タイトル:【流星】Shooting Starマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/25 09:43

●オープニング本文


 少年の大好きなパパは、彼の頭を優しく撫でて出征して行った。
 数か月後、家に届いたのは父親は宇宙の作戦行動中に、KVごと戦闘中行方不明、つまりMIAになったという短い報告書だけであった。
 まだ十歳にもならないその少年には難しい事は何も解らなかった。ただパパが『しんだ』のでは無いことは理解できた。ママが泣きながら、死んだも同然だというのはほとんど耳に入らなかった。
――どこにいるのかわからないなら、いきているにきまってる!
 そのように少年は事態を受け止めた。そして、いつしか少年は毎日夜になると星を何時間も眺めるようになった。大好きだったテレビも、ゲームもせずただ、何時間も。
 何時間も。
 最初は流れ星にパパの帰りをお願いするつもりだった。だが、子供向けの本の影響なのか、少年はいつしか信じるようになる。パパはKVで『たいきけんとつにゅう』して帰って来ると。流れ星が見えたらそれがパパなのだと。そして少年は赤い流星を見た。


 マルスラン=ギマールは、所謂日陰者のバグアだ。
 彼の現在のヨリシロはどこで間違えたのか平凡に過ぎた。ビデオゲームを趣味とするだけの、地球人であるという事だけが特徴のヨリシロ。自然、前線に出して貰える事はなく、補給艦を駆っては上位のバグアの奴隷のように働くだけの日々を送っていた。
 マトモなヨリシロを得る機会もなく、無為に生きるだけ。
 闘争とも、進化とも無縁の現状を斟酌する者は身近には居ない。彼自身も、ただ焦りだけを抱いていたに過ぎない。
 そんな彼が、身に余る野望を抱いたとして誰が責める事が出来るだろうか。

 ――貴方達には目に見える痛みと絶望がまず、必要なんですね、人間。

 マルスランはエアマーニェのその言葉を聞いた時、戦慄を覚えた。
「‥‥俺なら、出来る」
 ヨリシロの知識が囁いていた。

 鬱屈した現状から開放される為に彼は――バグアにとっては禁じ手に近しい方法に手を伸ばした。


    ○

 長い年月を経てなお在る赤い月は、今も見る者の心を冷えさせる。
 ならば、夜天を貫くように落ちる赤い星々は、どうだろうか。
 同色の光輝を曳きながら降る星々は。

 多くの者はその光景の美しさに胸を打たれただろう。
 だが。哨戒していたKVが撃ち落としたそれが、キメラプラントだと解った時。
 そのうちの幾らかの動静が補足出来なかった事が明らかになった時。
 その現実が、牙を剥いた時。

 対峙した者は、何を思うだろうか?


