タイトル:【福音】白き翼を汚すマスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/12 10:05

●オープニング本文


 大型封鎖衛星ヘラの破壊に成功したUPC宇宙軍中央艦隊は、次の目標を南米直上のアテナに定めていた。
 現在の南米においてバグア占領下と言える地域は、ベネズエラと、それに追随する親バグア国家が僅かに残るのみ。奪還を図る上で、南米直上に位置するアテナを破壊し、宇宙からの支援路を断つ事は、非常に大きな意味を持つだろう。
 中央艦隊が採った作戦は、宇宙と地上の二方向からアテナを目指す挟撃作戦であった。
 中央艦隊本隊は宇宙から、ヴァルトラウテは地上から、同時にアテナを目指す。敵は二方向に防衛網を敷く必要があるため、全体的な防御は薄くなるだろう。
 更に、巨大デブリと化したヘラの残骸にロケットエンジンを取り付け、艦隊の壁となるよう先行させた上でアテナに突進させ、敵主砲の無駄撃ちを誘う。その直後に、艦隊とヴァルトラウテが二方向からアテナに攻撃を加える予定だ。


 出撃に当たって、ビビアン・O・リデル(gz0432)は奇妙な提案をした。
「えっと‥‥よ、傭兵さんたちにもヴァルトラウテに乗ってもらいます」
 それ自体は別に不思議なことではない。問題なのは、傭兵たちに提示された内容だ。傭兵たちは大気圏内用のKVで、歩行形態を保ったままヴァルトラウテに乗り込むよう指示されたのだ。
 リデルとは付き合いの長いマチュア・ロイシィ(gz0354)でも解らなかったこの命令の理由が明かされたのは、ブエノスアイレス基地を離陸した戦乙女が大気圏の内、一番地表に近い対流圏を抜け、成層圏に入ろうとした時であった。
「地表よりワームが二機、本艦に向かって来ます! キメラも随伴している模様!」
 オペレーターが叫んだ。
 モニターに表示されたのは、何の変哲も無いティターンとタロスが一機ずつ。それに無数のプテラノドンを模したキメラだ。
 この突然襲撃して来たバグアたちは、ヴァルトラウテに軽く追いつき騎行する戦乙女と並んで上昇する。
『へーい!  カノジョオ! 大気圏離脱の一人旅は、寂しくねえかい? なんならこの俺様が、衛星までエスコートしてやろうかァ?』
 白く優雅な白鳥の如きヴァルトラウテに、汚らわしい黄土色の羽虫のように纏わりつきつつ、ワームのパイロットは野次を飛ばした。
「なんだい、この不快なゲス野郎は!」
 声を聞いただけでマチュアが吐き捨てる。
「こいつは‥‥! 去年シャンプレーンで暴れたり、ハトをばら撒いた奴だ!」
 マチュアの部下の一人であるKV乗りが、マチュアやリデルに手早く説明した。
 この下劣なバグアの名はオズワルド。討伐されたリリア・ベルナール(gz0203)のかつての部下であり、これでもティターンを与えられた精鋭の前線指揮官である。
 その脅威は決して過小評価できない。ギガワーム侵攻の際には、シャンプレーン湖畔での戦闘で正規軍の猛者を血祭りにあげ、またギガワーム陥落の際には、最後まで不利な戦場に留まり、人類に出血を強いたバグアだ。
「艦長! 注意してください。こいつは悪趣味な奴で、子供を未来のヨリシロ候補とみなして異常な執着を見せます!」
「ふざけるんじゃないよ!」
 激昂したのはマチュアだ。かつて弟をバグアに奪われた彼女にすれば、そんなバグアがリデルの半径100メートル以内にいるというだけで可能なら、殺しに行きたい気分だろう。そう、可能なら。
