舞い手になることを志願するミリハナク。
「どうじゃろうか?」
「あたし‥‥ですか? でも、衣装が‥‥」
 ゴシックドレスの裾を摘みつつ苦笑いするエイミー。
「大丈夫じゃ、予備があったはずじゃ。おぃばぁーさん、巫女服を二人に着せてやってくれないかのぅ」
「はぃはぃ‥‥こっちにいらっしゃい」
 家の中から少しだけ顔を覗かせつつ手招きするお婆さん。
「追悼の意を込めて、参加するのも悪くないと思いますわ」
 犠牲者が出ており複雑な心境のエイミーの背中を押しつつ家の中へと向うミリハナク。
「そうだな‥‥それも一理あるかもしれないな」
 ミリハナクの説得もあり、手招きに応じ家の中へと入っていくエイミー。
「そうじゃのぅ、お主も巫女じゃったのぅ」
 終夜を見つつ、うーんと考える長老。
「そうじゃ! 祭終盤に狐火を格子状に組んだ松に届け天へ祈りを捧げる巫女役がうってつけじゃ!」
「狐火‥‥ですか?」
「そうじゃ、蒼い焔を放つ松明なんじゃ。やってくれんかのぅ?」
「フフッ‥‥分かりました。お引き受けしましょう」
 少し苦笑いしながら引き受ける終夜。
「‥‥お待たせだ‥‥」
 家の中から少し恥ずかしそうに出てくるエイミー。
「‥‥かわいい‥‥です」
 頭には桜の花が散りばめられた簪に赤と銀の丈長、純白の意を示す鶴と蔦が織り込められた千早に
 真っ赤な緋袴を履いたエイミーに思わず見惚れてしまうセシリア。
「‥‥なんだか、恥ずかしいな」
 少し頬を赤く染めながらくるりと一周してみせるエイミー。
「お待たせしましたわ」
 頭に桜の前天冠を飾り、長い髪を丈長で結い、
 若松鶴文様があしらわれた千早に紅袴を履き外に出てくるミリハナク。
 其の手には、舞いのときに使用する神楽鈴と檜扇が添えられていた。
「どう‥‥かな?」
「とっても似合ってますわ」
 ニッコリと微笑むミリハナク。
「皆も待ってることじゃし、祭を始めるとしようかのぅ」
 こうして、町を揚げたお祭が開催された。


 お祭会場に長老と赴いた一同は大歓声を受ける。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとぅ」
「おじちゃん、やっぱり強かったんだねっ」
 町に着いた当初、緋沼と終夜を囲んでいた子供たちが駆け寄ってくる。
 子供たちの頭を撫で優しい笑みを溢す緋沼。
「それじゃぁ、行ってくる」
「おぅ! 俺も神輿を担いでくらぁ」
 神輿の元へと向うエイミーをエスコートする東條。
「それじゃぁ、私は舞いをお披露目してきますわ」
 ウィンクをしつつ舞台へと上がるミリハナク。
 舞が始まると、辺りに神楽鈴の音色が鳴り響いたかと思うと、
 どこか儚げだがとても強く温かいものを感じさせる舞が始まった。
「‥‥日本には神様が沢山居て、不思議‥‥ですね‥‥」
 幻想的な舞いを見ながら呟くセシリア。
「そうだな。まぁ、祭が一杯あって楽しいがな」
 セシリアの様子を見守る緋沼。
「そうだ、妹達の土産なんだが‥‥一緒に見てくれねぇか?」
「‥‥そうですね‥‥折角なのでご一緒させて頂きます‥‥」
 こうして土産を探す事となった緋沼とセシリア。
「‥‥京夜さん、それは‥‥どうかと思います‥‥」
 緋沼が手に取っていた面白可笑しいお面を見つつ少し肩を落とすセシリア。
「‥‥せめて‥‥こういったものの方が‥‥」
 こうして、二人の土産探しは祭り終盤まで続いた。
「賑やかじゃねぇか‥‥」
 隅の方で祭を眺める須佐。
 其の目線の先には、神輿を担ぎながら酒を渇喰らう東條と
 ゆさゆさと神輿の中で揺れつつ必死に笑うエイミーの姿があった。
「神輿‥‥中々揺れるものだな」
 左右上下に揺らされふらふらになりながら神輿から降りるエイミー。
「ねぇねぇ、巫女様! 一緒におみくじしよぅ」
 子供たちが巫女に扮したエイミーの手を引き、おみくじ売り場へと連れて行く。
「‥‥笑吉。初めてみたな」
 ―笑う門には福来たる―
 思わず内容を読み噴出しそうになるのを必死に堪えるエイミー。
 一方。
「詫びの品探しとくか、コレで少しは機嫌を直せばいいんだが」
 クリスマスパーティで泣かせてしまった一人の女性が頭によぎる湊。
「あー‥‥何がいいんだかさっぱりわかんねぇ」
 色々な店を廻りに廻り、あれこれと悩む湊。
「髪とか結ってたっけか‥‥」
 必死に彼女の事を思い出しつつ、思考錯誤する其の姿は何だか微笑ましく感じる。
「アクセとか好きだろうし、アレも似合いそうだな‥‥」
 綺麗な銀細工で出来た一つの指輪や
 彼女の誕生石であるアメジストが散りばめられた可憐な花のバレッタなど様々なものがあり、
 あれもこれもと迷ってしまう湊。
 と、其の時、激しい頭痛が湊を襲う。
 慌てて人気のない場所へと足を進める湊。
「ったくせめて意識が飛んでくれりゃあ楽なんだがな」
 覚醒の反動で幻肢痛 や吐き気に襲われ、一人蹲っていた。

 やがて祭りも終盤を迎え、蒼い焔が燃え上がる松明を格子状の松に向けて放つ。
 焔はやがて大きくなり全てを塵とかしていく。
 其の間、ひたすら天に向け手を合わせ何度も祈りを捧げる終夜。
 この塵と共に憎悪や哀愁など全てを天へと返す意味があるようだ。
 町人も終夜を囲むように座り、天へと祈りを捧げる。
 一同も其々の思いを胸に秘め天高く燃え上がる焔を仰ぎ見ていた。

 こうして祭は静かに終えていったのであった。