タイトル:【福音】ひとりじゃないマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/27 12:45

●オープニング本文


●081輸送艇の運命
 バグア本星艦隊の拠点の一つである低軌道ステーションへの威力偵察は概ね成功を収めた。敵は四隻の巡洋艦を失い、バーデミュナス人と名乗る異星人と彼らの兵器であるフィーニクスも全てを救出する事こそ叶わなかったが、その多くを確保することに成功した。
 そして、中央艦隊の主戦力であるエクスカリバー級巡洋艦は中破した艦こそあれ全て宇宙要塞カンパネラに帰還した――そう、『巡洋艦』は。
 
 宇宙艦隊は巡洋艦だけで構成されている訳では無い。代表的なのが、KVを戦場まで輸送する小型輸送艦である。これは傭兵の輸送にも使われるので、彼らにとっては馴染み深い艦であろう。
 
 今回の作戦で、撃沈にカウントされた第081輸送艇もその一隻である。この輸送艦はKVではなく、艦隊防空用のラインガーダー(LG)を運用する艦であったが、威力偵察後の撤退戦の最中敵の激しい攻撃によって本体から分断されてしまったのだ。
 だが、この時はバーデュミナス人救出で一杯喰わされたバグアの攻勢が最も激烈な時であった。そのせいで、他の輸送艦や大なり小なり損傷を受けた巡洋艦も撤退を優先せざるを得なかった。
 結果として081番艦は、機関部に被弾したという通信を残して連絡が途絶え、中央艦隊司令部はこの艦は撃沈されたものと認定した。


 宇宙要塞カンパネラのドッグではちょっとした騒ぎが起きていた。アスカロンに同行していた輸送艦が収容したフィーニクスの数が合わないのだ。
 報告では六機のフィーニクスが回収されたはずだが一機足りないという。士官は傭兵に事情を聴こうとしたが、それは意味がないと輸送艦の艦長が言う。
 救出後、その傭兵たちはフィーニクスを収容してスペースの無くなった艦から別の輸送艦に移ったのだ。この移動には傭兵を別の戦域に送る目的もあった。
 この二隻の輸送艦は撤退時の再編成により、全く別の部隊に所属して帰艦することになったのである。
 
 そして、トラブルは六機のフィーニクスを収容した艦が退却中に起きた。
 一人のバーデュミナス人が、自らの機体に乗り無断で出撃したというのだ。その直前、その輸送艦の艦長は例のクリューニスの一人である082からこんな言葉を聴いた。

 ――81ばんのおふね いっぱいこわれて うごけないけど なかのひとたち ぶじ

 士官は全ての事情を理解した。そのフィーニクスの操縦者は、クリューニスを通じて081番艦の孤立を知り、あえて出撃したのだ。

「異星人め‥‥何故、何故助けられた身でそんなことを!」
 叫ぶ士官に艦長が言った。
「‥‥それをお尋ねになりますか? 恐らく、我々と同じ理由でしょう」

 この時、その場にいた全員に082からの必死の呼びかけが伝わった。

――きめら いっぱいふねにあつまってる とぅしぇく たたかってる ふねまもってる

――はやく おねがい とぅしぇくをたすけて!


●081輸送艦・漂流中
「もうイヤ!」
 戦闘用宇宙服を着た眼鏡の似合う少女は泣き叫んだ。
 大破した輸送艦には、大量の宇宙キメラが群がっている。海鼠のようなぶよぶよした太い円筒形の体の先に無数の眼球が密集し、体からは腕が2本生えている。大きさは人間の子供くらいだ。
 艦が孤立してすぐ、駆け付けたフィーニクスがキメラを攻撃してくれてはいたが、この数全てを防ぐ事は出来ずキメラが少しずつ艦内に侵入している。
 艦で、唯一の能力者でもある少女は、否応なしにキメラに立ち向かう事になった。
 キメラは弱いが、撃っても撃っても侵入してくる。弾薬はまだあるが、この数が相手ではとても持つとは言えない。
「は、放してぇ!」
 遂に、キメラの一匹が弾幕をくぐりぬけ少女を捕えた。

 ――がんばって! と とぅしぇくもいってる!

