タイトル:【QA】戦慄の女王マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/02/24 22:25

●オープニング本文


 オペレーション・イリオスが発令された。これは、表向きはラムズデン・ブレナー博士が位置を特定したエアマーニェのユダを討伐する作戦であり、オタワに居座るエアマーニェの4もそこまでは知っている。
 作戦の真の目的はエアマーニェのユダ及び、その増殖体と交戦する事で敵を消耗させ、現在ユダが根拠地としている封鎖衛星なり、巡洋艦なりを特定することにある。
 そして、作戦の旗艦を務めるブリュンヒルデIIは最もエアマーニェのユダと遭遇する確率が高い空域に向かっていた。

●暗礁空域の戦乙女
 この空域には、規模の大きい障害空域が点在している。
 ジョワユーズ及び他の艦との交信途絶後、微速前進を続けるブリュンヒルデはこの障害空域内に潜伏していた。
 アナートリィ大尉率いるKV隊と、傭兵のKV隊はこの空域で増殖体の掃討に当たっている。すなわち、エアマーニェのユダを障害空域に誘い込んで戦う戦術だ。
『何か、私達だけ楽をしているみたいなの』
 留美が冗談めかしてポツリと言った。
 確かに、暗礁空域に布陣しての迎撃は安全な分、効率も悪い。ジョワユーズを始めとする他の艦は、現在囮として多数の増殖体を引き付けているだろう。
「今だけよ」
 短く言うマウル。勿論留美もそれは解っている。
 とにかく、これまでの所マウルの戦術は功を奏していた。元々まともな戦術思考能力を持たない周辺の増殖体は、隕石群の中に潜む敵を見つけると本能のままに襲って来るだけなので、それを確実に仕留めているだけで良かった。
 この間、トーリャ隊と傭兵部隊、更にブリュンヒルデIIの乗員も、上手くローテーションを組み、疲労と損耗を最小限に抑え、頻繁に母艦を離発着している。
 幸か、不幸か。傭兵のKV隊が補給と小休止を終えたタイミングでそれは始まった。

●襲来
「レーダーに反応。また新手が現れたみたいなの」
 白瀬がマウルに報告する。
「数は?」
「1体。多分大型だと思うの」
 だが、マウルはそうは考えなかった。一体、と聞いた瞬間彼女は艦長席から立ちあがり、矢継ぎ早に指示を出す。
「全艦載機スクランブル! 艦首回頭! 長距離ミサイル発射準備! 外に出ている部隊は、ミサイルの射線に注意しつつ散開!」
 これまでに現れた増殖体は、全て一定数の徒党を組んでいた。楽観は許されない。一秒の遅延で作戦が失敗に終わる可能性すらあるのだ。
「艦長、報告なの」
 モニターを向いたまま白瀬が言う。
「‥‥言わなくてもいいわ、解ってるから」
 だが白瀬は止めない。
「速度が‥‥違い過ぎるの、あと数十秒でG5弾頭長距離ミサイルの射程内に到達するの」
 ディスプレイに回された表示を見て、マウルは唇を噛んだ。
「全弾一斉発射! 当たらなくても、効かなくてもいい! とにかく時間を稼いで!」
 ブリュンヒルデIIが一度に撃てるだけの長距離ミサイルを吐き出す。それは、暗黒の中を赤く淡く発光しながら迫る機体に高速で飛来し、全てが着弾前にそれの放った光条に貫かれて迎撃された。

●女王からの弔辞
『心から、あなたたちに同情します。人間』
 オープン回線に響く、少なくとも表面上は聞く者にある種の安堵感を与える偽りの慈愛を湛えた声は、エアマーニェのもの。つまり、急速接近して来た機体は正真正銘のユダ本体である。
 そのユダは、何故かミサイルを迎撃した地点で一旦静止する。
「‥‥どういう意味かしら?」
 緊張を押し隠してマウルが気丈に質問する。
『このユダとの遭遇を警戒して、わざわざここに潜んでいたのでしょうが‥‥』
 マウルは、地上のエアマーニェの4が言った言葉を思い起こしていた。

