タイトル:【Re】ガラパゴス沖空戦マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/30 16:47

●オープニング本文


●オーストラリア大陸から、太平洋横断。マルケサス諸島を越えラテンアメリカへ
『ジャッキー・ウォン(gz0385)め!』
 高速突撃型BF『バララット』の艦長を務めるバグアは悪態をついた。ウォンの迅速な撤退は、彼と思想を共にする通称『実験派』の面々にとっては正しいが、為す術も無くオセアニアに取り残されたバグア軍にとってはたまったものでは無い。
 その残存バグア軍も、全てがオセアニアに留まるわけにはいかなかった。高高度を渡り鳥の様に飛行して、一路他の大陸を目指し、そこのバグア勢力との合流を目指す者達が現れたのは、当然の結果である。
『へへ‥‥そうカッカするなよ? 俺ぁ元々あのウォンとかいうのは気に入らなかったんだ。例の『K』とかいう奴に拾って貰えれば、あのエミタ・スチムソン(gz0163)様の下につけるかもしれねえ。クク‥‥そうなりゃ、出世だぜ!』
 一方、同型の僚艦『ローンセストン』の艦長は気楽なものだった。それが楽天的な思考によるものか、単なる現実逃避かはバララット艦長にはどうでも良いことだった。
『『K』か‥‥』
 重要なのは、ソフィア・バンデラス(gz0255)亡き後の南米の司令官に急遽据えられた『K』という謎のバグアからの申し出だ。

――そちらの事情は理解しています。何とかしてベネズエラまで辿り着きなさい。そうすれば我々南米バグア軍は、あなた方を歓迎しましょう。

 『K』からの通信。それは、バララットとローンセストンが率いる事になったこの敗残兵の群れにとっては正に渡りに船であった。
「しかし、ケチくせえ女だな! 迎えもよこさねえ上に、あの戦闘服のせいでツラが解らねえ!」
 
 バララットはそうは思わなかった。南米軍とて、追い詰められているのは変わらない。ソフィアが討たれ、更に直上の封鎖衛星が陥落した。戦力は貧弱。補給も滞っているとみるのが自然だ。
 今回の合流は、攻勢に出る以前にまずオセアニア軍の戦力と物資を期待しての提案であろう。そして南米バグア軍には迎えに来るような余裕は無い。
 
 ――ただ、彼女があの戦闘服を脱がないのは、バララットも気になった。司令官級のバグアともなれば、バグアの本性に忠実に、大なり小なり自らを誇示するものだが。

『司令官。ベネズエラに到着すれば、我々も『調整』を受けられるのですね?』
 先行して飛んでいる強化型タロスのパイロットが言う。元軍人のせいか、自制が効いていたが、彼が強化人間故の変調に苦しんでいる事はバララットにも解った。
『そうだ。もう少し辛抱しろ。恐らくUPCも我々の動きを察知しているが――』

『関係ねえええ! 畜生! 痛えええ! 俺の『調整』を邪魔する奴は皆殺しだァァアア!』
 もう一機のタロスのパイロットは、自制する様子も無く、苦痛故の殺意を剥き出しにしている。

『おい、そろそろ封鎖衛星の無いエリアだ。全機、降下!』
 ローンセストンの号令一下。オセアニア退却軍は徐々に高度を下げる。
 太平洋を横断、マルケサス諸島をも通過して南アメリカ大陸に近づいた彼らの眼下には、かの有名なガラパゴス諸島が点在していた。

●グアヤキルの仮設基地
 以上のようなオセアニア軍の動向は、細かい事情はともかくUPC南中央軍情報部も十分に把握していた。この合流は何としても阻止する必要がある。
 名目上は敗残兵とはいえ、つい先日までバグアの一大拠点であった地域の部隊であり、しかもほとんど戦わずしての撤退であれば、その質、量ともに決して軽視はできない。
 まして、こちらは常に情勢が厳しい南中央軍。ようやく総力を尽くした【JTFM】を完遂したこの時期に敵が再び勢いを盛り返すことは絶対に避けねばならなかった。

『KV飛行隊は緊急発進。繰り返す、KV飛行隊は緊急発進。オセアニアを離脱した部隊と思われるバグアの大部隊がエクアドル、ガラパゴス諸島の沖に降下する動きを見せている。飛行隊はスクランブル発進後、これを迎撃せよ――』

