タイトル:【TT】Red Wood,Bloodマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/10/28 14:19

●オープニング本文


 ロサンゼルス(LA)を南のバグア軍から防衛する最終防衛線たるアーバイン橋頭保の方角から、爆発音と振動が響いて来た。
 それを合図として、二機のワームがLAの東側を走る山岳地帯を北進し始める。
 ティターンの方に乗っているのは屈強な壮年の軍人らしき男だ。ヨリシロとなる前の彼を知る者なら、その野卑な表情がその肉体を奪ったバグアの影響であると知るだろうか。
 タロスの方には、まだ少年にしか見えない年齢の強化人間が乗り込んでいた。強化人間であれば珍しいことでは無いが、何故か全身メイド服なのが似合っているとはいえ異常と言えば異常である。
「始まったみたいだね‥‥」
 メイドがポツリと言った。
「派手にやらかしやがる。腐っても、いや再生してもゼオン・ジハイドって所か!」
 二機のワームは偽装ネットを確かめると、ごくゆっくりと山岳地帯を進む。
 大都市圏であるLAだがその周囲には山岳地帯が広がっている。中でも、市の北部から始まって東側に伸びるサンバーナディノ山脈には平均樹高80mを誇るセコイア杉の森があり、タロス、ティターンが少数で奇襲を掛けるには打って付けと言えた。
 その森の木々を見上げ、オズワルドは呟いた。

「豪勢なもんだ! 俺の死に場所にゃあ勿体無いくらいだぜ!」

「そうだね‥‥オズ様。僕も故郷で死ねるのは、嬉しい‥‥」

 LAはシェイド討伐作戦以降はメキシコのバグア軍との対峙に備えアーバイン橋頭保の改築を含めて徹底的な防衛力の強化が行われた。その防衛能力は今や北米第二位となっており、ティターンがいるとはいえ、二機で奇襲をかけるというのは死地に赴くのと同義である。

● 
 ――シェアト様のソルが主力を引きつけている間に、東側の山岳地帯からロスにギリギリまで近づけば、いくらあそこの戦力でも対応に大わらわだよお♪

 オズワルドは彼の『心の友』こと、ドクトル・バージェスの指示を思い浮かべボリボリと体を掻いた。

 別に、バージェスの頼みだというだけで死地に赴く訳ではない。

 地上に残された中米バグア軍及び北米軍残党にとって唯一可能性のある行動は、宇宙への脱出しかなかった。
 仮に本星の地球への激突が成功すれば、地上に残るバグアもほぼ全滅だろう。また、既に内部の制御惑星にまで到達した人類が勝利しても、バグアがメキシコから駆逐されるのは時間の問題だろう。

 バージェスが全体の指揮を取ることになったのは彼の元にソルとシェアトが居り、バージェス自身が撤退完了まで地上に残ると申し出たこともあるが、それ以上に具体的な作戦を戦術を提示できたのがバージェス一人であったことも大きかった。
 
 実際の所、最後まで残る殿の選出は極めて順調だった。個体差はあれどバグアにとって個体個体の生命は人類のそれほどは執着の対象ではないのだ。

「まあ、心の友に付き合うのは当然だからなァ!」
 既に脱出した先発隊には、オズワルド同様ティターンへの搭乗を許される格のバグアも少数混じってはいる。

 オズワルドとソルの陽動で、どれだけのバグアが中米からの離脱に成功するかは未知数だが方法はこれしかない。
 図らずもリリア・ベルナール配下の精鋭部隊でありながら、ここまで生き残ってしまった自分にとっては相応しい死に場所だ。そう考えオズワルドは上機嫌だった。


