●リプレイ本文
無線が繋がるらしいことを確認したラナ・ヴェクサー(
gc1748)は病院への通信の前に一人呟いていた。
「まさか再び‥‥此処が揺れるとはね」
彼女は【JTFM】に参加した傭兵であり、幾度となく南米で視線を潜り抜けてきた。
――死にかけ、其れでも戦い抜いたこの戦場
自然と、操縦桿を握る手にも力が篭もる。安息は護り続けなければならない。そのために今やることは――
ラナはまず、病院へ回線を開いた。怯えているであろう病院の人間達を落ち着かせるために。
ゲシュペンスト(
ga5579)が呟く。
「俺達もあちらさんもここで時間を掛けたくないのは同じと見たが‥‥こういう時の為の204、人型飛行での空中戦なら慣れたもんさ。ただ、出来るだけ病院から離れた位置で仕掛けたい所だが‥‥」
「みんな、今から降下ポイントを指定するわ」
ロシャーデ・ルーク(
gc1391)が最も病院から離れた位置で、敵部隊の側面を付くのに最適な位置を算出する。
傭兵たちは、ガリェゴス隊と共に先攻班、後続班に分かれて降下を開始。疾走する敵部隊へと挑むのだった。
●
『何をやっている』
ウィリアムが本星型を叱咤した。
『申し訳ありません』
直後、断続的に着弾するマルコキアスの弾丸で機体が揺れ、本星型からの通信は途絶えた。
余りの火力に耐えかねて、強化FFを起動する本星。
それを確認したミリハナク(
gc4008)は愛機ぎゃおちゃんの操縦席で妖絶に妖艶に微笑む。
「んーむ、陽動に奇襲に降伏勧告‥‥人間的思考が強い軍師のようですから、どんな方をヨリシロにしたのか興味ありますわ。この戦場で敗北を味合わせ、表舞台に引きずり出しましょうか」
『邪魔をするな!』
焦る本星型。ミリハナク機の圧倒的な火力に強化FFが片っ端から反応。見る見るうちに錬力が削られていく。
回避は出来ない。迂闊に回避すれば後続の味方。特に自爆艦が危険に晒される。
埒が明かないと判断した本星型は一気に敵を沈黙させようと加速。土煙をあげてミリハナクに突撃する。
正面から盾で本星型を受け止めるミリハナク。しかし、この時ティターンがミリハナクに銃口を向けた。
『援護する』
ウィリアムが言う。
ミリハナクはこの時点ではまだ孤軍奮闘していた。状況を判断した彼女は、あえて足を揃えず、先行して敵を迎撃していたからだ。
ミリハナクは加速して側面から回り込んで来たティターンに反応出来ず、竜牙の首筋にワームのナイフを受ける。
ワーム二機の同時攻撃を受け、さすがのぎゃおちゃんも少爆発。操縦者も傷を負った。
「貴方達は‥‥!」
叫び、機体を急降下させるマキナ・ベルヴェルク(
gc8468)。
サイファーが降下支援。
フィーニクスは地表付近で土埃を巻き上げ変形。ブーストでティターンに接近。機杖で敵に撃ちかかった。
BFとティターンが同一線にいないのと、仲間の危機を救うために初撃でのプロトDレーザーの発射は断念しての行動だ。
「野戦病院など、貴方達なら無視出来る、素通りでも行ける筈なのに‥‥!」
マキナは、敵の野戦病院の存在を確認しながら直進するその判断を許せなかったのだ。