 エクアドル解放後、グアヤキルに仮設された前線基地にスクランブルが発令された。勿論、南中央軍はオセアニアからの招かれざる客の動きを把握しており、迎撃態勢は万全だ。
 このまま状況が推移すれば、両軍はガラパゴス諸島を南西に10km下った海上で接触するだろう。

 基地同様、急ごしらえの発令所でジャンゴ・コルテス大佐は地図を前にした作戦指揮に余念が無かった。
「貴重な遺産であるガラパゴスが、戦場になるのは避けられそうだが――」
 冗談らしきものを口にする大佐。しかしその表情は険しい。つい数分前の報告で、敵が奇妙な動きを見せた生だ。
「本隊に先行して、BF2隻とタロス二機を中核とするワーム部隊が突出か‥‥」
 敵の戦術は明らかだ。その部隊は恐らく精鋭だろう。彼らがその突撃力を存分に生かして、こちらに痛烈な一撃を与え、体勢を立て直す隙を与えず本隊が突撃。一気に押し切って防衛線を突破する戦術だ。
 いかにもバグアらしい戦術だが、質、量共に苦しい南中央軍『だけ』では対応し切れない危険性がある。
 だが、南中央軍とて何の備えもしていない訳がない。
 大佐は決然と命令を下した。
「待機している傭兵部隊にスクランブル! 敵精鋭にぶつけてやれ!」
 精鋭には精鋭。敵の最も強力な部隊を傭兵が抑えてくれれば、勝機はあった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

 スクランブル発進した傭兵のKVは、南中央軍のKV編隊から離れて一足先に敵の突出して来た部隊と激突した。

 立花 零次(gc6227)は、自身の目標であるBFを確認して言う。
「‥‥来ましたか。突撃型のBF、行かせるわけにはいきませんね」

「司令官が投げ出して逃げたせいで無傷の敗残兵発生。それが巡り巡って南米に押し寄せてくる、と。やれやれだね。まぁ面倒事が絶えないのもいつも通りか」
 思い入れのある機体、パピルサグのコックピットでルナフィリア・天剣(ga8313)は多少面倒そうにぼやいた。

「終わったはずの南米で戦争はまだ続きますのね‥‥」
 一方、思い入れがあり過ぎて竜牙を改造し過ぎちゃった人、ミリハナク(gc4008)は一見すると殊勝そうにそう呟くが‥‥

(なんて喜ばしいことなのかしら♪ 戦争があればどこへでも現れますわ〜♪)
 さすがに不謹慎なので、ミリハナクも声には出していない。しかし隣を飛ぶ天剣にはミリハナクが、楽しんでいる事が何となく口調とかで解った。

「姉御は相変わらずだな‥‥まあ、私もいつもの様に敵を撃とう。戦力的に楽じゃ無いけど悩む様な要素がない点はマシだし」

 他の傭兵もそれぞれ気合を入れる。
「‥‥ここで食い止めなくては正規軍に多大な損害が出かねないからな。何としてもここで撃退せねばなるまい。頼りにしているぞ、皆」
 榊 兵衛(ga0388)はそう言うと、愛機忠勝のブーストを起動。他の三機と共にタロスの方へと向かう。

「上官に見捨てられた挙句、太平洋を横断して友軍の元へ、ですか。
 いやはや、何とも見事な敗残兵振り‥‥」
 飯島 修司(ga7951)は敵の事情に多少は感慨を抱いた様子。とはいえ、それで矛先が鈍るような彼ではない。
「幸い、メンバーはLHでも屈指の手練揃いですからな。油断せず慢心せず、当たると致しましょう」

「では、始めるとしましょうか」
 アルヴァイム(ga5051)はそう言うと、タロスを射程に捕えると同時に自機である【字】の『管狐』を投射。榊もこれに合わせてミサイルを発射する。

 だが、この時点では固まっていた二隻のBFと二機のタロスは即座に迎撃用のフェザー砲を起動。
 瞬く間にミサイルは迎撃されたが、その隙間を縫って榊が対空砲でタロス砲撃する。傭兵たちは最初からミサイルは迎撃される公算が大きいと判断しており、目くらましになれば良いという戦術だ。

