タイトル:Fight For Friends‥‥マスター:稲田和夫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/07/23 23:14

●オープニング本文


 かつて、極北制圧作戦の際、一人のハーモニウム・セカンドの少女がいた。彼女は、保護された際、眼前で慕っていた教官の最期を見届けた。 
仲間と、教師を同時に失ったHmは、北中央軍の管轄する基地に、拘留されていた。
 即日、カンパネラに護送される筈が、北米で進行中の東海岸奪還作戦の多忙に紛れて、手続きが遅れ、気が付けばこの時期までここに軟禁され続けていた。
 ある日、Hmに逃亡防止用の監視をつけての外出許可が下りた。北米軍学校、すなわち、少女がHmに改造される以前に通っていたらしい学校の、OBである士官の配慮だ。
 少女には、もはや捕虜としての価値が無く、強化人間の余命についての情報は、軍内部にも伝わっていた。
 この少女も、セカンドとはいえ、どの程度猶予があるかもわからず、またこの周辺には他にHmもいないことから、せめてもの情けというのが、妥当な表現であろう。

 昼食時になって、空腹を感じた少女は、とりあえず手近な店に入ろうと周囲を見回す。
 とりあえず、手近な店に入ろうとするHm。小遣は、士官がポケットマネーで配慮してくれていた。
「あ、もしかして転入生!? ダメだよーここで食べちゃー!」
 突然、元気の良い声が、すぐ側から聞こえてくる。
 その声がした方を見た少女は、事情を了解した。自分に声をかけた少女の制服は、士官がHmに貸した制服と同じものである。人目を惹かぬよう地元の女学校の制服を用意してくれたのであろう。
「ちょっと遠いけど、いいカフェがあるよ! オープンテラスがすっごい綺麗なの! 連れて行ってあげるね!」
「え‥‥あ、ちょっと‥‥」
「いいから! これから、一緒に勉強するんでしょ!」
 Hmは腕を握られ、強引に引っ張られていった。途中、相手の少女が自己紹介して来たので、Hmも、名前だけは教えた。

「そっか、転入生じゃなかったんだね、勘違いしてゴメン!」
 昼食後、二人は公園のベンチで歓談していた。
 Hmは、事情を誤魔化して説明した。
「そっかー、カンパネラに行くんだ、大変だね‥‥やっぱり、戦うんだよ、ね?」
「うん‥‥まあ、ね」
「でも、ちょっと安心したかな。 ほら、傭兵さん‥‥能力者になる人って、やっぱり凄い人が多いだろうなって思ってたけど、私たちと変わらない普通の人だったんだね!」
 そういって、少女は微笑んだ。
 その笑顔が余りにも眩しくて、Hmは思わず顔を赤らめた。
「そうだ! 友達になれた記念に、何か買おうよ!」

 施設に戻ったHmの手には、何の変哲も無い動物のキーホルダーが大切に握られていた。

 その日の早朝、この都市に向かう機影があった。3機のゴーレム。それにクリムゾン、ホワイトグレイ、コバルトブルーに塗装された3機のタロスである。
 ゴーレムはいずれも無人機だが、タロスにはそれぞれ一人ずつ少女が乗っている。
「はじめましょう。 予定通りに。」
「りょーかいっ! う〜ぞくぞくして来た!」
「これは、任務‥‥気を、引き締めて‥‥」
「全ては、リリアさまの温情を忘れた人類に、鉄槌を下す。 大切な任務よ」
「じゃあ、始める。 ‥‥人間共に、恐怖を」
「ええ、人間共に悲嘆を」
「りょーかいっ! 死を!」

 三人の強化人間に、守備隊のKVは、無人のゴーレムを一機落としただけで、瞬く間に全滅させられた。
 後は、虐殺である。焼け焦げた遺体が散乱する中を、乳児を抱えた母親が、這うようにして逃げる。青いタロスを駆る無表情な少女は、それを一瞥しフェザー砲を一閃。
「移動目標確認‥‥掃討」
「ひっど〜い! 蒸発しちゃったじゃん!」
「貴方も、向こうの通りでやってた‥‥」
「それも、恋人を庇おうとした男の方を、二人一緒にハルバードで叩き潰しましたよね」
「む〜! だって〜!」
 赤いタロスのパイロットが口を尖らせた。

