タイトル:【AP】わぁい恐竜ランドマスター:稲田和夫

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/21 23:50

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

「起きろ! 下っ端!」
「全く‥‥またサボリですか? 貴方と言う人は、つくづく戦闘に向かないバグアですね?」
「!?」
 補給任務の傍ら、座乗艦改造大型ビッグッフフィッシュ『ダンクルオステウス』の回転椅子で、微睡んでいたドクトル・バージェス(gz0433)はたまげて目を覚ました。いきなり今は亡き方々の懐かしい声を聴いたからだ。
 シェアト(gz0325)とリリア・ベルナール(gz0203)が生前(のヨリシロ)と変わらぬ出で立ちで何故かブリッジに立っていた。

「これは‥‥失礼いたしました」
 慌てて起立して、直立不動で最敬礼するバージェス。普段は「だよぉ♪」などと喋っていても、流石に自分の上司には居住まいを正す。
 だが敬礼しつつもこの不可解な状況に対する理解が追いついていかない。この両名は、既にこの地上で潰えた筈の存在。その死に様には彼も割と近い戦域で立ち会っている。第一生きていたとして、何故わざわざ自分のBFに現れたのか?
 しかし、リリアは相変わらず胸元全開のライダースーツで微笑んでいるし、シェアトもやっぱり相変わらずの腹巻で不敵な表情を浮かべている。

「不要です。簡潔に状況のみを報告なさい」
 何やら、昔自分がブライトンに言われたことを今度は部下に言ってみるリリア。ちょっと嬉しそうなドヤ顔なのは多分気のせいだろう。

「ハァーハッハッハッ! 言い訳を考える暇があるなら、このスーパーバグアの親征に値する人間共への『罠』とやらを早く見せてみろ! 下っ端! そうすればワームでは無く、生身でどつくくらいで許してやらんでも無いぞ!」
 それ、僕確実に死にますよね? と思いつつもちろん口答えはしないバージェス。
 しかし、二人の言う『状況』とか、『罠』とは一体何なのか? 自分は最近そんな大規模な作戦行動は行っていない筈だが‥‥

『失礼いたします。リリア。ベルナール閣下。シェアト・スーパーバグア閣下』
 また新たなる闖入者が通信でブリッジに呼びかける。とはいえ今度は別に不自然な存在では無い。グレートゴージャスゴーレムこと、G3とタロスザタフガイことT3。
 何の事は無い。ゴーレムとタロスに直接強化人間の脳髄を積み込んだだけの、バージェスの部下だ。

「ちょっとぉ、一体何の用? 今、偉い人が来て忙しいのにぃ」
 問い詰めるバージェス。だがゴーレムは、それを全く無視してさも当然のように、『簡潔に状況のみ』を報告する。

『報告致します。北米大陸旧カナダ領アルバータ州とブリティッシュコロンビア州の州境に、かねてから我らが建設中だった施設が完成しました』
 ゴーレムが言う。

『ちゃんと博士の命令通り、『ダイナソール・バージェスバグア立博物館』と名付けたよ〜』
 タロスも言う。
 
 旧カナダ領には、地球の生命の歴史を考察する上で重要極まりない二つの場所がある。
 一つはアルバータ州カルガリー近郊の州立恐竜公園。多彩な白亜紀の恐竜化石が地層から発掘された、正に恐竜が好きな人にとっては憧れの場所である。

 今一つはブリティッシュコロンビア州、ロッキー山系にあるバージェス頁岩。
 こちらは、恐竜時代よりも更に前。カンブリア紀の生物が見せた地球生命の多様な進化の可能性を今に伝える有名なアノマロカリスを始めとするバージェス動物群が算出する地である。
 そもそもバージェスの名はここから借りたものだ。
 
 G3とT3の話からすると、恐らくこの二つの地についての資料を展示した施設なのだろう。

『最高の施設だよぉ!』
 柄にもなく喜色満面で叫ぶバージェス。だが、叫んでからはたと気づく、確かに自分にとっては果てしなくボク得な施設だが、それが何故このブリッジにいる怖いオトナにも関係があるのだろう? というかそんな施設の着工を命じた覚えも無いのだが‥‥

