タイトル:【NS】蹂躙出来ない者マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/02 06:37

●オープニング本文


 UPC軍人をヨリシロにしたバグアは多い。ヨリシロとなった人間の個性が出る場合もあるし、そのバグア自体の個性が色濃く出る場合もある。
 このオズワルド少尉の場合は、後者である。
 本来は、精強な、そして寡黙な武人であったのであろう。しかし、今の彼の表情には隠し様の無い、下劣さが湛えられいる。
『くそ、やっぱりこのヨリシロ、買い替え時じゃあねえのか!?』
 オズワルドは、悪態をついた。彼に下された任務は、モントリオールを落し、オタワへの侵攻を開始したギガワームの進路上で遅滞戦闘で抵抗を続ける部隊や、防衛拠点への奇襲だ。
 この男、下劣ではあるが、ティターンを下賜され、精鋭部隊タロスを率いるだけあって、確実に任務をこなしていた。
 だが、シャンプレーン湖から後退して来たKV部隊との交戦が、戦術に狂いを生じさせた。
 この部隊は、かなりの手練れであり、オズワルドも手を焼いたが、最終的には全滅させた。
 問題なのは、この部隊が、オタワに奇襲部隊の存在を報告してしまったことだ。しかし、オズワルドは、迷わず方針を転換。付近の都市を占拠し、これみよがしに籠城を決め込むことにした。
 UPCとしては、彼らを放置できず、結果として少なくない戦力を、自分たちが引き受けられるとういう算段である。
 そして、ある小さな街に現れたオズワルドは、先刻交戦した部隊の隊長機の残骸が放置されているのを発見した。パイロットは、どうにか生きて脱出したらしかった。
『こいつはお買い得だ! 新しいヨリシロが、俺を呼んでいるぜ!』

 男の子は、たった一人で逃げていました。目指すは町はずれの丘にある廃校で彼らの『ひみつきち』です。兵隊さんは、苦しそうです。能力者とはいえ、重傷の身では、思うように走れず、男の子が必死に支えています。
 街の大人たちは、皆悪いバグアに脅されておかしくなってしまいました。
 自分たちを守る為に戦って、傷ついた兵隊さんを、町の安全の為にバグアに引き渡すと言い出したのです。
 男の子は、そんなのおかしいと思いました。だから、会議で、兵隊さんを渡すと決まった時、病院に走って兵隊さんを連れ出したのでした。
 藪を抜けて、夜の闇の中に廃校が黒々とうかんでいます。夜は、こわいところだと思っていたけれど、今の男の子には頼もしく見えました。

『オラァ、一分以内に出てこい! でないと建物をぶっ壊す!』
 廃校にサーベルを振り上げて見せるティターン。しかし、オズワルドは躊躇っていた。彼は、バグアの中でも殊更ヨリシロの更新に目の無い性格であり、少しでも優秀な人間は皆、すべからく彼にとってはヨリシロ候補。
 その基準はどう見ても、他のバグアの選定基準より甘いのだが、本人はどこ吹く風だ。
 前回のシャンプレーン湖畔の戦闘で彼を苦戦させた兵士は勿論、住民が臆病風に吹かれて、人身御供を差し出そうとする中、ワームに逆らう子供も、彼にとっては『未来の』ヨリシロ候補なのだ。
 ガラスの割れた窓から、ティターンの、頭部?の眼?に当たる部分が校舎の内部を覗き込み、ギラギラと輝いた。
 兵士は、子供を守ろうと、傷ついた体で剣を握り締め、子供は半ズボンと、ハイソックスの白い脚をガクガクと震わせながらも必死にティターンを睨みつける。
『Yeah! いるいる、俺の新たなヨリシロが! さぁあ、どうやって、傷つけないように穿り出してくれようか‥‥』
『オズ様、遊びは終わりだよ。 てきが来たよ』
 水を差したのは、ストリートの方から、飛んで来た、部下のタロスである。その操縦席に座っているのは、何故か、他に言いようのないメイド服を来た‥‥少年だ。
『あぁ!? 今いいとこなのに‥‥おっ!』
 自機の足元を見たオズワルドは驚いた。
「――をはなしてよ! でていけ、わるいバグア!」
「ぼくたちのまちから出て行け! おまえなんか、やっつけてやる!」
 彼のティターンの足元には、街中の子供が集まっていた。
 たった一人の少年が見せた勇気に、他の子供たちも心を動かされたのだ。
『すげえ‥‥このティターンで一踏みすりゃあ、纏めてぐっちゃぐちゃの潰れたトマトつーの? になるような、下等生物の癖に、なんて気概だ‥‥本星のお偉いさんが、この星に御執心なのも納得だぜ!』