 彼女が率いるKV隊はこの後に控えるアテナ攻略戦に備えて宇宙用KVを格納庫に置いている。つまり、封鎖衛星の護衛戦力との戦闘の為に、この時点では温存しなければならないのだ。
『ふざけてんのはてめえだよ。何で俺様が、お前らにアプローチ(ヨリシロ確保的な意味で)しなきゃなんねえ?』
 緊張に身構えていたヴァルトラウテスタッフたちは怪訝な表情になる。
 前提として、このバグアは並外れて、ヨリシロに貪欲だという。それなら、身体能力こそ脆弱なものの戦術と戦略に並外れたものを示し、わずか21歳でヴァルトラウテの艦長に任命された過去を持つこのリデルをヨリシロとして狙わない方が不自然だ。
『俺さぁ、天才少女というかそういう個体には興味がもてねえんだわ』
 オズワルドの退屈そうな声にヴァルトラウテの艦橋の空気が凍る。
『どうせ、そういう優秀なのは上の連中がギャーギャー取りあうだけだしなァ‥‥なんつーの? 普通のガキ共みたいにのびしろがある方がヨリシロとして食指が動くという‥‥お? もしかして俺、今上手い事言った!?』
『オズ様、つまらない‥‥後、シートで物を食べないで。掃除が大変‥‥』
 ティターンに随伴するタロスに乗った強化人間‥‥何故かメイド服を着込んだ少年が言った。
『仕方がねえだろ! 慌てて出て来たんだからよ! ‥‥今はこいつというヨリシロ候補筆頭もいるしな! お前らはヨリシロにしたりせず、宇宙にいる仲間の為に、ここで普通に落とすから安心して脱出の準備でもしとけや』
 言いたいことを言うオズワルド。
(ど、どうしてでしょう?  ヴィーおねえちゃん‥‥私、凄く怒ってます‥‥!)
「えっと‥‥そ‥‥その」
 リデルは、すうっと深呼吸した。
「レディーをエスコートするならもう少しエレガントな装いをしたらどうですか? そんな程度の戦力ではこのヴァルトラウテをエスコートするには役不足です」
 バグアの言動に翻弄されたのは一瞬。既にリデルは敵の戦力分析、配置から予想される敵の戦術を分析し終えていた。
『オズ様、あれ』
 メイドが注意を喚起する。既に飛行甲板には、傭兵のKVが迎撃態勢を整えていた。
 苦笑するオズワルド。リデルには知る由も無かったが、ベネズエラにとっての生命線であるアテナを本気で防衛するのなら、この程度の戦力でヴァルトラウテを奇襲するべきではないことくらい、このバグアは理解していた。
 だが、最後までリリアに従った彼に、エミタ・スチムソン(gz0163)とその直属の部下や早期にリリアを見限った同胞は良い顔をしなかった。彼が動員できたのは友人のドクトル・バージェス(gz0433)に説明書を借りて培養していたキメラと、子飼いの部下だけだったのだ。
『大したもんだ。優秀さにあぐらをかいてるどこかの上司に、爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだぜ』
 どこか自嘲気味にそう言うと、オズワルドは急加速して距離を取る。射撃に最適な間合いを取る為だ。同時にキメラとタロスもこれに従う。
『失礼した。ビビアン・オリム・リデル中佐殿。貴官、に正式に『デート』を申し込む』
「そういう『お付き合い』なら、喜んでお受けしましょう。少尉、でしたか? 女性に対する数々の失言、埋め合わせて貰います」
 リデルはそう言い返すと傍らのマチュアを見た。
「その、私は傭兵の皆さんを信じています。だけど‥‥」
「解っている。私たちも万が一に備えるよ。‥‥ビビ、あいつは只の下衆野郎じゃない。手強い下衆野郎だ」

●参加者一覧

