タイトル:【決戦】ソルVS巡洋艦マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/20 01:24

●オープニング本文


 バグア本星。居住区画と思しき一画にドクトル・バージェス(gz0433)は居る。
「これで、よし‥‥と」
 データを大量におさめた端末を操作、自らが地球から持ち帰った研究のデータを、本星に納めたバージェスは自分の区画を感慨深げに眺めた。
「もう、ここに帰る事もないからねぇ♪」
 その後、知り合いと挨拶を交わした彼は待ち合わせの場所に急ぐ。途中の区画では、今回彼とその同行者が本星に帰還する際に乗って来たソルが、修理と前回の戦闘で失った子機を補充をほぼ終えて駐機していた。そこを通り過ぎて、目的地に着いた彼が見たのは、既に治療を受けたマスクドバグアがブライトンに食って掛かる姿だ。
『だからそこを何とかしろと言っているのだ! このご機嫌ジジイ!』
 ブライトンは上機嫌に、鷹揚な拒絶でマスクドバグア応じる。
 マスクドバグアの要求は単純だ。未だ不完全な点が多い再生体としての自分を、何とかして生前の性能に近付けろ、と。
 一方、ブライトンは再生体についてマスクドバグアに説明して、要求が不可能であることを伝えるとこう言った。
『今のお前が斃れれば、より完成に近づいたお前を我は生み出すであろう』
 マスクドバグアは、無駄だと思ったのか踵を返した。


 ソルは再び本星から飛び立った。目標は勿論地球、バハカリフォルニア半島である。
『‥‥やっぱり発見されましたねぇ♪』
 バージェスが愉しそうに笑う。
 ソルを補足したのは三隻のエクスカリバー級巡洋艦を中核とする中央艦隊の一隊だった。
 ソルを持ってすればそう苦労する相手ではなく、また本星に近いこの場所なら地上よりはシェアトも十分な戦闘能力を発揮できる。だが、彼らにはここでソルを温存したい理由があった。

『どうするのだ?』
 マスクドバグアが問う。ちなみにこの二人、現在はソルのコックピトに座る操縦者の膝の上に小柄なバージェスが乗っかっている。バージェスは両手で頭上のマスクドバグアの頭を掴んで引き寄せ、耳元に囁いた。

『ふむ‥‥面白そうだ! まだ生身で人間共とやり合った事は無かった! しっかり掴まっていろ!』
 ソルが加速する。やがて人類側が撃って来た時、マスクドバグアが言う。
『‥‥一緒に再生されたリノの奴が言っていた。俺達がやられても、ジジイはすぐに第二、第三の俺達を作るだろう、とな』
 シェアトにしがみついたままのバージェスは、何も言わなかった。
『だがな‥‥下っ端、『俺』が本物だ! 『今』! ここにいるこの俺が唯一無二のスーパーバグアなのだっ! 行くぞ! ハァーハッハッハッ!』


『くそっ、あの図体でなんという動きだ‥‥しかもまるで効いている気がしない‥‥』
 ソルは圧倒的であった。巡洋艦数隻の攻撃、そして艦載のKV部隊の攻撃を回避しながら弾幕の中を突き進んでいく。幾度かは直撃弾を当てている筈なのだが、何らかの能力で軽減している様だ。
『何故効かない! 再生された機体は劣化している筈じゃあ‥‥!』
『中米の戦闘で、弱っていたんじゃなかったのか!?』
 KVに乗る兵士たちが、呻いた。
『もしかしたら‥‥ソルは本物なのかもしれない』
 ソルと遭遇した巡洋艦の一隻であるサンディア・ピュルムの艦長を務める初老の男、コンラッド・マルティネスの推測は全くの無根拠でも無かった。
 討伐された際、そのバグアが使っていた機体はゼダ・アーシュ。それが大破した後はティターンだった。
 つまり、ソル自体は温存されていた本物だとしてもおかしくはない。コンラートがそう考えた時、ソルが主砲を開いた。
「‥‥機関全開。本艦を盾に」
「艦長!?」
 クルーが声を上げる。だが、艦の簡易ブースト担当の能力者であるノラ・ベルナリオは即座にその指示に従った。
「りょーかいっ! つっこむのだーっ!」
 ソルの射線上には、巡洋艦だけでなく、多数の輸送艦や味方機がいた。それらを守るために、サンディア・ピュルム自体を盾にしようとしたのだが――
『ハァーハッハッ! かかったな!』
 ソルは砲門を閉じると、巡航形態に変形。更に加速。艦に激突した!
「くっ‥‥!」
 衝撃に揺れるブリッジ。しかし、衝撃は唐突に止んだ。どうやら、ソルが慣性制御で衝撃を相殺したらしい。だが、今度は艦自体が動き始め、どんどん加速する。
「かんちょー!」
 ノラが叫んだ。
「我々は『盾』だね」
 改めてモニターで状況を確認するコンラート。艦に突き刺さったソルは、続いて格闘戦用のクローを展開。対空砲やミサイル発射口を潰した後、クローで艦を抑え込んでいた。味方の艦艇やKVは攻撃を中止するしかなかった。ソルを攻撃すれば、サンディア・ピュルムを巻き込んでしまうからだ。
 ソルは巡洋艦を捕獲したまま味方艦隊や本星から遠ざかる。
「このままでは‥‥」
 クルーの一人が困惑の体で判断を仰ぐ。
「まず、救難信号を。それから‥‥総員、艦内白兵戦用意」
 コンラートが指示する。
「は、白兵戦!?」
 ソルなら一対一になった今、この艦を破壊するなど造作も無い事だ。だが、この後他の味方に遭遇する可能性も否定できない。

