タイトル:【OF】残酷な星空マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/18 20:47

●オープニング本文


 北米大陸。人類とバグアの勢力圏の境界付近である山間部に、ボロボロのBFが横たわっていた。BFの側の地面では、このBFの持ち主であるドクトル・バージェス(gz0433)と名乗る少年のヨリシロを持ったバグアと修理用工具を抱えたゴーレムが話していた。
『どんなに急いでも、修理には、もう一週間は必要でしょうな』
「仕方ないねえ。じゃあメキシコに連絡するかなあ」
 ドクトルは、リリア敗死まで戦場に留まり続けた彼のBFが、重大な損傷を受け、修理が完了するまでは移動できないことを、リリア・ベルナール(gz0203)敗死後、彼の当面の上司となるエミタ・スチムソン(gz0163)に報告しなければならないのだ。
「まあ、丁度いいかなあ? 片づけなきゃいけない用事もあるしぃ」
『例の、ブレナー博士の事ですかい?』
 ゴーレムが尋ねた。
「どっちみち、『彼』にはもう時間が無いからねえ。修理が完了したら、この艦は移動させてよお? 僕は後で合流するねえ」
「予定の時間に来なかったら、喜んで先にトンズラしますぜ?」
 ゴーレムが皮肉っぽく言う。
「くす、珍しくこの体ででるからって、期待しても無駄だよお? 僕もそんなに深入りするつもりはないからねえ♪」

「ブレナー博士はいるか!?」
 LH島――招聘された、ブレナーの為に新設された研究室に、男が血相を変えて飛び込んで来た。応対した研究員に男は、UPCの情報部員と名乗った。
「ブレナー博士が、キメラの襲撃を受けた事件があったろう? 情報部で、その件について調べていたのだ。 今や、彼の重要性は自明の理だからな」
「まずは、博士の周囲にいる人間について洗い直した」
 ブレナーが天文台にいた頃からの助手であったその研究員は、見せられたファイルに添えられた写真を見て、不思議そうな顔をした。
 その少年は、ブレナーが天文台で開いている私塾に出入りしている少年の一人で、彼もよく知っている子供だったからだ。
 この少年は、かなり前から私塾に通っており、低学年の子供たちの補修まで任せられるくらい優秀で、ブレナーのお気に入りの生徒でもあった。
「その少年は、ピッツバーグがバグアに占領された際、戦闘で死んでいる。生き残った両親にも確認した。採集した指紋も一致している」
「家族は避難するのに精一杯で、死体は回収されなかった。その後ピッツバーグは、長らくバグアの支配下にあった。その子供は恐らく、強化人間だろう」
「博士は、今朝天文台に戻ったのです! その子から、博士が探していた重要なファイルが天文台で発見されたと連絡があったので‥‥」
「傭兵に連絡しろ!」
 情報部員と研究員は必死の形相でLH内を走り出した。

 満天の星空の下、その少年とブレナーは天文台の周辺を散策していた。ファイルはすぐに見つかったが、少年が久し振りに話をしたいと、ブレナーを連れ出したのだ。
「もう、当分は戻って来れないんですね。‥‥寂しいです」
 年齢と体型には不釣り合いな白衣を着込んだ少年が言う。
「ふぉふぉ‥‥そうがっかりすることはないぞ? 儂ら人類は、ようやく宇宙への一歩を踏み出したのじゃ」
 プチロフの偵察隊全滅から、カンパネラ浮上に至るまでの経緯は、民間人でもある程度把握している程有名な話題である。
「全人類が、平和な宇宙へ進出出来る時代を、勝ち取る為の第一歩じゃ」
 ブレナーは、改めて星空を見上げる。少年もそれに続いた。
「そう‥‥いつかは‥‥でも、僕にはもう時間が無い‥‥」
