タイトル:【決戦】Cradle/Coffinマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/05 17:12

●オープニング本文


 エクスカリバー級巡洋艦ティソーナが命中させたG5弾頭の衝撃と白熱光が引けば、其処には艦体を削られた無残なバグア巡洋艦の姿があった。
 その艦から飛び出したのは本星艦隊が保有する最後のフィーニクスである。操縦者は『トゥシェク』と呼ばれているバーデュミナス人であった。
「アイツか! 今度こそ!」
 巡洋艦周辺に展開していたKV部隊の隊長が叫んだ。彼は、今年初頭の北米直上の封鎖衛星攻略戦で仲間や部下をトゥシェクに倒された。
「隊長! ‥‥あのバーデュミナス人は!」
 部下の一人が言う。彼は同じ戦闘でトゥシェクの行動と、それを尊重した傭兵たちの働きで救われた。
 機体が大破して弾薬も錬力も使い果たした彼はそのままなら止めを刺されるか、ヨリシロにされていただろう。
「自分を助けてくれたからだとでも言いたいのか!?」
 怒声を上げる隊長。だが部下も引き下がらない。
「その通りです! それに、隊長だって人間相手の戦争なら‥‥」
 客観的な表現をするなら、トゥシェクは戦場で敵を倒し、降伏した、あるいは無力化した相手へ発砲しなかっただけである。無論、隊長とてすぐには引き下がらない。だが、ここで事態は更にこじれる。

「あのバーデュミナス人は、私達の、少なくとも私たちの船の命の恩人‥‥いいえ、『同胞』です!」
 会話に入って来たのは、部隊の輸送艇のクルーである、眼鏡をかけた能力者の少女だ。

 そもそも、地球側についた筈のバーデュミナス人の中で、何故このトゥシェクだけが今なおバグアに下にいるのか。
 
 それは、この少女が乗っていた輸送艇が大破して敵地で孤立した際、救助までの時間をこのトゥシェクが稼いだからに他ならない。
 この時も、トゥシェクが敵を足止めした事と、傭兵の活躍によって輸送艇のクルーは全て救助されたが、引き換えにトゥシェクは再びバグアの虜囚となったのである。
 
 この時、付近の戦域に映像付きのオープン回線でフィーニクスからの通信が流れた。

 『『地球の戦士たちよ』』
 
 映像の中で頭半分がグラッブグローラーという芋虫のようなバグアに覆われたイルカというよりはシャチのようなバーデュミナス人が甲高い声で鳴く。
 それを受けて頭部に寄生した芋虫が口らしき器官でシャチの言葉を翻訳する。

『『同胞のみならず友邦クリューニスの民までも救出してくれたことに感謝する。これ以上お前たちの手を煩わせたくはない。俺を討て。俺はこれより全力でお前達に挑む。お前たちが心置きなく俺を殺せるように』』

『それに――本星艦隊には冷や飯を受けた恩義もある。民を代表して俺一人くらいは奴らの敗走に付き合って死ぬのが筋だろう?』

 最後の発言の後、自嘲気味に笑うトゥシェク。だが、次の瞬間、トゥシェクは激痛を受けたように身を捩らせる。液体に満たされた操縦席の中が激しく泡立ち、トゥシェクは激しく身を震わせると糸が切れたようにガックリと頭を垂れた。
 続いて、シャチの頭部に寄生していた芋虫がシャチの頭部からずるりと触手を引き抜く。

 頭部から離れた芋虫は液体の中を海月のように漂いながらコックピットの壁面に取りついた。その体が、壁面に溶け込むように掻き消え――同時にフィーニクスの頭部が軋み始める。
 眼鏡の少女が悲鳴を上げる

『殺してはいません。離れる時彼の神経に少々ショックを与えました、暫くは気絶したままでしょう』

 芋虫がそう言うと、フィーニクスの頭部が、爆ぜた。砕けた装甲の中から白い肉塊が盛り上がり――そこから生えた無数の触手が機体に突き刺さる。やがて――芋虫が丸まったような肉塊からナメクジの様な目が突き出す。

