タイトル:【JTFM】幻影氷河回廊マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/06 07:17

●オープニング本文


 Jungle The Front Mission‥‥作戦名【JTFM】。
 この作戦では、南米バグア軍の本拠地であるグアヤキル攻略の為、火山要塞コトパクシ山の攻略が完了していた。
 それより少し遅滞したものの、南中央軍は、コトパクシと並んでグアヤキル攻略の為の重要な作戦目標であるチンボラソ山の攻略作戦を発動した。
 その第一段階として、少数の偵察部隊がチンボラソの情報を持ち帰ってきた。
 かつて、南米の英雄シモン・ボリバルが詩に歌ったという、この地球最大の標高を誇る山の氷河は、エクアドルの水源地としても重要であった。
 偵察隊の報告では、バグアの手によって氷河が掘削され、氷の神殿と言った趣の要塞が山全体に張り巡らされている、とのことであった。
 だが、配備されている戦力について言及した個所の記述は、将校たちの眼を点にさせてしまった。
 
 曰く、チンボラソ山を守るのは、討ち取られたはずのゼオン・ジハイドの1、2、4、9である。
 曰く、シェイドが100機いた。
 曰くラインホールドが量産されていて、完成した暁には南米などあっという間に陥落させられる。

 この報告書を見た南中央軍首脳部は頭を抱え、本気で将兵からビールとテキーラを没収しようと、考えたらしい。
 しかし、これらの報告書を提出した傭兵や、正規軍の経歴を見ると、そう笑ってばかりもいられなくなった。
 
 例えば、彼らのうち一人は実際にゼオン・ジハイドの内、キュアノエイデスの死にざまに立ち会っていた。
 またある兵士はKVでラインホールドと交戦した経験があった。
 ある傭兵は、実際にシェイドの暴威に晒された名古屋防衛戦の参加者であった。
 
 更に、別の報告書では、『普通の要塞の通路を歩いていたら、いつの間にかバグアに滅ぼされた故郷の街の街路を歩いていて、しかも戦果の犠牲になった筈の家族や友人が襲ってきた』という記述が見られた。
 
 ようやく、ある士官が気付いた。これらの目撃情報が、バグアの何らかの兵器によって引き起こされた幻覚だとすれば、全て辻褄が合う。
 人類側の、資料によれば、このような芸当が可能なワームがただ一機だけ存在した。
 今年初頭にようやく奪還されたグリーンランドは、このラテンアメリカで奮戦する人々からは縁遠い土地ではあったが、それでも『極北名物チューレ特産品ワーム』の情報ぐらいは、資料として見知っている。
 そう、マインド・イリュージョナーと呼ばれる巨大な茸のようなワームである。
 このワームが持つ『幻覚作用』については良く知られている。どうも、この希少性の高いワームが、氷河の要塞と化したチンボラソのあちこちに配備されているらしい。
 こいつは厄介だな、と、佐官の一人が呟く。
 どうも、チンボラソに配備されているMIの幻覚作用には、一定の指向性があるらしい。上記の様に、胞子を浴びた目標の『恐怖』や『悲嘆』を引き起こすものを幻覚として見せるようなのだ。
 この為、胞子の被害にあった部隊では、同士討ちに加えて恐慌状態に陥った兵士の戦意喪失も頻発したらしい。
 そして、司令部を驚愕させたのは、最深部にある巨大な氷結した地底湖と、その中央に氷の中から突き立つロケットのような装置の存在であった。
 『神曲』‥‥と誰かが呟いた。ダンテの『神曲』によれば地獄の最下層である。氷の河、コキュートスには、魔王サタンが下半身を氷の中に埋め込まれているという。この装置の外観は、正にそれを想起させた。
 調査の結果、これが要塞の機能を一手に担う、中枢システムであると判明した。つまりこの装置を破壊すれば、チンボラソ要塞の攻略は完了するのだ。
 司令部は、この装置を作戦目標と定め、前述の『神曲』にちなんで『コキュートス』と仮称した。
 コトパクシの攻略が完了した今、一刻の猶予も無い。かくして、傭兵を募ってのチンボラソ攻略戦が発令されたのである。