『劣弱な個体を処分することが不快か? 原住民の感傷に付き合う暇は無い。死ね』
シールドで軽く機杖をいなし、マキナ機を蹴り飛ばすウィリアム。
マキナはブーストで姿勢を保つ。
そのまま相手を撃とうとしたウィリアムの動きを止めたのは、マキナに続いて降下して来たロシャーデの発射したプラズマライフル。変形を完了した彼女はそのままティターンと並走しつつ射撃を行う。
「K、とか言ったかしら。わかりやすいプロパガンダをしてくれたわね」
ロシャーデの目的は、ティターンの戦闘指揮を妨害することにある。
次々と降下して来る傭兵に業を煮やしたティターンは、ミリハナク機から離れ、マキナ機をも無視してナイフを構えると一直線にロシャーデに向かった。バルカンで牽制しつつ、レイピアを構えるロシャーデ。
共に突きを主体とした刃で相手の急所を伺いあう二機。だが、ロシャーデは万が一にも病院を背にしないよう注意深く動いたことが、相手に付け入る隙を与えた。
『さっきの機体と言い、つくづく感傷的な生き物だ。下らん』
吐き捨て、これ見よがしに病院の方向に銃を構えるティターン。
『くっ‥‥!』
そのフェイントに反応して機体に無理な動きをさせるロシャーデ。それがウィリアムの狙いだった。姿勢の乱れたロシャーデにライフルを当てまくるティターン。
ここまで、傭兵たちの作戦は必ずしも上手くいっているとは言い難かった。先攻班全員での一斉射撃と言う初手は、敵の素早い反応で瓦解した。
とはいえ、それがバグアにとって有利に働いたかと言うと、必ずしもそうではない。何故ならティターンと本星型という主力の機体が、BFの護衛から引き剥がされていたからだ。
「鯨さえ仕留めれば敵の作戦は実質ご破算だろう?」
BFの真横からゲシュペンストの機体が人型形態で迫っていた。その狙いは大威力の機杭をBFに喰らわせることだ。
「‥‥ん? BFが孤立している気が‥‥よし、落として戦果にするとです!」
フェリア(
ga9011)も愛機を素早く可変させて地表をスレスレを疾走。二本の機刀を抜刀して接近戦の構えだ。
「自爆用ですからねーアレ。 高速型だろうに‥‥動きが余りに‥‥単調すぎる‥‥!」
只BFのみを狙う。フェリア。しかし――
『させん!』
気が付けば、斧槍を振りかぶったタロス様が、迫っていた。そうそう、てきはまだいるんだよフェリアさん!
だが、そこに機関砲の弾が連続で着弾する。咄嗟に回避するタロス。そこにレーザーが走る。
「不甲斐ない相棒で悪いな、リストレイン。お前の力、頼らせてもらうよぉ」
フェリアを救ったのは、レインウォーカー(
gc2524)のリストレインであった。邪魔はさせまいと追いついて来たもう一機のタロスがプロトン砲を連打する。
それを華麗に回避――し切れず、一撃を受けよろめくリストレイン。常に『嗤い』を絶やさないレインも一瞬苦痛に歯を食いしばった。
見れば、彼の片目には包帯が巻かれている。それを始めとする彼の重傷は宿敵との死闘で受けたものだ。激痛が全身を襲う。
――だがレインには痛みに耐える覚悟はあっても死ぬ覚悟は無い!