『簡単なゲームをしましょう。私はこのヨリシロの特性上『頭部』から機体の全てをコントロールしています。つまり――』
 
 そう言って芋虫は触手で自分の頭部を指した。

『ここを切り離すなり、潰すなりすれば『機体の首から下を傷つけず』私を殺す事が出来る』

『もし、家畜に価値を見い出すなら、上手く私の頭部を狙えば良い。逆に、家畜に何の価値も見い出さぬのであれば、気にせず攻撃すれば良い』

『無論、どちらも可能ならという事です。私も時間切れが来るまでは同胞のために貴方方を足止めせねばなりませんので』
 
 そう言った芋虫の背後では、既に航行不能となった巡洋艦から大慌てで逃げ出そうとするワームの群れが見えた。
 
 芋虫のからの通達に、ティソーナの率いる艦隊は騒然となった。

 ティソーナの艦長であるセリオ・イグレシア少佐は、傍らのハリー・ディビスに顔を向けた。
「な、何故私に振るのかね!?」
 思いっ切り狼狽えるハリー。

「いや。あのバーデュミナス人は貴方の管轄だと思ったのでね、少佐」
 ハリーは、月面会戦で撃破された巡洋艦アスカロンの艦長であり、トゥシェクを含む多数のバーデュミナス人の救出の当事者でもあった。
 
 気が付けばブリッジクルーも固唾のを飲んで事の成り行きを見守っている。恐らく、輸送艦の少女や、トゥシェクと交戦した兵士や隊長も。
 
 思わず櫛を取り出して無意味に髪を直すハリー。
 
 彼は思う。あの威力偵察自体、自分は反対でこそないが積極的な賛成でも無かった。そうでなくともバーデュミナス人、そして今回のクリューニスと本星艦隊と中央艦隊の交戦は面倒ばかりだ‥‥。
「て――」

 ――‥‥か、んちょう、さん‥‥
 その時、ハリーは聞いた。一匹のクリューニス、通称082の小さな声を。

 あの時。威力偵察戦の終了直後、ハリーは、あの時アスカロンに随伴していた輸送艦から飛び去るトゥシェクを見送った。それは何故か彼が幼い頃、出征していく父親を見送った光景を思い起こさせた――

「敵フィーニクスの迎撃に当たる傭兵たちに告げる――君たちに一任するよ。‥‥もし、捕虜を取るつもりならその準備はしよう。どちらがベストかは私にも解らない。全力を尽くして――君たちが生還することを第一に考え――敵を『無力化』してくれ」
 もう、こんな胃の痛い選択を迫られるのは御免だからね、とハリーは付け加えた。


 バーデュミナス星系での侵略が完了した時、グラッブグローラー(勿論この時はその名前では無かった)が使っていたヨリシロは戦場で撃墜され既に瀕死だった女性から奪った。その個体は懇願した。戦場に出ている自分の伴侶(彼らはその短い繁殖の周期故に生まれた時から結婚相手は決められる)だけは助けて欲しいと。

 元々、必要以上の残虐行為が肌に合わないグローラーは承服したが、彼女はその約束を違える事になった。
 エアマーニェによる停戦交渉が行われる直前――最後の激戦の中で彼女の撃墜した機体にその伴侶が乗っていた。
 
 グローラーは、その遺体を見た時の感情はあくまでもヨリシロのせいであり、体を乗りかえればなくなるものと思っていた。
 だが、その疼きは、今も弱々しく、しかし確かにこのバグアの奥底に淀んでいた――

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
マキナ・ベルヴェルク(gc8468
14歳・♀・AA

●リプレイ本文

 戦闘開始早々、フィーニクスを無視して、崩壊する巡洋艦の方に向かった里見・さやか(ga0153) 、ラサ・ジェネシス(gc2273)、 赤崎羽矢子(gb2140)の機体を見た芋虫。即座に高速形態になると、一直線に三機の後を追う。
 まず、ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)が背後からライフルで牽制弾を撃つ。しかし芋虫は高速移動でこれを回避しながら狙撃に適した残骸の影に入り込むと、躊躇なくプロト・ディメントレーザーを発射した。
 だが、これを予測していた三機の対応は極めて迅速であった。