 オズワルドに付き従うメイド服の少年はかつて暗殺者だった。

 バグア襲来後の治安の悪い時期に、暗躍した無数の犯罪組織。孤児だった彼は、そこで幼い頃より暗殺と諜報を叩きこまれ人間を殺め続けた。
 
 だが、先天的な性格として快楽殺人や戦闘狂とは無縁の性格だった彼の心は、組織からの重用とは裏腹にゆっくりと磨滅していく。
 
 その組織がバグアにとって目障りとなり粛清が行われた時、少年は助かる機会はあったのにバグアへ勝ち目のない戦いを挑んでいた。
 
 ――重傷を負い倒れた彼の顔を覗き込んでバグアが言う
 
 生きたくはないかと。
 
 少年は否と答えた。
 
 では――とそのバグアは質問を続けた。
 
 その知識と技能を不滅の連環の一部に加えたくはないか。
 
 少年は、そのバグアの顔をまじまじと見つめた。

 彼は自分の生命に執着は無かった。自分は死ぬべきだと心底感じていた。

 だが、彼がその生涯を通じて唯一称賛されたモノ。暗殺の技能と知識こそが、バグアが価値を見い出すものだ教えられたのだ。
 
 銃をや刀剣を愛でる者が必ずしもそれを使う事を望む訳では無いように、彼は自らの存在理由として暗殺の技術と知識を慈しむ感情もあった。
 それをコレクションとして保存できる種族がバグアだという。

 そして、ヨリシロとなる事こそが彼の唯一の望みとなった。いや――それ以上に、彼はひたすら異星人のこの言葉に共感したのだ。

 ――『倒れて行く者の存在は、それを倒した者の知識と共にやがて還元される』

 自分の知識を有効活用して欲しいとか重宝して欲しいという事ではなかった。
 
 ワームを撃墜されようが、爆弾を起爆させられて死のうが、強化人間として衰弱して死のうが――自分と言う存在の証はこの異星人が星々を渡って簒奪して来た膨大な知識の連環の末席くらいにはいられるのだろう。

 ブライトンの再生したバグアにヨリシロ化される前の強化人間が混ざっていた事は、彼のこの思想の完全に裏付けた。
 
 強化人間は人間にバグアの細胞を融合させることで生まれる。彼は、もはやバグアの連環に取り込まれそこから逃れ出ることは出来ない。再生を望んでいる訳では無い。バグアの原記憶への同化のみが彼の望みであり、後はそのままそれ以外の場所からは綺麗に忘れ去られたかった。

「‥‥これでまた、会えるのかな?」
 元々彼らは、訳あって本星艦隊へ所属を移した、芋虫のような寄生生物をヨリシロにしたグラッブグローラーという個体も含めた三人からなる部隊だった。

 この仲間がズゥ・ゲバウに協力して、その後斃れた事も彼らは断片的にだが知っていた。
「さて、じゃあロサンゼルス見物を土産話に、三人で酒でも飲むか!」
 少年の言葉に、オズワルドはそう言った。


 警戒に当たっていたKV中隊は、先にティターンを発見する事が出来た。
「くそ‥‥やはり」
 隊長が歯を食いしばる。迂闊に連絡は出来ない。ジャミングの影響に加え敵に感づかれ折角の奇襲のチャンスを逃す危険性もあった。
 
 ハンドサインで味方に指示。配置につき、セコイア杉の隙間から狙撃の機会を伺う。
「ティターンとはいえ相手は一機だ! 初撃で決めれば――」

 ――『ごめんね‥‥?』

 その瞬間、背後から偽装ネットを被ったタロスが隊長に襲い掛かった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
弓亜 石榴(ga0468
19歳・♀・GP
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

「畜生! マッシュがやられた! 奴は何処に紛れて‥‥ぐわっ!」

「足をやられた! ティターンのプロトン砲だ! どこから撃っている!?」
 サンバーナディノ山系で正規軍の通信が飛び交っていた。二機のワームに部隊が翻弄されているのだ。
「く、くそっ‥‥」
 混乱の中で孤立したKVに乗る兵士は焦っていた。既に半数以上の味方との交信が途切れている。

