タイトル:【東京】鯉幟は空に‥‥マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/18 22:51

●オープニング本文


 関東のバグア占領地に建つ小規模な軍事施設。その屋根には場違いにも本物の鯉幟が翻っていた。
 その鯉幟を、幼い子供たちが見上げている。
「いいなーこいのぼりー‥‥」
「あの子のお家、おとうさんがばぐあのきょうかにんげんでかんぶなんだって〜」
「おねえちゃん、ぼくも、こいのぼり欲しいよ〜」
「我慢しなさい。 この辺では、生きていきだけでやっとなんだから‥‥」
「でも、ぱぱとままがいた頃は、ちゃんとこいのぼり、たててくれたよ〜!」
「‥‥」
「わ〜ん! こいのぼり、欲しいよー!」
 一人の子供が泣き出したことで、悲しい気分が伝染したのか、次々と子供たちが泣き出して、泣声の大合唱が基地の前で響いた。
 その声は、監視システムを通して、基地の中にいた一人のバグアにもよく聞こえた。それまで、キメラの調整に没頭していたヨリシロは、十代前半の少年のようである。彼は伸びをすると、白衣を翻し内線電話を取り上げた。
「もしもし? 僕だけど、ちょっと基地の外が五月蠅いからさぁ、君ら二人で黙らせて来てよ。 方法? 自分たちで考えてねぇ」

 関東地方――群馬県前橋付近の、山岳地帯を飛ぶのは、大型輸送艦ビッグフィッシュ。それを護衛する数機のHW。それに‥‥ゴーレムとタロス‥‥
 そう、ゴーレムとタロス、そしてビッグフィッシュである。嫌な予感がしないだろうか?
『兄貴―! KVが来たよー!』
『そりゃ飛んで来るさ‥‥これだけ連中の制空権ギリギリを飛んでりゃな!』
『すげーや兄貴! 一歩先を読む優れた戦術眼だね!』
 はしゃぐ弟分。一方G3は上司に通信を入れ、一段低いトーンで囁いた。
『博士の狙い通りになりそうですぜ‥‥あんたも、ひどいお人だ』
『いくら廃品同然のBFでも、何の考えも無しに君らの面白半分のイベントに、貸す訳ないじゃない? ま、適当に撤退していいからねぇ』

 これを迎撃する為に出撃したのは、正規軍のKV編隊と、彼らの支援として出撃した傭兵たちである。撃墜しようと照準をつける正規軍のパイロットたち――が、操縦稈を握る彼らの指が凍りついた。嫌な予感通り、そのBFにはまたもやペイントが施されていたのだが‥‥
 鯉幟、である。そうBFの表面全体がご丁寧にも、こいのぼりにペイントされているのだ。無機質なはずのBFの先端部分に、あの鯉幟のまん丸い目が書かれ、装甲板には、綺麗な鱗が書かれている。
 戸惑うパイロット。しかし、相手はバグア兵器、気を取り直して撃とうした時だった。
『あれぇ? 撃っちゃうのぉ? 別にいいけど、せっかくだからコレ見てからにしたらぁ?』
 突如オープン回線で、聞き覚えのない子供の声が響く。続いてKV各機のモニターに映像記録が転送され始めた。

