タイトル:【福音】Scarlet Dancerマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/09 15:13

●オープニング本文


 先の大型封鎖衛星の攻略で、UPCに亡命した異星人『バーデミュナス人』の『ミィブ』と、その亡命を手助けした『声』の主である『クリューニス』は、UPC宇宙軍中央艦隊に、バグア本星艦隊について様々な情報をもたらした。
 これに基づき、中央艦隊は敵の拠点の一つである『低軌道ステーション』に、総力を挙げた牽制と威力偵察を仕掛けた。
 ステーションへはヴァルトラウテとフラガラッハが接近、ステーションを守るバグア巡洋艦一隻と交戦しつつ、ステーションの調査と冷凍睡眠中のバーデミュナス人の確保を図る。
 ステーションへ向かったヴァルトラウテらを追撃しようとする二隻のバグア巡洋艦の後退を阻止する任に着くのはメギドフレイムとソードオブミカエルだ。
 これらの艦を除く、アスカロン、ネイリング、ハルパー、カドゥケウス、アガナベレアの五隻が、同じく五隻のバグア巡洋艦と、ステーション近縁の大宇宙で砲撃戦を繰り広げている事になる。
 この作戦においてバーデュミナス人の救出は主目標でこそないものの、この目的については相当数の傭兵が投入される。


 さて、宇宙は広い。当然戦域も拡大する。新造艦であるアスカロンは現在、一隻の巡洋艦と散発的に砲撃戦を繰り広げながら、戦場の一角にある暗礁空域を航行していた。既に両軍の巡洋艦及び、それに付随する各種艦艇は、あらかた艦載機を出撃させ終えている。
「やれやれ‥‥こうお互いに散開してしまうと、優秀な僕でも味方の位置を把握するのが困難だよ」
 アスカロン艦長ハリー・デイビスは、愛用の櫛でぴしっと髪型を決め、面倒そうにぼやいた。
「副長、ビビアン中佐たちからまだ連絡はないのかね?」
 自身の艦がある種の膠着状態にあるせいか、どこか緊張感を欠いた様子でハリーは副長に尋ねる。
 ネイリングからは、現在至近距離で巡洋艦と殴り合っているという報告が届いたばかりだ。一方、現在この艦の周囲にいるのは、六機のフィーニクスと、それらの監視役と思しき一機のタロスだけ。
 突然、暗礁空の中から緋色の閃光が飛び出した。紛れも無く、本作戦の二次目標であるフィーニクスだ。それが、全く減速する様子も無く、アスカロンとその周囲を警戒するラインガーダーの方に突っ込んで来るのだ。
「ど、どういうことだね! 彼らは投降するのではなかったのか!」
 狼狽えるハリーの叫びもむなしく、相手は瞬く間に艦の間近まで迫ると人型に変形してビーム砲を構える。
 周囲のラインガーダーが必死の迎撃を行う。だが、相手はその全ての攻撃を、舞うように――まるで踊るように優雅な動きで全て躱すとビームを発射した。
 だが、ビームは綺麗に艦隊を外して飛び去って行く。慌てふためくクルーに、突如あの『声』が語りかけた。