●参加者一覧

龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
神宮寺 真理亜(gb1962
17歳・♀・DG
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
ブロント・アルフォード(gb5351
20歳・♂・PN
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD
黒羽 拓海(gc7335
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

「生きている内に地獄に踏み込むのですか‥‥死にたくはないですね」
 正規軍の爆撃で、チンボラソ山中腹に開いた突入口。そこから噴き上げる冷気を、乗機である天(TIAN)『【白】』のコクピットから見て、ミルヒ(gc7084)が、そう呟く。
 南中央軍のソルダードが、援護射撃を行う中、スパイクを取り付けた八機の傭兵のKVが突入を開始する。
「ここにいる以上すべてが敵‥‥その程度で動くようなまともな心は‥‥?」
 ミルヒが、絶句した。彼女の眼前に広がっていたのは、彼女が傭兵となるまで孤独な生活を送ってきた、病院の廊下だった。
 病院での、無限に繰り返す表情の無い日々の記憶が、幻覚と記憶の間で幻燈のように乱舞する。通路の向こうから、顔を伏せた看護婦が、一人歩いてくる。
「‥‥私は義眼なのに、やはり、MIの影響を‥‥?」
 そう呟いたミルヒは、総毛だった。看護婦の大きさはどう見ても、KVと同サイズだ。
「ミルヒさんがっ‥‥?」
 明らかに、様子のおかしいミルヒ機に最初に気付いたのは、シクル・ハーツ(gc1986)のサイファーE『Diamond Dust』である。
 だが、シクルもまた幻覚に飲み込まれた。彼女のKVが立っているのは、海辺の海蝕洞といった雰囲気の洞窟であった。足元の潮溜では、シクルが、生理的に受け付けないヒトデがゆっくりと這っていた。
 無意識に、少し後退り気味になるシクル機。だが、目を逸らそうと、思わず洞窟の天井を見てしまったのがいけなかった。
「‥‥っ!」
 そこには、岩肌が見えなくなるほど大量のヒトデが張り付いていた。そいつらが、次々と体を裏返し始める。
「く、来るな‥‥!」
 恐怖の余り、シクルは攻撃出来ず、防御体勢をとる。
 ヒトデは、その胃を体外に出し、エサを包み込んで消化する。だが、この時、ヒトデが裏返った腹から生やしたのは胃袋では無かった。
「これは‥‥」
 一瞬驚きと戸惑いで動きが止まるシクル。そう、彼女は見たのだ。
 思い出の中と同じように微笑む、母親と、恋人の、『顔』。幻覚の顔が、優しくシクルに呼びかける。幸せで辛い幻。一瞬、シクルの表情が和みかけ、即座に強張った。
 その顔は、ヒトデの腹の中央から生えていた。無数のヒトデから生えた無数の顔が、一斉に天井からボトボトと落下し始めた。
 ミルヒの幻覚では、看護婦がゆっくりと顔を上げ、その素顔を見せた。
 シクルとミルヒの恐怖が、限界を超えた。
 フェニックス『夜朱雀』に乗るブロント・アルフォード(gb5351)は、二人の状況から、幻影が発生していることを察した。
 ブロントは、同士討ちを避ける為に、通路の奥から撃ってくるTWへ、牽制程度に応戦しつつ、防御・回避に徹する。
「くそっ‥‥実際に幻影を見せられるというのも厄介だな‥‥」
 だが、ミルヒが視界不良時の対策として、起動しておいたファランクスが、活路を開いた。センサーは幻覚に惑わされず、正確に、ミルヒ機の前でブレードを振り上げるゴーレムに弾丸を乱射した。
 その銃声が、ミルヒを正気に戻した。機鋸を構えた【白】が、ファランクスに怯んだゴーレムを、一息に切り裂く。
「『恐怖』に『悲観』か、バグアのやる事は悪趣味だな。だが、わかっているなら、やりようはある!」
 一方、抵抗に成功していたシラヌイS2型『剛覇』に乗る龍深城・我斬(ga8283)はそう吐き捨てた後、困惑しているシクルを、落ち着かせると、天井に張り付いている中型キメラの群れにグレネードを叩き込む。
 だが、その時、通路の奥から一機のタロスが、シクル機に襲い掛かった。
「来るな‥‥来るなぁああ!」
 我斬や、ブロントが、援護射撃を敢行するが、タロスは傷つきつつもシクル機に迫る。
 幻覚のせいで、タロスが巨大ヒトデに見え、絶叫するシクル。しかし、至近距離まで近づかれたのが、却って幸いした。逆上した彼女は、全力で斬りかかり、あっさりと、タロスが真っ二つにされた。
 我斬からの情報で、確実な敵の位置を認識出来たブロントは、通路の隔壁前から砲撃してくるTWに、レーザー砲を撃ちまくる。
「手加減は無しだ‥‥行くぞ!」
 ブロントは、そのまま突っ込んで邪断刀を振るうつもりであった。
 しかし、開き直って戦意を回復したとはいえ、いまだ赤い目のままであるシクルが、先にブロント機の傍らから飛び出した。二股の機槍で、TWの首を鋏んで切り飛ばし、もう一体のゴーレムにも、機刀で切り掛かる。
「確実に‥‥仕留めるッ!」
 こう叫んだブロントは、シクルを援護する方針に切り替えた。シクルがめった切りにしたゴーレムに、レーザーで止めを刺す。
 これで、通路を守るのは、それ自体はほとんど無力なMIだけとなった。茸をあっさり一斉射撃で破壊するBチーム。だが、彼らが隔壁を吹き飛ばした時、其処には新たなるタロスが立ち塞がっていた。
 慌てて迎撃態勢をとるB班。だが、目を凝らしてよく見れば、そのゴーレムは、A班の美紅・ラング(gb9880)が操るストロングホークII『ヴォルケン・クラッツァー』の抜き手・『必殺クリムゾン・クラッシャー』に貫かれていた。
 美紅は、ゴーレムから、抜き手を引き抜いて、呟いた。
「貴公が立ちふさがるというのなら、何度でも殺すまでである」
 その美紅の背後では、後からくる正規軍の為に、アヌビス(真)『アヌビスさん』に乗る小笠原 恋(gb4844)が、残るMIをアサルトライフルで掃討していた。