『よしよし‥‥わかったから泣くなって! 俺が一肌、脱いでやるからな!』
『ワー! 兄貴ったら男前―! 装甲が剥がれたら生体パーツがビクビクだね!』
 それは、聞き間違いようのない、G3とT3の合成音である。問題なのはそのすぐ後に聞こえて来た、まだ幼い子供の声だ。
「ヒック‥‥ほんとう? ほんとうに、こいのぼり、出してくれるの?」
『任せろ! 俺は人間だった時も、バグアに入った時も、約束は破った事がねえ! 博士を上手いことおだててやる! だから、他のガキ共も呼んで来い!』
 再び映像が切り替わり、格納庫に各座する200メートル級のビッグフィッシュが映し出された。
 その周囲には驚嘆の眼でBFを見上げる占領地の子供たちと、ゴーレム、タロスの姿がある。
「わあすごい!」
「ほんもののびっぐふぃっしゅだ!」
「おじさんほんとう? ほんとうに、これをこいのぼりにしていいの?」
 子供たちが口々に、ゴーレムとタロスに問いかけた。
『ああ、見ろよ! 博士がペンキやら見本やらも用意してくれたぜ! 後は俺らで芸術を仕上げるだけだな!』
「わーい! げいじゅつだ! げいじゅつー!」
 はしゃぐ子供たちに、ドヤ顔でガッツポーズをとるG3。そこへT3が何やら、紙袋を持って現れた。
『ご機嫌だぜ! 兄貴―! 博士が、報酬だとか言って、かしわもち用意してくれたぜ! 皆で食べよう!』
 子供たちの歓声が上がる。
 美味しそうにかしわもちを食べ始める子供たち。一方G3とT3は、人間サイズのもちを指先にのせたまま、茫然としていた。
『畜生! 良く考えたら俺たちは食えねえじゃねえか! さすが博士! 相変わらずのドSだぜ!』
 G3が絶叫し、笑い声が上がった。
 かくして、映像記録の中の子供たちは、G3の指示の下、BFの装甲に手分けして鯉幟を描き始めた。笑顔、笑顔眩しい笑顔。ペンキ塗れになって笑う子供たちの笑顔は彼ら兵士たちにとって守るべきもの。守れなかったもの。守り抜いて次の世代に繋げるべきものであった。
 そして、彼らの眼前を浮遊するその『お子様専用端午の節句型ビッグフィッシュ』が完成した。

 部隊の隊長が、怒気を孕んだ声で通信に応答する。
『一体‥‥何のマネだ!』
『別に? ただ自分たちがこれから落とすモノの馴れ初めぐらい教えてあげようと思ってさぁ?』
『貴様‥‥貴様ぁ!』
『何怒ってんのぉ? 早く落とせばいいじゃない? まさか、今の退屈なドキュメンタリー映像で戦意が落ちたなんて言わないよねぇ? 見逃したら、関東の友軍が大変だよ? 補給で我々の継戦能力が半月伸びればぁ、余計に戦死者が増えちゃうもんねぇ?』
『罠だ‥‥! これは罠に決まってる!』
 隊長が狂おしげな表情で、頭を振る。この時、彼の脳裏には失った我が子の笑顔が焼き付いていたのだ。
『罠ならぁ、この山岳地帯で撃墜しないと駄目だよねぇ? 都市部で爆弾とか、毒ガスとか起動したら大変だよぉ?』
 と、ここで、通信に割り込む誰かの声。
『はかせ〜、なにやってるの? よく見えないよ〜』
 そのあどけない声に、隊長の、パイロットたちの表情が強張った。
『ね、ぼくたちのこいのぼりどうなったの〜?』
『待っててねぇ。 今見せてあげるからぁ‥‥よいしょ、と』
 どうやら、博士と呼ばれているバグアが、小さい子供の一人を膝の上に抱き上げてディスプレイを見せてやったらしい。
『だっこ、だっこ〜、わぁ! こいのぼりだぁ! ほんとにとんでる! あ、おじさんたちもおしごとちゅうだ! がんばって〜!』

『わあああああああああ! うわああああああ! 貴っくぁwせdrftgyふじこlp様ぁぁぁ!!』
 
 事態を悟った隊長が、声にならない悲鳴を上げた。
『勘違いしないでねぇ? 別にこの子らは人質なんかじゃないよぉ? ただ、こいのぼりの晴れ姿を見せてあげなきゃねぇ? 撃墜しても僕はどうでもいいし、もちろん子供たちに危害なんか絶対に加えないからさぁ! 大事なことだから、二回言ったよぉ? あはっ、あははっ!!』

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ゼクス=マキナ(gc5121
15歳・♂・SF
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG
ルティシア(gc7178
25歳・♀・SF