『プレオープンは明日の朝十時。プレとはいっても施設内の各セクションの稼働率は100%を達成‥‥つまり、実質通常営業が可能です』

「それでは、早速現地に向かうとしましょう」
 さらりと、ナチュラルに、リリアが言う。思わずリリアを見たバージェスは二度びっくり。何故か、エミタはいつものライダースーツでは無く、それこそ、権威ある国立の美術館や博物館の女性学芸員が着るようなスーツをぴしっと着こなし、何やら眼鏡で知的さまでアピールしている。
 ちなみに、ヨリシロ上の姉から貰ったネックレスはきちんとしていた。

「ハァーハッハッハッ‥‥おい下っ端! 早くBFのエンジンを吹かせ! 早くしないとこの雄姿で人間共を畏怖させる事が出来なくなるではないか!」
 バージェスが見たのは、ティラノサウスル・レックスと思しき、それなりにクオリティの高い着ぐるみを着込んだゼオン・ジハイドの8だった。

 思わず小机に肘をついて、手で顔を抑えるバージェス。だが、ふと机の上のあるもに目が留まると、困惑した表情が一変。薄笑いが口元に浮かぶ。
「拝命いたしました」
 そう応え、BFを発進させる。

「考えてみれば、旧カナダ領とやらはこのヨリシロの故郷らしい‥‥ククク‥‥人間共の言う『故郷に錦を飾る』とは正にこの事! ハァーハッハッハッハッハッ!」

「ウフフ‥‥相変わらず意味が激しく違っていますね、シェアト?」
 リリアは何とも言えない穏やかな笑みを浮かべ――
「さあ、早く私に会いに来てくださいね。オタ‥‥いえ、州立公園とかそういうのが、そして『私たちが』まだここにある内に――」
 
 優雅に、キメたつもりらしいリリアだが、何故かカメラ目線なので台無しだ。しかし、バージェスは最早気にしない。
 何故なら、彼は見たのだ、卓上の日めくりカレンダーの日付が4月1日になっているのを。






●参加者一覧

/ UNKNOWN(ga4276) / 鐘依 委員(ga7864) / ラサ・ジェネシス(gc2273) / ミリハナク(gc4008) / 高槻 ゆな(gc8404) / 霊烏路空(gc8852

●リプレイ本文

「私は確か‥‥LHの高級ホテルで心身を癒していた筈なのですが‥‥」
 何時の間にか、施設の中にいた鐘依 委員(ga7864)は、そう不思議そうに呟く。
「おや、今日は4月1日‥‥ああ、なるほど、これがLH在住の能力者に時折訪れるという噂のAP現象ですか‥‥ということはこれは夢なのですね」
 きょろきょろと辺りを見回している内に、日付の表示が目に入り納得した様子の委員。

「‥‥夢ということは現実のお金が減る事も無ければ、いくら食べても太ることもありません‥‥とすれば、やる事は一つですね」
 きゅぴーん、と怪しく目を輝かせた委員が最初に取った行動は! ‥‥何故か、無駄に隠密潜行を使って気配を消す事であった。施設のパンフレットをこっそり手に取り、委員は早速お目当ての場所へと向かう。


 シックな内装のフレンチに入店した委員は、昼間だというのに、フルコースを注文する。

「お待たせいたしました。アペリティフと、オードヴルでございます。本日は、採れたてのロブスターを――」
 前菜を持って来たウェイトレスを一瞥した委員は驚愕。そのウェイトレスはリリア・ベルナール(gz0203)だったが、フリフリミニスカで、なにより胸をこれでもかと強調した制服であった。

 その質感、揺れ、形を、確りと目に焼き付ける委員。一方リリアは優雅に立ち去るかと思えばこれみよがしに委員の胸を眺め――

「女性の価値は大きさ だ け で決まるものではありませんよ?(キリッ&ニコッ)」

 ギリッ
 
 その一言に歯噛みする委員。

「胸 だ け が問題ではありません。着こなしと、気品も重要な要素だと、お姉さまも以前――」
 割にシリアスな話を始めるかもしれなかったリリアを無視して、委員は憤然と料理に手を付ける。さすがにただとはいえ、このフルコースを残すのは彼女の主義に反する。
 癪なことに、その後も彼女のテーブルのサービスを担当したのはリリアだったが、料理の説明だけ聞いて後の戯言は聴かないふりをする委員。
 だが、その後もリリアを眼にする度に、委員から見て120点のそれは、委員を苛立たせるのであった。