 さやかは、素早く残骸の影に隠れ、残骸が高熱でもたなくなると残像回避を使用。決定打を避けて、叫ぶ。
「トゥシェクさん‥‥何としても助け出します!」
 レーザーが止んだとみるや、即座にさやかはプレスリーを構え敵機に向かう。

「やぱり、無視出来なかったね。同胞を逃がすためにバーデュミナス人を利用するなら、こっちだってそっちの同胞を利用してやるさ!」
 赤崎はこんな事もあろうかと用意していたアンチエネルギーミサイルを発射。更に敵のエネルギーを軽減しつつ残骸の影で、機体が冷却するのを待つ。赤崎は慎重に残骸の間でライフルを構えて狙撃に備える。

「戦いの中で生きることに疲れたのカ? バグア!」
 さやかのレーザーによる援護射撃を受けつつ、ラサが機剣ライチャスを振り被って芋虫に突撃する。
「ラサさんの仰る通り、不可解な選択ですね。義理堅いトゥシェクさんは、あなたの指示に従って私たちと交戦するでしょう。彼のほうがあなたよりも操縦の腕前は上のはず。なぜわざわざ機械融合などをしたのですか?」
 敵を捕らえつつも、、その行動に何か腑に落ちないものを感じた二名は、戦闘開始前の通信以来繋がったままの回線で問う。

「‥‥此処を死に場所と決めてしまいましたか‥‥」
 それは、ラサ、さやかとは違って距離が離れているマキナ・ベルヴェルク(gc8468)も同様だった。

 まず、ラサが芋虫と切り結ぶ。芋虫の大剣とライチャスが火花を散らす。
「接近戦という選択は正しい。ですが、手が足りませんね」
 しかし、芋虫はやはり使用武器が示す通り接近戦が本分だった。首を狙ったラサの太刀を触手のナイフで弾き、大剣が思わぬ高速で振るわれる。
 が、これは備えていたラサが機体を後ろに加速させ衝撃を殺すことで深手を逃れる。ラサは一旦、残骸群の中に機体を潜ませ、次の機会を伺う。
「何故このようなゲームを仕向けた」
 そのラサと入れ違いに、芋虫に攻撃しながら白鐘剣一郎(ga0184)が問うた。

 ――トゥシェクは既に覚悟を決めていた。
 
 あの映像を見て、トゥシェクの声を聞いたものなら誰でもそう判断するだろう。それは白鐘も同感だ。
 そう考えながら、大剣を躱して機拳をその装甲に叩きつける白鐘。だが、機体の装甲に弾かれた。
「トゥシェクを操らず、しかも後のない生機融合に限界突破。まるでもう生きていく事に疲れたような選択の取り方だな」
「女性の方々に対してもお答えしますが‥‥私ハ貴方タチノ力ヲ過小評価シテイナイ。ここまでの攻防、限界突破シテイナケレバ不利だったでしょう。同胞のため、単騎で殿を引き受ける上での『最低条件』だと判断したまでです」
「家畜に任セナカッタノハ、この状態の私の方が持つと判断シタカラデアリ、人質トシテノ価値モアリマス」
 芋虫は言う。
「同胞を助けたいって言うならね、人質を取るような真似なんてしないで正面からかかって来なさいよ!」
 赤崎の言葉にも芋虫は冷静だった。
「私はバグアデス」
「‥‥そうやって、互いに自分と相手の間に線を引くから戦わなくちゃいけなくなるんだ。
あたしたちも‥‥ね!」
「コレガ私に出来ル。『最良』の選択ナノデス」
 白鐘は目を閉じる。解っていた事だ。答えがあっても何が解決出来るような問題ではないと。だから、芋虫に告げた。修羅の如く、戦いを求めるその赴くままに。
「いいだろう。受けて立つ」
 残骸群の中、二つの閃光が交錯した。芋虫の大剣の光跡と白鐘の機体の圧縮レーザーの光跡。
 そして、深く切られた白鐘の機体が残骸群の方に蹴り飛ばされた。コックピットの中の白鐘自身もまた、浅くない傷を負っている。
 その白鐘機に切り掛かろうとした芋虫に鷹代 由稀(ga1601)の機体が放ったフィーニクスレイが突き刺さり、その足を止めた。