 コンラートの推察通り、今度はごく小さな振動が艦を襲った。
「右舷前方のエアロック破損!」

「映像を」

『ハァーハッハッハァ! こいつはちょっとした軍艦だな!』

『僕にはちっちゃなボートにしか見えませぇん♪』
 
 カメラが捕えたのは、艦内の通路に立つバージェスとマスクドバグアだった。空気のある区画に侵入したらしく彼らは二人分の宇宙服らしきものを圧縮していた。
 それが終わると、バージェスはカメラに向かって白衣の端をつまみ上げると優雅に一礼。
『こんにちわぁ♪』
 ブリッジの空気が張り詰める。
『これから僕は機関室にお邪魔するよぉ♪ まず、エンジンを停止させてぇ‥‥そうだ! 閣下にはブリッジの制御システムを壊してもらうねぇ!』
「この艦を鉄の棺桶にして、宇宙で遭難させる訳だね?」
 コンラートが訊く。
「だぁい正解! あ、安心してねぇ? 邪魔しなければ乗員と生命維持装置、後食料にも手を付けないでおくから! 生存者が多ければ、宇宙にいる君たちの戦力から捜索に人手と時間が取られるよねえ? あはっ、あはははははっ!」
 この時、数名の能力者が二人に立ち向かったが、あっさりとマスクドバグアに殴り飛ばされた。
「ハァーハッハッ! 雑魚め! 超必殺技を使うまでも無いな!」
 能力者から奪った剣でポーズを決めるマスクドバグア。
「く‥‥ちょー必殺技とはいったい何なのだー!?」
 ノラはつい訊いてしまう。
「教えてやろう! 俺のスーパーバグア・ジャッジメンツは、俺の輝きを光線として発射する事で、俺の輝きを高める静謐な暗闇を召喚‥‥ムググ‥‥口から手を放せ下っ端! これはハンデだ!」
 艦長は何か思い当たる節があったのか、素早く端末を操作して情報を検索すると艦内通信で傭兵たちに迎撃の指示を出した。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ジョー・マロウ(ga8570
30歳・♂・EP
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

 時間は艦が襲撃を受ける前まで遡る。艦に乗り合わせた傭兵の一人であるジョー・マロウ(ga8570)は、簡易休憩所で一冊の文庫本を広げていた。
「あんた懐かしいもの読んでいるな」
 話しかけて来たのは日系人らしいという以外は特に特徴も無い中肉中背の傭兵だった。傭兵が顎をしゃくって見せたジョーの文庫本には「ロバート」と作者名が書かれていた。
「俺も昔読んだよ。SF界の大御所の作品だからな」
 ジョーは常の彼の例にもれず、眠そうな様子で応える。
「そいつは嬉しいね‥‥あんたが二十歳以上のブロンドなら、なお良かったがな」
 傭兵は気さくに苦笑する。
「ああ、そういやこの艦の簡易ブースト担当は、どう見ても幼女だったけ」
「しかし、またドクターに引っ張り出されてきたが‥‥宇宙は物騒で嫌だぜ。脱出できても救助が来なくて、宇宙を放浪するハメになったらと思うと背筋が寒くなるね。‥‥別の小説にすべきだったかな」
 ジョーの読んでいた小説の舞台は、人類が乗り込んだ巨大な恒星間移民船だ。本来は船の内部で一つの社会を形成しつつ世代交代を繰り返しながら、遥かな目的地を目指す筈だった。
 だが、乗り込んだ移民達は世代交代を繰り返すうちに、当初の目的を忘れ、遂には自分たちの暮らしているのが恒星間移民のための宇宙船だとうことすら忘れられ、移民船自体が一つの世界であるかのように暮らし始める――
 という小説である。
「このエクスカリバー級巡洋艦にはそこまでの居住性は無いよ。無人島漂流物の方が例えとしては‥‥」
 二人が他愛も無い雑談をしていると、白衣を着た男が休憩所に入って来た。
「ジョー君、装備の点検をするから、後で船室の方に来てくれたまえ〜」
 やって来たのはドクター・ウェスト(ga0241)。ジョーの所属する小隊の隊長でもある傭兵だ。
「あ、ドクター。了解です」
 ふと、ウェストはジョーと話していた傭兵の方を見る。
「‥‥君も傭兵かね〜?」
「見ての通りだ。ガーディアンだよ」
「‥‥君は封鎖衛星ポセイドン攻略戦に参加していたかね〜?」
「‥‥? いや。俺はあの当時地上での依頼を受けていたが?」
「なら、何も言うまい。‥‥まだ我々は戦場にいる。気を抜かないよう注意したまえ〜我輩達は地球がバグアと戦うための『武器』。どんな時もそれを忘れない事だ〜」
 言いたいことを言うと、ウェストは立ち去った。残された傭兵は怪訝な顔をしてジョーを見た。
「‥‥まあ、ポセイドン作戦の際に色々な事があったらしくってね。能力者、特に傭兵に対してはあんな感じなんだ。あれでも一時よりは大分マシになったんだが‥‥悪く思わないでくれ。あれで頼りになる人だよ。傭兵誕生以来戦い続けているからな」