「ク、クリューニス‥‥ こんなの無理だよお! なんで私がこんな目に合うの? 艦のブーストを担当するだけのはずだったのにぃ‥‥おかあさあん‥‥」
 少女の腰にSESつきのナイフがあるが、抵抗する気力が無い様だ。

『082! 訳せ!』
 一喝するトゥシェク。やや間があって――

 ――き きさま? は せ せんし の か かいきゅう? たたかうちからをもつうまれなら なきご‥‥わーんわーんいうのは きかん?
 必死にトゥシェクの言葉のニュアンスを訳そうとする082。

『いかに否定しようと貴様は戦士』
 とトゥシェク。

 ――す、すべての ど どうほ――ともだち! のために
 と082。

「死力を尽くすのが、義務‥‥?」
 少女は伝えられた言葉を反芻する。

 ――直後、ナイフが一閃。キメラを切り殺す。
 荒い息をつく少女。
「ひとりじゃない‥‥私、ひとりじゃない?」

『我らは戦友という訳だ!』

 ――そう! ひとりじゃないよ ぼくたちがいるよ!
 
 少女は銃で敵を蹴散らすと、窓からフィーニクスを見上げた。


 トゥシェクの方も、既に二時間以上中型のキメラを艦に近付けないよう奮戦していた。彼らにフォースフィールドは破れないが、キメラくらいなら何とか出来た。

 ――とぅしぇく きたよ あたらしいふね よーへーさん? がのってる!

 082が、トゥシェクや艦のスタッフに告げる。だが、事態はそう容易には好転しなかった。

 ――『グジュルル! 人間共の船だ! キメラ共の報告通りだ! まだ中に生きた人間がいる‥‥ヨリシロロロ! アサュレナ、邪魔するな! ヨリシロよこセセセ! ジュルーン!』
 
 ――『抜け駆けをしないで! ドブナドレク! アタシもようやく、このヨリシロからおさらばできそうだわぁ!』

 本星型HWに乗った両生類のようなバグアと、タロスに乗ったバーデュミナス人の女性をヨリシロにしたバグアが、欲望を剥き出しにして叫ぶ。

 対照的に、大型の処刑刀のような剣を持った強化型タロスに乗ったバグア――現在はUPC兵士の損傷し切った遺体に寄生している芋虫のようなグラッブグローラーは冷静だった。
『騒グナ。向コウノ援軍モ到着シテイル』
 そう言ってから、彼は出力で勝る自身のタロスを一気に加速させる。どうせ、忠告しても戦闘よりヨリシロの捕獲に夢中になるであろう仲間のために先行して傭兵の抑えに当たるのが目的だ。

 だが、その彼のタロスにやはり加速したトゥシェクの機体が組み付いて来た。
『何故ココニ? 貴方タチハ逃ゲタノデハ?』
 回線でそう言う芋虫。純粋に好奇心から呼びかけた。

『ほほう! 奇遇だな! 貴様だったか!』
 シャチのような歯を剥き出して笑うトゥシェク。
『これも、何かの縁だ! 暫く付き合え!』
 トゥシェクは、タロスが剣を振るえぬようその関節を押さえつけ、ひたすら加速する。このタロスだけでも輸送艦から引き離すために。

『――貴方ハ――』
 芋虫が何か言いかけた。

 ――とぅしぇく! とぅしぇく!