「なんじゃい、子供の癖に老人の様な事を言いおって」
 ふと、ブレナーが周囲を見ると、二人は断崖の上に突きだした岬のような場所に来ていた。少年はブレナーに向かって寂しそうに微笑むと、その岬の突端に歩いて行く。
「‥‥どうしたんじゃ? 危ないぞい?」
「さようなら、はかせ‥‥そして博士、この体をお返しします」
 少年は、そう言って静かに体を断崖に投げ出した。
 驚いたブレナーが慌てて駆け寄ろうとした瞬間。少年の背後の星空に、黒い翼のようなシルエットが広がり、倒れ込む少年を抱き留め、ゆっくりと地面に着陸した。
「始めまして、ラムズデン・ブレナー博士。星の素晴らしい夜ですね?」
 それはドクトル・バージェスだった。背中からは、まるで太古の翼竜プテラノドンを想起させるような一対の漆黒の翼が生えていた。
 ドクトルは、着地すると白衣の裾をスカートのように摘み、一礼する。
「‥‥!」
 普段は物事に動じないブレナーも、いきなりのバグアの出現に流石に絶句した。
「‥‥本当に、もういいの? このおじいさんと一緒に、キミの大好きな宇宙に行きたくない?」
 バグアは、背後から両手で、少年の頭を抱き、自らの顔を相手の髪の中に埋めて、甘い声で囁く。
 少年は、少し咳き込むと、自らの掌に付着した血を見て静かに微笑んだ。
「ごめんなさい‥‥僕はもう、ブレナー博士を裏切ってしまったけど‥‥だからこそ、せめて人間として死にたい‥‥それに、やっぱりブレナー博士はそんなことを望むような人じゃないって、解ったから‥‥」
 少年はもう一度ブレナーを見た。
「ごめんなさい、はかせ‥‥そして、おやすみなさい、博士‥‥」
「おやすみ」
 ドクトルが、少年を抱く腕に力を込めると、少年は安らかな表情のまま、操り人形の糸が切れるように、静かに崩れ落ちた。ドクトルはその亡骸を静かに地面に降ろすと、ブレナーを見た。
「どういうことじゃ!? その子に何をした!?」
「強化人間にして生き永らえさせてあげただけだよお?」
「この子も宇宙に魅せられたクチでさあ、ボクの命令を聞いてくれたら、約束通り宇宙に連れて行ってあげるつもりだったんだあ」
「この子の最後の望みを聞いた時、ボクが個人的に興味を持っていたブレナーっていう変わり者だけど優秀な科学者に接触する為の手駒に使えると思ったんだあ♪」
「でもお、この子ったら、貴方に師事している内に、感化されたのか、やっぱりバグアの手先になるのはイヤだって言い出して、強化人間の為の調整まで拒否しちゃってさあ」
「『ブレナー博士は高齢でしかもあの体だよ? 博士自身が生きて宇宙に行くのは難しいんじゃない? でもボクらバグアの手を借りればどうかなあ?』なんて言って誘惑してみたら、迷って、任務自体は続けてくれたけどお」
「最後まで悩んじゃってさあ。『どんな目的であれ、僕に時間をくれたのは、博士だから』とか言っちゃって、ボクの事も裏切れなかったんだよねえ。義理とかいう倫理なのかなあ?」
「くす、キミたち人間って、凄く面白いよお♪ あはっ、あははははっ!」 
心底楽しそうに笑うドクトル。
「あれえ? もう傭兵に嗅ぎつけられちゃったよお」
 ドクトルは、白衣を脱ぎ傍らに横たわる遺体にそっと被せ――滑空してブレナーに飛び掛かった。
「くす、ブレナー博士、その素敵なお腹で逃げ切れるのかなあ!?」

●参加者一覧

地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
サンディ(gb4343
18歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
月野 現(gc7488
19歳・♂・GD