――おどかして ごめんなさい ぼく 082 これから とぅしぇくのいうこと つたえる

――ばぐあが みはっているから ちゃんと たたかわないとばれちゃう

――だから たたかっているふりをして だましているあいだに 

――ほかのみんなの ばくだん を とってといっている 

――じぶんの ばくだんは さいごでいいと いっている

――すごいはやさで うちあったり ぶつかったるするけど こわさないようにする

――じぶんには それができるから しんぱいするなといっている

――にんげんの せんしと おどりたいって
 
 ハリーはクリューニスに問い質した。
「つ、つまりあのフィーニクスは、自分たちに戦意があるように偽装したいと希望しているのかね‥‥?」

――ごめん  あなたのいうこと むずかしい わからない ぎ、ぎ、ぎ‥‥? わからない とぅしぇくに うまく つたえられない
 
 ハリーは頭を抱えてしまった。
「と、とにかく輸送艦から傭兵を出撃させたまえ。フィーニクスの件は彼らの役目だ」

●首輪を引く者たち
『グジュル‥‥イルカ共の動きが鈍いゾゾゾ』
 本星型のHWに乗る、昆虫の口に両生類の体表を持つドブナレドクは口吻に当たる器官を動かした。
 彼はアスカロンのいる戦域から離れた所で、各部隊の監視役のバグアと常に連絡を取りあっている。先述したアスカロンの周囲のフィーニクスを督戦するタロスの操縦者も、彼と連絡を取りあっている人員の一人だ。
『無理もねえ! この前、仲間がやられちまったからな!』
 タロスに乗ったUPC軍曹のヨリシロ、クラックソンが言う。彼が六機の監視役だ。
『いや、今までの戦いでは死人が出ても怖気づくイルカはいなかった。連中、何か企んでいるのカカカ』
 言い返すドブナドレク。
『心配過ぎだ! いざとなったら爆弾で吹き飛ばせばすむさ!』
 軍曹は、同僚の懸念を一笑に付した。
『ジュル‥‥とにかく報告しておく』

 両生類型バグアから連絡を受けたつグラッブグローラーの通称を持つ芋虫のようなバグアは、突き出した受光器を明滅させた。
『‥‥ヤハリ、例ノミィブトイウ個体ノ撃墜ガ、不確定要素ヲ呼ビ込ンデイル』
 突如、本星艦隊第三艦隊の駐留する低軌道ステーションに鳴り響いたスクランブル。それは、人類が、この拠点の存在を把握した証拠に他ならない。
 巡洋艦同士の性能の優位以上にバグアを有利ならしめていた要素の多くが脅かされているのだ。
『慎重ですな。やはり侵略班の方は目の付け所が違う、という事ですかな?』
 嫌味とも称賛ともとれる口調である巡洋艦の副長が言う。だが芋虫はこれを黙殺した。
『各督戦要員ハフィーニクスノ挙動ヲ注意深ク監視セヨ』
 自分の指揮下にある有人機に指示を出す芋虫。
『ソレト、私モワームデ出ルカモシレマセン』
 芋虫の言葉に副長はおやおや、という仕草をした。

●追憶
 先程、アスカロンに肉薄した機体の操縦者であるバーデュミナス人、トゥシェクはじっと前方に展開するKVを見つめていた。つい先日までグラッブグローラーが寄生することで半ば隠されていたその顔には、彼の戦歴を示すように無数の古い傷跡が刻まれている。
 バーデュミナス人であるトゥシェクはこの星の住人と積極的に戦うなというクリューニスの声を無視し続けていた。
 彼の配備される戦域は常に激戦区。手加減する余裕は無かった。この星だけではない。バグアによって戦闘に駆り出された全ての戦場で彼は最前線に立ち続け、結果として多くの種族の血を流して来た。
 だが、解放の機会は唐突に訪れた。
『半身』を、出撃直前に『奪われた』ミィブはトゥシェクと同じ悲劇を味わっても諦めなかった。ミィブは半身を奪われた悲しみを乗り越えて、同胞の為に命を賭けて血路を切り開いたのだ。
『私は、どう釈明しようと自らの怒りを戦闘にぶつけて来ただけだった。やれやれ‥‥情けないものだ。なあ、クァシェク、082よ』

――‥‥
 
 082は悲しそうな思考を返すだけだ。
『その負債を払う時が来たようだな』
 トゥシェクは静かに呟くと、監視役を警戒させないよう戦闘機動を維持しながら傭兵の返答を待った。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD

●リプレイ本文

「宇宙人とはいえ敵対心がないなら助けたいしね。依頼、頑張って成功させないとにゃ」
 西村・千佳(ga4714)がピュアホワイトのロータスクィーンを起動する。視界の悪い暗礁空域の中でも、タロスの発する重力制御の痕跡は補足された。