『082! あの戦士に伝えろ! もう一人では無いとな!』
 フィーニクスとタロスは組み合ったまま、どこまでも遠ざかって行った――

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
ゼロ・ゴースト(gb8265
18歳・♂・SN
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
追儺(gc5241
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

「うん、まぁ気休めだけどね」
 出撃前、エリアノーラ・カーゾン(ga9802)こと愛称ネルはそう言って、Good Luckを使用するとニェーバに乗り込んだ。


 トゥシェクがタロスを命がけで引き離した為、艦に入り込むキメラの数は増加していた。
 能力者の少女は健在で、奮戦していたが別方向から侵入して来たキメラがブリッジの窓にビッシリと張り付く。
 立てこもっていたクルーの誰かが悲鳴を漏らす。キメラが、窓を破ろうとべったりと張り付けた手をグネグネと動かした時――

「‥‥やはり、敵は輸送艦への侵入を試みているようですね。ですが、勇敢なバーデュミナス人が守ったこの艦(フネ)絶対に守ってみせます!」
 歩兵槍を乱射しながら里見・さやか(ga0153)のリヴァティーが艦の側面に集結していたキメラを航過しつつ掃射! 掃射!
 率先して艦に取り付こうとした群れが、ひぎぃ、とか言いながら体液を撒き散らし肉片となる。
 距離を放し、反転したさやかはリロードしつつ状況を確認。とっておきのG放電をどこにブチ込むべきか思案する。
 そこに、戦域の管制を担当していた追儺(gc5241)から通信が入った。
『みんな聞こえるか。相手は獲物を見つけて攻め気にはやっている。圧力が弱い所に殺到するだろう。そこに火力集中点を作れば、一網打尽に出来る筈だ』
 追儺の指示に統制に従って、他の傭兵たちも小型をうまく誘導していく。小型が密集した所でG放電を使用するさやか。キメラは無残にバーベキューとなる。
「私の知っているのは、最初に亡命したミィブさんだけですが‥‥なかなかどうして、彼らは勇敢で義理堅い民族なのですね‥‥」
 次の攻撃地点の指示を追儺から受けつつ、さやかはこの船を守っていたというバーデュミナス人についての感想を追儺に述べた。

『一人じゃない‥‥か‥‥中々良い言葉だ。なら、それを言って励ました奴にも返さないとな。お前も一人じゃない‥‥同じ戦場に立つ戦友だと』
 追儺も、そうさやかに答えた。

 一方、さやかや追儺よりは長くトゥシェク面識がある者は、また違う感想を抱いていた。
「ああ、もう!! 無茶しやがるんじゃねぇよ!?」
 砕牙 九郎(ga7366)が呟く。
 自機のブースターを細かく動かして、相手に読まれにくい機動を取る九郎は、その機動でフェザー砲をかわしつつ味方と連携した弾幕で中型キメラを蹴散らしつつ叫んだ。
『ハツ! 無茶すんじゃねェってしっかり伝えといてくれよ!‥‥こっから先へは行かせねぇ!』

「気持ちはわかるけどさ‥‥ああもう!」
 最初に出会った時、トゥシェクと言葉を交わしていた鷹代 由稀(ga1601)はトゥシェクの独断専行に歯噛みしつつ、
「あの馬鹿‥‥拾った命捨てるような真似してんじゃないっての!」
 それでも、彼の意思を継ぐべくまずは動き出した射殺型の懐に飛び込み、錬剣と光輪を振るう。二匹の大型が悲鳴を上げる間もなく切り裂かれた。

 一方、由稀と同小隊のネルは冷静に敵の布陣を観察する。

「んーぅ。フィーニクスが守ってた間はともかく。離れ始めても中型以上のキメラが輸送艦に仕掛けてないってコトは。あの二機のワームのどっちかか、両方に居るってコトかしらね。バグアか強化人間が」

 その分析を受けて追儺は、ロータスクイーンで二機の動きを注視する。


 ――「こちらペガサス。聞こえるか081、応答可能なら通信回線をそのまま固定しておいてくれ!」
 今正に、艦内に乱入しようとしていたキメラ軍団が食いたくねえミートソースにされ、救われた事にもすぐには気付かず、呆然とするクルーに救援の到着を実感させたのは、白鐘剣一郎(ga0184)からの激励を伴った広域回線であった。
 