大神 哉目(gc7784
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

 現地へ急行する高速艇の中。傭兵たちはブリーフィングを受ける。ブレナー博士が襲われたと聞いて、その反応は様々だ。
「‥‥有名なの?」
 騒がしくなった周囲の様子に、大神 哉目(gc7784)が疑問を口にした。
「尊敬に値する人だと思っている。駄洒落と腹に目を瞑れば」
 前に座っていた、時枝・悠(ga8810)が振り向いて答えた。
「宇宙の事には門外漢の私ですらそう思うのだから、宇宙人に好かれても可笑しくはないのだろう。何ともまあ、面倒な話だ」
「皆知ってる人みたいだし、誰だか判ってないのって、もしかして私だけ? まぁ良いや、とりあえず助けるのが今回の仕事だし」
 と、今日もげんなり全力投球な姿勢の哉目だった。

「お爺さん、そんなトコにいると風邪ひくよ?」
 転がっているブレナーに声をかける哉目。だが、ブレナーはピクリとも動かない。
「おじいちゃん!」
 その様子を見て、真っ先に駆け寄ろうとしたのは、ブレナーと面識があって彼の人柄に強く惹かれているサンディ(gb4343)であった。
 同じく面識のある地堂球基(ga1094)も、いまにも駆けだしそうな様子を見せ、ブレナーのすぐ上に滞空しているドクトル・バージェス(gz0433)に注意が向いている様子は無い。
 それを危ういと見た、鷹代 由稀(ga1601)が二人を制止する。
「ストップ、はいそこまで。助けたい気持ちはわかるけど、頭冷やしなさい」
「人質が無造作に転がされているなら、まずは罠の可能性を疑うべきね。助け起こした瞬間にドカン‥‥何てことも充分ありえる」
「やれやれ、大事な知己相手ならしょうがないとはいえ、こんな時に、むきになるなんて‥‥爺さん、待ってろよ」
 球基は、説得に耳を傾ける。ぽりぽりと頭を掻いても、忸怩たる想いは隠せない様子だ。
「でも爺さんはこれからの状況に欠かせないVIPだからよ。是非とも奪還しなきゃな」
「トラップの類はない。一気に駆け抜けるべきだ」
 探査の眼を使用して罠がないかを確認していた月野 現(gc7488)は、冷静に判断した上でそう主張した。
「焦って突っ込んじゃ助けられる人も助かんなくなるよ? 罠は無さそうでも相手さん自身が、罠みたいなモンでしょうが‥‥落ち着きなって」
 哉目が現を諌める。
「そう、トラップが無くても‥‥この距離じゃ、こっちが近寄るよりも向こうが博士殺す方が早いわよ。隙を作ってからじゃないと逆に危険ね」
 由稀が言う。
 夢守 ルキア(gb9436)も、即救出には慎重だったが、その理由は由稀とは違っていた。
(ラムズデン君を殺してしまえば、早いのに何故行わない? それは殺さない理由があるから。トラップは‥‥無いけど、救出時にはどうしても隙が出来る?)
 素早く推理するルキア。
「救出はちょっと待って、一網打尽にされる可能性もあるよ」
 ルキアが周囲に言う。
「戦いながら、徐々に離れて、救助したいヒトはラムズデン君に近づいて」
 ルキアが提案した。
「私も、早く救出したい‥‥が、ここは相手の撃退を念頭に置いた方がいいだろう。傭兵を数人釣った所で旨みなんざ無いだろうし、罠の線も薄いと思うが、構って貰えない奴さんが癇癪起こしたりしても嫌だし」
 悠の言葉に、一同は方針を決定した。あえて救出を後回しにして、先にバグアと対峙する傭兵たち。
「相談は終わったのお? 眠くなってきちゃったよお♪」
 ドクトルは、わざとらしい仕草で欠伸をして見せた。
「むぅ、こういう子供は面倒くさいよ‥‥」
 その態度に辟易したのか哉目がぼやく。