 タロスの方は暗礁空域の中にいるせいで自分たちバグアだけが、一方的にKVの位置を把握していると思い込んでいた。
 千佳が捕えたタロス及びその周囲の宙域の地形、この場合は浮遊物の分布図は即座に味方に転送される。
 
 数秒後、隕石の陰から砕牙 九郎(ga7366)と 鳳覚羅(gb3095)の機体が同時に突貫。まず九郎の機体が弾幕を形成。九郎の火線と直交させる形で鳳もミサイルを撃ちまくる。
『うぉっ!? 何だぁ!?』
 突然の奇襲。だがタロスもフェザー砲でミサイルを迎撃しつつ回避。接近して来た二機を追斧槍で迎え撃つ。
 しかし、九郎は綺麗なヒットアンドウェイで離脱。鳳は螺旋機動で敵をすり抜け、すれ違い様にアサルトライフルを撃ち込んで、再び距離を取る。
「まずはこれを倒さないとにゃ! 邪魔者はさっさと消えるといいにゃ! 君と遊んでる時間は惜しいのにゃー!」
 だが、一時的に弾幕を逃れたタロスを千佳の粒子砲の連射が襲う。
『クソォ!』
 肩や足にダメージを受けたタロスは、プロトン砲を千佳機に撃ちまくる。千佳は一旦後退。

 その隙にタロスはフィーニクスと合流して体勢を立て直そうとするが――
「あなたに時間を掛けている暇は無い」
 タロスの前に、フィーニクスとの間を分断するようにアンジェリナ・ルヴァン(ga6940)のタマモが立ちはだかった。
 マニューバを起動してとにかく錬剣攻め立てるアンジェリナ。タロスも斧槍で応戦。完全な一対一ならヨリシロにも分があったが、千佳や九郎、鳳の攻撃で損傷を受けているせいか押され気味となる。
『オラァ、オラ!』
 それでも一旦はアンジェリナ機を引き剥がしたクラックソンは必死に叫ぶ
『なぁにやってんだよ! 俺がピンチじゃねえか、とっとと――!』
 だが、思わず自爆装置に手を伸ばしたクラックソンは思い留まる。フィーニクス隊も彼に劣らず苦戦を強いられているように、『彼の目には映った』からだ。


 フィーニクス隊は、傭兵たちによって手際よく誘導されていた。
「赤の機体‥‥バグアとは違う技術の機体は、舐めてはかかれないが、今回は戦闘ではなく救出‥‥出来る限りのことはしてみせよう」
 ヘイル(gc4085)は呟くと、自機タマモのミサイルを準備した。
「トゥシェク以外はミサイルを撃った機体の方に来るように伝えてくれ。お互い攻撃は当て過ぎない様にな。すぐこちらの仲間が来る。なるべく派手に撃ちあおう」

 ――ばくだんをうった人のほうへこいって あてないように おたがいにいっぱいこうげき はではで

 082の通訳に従うフィーニクス。
 アルヴァイム(ga5051)とヘイルの機体がコンテナミサイルを一斉発射した。発射されたミサイルが炸裂し、フィーニクス部隊の指揮官であるトゥシェクの機体と他の機体が分断されていくのが、クラックソンにも見える。
 
 トゥシェク機にはドクター・ウェスト(ga0241) と鷹代 由稀(ga1601)の二機が抑えに回っていた。
 
 これによってクラックソンは欺かれた。
『しょ、しょうがねえな‥‥俺だけでやるしかねえか‥‥!』
 改めて構えるタロス。そこにアンジェリナの機体が迫る。
「あまり長引くと偽装がバレかねないからね‥‥早々にこの舞台から退場してもらおうか‥‥」
 タロスに、アンジェリナを援護する鳳のアサルトライフルが次々に着弾した。
 怯んだワームの隙をついて、アンジェリナが一気に攻めた。レーヴァテインが振るわれ、ブースターで加速した刀身がタロスの胴に吸い込まれる。
「そして、時間をかけるつもりも無い」
 タロスは何とか斧槍でこれを弾こうとするが――再びブースターが火を噴き切っ先の軌道が強引に変えられた。
『なんだとぉぉぉぉ!』
 それが、胴体を真っ二つにされたタロスの、操縦者の断末魔だった。