 突然、近くのセコイア杉の陰で何かが動いた。
「うわあああ!」
 闇雲に構えたライフルを振り回すKV。その背面にあるセコイアの陰からゆっくりと拳銃を握ったタロスの手が突き出され――。

「ミルヒさん! 味方機の後方の木の陰を狙ってください!」
 叫んだのはピュアホワイトのロータスクイーンでタロスの重力波を検知した石動 小夜子(ga0121)だ。
 それに応じて白く塗り替えたヴァダーナフ『トイフェル』に乗るミルヒ(gc7084)がマルコキアスを発射。耳を劈く駆動音とともに放たれた弾丸がセコイアを抉り、タロスはとっさに身を隠した。
 そのままトイフェルは石動とのデータリンクに従ってタロスへの足止めを続ける。
「軍人さん大丈夫ですか? 安心してください。助けにきました」
「傭兵! こっちにも来てくれたのか‥‥」
 安堵する兵士。
「やはり、木々が邪魔でよく見えませんね‥‥」
 ロータスクイーンで周辺の地形をマッピングしていた石動が呟いた。
「間に合うなら、襲われている人達の位置を探して救助出来れば良いのですけど‥‥」
 
 石動の言葉を聞いた兵士は暫く考え込んだが、やがて沈痛な面持ちになった。
「‥‥気持ちは嬉しいが、もうシグナルが消えている。あるいはまだ生きている者もいるかもしれないが、今は一刻も早く奴らを倒すしかない」
「‥‥解りました。ここを通しては被害が広がってしまいますもの、私たちが頑張らねば‥‥兵隊さんは後退してこの事を知らせてください。敵の位置なら解りますから」

 ワームが傭兵に抑えられている間にKVが森から飛び立つ。KVは付近の基地へ帰還。その報告の義務を果たしたのである。


 白鐘剣一郎(ga0184)は、石動から受け取ったティターンの位置を確認していた。周囲にはプロトン砲で融解したと思しきKVの残骸や、プロトン砲の斜線にあったために綺麗に穴を空けられたセコイアが倒壊していた。
「僅か2騎。しかし侮れない相手か。心して掛からなければな‥‥戦いの終わりが見えてきた今だからこそ、尚更むざむざ被害を拡大させる訳には行かない」

「この辺とはあんまり縁は無いんだけど‥‥これも渡世の義理ってヤツだねえ」
 弓亜 石榴(ga0468)はコックピットの中でウンウンと頷いた。
「地形の詳しいデータはあるか?」
 事前に弓亜がそれを集めようとしていたことを知っていた白鐘が尋ねた。
「うーん、山系全体の概略図はあっても細かい地図まではダメだね。侵攻ルートは小夜子さんの回してくれた映像で判断するしかないみたい」
 
「空専門のボクが、陸戦なんかしてるなんてね」
 一方、僚機とのデータリンクを行いながらソーニャ(gb5824)も呟いていた。
「魅せられたかな? 死を覚悟して尚、戦い求め守る。それは悲しく美しいと思う」
 ソーニャにも敵がどういう覚悟で来たのか想像がついたのだろう。
「じゃ、行こっか。白鐘さんとソーニャさんだったよね。よろしく」
 弓亜の言葉を合図に三人は機体を進めて行った。


 ミルヒの放ったショットガンを受けセコイアの赤茶けた木肌が弾けた。
 一旦補足したタロスを逃がさぬ様、石動とミルヒは相手に張り付いて銃撃戦を繰り広げていた。
 KVの全長を遥かに超える巨木の森での銃撃戦は普通の森における人間同士のそれと同様の様相を見せている。
『もっと遮蔽物を意識しなきゃ‥‥』
 タロスからメイドの物静かな声が響く。
 ミルヒは僅かに眉をしかめた。タロスの方も遮蔽物を無視出来るような武器は保持していないはずだが、銃撃戦では石動のフォローを受けてなおミルヒが押されていた。
『本当はこんなモノ、人間が継ぐべきじゃないんだ‥‥だから僕は』
 メイドはどこか寂しそうに言った。
『それでも引き継ぎます。それが私のここにいる理由です』
 ミルヒは相変わらずマイペースだった。
『そう、じゃあ‥‥』
 その言葉と同時に、タロスは『動かなかった』。変わりに周囲から、ごく小さな金属音がした。