 いや白鐘ばかりではない。
「――少しでもあなたたちの希望となれますように」
 さやかも通信でクルーに呼びかける。

 ――くろう は もう だいじょうぶ だと いっている
 九郎は、クリューニスを通して救援の到着を伝えた。これらの激励に歓声を上げ、白鐘の指示に従うクルーたち。

 ――「これから周囲の敵の掃討に入るが、もし艦内で持ち堪えられなくなったらすぐに連絡を。済まないがもうひと頑張りしてくれ。頼むぞ!」

 そう言うと、白鐘は自機であるシュテルンGを加速させる。彼自身は輸送艦に迫る二機のワームを撃退する為にである。

 KVの到着により、それまでは包囲に徹していた大型が始動。作業を邪魔させない為に半数が傭兵たちへと向かう。

「‥‥ってか、地味にグロいわね。特に大型。あんだけ眼球あって、ちゃんと見えてるのかしら?」
 ネルは顔を顰めると、アサルトカービンを迫る大型に乱射。狙いはその無数の眼球だが、効果は――バッチリ!
 
 目を貫かれた大型二匹は両手で顔面を抱え、呻くような仕草を見せた。
「ありゃあ、多分、偽眼だと思ったんだけど」
 
 射殺型は怒り狂って反撃に腕のフェザー砲を放とうとした。だが、このキメラには知る由も無かったが、ニェーバには恐るべき能力がある。

 リーヴィエニ
 
 ネル自身の意思とは無関係に、オーブラカが操縦者には優しく負担を与えぬように、敵には無慈悲な全自動で、キメラに鋼鉄の豪雨を降らせる。この攻撃でキメラは弾丸をたっぷりくらい、息絶えるのだった。

 ネルが大型を相手にしている頃、同じくニェーバに乗るジャック・ジェリア(gc0672)は艦との直接の接触を図るべく、キメラの群れに向かう。
「見た目、数は多いがどこまでマズイのかがわからんな。接近して確認からか」
 その様は、河に投げ入れられた牛に群がるピラニアの如く中型キメラがニェーバに殺到する。

――だが

「この位置なら、船も味方も安全だな? 追儺」

『ああ、ロータスクイーンで確認している。思いっ切りやってくれ』
 
 
 ニェーバの機体能力、『ミチェーリ』を発動ッ!
 機体に内蔵された砲塔群が唸りを上げる。それは錬力すら必要としない、意思を持たぬ殺意。鋼鉄吹雪! 3000発の機銃が大型、中型、小型の区別無くキメラの肉体を片っ端から削っていく。
 
 ――やがて鋼鉄砲塔が掃射を止めれば、もはや周囲に浮かぶのは分解しつつある肉塊ばかり。

 悠々と艦に接触したジャックは、遠距離からでは解らない艦内の状況を確かめようと、近距離からの通信を実行。

――『あ‥‥よ、傭兵の方ですか? 大丈夫です。中は‥‥きゃあっ!?』
 通信からは能力者少女の悲鳴。
 詳細は不明だが、万が一を考えたジャックは即座に艦内への突入を決断した。

「ここは任せてくれ! ジャックさんは艦内へ!」
 九郎は、艦を背にして再び群がるキメラ軍団と対峙。マシンガンで小型を掃射し、アサルトライフルで中型を粉々にしていく。

「悪いな!」
 九郎の援護に感謝し、ニェーバから降りるジャック。その時、大型キメラが彼らの方に突進して来た。

「やらせやしねえ!」
 九郎は、艦と今は搭乗者のいないジャックの乗機を守るべく、その機体でフェザー砲を受け止めると、錬機槍で真正面からキメラを貫く。悲鳴を上げる大型を更に至近距離からアサルトライフルでミンチにした。