小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 ティターンの背後に陣取ったタロスがミサイルを放つ。多数の弾頭が入り乱れヴァルトラウテに飛来する。同時にミサイルの隙間を埋める如くキメラの群れも突撃を開始した。
 だが、傭兵たちもこの時の為に用意していた各々の兵装で、存分に弾幕を張って歓迎パーティーを開いた。
「わたし達は言わば機動砲台。つまりはラインガーダーの代理ですね」
 番場論子(gb4628)は、機関砲でキメラを薙ぎ払い片っ端から血煙に変えていく。小鳥遊神楽(ga3319)は弾幕を僚機に任せ、スナイピングシュートでティターンを狙う。
「招かれざる客は早々に退散するのがスマートなやり方だと思うんだけど、それが分かっていないから招かれざる客になっているんでしょうね」
『嫌よ嫌よも好きの内と、お前らよく言うじゃねえか!』
 ゲタゲタ笑いながら神楽に言い返すオズワルド。濃い青の成層圏を背に、ひたすら神楽の弾丸を躱してプロトン砲を撃つ。
「さって! こちとら今回は壁役だ! 思いっきりやらせてもらうぜ!!」
 だが、神楽と組んでいた砕牙 九郎(ga7366)の機体がすかさず巨大な盾で甲板を狙ったプロトン砲を防ぐと、お返しとばかりにスラスターライフルと機関砲を放つ。
『なら、思いっ切り食らわせてやるぜェ!』
 しかし、ティターンも素早く弾丸をかわしながら拡散フェザー砲で応戦。射撃戦を繰り広げる二機。やがて、ワームが一旦距離を取った。
 同じく弾幕を張る飯島 修司(ga7951)は、この襲撃者に神楽とは違う感想を抱いたようである。
「‥‥聞き覚えのある声と思えば、あの男ですか。そう簡単に死んでくれる相手とは思っておりませんでしたが、何とも厄介な送り狼に絡まれましたな」
 飯島は、かつて北米の地方都市で示威籠城を決め込もうとしたオズワルドの部隊と対峙した経験があった。
「知り合い? とりあえず、送り狼のような手合いには力ずくでお引き取り願うわ」
 神楽はそう言うと、機関砲による弾幕にあえて粗密を作ることで敵を分断する。こうして分断されたキメラは傭兵の弾幕によって効率よく掃討されていった。
「SESエンハンサー‥‥起動! 迎撃‥‥開始します! いっけぇっ!!」
 アリエイル(ga8923)は、そう言ってレーザーガンを敵味方の弾幕に紛れさせて放つ。しかしティターンは慣性制御を駆使してこれを避ける。タロスも、レーザーを回避しつつミサイルを撃ちまくる。
 だが、今度のミサイルはウラキ(gb4922)の散弾によって命中する直前で防がれた。
「なるほど、勘の良い艦長だな。流石は‥‥という事か。宇宙行きの艦にゼカリアを乗せるのは、少し妙な気もしたが‥‥」
 オズワルドは、ミサイルが迎撃されるとヒュー、と口笛を鳴らしウラキを挑発する。
『よォ、随分と重そうな機体じゃねえか! 風が吹くだけでポロッと落下しそうだぜえ!』
「心配するな。空も飛べない機体だからこそ、蝿を撃つのに良い装備が整っている」
 ウラキは不敵に言い返すと、散弾銃を猛射してキメラの被膜を狙う。速度の低下したキメラは、ただでさえ厚い傭兵機の弾幕の前に、次々と落とされていった。
 だが、オズワルドはキメラを退かせず、なおも突撃を命じる。タロスもこれに合わせてミサイルを再発射する。
「南米戦線で何度かお世話になったこの艦を傷つけさせはしません。確実に、撃ち落とします」
 周防 誠(ga7131)はタロスのミサイルの着弾地点に機体を先回りさせると、機関砲でミサイルを撃ち落とす。だが、それはオズワルドの作戦の内であった。
『狙うならここしかねぇだろう! ホワイトデーとやらの挨拶に太いの一本くれてやるァ!』