 子供たちのことで、大混乱に陥った市民たちを一発で黙らせたのは、もう一機のタロスから降りて来たヨリシロの吐き気を催す外見である。
 そのバグアの本体は、UPC軍人の頭部に、触手やら、節足を耳や口や鼻に無理やり突っ込んで寄生している甲殻類と、鱗翅目の幼虫の悪い所を合わせたような寄生型宇宙生物だったのだ。
「あの子が、勝手にやった事なんです! うちの子は関係無い!」
「お許しを‥‥! まだ、自分のパンのどちら側にバターが塗ってあるかも解らない子供のしたことなんです!」
 大人たちの、声は、オズワルドにも回線を通して聞こえていた。
『こいつらは駄目だな! 俺のヨリシロ候補には相応しくないYo!』
『隊長、傭兵タチガ接近中デス。戦闘準備ヲ』
 一人で盛り上がる上司に、二重寄生生物は冷静に告げ、住民たちにも声をかけた。
『皆サン、シェルターナリ、地下室ナリニ退避サレルガイイデショウ』
『オ子様方ニツイテハ、心配無キヨウ。隊長トテ、足元ニ障害物ヲ抱エタママ迎撃スルホドワキマエヌ方デハナイ‥‥我々ハ、人質トイウ戦術ハ不利ニナルト愚考スルユエ、貴方タチカラ妨害ヲ試ミヌ限リ、手出シハセヌト保障シマス』

『よし! 迎撃開始! ‥‥ん? アッー! お前ら離れろ! 機体に取り付くな! 白兵か!? 白兵戦なのか!?』
 オズワルドが強く抵抗しないのをいいことに、機体の脚にしがみついてコクピットまで昇ろうとする子供たちに、彼は思いっきり狼狽えた。
 このまま飛び上がれば、いくら慣性制御とはいえ、彼の言うヨリシロ候補を機体から振り落として、それこそ潰れたトマトを量産してしまう。
『オズ様、また浮気してる。僕というヨリシロ候補がありながら‥‥』
 寄生頭と呼びかけられたバグアは肩を竦め、素早くタロスを起動させた。
『トリアエズ我々ダケデ応戦シマショウ。 確カニアレデハ動ケナイガ、敵ニ対シテモ、人質ニハナル』
『人質‥‥あんまり有効じゃないと思うけど』
 少年は、俯いて、眉を顰めた。
『同感デス。 シカシ、ココハ不本意ナガラモ状況ヲ利用スルシカナイデショウ』

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
D・D(gc0959
24歳・♀・JG
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