 このプラントは北米の人類側勢力圏にも落下した。もともと人口が少ない地域の山間部に落下した為、正規軍は位置の特定に手間取った。
 おかげでプラントは二度キメラも吐き出した。幸い、二回とも駐屯軍の素早い対応で被害を最小限に抑え民間人にも死者を出さずに済んだが、二度の掃討戦は駐屯軍を疲弊させた。
 それでも、軍は二回目の発生の直後に、プラントの位置を無事特定。更にこれまでの経過から、この次にキメラが発生する日時を算出した。この情報に基づいて、軍は最大戦力でプラントを破壊する作戦を立案した。
 だが、万全の攻撃態勢を整えた時、突発的な事故が起きた。近郊に住む幼い子供が一人行方不明になってしまったのだ。それだけなら、作戦と直接関係は無い筈であった。
 だが母親から話を聞いた士官は、子供はプラントに向かったと判断した。
 そして、現在プラント付近にはキメラがいる様子は無い。となれば無事にプラントまでは辿り着いている可能性が高い。
「どこのバグアの仕業かは知らんが、厄介なことをしてくれた‥‥」
 吐き捨てるのは、北米のとある小基地の報告担士官兼現場指揮官だ。制帽を目深に被り、コートを羽織って白い息を吐く。手元の紙カップは、まだ温かい様だ。
「きっと一旗揚げてやろうという御仁ですよ。私の足元で燻っている、どこかの閑職士官と違って、現状を打破する気概があるだけまあ、マシですね」
 女性の声は、士官の頭上から聞こえた。長距離砲を装備し、数キロ先の森の中心部分を攻撃目標に設定してエンジンを温めているマリアンデール。
 そのコックピットが開いて、中から長い前髪で完全に目を隠した女性の報告官兼KV隊長が這い出てきた。身体に密着したパイロットスーツなので、なかなかスタイルが良いのが解る。
「それは、君も同じだろう? 君ほどの無能にお守りとしてあてがわれた私の身にもなってみたまえ」
 言い返す士官。
「生憎、私は転属願いさえ出せばどこにでも行ける身でして。ただあなたのような給料泥棒を事故に見せかけて暗殺するのが、私のこの基地に対する最後の御奉公ですから」
 士官はその物騒な発言を無視する。
 そして、渋々コーヒーを彼女に渡すと、改めて双眼鏡で森の中心部分――周囲の木々を薙ぎ倒して屹立するマルスランのプラントを観察した。
 まだ冷たい、しかし微かに春の到来を感じさせる風が吹き、サーチライトの前に枯葉を舞わせる。
 光りに照らされたKVは一機では無かった。五機のゼカリアが、それほど大きくない森を包囲し、その足元には戦車や、戦闘指揮車。それに緊張を漲らせた歩兵たちが待機して、森からは鼠一匹、いや、一匹のキメラも逃さないようにしていた。
「しかし、市民を守ってこその軍隊とはいえ、困った子供もいたものだ‥‥あのプラントを、MIAとされた父親の帰還だと思い込んでしまうとは‥‥全く」
 怒り、嘲りさえ感じさせる口調で士官の隣にいた曹長が言う。
「おかしいですか?」
 冷たい声が頭上から降ってきた。声の主は、例の女性士官である。
「た、隊長‥‥」
 おもわずたじろぐ兵。
「まだ家族が自分の小さな世界のほとんど全てを占めている時、その家族がある日突然いなくなって、しかもはっきり死んだとも言われない」
「『死んでいる可能性が高い』なんて言われて納得できますか。宇宙で行方不明になった人間がKVか脱出ポッドで流れ星になって帰ってくる‥‥そんな自分に都合の良いお話にすがりつかないと言えますか?」
 声に抑揚をつけず、機械のように延々としゃべり続ける彼女を、士官は片手を挙げて制した。
 現在の駐屯部隊の戦力では、第三波のキメラは完全に掃討し切れない可能性が高い。それは、結果的に多くの民間人が危険に晒されることを意味する。曹長の怒りも当然なのだ。
「だが‥‥まだ時間はある。最後のチャンスはある筈だ」
 士官がそう言った時、プラントから信号弾が上がった。士官が、自分で全責任を負うと公言して招集した傭兵の一隊がプラントに着いた合図だ。
「各員は現状維持のまま待機。攻撃は私の合図を待て」
 士官はそう指示を出すと、腕時計とまだ暗い空を眺めた。
 

●参加者一覧

アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
クティラ=ゾシーク(gc3347
20歳・♀・CA
ヴァナシェ(gc8002
21歳・♀・DF

●リプレイ本文

●地下埋設区画――動力室。
 そこは、動力室という名前とは裏腹に静寂が支配していた。非常灯らしき薄暗い照明の照らす中、人類のものとは異質な配線や機器が入り組んだ迷路をの3人の傭兵が慎重に進む。
 しかし、いかんせん脇道や小部屋が多く体感的にはまだ入り口近くで手間取っているのに、時間が大分過ぎてしまっていた。
「趣味の悪い場所だわ。ライトをつけなくても良さそうなのは助かるけど」
 神楽 菖蒲(gb8448)は壁の亀裂や床の裂け目の奥にキメラが潜んでいないかを慎重に確かめる。子供の捜索については完全に同行者に一任していた。万が一にも、残存のキメラの奇襲を許さぬためだ。

――この分だと‥‥相当奥に進んでしまっている?
 狐月 銀子(gb2552)の表情は硬い。入り口からここに至るまでキメラとの会敵は無かった。それ自体は児童の保護と言う目的に都合が良い。しかし、別の言い方をすればこの複雑な迷路の奥にまで子供が迷い込んでいる可能性が高いのだ。
 銀子は同道の二名に更に奥へ進むことを提案した。銀子の提案を受けたエイミー・ H・メイヤー(gb5994) はあることに気付いた。それは彼女が丁寧なマッピングと、出口方向への目印を忘れなかったからであろう。
「先輩、銀子嬢、この地下区画‥‥同心円状になってるみたいだよ」
 手元の簡易な地図を見せるエイミー。一行の方針は決まった。
「この構造なら、もしこの階にいるなら渦の中心から、逆に探した方が効率がいいね。さて、あたしらの仕事に出発。ってね」
 微かに希望が見えて来たことで、気合を入れ直す銀子。
「さ、助けるんでしょ?」
 