「この状況下でも逃げずに治療を続ける、かぁ。命知らずの馬鹿だ‥‥なんて、他人の事は言えないなぁ」
ある隙を狙って、回避に徹するレインは自嘲した。
「例の医者、自分に科したやるべき事をやっていると言うならボクも同じ事をするまでだ。
この仕事を請けた傭兵として、戦ってやるさぁ――嗤え」
激痛に耐え、レインは機体を丁度良い位置、BFと敵がそれを護衛できる位置に置き――渾身の真雷光波を使用した。
放電は、ワームの動きを一瞬止める。それで十分であった。
「さぁって、これ以上は進んで欲しくないんでね! その横っ面を打ち抜いてやる!」
まずゲシュペンストがBFの側面に機杭を叩きこむ。命中率が低い武装だが、敵は小型とはいえKVよりは遥かに大きい目標であり動きも鈍っている。直撃を受け傾くBF。
「性能差でいえばもはや旧式‥‥されどその魂の輝きは色褪せず、刮目せよ、狼牙の嵐を!」
敵のエンジンノズルを狙って機刀を振るうフェリア。速度が低下したBFは腹を地面にこすり付け、盛大に土煙を噴き上げる。
『自爆します隊長推進力低下自爆します指示を自爆』
舌打ちするウィリアム。彼は病院の前に一列になっているソルダードを確認していた。傷つき、速度も落ちたBFではもはや突破は不可能だろう。
「‥‥! みんな、離れるです!」
最初に危険に気付いたのは、フェリアだった。彼女はBFが病院以外で自爆を試みる事を考慮していたのだ。まず遠い位置にいたレインが、続いてゲシュペンストが離脱する。
フェリアも離脱を試みたが、接近戦を挑んでいたことが災いしてBFの爆風に飲み込まれてしまう。
重体こそ免れたが、機体はそこで擱座した。しかし、これで奇襲部隊は虎の子のBFを失い、レインとゲシュペンストも継戦は可能となった。
だが、敵もまだ手駒を残している、二機の中型が突出する。戦車の如く大地を走り病院へ迫る中型。
「この先は通行止めだよ!」
だが、その中型を山下・美千子(
gb7775)が待ち受けていた。後続で降下したガリェゴス隊のソルダードと共にガトリングで中型を撃ちまくる美千子。中型はひとたまりも無く破壊された。
「究極ゥゥゥゥゥッ! ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
ウィリアムの直衛についていたタロスの一機にゲシュペンストがレッグドリルを叩きこむ。装甲が軋み、体液が噴出する。
一方、もう一機のタロスは、悪あがきか、病院の方に突撃した。しかし、美千子はこれを盾で受け止めて機体に蹴りを一発。中のパイロットは美千子の狙い通り衝撃を受け、怯む。
「燕返し!」
そこから機剣を振り下ろす美千子。叫びと共に、一旦胴体めがけて振り下ろした剣を、今度は同じ傷口をなぞるように振り上る。
内部機関を切断されるタロス。だが、二機のタロスも最後の意地を見せ、一機は斧槍をゲシュペンストに突き刺し、もう一機は斧槍で美千子を叩き斬る。かくして二機のタロスはほぼ同時に爆発した。
「弱点を晒した、「制圧用の精鋭部隊」とやらを別に派出しなければならないほど、奇襲部隊は貧弱。制圧部隊さえ破れば問題無いわ」
『出来るつもりか?』
ウィリアムの相手をしているロシャーデは、ナイフを盾で受け止めようとする。
だが、敵は小回りの利く刃物であることを利用。盾を迂回してKVの肩に刃を突き立てる。だが、ロシャーデはさっきと同様コーティングで耐え、最後の力でレイピアで敵の脇腹を貫いた。
一旦距離を取るウィリアム。しかしその背後にはレインが迫っていた。
「お前が一番厄介そうなんでねぇ。ここで墜ちてもらう」
ブラックハーツ併用のリビティナが一閃。さすがのティターンも装甲を焼かれる。だがリストレインも同時に装甲を炙られた。ティターンがプロトン砲を放ったのだ。
『仕方あるまい』
状況を即座に把握したウィリアムは迷わなかった。レイン、ロシャーデの機体は中破。フェリア機は大破。ゲシュペンストと美千子はタロスと戦っている。ミリハナクは本星型の相手だ。
強行突破を狙うのは此処しかなかった。加速してこれみよがしに病院へ迫るティターン。
