●オープニング本文

　ＵＫ弐番艦の出撃を許し、致命的なミスを犯したビル・ストリングス（gz0449）がリリア・ベルナール（gz0203）に叱責され、暴走したことでバグア内に生まれた亀裂は、リリアとエミタ・スチムソン（gz0163）の確執から更に大きく広がることとなった。
　エミタがギガワーム随伴部隊の過半数を率いて撤退したことで、戦局は逆転したのだ。
「総司令官は私です。撤退は、しません」
　にもかかわらず、リリアはこう言って作戦を継続した。
●
　始めにそれに気付いたのは、ワーム部隊を追撃していた部隊であった。
「何だあれは？」
　最初それは空の一点に発生した雲の染みにしか見えなかった。が、やがて瞬く間にその染みは文字通り空を覆い尽くした。
「鳥！？」
　ギガワーム侵攻途上の戦場の蒼穹を覆い尽くす、鳥。それは群れ等と言う生易しいものでは無く文字通りの大群であった。
●
　オタワの作戦司令室では、報告を受けたヴェレッタ・オリム（gz0162）と部下が会話していた。
「推定では、その数は数万羽以上です。キメラなので死を恐れぬ狂暴性こそあれ、戦闘能力も大きさも普通の野鳥並みです」
　部下が資料を簡潔に読み上げる。
「つまり、その数が最大の武器、か」
　オリムが言う。
「各地で押し込んでいた筈の我が軍が、押し返されたり、手こずらされています‥‥吹けば飛ぶとはいえ、この数が殺到すると実弾兵器は目標に届かないわ、光線兵器も減衰するわ、視界は塞がれるわ‥‥」
「厄介だな。それに‥‥悪趣味なキメラだ」
　オリムが吐き捨てる。
「リョコウバト‥‥19世紀初頭に50億羽を数え、この北米東海岸の空を覆い尽くし、その後入植と開拓に伴い、僅か一世紀でこの地球上から永遠に潰えた鳥類‥‥」
「人間の負の所業の際たる例、か。お前は、ピッツバーグを覚えているか？」
「は‥‥？」
　オリムの問いに、部下は怪訝な表情を見せた。
「いや、ピッツバーグを管轄していた、子供をヨリシロにしているバグアが通信で演説をぶっていたろう」
　――『くす、じゃあ、地球に生きる人間なら、生物も、土地もおもちゃにしていい訳だねぇ？』
　――『でも、彼らはどこにもいない。他でも無い。キミたち人間が、絶滅させちゃったもん。勿体無いよねぇ？　あはっ、あははははは！』
　戦闘後に記録されたレポートに残されていたドクトル・バージェス（gz0433）というバグアの言葉をオリムは思い浮かべた。
「‥‥」
　部下が表情を曇らせる。
「我々、が長い苦闘の果てにようやくこの北米を人類に奪還しようという時に、リョコウバトとはな、ふん。いかにも躾の悪い子供のやりそうなことだ。まるで、親に叱られた子供が、○○くんも、悪いことしてるもん！　と言い訳しているようではないか？」
●
「成る程、単なる無意味な、貴方の趣味の嫌がらせではなかったようですね」
　一方、ギガワームの指令室では、戦線の指揮を取るリリアがバージェスからの通信を受けている。表面上は常と同じ穏やかな笑みを浮かべている。
　しかし、よくみればその面影には、僅かに憔悴の色があった。これは、彼女が大陸一つを任されるクラスのバグアであることを考えれば、明らかに只事ではない。
「幾つかの戦線では、我々が優勢を保っているようですし‥‥」
「所詮は窮余の一策です」
　一方のバージェスは、珍しく口の端を釣り上げていない。
「何が言いたいのです‥‥？」
「私めが具申すべき事は、変わっておりません。閣下。このような闘いは――」
　無言で、しかし明確な苛立ちを表情に出しリリアは通信機の電源を切ろうとする。