『ミルヒさん!?』
 少し離れた位置で管制を行っていた石動はミルヒが居る方から響いてきた爆発音に反応した。咄嗟にそちらに向かおうとする石動。だが、別方面で戦っている弓亜たちからの通信がその足を止めた。

 ――『小夜子さん、ティターンがまた動いたみたい! データをお願いしまっす!』
 赤い閃光が木立の間に溢れた。ティターンのプロトン砲だろう。
「‥‥!」
 石動は急いでデータを送信した。石動はもどかしい思いだった。確かにピュアホワイトは強力な電子戦機だ。しかし、その処理能力は機体とパイロットへの負荷も大きい。それは、カタログにも明記されているほどである。
 そして、ミルヒの支援のためのヴィジョンアイを使えば機体とパイロットへの負荷は更に増加する。端的に言って、石動はティターンの位置の特定とミルヒへの支援だけで手一杯だった。実際に攻撃を行う余裕まではなかったのである。

 ミルヒを攻撃したのは、木の上に仕掛けてトリガーにワイヤーを結んだショットガンだった。
「直撃‥‥」
 タロスの手には拳銃。至近距離で確実に仕留めるつもりだろう。
 だが、何かを警戒してタロスは停止。腕に装備されたワイヤーを垂らす。

 直後、爆煙を突き抜けてトイフェルが突進してきた。増加装甲「囲裙」がショットガンのを軽減させたのだ。

「今のも。そしてこれも。私が得たすべてで挑みますので、採点よろしくおねがいします」
 タロスが後退。追うトイフェル。その両者の間に何かが光る。ミルヒは迷わずマルコキアスを進路上の巨木の肌にバラ撒いた。案の定、木肌に設置された鋼線が支点を破壊されて無効化される。
 メイドは僅かに微笑むと拳銃を構えた。ゼロ距離での銃撃戦。もはや遮蔽物は意味を成さない。ミルヒはショットガンをフルオートで連射。アテナイも混ぜて猛攻を加える。
 だが。
『最初に会った時も、言ったよね‥‥』
 タロスが一気に間合いをつめ、トイフェルを押さえ込んだ。
『拳銃なら、ゼロ距離でも使えるよ‥‥?』
 これまでの攻防で、メイドはトイフェルが近接武器を持っていないことを確認していた。マルコキアスやショットガンはこの距離での取り回しに適した武器ではない。
 決着の瞬間だった。


「まずは事前の打ち合わせ通りに。行くぞ!」
 白鐘の合図で三機はティターンへ向かう。
「幾度となく殺し合ってきたけど、君たちを憎いと思った事はないよ。ある種の親近感や愛情に近いものを感じる。ともに生きる世界を今でも夢想する」
 ソーニャのエルシアンが最も敵に近づいていた。データリンクで周辺の木々の配置を把握縫うように駆け抜けたのだ。

『ゲハハ! ならどうだい? ヨリシロを前提にお付き合いと言うのはよォ!』
 プロトン砲を回避するソーニャ。

「それで殺し合いを躊躇う事はないけどね。殺意とは意志であり、感情ではないから。対峙したなら殺しあうしかない。そういうめぐり合わせだっただけ。だから尊敬と敬愛をもって殺すのさ」
『ほう?』
 ソーニャの放ったレーザーを盾で防ぐティターン。当然他の二機への砲撃も忘れない。
「だから、他のだれでもない。ボクがその命、想いを摘み、背負う。他のだれでもない、ボクが一番君を理解できると思うから。再びともに出会い、語り明かすためにね。ああ、グラッブグローラーさんにも会ったよ。とてもかっこよかった」
『背負う? まるでバグアにでもなったような物言いだなオイ!? なら、俺の部下を食ったついでに俺も食えるかな!?』