「ど、どうして私はこんな所にいるのでしょうか‥‥?」
 E・ブラッドヒル(gz0481)は、困惑していた。つい先日、人間に戻り正規軍に入隊。今は訓練キャンプにいる筈の自分が何故こんな奇妙な場所にいるのか?
 こういうものに対する知識は、平均的な女子高生レベルには持っていたが、彼女にとってはそれ以上の域を出るものでは無かった。
 しかし‥‥中にはそうでない人間もいる訳で‥‥
「マーヴェラス! 恐竜がいっぱいダヨ、凄いヨ、ビッグヨ、飛んでるヨ!」
 何やらニセアメリカンな口調で騒ぐ元気いっぱいの少女、ラサ・ジェネシス(gc2273)の姿がブラッドヒルの目についた。見れば、ティラノサウルスやら、プテラノドンの実物を再現したキメラが現物の化石の周りに行儀よく畏まっている。
「あの‥‥こういう場所‥‥、お好きなんですか?」
 いきなり訳の解らない空間に放り込まれた心細さか、ブラッドヒルはラサに話しかけてみる。
「古代生物とか恐竜とかそういうの、超大好きデス!」
 キラキラという擬音が聞こえそうなくらいに目を輝かせたラサ・ジェネシス(gc2273)が振り向いた。ちなみにその格好ときたら、ヘルメットに半ズボン。双眼鏡を首にかけ正に往年の探検隊を思わせる。
「そ、そうですか! 気合の入ったフ、ファッションですね! 素敵です!」
 とりあえず性格上失礼なことは言えないので、褒めるブラッドヒル。
「さぁ、ブラッドヒル殿もレッツゴー!」
「え、ええっ!? というか、『殿』って‥‥」
 基本、アホの子であるラサ。問答無用でブラッドヒルの手を引いて元気よく探検‥‥いや館内探索へと繰り出す。

「わ、私はE・ブラッドヒルと言います」
「知ってますヨ! 私はラサ・ジェネシスデス!」
 展示室を回りながら、自己紹介し合う二人。ブラッドヒルには不思議なことに、初対面のラサはまるで自分の事を知っているように振る舞った。
 まあ、初対面の印象では人見知りするようなタイプでもなさそうだったが。‥‥結局ブラッドヒルはそれ以上深く考える事はしなかった。


 ポップコーンの甘い匂いに釣られて、高槻 ゆな(gc8404)はとことこと館内を歩き回る。
 ショートとボブの中間くらいの長さの銀髪と、若草色の瞳のゆなは、本当は16歳だがどう見ても小学生の体格(12歳くらい)にしか見えない。少し長い左の横髪をクッキーの飾りが付いたヘアピンで留めている。
 売店でお土産のチョコレートを物色したゆなは施設中央部の、植木や噴水のある広場へ向かう。
 そこではでっかいタロスが、ポップコーンやら風船を配っていた。
「わー、実物見るの初めて♪」
 そこにいるお子様たちに交じって早速ポップコーンを貰うゆな。ついでに、タロスの生体装甲をぺしぺしっ。
『わ〜! 何だか小っちゃい子が来たぞ〜。能力者なのに俺達が珍しいのかい〜?』
 特に気を悪くした様子も無く、T3ことタロスが喋る。
「うん! 僕、まだ戦闘依頼を受けてないんだ。タロスに触れるなんて、まるで別世界‥‥」
『おっとそこまでだ! 喋り過ぎは命に関わるぞ』
 いきなり、広場の反対側でお菓子を売っていたゴーレムが飛んで来て、ゆなを制止した。
「ご、ごめんなさい‥‥」
 はわわと口元を抑えるゆな。
『解ればいいんだ。さあ、このポップコーンとパンフレットをやるから楽しんできな!』