 街に到着した傭兵たちは、まず子供たちの安全を確保する為の交渉に入る。
『あのティターン、群がる子供らを気遣っているものの、腹に一物ぐらいはありそうだな』
 時任 絃也(ga0983)は、この特異な状況に感想を述べた。続いて、飯島 修司(ga7951)が、オズワルドと交渉する。
『構わねえぜ! ヨリシロ候補をうっかり潰したくねえ!』
「唾棄すべき願望じゃ。だが、子供達を惜しいと思うならば、我らと共に待て。その上で雌雄を決し、勝った方が全てを取るのじゃ」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)がそう挑発する。
『俺が勝っても、ガキ共をさらうつもりはないぜ? 養殖より天然だろ!?』
 オズワルドは配下に命令し、武器を下ろさせる。傭兵達は子供たちを、全滅したKV隊の隊長と、少年がいる旧校舎に退避させることにした。
「大人達を差し置いて、軍人を守る事はあっぱれ。礼を言わせてもらう。我らがバグアを駆逐する間、避難していてくれ」
 最初に美具がそう呼びかけた。
「その勇気は賞賛するが、後は此方に任せて貰いたい。貴兄らには俺達が、現状で守れない人たちを頼みたい」
 続いて、時任の説得。子供たちも、KVが来たので、安心して説得に従った。この間、D・D(gc0959)は周囲を探して狙撃の為に身を隠す場所を見つけていた。
 避難を見届けた美具は、気概なき大人達を差し置いて、敵に立ち向かう子供たちの勇気を、この場は褒めたが、後で厳しく諭そうと決意するのであった。

 傭兵達は飯島の指示に従って、素早く三班に分かれ戦闘を開始した。バグア側も、お互い連携可能な距離を維持しつつ、各個撃破を狙うべく、あえて傭兵たちの作戦に乗った。
「うわぁ‥‥『これでもかっ!』ってくらいにガチムチ格闘系な武装ねぇ‥‥」
 そうぼやきながらも、エリアノーラ・カーゾン(ga9802)は、寄生頭のタロスが繰り出す二本の斧槍による連続突きの猛攻を、機盾と、自機のシュテルン・G、空飛ぶ剣山号の堅固な装甲によって防ぐ。
「と言うか、ハルバード二刀流って初めて見たわ‥‥!」
 その激烈でありながらも鋭敏な太刀筋に、エリアノーラ(愛称ネル)は防戦一方に追い込まれる。
「陸に上がったシャチですけども〜、水がなくて泳げないことはないんですよ〜? 雪村、ぶっしゃー!」
 その危機をオルカ・スパイホップ(gc1882)のリヴァイアサン、レプンカムイが救う。ブーストで突進してきた同機の錬剣はシステム・インヴィディアで強化されている。
「一撃は耐えれるよね〜?」
『ゴ希望ニ沿イマショウ』
 寄生頭のタロスは、右手側の斧槍を上空高く放り投げる。
「どんだけ駆動系強化してんのよコレ!」
 ネルの驚愕を他所に、タロスは軽くなった右手に、装着したトンファーを構え、錬剣の一撃をトンファーで受けた。だが、非実体剣から溢れた苛烈なエネルギーはタロスの腕までも焼き焦がす。