――意思は態度をもって示すのみ。菖蒲はそれまでにも増してキメラを警戒する。
「‥‥今助けに行くから」
 エイミーは小さく呟く。三人は地下区画の中心を目指して急いだ。

●プラント最上層――管理区画
 ヤナギ・エリューナク(gb5107) と鐘依 透(ga6282)の2名は大きな自動ドアの前に立っていた。内部はバグアの施設故、人間の施設とは異質ではあったが大きさからしてここが中央管制室らしきことは二人にも解る。
「ここが、コントロールルームみたいですね」
 透はそう言うと、ここに来るまでの小部屋でそうしてきたようにシグナルミラーで慎重に中の様子を伺う。しかし、広めの室内に動く者はいないようであった。
「事前情報通り、ここの階が施設全体を管制しているンなら、監視カメラとモニターがあってもおかしくねェンだが‥‥ビンゴ!」
 室内に踏み込んだヤナギが声を上げた。部屋の中には、人間用に近いサイズの椅子が並び施設内の各所を移したモニターが整然と並んでいた。
 二人は、両端から手分けして映像をチェックしていく。
「‥‥いませんね」
 数分後、透がため息をついた。期待していた設備を見つけたは良かったが問題も多かった。当然だが、操作方法がまるで分らない。
 おまけに、カメラは重要な場所に限って設置されているらしく、幾ら映像を眺めても、切り替わらない。そして、映像の中に彼らにとって重要なものである少年の姿は発見できなかった。
「さて‥‥次はどうしたモンかね‥‥オイ、なンだコイツ!」
 嘆息しながら、モニターを眺めていたヤナギが叫んだ。それは、施設の外壁を監視している画像だった。
 プラントの無機質な外壁に触れている暗い木々と下草がざわめき、なにかぬめったように光るものが、その下を蠢いている。
 ムカデだった。勿論その大きさからしてキメラなのは間違いない。よく見ると、体表が傷つき、体液を垂れ流しているのが辛うじて映像越しでも確認できる。
 そいつは、しばらく施設の壁面を這いまわっていたが、やがて適当な隙間を見つけ、施設の中に潜り込んでいく。
 ヤナギと透は咄嗟に無線機のスイッチをいれた。

●プラント地上層――培養区画
 アルヴァイム(ga5051)は透とヤナギの通信を受けた時、通路の曲がり角で、ミラーを使い聞き耳を立てて、警戒している最中であった。
「‥‥厄介な事になったようですね」
 アルヴァイムは通信機で、この階を手分けして捜索している二人の女性にも注意を呼びかける。
 透とヤナギから連絡を受けたクティラ=ゾシーク(gc3347)は思った。
(子供を捜索しながら、撤退路の確保も同時並行、おまけに手負いとはいえ、キメラの奇襲にも警戒か)
 クティラは躊躇しなかった。元々戦闘は十分想定していた。敵がいるかいないか解らない状況よりは、一体は確実にいることが解っている状況の方がまだ対処し易い。彼女はそう考えたのだろう。
 一方、ヴァナシェ(gc8002)は連絡を受けた時、躊躇するような様子を見せた。
「俺は‥‥、キメラと言えど、命を奪う事はしたくは無い。だけど、子供を守る為だ‥‥仕方が無い、かわいそうだけど、発見したら無力化させてもらうよ」
 ヴァナシェは、そう通信に返答すると改めて、子供の捜索を再開した。
「誰かいないかい、いたら返事をしてくれ。俺達は君を助けに来たんだ」
 ヴァナシェの声が、人気のない培養漕の列の中で反響する。だが返答は無かった。


 少年は、地下動力区画の中央部、施設の全階層を貫く巨大な吹き抜けの側にいた。
「バート?」
 エイミーが呼びかけたとき、物陰から幼い少年――捜索対象であるアルバートが不安そうに顔を出したのだ。
 彼は、少し前から地下に侵入した三人に気付いていたが怯えて隠れ回っていた。しかし事前に少年の名前を確かめていたエイミーの呼びかけが功を奏し、顔を出したのだ。
「マムが心配してるよ。ダディも君が怪我したらきっと悲しむ」
 エイミーが優しく呼びかける。
「でも‥‥パパがまだ見つからないんだ!」
 どうやら、少年はまだこのプラントと父親に関係があると信じ込んでいるらしい。聞けば、やはり内部にキメラは今の所、残っていなかったらしく、既に上の階も散々見て回った後らしい。
 これを聞いて、銀子は思う。