『クラックソン!?』
 遠距離からクラックソン他複数の督戦官を見張っていたドブナドレクは口吻を騒がしく動かした。
『奴の隊のフィーニクスは‥‥全機健在だトトト!!』
 彼はバーデュミナス人に猜疑心を抱いた。その時、クラックソンが落とされた戦域で凄まじい砲火が走った。九郎の要請を受けたハリーがしぶしぶ、艦砲射撃による贅沢な偽装を行ったのだ。
『功を焦って艦に近づき過ぎたナナナ』
 遠目には、フィーニクスを狙ったとしか思えない砲火にバグアは猜疑心を納めた。一応確認するが、分断されているだけで不自然な感じはないように見えた。
『ジュル‥‥さて、イルカ共は何匹のこる?』
 ドブナドレクは静観を決め込むと、本星型HWを加速させた。彼の担当するフィーニクスは他の戦域にもいる。
 そちらの様子を伺うことも必要だ。裏切っていないのなら自爆装置がある以上家畜としての数が減らないよう健闘をいのるくらいだった。


「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
 トゥシェクが聴いたのは聞き覚えのある地球人の音声だ。クリューニスの通訳が、名乗りであることを伝える。
『以前交戦した戦士か。機体にも見覚えがある』

 ――とぅしぇくは あなたのこと おぼえている といっている
 
 今度はウェストがトゥシェクの返答の通訳を受けた。
「アノ時の吾輩とは違うぞ〜!」
 ドクターの天が、ドレスAで装甲をトゥシェクの方に弾き飛ばす。バラバラの装甲の砕片が空気抵抗の無い宇宙で散弾のように、飛来する。
 フィーニクスが素早く反応した。翼を広げてドクターの方へ突進する。装甲の散弾が機体に衝突するが、装甲片は全て機体を素通りする。破片が当たる度に機体が霞のように揺らいだ。同時に別の方向から、フィーニクスの固定ビーム砲が放たれる。
 しかし、ビームが貫いたのはドレスBで弾き飛ばされた天の装甲だった。今度はフィーニクスが天のミサイルを浴びる。
『ふむ‥‥本気で来るか! 昂ぶるぞ、戦士の一族!』
 ミサイルを回避、迎撃しつつ、トゥシェクは嬉しそうに歯を剥き出して嗤う。その様子はイルカというよりむしろシャチを思わせた。
 
 高速で旋回しながら一旦後退したトゥシェクの機体に今度は由稀のコロナが向かう。
「まさか、命がけの茶番を二度もやることになるとはね‥‥ま、やってやろうじゃない」
 コロナの推進機関が美しい光りを放つ。由稀が近距離ミサイルを放った。トゥシェクは、フィーニクスを変形させると、その爆風を振り切るように暗礁空域を可能な限りの速度で飛び回る。
 それに合わせて由稀もコロナを変形させ、トゥシェクを追う。
「センサーと‥‥あとは私の直観が頼りか‥‥」
 由稀もセンサーと操縦技能の粋を凝らして、高速移動に合わせる。隕石群の中を、二つの光跡が駆け抜けた。


「管制は僕の方でするから皆はそっちに集中してにゃ。さて、元役者だから演技はお手の物‥‥と言いたいところだけど、どうなるかにゃ」
 そう言った千佳の額には汗が浮かんでいた。この作戦はこれからが本番なのだ。
 千佳は、丁寧に救出作業の部隊となるであろう暗礁空域の簡易マップを作成し、次々に味方へと送信。周囲の『敵』はとりあえず撃破され、万が一に備えウェストも(偽装)戦闘の合間にオラクルフレームで周囲を探ってくれている。千佳はとにかく作業を急ぐ。