 叫ぶオズワルド。それは彼にとって、渾身の一発と言えた。タロスのミサイルとでキメラの迎撃で敵が手一杯になった僅かな隙を狙ってランチャーが火を噴き、最初の弾体が、ヴァルトラウテのエンジンに向かう。
「やっかいな物を‥‥」
 ブリッジのリデルから警告を受け、最速で反応したのがウラキだった。ブースターで迎撃可能な位置まで移動すると、主砲から徹甲散弾を発射。無数の散弾がミサイルに襲い掛かり、ギリギリでそれを破壊する。
 やはり、ミサイルの火力は圧倒的だった。
 艦からかなり離れた位置で爆発したにもかかわらず、爆風と破片が感に損害を与えるに足る速度で降り注いだ。しかし、そこに滑り込んで来た九郎が盾でそれらをしっかりと受け流し、機関部への被害は防がれた。
 これを見たオズワルドは、何故か機体を反転させ、ヴァルトラウテの遥か上方へと急上昇。その隙を抜け目なくタロスが補って、ライフルでKVを牽制する。
 敵の狙いを測り損ねた傭兵たちはリデルの判断を仰いだ。ウラキが代表してリデルに問う。
「リデル艦長、敵の狙いを教えてくれ‥‥僕達を巧く使えそうか?」
『あの、敵は恐らくプロトン砲で、艦の重要な部位を狙って来る筈です』
 リデルが回答した。
「その理由は?」
 ウラキが質問する。
『えっと‥‥私たちがG5弾頭を迂闊に使えないのと同じ理由です。幾ら強力なミサイルでもここの距離からは迎撃の危険性があって使えません。そしてフェザー砲は近距離用の兵器です。この距離では使えません‥‥あの、つまり』
「わかりました。艦長! 親鳥に、傷一つ付ける訳にはまいりません!!」
 アリエイルはレーザーシールドを構える。他のメンバーもそれに習う。敵は単独での大気圏突破能力を持たない。ここで時間を稼げれば、それだけ勝利が近くなるのだ。
「目論見通り敵襲が有ったからには、すべからず撃退し被害を最小限に抑える為、最善を尽くしましょう‥‥私たちは文字通りの『ガーダー』ですね」
 番場が言った。
『攻撃、来ます!』
 オペレーターが叫ぶ。
『第一射、座標――! 第二射、座標――!』
 リデルの指示で、アリエイルと番場が盾を構えたまま、指定座標に移動。直後、二発のプロトン砲がティターンから照射される。
 一発目は右のエンジン排熱口を、二発目は左の翼を狙っていた。廃熱口は勿論、主翼も大気圏内で折られれば、ただでは済まない。咄嗟にアリエイルは排熱口の前に立ち塞がる。
「何としてでも無傷かつ消耗なく宇宙へと導かなければ‥‥」
 ティターンの出力を持って放たれるプロトン砲はシールドを破壊してアリエイルの機体にも直撃する。
「シールドが‥‥でも、これ以上、踏みこませない!!」
 高熱に機体を炙られつつも、アリエイルは艦体を守りきったが、アリエイルの機体は大破した。アリエイル自身も重傷こそ免れたものの大怪我を負う。
 左の翼を庇った番場の機体もプロトン砲に炙られる。盾は瞬く間に蒸発して、機体をプロトン砲が貫通した。番場もかなりの怪我を負わされた。
 だが、プロトン砲の長距離射撃で二機が戦闘不能になったものの、その甲斐あってヴァルトラウテは無事であった。
 そこに、ティターンが再び急降下して来た。やはりミサイルで打撃を与えるつもりなのだろう。オズワルドは射程ギリギリで、ランチャーを構える。
 既に、キメラは大幅に数を減らし、タロスのミサイルも尽きていた。もうキメラやミサイルによる攪乱はできない。オズワルドはなるべく当たりそうな場所を狙おうとする。
 そのティターンに、ウラキが榴弾を放つ。オズワルドは咄嗟に盾を装備した部分を向けて砲身を爆風から庇う。
『おいおい、何しやがる!』