――見事だ、と申し上げます。人間。ユダに乗るエアマーニェは楽しい時を過ごすでしょう
 
 マウルたちにとっては決死の覚悟で臨むこの作戦も、このバグアにとっては、未だ『品定め』の域を出ていないのかもしれない。
 だが、エアマーニェの言葉と態度はマウルの戦術が、そしてオペレーション・イリオスがここまでは予定通りに進行している事を示している。
 あえて八隻の巡洋艦を分散させたことも、被害を最小限に抑える為にこの空域に布陣していたことも、全てこのバグアは深く考えていない。
 ユダがいると知らされている艦が逡巡と警戒の果てに『不幸な遭遇戦』で大きな被害を受け、止む無く撤退するというマウルの描いた筋書きを、相手は今のところ信じきっている訳だ。
『では、始めましょうか。人間、あのブライトンを煩わせる程の力の一端を見せてもらいましょう。あなた方にも、このユダの力の一端を拝謁することを許します。それを身罷る者への手向けとしましょう』
 ユダは再び速度を上げた。
「ユダ、加速するの!」
「G5弾頭長距離ミサイル、第二射装填! まだ撃たないで! 撤退時、全弾を叩きこんでKV隊の撤退を支援するわ! 機関最大! いつでも最高速度が出せるようにしておいて!」

●ある科学者の遺言
 機関最大という言葉からマウルはある人物を思い出していた。

――動力炉の小型化は、まだ試作段階です。全力運転は危険を伴いますので注意してください

 ブリュンヒルデIIの小型G動力炉を調整したウィリー・フォイゲJrが、大西洋に降下したブライトンのユダへの観測攻撃へ同行した際、マウルたちへ警告した言葉だ。

――別に私は彼らを嫌っているわけではありませんよ。ただ、彼らがつけているあの装置がエミタと呼ばれる事が許せないだけです

 自身も能力者であるマウルは、ウィリーのこの発言は知らない筈だが、無意識に自らのエミタのある位置を握りしめた。

――私は、このG5弾頭で世界を救いたかった。父の為にも、彼女の為にも。ですが、私にできるのはこの程度でしたか‥‥ 

 ユダの圧倒的な防御力にG5弾頭は通用しなかった。だが、小型された弾頭は、その後エクスカリバー級に標準装備され、今やこの戦争の最前線で、その威力を存分に振るっている。
 この戦闘でも、本体の指令で集結して来ている増殖体の掃討、そして撤退支援と、使いどころを間違えなければ大きな力になってくれるだろう。
 この作戦の真の勝利は、ユダ撃退とは別にある。
 マウルたちが最小限の犠牲でこの局面を生き残り、観測班が引き上げるユダの根城を特定することに成功すれば、それはある意味でウィリーへの手向けになるのかもしれない。
「ブリュンヒルデII艦長、マウル・ロベルより、アナートリィ隊、及び傭兵隊へ! 戦闘開始! 目標、ユダ! ‥‥全員、必ず、必ず戻ってきなさい! いいわね!?」
 マウルが叫んだ。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
殺(gc0726
26歳・♂・FC
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA

●リプレイ本文

「回頭! 機関最大!」
 マウルの号令の下、母艦であるブリュンヒルデは10km先のユダから退却を始めた。同時に、トーリャ隊と、母艦を護衛する赤崎羽矢子(gb2140)、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)、ラサ・ジェネシス(gc2273)の三人の機体が増殖体の奇襲に備える。
 そして、ユダを足止めする為に残りの傭兵の機体である九機がユダへと向かった。この内、レイミア(gb4209)はユダの観測警戒に専念する。リヴァル・クロウ(gb2337)は、大きめのデブリを射撃の為の足場に選び、レーザーライフルの射程圏で滞空。
 セラ・ヘイムダル(gc6766)は、途中から大きめの障害物に目をつけ、それに隠れながらの接近していった。
 残りの六機も更に二つの班に分かれ、隕石を盾にしながらユダへと接近して行った。