 ――とぅしぇくと たたかってるひとがいっている みんなは もっといしがいっぱいあるほうへ あつまってほしいって

 082が由稀の、自爆装置の破壊は障害物の多い所でやるので、戦いながら移動して欲しいという要請を予め伝えた。
 続いて九郎が自身の武器と、散発的なアスカロンの砲火で戦闘を演出。
 更に鳳は、傭兵が応戦しつつフィーニクスの機動性に翻弄され、岩石がより密集している一帯に追い込まれているような動きを全体に提案。
 アルヴァイムが、双方の相対位置を千佳に伝え細かい動きを調整する。
 こうして、五機のKVと五機のフィーニクスは作業に最適な位置へと、怪しまれずに移動していく。
「よし、いい子だ‥‥こちらの意図察してくれたようだね」
 鳳は満足そうに呟いた。
 無論、トゥシェク以外の五機は隊長の様に完全に監視の目を欺くような動きは不可能であり、もし監視役がもう少し注意していたら、看破される危険もあった。
 だが、そこは傭兵側の工夫と、トゥシェクと二機のKVの派手な立ち回りで相殺されていた。
 それでも、ヘイルは万全を期すためにクリューニスを通じて呼びかける。
「これからミサイルを派手に撃つ。そしたら仲間が突っ込むから、タイミングを合わせて爆弾を取ってもらうように君の仲間に伝えてくれ」
 歩槍による牽制射撃を偽装しつつ、バーデュミナス人からの返答を待つヘイル。

 ――ばくだん いっぱい どかーんのあと ちきゅーのひと まっしぐら ばくだんとりにいく

 082にそう伝えられた彼らは、やってくれと頼んで来た。ヘイルはフィーニクスへのロックを最小限に留めた上でK―02と管狐を射出する。殆どが付近の岩石に着弾して、爆炎が宇宙を照らす。
 
 その隙に、他のKVは一斉に人型に変形。各自フィーニクスへと向かった。予め、アルヴァイムが位置を目視で確認していたので作業はスムーズに進んだ。
「動くなとは言わない。それでもすぐに、終わらせる」
 素っ気なく言いつつアンジェリナは手近なフィーニクスに接近。メアリオンで、予め判明している自爆装置を素早く切り取った。
 
 鳳も、アンジェリナとほぼ同時に錬機槍で装置だけを貫き切除した。

 ――この ふぃーにくす のひと がありがとうといってる
 
 082が、鳳に助けられたパイロットの感謝を伝えた。
「バグアの情報に異星の技術‥‥それが得られるならこれぐらいの事、安い買い物だね」
 冷静に呟く鳳。最もある意味では照れ隠しなのかもしれない。
 
 九郎は、一応格闘しているようにみせかけつつ上手く相手に組み付き、ビームコーティングナイフで装置を無力化した。
 それだけでなく、相手を隕石に押し付け、その岩石にミサイルを当てて撃墜を偽装する

 ――もっと やさしくしてー といってる

「我慢してくれって、伝えてくれよ! えーと、082だから‥‥ハツ!」

 ――はつ? な ま え ぼくがはつ‥‥はつ がんばる 

 直撃は避けたとはいえ、フィーニクスのダメージも大きかったがその甲斐はあった。
 監視の目は再び欺かれた。

「あの機体の操縦者に伝えて下さい。『とっくみあいをしながらきりとるからきてね』と」
 普段のアルヴァイムからすればシュールな言葉ではあったが、クリューニスに配慮したおかげで意思の伝達は迅速に行われた。
 アルヴァイムは組み付いて来た機体の切除を完了させる。
 トゥシェクを除けば、最後に救助を行う事になったのは、ミサイルを発射したヘイルであった。彼は万全を期して、障害物の陰でナイフを使ってフィーニクスの装置を切り取った。


「死んで責任逃れなどさせるか〜! 贖罪はバグアを滅ぼしてからやりたまえ〜!」
 ウェストの天がバニシングナックルで、フィーニクスを殴打する。狙いは相手の高速推進装置。
 だが、フィーニクスも棒立ちで受ける訳にはいかない。機拳と装甲が火花を散らすギリギリで赤い機体は攻撃を回避した。推進装置は辛うじて破壊を免れる。その時、管制の千佳が叫んだ。

「こちら、管制の西村、何とか五機の作業完了を確認したにゃ!」

 ――とぅしぇく とまって!