「‥‥やるこた決まってる。諦める気なんて無い‥‥!」
 由稀はトゥシェクの救出を断念することも念頭に置いていた。しかし、諦めるのは速い。ラサも、白鐘も一旦撃退されたものの、戦闘不能では無い。由稀も距離を取っての狙撃を狙う。
「うふふ。気持ちよく飛べそう。ねぇ?」
 由稀の足止めの隙に、ソーニャ(gb5824)とドゥ、そしてマキナの機体が芋虫に追いついた。
「そうだね‥‥ソーニャさん。まさかこの機会に立ち会えるとは‥‥俺は英雄の介添え人でしかないがね‥‥! 見せて貰うか‥‥決断を!」
 ドゥと言葉を交わした後、ソーニャは言う。
「トゥシェク、同胞と友邦を救い義理も果したね。後はまかせて。そしてバグア。信じるよ。彼の仕事は終わっている。今更殺しても面白くもない。それより、彼のこの先の方がずっと興味深い。人も度し難いからねぇ。どうなることやら」
 
 ――彼が戦士ならば、手心など侮辱でしかない。互いに全力であればこそ‥‥そう理解していても、理屈ではない想いは確かにあって。

 戦意を高めている二人とは、マキナはまた別の思いに支配されていた。
 
 それはトゥシェクを救いたいと言う想いと、既に先の果てた芋虫と、その果てまで戦っていたいと言う想いだったのかもしれない。
「このままやられたふりしてみない? こっそり寄生したまま一緒に地球に。彼がよかったらだけど」
 踊るような機動で、相手にレーザーを撃ち込むソーニャの冗談に、マキナの心が疼く。

「マキナさん」
 そんなマキナの想いを知ってか知らずか、ソーニャが言う。
「心おきなく飛ぼう。せっかくのソラを一緒に楽しもう。初の異星人との接触。不幸な出会いであっても無意味じゃない。せっかく出会った。やっと出会えた」
 何かを決意したのか、マキナは猛然とフィーニクスレイを撃ち込む。狙いは四肢の破壊のみ。
 かくして三対一の戦い。だが芋虫は残像回避を使用して攻撃を避ける。そして、遂に再充電が完了したPDレーザーを構えた。その射線方向には――赤崎の機体も含まれていた。
「‥‥赤崎さんは僕が守りますからー!」
 重体の赤崎を気遣っていたドゥが錬機槍で突撃。芋虫はこれを受けようとしたが、同時にソーニャとマキナもドゥに合わせた。
 連携に反応し切れなかった芋虫は、まずドゥに固定武装のビーム砲を破壊された。さらに残像回避を行うが――

「さやかちゃん。頭撃ち抜くわ。牽制とフォローお願い‥‥!」
 由稀の言葉に、さやかは、周囲の残骸の細かい挙動から芋虫の回避方向を予測。レイの連射でその足を止めた。

「ここで決着つけなきゃ、私は前に進めない‥‥これ以上、後悔しなきゃいけないことなんていらない‥‥だから‥‥狙い撃つッ!!」

「同胞‥‥か。あのバグアもティソーナのクルーも、同胞の命を助けようと行動してるのに戦い合わなきゃいけないなんてね‥‥こんな戦い、すぐに終わらせなきゃね! そして巻き込まれたバーデュミナス人を救出する!」

 まず、由稀の、続いて赤崎の攻撃が芋虫に直撃した。

『浅イ』
 
 由稀の一発は確実に芋虫の頭部に直撃した。限界突破の力なのか、そもそも通常の地球の生物とは構造が違うのか、フィーニクスは未だ健在であった。
 救出は無理――なのか? 由稀がそう判断した時、反対方向の残骸の影からラサが飛び出した!