 オズワルドが叫んだ。
「‥‥ほんの気遣いだよ。その重い荷物を捨てた方が、上まで飛べる」
 ウラキにそう言われたオズワルドは何故か一旦後退した。そして十分な距離を取ると一旦減速して手足のロックを解除すると、何やらランチャーを操作した。だが、その作業を終えると再び突撃する。
『軽くできるものなら軽くしてみろやァ!!』
 オズワルドは下品に笑いながら、もはや当たれば儲けものとばかり、迎撃に対する対策すらせずミサイルを撃つ。
 ウラキの隣にいた誠が、機関砲でミサイルを難なく迎撃。同時にウラキが再度ランチャーの銃身を狙って榴弾を発射した。
 ティターンはこれに合わせて異様な行動を取った。榴弾の命中直前、まだ二発残っているはずのランチャーを本体から切り離したのだ。
 榴弾の範囲に放り投げられたランチャーは大爆発した。
「これは‥‥?」
 ランチャーを破壊されたティターンが大勢を崩した際の隙をついて狙撃するつもりだった誠は困惑したが、それでも咄嗟にライフルを放つ。
 ティターンは体勢を崩すどころか、パージした武器の爆炎を目くらましにして、ライフルを躱す。が流石に命中精度に重点を置いた誠の狙撃を完全に回避することは難しかったのか、翼のようなパーツの一部が削ぎ落とされた。
 それでもティターンはフェザー砲でKVを牽制しながら無理やり接近する。
『ちわー! ミサイルのお届けに上がりましたァ!』
 遂に着艦したティターンがシールドの陰から掴み出したもの――それはミサイルの最後の一本だった。先程、一旦飛び下がった際にランチャーから引き抜いておいたものらしい。
 傭兵のKV部隊は咄嗟に動きが止まってしまう。ミサイルの威力は先程目の当たりにしたばかりだ。迂闊に接近戦を仕掛ければ、至近距離であの爆風が艦を襲うのだ。
 だが、まず誠が、続いて九郎が飛び出した。
 誠も勿論最初は躊躇した。ソードウィングによる接近戦を仕掛ければ、間違いなくミサイルを飛行甲板で爆発させてしまうことになる。
「ヴァルトラウテの宇宙への門出、邪魔はさせませんよ」
 誠が言う。誠は、もうミサイルは『着弾』したも同然と判断した。なら自分に出来る事は当初の心積もりに従って機体を盾にすることだ。周防はそう判断したのである。
 確かにミサイルは強力だが、誠の機体もまた相当に強化した機体だ。ミサイルの上に機体を覆い被らせて、爆風を受け切っても何とか耐え切れるかもしれない。それは誠にしてみれば無謀な決断ではなく、己の機体への信頼なのだろう。
 そして、誠には自分の後を追う九郎も心強かった。
 自分を援護してくれる九郎の持つ巨大な盾、破軍のフォローも加われば被害を最小限に抑えられる筈だと誠は判断したのだ。
『いい度胸だ! 一緒にブッ飛ぼうぜぇ!』』
 誠の機体がティターンに飛び掛かって、覆いかぶさると同時にミサイルが爆発した。
ティターンのFFは、強力ではあってもSES兵器でないミサイルの爆発から本体を守ってダメージを軽減する。
 一方覆い被さって爆風を受け止めた誠の機体は無論の事、破軍で誠が受け切れなかった衝撃を受け止めた九郎の機体も大破し、二名とも重傷ではないが大怪我を負った。
 だが、ヴァルトラウテも致命打を受けるのは避けていた。さすがに甲板の一部が吹き飛んでいたが、戦闘や航行に支障が出そうな部位への損害は避けられたのだ。そして、他の二機も損傷を受けずに済んでいた。
「‥‥根性はあるみたいだけど、スマートさに欠けるわ。やはり艦長ほど可愛くて、スマートな女性の相手を務めるには役者不足ね」