 誰よりも早く082が呼びかけた。
『いや、まだのようだ』
 トゥシェクは簡潔に答える。気が付けば、例の本星型が再びこちらに近づいていた。交戦に適した距離ではないがこちらに注目し始めているのは明らかだった。
『戦士の一族よ、私も安易に逃げようとは思わない。だが――』
 トゥシェクの言葉はウェストに向けられたもの。

 ――‥‥とぅしえくは もうすこし といっている

 ――いま ばくだんをこわしたら 017‥‥おひなとみぃぶのあいずのまえに ばぐあにわかっちゃうから

 トゥシェクのいう事は事実だった。仮に彼の爆弾の切除に成功したとしても、この状況下ではバグアに気付かれる。そうなれば最悪、他の戦域のフィーニクスが一斉に自爆させられるのだ。
 ウェストは舌打ちしつつ、周囲の岩石に火器を撃ちまくる。
「だから大人しく高速推進装置を破壊させれば‥‥ええい、我輩はバグアとして戦ってきた君達が嫌いだ〜!」
 飛行形態に変形したフィーニクスは、その爆炎の中を飛翔する。管制の西村によれば、ごく短い時間だったはずだが、長く感じられる時間が過ぎ――

 ――みんなー いまなのー!

 おひなとミィブが『合図』を出した。

「死なせるかっての‥‥自分は最後でいいとか‥‥!」
 コロナのレーザーライフルを構え、歯噛みする由稀。この状況下では、接近しての切除は危ない。だが、狙撃なら可能性がある。
 フィーニクスの進路上には避けるしかない大きな岩が浮いていた。慣性制御を持たない機体なら――
「死にたがりにしか見えないのよ、アンタは」
 フィーニクスが衝突直前で急制動をかけた隙をついて、由稀が狙撃。切除し切れなかった装置が起動し小爆発を起こすも、一部が吹き飛んだ状態では機体を破壊するまでに至らなかった。

 合図に合わせて、全ての戦域でフィーニクスの救助が同時に行われたが、その全てが成功した訳では無かった。
 フィーニクスの動きが不自然過ぎて救助が発覚して自爆させられた機体。人類側の切除作業が失敗して爆発した機体が、作戦開始と同時に幾つかあった。
 更に、時間が経過して救助作業そのものが本星艦隊に看破された時点でもまだ作業が完了しておらず、起爆させられた機体もある。
 だが、アスカロンが担当した戦域では、損傷具合に差はあれ、無事全てのフィーニクスが回収された。
「動けない機体があれば言ってくれ。俺達で運ぼう」
 撤収が始まると、ヘイルはそう言って偽装攻撃で推進機関を破壊されたフィーニクスを支える。
「なんとかなってよかったにゃ。まずは一安心かにゃ?」
 千佳もコックピットでほっと息をついた。


 輸送艦に入ったフィーニクスからトゥシェクが降りて来た。その彼にウェストが声をかける。
「‥‥我輩は、さっきも言ったように君達が嫌いだ。だがバグアを滅ぼすまでは仲間と認めよう〜」

 ――とぅしぇくは すまない ありがとうといってる

 ハツが通訳する。

 ――とぅしぇくは あなたにも おせわになったといってる
 
 そう伝えられた由稀は一服しながら微笑んだ
「お互い名乗っちゃってる以上、放っておくわけにもいかないしね」
 トゥシェクは通じないと解っていながら、集まって来た八人の傭兵全てに触手でジェスチャーを行った。
 それは、深い感謝であった。