――子供を大人が理解できないのは当たり前ってね。自分らも昔はそんなもんだったでしょ?
 どちらにせよ、残り時間は少ない。今は強引にでも連れ帰ることが先決であった。
「‥‥お姉さんにも君のパパが今どこにいるか解らないわ。ただね、帰ってくるまでママを傍で守るのが今の君の役目よ?」
 プラントの落着を父親の帰還と信じ込んだのと同じに、理屈ではなかった。ただ、銀子の優しさと、単純にママの名を出された事で子供らしく急に家が恋しくなったのだろう。
 少年は大人しく三人の方に駆け寄ろうとした。
 その時、少年の背後の吹き抜けから手負いのムカデが這い出てきた。負傷していたそいつは、眼前の餌――すなわち少年に目をつけると、即座に少年を足で抱え込み、エレベーターシャフトの中に引きずりこむ。
 三人の反応が遅かった訳では無い。少年のいた位置がキメラにとって都合が良過ぎたのだ。
 とにかくキメラを追おうとする三人。だが、ここで最初のタイムリミットが来た。動力室が、人間のそれに比べれば僅かではあるが、稼働音の様なものを立てる。
 先発隊の放出が開始されたのだ。


『ヤナギ氏! お願いします!』
 二階で、エイミーから連絡を受けたヤナギと透、それこそ眼を皿のようして、モニターを確認し始めた。
 希望はあった。カメラが監視しているエリアの一つに、キメラが潜り込んだシャフトの内部が含まれていたのだ。
 必死の捜索が功を奏したのか、透は遂にキメラのいる位置を特定した。どうやらキメラは安全な場所を探しているらしく、子供を抱えたままシャフトを這い上がっていた。
「これを用意して来たのは正解でしたね。まあ、こういう使い方になるとは思いませんでしたが‥‥」
 二階の二人から連絡を受けたアルヴァイムは躊躇なくエネルギーキャノンを構えた。キメラは、モニターによればまだ、一階には到達していない、つまり、この位置からキャノンを照射すればキメラを牽制する事が出来る。
 光線が発射された。このような使い捨て前提の作戦に投入されるだけあって、プラントの素材は大した強度のものでは無かった。現在、キメラと子供はシャフト内の作業用階段の踊り場の下にいた。少量の破片が頭上に落下しても守られるだろう。
 シャフトの壁が綺麗に融解する。
 キメラは、突然暗闇のシャフトに差し込んだ光に躊躇して動きが止まる。地下区画では菖蒲が豪力発現を発動。シャフトの扉を無理やりこじ開けた。
「さ、助けるんでしょ?」
 エイミーに向かって片目を瞑って見せる菖蒲。道は開いた。後は移動力に優れ、対象を守るスキルを保持したエイミーに任せるだけだ。
 エイミーは迅雷を発動。限界を超える速度でキメラを追う!


 同時に、二階では透がエア・スマッシュで扉を破壊して道を切り開こうとしていた。
「僕は父を知らない。でも母を喪う絶望感は分かる。そして、この上母が子を失ったら‥‥!」
 これ以上悲劇を起こさせる訳にはいかない。決意を込めた一撃が扉をこじ開けた。
「父親が星になって帰ってくる‥‥か」
 即座にヤナギがシャフトに侵入。瞬天足で縦穴を駆け抜けた!
 さて、キメラの方はいきなり頭上に開いた穴に気を取られていたが、やがて抱えている食事の事を思い出し、クワッと顎を開いてエイミーの腕に噛み付いた。
 一般人の少年の肉では無く堅牢な能力者の肉体には歯が立たず、驚愕するキメラ。迅雷で追いついたエイミーがボディガードを発動。少年を危ない所で庇ったのだ。エイミーがキメラから少年を奪い返した瞬間、今度は頭上からヤナギがキメラに仕掛ける。
「俺には親を思う気持ちは分かンねーケド‥‥大切、なんだな!」
 踊り場に降り立ったヤナギの円閃が、何が起きたのかを把握出来ないキメラを真っ二つに切り裂いた。