 爆風が収まった後、神楽はバレットファストで弾幕を張るが、ティターンはそれをことごとくシールドで弾く。ウラキもティターンを狙うが、オズワルドは再び甲板から離陸した。
『ほほお‥‥つまりお前らの基準で『可愛い』というヤツなら、中佐殿にアプローチしても許されるって訳だァ!』
 バグアはニヤリと、口の端を吊り上げた。その時、通信でブリッジから緊迫した声が上がった。
『こちらヴァルトラウテ艦橋! 大至急応援を頼む! ヤツが‥‥タロスの方が一機、艦橋に!』


 甲板にオズワルドが着艦してから、ほとんどの傭兵たちは、ティターンに集中していた。その隙にタロスはヴァルトラウテ先端の艦橋の方に回り込んでいたのだ。
『もう高度に余裕が無いの‥‥ごめんね』
 既にミサイルを撃ち尽くしていたタロスは、肩に装着したライフルを動かして艦橋に照準を合わせる。
 だが、危うい所でミルヒ(gc7084)が射程ギリギリからマルコキアスをバラ撒いた。当初から、目的をオズワルドの部下が乗るタロスに絞っていたミルヒは、タロスの動きに気付いたのだ。
「白い船は素敵です。白さを守る為にがんばります」
 割と関係の無さそうで、実はあるかもしれないようなことを言いながらタロスに向かって射撃を行うミルヒ。まあヴァルトラウテにこれ以上傷がつけば、確かに白さが損なわれるのは間違いない。
『この真っ白な機体‥‥いつかのおねえさん? でも、そう何度も邪魔はさせないよ‥‥』
 回避行動に徹するタロス。ミルヒの予測通りその機動は危な気なく、弾丸と薬莢が空しく成層圏にバラ撒かれる。
 改めてライフルを構えるタロス。しかし、ミルヒはその隙を待っていた。ミルヒの機体のスナイパーライフルが構えられる。命中。
 しかし致命傷には至らない。逆にメイドのライフル弾も盾を貫通してミルヒ機に命中する。
『仕留めなきゃ‥‥』
 メイドは強引にタロスを艦に接近させてハンドガンを艦橋に撃とうとした。が、タロスの腕へ、飯島機の短距離リニアが命中して損壊させた。
「奥の手、という奴ですな」
 タロスは咄嗟に、全速力で離脱した。
「性格はさておき、貴方の上官は紛う事なき『エース』ですからな。潜り抜けてきた死線と駆け抜けてきた戦場の数に裏打ちされた確固たる戦闘技術‥‥このくらいの腹芸は用いると思いましたよ」
 飯島はミルヒ機を助け起こす。
『それ、オズ様を誉めているの‥‥?』
「未だに地球で燻っているところを見ると、お世辞にも要領が良いとは言えませんがね‥‥まぁ、そんなものは戦場には不要と割り切っているのでしょうな」
 タロスの方は体勢を立て直して、なおも抗戦の構えを見せる。ついでにメイドが何か言い返そうとした時、ミサイルを爆発させて離脱して来たティターンが、タロスに体当たりして一気に高度を下降させた。既に限界だったのだ。
『もう計器が限界だ! とっととズラかるぞ!』
 タロスも指示に従う。
 ヴァルトラウテの方も、敵が退却を始めた以上、これ以上追う理由は無かった。リデルは負傷した傭兵の救助を指示して、一気に艦を上昇させた。


 ヴァルトラウテが無事成層圏を越え、中間圏に突入したころだいぶ高度を下げたオズワルドとメイドを上昇して来たワームの一団が出迎えた。
 率いているのは、かつてオズワルドが北米からの撤退を援護したバグアであった。
『すまない! 出撃の許可を取り付けるのに時間がかかってしまった! さっき、あの艦の上で爆発を観測した‥‥やったようだな!』
 オズワルドは苦笑した。
『これっぽっちの戦力であの中佐殿と、傭兵が相手じゃあ、厳し過ぎるわ! 昼寝が終わるころにゃあ、素晴らしいニュースが聴けるだろうよ‥‥衛星が陥落したというニュースがな!』