 すかさず踏み込まんとするネル。しかし、ヤバ気な感じに慌てて機盾を構えた。次の瞬間、放り投げられた斧槍が、回転しながら落下。盾をかすめてネル機の足元に突き刺さる。
 しかし、オルカはトンファーを破壊すべく錬剣で再び切りつける。タロスはネルに対してはフェザー砲での牽制に留め、オルカ機を斧槍で薙ぎ払うが、オルカは素早くタロスの手の横へブースト移動しその腕を掴む。
「攻撃攻撃〜!!」
 連続で振るわれるディフェンダー。だが、タロスは素早くもう一本の斧槍も大地に突き立てて、トンファーで応戦。至近距離でトンファーと剣が打ち合う。
「ふっふっふっふ〜‥‥有人機とのバトルは大好きですよ〜♪」
 オルカは本当に楽しそうだ。
「ねえ、楽しい? 僕楽しいよ♪」
『楽シイトイウ感覚ハ難シイ。ダガ、強敵トノ交戦ハ確カニ有益ナモノデス』
「お楽しみの所わるいんだけど‥‥ショルダーキャノン(以下SC)でもブチかまされてくれる?」
 間合いを取ったネルが、オルカに当たらないよう注意しつつSCの照準を合わせる。。
 だが、タロスは、オルカ機の腕を逆につかみ返すと、強引にオルカ機を振り回し、SCへの盾として利用した。
「大丈夫〜! このくらいならノックみたいなものですよ〜♪」
 砲撃をオルカ機に当ててしまい慌てるネルに、オルカが声をかける。彼は、咄嗟にアクティブアーマー(以下AA)で砲撃を防いだのだ。
 一方、タロスは、衝撃で握力の緩んだオルカ機を振り解き、ネルに襲い掛かる。
 斧槍を二本とも地面に刺しているタロスは、両手のトンファーでSCの砲身をひしゃげさせた。
 だが、ネルも剣翼で反撃し、追撃を許さない。一旦距離を取り、ついでに斧槍を回収したタロスにオルカが仕掛けた。
「全力全開〜!」
 オルカは、タロスが迎撃で繰り出した斧槍による突きを、AAで防ぎそのまま敵に強烈な体当たりを敢行。反動で両機の距離が開く。この瞬間、オルカはマルコキアスを起動し寄生頭は、この戦闘中初めて二本の斧槍を連結させた。
 続いてオルカは弾幕を張りつつ、エンヴィークロックで急制動をかける。それは、素早く反撃に転じる為であり、この距離なら牽制用のフェザー砲以外の攻撃は届かないという判断だ。
 誤算は二つあった。一つは敵が慣性制御を行うことでオルカより早く、体勢を立て直したこと。
 もう一つは、連結されることで斧槍の射程が二倍に伸びたことだ。気付いた時には長大な斧槍がレプンカムイの装甲の隙間を貫いていた。膝をつくレプンカムイ。事もあろうにコクピットを抜いた。
「あぁもぉっ!」
 ネルが咄嗟に、センチネルをタロスに突き立てる。タロスも、オルカに対し全身全霊を込めた一撃を放った後では避ける余裕が無い。直撃を受けた寄生頭のタロスもまた、大破し、膝をついた。