●ラサとノラ
「我輩達は遂にここマデ来たノダナ‥‥」
 そこは巡洋艦の通路の一つ。
 窓から直接宇宙と星を眺められる通路に佇むのは一輪の可憐な白い薔薇――と表現したいところだが、そこはやっぱり一輪のチューリップと評すべきラサ・ジェネシス(gc2273)さんだった。
 しかし、その表情は何時になく物憂げだった。
 この艦にいる傭兵たちはそれぞれが任務を終え地球へ帰るために、丁度後方へ補給のために戻るところだったこの艦に同乗していた。
 ラサは、普段余り傭兵が鳴り込む機会の少ない巡洋艦の中を探検している内に、ここへ入り込み、一人物思いに沈んでいたのである。
 ラサは戦災孤児だった。教会でシスターに養育されたが、そのシスターも今は彼女に形見の品を残すばかりだった。
「もう少し、ナンダ」
 瞬かない星の海の中でもなお、赤い星は禍々しく輝く。ラサはそれを見つめながら、ポケットの中に手を入れようとしたが――

「うわわわ〜! 危ないのだ! 避けて欲しいのだ〜!」

 ラサは慌てて声がした方向を見た。そこにはサイドアップテールを揺らして全力疾走する少女の姿があった。艦の操作を担当する能力者、ノラである。
「あ、明らかに間に合わナイヨ!」
 ごちん、という痛そうな音が響き、二人の少女はくんずほぐれつ、とても詳細を書けないような体勢で無重力状態の廊下を跳ね回った。

「アイタタタタ‥‥」

「ご、ごめんなさいなのだ〜」

 二人はようやく近くの手摺に掴まって、お互いの姿をまじまじと見つめ合う。
(‥‥何というか他人に思えない様ナ‥‥)
(‥‥何故か同類の雰囲気を感じるのだ)

「あ‥‥私は、この艦の専属能力者でノラ・ベルナリオなのだ。よろしくなのだ」
「我輩はラサ・ジェネシスデス。傭兵ナノダ」

 ――あ‥‥語尾が被リマシタ(汗)/被ったのだ(汗)

 やや気まずい沈黙の後、先に口を開いたのはノラだった。
「ラサさんはここで何をしていたのだ?」

「あ、我輩ハ‥‥」

 ラサは言葉に詰まる。まさか、宇宙を眺めながら物思いに耽っていたとは言い難い。
「ここは、とても綺麗な場所なのだ。私もたまにここで何時間も過ごしたりするから、別にヘンな事じゃないのだ」
 
 それを聞いたラサはとりあえずほっとする。そして何気なくポケットを弄ったが――
「ややっ!? 無イ? 我輩の大切な物ナイヨ!?」
 
 どうやら、ラサは肌身離さず持っていた大切なものを落してしまったらしい。

「ええっ! ご、ごめんなのだ! 多分私がぶつかった時に落としたと思うのだ! 一緒に探すのだ!」
 
 二人は通路を手分けして探した。ラサによれば十字架だという。だが、通路のどこにもそれは無かった。
 通路はそれなりに長い物の。横幅は狭く、また手摺以外は特に何かあ置いてある訳では無く、見通しは良い。
 また、宇宙船の構造の常として両端の扉はしっかり閉じられており、さっきノラが入ってきて以来一度も開けられていない。
 なのに、二人が丁寧に探しても見つからないというのは――
「どうやら、別の場所で無くしてしまったみたいデスネ‥‥」
 しょんぼりとするラサ。
「き、帰還までもう一回休憩があるから、一緒に探してあげるのだ! それに、万が一見つからなくても後で誰かが見つけたら教えるようにクルーの皆にも言っておくのだ!」
「ノラ殿‥‥」
 うるうるとなるラサであった。