●リプレイ本文

「オイ、オッサン。 やる気ねーなら、邪魔だから下がってな。 クライアントに怪我でもされたら、困るんでね」
 博士の悪趣味な趣向に戦意を挫かれた正規軍に伊佐美 希明(ga0214)が警告する。
「何というか、随分と低レベルな嫌がらせだね」
 アーク・ウイング(gb4432)も呆れたように呟きつつ、正規軍をフォローする。
「こちら側の心理に対して攻撃を加えることで、輸送船の安全を確保する、か。古典的だが有効な手段だ。 子供相手の場合、我々が悪者になりたくないからな」
 緑川 安則(ga0157)に至ってはそう言いつつも、既に愛機フェイルノートの、『ツインブーストアタッケ』と『ドロア』を起動し、いつでもK−02をぶっ放せるよう待ち構えていた。
「晴天に浮かぶ鯉幟、絵的にはいいね」
 そうポツリと言うソーニャ(gb5824)には、何か思うところがある様子だ。
「鯉幟? 一体どういうものなのか説明して欲しいな‥‥俺は知らないんだよ。 戦闘後にでも聞いてみるか」
 と、ゼクス=マキナ(gc5121)は、独り言を言ったが、意外なところから返答が返って来た。
『日本の風習だねぇ。 この時期、男の子の為に、布製の鯉のオブジェを旗のように飾るんだよぉ。 中国の、黄河の急流を登りきった鯉が龍になる伝説から立身出世や、武運の願いを託しているみたいだよお』
「成程‥‥魚類である事を強調する迷彩パターンには、そんな意図があったとはな」
 ゼクスは博士の講釈に納得したようだ。
『子孫の繁栄を願うのは、どの種族でも共通かなあ? くすっ、ジョージ・バークレー閣下も、鯉幟を揚げてもらった日本人をヨリシロになされば、あんな武運に見放された戦死を遂げられることもなかったかなぁ?』
「卑怯だぜ、バグア! そこまで鯉幟の大切さを知っていながら、こんな事、俺がゆるさねぇ!」
 リュウセイ(ga8181)が激昂した。
「なるほど、こういう手も使ってくるんですね、バグアは。 大変興味深いですね‥‥皆さん、どう対処しますか?」
 対照的に、冷静なのが音桐 奏(gc6293)である。一歩引いた位置に身を置く彼には、状況を観察する余裕があった。
「BFを撃墜するのが私の仕事ですからね。 躊躇するつもりはありません。 ですが、あのバグアの思惑の上で踊るというのも、すこし癪に障りますからね」
 音桐が博士に感じたのは、同族嫌悪であったのかもしれない。自分より遥かに性質が悪いとはいえ、博士の行動も『観察』であるのは間違いない。
「恐らく、彼もこの戦闘の会話は全て録音しているのでしょうね。 この私のように」
「音桐さんのいう通りですわ。 少しでも子供たちをフォローしてあげるべきです」
 ルティシア(gc7178)が意見を述べる。
「決まりだな。 丁度いい誤魔化し方があるんだ。 皆聞いてもらえるか?」
 戦術を練っていた緑川が、ある作戦を伝えた。
 ちなみにこの間、両軍は等速飛行で山間部を飛びながらつかず離れずのにらみ合いを続けている。
 緑川はBFへの攻撃を、鯉幟に対する感謝と供養を意味する祭りの花火だと子供たちに説明する事を提案した。ミサイルの斉射をその花火に見立てようというのだ。
 ミサイルを装備した機体が、ニ方向から敵を挟み込むように展開する。興味深げに見守る博士と、子供たちを意識して、ルティシアが呼びかけた。
「そこの子供達。 よく聞きなさい。 国や地方によってはこういうものあるのですわよ」
 そして、愛機のスカイセイバー『ルーテシア』でK−02を構え、祭りについて説明した。
『そんなお祭りがあるの‥‥? でも、やっぱりぼくたちのこいのぼりこわさないでよ〜』