 大型増殖体が戦乙女に接近を試みる。だが、並走していた赤崎羽矢子(gb2140)の機体がG放電を使用する。放電に巻き込まれた大型は怯んだ。
「また、こうしてユダに対する‥‥か」
 母艦を見つつ赤崎は呟いた。
「あたし達がもう少し気にかけていればウィリーJr.は命を落とすことは無かったかもしれない。無論、今更の話だけど‥‥でも。今度は誰もやらせない!」
 気合を入れた赤崎は、アサルトライフルとレーザーの連射で、艦の対空砲火を抜けて来た小型や中型を押し返す。
 そして怯んだ大型には藍紗がレーザーライフルを放った。
「ブラストハートアタックフォーム!‥‥うむう、いざ自分でやると、いささか恥ずかしいの‥‥誰じゃ、音声入力で変形させないと撃てない銃なんぞ作ったのは‥‥」
 直撃を受けもがく大型に接近した藍紗は、粒子砲を連続でその巨体に叩き込み離脱する。
「なるほど、流石に細かな姿勢制御はかなり機敏じゃの、砲撃体勢への移行も滑らかじゃ」
 満足そうな吐息を漏らす藍紗と入れ違いに、同じくマニューバAを発動したラサが、機剣の連続斬撃を巨体に入れた。
「ミンナー、大型に火力を集中するヨ」
 離脱しつつ味方に呼びかけるラサ。
 KVへと目標を変えた大型に三人のミサイルが全方向から発射される。飽和攻撃に悲鳴を上げる大型。
 更に、トーリャ隊も火力を大型に集中する。遂に大型は爆発した。
 だが、母艦の進路に中型と、数機の小型が立ち塞がる。艦側にも注意を払っていたアルヴァイム(ga5051)がD砲の使用を提案した。赤崎は、他の二機と共にそれらをD砲の射線に追い込む。
「マウル艦長、今っ!」
 赤崎の合図で母艦がD砲を発射。進路上の敵を撃破した。だが、この時ユダ対応班の苦戦が、管制のレイミアから伝えられる。
 既に大型が落ち、中型、小型も数を大幅に減らしている。護衛の三機は後をトーリャ隊に任せて味方の救援に向かう。