「うわー、これどうなってるの? あ、これはこう使う器官なのか!」
 ゆなは、一番の目的であったバージェス頁岩の動物群に夢中になっていた。展示や実際のキメラを眺めながら、感想を呟いていると、白衣を着た外見年齢は同じくらいの少年が目に入った。
「学芸員さんですよね? 色々、教えてくださいっ」
 話かけるゆなにドクトル・バージェス(gz0433)は目を細めた。
「趣味が同じ人は、貴重だからねえ♪ 僕で解る事なら、答えてあげるよぉ」
 バージェスは嬉しそうに、近くの水槽から、キメラを取り出して説明を始める。やがて展示の内容について彼が説明を始めた時、横から割り込んで来る声があった。
「そこは、最新の研究では順番が逆だ」
 ロイヤルブラックの艶無しのフロックコートに同色の艶無しのウェストコートとズボンと兎皮の黒帽子。
 黒皮靴と共皮の革手袋。パールホワイトの立襟カフスシャツ。スカーレットのタイとチーフ。古美術品なカフとタイピンという出で立ちのUNKNOWN(ga4276)である。
 彼は、バグア相手にすら講義然とした態度を崩さないのだ。
「おじさん、細かいよぉ! 僕だって、なるべく本式にしたいけどさあ。それに古生物学って一寸先は闇じゃない? 見てよこれぇ」
 そう言ってバージェスが取り出したのは、掌に乗る大きさのアロマノカリスだ。
「この子なんかぁ、発見当初は、この触手と、口元の環がそれぞれ別の生き物だなんて思われてたんだよお? 何がどうひっくり返るか、わかんないじゃなぁい?」
「そう言うなら、君も新しい発掘をするべきだね。この私などは、能力者になっても、戦争になっても、文化芸術歴史に対しては理解・庇護を続けていたからね」
 力説するUNKNOWN。
「うふ、おじさん、APなのに変わらないんだあ! ブレなさ過ぎだよお!」
 肩を竦めるバージェス。

「わぁい! 最高の施設ですわぁ!」
 そこに、いきなり黄色い声が聞こえて来た。ミリハナク(gc4008)である。
「わぁい! 同行の士が来たよお!」
 ミリハナクは純粋に恐竜の展示を楽しんでいるらしい。
「あら、不明さん? 何やら、取り込み中の所申し訳ないですが、バージェス君をお借りしますわね」
「‥‥えぇ? ちょっとお、おねえさん?」
 エースアサルトのパワーをフル活用して、バージェスをお持ち帰りしようとする。ミリハナク。所詮下っ端であるバージェスのパワーでは抵抗も出来ない。
「もぅ強引だなぁ‥‥しょうがないから、後は任せたよぉ?」
「待ちたまえ、まだ講義は終わって――」
 二人を追いかけようとするUNKNOWNの前に、ずしずしとゴーレムことG3が歩いて来た。
『仕方が無いので、ここからは俺がお相手しよう』
「うむ、(ぴー)が付いていない玉無し野郎か」
『あー、あんたにゃそう言われたこともあったけなあ』
「ところで、君は私と語り合えるのかね?」
『出来る訳ねえだろ。でも、話したそうなヤツはいるぜ』
 そこには、バージェスにもっと色々質問しようと思って、聞きそびれたゆながぽつんと立っていた。
「うむ、好奇心のあるのは良い事だ。この恐竜自然公園及び博物館は、以前私が地質学教授に案内された場所によく似ている」
 何て、うらやましい! 俺もカナダでそこ言ってから本場のカナディアンウィスキー飲みたいよ!
「む? 今何か妙な‥‥? まあ良い。それでは、私が懇切丁寧に案内してあげよう」
「わあ、ありがとうございます!」


「この、スペシャル・ダイナソーパフェを一つお願いしマス!」
「かしこまりました」
 スイーツの店でラサが、メイド服を来たウィエトレスのリリアに注文したのは、30cm以上あるグラスにどっさりと盛られた果物たっぷりのデカいパフェであった。
「こ、これは二人でも食べきれるかどうかわかりませんね‥‥」
 冷や汗顔のブラッドヒル。
「何だか見たこと無いフルーツがありますネ」
 一方、ラサはこれでもかと盛られた果物を物珍しそうにつついてみる。
「それは、マンゴスチンですね。ああそっちは‥‥」
 懇切丁寧にカットされたトロピカルフルーツについて解説するリリア。一瞬植物型キメラじゃないかと疑ったラサは安心してパフェに挑む。
「おいしいです‥‥でも、ふ、二人で一つのものをいただくのって、何か緊張しますね‥‥」
 その時、ブラッドヒルとラサのスプーンがチーンと音を立てて触れ合った。
「わわっ! す、すみませんラサさんっ!」
 顔を真っ赤にして謝るブラッドヒル。一方ラサは不思議そうな顔で、動揺した様子も無い。
「どうしたんデスか? 変なブラッドヒル殿デスネ!」
(うう、意識し過ぎなのでしょうか‥‥そう言えば、前もそのこういう事があったような‥‥)