『そんなのしらないよ、そのこいのぼりは、ぼくたちのだよ! わ〜ん!』
 子供たちが泣き叫ぶ。確かに、いきなり遠い国や地方の風習を持ち出されても、ピンとこないのだろう。だが、緑川がルティシアのフォローに入った。
「よい子のみんなー、鯉幟もだけど、使い終わった物はありがとうって供養するんだよー」「流し雛とか針供養について、お父さん、お母さん‥‥失礼した。 博士に、後で聞いてみてね。 じゃあ、感謝の花火いくよー!」
 途中緑川が言葉を訂正したのは、子供たちが戦災孤児であることを思い出したせいだろう。
 まず緑川がミサイルを発射。これに合わせて、ルティシアと、アークのシュテルン・Gも発射し、ゼクスのロングボウ『奮龍』も、『新型複合式ミサイル誘導システム』を起動させた上で、ミサイル二種と、ロケット弾ランチャーによる攻撃を敢行する。
『まずいなあ‥‥二人共? 悪いけど一回、映像と音声回線切って。 ついでに首吊って死んでねぇ?』
 モニター中に広がる閃光と爆炎。スピーカーを壊さんばかりの轟音。何故か、博士は普段よりは少し急いだ様子で部下に通信を送った。
『遂に本音が出たな! 博士! 了解!』
(チッ、視界が悪ィ‥‥派手に無駄弾撃ちやがって)
 伊佐美も、派手な爆発に悪態をつきつつ、愛機であるガンスリンガー『ティシュトリヤ』のUKミサイルで攻撃参加、加えて味方をサポートすべく油断なく、ライフルを構える。
 視界が晴れた時、三機のHWは跡形も無く消え去っており、BFも飛行を続けているとはいえ被害甚大である。バグア使用のカラサルシールドを構え、フェザー砲でミサイルを迎撃したT3とG3だけが損傷軽微であった。
『ひどい人たちだねえ。 下手したらこの子たちが傷つくところだったよぉ?』
 通信から博士の声が響く。
「‥‥どういうことです? BFが落とされそうなったので、やはり子供たちを人質にとろうというのですか?」
 ルティシアが言い返す。
「この子らは戦災孤児だよぉ? ミサイルの爆音や爆炎を聞かされたら、どんな反応を示すかなあ?」
 よく耳を澄ませば、通信の向こうから、泣きじゃくる子供たちの声が微かに響いている。『よしよし、大丈夫だからねえ。 困るなあ、ぼくの大切観察実験のモルモットにストレスを与えるなんてぇ』
 泣き止まない子供の一人を博士があやし続ける。
「ふざけるな! 子共たちに鯉幟が落とされるのを見せ付けようとしたのは、お前じゃないか!」
 リュウセイが怒鳴る。
『でも、戦術を選択したのは君たちだよぉ? BFを落とすだけならもっと静かな遣り方があったよねえ?』
『花火の祭りや、流し雛のことに着眼したのは感心したけどねえ。 さっきの発言といい、配慮がちょっと足りなかったかなあ?』
 子供たちのほうは、ボロボロにされたBFを見たショックもあり、全員が泣いたり涙を堪えているようだ。
「ぱぱぁ、ままぁ‥‥」
「おかあさぁん‥‥」
 この空気を一変させたのは、ソーニャであった。
「みんな、泣かないで」
 ソーニャの言葉に注目して、とりあえず泣き止む子供たち。
「このBF鯉幟、天に送らせてもらうよ。 鯉幟は自分のためのものじゃない。 パパとママは、君たちが強く、大きく成長するようにという祈りを込めてたてた。 だから君たちは強く生きなければならない。 天国でご両親が見ているから」
『ほんとう‥‥? ぱぱやままは、ぼくたちのこと、見ててくれてるの?』
「本当だよ。 鯉幟は、愛する者の未来を祈り、立てるんだ。 自分の子供や自分の想いを託すものが出来たときに、君たちも鯉幟を立てなさい」