「手駒が足りないと大変だな! お偉いさんが直々にお出ましとは!」
 砕牙 九郎(ga7366)はデブリを盾に攻撃しつつエアマーニェに話しかけた。威圧感を与えるように緩慢に母艦に接近するエアマーニェの気を惹くのが目的だ
「誰が乗っているかは関係ない‥‥現段階最大の敵として立ち塞がるのは、変わらない」
 アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)がバルカンで弾幕を張りつつ、ポツリとコメントした。
 停止しているようにさえ見える最小限の動きで全ての攻撃を避けるユダ。
 そう、傭兵たちの攻撃はこの時点で足止めにすらなっていなかった。この時、イレーネ・V・ノイエ(ga4317)がデブリの陰からスナイパーライフルを放つ。完璧なタイミングの筈のそれは、それ以上に完璧な反応によって、あっさりと外される。
『良い機会です。人間たち。私と言葉を交わすことを許しましょう。それまでこのユダを相手に生き延びる事が出来れば、ですが』
「‥‥残念だが、自分は貴公との会話に興じる気は全くない。只、作戦を完遂するだけだ」
 そう吐き捨て、二射目を放とうとしたイレーネは驚愕した。照準の先からほとんど静止していた筈のユダが消えて――否。既にユダはイレーネ機の背後に佇んでいた!
『そうですか、人間。私たちに有益な内容であれば、今少し囀る事を許可しますが、必要ないのですね』
 テレポートではない。ユダとその操縦者の反応速度は、人間が対応できるものでは無かった。イレーネの機体は、コロナでの応戦すらできず隕石ごとブレードに両断される。
「イレーネッ! ‥‥エアマーニェッ!」
 吠えるアンジェリナ。彼女は隠れていた至近距離の小惑星の陰から飛び出し、機剣でユダを奇襲する。
『お前も、接近戦を望むのですね?』
 だが、アンジェリナの振り下ろした剣の先に既にユダは無くただ虚空とデブリのみ。気が付けば、アンジェリナ機の真横、機体同士が触れ合う距離にユダはいた。
『‥‥私もユダは久しぶりです。気晴らしに付き合いましょう』
 わざとゆっくり剣を振り上げるユダ。
「これが‥‥ユダの力‥‥居るだけで絶望を撒き散らす、言わば現存バグアの象徴か‥‥」
 圧倒されたアンジェリナが呟く。
「決して諦めない‥‥諦めたく、ない‥‥」
 力の差を見せつけられ、回避すら絶望的な状況のアンジェリナを救うべく榊 兵衛(ga0388)が動く。
「逃げろ! どこまで力になれるか分からないが、俺もこの【忠勝】と共に最善を尽くす!」
 叫んだ榊はミサイルポッドで手近な隕石を手当たり次第に撃って、破片や軌道の変わった隕石で少しでもユダの注意を逸らそうとする。だが、それを邪魔だとも感じないユダには通用しなかった。
 機棍で打ちかかろうとする榊は見た。目の前で、アンジェリナ機が両断され、それに気付いた時にはユダが既に姿を消していた事を。そして視界に広がるユダの剣を。
 ユダは散らばったデブリを掻い潜り、瞬時に榊の前に移動したのだ。こうして、二機は為す術も無く両断された。
「くそっ! 三人とも無事か!? 生きていてくれよ!」
 九郎は隕石の陰に隠れながら三個のポッドを回収、牽引しつつ全力で母艦へ向かう。
 三人共、重傷は免れていた。これは彼らに興味を無くした女王が、機体を攻撃する際にわざわざコックピットや機関部を狙う手間をかけようとはせず、雑草でも払うように無造作に切断したためである。