「きましたわー」

「!?」
 
 何かものっそ棒読みで耳元で囁かれたブラッドヒルが振り向く。しかしそこには誰もいなかった。
 
 ――いや、ブラッドヒルは気付かなかったが、彼女の背後で囁いたのは、無駄に隠密潜行まで使って気配を消した委員であったのだ。フレンチとイタリアンを梯子した委員はここで食後のコーヒーとデザートを優雅に楽しんでいたのだ。
「お二人とも、お飲み物はいかがですか?」
 テーブルに戻って来たリリアの質問に救われたような顔をして、ブラッドヒルはコーヒーを注文。ラサの方は何故かメニューにあった骨付き肉を注文。
「お、お肉ですか?」
 びっくりするブラッドヒル。だがラサはドヤ顔で。
「別腹はレディの嗜みデース!」
 それは、順番が逆なのでは? と心の中で突っ込みを入れるブラッドヒル。やがて、リリアがデカい漫画肉を運んでくる。
 とはいえ、この漫画肉一見するとほどよくレアに焼かれた骨付きのローストビーフにしか見えず、一見まともそうであった。早速かぶりつくラサ。
「ンー、でりっしゃーす! これって何の肉ホワーイ?」
 上機嫌なラサ。
 だが、ブラッドヒルが何気なく厨房の方向を見ると、そこには黒い笑みを浮かべたリリアが。
「あの‥‥お尋ねしますがこの肉は‥‥?」
 ラサに気付かれないよう小声で尋ねる彼女にリリアはにっこりと笑い。
「勿論、お約束のマンマス骨付き肉(当然キメラ)です」
 慌てて、サラの方を見るブラッドヒル。そこに再び委員からの常識的なツッコミが入った。
「大丈夫ですよ。キメラを食べる依頼なんてしょっちゅうじゃないですか」
 常識なの! CTSでは!
「ご馳走様デシタ! 次はブラッドヒル殿の見たい所も行こうヨ!」
 こうして、二人はまた館内へと繰り出した。


「‥‥幸せ、ですね、これは‥‥ええ‥‥幸せですとも‥‥」
 別にぼっちでも、寂しくなんてない。何か、後ろの人に完全に忘れさられていたとしても悲しくなんて無いですとも。ええ、そうですとも――
 と、そんなことを考えながら委員はいい加減で眠りについてこの空間を脱出しようと試みた。だが、そんな彼女の眠りを妨げるかのように会話が耳に入って来る。

「では、バージェス君の趣味はヨリシロの記憶とはやはり無関係なのですわね?」

「多分ねえ、ほら、キメラの素材を集めていると、やっぱり惑星の生態系には興味が湧いてくるからかなあ」

「何ですか、このきゃっきゃうふふ空間は」
 
 委員は、とりあえず食事に満足して図書室で優雅に読書をしていた委員である。勿論無駄な隠密潜行は継続。気付かれる心配はないが、目の前の光景はなんというか、アレだ。

 つまりバージェスとミリハナクの体勢が問題なのだ。
 何しろこの二名、図書室に併設された、育児室の絨毯でゴロゴロしているのだが、その様子と言うのが割とラフな格好をしてうつ伏せになっているお姉さまの背中を暑いのか白衣を脱いだショタがソファー代わりにしているという光景である。
 ちなみに自分としては、目の保養にはいいとして、どっちを羨んで、お前そこ替われ! というべきか断言しかねる光景である。
 どうやら、散々施設を散策してお疲れのようらしい。二人とも施設内から持って来たのか小型のアロマノカリスやら、竜型キメラを愛でている。

 うーんと、色っぽく体を捻じるミリハナク。だがそれに反応したのはバージェスではなく、委員であった。

(くっ‥‥この胸も、この胸も――! ギリリッ!)
 
 折角、ランチの後は机で昼寝に興じようと思っていた委員だが、このミリハナクの胸に怒りを抱き、結局寝そびれてしまう。どうやら、ディナーも味わわなければこの空間からは脱出できそうも無い。委員は腹ごなしをしようと再び施設の中に踏み出した。


「ハァーハッハッハッ! さあ人間共! この俺の威容を眼に焼き付けるが良い!!」
 今も昔も恐竜の代表格。T−REXの骨格標本の前では、同サイズのキメラの他に着ぐるみを着込んだシェアト(gz0325)が高笑いしていた。