「そして、今は、空を翔けるKV。 それがボクらの、君たちのための鯉幟。 君たちの両親が君たちにかけた愛、祈りを受け継ぎ、君たちを見守る。君たちを愛してる‥‥KVって、最高にカッコいい鯉幟でしょ?」
 そう言ってソーニャは、ロビン『エルシアン』で、派手にスタント飛行を決めて見せた。通信の向こうから子供たちの歓声が上がる。
(おいおい。日本では、バグアだけじゃあ無く傭兵まで平和ボケが酷くなるらしいな。 あんな飛行、隙だらけじゃねえか)
 そう言いつつも伊佐美は、敵の動きに気を配りソーニャをしっかりフォローするのであった。
「今、この回線を聞く全ての人に告げる」
「今一度、心を奮わせ、守るべき者を胸に刻み、切り開く明日を思い描け。 子供たちをおいて逝くしかなかった者たちの遺志を引き継いで、ボクたちが、この子らに希望を託して昇る為の空を切り開く」
 ソーニャの演説は、傭兵たちのみならず、意気消沈していた正規軍をも奮い立たせた。
『一本取られたかなあ?』
 感心したように、博士が拍手する。
『まあ、これぐらいの意思を見せてくれなきゃあ、ぼくらバグアが君らと戦う理由も無いしねえ? きみらと戦う意義が確認できたのは満足かなあ』
「こちらこそ、感謝しますね。 博士さん。 おかげでボクたちの方こそ、戦う意義と意志を確かめられたからね」
 ソーニャも負けじと、意地悪く言い返す。
『でもぉ、ぼくとしてはもう一つ確かめたいことがあるんだ』
 博士が言葉を続ける。
『結局、このBFはきみらにとって落とす程度の価値しかないらしいけどぉ。 もし、君らが称賛するモナ・リザとか、人類の至宝が積んであったらどうかなぁ? そしたら必死になって取り返しちゃう? そうやって、差別するのかなあ?』
「日本のバグアってのは、平和ボケが酷ェらしいな。 こちとらタマぁ張って戦争してんだ。 天秤にかけられるのは命しかねーよ。 オママゴトしてェなら他所でやんな。 坊主」
 呆れながら、伊佐美はライフルを構えた。
『おかしいなぉ? 人間が自分の命や他人の命天秤にかけてまで欲しがるのは、大抵通貨とか、領土とか名誉とかじゃないのぉ?』
「そのような脅迫には屈しません。 そのような策は人類には通用しないと、明確に宣言します」
 涙を呑んで、非情な台詞を吐くルティシア。美術品に造詣の深い彼女がそのような態度をとったのには、理由があった。ここでの譲歩は悪い前例を作ることになり、敵に同様の策を今後も実行させる。その点を彼女は憂いたのだ。
 他の傭兵たちも、今後の人類の戦略に対する不安要素を取り除くというこの舌戦の意義気付く。
「至宝を破壊したければどうぞ。ただし、その怒りの矛先は私達ではなく、あなたがたバグアへ全て向かいのすわよ」
 なおもルティシアが畳み掛ける。
「どんな至宝も、いつかは朽ち果て壊れるものだ。だいたい、バグア側に芸術の理解者がいたか? スーパーバグアだとか騒いでいる馬鹿が指揮官クラスだろ?」
 彼女に続いて緑川も皮肉を飛ばす。
『シェアト(gz0325)閣下のことぉ? あの方の振る舞いは、あのお召し物も含めて、君らの文化に対する真面目な興味と言えなくはないよお?』
「御託は結構。そんなに人類の文化財宝を護りたければ、バグアは宇宙に帰りたまえ」
『それはまだできないかなあ? これでも、ぼくたちは、君らの重要文化財を守っているのかもしれないよぉ? 』
「そうやってバカにしたり、矛盾を指摘したければ好きにすればいいよ」
 アークが言い返した。
『だって、きみら同士が戦争で破壊し合った文化財だって、一杯あるよねえ? あ! だからそうやって無頓着になれるのかなあ!?』