 巡洋艦の構造上、先刻ラサとノラが遭遇したような通路は反対側にもあった。
 やはり、任務の合間の暇を持て余していたユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は、そこに立ったまま天蓋越しに見える星々の光を浴びる。
「やっぱり、地上から眺めるのとはだいぶ印象がちがうね」
 ユーリもまた歴戦の傭兵だ。
 かつては地上の各所を飛び回っていたのが今では戦局の変化に伴って遂に宇宙にまで来てしまった。
 やはり何か想うところがあるのだろう。近くの手摺に寄りかかって、静かに目を閉じる。すると、誰もいない通路に、微かなハミングが響いた。テノールから、カウンターテナーへ、静かな旋律が静寂を満たし始めた時、人の気配を感じてユーリは歌うのを止めた。
「失礼。いや盗み聞きするようなつもりは無かったのだけれど」
 控え目ながら、心のこもった拍手をしながら通路に入って来たのは艦長のコンラッドだった。既に60近い士官だが髭が薄く皺もそれほど目立たないのでかなり若い印象を与える。
 コンラッドは申し訳なさそうに笑うと、制帽を被り直して言った。
「ユーリ・ヴェルトライゼン君だったね? 丁度良かった、依頼の書類でやってもらう手続きがあってね。申し訳ないけれど艦橋の方へ来てもらえるかな?」


「これはクルーの持ち物ではないのだね〜?」
 ウェストは艦橋にて、艦長のコンラッドと会話している。
 きかっけはウェストが艦内で偶然拾った『十字架』だった。
 只のガラス玉をありふれた木を彫って作った十字架にはめた品だったが、よく手入れされ、誰かが大切にしていたような印象がある。
 なので、ウェストが艦内のクルーに聞いてみた所、艦長に確認するよう言われたのである。
「この艦は、ほとんどクリスチャンだから十字架を持っているスタッフは多いが‥‥見覚えが無いね。傭兵の物だろう。後でドクターの方から聞いておいてもらえませんか?」
 ウェストは渋い顔をしたが、『十字架』というものに何か想う所があったのか黙って頷いた。
「しかし、凄い艦橋だね‥‥」
 用があって、同じく艦橋に来たユーリはそうに呟いた。
 艦橋には、色紙を切りぬいて作ったジャック・オー・ランタン(カボチャ)や髑髏が貼ってあった。他にもマリーゴールドの造花などが飾られている。
 カボチャは北米のハロウィン。マリーゴールドやドクロはラテン・アメリカの「死者の日」の象徴だろう。
 そして、天井や床には邪魔にならない範囲でオレンジ色のカラーテープで作った飾りが張り渡されていた。
「少し、気が早いだろうか? ただ、この手の行事は軍隊でも意外に大切なんだよ」
 コンラッドは苦笑した。(万聖節ことハロウィンは10月31日)
 そう言って艦長がPumpkin Soupと書かれた宇宙食のパックを取り出した時、一人の通信使が叫んだ。
「艦長! 本星方面より高速で直進して来る敵影を補足しました!」


 バージェスとマスクドバグアが艦内に侵入した直後、ウェストは艦橋から出て機関室へ急いだ。機関室近くに居るジョーと合流して、機関室を守るためだ。
 一方、ラサとノラがウェストと入れ違いに艦橋に到着した。他にも艦橋を守ろうと能力者が数名集まって来る。
 ユーリは艦橋の外で敵を迎え撃とうとした。だが、コンラッドがこれを止める。強力な敵に対して完全に孤立するのは望ましくない、という意見だ。
 こうして、ユーリも艦橋の中で相手を待ち構える事になった。そこで、ユーリは自分が考えついた作戦を艦長に提案した。
「艦長このカラーテープ借りても良いかな? それと空き缶みたいものもあれば‥‥」
 怪訝な顔を見せるコンラッドにユーリは説明した。マスクドバグアの宣言が本当なら何らかの対策を講じるべきだと。
「ここにある飾りのテープと‥‥空き缶か瓶で鳴子のようなトラップが作れれば、有効じゃないかと持って」
 実際問題、時間が貴重なこの状況ではすぐに使えそうなものはそれくらいしかなかった。
 艦長は賛成した。空き瓶であれば、艦橋近くの倉庫にあるという。
「原始的だが、以外に有効かもしれないね。ここにいる人員で協力すれば五分くらいで少しは準備出来るだろう‥‥」
 かくして艦橋に即席で鳴子トラップが用意された。

「フン、このスーパーマスクドバグアを迎えるに当たって鏡一枚置いていないとはな!」
 抵抗する者もいない艦内を悠々と進んで、艦橋の前に辿り着いたマスクドバグアは勝手なことを抜かしていた。
 どうやら戦闘前に、身だしなみをチェックする気満々だったらしい。