「強化人間退治ではなく、悪ガキ退治に変更ですのね。楽しくなりそうですわ」
 逆に敵を確認して俄然やる気を出したのが、ブリーフィングの情報にはあまり興味を示さなかったミリハナク(gc4008)だ。
「人類研究は進んでますの? 戦争で、人類は進化するという考えだけじゃ嫌なのかしら? そのヨリシロの感情?」
 ピッツバーグの戦闘で遭遇して以来、このバグアに興味を持っているらしい彼女はなおも話しかける。
 他の傭兵たちも、構えつつ相手の出方を見る。あるいは、敵だからこそ、その性向を探っておくのも無駄ではないと判断したのかもしれない。
「あれぇ。おねえさんお久しぶりぃ♪ くす、研究には終わりが無いよお」
「戦争での進化はハイリスクハイリターンだからねえ‥‥ボクのうるさい上司も、逝っちゃったしぃ」
「後、あんまりヨリシロは関係無いかなあ? ボクの行動はほとんど、バグアとしてのボク自身の感情だと思うよお」
 由稀が武器を構えた。
「話は終わった? なら、博士置いてとっとと消えなさい。お仕置きでケツ引っ叩く程度じゃ済まさないわよ」
「あはあ、ボクもそこまで弱くはないよお?」
 ドクトルも殺気を放つ。戦闘開始だ。まずは、球基が後方から銃を装備した傭兵たちに、錬成強化を使用しサポートする。
 悠は足元のバランスに気を配りながら、敵をブレナーから遠ざける為に射撃を行う。
 しかし、敵は悠の狙いを逆撫でするかのように、弾丸を躱しつつ、わざと老人の真上辺りを、人にたかる蚊のように飛び回る。
 悠が、自分より射程の短い仲間に配慮していた為、サンディは悠の牽制に合わせて前に出た。装備している散弾銃を撃ちまくる。
「こらー、それじゃブレナー博士に当たっちゃうでしょ!?」
 博士を傷付けられて、すっかり冷静さを欠いてしまった彼女はとにかくバグアを老人から引き放そうと必死なのだ。
「当ててもいいんだよぉ? ボクは別に困らないからさあ!」
 だがドクトルは、自身に飛んで来た散弾を軽く弾いて、嘲笑う。
 現の小銃も、球基の超機械による攻撃も、哉目の拳銃も悉く回避されてしまう。
 ルキアは、狙撃眼を併用した銃撃を遠距離から繰り出す。それを回避したドクトルが、ルキアの方に笑顔を向けた。
「ざぁんねん♪」
 しかし、ルキアはその挑発的な態度にも動じない。
「ね、もしかして、私達と戦いにっていうか、遊びに来たの?」
「どういう意味かなあ?」
 首をかしげる見せるドクトル。
 彼女は後方で敵を観察しつつずっと考えていた。バグアが飛行出来るのに、何故飛び道具を使わないのか? ガードが固い筈の老人を殺すというのに素手で来るか? その疑問はやがて一つの結論に到達した。 
(本気じゃない?)
 そう考えたルキアは、聞いた方が早いからという訳で、聞いてみたのであった。
「これでも真面目なつもりだけどぉ?」
 ドクトルが翼をはばたかせて放った強風を、ルキア手をクロスさせて受ける。
「遊んで欲しいのはきみダケじゃない。遊んでよ」
 ルキアは照準を合わせるフリをして崖から相手を引き離そうと、誘いをかけた。
 攻撃を回避しつつ、彼女の方へ低空から接近するドクトルが、射程に到達した時、ルキアは呪歌を発動させた。
 同時に、現がボディガードで、ルキアに向かって放たれたドクトルの蹴りを受け止める。一発当てて、即座に空中に退避したドクトルの動きが微かに鈍ったかに見えた。
 これを見て、攻撃を当てようと傭兵たちが間合いを詰める。
「体が動かないよぉ‥‥? なんちゃってぇ♪」
 傭兵たちがある程度集まったのを見て、ドクトルが一際大きく翼を羽ばたかせた。衝撃波レベルの風が傭兵たちを纏めて吹き飛ばす。一人一人が、お互いに離れた状態で地面に叩きつけられ倒れ込む傭兵達。