「このような闘いは無意味な泥仕合、ですぜ。閣下ぁ」
　そこに、そう言って入室して来たのは、オズワルドと名乗るバグアだ。ギガワーム攻勢時には別働隊として、奇襲を行っていた精鋭部隊の指揮官である。
「貴方には、前線での指揮を任せたはずですが‥‥？」
「ひどい言いぐさですぜ。こっちは働き通しなんだ。補給ついでに、少しは休まねえと。何しろ、人が少ないもんでねえ‥‥シャワーも浴びれねえや」
　下品な仕草でボリボリと頭皮や、袂を掻き毟るオズワルド。
「お疲れえ、『マーサ』の調子はどお？」
　リリアが声を上げようとした時、ドクトルは親しげにオズワルドに声をかけた。ちなみに、マーサとは、かつてリョコウバトの最後の一羽に与えられた名前である。
「順調だぜ？　しかし、面倒だよなあ。普通のキメラみてぇに、直接俺らがコントロール出来ねえのは」
「仕方ないんだよぉ。生産性を極限まで優先したから、ボクらバグアの細胞の配合率が最低ラインでえ、この星の普通の動物をクローンで増やしたのと変わらないからねえ」
「だから、一体だけ、群れ全体を統率できるレベルまで、キメラとして強化して知能と能力を付与したそのマーサを経由しないと、戦術レベルの作戦行動はとらせられないんだよお」
「だから、この俺が、直々にこいつを直衛しつつ、全体の指揮を取るしかねえんだろ？　まあ仕方がねえやな！　こいつがやられれば、ハト共は本当に好き勝手暴れるだけ、俺がやられるとこいつだけでは戦術レベルの判断はパー‥‥つくづく泥仕合だぜ」
　司令室に、大きな音がした。リリアが机を両手で叩いたのだ。椅子から立ち上がったリリアは下を向いており、表情は見えない。
　ドクトルはしばらく沈黙した後静かに言った。
「じゃあ、ボクもそろそろ戦闘にもどるよぉ、‥‥色々とごめんねえ？」
「気にするな！　お前には、このヨリシロを見繕ってもらった借りがあるしな！」
　通信が切れる。その直後、指令室のドアが開かれた。
「失礼イタシマス。総司令官閣下」
　現れたのは、寄生頭と呼ばれるオズワルドの副官だ。人間の頭に寄生した寄生生物に更に寄生しているという変わり種である。
「隊長、敗走シテキタ友軍デス。敵ノ追撃ヲ受ケ支援ヲ求メテイマス」
「オーライ！　すぐに出るぞ！」
●
「すまない‥‥！」
「まあ気にすんな。補給は受けさせてやるから、少し休めや！」
　追撃して来たKV部隊を、ハトキメラとの連携で撃退したオズワルドのティターンは、満身創痍の友軍ワームを支えながらそう声をかけた。だが、そのワームのパイロットは、申し訳無さそうな声で言葉を続ける。
「補給は有難い‥‥だが、我が隊は、もうこれ以上は‥‥」
「補給を受けたら、エミタの尻を追っかけてトンズラしたいんだろう？　まあ仕方ねえやな　誰だってこんな泥仕合、願い下げだぜ。いいからとっとと行っちまえ。俺がうまく誤魔化しておくからよ」
「すまない‥‥だが、お前の部隊は‥‥？　まだ、リリア閣下に従うというのか？」
　
　――蒼穹を覆い尽くす青い鳥の大群。その中央に、タロス二機を従えたティターンが敢然と立ちはだかる。
「来いや！　この自称・高位生物？　たる誇り高き？　バグアの一である俺様が、まとめて叩き殺してヨリシロにしてやるあ！」
　

●参加者一覧

●リプレイ本文

　日野　竜彦（gb6596）は、自機であるシラヌイ改、日竜のコクピットから周囲を眺めて言った。
「地球の侵略に来た相手が地球で絶滅した生物を復活させるとは皮肉が効いてるね」
　グロームbisに搭乗する石田　陽兵（gb5628）は、肝心のワームの数が少ない訳を情勢から察して呟いた。