「ハァーハッハッ! 人間共! サインは一人二枚まで、握手は両手――」

「皆眼を閉じるのデスーッ」

「うおっ眩しッ!?」
 
 ドヤ顔で堂々と自動ドアを開けて入って来たマスクドバグアの眼前でラサの閃光手榴弾が爆発した。ヨリシロと感覚が一致しているため、怯むチャイナドレス。

「やっぱり帰って来たのか。お前」
 最初に一撃をいれたのは、ユーリだった。目に留まらぬ速度で振るわれるレーザーブレードがバグアの背中を焼く。
 しかし、浅い。
「これならドウダ!」
 ユーリが一撃飛び退いたのを確認したラサがシェキナーで兵破の矢を直撃させる。特殊コーティングがあっさりとFFを貫通。シェアトは僅かに体を曲げる。
「ぐむっ‥‥!」
 続いて、他に艦橋に詰めていたAAとERが、HM経由のERの支援を受けてそれぞれ最大火力の攻撃を叩きこんだ。
だが、素早く間合いを取り直した筈のAAが膝をつき吐血する。どうやらカウンターで一撃貰っていたらしい。
「み、見えなかった‥‥」
 そう呟いても、絵になるワイルドなイケメンAA。
「ハハッ、詰まらんな人間共!」
 そう言うとマスクドバグアは、手に持った剣を振った。彼の足元の床が綺麗に割れる。そのまま、動きを止めるマスクドバグア。傍目には敵の出方を待っているようにも見えるが‥‥。

 ――鈍いな
 
 仮面のバグアは舌打ちした。

 サンディア・ピュルムを捕獲したソルの進行方向は、『地球』だ。現在も、ソルと巡洋艦は加速して地球へと向かっている。
 そして、再生されたバグアはブライトンから遠ざかるほど、その力を減衰させてしまう。早い段階で目的を遂行するべきだと判断したマスクドバグアはこう言う。
「俺様は詰まらん戦いをしない主義でな! 早々に決着をつけてやろう いくぞ! スーパー・バグア‥‥」

 だが、この時ラサが敵を制止した。
「ちょっと待テ! それを使われるとマスクド(略)殿のかっこいいアクションが皆に見えなくなるノダ‥‥それでもイイのカ?」
「き、貴様そこを突いて来るとは‥‥やはり‥‥天才か‥‥」
 勝手に悩みだす仮面野郎。ようするに視界を奪う攻撃では自分が目立てないと思ったのだろう。
 素早く目配せする能力者たち。
「資料などで見知ってはおりましたが‥‥やはり、少々変わった方のようですわね」
 そう言ったのは、おっとりした印象を与えるお姉様のHM。
「相変わらずだな、こいつ‥‥」
 再びユーリが跳躍。デュラハンの刀身を相手に叩きつける。

「いやいや俺の燦然たる輝きは、暗闇の中にあっても‥‥」
 何やらまだブツブツと独り言を続けるマスクドバグア。しかし、ユーリの刀身が迫った瞬間、いきなり奇妙奇天烈なポーズで、ひらりと回避!
「ハッ!」

「死点射!」
「当たらん!」

「豪破斬撃!」
「甘い!」

 続いて、マスクドバグアはラサとAAの攻撃を、無重力を的確に利用しつつ、一々奇妙なポーズをキメながら回避しまくる。その様は、もはや意味不明なダンスを踊っているようにしか見えない。
 しかし、現実問題として傭兵たちの攻撃が悉く避けられているのも事実だった。
「マスクドバグア‥‥やはり油断の出来ない相手ダ‥‥」
 マスクドバグアは何度目かの攻撃を回避、華麗に壁へ着地したかと思うと突然ガッツポーズをした。
「こ、これは‥‥! 今のだ! 今の動きこそ真理! 華麗なるスーパーバグア・イリュージョン‥‥!」
「また何か言ってるのだ‥・」
 遮蔽物の影でノラが呆れている。すると、突然マスクドバグアはビシィッ! とラサの方を指差した。
「どうだ小娘! これで貴様らも俺の美しいアクションを堪能しただろう! いくぞ! スーパー・バグア・ジャッジメンツ!」
 要するに、散々華麗なアクションを披露したから満足して必殺技を使う気らしい。もはや挑発では邪魔出来ないと考えたラサは再びシェキナーを構える。
「ユーリ殿! とにかく動きだけでモ止めルヨ!」
 四発同時に放たれた矢がマスクドバグアのチャイナドレスを床に縫い付ける。
「ハァーハッハッハッ! 無駄な事を!」
 同時に、マスクドバグアの両眼が仮面の下から怪しい光りを放ち――周囲が一瞬で暗闇に塗りつぶされた。
「そこかっ!」
 ユーリは、すかさず直前まで相手がいた位置に見当をつけて瞬即撃で斬撃を叩きこんだ。
 だが、やはりこの異常な暗闇の中では狙いをつけるのは難しい。手応えは無く、ただ布の破れる音だけが空しく響いた。
「ハァーハァッハッハッハァ! ここからはワンサイド・ゲームだぞ人間共!」
 塗りつぶされたような暗黒の中、凄まじい力で剣が振るわれる。
「ぐっ‥‥」
「かはっ!」
 最初に上がった悲鳴は、AAとHM経由のERの物だ。
「今治療を‥‥あうっ!」
 慌てて錬成治療を行おうとした二人目のERの少女(ラサよりは年上の模様)も斬撃を受けて壁に叩きつけられる。
 勿論、ラサとユーリも敵の気配を感じたと思った瞬間には重い一撃を受けていた。
「ラサちゃん!? 大丈夫なのだ!?」
 ノラが叫ぶ。
「我輩は大丈夫なのダ! ノラちゃんは応援してくれれば良いヨ! 安心シテ」
 そうノラに言ってからラサは、ERに声をかける。
「お姉サマ! バイブレーションセンサーを!」
「承知いたしました!」
 ラサに頼まれたERがバイブレーションセンサーを発動、四方を壁や機器に囲まれた閉鎖空間故、即座にマスクドバグアの位置を感知した。
「いました! 前方、やや右上方と思われます」