『やってくれるじゃねえか!』
 タロスのパイロットは即座に戦闘機動に切り換え、ガンポッドで猛然と反撃しながら傭兵たちの頭上に回った。

 これに対して、飯島がエニセイとツングースカの弾幕で応戦。瞬く間に空は鉄の豪雨が飛び交う嵐模様となった。
 これに巻き込まれて、もともとBFの護衛に多くが回っており、タロスに随伴していた数は少ないキメラがほぼ壊滅した。
 この隙に、ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)がレーザーガンで、榊と飯島を援護する。
「そう、簡単に南米にはいかせないわよ!」
 叫ぶロゼア。

 アルヴァイムはロゼアとは違う敵を相手にする目的で、もう一機のタロスにバルカンを打ちながら迫る。タロスもミサイルで応戦傭兵たちは二手に分かれてタロスを相手取ることになった。
 
『痛え、痛えんだよ! どけ!』
 三機のKVを相手にする羽目になった強化タロスのパイロットは喚きながらガンポッドとミサイルを飯島機に撃ちまくる。

「下っ端の悲哀、ここに極まれり。と言ったところでしょうか」
 だが、飯島機はこれを回避しつつドッグファイトで着実にタロスを装甲を削る。
 タロスも慣性制御を駆使して、有利なポジションを渡さないように粘る。

「援護するぞ!」
 榊は、飯島を援護するべくミサイルを発射した。

『効かねえって言ってんだよ! オラ!』
 それを再びフェザー砲で防ぐタロス。――しかし、その行動は隙を生んだ。飯島機が剣翼でタロスの腹部を切り裂く。
 即座に再生を開始して一旦距離を取ろうとするタロス。だが、そこにロゼアも放電による攻撃を重ねて、退路を断つ。
「さりとて、窮鼠猫を噛む、という言葉もありますし、本当に敗残兵なのか、と問われれば疑問が残りますからな。容赦は、致しますまい」

『ガアアアアアア!』
 わめくタロスのパイロット。放電を受けたタロスにブーストで強引に方向を変えた飯島機が短距離リニアを発射。その一撃はタロスをブチ抜いた。

『――けっ、やっと、楽に――』
 タロスは、腹部の風穴から液体を流しつつ海面に落下。大爆発した。

 もう一機のタロスは、【字】の高い防御力の前に決定打を与えられずにいた。パイロットとしては、早く南中央軍の攪乱に入りたかったが、アルヴァイムも、他の三機がもう一機のタロスと戦っている隙を埋めるべく、このタロスの突破阻止に全力を挙げている。

 そこにタロスを屠った三機のKVが参戦して来た。
 アルヴァイムは後続の榊と共に、チェーンガンで十字砲火。これに加えて飯島が狙撃を行う。ロゼアもレーザーで援護射撃。
 タロスも果敢にあらん限りの武装で反撃するが、圧倒的な火力によって撃破された。
『終わりか‥‥』
 全身を穿たれたタロスはそのまま空中で爆散する。


『ミサイルが多過ぎるじゃねえか!』
『全フェザー砲門、開け。迎撃。そうだ、弾除け(キメラ)を前面に展開させろ』
 BFに対する攻撃の火蓋を切るのは、天剣のパピルサグが連続発射したMA03。ECミサイル。
「これは挨拶代わりってやつ何で、遠慮せずに受け取れっ」
 天剣が叫ぶ。

 ミリハナクのぎゃおちゃんもK02を射出。両名とも迎撃は承知の上での飽和攻撃。BF二機の迎撃用砲塔群は文字通りのフル稼働を強いられた。それでもキメラの群れに阻まれたせいもあり、ミサイルは大幅に数を減じBFには決定打を与えられない。

「コイツはおまけです。取っておいて下さい」
 しかし、迎撃直後の僅かなタイミングを狙って零次のタマモがミサイルポッドを使用。キメラの群れに空いた穴を潜り、BFに迫った。

『しゃらくせえ!』
 ローンセストンは、僚艦より僅かに突出すると引き続きこれを迎撃。数発は着弾を許すも決定打は避ける。

 この時、長距離からの狙撃が迎撃用砲塔の一つを貫いた。
『狙撃か?』
 バララットは素早く、重力波を検知させる。狙撃後即座に射程外に離脱するガンスリンガーを補足。
『挟撃しようという腹か』
 BF艦橋のレーダーの中、点滅する四つの光点が、中央の二隻のBFを挟み込むように二手に分かれていく。

 新居・やすかず(ga1891)は、先刻のミサイル迎撃の際に位置を確認したバララットの砲塔へ的確に攻撃を加えながら言った。
「まとまった戦力が残っているといっても、オセアニアに留まっていてはジリ貧になるばかりならば、余力があるうちに他方面と合流しようというわけですか」