「なんて数だ。まったく貧乏くじだな。でも、敵も同じ、かな？　やれやれ」
　ミルヒ（gc7084）は攻撃前に、天、【白】に装備したスナイパーライフル（以下SR）で群れの一部を狙撃した。妨害のパターンや、反応を確認する為だ。
　しかし、群れの一部が攻撃されたぐらいでは、鳩達は動じず、特別な反応は見られなかった。
「‥‥数は怖いです」
　ミルヒはそう言った。。
　クリスティ・ボツリナム（gc0986）も、乗機のマリアンデール、かもし砲台のガトリング砲で群がる鳩キメラを落しながら、敵について推察する。
「鳩だけでは攻撃力がないけど、敵ワームは単に攻撃を担当するだけじゃない。あの繊細な動きは、敵ワームが指揮してこそのもの‥‥」
「今の指揮官はたぶんティターン。あれを叩けば鳩の中にまとめ役が居たとしても、鳩の組織的な行動を混乱させることができるはず‥‥！」
　クリスティは仲間に呼びかけた。
「ボクがティターンまでの接近路を作ります」
　DR−Mもよる掃射を提案するクリスティ。仲間が、早速援護を開始した。周囲のキメラが傭兵たちの攻撃で次々に落とされる。その中の一体が、空中で分解して融解するのを見たクリスティが呟いた。
「‥‥死んだら消えちゃうのか。キビヤックにもできないわね‥‥」
　大神　直人（gb1865）はG放電で、射撃を妨害しようとするキメラを焼き殺す。
「援護する。クリスティさん、頼んだよ」
　傭兵達の機体に、鳩の大群に隠れてタロスのライフルが照準を合わせる。しかし、【白】が、ミサイルの弾幕で射線上のキメラを削り、煙幕装置を咄嗟に使用して、相手の攻撃を妨害する。
　DR−Mの一発目を発射するクリスティ。キメラが次々に蒸発し、黒雲のような群れに隙間が生まれた。しかしキメラはまるで、機械の様に無駄の無い動きでその隙間を埋めにかかる。
　さらにキメラは、かもし砲台にも群がり始めた。だが、クリスティはブーストを噴射させて、機体に取り付き視界をふさぐハトを振り払う。
　そして、急速に塞がって行く群れの隙間に向けて、クリスティ以外の傭兵は敵ワームに向けて突撃を開始した。
●
「力の減退か‥俺の白皇には如何でしょうか‥‥」
　終夜・無月（ga3084）は、音速超えの機体が纏う風圧衝撃と螺旋回転移動で、機体を強力な弾丸と化し一直線に指揮官機の方へ向かった。
　鳩の群れを縫ってプロトン砲や、フェザー砲の光条が飛び交うが、バレルロールさせ、鳩弾きながら距離を詰めて行く。
　その無月に追随する様に、直人機とオルカ・スパイホップ（gc1882）のスレイヤー・テールスラッピングも続いた。
　まず、直人がG放電を放つ。指揮官が逃げるか、何かを守るようなそぶりや過剰な反撃を行った場合、その反応から、キメラを指揮する個体がいる位置を識別する為である。
　しかし、ティターン（以下T）は、鳩の群れのおかげで被害を受けることも無く、特別な反応も見せず平然と打ち返して来る。
　マーサが群れを統率するのに、前面に出る必要は無い。安全な位置から指示を下せば、一々相手に警戒を抱かせるような行動を取る必要も無いということだ。
　結局、G放電を撃ち切っても、Tから直人が期待する反応を引き出すことは出来なかった。仕方がないので直人はマーサが居そうだと判断した場所諸共、指揮官を強化型ＳＥＳ発動させたミサイルで攻撃した。
　しかし、通常のキメラが墜落するだけで、やはりマーサに命中した様子は無かった。
　一方の無月は、マーサがいる位置は指揮官機の周囲だと考え、G放電で、T周囲の鳩を攻撃する。その攻撃で開いた穴からオルカが、Tに攻撃を仕掛けた。