「その綺麗ナ顔ニブッ刺してヤル!」
 
 ラサが即座に跳弾で矢を発射する。
 続いてER二名も超機械の類で援護射撃を行う。
「むっ!」
 ラサの矢を切り払ったマスクドバグアだったが超機械の電磁波で僅かに怯む。そこにユーリが踏み込んだ。
「今度こそ‥‥!」
 ユーリは手応えを感じる。しかし、まだ浅い。
「不味いかな‥‥!」
 咄嗟に防御姿勢を取るユーリ。直後、強烈な蹴りがユーリを襲う。他の能力者たちも、反撃を受けていた。
「中々味な真似をするではないか! だがまだまだ届かんな! ハァーハッハッ!」
 闇の中、仮面野郎の哄笑が響く。
 確かに、バイブレーションセンサーを用いた索敵は効果を見せた。敵の正確な位置を把握し切るには至らなかったのだ。また、マスクドバグアの反応速度では、探知から攻撃までの微妙なタイムラグでも致命傷を避けるのも容易なのだ。
「‥‥こうなったらトラップに期待するしかないな」
 時間が無かったせいもあり、用意できた鳴子は多くは無い。後はひたすら防戦に徹してマスクドバグアが鳴子に引っかかるのを待つしかない。
 他の仲間も、事前に手伝ったのでその事は解っている。かくして、五人はひたすら敵の猛攻に耐えた。
 マスクドバグアは時間稼ぎを重視していたせいか、回復役のERを優先的に狙う事はなかった。
 そのおかげで、五人は何とか耐え続けていた。そして、遂に待ち望んだ音が聞こえた。マスクドバグアが鳴子に引っかかったのだ。
 すかさずユーリが両断剣を仕掛ける。だが、浅い。音がしてから攻撃を当てるまでに僅かな隙が生まれるのは避けられない。まして、ゼオン・ジハイドの反応速度に対してはその隙は大きい。
「ほほう。この奇妙な代物はそういう使い方をするのか! 俺様の歓迎セレモニーかと思ったがやるではないか! ハッハッハッ!」
 しかも、シェアトは鳴子の用途に気付いてしまった。これでは次のチャンスは望めない。
「だが、次は無いぞ! どうする人間共‥‥むっ!?」
 余裕たっぷりで再び攻撃をかけようとしたマスクドバグアは、突然自分の体を襲った違和感に顔を顰めた。

 ――バグアがブリッジに侵入して来る前、五人で打ち合わせをしている際の事だ。
 HM経由のERは、バイブレーションセンサーの有無を確認したラサにこう言っていた。
「相手が相手ですので、センサーの感知だけでは心許無いかもしれません。その場合は、もう一つのHMスキルを試してみます。通用したら、皆さんは集中攻撃を」
 他の仲間は、これに賛成した。
 