「よくできてるなぁ‥‥本物みたいだ」
「むむッ!?」
 驚愕のスーパーバグア。
 ――それは一瞬の出来事であった。ラサが感心したように呟くと、いきなり着ぐるみの口の中に顔を出したシェアトの鼻をつまんだりしたのだ。
「ホラ、まるで本物みたいな感触ですよ、ブラッドヒル殿!」
 つまんだ鼻をひっぱったりしてみるラサ。
「そ――それは本物です! ラサさ――んっ!」
 スッパーン、という小気味の良い音がしてラサの頭がカクカク揺れた。
「え‥‥わ、私は今何を‥‥?」
 何よりも面食らったのはブラッドヒル自身であった。どういうわけか、彼女はいつの間にかハリセンを握っており、それでラサに突っ込みを入れてしまったらしい。
 ちなみに、彼女がシェアトを知っていたのは、軟禁生活中に報道された【AS】作戦の推移についての情報や、軍の記録からであった。
「す、すみません! 私‥‥」
 慌ててラサに声をかけるブラッドヒル。だが、振り向いたラサは、ニッコリ笑う。
「ナイスツッコミデス!」
「あは、あはははは‥‥」
 最早ひきつった笑いを浮かべるブラッドヒルであった。

「わぁ! 凄い! 写真に写っても良いですか?」
「なにぃっ!?」
 そこにやって来たゆなが、カメラを差し出してシェアトに声をかける。
「小僧! 貴様のような脆弱な地球人如きが、この輝けるスーパーバグアと共に映像記録を残そうというのか! 何という身の程知らずだ!!」
 鼻をつままれた八つ当たりか、居丈高な態度で143cmの小学生男子を威圧する身長188cmのイケメン。
「ご、ごめんなさい‥‥許可が貰えないなら、諦めます」
 とっても残念そうなゆな。泣かした。あー泣かした。と思いきや――
「勿論、特別に許可して大歓迎してやろう! ハァーハッハッハッ!!」
 非常に矛盾した表現で大笑いするシェアト。
「うれしかったのですねわかります」
 気が付けばそこには生暖かい笑みのリリアが微笑んでいた。
「全く‥‥仕方の無い人たちですね。良いでしょう。私も参加してあげましょう」
 実に自然に、ポーズをとるリリア。
「引っ込んでいろ! この人間は『俺様』と記念撮影をしたいと言ったのだ!」
「あらあら‥‥この方はあなたと違って慎みというものを知っているのです。‥‥本当は『私』と記念撮影をしたいのですよね?」
 そう言って、ゆなに微笑むリリア。
「ふえ‥‥」
 今にも泣きそうになるゆな。リリアは表情こそ穏やかだったものの、何故か黒い‥‥いやどっちかというと必死な雰囲気を漂わせている。
「当然、ゼオン・ジハイドの8番である俺様とだな!?」
「北米大陸の統治者たるこの私ですよね?」
 怯えて後ずさるゆなに迫りまくる二人のバグア!

「やれやれ、形だけ真似をしても、知識は身に付かん」

「む!?」
「‥‥貴方は」
 UNKNOWNはそう言うとリリアを一瞥して、やれやれと首を振って嘆息する。
「まずは、このスーツ(バニースーツ)に着替えたまえ」
 そう言って、UNKOWNは、かなり本格的なバニーガール衣装を何処からともなく取り出す。
「これで、人前で話す度胸を身に着けたまえ。なあ、シェアトもそう思うだろう?」
 真面目で真摯な声と表情で、次々と適当な理由を言い募るUNKNOWN。
 目を丸くして、ぢっとバニーコスを凝視するリリアその顔からは表情と言うものが消えていた。
 と、その口元が釣り上がり、いかにもリリア――といいうよりはバグアらしい邪悪な笑みを浮かべる。続いて、何故か目配せをするリリアとシェアト。
「わかりました。喜んで身に着けましょう‥‥ただし、貴方にも着ていただきます。シェアト」
「俺様に命令するな! 合点承知だハァーハッハッハッハッ!!」
「む‥‥!?」
 今度はUNKNOWNが驚愕する番だった。明らかに本気を出したとしか思えない速度でシェアトが不明をがっちり押さえつける。
「さあ‥‥それでは、コレを」
ニコニコと背後にバラの花でも咲いていそうな微笑みを浮かべつつリリアが、シェアトに手渡したもの。それは、その手の人が狂喜乱舞しそうなブーメラン・ビキニと、バニー耳がついたカチューシャだった。