「招かれざる客のお出ましか。早々にお引取り願おう。行くぞ!」
 白鐘は最低限のキメラを素早く掃討すると、迫り来る二機の有人ワームに機首を向けた。
 まずは牽制。その目的は敵の連携の有無を判断する事だ。

『ジュル〜ル! アサュレナ! 奴を足止めしろロロロ!』

『はぁ? ナマ言ってんじゃないわよォ! レデェファーストだろうがァ! あんたが抑えなよォ!』

 白鐘にこの会話が聞こえた訳では無いが、その反応から判断は容易だった。あろうことか、二機はお互いに軽く押し合うようにして、こちらへ向かう。
 恐らくお互いに足止めの役を押しつけ、自分が先にヨリシロをゲッチュウしようとしているのだろう。
「なるほど、この連中仲間意識はないらしいな」

「なら、2機がかりでさっさと片付けて。それまでこっちはもう一機と遊んでるから」
 由稀はそう言って、本星型へと挑んでいく。

『ヨリシロを頂く邪魔すんじゃないィィィ! 』
 タロスがシュテルンGにプロトン砲を浴びせ掛ける。
 白鐘はそのままバルカンとアサルトライフルでタロスを牽制しつつ距離を詰める。

「隊長じゃなくて申し訳ないですが、援護します」
 ゼロ・ゴースト(gb8265)のライフルで援護を受けつつ、機体を人型に変形させた白鐘は機拳で殴打。

『キュルルル! レデェに手を上げてェ!』
 アサュレナは斧槍を振り回すが、シュテルンを捕え切れない。と、そこに一匹の中型が主人を援護すべく宇宙をすっ飛んで来た。

「任せて下さい! 白鐘さん!」
 ゼロはドリルライフルを構えると、牙を剥く中型の眼球に狙いを定めドリルを射出。
 真正面からドリルを撃ち込まれキメラは怯んだが、ゼロの機体に掴みかかるも、そこで息絶えた。
 その後は散発的に向かって来る中型を狙撃するゼロ。

 一方白鐘は、ひたすら機拳でタロスの装甲をへこませていた。重過ぎる一撃に、未改造の通常タロスでは再生も追いつかない。
 おまけに、追儺の発動させたヴィジョンアイによって、タロスの挙動は逐一、白鐘に伝えられていた。
 これでは瞬く間にアサュレナが追い詰められていったのも無理は無かった。
『どきなよぉ!』
 アサュレナ機は渾身の突きを繰り出すが――シュテルンはそれをあっさりと躱す。タロスに隙が生まれる。
 
「勝負所だな」
 水素カートリッジで錬剣を起動した白鐘。同時に、シュテルンの証である12枚の可変翼が斬撃に最適な形状を取った。

「貴様らには永劫の眠りを。遠慮なく受け取るといい」
 振り下ろされるレーザーブレードの奔流は何の抵抗も無くタロスを二つに割った。

『ヒギイィイイイ――』
 バグアは瞬く間に蒸発した。


「こっちは時間が無いんだから、ちょこまか動くんじゃないわよ!」
 シャムシエルを振り、光輪を射出する由稀のコロナ。敵の強化FFを誘発し錬力の消耗を誘うべく、波状攻撃をかける。
『ギシュルルル! くっ‥‥ヨリシロさえあれば! ヨリシロさえ‥‥!』
 だが、ドブナドレクは最初から逃げに徹していた。彼の目的はあくまでもヨリシロの入手。人類の援軍が到着した時点で、戦闘意欲は著しく減退していた。
 そして、この時アサュレナが白鐘に撃破された。
『ジュル‥‥ルルル!』
 青ざめるドブナドレク。只でさえ厳しい状況が一層悪化したことによるものだ。
「もらった‥‥ぼけっとしてんじゃないっての!」
 動揺して動きの鈍ったHWに光輪が命中。だが、本星型は強化FFで辛うじて防御。
『ジュ‥‥ル。潮時だなナナナ‥‥』
 撤退しようとするドブナドレクだが、彼はまだ後ろ髪を引かれる思いだった。ヨリシロが諦めきれないのである。
 ドブナドレクは決断した。彼は一か八か、最大加速で由稀を振り切り、輸送艦へ突進する。
 だが、敵の挙動に注意していたネルはこれを見逃さなかった。
 追儺の管制によって敵の進路を見極め、最適な場所に愛機を割り込ませる。