 衝撃で気絶していたHmが、意識を取り戻した時、撃破され、擱座したゴーレムが激突したことで、監房の壁は崩れ去っていた。
 遠巻きに、『掃討』を繰り広げてる三機の派手な色のタロスが良く見える。
 目前のゴーレムは、半壊状態であった。が、まだ駆動系は生きていることが、強化人間である彼女には、解る。そして、この機体には強化人間搭乗用のスペースが存在した。
「コマンド入力――制御系を、AI操作から、有人操縦へシフト」
 乗り込んだHmの命令によって、回路の切り替えが行われ、コクピット内の表示が切り替わっていく。
「大丈夫‥‥制御系は変形が無い分、スノーストームよりは‥‥!」
 Hmは機体を動かす前に、一度だけポケットのアクセサリーを握りしめた。
 強化人間は、バグアとしての力を、振るう程、救命の可能性が低くなる。そんな軍人からの話が、一瞬だけ頭をよぎった。
 Hmは、歯を食いしばってそのことを、頭から追い出した。

 暴れるタロスを睨みつけ、必死に人々を避難させているのはHmに外出を許可した中年の士官である。
 そこに、先日Hmと出会った学生と、まだ若いその担任の女性が必死に走ってきた。
 二人をシェルターに誘導しようと走り出す士官。そこに白いタロスが着地した。
「リリアさまのお心に憂いをもたらす輩に、死を――」
 生徒と教師を狙う白いタロス。
 教師は咄嗟に、生徒を士官の方へ突き飛ばす。直後フェザー砲が『そこ』に着弾した。
 士官は何とか突き飛ばされた少女を受け止めたが、白いタロスにはそちらにも砲身を向ける。
「お、あ、あ、ああああああああっ!」
「! まだKVの生き残りが!? 違うっ‥‥!」
 強襲――スラスター全開で突撃して来たHmのゴーレムが、突撃の勢いでマチェットをタロスに叩き込む。

 肩に刃が刺さったままよろめくタロス。
 少女の無事を確認するHmの眼に悲惨な光景が飛び込んで来た。
「放してください! 先生が! 先生が‥‥イヤアアア!」
「君だけでも逃げるんだ! 命を賭けた彼女の意思が無駄になるぞ!」
 Hmは友達を、いや、仲間だけを守れば良かった筈だった。
 なのに、守った筈の彼女はああして泣いている。Hmは戸惑い、初めて気づいた。ここは、仲間達だけで寄り集まって生きていた世界とは違う。何かを守るということは、その対象だけを守ることでは無いのだ。
 守るべき人にもまた、守るべきものがある。誰かのために戦うとは、そういう事なのだ。ただ、守るのではなく、一人でも多くの人を――

「どこの裏切り者かは存じませんが――」
 気が付けば、白いタロスはマチェットを引き抜き起き上がっている。
「そんなボッロボロのワームで、立ち向かおうっての? なめないでよね!」
「彼我の戦力差は明白‥‥覚悟の行動かと」
 そればかりか、青と赤のタロスも、Hmを囲むように構えている。
「たかが手足が吹っ飛んだ程度のハンデで、はしゃぐなよ恥ずかしい」
 そう言い放つと、Hmは、こみ上げてきた血を吐き捨て、不敵に微笑んだ。
「あっそう! そんなに死にたいんだ?」

(教官‥‥教官‥‥教官! 初めての実戦、行きます! 教練の成果、見ていてください!)

●参加者一覧

飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
山崎 健二(ga8182
26歳・♂・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
若山 望(gc4533
12歳・♀・JG
月居ヤエル(gc7173
17歳・♀・BM

●リプレイ本文

「タロスとゴーレムが戦ってる‥‥?」
 陸戦形態で襲撃された都市に急ぐ、8機のKVを操る傭兵の内、アッシェンプッツェルに乗る月居ヤエル(gc7173)は、その奇妙な構図に、思わずそう呟いた。
『たかが――はしゃぐな――』
「‥‥仲間割れ? ‥‥いえ‥‥あの声は確か‥‥」
 ガンスリンガー『Schwalbe・Schnell』に乗る奏歌 アルブレヒト(gb9003)は、オープン回線に響いたHm2ndの声を『知って』いた為、そう言った。
 盲目故に、基本的に声で人を覚える奏歌にとって、それは確信である。
「え、あのゴーレムにHmが乗ってるの?!」
 月居が、奏歌に聞き返す。
「‥‥時間が無いので詳しい説明は省きますが‥‥あの半壊ゴーレムの搭乗者は‥‥人類保護下のHmです‥‥」
「じゃぁ、助けなきゃ‥‥!」
 月居が叫ぶ。
「‥‥奏歌個人としても、彼女を死なせたくありません‥‥皆さん‥‥あのゴーレムの援護をお願いできますか?」
 傭兵たちは、奏歌に同意し、速度を上げる。
「とりあえず、ゴーレムとタロスを分断するよ!」
 ヤエル機がバルカンを放つ。