「語るに及ばず！　おっとこなら〜♪　拳で語り合うのみですよ〜♪　空中でのシャチの泳ぎ方！　見せてやりますですよ〜♪」
　機関砲で、Tを牽制しつつ接近するオルカ。
『前回、コイツ（寄生頭）が世話になったガキか、面白ぇ！』
　機関砲を盾で弾きつつ、フェザー砲を放つT。だが、その隙に、別角度から無月機がソードウィング（以下SW）で突撃。
「ナイスフォロー、です‥‥オルカさん‥‥」
　無月も、レーザーガトリングを乱射しつつ、TにSWを叩きつきる。Tの盾とウィングが激突。火花が散る。
　そこに、空中変形したオルカ機が錬剣雪村を振り下ろした。錬剣である以上、サーベルで受ける事は不可能である。
　だが、オズワルドはサーベルを高速で納刀する。直後、にゅっと伸びて来たTの腕が、直前でスレイヤーの手首を掴み、斬撃を食い止めた。そのままスレイヤーを振り回し、ミカガミに叩きつけ放り投げるT。勢いよく二機は弾き飛ばされた。
　本来空中で減速してこのような挙動を行うのは良いマトだ。だが、マーサの指示を受けた鳩がすかさずオズワルドの周囲に壁を作り、直人の攻撃や流れ弾から指揮官を守った。
「やはり、キメラの群れを統率しているヤツを叩かないと‥‥！」
　直人はそう言って、スラスターライフル（以下スラライ）で、群れを攻撃する。
　が、そんな彼の眼前に、Tが迫っていた。
『おいおい‥‥さっきからお前、隙だらけだぜぇ？』
　直人の失策は、敵指揮官機の眼前と言う、本来なら敵に集中しなければならない状況でキメラの探知に気をとられ過ぎた事であった。彼は、ススライで応戦するが、オルカと無月のフォローが無い状態では、攻撃を尽く鳩に防がれてしまう。
　Tは瞬く間にアストライアを補足し、フェザー砲を撃った。
　直撃を受けた直人は重傷を負い、機体も大破する。Tは止めを刺そうと、真上から再びP砲を放とうとしたが、そこに、二射目のDR−M掃射が行われ、危うい所で直人は脱出することができた。
　続いてオルカと無月が戦闘に復帰する。ミカガミが掃射で出来た射線を利用して、荷電粒子砲を放つ。
　この一撃は、鳩によって多少減衰しながらも、見事にTを捕えた。シールドが蒸発し、本体も軽微とはいえ、確かに傷を負った。
　更に、オルカが再度空中変型からの錬剣を見舞わんと振りかぶる。
「剣こそ僕の全て！　小手先の業なんて使わずに最高の技を繰り出し続ける！　まだ速くなるはずだ、もっと錬力を込めれる。こんなものじゃない。全て高まれ、全て潰す！」
　だが、今度は先程の様に二対一ではない分、オズワルドにも余裕があった。鳩に周囲を守らせつつ、余裕でサーベルを振るって切り返す、が、それが仇になった。
「さっき、なんかすっごい技っぽいのしてきましたよね〜！」
　斬撃はフェイントだった。スレイヤーが錬剣を構えていない方のアームを伸ばし。Tの腕を掴む！
『うおお！？』
　驚愕の叫びを上げるオズワルド。
「敵さんの戦い方見てマネ出来そうなのあればいいな〜と思って、注意深く観察したですよ〜！　武器が違ってもマネ出来る事は絶対にあるはず〜！　その場でマネ出来そうならする為に！」
　だが、Tと違って慣性制御を持たず、最新型とはいえ、精鋭機程の出力も無いスレイヤーでは、Tがやったように投げ飛ばすことは出来ない。
　オルカはそのままスレイヤーでTを抑え込む。
「無月さん！」
「今度こそ‥‥」
　オルカの叫びに応え、無月がソードウィングを構えてブーストで加速、白いミカガミが鳩の群れを切り裂きながら矢のように滑空し、Tをすれ違いざまに切り裂いた。