「倒されたKV部隊の無念、代わりにはらします」
 ミルヒ(gc7084)の、天(TIAN)、【白】はジグザグ機動でショットガンを回避しつつ、マルコキアスの弾幕を張りながらメイドのタロスへ迫る。
「集弾しなければ威力は低いですが、無視できるような攻撃でもないですよね」
 加えてミルヒは周囲の木々をも機銃で薙ぎ倒す。これが、後に彼女を救うことになった。
 比良坂 和泉(ga6549) のスプリガンによる援護もあって、さしたる問題も無く距離を詰める事に成功したミルヒは重練機剣を構え、重量のままに振り回す。
「射撃戦型なら、近接に飛び込まれたら距離を取ろうとするはず‥‥!」
 だが、タロスは距離を開けるどころか、逆に機体を密着させる。重錬機剣はその巨大さと重量ゆえに、懐に入られると思うように振るうことができない。
 二機が密着しているので、比良坂も手が出せない。【白】にまで攻撃が当たるからだ。
 相手が接近戦を挑んで来るとは考えていなかったミルヒは、盾での防御も間に合わなかった。
 タロスがKV用のものに酷似したハンドガンの撃鉄を起こす。
『拳銃なら、ゼロ距離でも使えるよ‥‥? ごめんね‥‥』
 乾いた銃声が響き、コクピットのミルヒは衝撃を感じた後、意識を失った。
「ミルヒさん!」
 比良坂が叫ぶ。タロスは動かなくなったミルヒ機から片手で、掴み上げ盾にする。その時、メイドの射撃に注意を払っていたD・Dのガンスリンガー、REDSCORPIOのスナイパーライフルが、タロスの片腕を撃ち抜いた。
 僚機の為に、射線を塞ぐ林の木を薙ぎ倒しておいたミルヒの行動が、彼女の窮地を救ったのだ。
 タロスが【白】から離れた瞬間、比良坂は二機の間に割って入り、盾となる。とにかく機関砲撃ち続け応戦する比良坂。
 しかし、先刻とは逆に、遮蔽物が無いことが仇になった。バグアの有人エース機と一対一で撃ち合うのは分が悪い。
 D・Dも、リロードに時間のかかるスナイパーライフルでは即座に撃ちまくる訳にはいかず、タロスも狙撃を警戒し、一箇所に留まらないように動く。
 だが、比良坂を追い詰めたメイドは、寄生頭の機体が大破した事に気付き、攻撃の手を止めた。
『あ‥‥っ!』
 メイドは仲間のフォローに向かおうとする。
「これ以上、好きに動かれる訳には‥‥釘付けにさせてもらいます!」
 すかさず、機関砲でタロスを足止めする比良坂。横槍を入れたいのはお互い様。彼も相手の連携には十分な注意を払っていた。
『じゃまするの‥‥? じゃあいいや。肩、貸してね‥‥?』
 タロスは、いきなり比良坂機に突進する。
 比良坂もシールド裏の滑空砲で応戦するが、迎撃し切れず接近を許す。だが、タロスは、相手に攻撃せず、自らの胴体と、スプリガンの胴体で、滑空砲を持った方の腕を鋏んで抑え込んだ。
 更に、機関砲の射角からも機体を逸らして、射撃武器しかないスプリガンに完全に密着する。
「何、を‥‥っ」
『だから、肩を貸して‥‥』
 そのまま、タロスは背部のスナイパーライフルを構えた。片腕が破損している分を、スプリガンの肩で銃身を固定することで補ったのである。
 メイドの狙いは、遠距離から寄生頭に止めを刺そうとするD・Dだ。彼女は一発撃つごとに位置を変えていたが、射線の遮蔽には気をつけても、敵から視認されることには無頓着だった。
「高倍率スコープならば‥‥余計なものを見ずに済む利点もあるか」
 そう呟くD・Dしかし、それは利点では無く、死角となった。
 ガンスリンガーの指が引き金にかかった瞬間、KVの腕が、タロスのライフルに撃ち抜かれた。
『オズ様!』
 着弾を確認した男の娘が叫んだ。