 三色のタロスは、Hmのゴーレムを囲み、一斉に襲い掛かる。
 だが、斧槍をゴーレムに叩きつけようとした赤の進路を、ヤエルの機銃が塞ぐ。思わず怯む赤。
『また、邪魔が入りましたね?』
 特に焦った様子も無く、白いタロスの少女が微笑んだ。
『反応。KVが、八機』
 青いタロスの少女の警告に、三機は周囲を警戒する。次の瞬間、飯島 修司(ga7951)のディアブロが放ったレーザーが、青の装甲をかすめた。
「損傷、中? かすっただけで?」
 計器の表示に驚愕する青の少女。その時、戦場に現れた飯島機が、指で喉を掻き切る真似をし、続いてその指を下に向けた。
「‥‥」
 青の少女は相変わらず無表情。しかし、その眉は微かに引きつっている。
『はぁっ!? 何ソレ? ダッサッ!!』
 すかさず赤いタロスの少女が、フェザー砲を構えた。
『このアホの子を助けるつもり? 泣かせるぅ!』
 そう言って、F砲をHmのゴーレムに浴びせ掛ける。しかし、その攻撃は奏歌機のシールドに防がれた。
 続いて、前進して来た麻宮 光(ga9696)の阿修羅がツイストドリルを繰り出し、赤を牽制。Hmの退路を作り出した。
「さて、手負いの1機を複数で攻撃する様なイジメは関心しねぇな」
 麻宮が言う。
「好き勝手やってくれやがって! こっからはオレ達のワンサイドだ! 悔い改めて死んで逝け!」
 荒々しく叫んだのは、ディアブロ『Baalzephon』を駆る山崎 健二(ga8182)だ。
『あらあら‥‥自覚の無い傭兵さんたちには、困りましたわ‥‥』
 すかさず白が斧槍で、山崎機に襲い掛かる。
「ハッ! その程度の動き、すれ違い様にバラバラにしてやるぜ!」
 だが、飯島は言葉とは裏腹に、散々挑発だけしておきながら、白の槍斧を機盾で弾いただけで、素早くHmの護衛につく。
『所詮口だけ‥‥これだから殿方は‥‥おやりなさいっ』
 白の少女は呆れながらも、配下の無人ゴーレム2機に指示を出し、自身もHmに向かう。
「損壊した機体で挑む覚悟は見事‥‥だが、後は我々に任せて退け」
 だが、ノーヴィ・ロジーナbis『アヴァロン』に乗るシャーリィ・アッシュ(gb1884)が、そう言ってブーストで白に体当たりを仕掛け、そのままヒートディフェンダーで切り結ぶ。
「タロス3機がかりでゴーレム1機を囲むとは‥‥見るに耐えん」
 シャーリィが不快そうに吐き捨てる。
 山崎は、牽制の必要も無い単純な動きの無人ゴーレムをセトナクトで迎え撃つ。
「木偶人形が、とっとと消え失せろッ!」
 超音波振動の咆哮と共に、ただの一刀でゴーレムの片方が両断された。
『そ‥‥そんなっ!?』
 眼前の、山崎機の強さに、動揺を見せる三色旗(機)。
 その時、奏歌機に突進するもう一体のゴーレムに、背後からHmが投擲した、ゴーレムの背部に装備されているトマホークが突き刺さった。
 Hmが強化人間としての力を振るったことに、はっとなった表情で背後を振り返る奏歌。しかし、まずはドラゴン・スタッフを振るい、もがくゴーレムに止めを刺す。
 Hmは止まらず、倒れたゴーレムから斧を引き抜くと、再度タロスへの突進を試みた。それを制止したのは、麻宮である。
 一方、S−01HSC『Rote Empress』に搭乗するルノア・アラバスター(gb5133)は、スラライで赤を牽制しつつ、仲間たちに声をかけた。
「エース揃い、ですし、心配は、少なそう、です、ね‥‥説得は‥‥お任せ、します」