 二隻のBFは、分散して応戦しては困難だと判断したのかお互いをカバーできる距離を保ちながら分厚い対空砲火を張る。
 スキルにより機動性を高めたやすかずのガンスリンガーは、長射程を生かし全方位からの狙撃で牽制に徹した。

「まあ、行くあてがあるならそう考えますよね。しかし、我々がそれを許す理由などありません。招かれざる客には、さっさとお引き取り願いましょう」
 攻撃にあえて優先順位をつけず、砲塔と推進機関をひたすら交互に狙いつつ新居は呟く。
 彼の攻撃は援護。火力に秀でた他の機体の攻撃を確実に命中させることがやすかずの目的であった。

 その援護を受けて、まずミリハナクがブーストで加速。
 一気にBFの側面に回り込むとラバグルートで砲撃。ローンセストンの砲塔が幾つか吹き飛んだ。
 ローンセストンもお返しとばかり、接近したぎゃおちゃんにフェザー砲の雨を浴びせるが超伝導DCがこれを弾く。

 BF二隻はミリハナクに火力を集中させるべくミサイルの発射準備に入る。だが、そこに零次の機体が、キメラを蹴散らしながら飛び込んで来た。
 ガトリング砲で、砲塔を掃射する零次。零次を仕留めようと、BF二隻は零次をロックしてミサイルを放った。

 だが、零次はラージフレアとブーストでこれを回避。更にミサイルを引きつけてキメラにも当てる。
 ミサイルを振り切った零次は、今度はお返しに自分がミサイルを発射。残存している砲塔がミサイルを迎撃した直後の隙を狙ってそれにガトリングを当てた。

 このように、三機の連携でBFの迎撃砲台は次々と沈黙。同時に二隻の推進機関のダメージも蓄積していった。

「ふふっ、流石。頼もしい限りですねぇ」
 BFの状況、更にタロス対応のメンバーが優勢に戦いを進めているのを確認して零次が微笑んだ。

 天剣は、シザースとガトリングで妨害して来るキメラを迎撃していたが、砲塔がほとんど沈黙したのを確認すると、ミサイルを纏めてキメラに使用して一気にBFを丸裸にした。
「お前はここで通行止めだ。友軍の所へ行かせはしない。征くぞ、フィンスタニス」
 そう言うと、天剣は引き続きBFに攻撃を加えるのだった。


 こうして、二隻のBFは砲塔及び推進機関に深刻な損害を受け満身創痍となった。

「楽しい楽しい戦闘行為も、そろそろお開きですわね。さあ、竜は魚を喰らいますのよ?」
 迎撃砲の破壊を確認したミリハナクはとどめの対艦誘導弾「燭陰」を使用。最早、二隻にはミサイルを迎撃する術はない。
「ごきげんよう」
 優雅な挨拶と共にオフェンスアクセラレーターを併用した弾頭が二隻の中心で炸裂した。

『第二エンジン破損!』

『燃料タンク付近に引火! 消化だ!』

 それでも、二隻のBFはギリギリ撃沈を免れた。だが、艦内は文字通りの阿鼻叫喚である。
『18ブロックまでの隔壁を閉鎖。作業急げ』

 淡々と命令を下すバララット艦長。通信機を取り僚艦と繋ぐ。だが、出たのは艦長のバグアでは無かった。

『貴様か。奴はどうした?』
『艦長は戦死されました』

 人間のような感情が篭もらない実に事務的な短い会話。燭陰は破片を撒き散らす。その破片がローンセストンの艦橋に直撃したらしい。

『後はお任せください』
『いや。それは俺がやる』

 傭兵たちはBFの異変に気付いた。タロスの様な再生能力は無い筈のBFが、破損した装甲を修復させ、更に各部の装甲がより鋭角的に、より攻撃的な形状に変形を始める。

 ――機械融合と限界突破。それがバララット艦長の奥の手であった。

 更にバララットは、艦首にFFを集中させる。高速突撃型BFの特殊能力である突撃だ。そのまま決して早くは無いが重厚感を感じさせる動きでバララットは両軍の本隊が激戦繰り広げている場所への突破を試みた。