「吶喊しマス!」
 スパートインクをバラ撒きながら突撃したタマモが猛然と芋虫に組み付く。芋虫はすかさず大剣を振り被った。

「鷹代さん! お願いします! あなたの腕ならば出来るはずです!」
 さやかが叫んだ。長大な大剣故、それをタマモに突き立てるには僅かなタイムラグが生まれる。
 さやかの援護射撃を受け、由稀の二発目は大剣を打ち砕く。タマモの腕が軟体の頭部を力任せに掴み上げる。
 
 そして、ラサがコックピットから飛び出した。暗闇を照らす閃光弾に紛れてラサは小銃を叩きこむ。しかし、芋虫も細い触手を振り回す。触碗に強打され、弾き飛ばされるラサ。

 そのラサと入れ違うように、別方向から白鐘の機体が飛来した。機拳でただ一直線にフィーニクスの頭部を狙う。
「ゲームはここまでだ」

 操縦者を失ったタマモが、なお乗り手の意思を繋ぐように頭部を覆っている。大剣は破壊されていた。ナイフが高速で突き出され、迫る機拳を片腕ごと切り飛ばす。
 そして、その直後に反対側の手の錬剣から超圧縮されたレーザーが瞬時に煌めき、芋虫の頭部と機体の継ぎ目に横になったレーザーの刃が突き刺さった。
『――オ見事』
 焼き切られた芋虫の頭部が、フィーニクスの胴体からふらりと漂い出した。

「鷹代、ラサ、皆、ありがとう」
「白鐘君こそ、お疲れ。‥‥何にせよ、ようやくアイツを叱り飛ばしてやれるわ」
 目を閉じ、煙草をくわえる由稀のその口元は少し笑っている。
「さやかちゃん、ラサちゃんも、お疲れ」
 何気なく呼びかける由稀。だが、返事は無い。
「‥‥ラサちゃん!?」


 傭兵たちは、赤崎にフィーニクスをティソーナまで拘引させると一斉に周囲の探索を行った。

 ――らさ の こえ すこしきこえる とても とても よわいけど

 082によると、ラサは意識を失いかけているらしい。声が弱すぎるのと、クリューニス自身の語彙の問題もあり、捜索は難航した。各員はラサを心配しつつも必要以上には焦らず慎重に周囲を回る。