「根性見せなさいっ! ガチムチ号っ!!」
 魂の名前のおかげか、元来頑丈なニェーバはワームと激突しても無事だった。そのままくるくると回りながら弾き飛ばされるHW。
 
 ネルも強化FFを張ったHWとの衝突で、激しくコックピットに叩きつけられ、ダメージを受けたが、輸送艦は守り切った。

『グジュウウ‥‥! お、覚えていろ! 地球人共モモモモモモ!』
 ドブナドレクは流石に命が惜しいのか、それ以上は交戦しようとせず撤退していった。

 同時刻、081番艦の艦内では、前面に立つジャックと彼の背後の能力者の少女が内部に侵入して来た小型の最後の一団を掃討し終えていた。
 
 圧倒的な耐久力を誇るジャックがあっての役割を買って出たおかげで、一時は消耗のせいで苦戦していた少女も持ち直し、二人は無事クルーを守り切る事が出来たのだ。
 かくして正規軍の救助班も到着し、081号輸送艦の乗員は無事救助された。

 艦の外では、最後の大型にさやかがレーザーを撃ち込んで、撃破した。無数の小型も、他の傭兵と、小型を最優先目標としたさやかの活躍により全滅している。

 白鐘がクリューニスに言う。
「クリューニスと言ったか。協力を感謝する」

――あなたも ありがとう

 ハツが言う。

『君も良く頑張ってくれた。ありがとう』
 宇宙服姿で、大破した艦から救助に来た艦に乗り移る少女に、kVの通信で声をかける白鐘。
 
「い、いいえ! こちらこそ、本当にありがとうございました!」
 少女も敬礼を返す。

「‥‥」
 白鐘も、トゥシェクの件を気にしていなかった訳では無い。だが錬力残量、そして今だ敵地に近いことを考慮した彼は、補給を受けると、輸送艇エスコートについた。


「‥‥ゴメン、こればかりは譲れない。」
 艦の防衛完了後、由稀はそう言ってトゥシェクの捜索に行こうとした。

 ――ゆ き のきもち うれしい ありがとう 

 ――でも もう とぅしぇくは――

 既に、フィーニクスとタロスはビッグフィッシュに回収され、本星艦隊に収容されていたのだ。トゥシェク自身は、傷を負いつつもまだ無事ではあるとのことだったが――

 無言で押し黙る由稀。彼女たち傭兵の落ち度では無かった。あの状況では輸送艦の安全確保が優先であり、またそれがトゥシェクの願いでもあったのだ。

「あの時の赤い奴が‥‥そんな」
 由稀同様、フィーニクスの救助を考えていたゼロも落胆の色を隠せない。

「ハツ‥‥アイツらは、やっぱりトゥシェクを‥‥」

――まって ゆき いまとぅしぇくと――!

 082によると、どうもバグアはすぐにこのバーデュミナス人を殺したり、ヨリシロにするつもりが無いようであった。
 無論、トゥシェクの状況が最悪なのは変わらない。

――だが

「厳しいが、‥‥生き残ってもらう事を、祈るしかない。お前も一人じゃないって言葉をまだ伝えていないからな‥‥」
 追儺の言う通りであった。
 それは、結末がどうなるのであれ、まだ全てが終わっていないことを示してはいた。

「‥‥ハツ? トゥシェクと交信は出来てるのよね?」

 ――うん

「‥‥なら『由稀がすごく怒ってた』って伝えといて!」