 巨大な斜行エレベーターが、青く輝く氷の縦穴の底から、姿を現す。その柵の手前でリッジウェイに乗る、神宮寺 真理亜(gb1962)は、我斬とエベーターでの布陣を確認し、仲間に指示した。
「円陣の相互位置は、くれぐれも、遵守して欲しい‥‥味方は撃ちたくないし、味方から撃たれたくはないからな」
 我斬も頷く。
「これなら、正面撃っても味方には当たらんからな」
 かくして、傭兵たちのKVにより円陣が組まれ、エレベーターが下り始めた。
 しばらくして、前方に現れるであろう敵にだけ集中していた恋は、表層から引き続き、発動させ続けているGooDLuckと探査の眼で、幻覚を警戒しながら、傍らの仲間に話しかける。
「私って、死んだ家族や友人はいないんですけど、何が見えるんでしょう? 飼っていた猫のチビ? それとも車に轢かれて死んだクロ?」
 直後、二体のTWが、シャフトの上から落下して、地響きを立ててリフトの上に着地した時、彼女はその答えを目の当たりにした。
「やっぱり‥‥! チビもクロも、もう死んだんです!」
 彼女が見たのは、エレベーターに突如現れた、猫であった。だが、半泣きになりながらも、銃を連射しようと引き金に指をかけた彼女の方に二匹が振り向いた。
 思わず悲鳴をあげる恋。
 事もあろうに、二匹は、OL時代の怖くて、嫌な上司の顔が生えた人面猫と化していたのだ。
 咄嗟に、ブロントが恋の為に援護射撃を行い、恋に言う。
「‥‥大丈夫か? 安心しろ‥‥こいつ等は敵だ」
 一方、真理亜は、発砲が始まったのに驚き、咄嗟に傍らを確認して息を飲んだ。そこには確かに味方のKVが立っていたが、その全身にはゴキブリが群がり這い回っている。
 咄嗟にそれに対して、発砲しそうになるが、必死に抑え自らに言い聞かせる真理亜。
「あの位置にいるのは僚機のはず。騙されるな、神宮寺真理亜!」
 一度は、嫌悪に戦意が鈍った恋も、ブロントに援護してもらっている間に自分にかけたレジストが功を奏したのか、迎撃を始めた。
 ブレードを突き出して突進して来たTWの刃を、爪で掴んで受け止めつつ、盾の殴打で引き倒し、馬乗りになって爪で引き裂さく恋の機体。
「可動する爪は伊達ではありません!」
 叫ぶ恋。既に、味方の射撃で傷を負っていたTWは、爆発したのであった。
 もう一体のTWに応戦していたブロントも、幻覚を見せられた。それは、彼が、過去のある依頼で助けられず生ける屍に喰われた人々である。
 その人々つまり、キメラが、生ける屍、つまりTWに追い回されている光景だ。無論、現実にはキメラを前面に出して、TWが発砲しているのだが。
「確かに、死者の姿を見るのは気持ち良い物では無いな‥‥だが『敵』に情けをかける程、俺は甘くは無い‥‥!」
 ブロントは、滑空砲でキメラを吹き飛ばし、TWを邪断刀で叩き斬る。
 最後に、シラヌイS2型『Hresvelgr』に乗る黒羽 拓海(gc7335)が雪影と月光でMIを切り倒し、リフトの敵は全滅した。だが、黒羽は、不安を拭いきれず呟いた。
「俺は、まだ幻覚に惑わされていないが、資料の通りなら、俺の前にはアイツらが現れるだろう‥‥はたして、死んだ友を前に俺は迷わず居られるだろうか?」