 レイミアの観測を通して、この一部始終を目撃していた傭兵や母艦の乗員たちは気付いた。
 これが、ユダなのだ。誰も相手を甘く見ていた訳では無い。だが、アフリカでブライトンを撃退せしめたという想いが基本戦略に齟齬を生んだ。
 ただ隕石を利用して、足止めをするだけではその差は覆せない。『闘う』という前提ではなく、相手の気を逸らす。九郎が試みたように会話で少しでも気を引くとか、最初からやられたふりをするといった搦め手を中心に戦術を練るべきだったのだろう。だが、ひとつ確かなことはある。ユダはここで追撃の足を止めた。
『このユダの力を、存分に同胞に伝える事は出来ましたか?』
「な‥‥速すぎます!」
 絶句するレイミア。
 気が付けば、ユダがレイミアの眼前に迫っていた。
『もう十分でしょう。次はあなた自身でユダを経験しなさい』
 レイミアは必死にライフルで応戦する。しかしもはやユダは避ける事すらせず、どこか気だるげに攻撃を受ける。
『ブライトンを退けた人間達の戦い方には興味がありましたが、この程度ですか』
 ユダの剣が振り上げられた。
「‥‥ユダ、俺は貴様を認めない!」
 クロウがデブリをユダの方に蹴飛ばしつつ射撃を行う。そして手近なデブリに移動する。
「使えるものは使う‥‥!」
 クロウはこの動作を繰り返しながらユダを翻弄しようと試みつつ、レイミアには攻撃される前に機体を捨てて脱出するよう指示。レイミアはこれに従う。
 セラも、デブリの陰から攻撃を加え足止めを図る。
『地の利を生かす戦術は、目新しいものでは無いとはいえ、あなたがたが最近宇宙に進出したばかりだという事を考慮して評価しましょう。しかし‥‥』
 ユダは剣を下して全身から無数の光条を放つ。全周レーザー砲。岩の盾を利用してなお、周囲の三機は中破する。
『余りに退屈です。これ以上の戦闘は時間の無駄と判断しました。あなたがたには、無残な最期を与えましょう』
 この女王の宣告を聞いた瞬間、セラは最後の力を振り絞った。
「もう仕方が無いです‥‥! お兄様、レイミアさんを連れて逃げてっ‥‥」
 セラはボロボロのコロナで、光輪「コロナ」を形成、工夫も何もなく、逃げる算段も無くただ一機でユダに立ち向かった。
『‥‥愚かですね。足止めですら叶わぬ願いだとまだ理解できないのですか?』
 コロナの腕をユダが掴む。
「それでも! 私はお兄様が無事ならそれで‥‥!」
 セラは効くはずもないマシンンガンをユダの体に叩きこむ。
『なるほど。あなたがたも自分の生命を代償に他者の安寧を望みますか‥‥』
 何故か、女王はセラの行動に興味を持ったようだ。ユダはセラの機体をクロウの方に投げ飛ばす。
「お兄様っ‥‥」
 衝撃で、コックピット内で吐血しセラは、重傷を免れたものの気絶した。
 しばし、瞑目するエアマーニェの2。彼女が目を向けたのは傭兵たちの必死の応戦の間にも、全速離脱中の母艦である。
『人間たち。あなたがたを教育する者として、課題を与えましょう』
 ユダは少しだけ移動するとディメント・レーザーの射程内に母艦を捕える。危機を感じたマウルは当たらないのを承知で通常の航宙ミサイルを後方に発射。しかしユダは流れ弾を軽く迎撃する。
『それがこのユダの砲に対する回答であるならば、落第です』
 他者の生命を守る為にどれだけの人間が己の生命を投げ出すか。女王の下等生物に対する興味はその一点に集中した。何故なら、人間のその性向が強ければ、それは彼女の目的にとって都合が良いからだ。
 あの母艦が人間たちにとって重要なのは、エアマーニェも理解している。その母艦をこれみよがしに狙う事で女王は、人間の自己犠牲の性向の強さがどのくらいなのか確かめようと考えたのであった。
「エアマーニェ、貴様にブリュンヒルデをやらせはしません!」
 アルヴァイムが煙幕銃で少しでもユダを妨害しようと試みる。
『原始的ですね。人間』
 敢えて砲を撃たぬまま、人間達の反応を観察するエアマーニェ。この戦法は彼女の興味を惹かなかった。この時、護衛の三機がユダを射程に捕える。
「ミンナー! こんなトコで死んじゃダメですヨッ!」
 ラサがK‐02ミサイルを使用するが、無数のミサイルはユダの光線兵器に即座に撃ち落とされる。
『何が、ブライトンを畏怖させたのでしょう。理解しかねます』
 赤崎もレーザーライフルでユダを狙うがユダは平然と回避する。
 だが、Dレーザーが放たれようとした瞬間、一機のKVが煙幕とデブリの陰から飛び出した。
「ここまで来たんだ。行くぞ‥‥こんな事で喜ばないだろうが、続いているぜ。アンタが作った道は」
 殺(gc0726)は、ユダの注意を引く為にエアロダンサー改からのアグレッシブトルネード改を使用して、機剣で相手に切り掛かる。
「流石にプレッシャーが違うな。それでも俺達は越えて行くさ‥‥」
 シャアも、ユダの力は理解している。それでも仲間の為に、そして母艦を守る為にこの戦法を実行したのだ。
 しかし、その彼の覚悟を嘲笑うかのように、ユダは剣で怒涛の三連撃を全ていなし、最後に機体そのものを優雅に切り刻む。
 明らかに、ついさっきイレーネらや、クロウらを攻撃した時に比べて過剰な攻撃。それは女王にすれば、わざわざ発射を中断してやったことも含め、『道化』の『芸』に対する『褒美』であった。
「これで繋げられるかな、頼んだ」
 視界を爆発の閃光が覆い尽くしていく中、静かにシャアは呟いた。
 更に、再び構えられたDレーザーを何としても阻止すべくラサが機体を突っ込ませる。
「あの時の悪夢は繰り返させなイ‥‥! ウィリー殿や死んでいった者たちの為ニ‥‥!」
 その速度からして、機体そのものをぶつける気なのはエアマーニェにも理解できた。
 エアマーニェは考えた。回避する。ブレードで刻む。プロトン砲で一蹴。衝突されてやっても良い。ユダの強度ならラサの機体が一方的に破壊される。
 しかし、女王は今ここでブリュンヒルデを沈めない事を選択した。
『あの船の‥‥あの個体の為に身を投げ出す者が複数いる、と言う事が判りました。興味深いことです』
 ユダは、Dレーザーの効果範囲へラサを含めるように極僅かに射線をずらした。発射。機体の右半分は蒸発したが、ラサは意識を失う寸前で辛うじて脱出する。
 Dレーザーはブリュンヒルデをかすめたものの直撃は免れ、同時に暗礁宙域を抜けた母艦は一気に加速して更に距離を稼ぐことができた。全力での運転が不安視されていた動力炉も、問題なく稼動している。