 この隙に、ローンセストンは離脱する。傭兵も、バララットの対応に集中するしかなかった。

「姉御! アル兄! あのBFを止めよう!」
「させませんわ!」
 天剣の警告を受け、まずミリハナクがBFに向かう。

「ここは通行止めですわ。敗残兵はお帰りくださいませ。帰る場所がないのでしたら――」
 ラバグルートを発射するぎゃおちゃん。
「塵に返ってもいいですわよ」
 荷電粒子砲が、相手の横腹を貫いた。
  
 合流して来た【字】もBF撃破のために威力を重視したブリューナクを使用。飯島機もリロード済みの短距離リニアを至近距離から命中させた。
 
 だが、通常のBFならとっくに破壊されてもおかしくないレベルの猛攻にも、バララットは耐え切った。
 いや、耐えたという表現は正しくないのかもしれない。既にダメージコントロールがどうこうという状況ですらない。全身から火を噴き、あちこちから小爆発が上がっても、艦長と一体化した艦は突撃を止めなかった。

「さっさと‥‥沈んで!」
 まずロゼアがミサイルを発射。

「根性は褒めてやるけど‥‥行かせる訳にはいかないんだよ!」
 続いて、天剣が、最後のECミサイルを強化して発射する。

 この攻撃で、一時的に空が煙に覆われBFが確認出来なくなった。
 それでも傭兵たちは攻撃の手を緩めない。榊はスラスターライフルを徹底的に船体へと食らわせる。

「行かせませんよ!」
 零次も残ったミサイルを全て叩きこんだ。

 やすかずも、一撃離脱を中止して相手に張り付きながら撃てるだけの弾を撃つ。

 このように、八機のKVはBFと並走して飛行する形で撃ちまくった。

 ――やがて、煙が晴れると未だに原形を留めたBFが姿を現す。原型と言っても、既に空中分解直前ではあった。それでも、BFは最後の誘導ミサイルを吐血する様に吐き出して加速した。

「くっ‥‥! まだ動くというのですか‥‥!」
 零次が悔しそうに呟く。

 傭兵たちはミサイルの回避に徹する。
 限界突破と機械融合。このバグアの切り札に注意を払っていれば、バララットの最後の突撃を防ぐことはできたかもしれない。反面、砲塔や推進機関に集中攻撃を行った効果も間違いなくあった。


 既に、戦場の趨勢は決している。
 やはり、つい最近まで【JTFM】という激戦を繰り広げて鍛え上げられた南中央軍と、戦力が温存されてはいても、戦闘する機会が少なかったオセアニアのバグア軍では、正面からぶつかれば戦術による補正が無い限り差は明白であった。

 傭兵たちが、精鋭機の内三機を撃破、あるいは撤退に追い込んだせいでバグアの本隊は追い詰められていた。
 
 武装を全て破壊されたバララットの乱入は、このまま南中央軍に壊滅させられるところだった味方の『壊走』を辛うじて『退却』にしただけであった。

 追う南中央軍の編隊と、逃げるオセアニア軍の間に最後の力を振り絞って、盾として割って入ったBFはそこで力尽きた。

 この僅かな隙に、大きく数を減らしたオセアニア軍はローンセストンの指揮ので辛うじて部隊としての体を保ったまま海上を撤退して行ったのである。


 戦闘終了後、報告を受けたコルテス大佐は言った。
「欲を言えば、完全に叩いておきたかったが‥‥」
 
 そう言いつつも、彼の表情は安堵と満足に満ちている。

「もう一度強行突破を試みるような戦力は残されていないだろうからな。これで安心してカリブ海を目指せるというものだ」


「あら? これは‥‥」
 戦闘後、ラストホープに帰還する前に、海岸を歩いていたミリハナクは海岸に漂着した物に眼を留めた。

 それは、バグア兵士が着る一般的なバグアのボディスーツである。スーツだけが流れ着いたのは、誰かが着ていたのではなく沈んだBFの積荷だったからだろう。

「これが、バグアボディスーツ‥‥エロくていいですわね♪ 主に胸とか胸とか!」
 既にボロボロでとても使えたものでは無かったが、ミリハナクは一人で騒ぐのだった。

 ――南米、ベネズエラ某所。バグア基地の指令室でオセアニア軍敗退の報告を聴いた『K』の表情はそのボディスーツのせいで伺えない。
 だが、彼女は確実に次の策を練っている。

 March to the Caribbean Sea――南米を人類が取り戻すための最後の戦い。これはまだ緒戦に過ぎなかった。