 エレベーターが、到着する前から、要塞中枢システム『コキュートス』(以下C)の威容は、傭兵たちの目を引いた。
 眼下には、天井の高い巨大なドーム状の空間が果てしなく広がり、その氷を貫いて巨大なロケットのような装置が振動していた。
 恋は、思った。壁に沿って進む戦法は無理だと。何故なら広すぎて、壁が見えないのだ。
 また、黒羽は、Cを目視した時、言葉を失った。その巨大な外壁に、彼が一般人であった頃に失った親友たちが縛られ、吊るされている幻覚を見てしまったのだ。
 だが、彼の役割は囮だ。覚悟を決めた黒羽は一足先に、リフトから飛び降りて地底湖に着地した。
「‥‥赦せなんて言わん。言い訳もせん。俺は俺の意志で‥‥お前達を捨てる。あの時と‥‥同じ様に‥‥ッ!」
 そして、砲台を誘うように機体を、前面に出す。侵入者を感知した砲台が氷の下から現れ、砲撃を始めた。圧倒的なフェザー砲とプロトン砲の弾幕に、幾つかの光線が黒羽機に当たるが、AECの力が、それを弾いた。
 しかし、心構えが出来ていたつもりでも、MIが健在である為、幻覚の影響は強い。この段階では、黒羽は予定していたミサイルの全弾発射に踏み切れなかった。
 だが、黒羽が作った隙を生かして、【白】が、クァルテットガンで、Cを下から上まで掃射しつつ、ホバー移動で氷上を走った。
 その時、広大な氷結湖の彼方から、スケート走行で、デカいグラブを構えた二体のタロスが現れ、迎撃に参加する。
 絶句する真理亜。その表情は恐怖と言うより、むしろ怒りで引きつっているように見える。
 そう、彼女が見たのは、直立歩行するワーム大のゴキブリさんとネズミさんが、ホッケーグラブを構え、何故か女子フィギュアスケートの衣装を着て、イナバウアーとトリプルアクセルを決めながら、向かってくる姿だったのだ。
 いくら、ゴキブリとネズミが駄目な彼女でもここまでふざけた幻覚は‥‥
「うわぁぁ! 消え失せろぉ!」
 やっぱりバーサークモードに突入して、ショルダーキャノンを所構わず乱射する真理亜。
 だが、事前のフォーメーションのおかげか、攻撃は味方には当たらず、迎撃砲の幾つかを吹き飛ばした。
 これに続いて、シクルも、自機を味方の壁役にしつつ、射程内の砲台を、レーザー砲で狙撃した。
「味方に後ろから撃たれませんように‥‥」
 恋は、そう言いながら、幻魔炎を撒き、砲台の攻撃を妨害する。
 ブロントも、回避運動をとりつつ砲台に滑空砲やレーザーを撃ち込み始める。
 美紅は、広大な地底湖、華麗なスケート移動で、縦横無尽に駆ける姉妹の骸龍の幻覚にカウンターを叩き込むチャンスを、動き回らずに虎視眈々と待ち構えた。
(当時流行したフェザーアーマー‥‥忘れようたって忘れられるわけがないのである)
 美紅は、MIを真っ先に狙いたかった。しかし、幻覚が強いので、まず厄介なタロスを確仕留めることを優先するつもりなのだ。
 美紅は、眼前の骸龍が本物だと思い込みたいという欲求を、親指を力いっぱい噛むことによる痛みで、打ち破ろうとして、決して後退しない。