「‥‥そうだね、博士、さん?の言う通りかもしれない。 でも、アーちゃんたちは今、この時に生きている人たちの未来の為に戦っているんだ。 だから絶対に立ち止まらないからね。 今までも、そして、これからも」
 それでもアークはひるまない。
「アークの言う通りだ。 我々は、芸術家になる可能性のある子供たちの未来を護るために戦っている。 大体、バグアとの戦争でどれだけの至宝、そしてそれを生み出す芸術家の卵が死んだ事か」
 緑川が言う。
「そういえば花火祭りだと、キオス島が有名かなあ。そうだ、ドラクロワの『キオス島の虐殺』があったよねえ? 圧政に対して蜂起した民衆へ抑圧が、芸術を生んだ訳だねぇ。 あはっ、つまりバグアに対して蜂起した東京解放作戦が失敗に終われば、誰かが同レベルの作品を、生み出すかもねえ!?」 
「人間をなめるな、バグア」
 アークのシュテルンGが螺旋弾頭ミサイルをBFに直撃させた。
「簡単なことだよ。 もし至宝が積んであったら、奪い返せるなら奪い返すし、無理ならこうやって補給物資もろとも吹き飛ばすだけだね」
 アーク言葉をきっかけに、傭兵たちはBFに止めを刺すべく動き出す。音桐のガンスリンガー『ディスコード』がG3とT3をレーザーで牽制する。
「破壊しますよ、勿論。例え積荷が至宝だとしても、我々の脅威になりえる物は排除します。形あるものはいずれ壊れる。それが今日この瞬間だったというだけの話です」
 その隙を狙って『ルーテシア』が空中変型し、アサシネイトクローでBFを切り裂く。
「別に差別なんてしないですよ、俺は差別主義者ではありませんから。 極力平等に行こうと心掛けていますので、博士さん」
 ゼクスもそう言うと、ロングレンジライフルをBFに撃ち込んだ。
 爆炎を上げBFが轟沈する。せめて、子供たちからその姿を隠そうと、リュウセイがイビルアイズ『邪機眼王』で煙幕銃を発射した。
「批難は甘んじて受けます。憎みたいのなら憎んでください。この私、音桐 奏を」
 沈黙する画面の向こうの子供たちに、音桐が静かに呼びかけた。
 一方、緑川は、G3とT3が撤退しようとするのを見て、突っ込んでいく。
「じーさんにとーさんだったかな? 変な改造を加えられた面白い漫才コンビには悪いが‥‥今度こそ再生不能になってくれ」
 だが、応戦しようとする二機と緑川機の間に伊佐美が割って入った。
「サンピン。子供の相手をしてくれたことには感謝するぜ。 見逃してやっから、尻尾巻いてさっさと消えな」
 緑川もすぐ、伊佐美の意図に気付いた。既に敵の制空権近くにまで入り込んでいた。戦闘を継続するのは得策では無かった。
 G3とT3が今度こそ飛び去ろうとする。
「待て!」
 今度は、リュウセイが呼び止める。邪機眼王が二機の頭上で僅かにコクピットを開き、暴風に耐えて機体を制御しながら何かを落とす。
 慣性制御を持つT3が、あっさりそれをキャッチした。それは、子供用の折り紙セットである。添付された説明書きには、鯉のぼりの折り方が書かれていた。
「この前、LHの商店街で、偶然拾ったモンだ。 後で届けようと思っていたが、こんな形で役に立つとはな」
「結果はどうあれ、子供たちの願いを叶えてやろうとしたんだろう? ならせめて、お詫びとして届けてやってくれ」
『困ったぜ、兄貴! こいつをどうしよう?』
 T3が質問する。
『へえぇ。 実物を見るのは初めてだよ。 やっぱり文化はこの身体で体験してこそだよぉ。 みんなで折ろうねえ。 折角だから、鯉幟だけじゃなく、兜も折ろうかなあ』
 喜々として子供たちに言う博士。
「余裕なのか、単なるバカなのか‥‥やっぱり、単なるバカか?」
『さあねえ。 俺達も頭悪いんで、計り知れねえな!』
 唖然とする伊佐美に、G3が答えた。