「そんなにも、ただ殺しがしたいのですか‥‥!?」
激昂してフィーニクスレイを撃つマキナ。――だが狙いは外れた。ティターンがマキナの予測通りの軌道を取らなかったのだ。敵は病院を狙うと見せかけて高度を上げた。傭兵の病院への配慮を利用してフェイントをかけ一気に基地を狙うつもりなのだ。
マキナやガリェゴス隊のソルダートも銃を撃つが、間に合いそうにない。
「やはり‥‥それを狙いますか!」
『!』
だが、たった一機でティターンを猛追する機体があった。ラナの機体である。ブーストを起動。建御雷で味方がつけた傷を狙うラナ。
そう、彼女は被弾しても基地へ一直線で向かう敵を意識していた。それでウィリアムに反応出来たのである。
「今日のボクは脇役なんでねぇ。さぁ、決めてみせろぉ」
擱座したKVの中からそれを見上げ、嗤うレインウォーカー。
『邪魔だ』
「これで‥‥決める‥‥!」
交錯は一瞬だった。ナイフの間合いにも気を配っていたラナは圧練装甲で攻撃を受け止め、ロシャーデに貫かれた後、レインの鎌で焼かれ再生が滞っていた傷を機刀で貫く。
内部機構を傷つけられ、ティターンの動きが鈍った。
「後は‥‥任せます」
ラナはティターンを突き飛ばすと、眼下を見て言う。
「戦意がなくとも塞ぐつもりがなくとも、貴方達は殺していったのでしょう‥‥!? ならば私は、絶対に認めない――!」
そこには、プロトディメントレーザーの照準をティターンに合わせたマキナのアスト[フレスヴェルグ]が大地を足を踏みしめていた。
ウィリアムの表情が僅かに引きつる。がそれだけだった。彼はバグアらしく次の瞬間にはこの結末を受け入れていた。
赤い閃光が、地表から早朝の青空を貫く。
その様子は、病院の窓越しに戦況に注視していた老医師にも見えた。もちろん離れた位置でぎゃおちゃんにFFを削られていた本星型にも。
『‥‥! 『K』の奇策がこうもあっさり‥‥!』
「ええ、その策を食い破ってこその勝利ですわ」
既に満身創痍の本星型はクローを突き出すが、ぎゃおちゃんのエナジーウィングに容赦無く両断された。
この時、ガリェゴス隊にボゴタ基地から、危機を脱したという報告が届いた。
中破したKVの中でマキナは想う。
――同じヨリシロを身にするバグアで、如何してこうも違うのだろう。
今、此処で退治した彼は、きっと満ち足りぬ事に迷いの言葉を呟く事さえなかったのだろう。
●After Operation 野戦病院にて
「患者さんを護る為に、命を張るお医者さん‥‥」
覚醒して、倒壊した鉄骨をふんぬーと持ち上げているのはフェリアさんである。
「そんないい人達を‥‥見捨てるような大人に、なるものかぁぁァーなのです!」
気合と共に鉄骨をどけるフェリア。
オンボロの病院は十分に距離があったとはいえ、BFの大爆発の振動で一部が倒壊した。フェリアはその後片付けを手伝っているのだ。
「無理するんじゃない。傷が開くぞ!」
老医師が声をかける。
「大丈夫! どんな時でも誰かの為に、いつもニコニコ能力者! 私も、おじーちゃんに負けてられないのです!」
元気いっぱいのフェリアに苦笑する老医師。
「全く、お前さんと言い傭兵という連中は無茶ばかりするわ」
「ボクたちも、おまえと同じで自分に科したやるべき事をやっているだけさぁ。この仕事を受けた傭兵としてねぇ‥‥いたた」
重傷の身で出撃、更に今回も負傷したレインは老医師に応急処置を受けていた。呻くレインを手早く処置した老医師は、傍らのラナを見た。
「お前さんが、戦闘前に声をかけてくれたおかげで、全員がだいぶ落ち着いたよ。助かった」
静かにに微笑するラナ。
近くのテーブルでは猫舌の美千子がお礼にと出されたコーヒーの熱さに思わず舌を出して、熱いコーヒーを息で冷ます。
●
「我らはこの肉体を大地へと委ねる」
正午近く。迎えの便が来る前にロシャーデは遺体を前に祈りを捧げていた。
「塵は塵に、灰は灰に」
やはり襲撃で治療が滞ったのが原因でスタッフの必死の対応にもかかわらず、容体の悪かった患者が一人、息を引き取った。
「アーメン」
祈りが終わると、老医師は傭兵たちに深く頭を下げた。