 ERは鳴子が見破られた後、再びバイブレーションセンサーを使用。そして、位置を特定したマスクドバグアに対して呪歌をぶつけたのだ。
「何故俺様は痺れているのだ!?」
「効いている‥‥! 皆さん! お願いします!」
 ERは叫び、続いてマスクドバグアの位置を口頭で伝える。
 呪歌が通用した理由は二つある。一つはやはり再生体ゆえの劣化。そして、本星からも戦闘開始当初よりは離れている事だ。
「こんな小細工で!」
 力づくで麻痺に抗うマスクドバグア。やはり高位バグアだけあって、麻痺はすぐ解除される。だが、傭兵たちにとっては貴重な時間が稼げた。
「今度こそ、動きを止めル!」
 ラサが再び死点射を使用。今度は物理的にマスクドバグアの動きが阻害された。そこにAAが攻撃を叩きこんだ。
「逃がさない!」
 続いて、ユーリの渾身の両断剣がマスクドバグアを抉る。
「ぐ!」
 攻撃を受けつつも二人を跳ね返して、距離を取るマスクドバグア。受けた傷は彼くらいのバグアにとっては致命傷とはいかないが、決して浅くも無い。
「ま、まあ今のはサービスだがな‥‥ハァーハッハッ!」
 しかし、マスクドバグアはアホではあるが戦闘については、バグアの中でも年季の入った専門家である。
 しかも、なまじ理詰めで戦うタイプではないだけに、『流れ』には敏感だ。
 確かに傷はまだ気にするようなものでは無い。
 しかし、ジジイ呼ばわりしつつも親衛隊として敬意を払っているブライトンの言葉を借りれば『常に攻撃的で、問題には新しい解決方法を考えようとする』人類がこの後の攻防でより、厄介な戦法を編み出さないとも限らない。
 また、呪歌が一瞬でも効いてしまった事から解るように目的地である地球付近に近づけば近づくほど、肉体の治癒能力も低下する。
 何より、今のマスクドバグアにとっての優先目標は、適度に時間を稼いで離脱する事だ。

 ――フン、頃合いか

 幸い、彼の能力が効いている内なら離脱も容易であり、人間の追跡も厳しくは無いだろう。
 

 機関室へ続く通路の入り口にある扉を開いて、入って来たバージェスは開口一番こう言った。
「Trick or Treat♪」
 次の瞬間、少年の皮を被ったバグアは背中から翼を形成。通路を蹴って無重力の中を猛然と滑空した。

「来たな‥‥そっちは機関室を守り、あんたは一緒に来て援護してくれ」
 ジョーが一緒に来るよう名指ししたのは、襲撃前に会話していたGDであった。他にPN一人がジョーに従い、HDの男はジョーの要請を受けて機関室に向かった。
 突進して来るバージェスに小銃を撃つGD。ジョーも小銃「S01」で迎撃する。
「あっはぁ♪ ただ撃つだけじゃあ駄目駄目だよぉ?」
 三人の能力者は、無重力状態であることを利用して壁や天井からも銃撃を行っていたが、バージェスは翼を器用に使って、機動を制御して弾丸を回避、まず前衛のGDを軽く殴り飛ばした。そして、更に加速して今度はジョーの首を掴むとそのまま壁面に叩きつける。
「グッ!」
 ジョーは喉を抑えられ、くぐもった声を上げた。ジョーを救出しようと、PNが攻撃を仕掛けるが、これもバージェスに蹴り飛ばされる。
「このまま気絶してもらうねぇ!」
 更にギリギリとジョーを締め上げるバージェス。しかし、その彼を高威力のエネルギーガンが狙う。バージェスは咄嗟にジョーを放り出して攻撃を回避。球が飛んで来た方向を見る。
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
「ドクター‥‥! 全く、もっと早く助けて下さいよ!」
 ゴホゴホと咳き込みつつ苦笑するジョー。
「何なのその格好ぉ!」
 ウェストが、ハードシェルスーツの上に白衣を羽織っているのを見てバージェスが笑った。
「君も人のことは言えないね〜これは宇宙での正装に決まっているではないか〜」
 そう言うと、ウェストは他の四人の能力者に指示を出した。
「我輩が突撃する〜! 援護したまえ〜!」
 電波増強で出力を増した機械剣を構えて切り掛かるウェスト。
 だが、歴戦の戦士であるウェストも一対一ではバグアの相手は中々に厳しい。バージェスはひらりひらりと斬撃を回避、合間にジョーとGDが援護射撃を併用。更にPNとAAも自らの武器で仕掛けるが――。
「詰まんないよぉ? もっと面白いことして見せてよお!」
 背中の羽を大きくしならせ、強風を巻き起こすバージェス。五人の能力者が吹き飛ばされ、更に機関室への扉が変形する。
 だが、ウェストは不屈。即座に豊富な錬力を持って周囲を錬成治療。機械剣を構えて再度突撃をかける。
「あんまり面白くなくてすまないね〜。我輩はおそらくドコまでも真っ直ぐなのだよ〜、バグアを倒すためだけにね〜!」
「うふ、まあその根性は面白いよぉ。‥‥じゃあちょっとだけ付き合ってあげるねえ!」
 そう言うと、バージェスは今度は滑空によるタックルを仕掛ける。ウェストが剣を突き出したところで、それを急制動で回避して、加速。ウェストに体当たり。そしてその勢いで機関室への扉をもブチ破った。
 壁に叩きつけられるウェスト。子供の外見などあくまでもみかけだけ。その実態はバグアであり、それ故純粋な肉弾戦ではどうしても敵に分がある。余りの激痛にウェストの意識が朦朧となる。
「満足したかなあ? どうせ能力者なんだし、少しキツいのいくよぉ?」
 ウェストを片手で吊り上げたまま、もう片手で手刀を撃ち込もうとするバージェス。その彼に、ジョーが叫んだ。彼は自身障壁で突風の衝撃を多少軽減していたのである。
「坊主、こいつを見てみて見な!」
 そう言ってジョーが取り出したのは、注射器を模した超機械「シリンジ」だ。

 ――随分と子供っぽいようだが、バグアにこれが効くか? 
 