●
「日野さん、ほんの一時で良いのであります。タロスを抑えていて欲しいのであります」
　破曉、阿修羅・聖堂騎士団を操る美空（gb1906）は、傍らを飛ぶ竜彦にそう声をかけた。
「こう、何万羽もうじゃうじゃと飛び回られているのは流石に鬱陶しいな‥‥でも確かに手強い。打開策をとらないと、いつまでもこの消耗戦が続きそうだな‥‥行くぞ！」
　最初のクリスティの掃射で空いた穴を埋めようと群がる鳩を、ススライで落しながら竜彦はシラヌイを寄生生物のタロスに向けて突撃させた。
　相手がフェザー砲しか装備していない以上、射程距離は竜彦の方が上。
　しかし、キメラの群れの妨害は激しく、結局両者が火線を交錯させたのは、タロスのF砲の射程までシラヌイが到達してからだった。
　タロスのF砲に合わせて鳩が射線を空けるその間隙からシラヌイのミサイルがタロスに向かう。しかし、別の鳩の一団が、即座にミサイルを相殺し、タロスには一発が当たっただけであった。
　SRも、この鳩の妨害の前では照準をつける事すら叶わない。
　逆に、タロスは鳩の盾を利用して、的確にF砲を浴びせてくる。
『いいぞ！　そのまま落しちまえ！　いや、それともとっ捕まえてヨリシロの衣替えかあ！！』
　優勢に戦う部下を見て、オズワルドが下品に笑った。
「‥‥！　ヨリシロにされるぐらいなら死んだ方がマシだ！！」
　竜彦は、キメラの大群に視界を阻まれ、敵を見失いながらも、焦らずAECを発動し、機体にF砲を弾かせた。
　そこに、美空の破曉がソニックフォンブラスターを使用。害鳥駆除用の超音波を録音したテープを群れの中枢と目星をつけた位置に流した。これは、群れに乱れが出るかどうかを観察して位置特定を図る為であった。
　この美空の狙いは半分だけ的中した。繰り返しになるが、マーサは広い戦域で巧妙に安全な位置を確保しながら鳩を制御しているので、何ら影響は受けない。三機のワームもいちいちマーサを守る為の行動を起こしたりはしない。
　しかし、ごく狭い範囲、すなわち寄生生物のタロスと竜彦、美空が交戦しているエリアの鳩が、この攻撃で一時的にマーサの制御を失い、混乱したのだ。
　これは、鳩がキメラといっても、ほとんど通常の生き物と変わらない程度の改造しか受けていないことが原因であった。
「日野さん！　避けるであります！」
　美空は叫び、機体を超限界稼働させ、対艦荷電粒子砲をタロスとその周囲の壊乱した群れに向けて放った。
　群れの突然の混乱に翻弄されたこともあり、タロスは直撃こそ避けたものの、脚部を吹き飛ばされた。傾くタロスに日野が、ありったけの螺旋弾頭ミサイルを発射。何発かは、タロスのフェザー砲に迎撃されたものの、今度はその多くが敵に炸裂した。
●
『また、外れた‥‥』
　後方から狙撃で援護を行っていたメイドは、舌打ちした。先程ミルヒが煙幕を貼ったのに加えて、ソニックフォンブラスターを照射する美空も煙幕を張っていた為に、メイドの狙撃は、超音波の照射に専念して無防備な美空機を捕えられないでいたのだ。
　おまけに、ミルヒは狙撃と連携を断つ事を主軸に動いている為に、メイドは、思うように味方の援護も出来ない。
　これ以上、足止めされては叶わないと、メイドは銃器を【白】に向けた。
　そこに、張り付いた鳩を横にロールして振り払いつつ、バルカン掃射で視界を確保しながら、石田の機体が突撃して来た。
　そこに再び鳩が群がる。
「纏めて吹っ飛ばしてやるよ！」
　グロームは、G放電装置を使用し、ミサイルも織り交ぜ、周囲の鳩を撃墜する。一瞬姿を現すメイドのタロス。だが、即座に鳩が群がり始める。