「迷うな。今度こそ確実に引導を渡してやるのである」
 精神を集中し、呟く美紅。彼女は、無事回収された姉妹の遺体が、自分が何を成し遂げたかを知っているかのような、満足げな死に顔であった事を、思い出す。だから、美紅は今も悪夢に悩まされ続けているとも言える。
(だから、決してだまされはしないのである!)
 美紅は、カッと、眼を開き、眼前の骸龍に、容赦なく釈迦掌による抜き手攻撃を叩きこむ。タロスは、バーストアグレッシヴファングに、胸部をほとんど吹き飛ばされ、膝をついた。
 真理亜も、戦意を取り戻して、MIを探す為に周囲を索敵する。念の為、味方の方を見ると、普通に認識できた。どうやら、幻覚への抵抗自体は成功していたようだ。
 やがて、真理亜は、ネズミの群れがたかるでかい穴開きチーズを発見した。位置関係からすれば、これがMIなのは明らかだ。
「幻覚さえなければ‥‥!!」
 スナイパーライフルの狙撃でMIが爆発した。
「これでも喰らうがいい!」
 そして、真理亜も、狙撃と砲撃をCに加え始める。
 我斬も、幻覚に悩まされつつ、どっしりと構え、タロスと対峙していた。既に、MIは破壊されていたが、眼前のタロスが、彼の父親、母親、姉と、その容貌を次々と変化させるのだ。
「親父、お袋、姉貴‥‥忘れたつもりでも記憶は消せないものだな、だが!!」
 剛覇は、砲台からの流れ弾をAECで受け、錬鎌を構えた。タロスが剛覇に迫る。しかし、剛覇の拳がタロスのグラブを弾く。同時に錬鎌が、突進してきた相手の勢いを利用する形で、タロスの腹に深々と食い込んだ。
「俺は貴様らバグアを滅ぼすまで過去を捨てると決めた、我を斬る! 俺の誓いの名だぁぁぁぁ!!」
 叫ぶ我斬、タロスが爆発した。
 護衛のタロス2機が撃破され、砲台もその大半が沈黙している。加えてMIが破壊された以上、もはや、無抵抗なCへの攻撃を妨げるものは何も無い。
 だが、装置はその巨大さ故に、耐久力だけはあり、ミルヒや真理亜の攻撃で、あちこちに損傷が見られるものの、未だ健在だ。その時、黒羽が前に出た。
「何を犠牲にしてでも、自分の大切なものは護りたい‥‥。とんだ自分勝手だな」
 自嘲気味に呟きつつも、黒羽は、結果として温存されていたミサイルの照準を、全弾Cに合わせる。彼は、未だにC外壁に、幻覚の親友たちを見ていた。それでも、彼は迷わずミサイルを発射する。
 巨体の各所で爆発を起こすC。止めのマシンガンとレーザーを叩きこんだ黒羽は、崩壊していく装置を見つめ、静かに言った。
「迷いは既に捨ててきた」

 装置が崩壊しても、基地自体は機能を停止しただけで、それ以外の変化は無かった。むしろ、敵が全滅したことで、広大過ぎる地底湖と要塞の静けさと寒気が、傭兵たちの心身に浸みこんでくるようであった。
 が、やがて、遥か上方から、明らかにKVのものと解る駆動音、そして兵士たちの歓声が響いて来た。
 チンボラソ要塞は、陥落したのだ。しばらくして、非常用電源が回復した斜行エレベーターで帰還した傭兵たちを、南中央軍の歓呼の声が迎えた。