 美具は、陸戦装備で固める筈であったのに、何故か陸戦形態で使える装備がレーザーキャノンしか装備されていない天(TIAN)で出撃していた。
 仕方なく、美具は、レーザーを撃ちまくる。だが、ティターンは盾でそれを弾き、逆にプロトン砲を発射。精鋭機ゆえの高出力。そして正確な狙いは美具機の機関部を撃ち抜き、同時に操縦者にも重傷を負わせた。
 すかさず、時任が大破した美具機を庇い、前に出てスラスターライフル(以下機銃)を連射する。
『オイオイ、そう気ぃ使うなよ! なんなら丘の裏に回れや!』
 時任の射線から、彼が子供たちが避難している廃校に攻撃が当たらぬよう注意していることを看破したオズワルドの提案である。
「俺の動きから、見破ったというのか」
「成る程‥‥シャンプレーン湖という死地を越えて来た部隊を壊滅させただけの力量は、あるということですな。あの妙な言動に惑わされず、冷静に行きましょう、冷静に」
 時任の呟きに飯島が応じた。かくして、三機は丘の裏に移り、改めて戦闘を開始する。
「一つ問う、何故子供らを害さぬ事に同意した」
 時任の機銃は、しかしティターン(以下T)をなかなか捕え切れない。
『ゲヘ、決まってんだろう! このワームに生身で喧嘩売って来るような根性があれば、将来この俺が乗り換えるのに相応しいヨリシロに成長する可能性があるからよ!』
「理解し難く度し難い思考だ」
 時任はそう切り捨て、デモンズ・オブ・ラウンドで切りつける。しかし、Tの細いサーベルはこれと正面から切り結び、弾き返す。
『度し難いって思うのは解るがよ! 理解できねえことはあるめえ!?』
 そのままTは目標を飯島のディアブロに切り換え突撃した。だが、飯島は。相手の勢いを削ぐ為、二種の対空砲。そして、レーザーで応戦する。
『ごっついモノ構えてるくせに白兵は嫌ってか!?』
「ご心配無く。得意なのは格闘ですが、別に射撃が下手と言う話でも無いだけですよ」
『つまり、両刀かよ! 気に入った! お前もヨリシロにしてやろうか〜!?』
 回避しつつプロトン砲を連射するTに、今度は時任がブースターで一気に詰め寄った。そのまま、アグレッシヴ・ファングを併用したデアボリングコレダーを敵機に叩きこむ。
 だが、Tは即座にシールドで電撃籠手を受け止めた。けれど、これは時任も予測済み。R−1改の頭部がディアブロの方を振り向き、合図を送る。時任は飯島の動きを見て、敵に隙を作らせたのだ。
 飯島がブーストで接近。一瞬、盾を持っている手の方向から仕掛けるように見せかけてから即反転し、フェイントをかけた後、反対方向から機槍を突き出した。連携はこれで終わらず、時任も飯島に合わせて反対方向から再度機剣で攻撃した。
 しかし、Tはお手玉のように、盾とサーベルを反対の手に向かって放り投げ、即座に装備を持ち替えると機剣をサーベルで、機槍を盾で同時に防いだ。
 が、強力な二機の出力と、強化された武器の切れ味がティターンの武装を軋ませる。
『シャアアアっ!』
 オズワルドは獣のように叫ぶと、あっさり武器を放し、機体をしゃがませた。サーベルと盾は砕け散ったものの、機剣と機槍は共に、何も無い場所をかすめた。
 直後、R−1改とディアブロが吹き飛ばされた。しゃがんだTはそのまま逆立ちし、両足を広げて二機を蹴ったのだ。
「オズ様!」 
 手をついて起き上がったTに、メイドが叫ぶ。
「俺も武器をやられちまったよ! 仕方ねえ、トンズラするか!」
 時任と飯島が体勢を立て直すより早く、Tは空中に飛び上がり、そのまま飛行する。
 Tの眼下では、メイドのタロスが、膝をついたタロスを庇うようにして、戦闘を続けている。Tがプロトン砲とフェザー砲を下に撃ちまくる。メイドと寄生頭は、Tの援護射撃に助けられながら、各々のタロスを離陸させた。
「次は水の中で会いましょう〜‥‥もっともっと遊びたいですよ〜♪」
 Tに肩を貸されて撤退していく寄生頭のタロスに、コクピットで口の端から血が垂れているオルカが呼びかけた。
 彼が自分を鍛えるのは強い相手と戦う為だ。その考え方がそう呼びかけさせたのだろう。
 この言葉に、寄生頭は、体表から突き出た二本のカタツムリのような受光器官を人間で言えば白黒させるように点滅させた。
『マタ相対スルコトガアレバ、オ互イ最善ヲツクシマショウ』

 戦闘終了後、飯島たちの手によって、部隊長は無事UPC北中央軍に保護され、三名の重症者と共に病院に搬送されることとなった。
「今回は、都合よくプラスとなったが、通常、お前たちの行動は死に直結する、行動をするのは自由だが、その結果も理解しておけ』
 説教するつもりだった美具が搬送されていったので飯島一人が、廃校の中で子供たちに話していた。
「まあ、結果としてワーム連中は追っ払えたし」
 そうフォローしつつもネルは複雑な表情で、我が子を迎えに来た親たちの方を向く。
「保身の為に傷ついた同胞を売る行為って、バグアにとってはどう見えたのかしら?」
「どれか選べと言われれば‥‥黙秘権を行使したくなる面子だったけど‥‥普通に街で暴れてくれるより。性質が悪かったかもね」
 D・Dも、煙草を吹かしつつ苦い表情を浮かべた。
「しばらくは、わだかまりが残るでしょう‥‥それでも、巨人に立ち向かった事が自慢話にはなる日は、きっとまた来る筈です」
 だが、比良坂は苦笑しつつ子供たちの見せた勇気に敬意を払い、それに未来への希望を見るのだった。