 フィーニクスの頭部は、残骸が渦の様に浮かぶ宙域の底の方、一際大きな残骸にへばりついていた。
 青い天体を背景に赤い機体が近づいて来た。マキナのフィーニクスだった。芋虫は触手を撒きつけたラサをマキナの方に差し出した。
『彼女ヲオ返シシマス』
 通信機能の一部を取り込んだままなのか、芋虫は無線でそう言った。マキナは無言で機腕を動かし、ラサを受け取ると、芋虫と対峙する。
「何ノオツモリデスカ?」
「敵同士ですが、貴方とはもっとお話がしたいと思っていたんですよ? ラサさんを無事に返すのですね‥‥彼女は貴方の護ろうとした存在を仲間と共に追おうとしていたのに」
「何モ不思議ナ事ナドナイ。我々ノ饗応ニ捧ゲラレタ知的生命ノ受ケタ苦痛ヲ考エレバ当然デショウ。マタ逃ゲル者ヲ追ウノハ誇リニ反スルトイウノナラ、ソレヲシナイノモ知的生命体ナラ一ツノ選択デス」
「既ニ私ハ死を免れぬ体。既に本星艦隊トシテノ役目ハ終エマシタ。道連レノナド意味ハ無イ」
「‥‥此処だけの話、貴方が望むなら、私はヨリシロでも」
 そこまで、言ってマキナは相手から顔を背け、自嘲気味に先を続けた。
「‥‥はは‥‥本当、何言ってるんでしょうね‥‥」
 ここで、芋虫は初めて言葉に詰まった。その感覚器が奇妙な色を湛えて明滅する。
「出来る事なら――そう、出来る事なら。この時間が、永劫に続けば良いのに」
 マキナの言葉を受け、芋虫は人間で言えば瞑目に当たる仕草をした。
「既に私はヨリシロを変えることができません。ですが、今の私は確かに貴女をヨリシロにしたいと想っています。私と言う存在の何がそこまで貴女の記憶を穿ったのか知りたい。貴女を食らい理解することで。我々バグアにとってそれは最も尊い事の一つだからです」
「私は――満たされないと言った貴方の言葉を、もっと聴きたかった。何故かと問われれば――きっと、私と貴方は似ていると思ったから」
「そして、私は同時に貴女をヨリシロにせずにすんだこの結末を喜ばしいとも想う。確かに私も貴方も多少は似た矛盾を抱えているようだ」
「だから‥‥貴方の歩んだ道を、貴方をもっと知りたかった」
 その時、ソーニャが現れた。
「ねぇ、どんな想いで星の海を渡ってきたの? ヨリシロって何? 体に心は2つ入るの? 寄生とヨリシロは違うの?」 
「私は生き物の感情を飲む度にその素晴らしさに圧倒された。それを手に入れたいと願った。そして飲めば飲むだけ、それが自分にとってはどこまでいっても紛い物でしかないと理解した」
「だから、私はヨリシロにする以上には殺したくなかった。このように素晴らしい物を無駄にはしたくなかった。だから、彼らとの約束は破りたく無なかった。それは多くの場合命を賭したものだったから」
 それが、芋虫の回答だったのだろう。やがて、芋虫の体が星間物質のように輝く粒子となっていく。
「そろそろ終わりの時。楽しかったけど、行くんだね。続きは互いに死んだ後。お話に行くよ」

 出来る事なら――そう、出来る事なら。彼とのこの時間が、永劫に続けば良いのに。

「記憶とはその一瞬を永遠にするものです。貴女が覚えているのなら、それはきっと永遠となるでしょう」
 それが芋虫の最期の言葉だった。かれは解け果て――微細な塵となって静かに漂い去って行った。
 ソーニャに合図され、佇んでいたマキナの機体も、静かに向きを変える。
「ラサさん‥‥起きていたんですね」
「見事な戦いデシタネ‥‥吾輩も、覚えておくヨ。マキナ殿」
 マキナは無言だった。
「吾輩も‥‥何故か悲しいデス」
 この時、一発の弔砲が閃光となって暗礁空域を貫いた。ソーニャからラサ発見と敵の完全な撃破を報告された由希が打ち上げた一発だった。


 トゥシェクが収容された部屋の前に白鐘とドゥが居た。
「直接の面識はなかったがどうやら礼を言えるようだ」

「正直に言うなら歓迎したいです‥‥ね。バグアとは違う他星からの来訪者さんを」
 二人はそう言うと、面会室の外で順番を待つのだった。

「ねぇトゥシェク。あのバグア、君の事、気に入っていたのかもね」
 医務室でUPCの軍人や医官に囲まれたトゥシェクに、ソーニャは言う。
「君はあの時、死ぬ気だったんでしょう。君を死なせたくなかったんじゃないかなぁ」
 082に翻訳されたソーニャの言葉に、トゥシェクは解らない、という仕草を返した。
「もっとも、合理的判断でもあったと思うけどね。君に寄生した時点で死は覚悟した。いや、彼も命かけて仲間を守りたかった。攻撃を頭部に限定させることでより多くの時間を稼げる。そして死ぬにしても二人とも死ぬ必要はない」

 ――奴は接近戦の方が得意だった。狙撃では容易に倒れなかった事からしても、接近戦に誘い込む意図もあったのだろう

 トゥシェクの以上のような言葉を082がソーニャと、一緒にいた赤崎に訳す。それを聞いて赤崎が問う。
「あの、バグアは両方に義理を?」

「ボクの戯言、信じるんだ?」
 
 ――やっぱり わからない と いっている

「ほんと、みんな不器用ね」