――が、やはりこのUNKNOWNは只者では無かった。驚愕していたのは一瞬。即座に普段の優雅さを取戻し、微笑して不敵に言い放つ。

「望むところだ」

 これを耳にしたスーパーバグアは対抗心を燃やす。
「ハァーハッハッハッハッハッ! 良かろう! 俺様の美貌に驚愕しろ!」

 事もあろうに、ここで脱いでバニーになろうとするシェアトをリリアとUNKNOWNは二人で制止する。今度は、シェアトがUNKNOWNに引きずられていく。
「あ、あの‥‥やっぱり、写真はいいですっ!」
 ゆなは、本能で感じたのだ。これ以上この場にいてはわが身が危険だと――!
 礼儀正しく、一礼して去ろうとするゆな。――しかし

「お待ちなさい」
「あっ!?」
 
 逃げようとするゆなの肩に、リリアが背後から手を置いた。
「騒ぎを起こしておいて、自分だけ逃げるおつもりですか? それはないでしょう」
 優しく――とっても優しく頬笑むリリア。
「ぼ、僕は何もしていませんっ‥‥は、放してくださいっ」
 必死にゆなは抵抗するが、無駄にバグアパワー全開のリリアを振り解くことは叶わない。それはそうと、客観的に見て騒いでいたのはバグア二名と黒い服の紳士だけであって、この可愛らしい16歳男子に何の責任も無いのは明らかであろう。
「怖がることはありません。皆で楽しい記念撮影をしましょう」
 見る者を震え上がらせるような光を宿した目でゆなを見るリリア。
「そうそう‥‥私のことを、お姉さまと呼んでもみても良いのですよ? ウフフ‥‥」
 そう言うリリアの手には、やはり何故か小学生用のスクール水着(旧タイプ)とウサ耳が‥‥
「ああっ‥‥誰か、誰かあ!」
 恐怖に慄くゆな。だが、その犯罪一歩手前の光景を制止する者が現れた。

「お待ちなさいキリッ」

「あら、あなたは‥‥」
 
 驚くリリア。彼女を制止したのはバージェスと共に戻って来たミリハナクだった。彼女もまた、リリアを討伐した一人である。

「可愛い男の子に無理やりそんな恰好をさせようとするなんて、変態としか思えませんわね。そんな事だから不覚を取るのですわ」

「お、お姉さん‥‥」
 救われた思いでミリハナクを見上げるゆな。
 
 ――だが、ゆなはミリハナクが手に持っているものに気付いて恐怖を感じる。

「例え男の子でも、『きちんとした』バニーの格好をさせるべきですわキリッッッ」

 ――「なんだか、面白そうデスネ! 私たちも参加しまショウ! 呉越同舟デス!」

 ――「どっちかと言えば、毒を食らわば皿まで、ではないでしょうか‥‥」

 何故か、ゆなに気付かず更衣室へ向かうラサとブラッドヒル。その手にはやはりバニーコス‥‥

 その光景に、自分が決して逃れられぬ事を知ったゆなを後ろから、バージェスがいきなり抱きすくめた。
「リリア閣下。やはり男の子の着替えは男の子同士でキリッ ‥‥あはぁ、じゃあ僕と遊ぼうよお♪」
 そう言うとバージェスは、ゆなの耳にふっと息を吹きかけた。
「ああ‥‥いやっ」
 ゆなは抵抗も出来ず更衣室に連れ去られる。その光景を満足げに眺めていたリリア。ここでいきなり、物陰に声をかけた。

「さあ、それでは私たちも更衣室に参りましょうか? ‥‥委員さん。ウフフフフ‥‥」

 委員の隠密潜行も。リリアには通用しなかった。かくして委員もリリアに更衣室へ引きずられていった。

――「何しやがる! てめぇ! 俺は関係無いぞ! は、放せっ!」
気が付けば男子更衣室の方でも、近くに居た霊烏路空(gc8852)がシェアトに拉致されている。

――「遠慮は無用だ! ハァーハッハッ!」
 抵抗空しく彼も更衣室に引きずり込まれていった。

 数分後――T−REXの骨格の前で、記念撮影に興じる複数の男女が確認された。一体何が起きたのか、彼らは年齢や男女の区別なくバニーコスだったという――

「楽しかっタ また遊ぼう、ブラッドヒル殿! それに皆!」
 撮影が終わった後、満面の笑みで言うラサ。彼女への反応は、人それぞれであったという。