「あっはっはぁ、引っかかったあ♪ さぁて、誰から片付けようかなあ?」
 だが、悠が一足早く起き上がって、紅炎を構える。
 ドクトルは、彼女に攻撃しようと滑空する。しかし、それは悠にとっても、願っても無い好機であった。悠は、両断剣・絶の構え。油断したドクトルに痛烈なカウンターを食らわせる算段なのだ。
 だが、このバグアは、自分が戦闘向きでないことは承知していた、故に、相手の力量や自分の危険については的確な判断を下すことが出来た。
 悠の一閃は、空を切った。それでも、空気を震わせるその威力は、少なからずドクトルを心胆寒からしめた。
「あはっ♪ すっごおい威力ぅ! 危なかったよお」
 悠の手前で、斬撃を避け直角にカーブしたドクトルは、悠を横目に見つつ、その先にいた哉目と現の方に突進した。
 目標にされた現は、相手の羽を狙って銃撃を行う。
「飛行する者はまず墜としてやらないとな」
 更に死角からトンファーを構えた哉目が攻撃。これも狙いはドクトルの翼だ。
「頂くよ。 手羽先にしてもマズそうだけどね!」
 しかし、見た目は脆そうな翼も、実際にはFFのせいもあり頑強である。逆に近接攻撃を仕掛けた哉目は、翼を叩きつけられて弾き飛ばされる。
 だが、哉目が攻撃を受けてくれたおかげで現は退避できた。彼は、再び距離をとって銃撃を行う。突風を回避した彼の視界の端に、白衣で覆われた強化人間の亡骸が目に入った。現は、その白衣の意味について考えざるを得なかった。
「もし、悼む意思があっての行為なら‥‥」
「悼むう? ああ、君たちの言葉ではそう表現するんだっけえ? いやあ、楽しい見世物だったからさあ、くす。ご苦労様といったところかなあ」
 肩を竦めて薄笑いを浮かべるドクトルに。現は怒りを見せる。
「感情を理解出来ないなら理解しなくて良い」
 今なら、当てられる。そう判断した現は、素早く貫通弾をリロードして狙いをつける。
「だが、人間の想いを嘲笑うような事は許さない」
 しかし、ドクトルは素早く動いて狙いを逸らしながら現に接近し、その手を掴む。
「別に、嘲笑うっていうのとは違うかなあ?」
 いつも通りの口調。しかしその表情からは珍しく笑いが消えている。
「興味があるだけなんだよお? 君たちが何を考え、何をどう感じるか‥‥それは幾らヨリシロを得てみても、ボクらから遠い感情であることには変わらないから」
 そのまま、バグアは手刀を振り上げる。この一撃は、不味い。そう感じた現が咄嗟に自身障壁を発動させようとした瞬間、サンディが紅炎を構えて突っ込んで来た。博士を傷付けられてすっかり冷静さを欠いた彼女の、防御を考えない捨て身の突撃である。
「私は‥‥怒っていますよ!」
 ドクトルにとって、この攻撃は意表を突いたものであり、一瞬判断が狂った。
 現を開放して、浮上したドクトルは突風攻撃の構えを見せる。同時にサンディもソニックブームを放とうと構えた。
 直後、二つの衝撃波が真っ向から激突した。全身を真空に切り裂かれて、サンディが大きく吹っ飛ばされた。ドクトルは、逆に空中へ上昇していく。
「あいたたぁ‥‥今のは参ったなあ‥‥」
 ルキアはこの隙を逃さず照明銃を構えた。閃光が上空で炸裂する。
「悪戯好きの悪ガキにはお灸据えることも必要だね」
 由稀が、その隙をついて二連射を使用して、銃撃を行った。
 一発目はFFに弾かれる。が、強弾撃を併用した二発目が、辛うじてFFを突破。僅かに紅い血が跳ねた。ドクトルが腕を抑える。
「バージェス君。あなたの悪巧みは、止めさせて頂きますわ」
 優雅に言葉をかけたミリハナクが両断剣・絶を乗せた輝弓シェキナーで狙い撃つ。