●Escape!
 一階では、放出されたキメラが群れをなしてアルヴァイムら三人に襲い掛かっていた。
 だが、既に子供が保護されたことを聞いていたクティラは何の気兼ねも無くなったばかり覚醒。肌が鉛色に染まり瞳が燃え上がる。
 まず、飛び掛かって来たキメラの攻撃を盾で防ぎ、シールドスラム跳ね飛ばす。
「さあ パーティーの始まりだよ!」
 自身障壁で防御を固めて、ターミネーターを構えたクティラは、二階と地下へ繋がる階段の前で押し寄せるキメラの群れを撃ちまくる。
「おらおらおらおらおら!」
 汚らしい体液を撒き散らして、瞬く間に粉々にされていくキメラの群れ。アルヴァイムも制圧射撃でクティラを援護する。
 一方、ヴァナシェはプラントの出入り口を確保していた。
「ここは通さないよ‥‥悲劇をこれ以上広げない為にも、必ず救出を成功させて見せる」
 向かってきたクモの手足を切り飛ばしてヴァナシェは呟いた。
 すぐに、扉から子供を抱えたエイミーと、他の四名が現れた。アルヴァイムとクティラがキメラを片っ端から撃ち殺している間に相談を纏める一行。万が一を考えて機動力を持つ銀子が、一足先にAUKVで脱出することになった。
「ここは任せて! 子供の事は任せるわ」
 菖蒲は、エイミーと同様に全幅の信頼を置く銀子に子供を託す。壁と天井を蹴って一気に間合い詰め、銀子の邪魔になりそうなキメラに流し斬りをくらわせ、痙攣する身体に拳銃を撃ち込んだ。

――たった一つの小さな物でも、自分に課した使命は護り抜く事。それは銀子だけでなく騎士を自称する二人、エイミーと菖蒲。いや士官の依頼を受けてこの任務に集った八人が共有する想いなのだろう。
 銀子はAUKVに跨ると、エンジン全開で味方が空けた群れの隙間を突破する。プラントの出口でヴァナシェに見送られ、既に白み始めた夜明けの空の下、森を軍のサーチライトが照らす方角にひたすら走る。
 しっかりと自分にしがみつく子供を見て思う。

――子供心でも今成せる事を見つけて欲しい。現実を受け入れる時はいつか来るのだけれど それまでまだ時が必要だから。

●Shoot the Shooting Star!
 銀子が、正規軍の陣地にAUKVで滑り込む。士官は、六機の砲撃用KVに前進を命じた。サーチライトが森の中央に立つプラントに光を集中する。その基底部は丁度綺麗な星形であった。
 やがて、森の中から全力疾走しながら残り7名の能力者が現れた。
『各機照準固定‥‥砲撃開始! Shoot The Shooting Star!(あのクソ流星を撃ちまくれ!)』
 士官の命令でマリアンデールの荷電粒子砲が砲撃の火蓋を切る。高熱の粒子を横腹に受けたプラントが火を噴きながらゆっくりと傾く。マリアンデールが機体の冷却に入ると今度は5機のゼカリアが主砲をこれでもかと撃ちまくる。
 夜明けの山林を砲撃の轟音が激しく揺るがす。その砲撃音に乗せて、ヤナギは何故か野外ライブを開く羽目になっていた。
 後方で鳴り響く轟音すら音楽の一部にして、ヤナギは少年の父親が好きだった曲を演奏する。
 ‥‥背後では何故か、子供に苛立っていた曹長がノリノリで部下に檄を飛ばしていた。
「よぉし! 砲撃が止んだら分隊は順次突入。今の攻撃を生き残った連中を掃討するぞ! 派手にやったれ! イェーイ!」
 音楽に夢中になっている子供をヴァナシェは優しい表情で眺めた。
――この子の気持ちを考えれば、とても怒る事は出来ない。
「君が傷付けば、悲しむ人がいっぱいいるんだよ」
 ヴァナシェは、今はそう声をかけるに留めた。
 エイミーは少年としっかり視線を合わて、でもとても優しい目つきで相手を見つめながら言う。
「ダディが居ない間は君がマムのナイトだ。ナイトはマムから離れちゃいけないよ」
「‥‥ごめんなさい」
 少年はしゅんとなって頭を下げた。解らないなりに、自分が傭兵たちに迷惑をかけた事は理解したのだろう。
「帰ろう? お母さんが待ってるよ。君がいなくなればお母さんは一人になる。君がお母さんを守らないといけない‥‥違うかな‥‥?」
 演奏が終わったところで、透が優しく言った。
 兵士の一人に付き添われて自宅ヘ向かう少年に、最後にヤナギが言う。
「お前ェの心ン中に親父はいつでも居るゼ」