 苦肉の策と言うべきか、バージェスの動揺を誘おうとするジョー。
 あるいは、バージェスのヨリシロの記憶に、注射器への恐怖が残っていることを期待したのかもしれない。
 緊張の一瞬。結果は‥‥。
「何それぇ?」
 全く動揺せず、手刀を構える少年。どうやらきかないようだ。しかし、ジョーは諦めなかった。
「翼は翼竜のものか、恐竜好き‥‥なら‥‥」
 暫しの思案の後、ジョーがバージェスに呼びかける。
「な、中々格好良いじゃあないか! 実は俺も、恐竜好きの子供だったぜ!」
「‥‥」
 ウェストを締め上げつつ、ジョーの方をジト目で見るバージェス。どう見ても信用していません。本当にありがとうございました。
「我輩は‥‥武器! バグアは、全て‥‥!」
 だが、その直後ウェストの足元から憎悪の曼珠沙華(リコリス)が咲き誇る。持ち直したウェストは至近距離からエネルギーガンを発射。
「うわっ! あっついよぉ!?」
 慌ててウェストを放して飛び退くバージェス。避け切れなかったのか、わき腹が少し傷ついていた。
 どうやら、一瞬ジョーに気を取られたせいでバージェスの力が緩んでいたらしい。
「戦闘中によそ見など、命取りだね〜!」
 バージェスは素早く機関室の中央にあるエンジンの後ろに回り込んでウェストと距離を取る。
「一つ聞いておく、L2で壊滅した分艦隊があった〜。彼らはヨリシロではなく素材となったのかね〜?」
 エンジンを傷つけないよう、再び剣を構えたウェストが距離を測りながらバージェスに問いかけた。
「素材? 再生された人たちの体に、という意味? そんな事下っ端の僕には解らないしぃ、知っててもさすがに教えないよお♪」
「知らなければ知らないで構わないよ〜!」
「でも、その分艦隊をやった本星艦隊は普段からヨリシロに餓えてるから、ブライトン閣下に渡したりせず自分達で美味しく頂いた筈だよぉ!」
 どうやらウェストの仮説は当たっていなかったようだ。勿論相手が真実を言っているという保証はないが、少なくとも分艦隊の人員が素材になった訳では無いのだろうとウェストは判断した。
 この時、お互いに無重力の中を跳ね回りながら攻撃の機会を伺っていた二人はエンジンの遮蔽が無い位置に来ていた。咄嗟にエネルギーガンを構え、発砲するウェスト。不意を突かれ、攻撃を受けたバージェスが言う。
「うわあ、今のはズルいよぉ♪」
「使えるものは使う、当然だね〜」
 この時、艦全体を大きな振動が襲った。マスクドバグアがソルを起動させたのだ。それは、バージェスにとって撤退の合図であった。
「あはっ、残念だけどここまでだねぇ!」
 バージェスはそれ以上戦闘に執着しなかった。素早く翼で無重力の中を滑空しながら去って行く。
「逃がしたか〜‥‥しかし、まあ巡洋艦は守り切ったね〜」
 ウェストはそう言うと、手早く負傷者の治療に入ったのだった。


 サンディア・ピュルムを解放したソルは、高速で地球の方向へと消えて行った。巡洋艦の方も即座に体勢を立て直して拠点への帰路を急ぐ。
「‥‥この十字架は君の物だったね〜。大切な物なら、気をつけたまえ〜」
「ドクターが拾っていてくれたんデスネ。ありがとうございマス」
「ラサちゃん、良かったのだ!」
 復旧作業が一段落した時、ラサの十字架は無事、持ち主に返却された。喜ぶラサを、というよりはその十字架を見つめるウェストは何時になくしんみりした様子であった。

 ――十字架、か。我輩にもかつては‥‥いや、もうあのネックレスは託した。我輩はバグアを討つ武器なのだからね〜

 ウェストは一瞬だけ、自らの過去に想いを馳せた後、立ち去る。そのウェストの後ろをジョーが歩く。
「さて、続きでも読むか‥‥」


「どうなのだ? この座標からだと地球がこんなに綺麗に見えるのだ!」
「とっても綺麗デスネ‥‥」
 ラサは、ノラに誘われて通路の窓から地球を眺めていた。その美しさに改めてこれからの戦いへの決意を固めるラサ。
「それにしても‥‥」
 とラサ。
「? どうしたのだ?」
「相変わらず手ごわい相手だったノダ、一体何者なんダー」
 でもお約束は忘れないジェネシスさんでした。