 驚異的な威力の乗ったそれは、先程の悠の攻撃同様、直撃すれば、大きな被害を蒙るのは避けられない。
 ドクトルは咄嗟に突風を起こす。矢の構造上、突然の風は僅かに軌道を逸らし、直撃を免れた。
「潮時かなあ?」
 高空に退避したドクトルが呟いた。彼にとっては、こうも早くUPCが乗りだして来たのは計算外であった。
 ここで、仮に傭兵たちを下して、老人を確保した所で、既にUPCも然るべき対策はとっているだろう。悠とミリハナクの驚異的な攻撃力に警戒心を抱いたこともあり、ドクトルは大人しく引き下がることを傭兵たちに告げた。
 傭兵たちの方も、今回は老人救出が最優先である以上、相手引く意思を見せたなら、深追いする気は無かった。
 再度黒い翼を広げたドクトルが、飛び去る構えを見せた。
 それを見て何故か、ミリハナクが黄色い声を上げた。
「それにしても、翼竜の翼なんてレアコスプレしててカッコイイですわ♪ ああっ、夜じゃなければもっとよく見えましたのにっ! そうだわ、いっその事、バグア支配権のどこかの島で、恐竜を復活させたジュラシックパークでも作りません?(真剣)」
 ミリハナクの感想とか、提案とか、色んなものの混じったカオスな呼びかけに、ドクトルは微笑して応じた。
「う〜ん、別にやってみてもいいけどぉ、その恐竜さんたちは、どうせボクらの細胞で補った紛い物のキメラだよお? おねえさんの恐竜愛はそれで満足しちゃうのかなあ?」
 そう言われて、それもそうですわね、と難しい顔で考え込むミリハナク。
「後、この翼もも、翼竜じゃなくて、ずっと前にヨリシロにした飛行する知的生物の器官だよお。まあ、プテラノドンに似てるから選んだのは確かだけどねえ? それじゃあ、博士によろしくぅ♪」
 かくして、バグアは去って行った。

 サンディは、球基の錬成治療を受けると、すぐブレナーの元に駆け寄った。
「おじいちゃん、しっかりして、死なないで!」
 だが、外傷は無く、どうやら気絶しているだけだと解り、サンディは安堵した。
 続いて他の仲間に錬成治療を施した球基も老人の側にやって来た。球基は、既に意識を取り戻して呻いている老人を見ると、気付けのために、ジュースを差し出した。
 それを飲み干したブレナーは、顔見知り二人の顔を見て、呑気に挨拶をした。
「なんじゃ! 二人とも久し振りじゃのう!」
 二人は、苦笑しつつも、博士の無事を喜んだ。
 一方、悠と現は崖の上に置かれた遺体を回収していた。そこに、ブレナーが駆け寄って来た。無言で首を振る悠。老人は、白衣をどかして少年の死に顔を確かめると、再び布をかけ、悠、現と共に静かに黙祷をささげた。 

「今回は危ないところを助けてもらったのう、今更ながら肝が冷えたわい! これもお前さんがたのおかげじゃよ」
 LHに向かう高速艇の中、ブレナーは傭兵たちと和やかに会話していた。
「まあ、無事で良かった。アンタには生き残って貰い成すべき事を成して貰わないとな‥‥健康や長生きの為にダイエットしたらどうだ?」
 ブレナーの腹に目をやって、現が言った。
「何を言う、腹を殴られて、気絶で済んだのもこの腹のおかげじゃよ! 脂肪だけに、死亡フラグを防いだ訳じゃな!」
 表面上は、いつもの調子を取り戻して笑うブレナーに、球基やサンディも表情を緩める。一方で、思いっ切りゲンナリした者もいる。
「な、尊敬に値する人だと言っただろ‥‥駄洒落と腹に目を瞑れば」
 悠が、哉目に言った。
「むぅ‥‥確かに、駄洒落とお腹には目を瞑らないとね‥‥」
 哉目が答えた。
「‥‥大体儂はこの高速艇というやつが苦手なんじゃ。拘束されるからのお!」
 悠と哉目は向かい合ってため息をついた。