「せめて、歯向かってやる! 全員生きて帰るよ!」
 赤崎は、殿を務めようとユダに銃口を向ける。既にブリュンヒルデは遥かに遠ざかっていた。
 無論、ユダの力をもってすれば追跡して沈めるのは難しいことでは無い。しかし、途中から人間の自己犠牲精神の程度に興味が移ったエアマーニェに、もはやその気は無く、悠然と機首を翻す。
『蹂躙は容易ですが、無駄な殺害はヨリシロの選定を難しくします。ユダの脅威を目に焼き付けて戻ることを許しましょう』
 マウルは、うつむいたままその女王の勝利宣言を聞いていた。敗北を演じることは予定通りだが、まだ成功を祝する訳にはいかない。生と死の狭間にある者の行方がわかるまでは。
「さっきの砲撃で怪我をした人はいるけど、艦内に戦闘不能になった人はいないの。後は‥‥」
「彼ら、ね」
 ユダが立ち去った後の空域では、傭兵の機体が必死の撤退作業を続けている。
「汝の、行動は確かに繋がりました。だから、死なないでください」
 アルヴァイムは、奇跡的に回収できたシャアの脱出ポッドを抱えてブリュンヒルデへ急ぐ。
「エアマーニェ‥‥俺は、あの場に、そして今日この場に居た人間として必ず立証する‥‥! 彼の、そして俺達の行為が無駄でなかった事を!」
 クロウもレイミアとセラのポッドを確保しつつ、ユダに叫ぶ。
「悔しいのは我も、皆も同じ‥‥! だが、ここは引くのじゃ、つかまれ!‥‥ラサ殿も無事じゃ‥‥!」
 藍紗は、推進系が破損したクロウ機を支え、唇を噛み締めた。藍紗のKVは、他に焼け焦げたポッドを抱えている。


 安全圏へ離脱してから数時間後、艦内に傭兵の待機の為に設けられた部屋に、珍しく満面の笑みを浮かべたマウルが現れる。
「重傷だけど、二人とも助かるわ! あんたたちも元気出しなさい! 私達は、勝ったのだから‥‥あいつは私たちの目的に気付かなかった。そして、全員生き残ったんだから!」

――別に私はあなたたち能力者を嫌っていたわけではありませんよ?

 誰かが、ある科学者のそんな声を聴いた気がした。