「そう? ボクの想い、考え方はバグアによく似てる? ボクも君たちとは楽しいお酒を飲めると思っているんだ。彼我の先で会える日を楽しみにしてるよ」
 
 再度のプロトン砲。ソーニャは近くの一際大きなセコイアの陰に機体を滑り込ませたが――これが致命的だった。
 ティターンのプロトン砲の出力の前では巨木といえど、遮蔽は意味をなさないのだ。
『残念! 俺の魅力についてこれなかったようだなァ! 酒飲めるくらい成長したらまた来いや!』
 敵は直撃を受け動きの止まったエルシアンに二射目放とうとする。
「ソーニャさん、危ない!」
 だが、弓亜の咄嗟に放った煙幕銃がソーニャを救った。敵は広がった煙幕を見て、目標を変更した。このおかげで、ソーニャの機体は危ない所で大破して動けなくなるのは免れたのである。



「なるたけ気をつけてたけど、ワイヤーは大丈夫みたい」
 自分たちの勢力圏では無く、ついさっき攻め込んだばかりの広い森の中で敵のKVをうまく足止めする位置にワイヤーを設置するのは、メイドにとっても不可能だったようだ。
 ミルヒ戦では、ほぼ敵と一対一だったから使ったのであって大量に設置出来るものでは無かった。
「えーと、とりあえず抜かさせなければ良い‥‥って事だと想ったけど、何かあの敵は最初っから突破を狙う気はないような‥‥危ない!」
 弓亜は敵の砲撃のせいで多少見通しの良くなった方角に赤い輝きを察知。慌てて回避を行いながら白鐘に話す。
「だが、長引かせる訳にも行かないな。弓亜、攻撃は俺が引き受けるから援護を頼む」
 白鐘は、ようやく視認出来たティターンに向けて一機に流星皇を加速させた。ここまでの攻防でティターンの周辺の木々はプロトン砲で倒され、遮蔽物は無くなっている。
「高威力の精確な射撃‥‥だが横槍も、遮蔽もなければやりようはある!」
 かくして、ティターンと流星皇の間で、弓亜の機体である『ロクさん』も交えて壮絶な射撃戦が発生した。敵はプロトン砲に加えて高出力のフェザー砲を連射。流星皇はチェーンガンとフィロソフィーを連射。両者の間に火線が飛び交い、お互いの装甲が削られる。
 当初は再生能力を考慮しても、やや流星皇が優勢に思われた。
『楽し過ぎるぜ! これ使っちまうと暴れるのにミソがつくがしゃあねえか!』
 流星皇は、突如出力を増したフェザー砲の直撃を受け、一旦後退する。
 白鐘は気付いた。タロスの装甲がより生物的に変形し、その下から明らかに地球の生物の物では無いパーツが覗いているのを。
 
 それが、このヨリシロ獲得に貪欲だったバグアの機械融合と限界突破だった。
「だが、耐えてみせる! 頼むぞ流星皇!」
 白鐘は遂に奥の手としてPRM改を発動。抵抗を高めた流星皇を正面から突撃させる。既に弓亜の機体は限界が近い。奥の手を使った敵をこれ以上暴れさせたくない、というのが白鐘の判断だ。
 フェザー砲が浴びせられた機体の計器が警告を鳴らす。
 だが、流星皇が限界を迎える前にロクさんのランチャーシールドがフェザー砲の発射口に着弾。フェザー砲の照射が止む。
「武器を削げれば良いんだけど‥‥!」
 と弓亜が言う。
「勝負だっ!」
 流星皇は錬剣を抜き放って、切りつけるが、オズワルドは知覚兵器への防御も兼ねている盾を構え、正面から攻撃を受け流す。白鐘は素早く体勢を立て直して二段目を振り被る。ティターンも高速で反応。再び盾を構えようとするが――。