「やることやって、逃げさせてもらう！」
　まだ塞がりきっていない穴に、グロームはラージフレアを展開して離脱を図った。が、その煙幕の中からぬっと、タロスが現れた。
『邪魔はさせない‥‥』
　手にしたハンドガンを乱射する。ラージフレアのおかげで直撃は免れたが、グロームはかなりの損傷を負い、徐々に高度を落とし始めた。
　撃墜したと判断したメイドは、【白】の方にライフル型のプロトン砲を向ける。煙幕は薄れかかっていた。戦闘開始直後から、他の味方の分まで散布し続けた【白】の煙幕は既に弾切れであった。
　しかし、ミルヒは再びミサイルを放つと、G放電を使用、なおも射線をこじ開けると、そのまま敵に機体を突撃させた。
「戦います。役に立てるように――足手纏いにならないように」
　そう呟きながら、ミルヒは群がる鳩を接近戦用のM−SG10ショットガンで吹っ飛ばしながらタロスに近づいていく。
『そうか、KV用のショットガンなら、複数の鳩にも有効だし接近戦にも対応できるよね‥‥』
「戦闘経験を積んだのです。どのように動くのがいいのかを」
　そう言ったミルヒは、過去にこの強化人間と戦った時の事を思い出していたのだろうか。
　接近戦では、ハンドンガンで対応しきれないと判断しあメイドが、SRを構え、機体を下げる。その時、低空から飛来したミサイルが、SRの銃身に命中した。
　石田は、機体ごしでは命のやり取りだという実感がなく、ある意味ゲーム感覚であり恐怖も無かった。
　よって、石田は落下する機体の中でも、彼は恐怖を感じることなく冷静に思考を巡らせた。そして、脱出では無く斜め四十五度の復活にかけた。
「限界か‥‥？　いや、意地見せろ！」
　彼の愛機は見事に応え、持ち直した。今のミサイルはメイドの注意が石田から逸れた絶好の責め時を利用した石田の絶妙な一撃であった。
●
『オズ様！』
　味方が全機損傷したことに気付いたメイドが叫んだ。
『取り乱すない！　この通り俺たちはピンピンしてるぜ！』
『デスガ、私ノ機体モ、隊長の機体モ、計器類損傷ガ激シイ。コノママデハ‥‥』
　オズワルドと寄生頭が、メイドに言う。
　機体の計器で座標を算出して、マーサに正確な指示を出し続けるこの自称・精鋭部隊の指揮官が、KVとの空中戦をこなしつつ、デリケートな指示を行っていたのは脅威である。
　しかし、機体が計器を含め、大きく損壊した状況では、これ以上マーサと連携するのは不可能であった。
『リリア司令には悪いが、一旦引くぞ！　犬死は性に合わねえや！』
　オズワルドはそう指示を出し、マーサにも最後の指令を送った。途端、それまで整然と戦場を覆っていた群れに変化が生じた。全ての鳩が狂ったように傭兵たちのKVに向かって突撃を始めた。
　だが、いくら傭兵たちのKVが激戦の後とはいえ、キメラだけの闇雲な突撃では、どうにもならない。
　まず、クリスティが最後の掃射を行う。これに合わせるように、地上と空中に待機していた北中央軍のKV部隊が一斉に攻撃を開始した。
　群れは、為す術も無く掃討されていく。時間こそかかりそうだったが、既に全滅は時間の問題であった。
　日が暮れはじめていた。
「人類とバグアの戦いもあのリョコウバトみたいにどっちかが絶滅するまで続くのかな？」
　その様子を見ながら竜彦が言う。
「かつて一度は滅ぼしてしまった相手なのです。もう一度滅ぼすのは訳ないのでありま‥‥す‥‥ごめんなさいなのであります」
　美空は、人類の傲慢故に滅ぼされ、今またバグアに利用された旅行鳩に同情しつつも、再殺覚悟を決め、掃討を手伝いつつ仲間ともに空を駆けた。