「言い忘れたけど、こう見えても、ボクはお酒大丈夫だよ? ‥‥それと弓亜さん、さっきはありがとう」
 ここで、中破した機体を引き摺るようにして移動して来たエルシアンがレーザーガンを発射。敵の体勢を崩す。
 弓亜がソーニャを救い、そのソーニャが今度は白鐘のチャンスを作ったのだ。
 遂に、白鐘の刃がティターンの装甲に深く食い込んだ。ティターンがよろめく。
 白鐘はそのまま機体を後退させようとする。だが、衝撃がコックピットを襲った。
「くっ!」
 白鐘が叫ぶ。
『お前ら大したモンだ。楽しかったぜ! だが、厄介な機体を無事に済ませたら、仲間が危険だからよォ!』
 ティターンは流星皇にサーベルを突き刺すと、その刃で相手を強引に引き寄せた。
『あばよ!』
 60m級の木々の梢を越えて最期のプロトン砲が迸った。内蔵ゆえの密着状態で放たれた最大出力のそれは抵抗を強化した状態の流星皇をも大破させた。


 現地に駆け付けた正規軍が最初に発見したのは立ち尽くすタロスと周囲に散らばるKVの残骸だった。よく見るとKVの肩から先の腕だけが機体の中枢を貫いておりタロスは既に撃破されている。
『エナジーウィングを腕に用いて貫いたのか。その後、デアボライズの限界が来て自壊したようだ』
 タロスに爆発による外傷は無かった。ヴァダーナフの自爆はSESが乗っておらずワームに対して有効ではないのだ。
 なお、UPCはミルヒの自爆についてはほぼ単機でタロスの相手をしたので仕方が無いとして罰金は課さないと決めた。ミルヒと石動の活躍で先遣隊に生存者がいたのも有利に働いた。


 ミルヒは倒れているメイドの側に膝をついていた。
「名前を聞いていいですか? 私が引き継ぎます」
 メイドは弱くなっていく呼吸の下から、言葉を絞り出す。
「【プンダリカ・サプタ】‥‥本名じゃないよ? それは僕も知らない。組織から貰った名前‥‥」
「サンスクリット、インドの古い言葉で『白い蓮の花』だったかな‥‥サプタは数詞で『7』だから、受け継ぐっていうなら君は【プンダリカ・アシュトー】とでも名乗ればいいと思うよ。アシュトーは『8』だから‥‥」
 それから、少年は身に着けていたスローイング(投擲用)ナイフを一振りだけ、ミルヒに手渡した。
「免許皆伝の証、かな‥‥? あの手刀は『合格』だよ‥‥虚をつくのはこの技術の基本だから‥‥」
「ふふ、こんな技術にいつまで人間は頼るのかな? ねえ、君がこの戦いが終わったらどうするのか知らないけれど、出来れば自分や大切な人を守るために、幸せになるためだけに『これ』は活用してね‥‥――」
 メイドは静かに目を閉じて、息を引き取った。ミルヒは受け取ったナイフを胸の前で握りしめ、そこで限界が来たのか折り重なるように倒れた。
「彼らも同じ人間ですので、せめて簡単に弔いだけでも‥‥」
 その様子を見届けた石動は少年を近くのセコイアの根元に葬り、黙祷した。

 数分後、ミルヒを支えながら歩いて来た石動を正規軍が保護した。


「お手柄だったな。あのティターンのパイロットは多くの報告書に名前が挙がっているバグアだ。重要人物を狙った事もある。‥‥冗談抜きに小星章ものだよ」
 ストレッチャーに乗せられ、救急ヘリに運ばれる途中の白鐘に、兵士の一人が労いの言葉をかける。
「そうか‥‥手強い相手だった」
 白鐘はそう言った。
「今度はグラッブグローラーさんの話もしよう。彼は自分の自慢なんかしそうもないから」
 ソーニャは静かに呟いた。