「どうして、私を助けてくれるのですか‥‥?」
 制止され、初めてHmは、自分が傭兵たちに味方と認識されたことについて疑問を感じた。
「話は聞いた‥‥君はHmだろう? 俺達とHmは、もう敵同士な訳じゃない。戦う事もあったが今じゃ助け合える仲間であると、俺は、信じて動いている。ここで、無茶な事をして、命に関わる様な事は、してほしくはないからな」
 麻宮の説得。Hmは、彼の『仲間』という言葉に反応して考え込むような表情を浮かべた。
『仲間‥‥かつて私も、仲間の為に戦うのだと教えられて、訓練を受けてきました‥‥『仲間』の為に‥‥』
『でも‥‥私は彼女を守ったのに、彼女を泣かせてしまった‥‥駄目なんでしょうか? 親しいものを守る為『だけ』に戦っていては、いけなかったのでしょうか!?』
 Hmの言葉は、質問と言うより独白に近かった。
 それでも、シャーリィが答えた。
「いけないものか。そういう理由で能力者になった者はたくさんいる」
 シャーリィの説得に、山崎が続く。
「守る為に戦うってのが、どーゆー事か、か。失いたくない人が居て、敵意に抗う力があるから立ち向かうって事かな? ん? 近しい者を守る為だけに戦ってはいけないのか、って? んー、良いんじゃね? 別に‥‥始まりは、な」
 続いて、奏歌も言葉を返す。
「‥‥奏歌が言えた義理ではありませんが‥‥大切な人を悲しませたくないのであれば‥‥その人のみならず‥‥その人の居場所を‥‥世界を‥‥守るのです」
 山崎が再び口を開いた。
「そ、彼女の言う通り、だんだん守りたい範囲が広がってくからさ」
『ならば、私はやはり戦わなければ、いけないんです! 気遣いは嬉しいです‥‥でも、この身体はもう‥‥』
 Hmはそう言って、口の端から垂れる血を拭った。
「まだ可能性はあるかもしれないんだろ? 誰かを守るなら、自分が先に倒れちゃいけねぇって事だけは覚えといてくれ」
 山崎が、釘を刺すように言う。
『それでも、私が教官から教わったのは戦い方だけ‥‥私が彼女の為に出来ることも‥‥!』
「いや、戦う以外でも守る事は出来る‥‥方法は人それぞれ。見つけるのは自分だ」
 シャーリィが言った。
 畳み掛けるように、今度は月居が言う。
「友達を守る為に戦うのは悪い事じゃないと思う。きっと、私だって友達が危険だったら体張って護ると思う‥‥でも無理しちゃダメだよ! 死んじゃったら、その友達が、また悲しむ事になるもの」
 月居の言葉に、はっとなるHm。彼女の脳裏に、出会った少女の笑顔が甦る。彼女の言葉は、かつての教官の後を追おうと決めていたHmの心に、動揺をもたす。しかし、別の光景を思い浮かべたことで、その表情に激しい憎悪が浮かんだ。
『けれど‥‥あいつらは、許せない‥‥! 貴方たち傭兵を恨んではいません! でも、私たちの仲間は、Hmは守る為に戦って‥‥でも守れなくて‥‥! どれだけ多くのHmが無念のまま死んだか‥‥!』
 Hmのゴーレムが、手にしたトマホークで、三機を指す。
『それを奴らはッ! どれだけ多くの『守ろうとした人』を! 踏み躙ったかッ!』
 激昂するHm。一方のタロス三機は、そんなHmの様子を嘲笑っているようであった。
『ぷっ! やっぱり受ける〜!』
 赤の少女がゲラゲラと笑った。
『所詮、Hm‥‥それも2ndなど欠陥品』
 青の少女も、見下げ果てた‥‥と言った風に呟く。
 野獣のように吠えて、加速の動きを見せたゴーレムを飯島機が冷静に押さえつけた。
「貴女が、延命治療時のリスクを負ってまで戦う「理由」は確かに伺いました。今は、その内容までは問いますまい。「仲間」として戦って頂いても、構いません」
『じゃあ‥‥』
 ぱあっと笑う、Hm。
「ですが」
 飯島は続ける。
「憎悪だけを理由とするのはお薦めしません。醜悪で無様ですからな。自分でも唾棄したくなる程度には」
 飯島の言葉は、Hmに、自分を見つめさせる呼び水となったようだ。
「そして、戦った結果、自分が何を得るのか、もう一度考えてみてください」
 Hmは、飯島に言われ、自問し始めた
 この機を逃さず、奏歌が続ける。
「‥‥奏歌は‥‥貴女の『教官』と‥‥一度だけ砲火を交えました‥‥少なくとも、あの人は‥‥憎悪で‥‥私たちの前に‥‥立ち塞がった訳では‥‥無かったと思います‥‥」
 この奏歌の言葉で、Hmはようやく奏歌の機体に、見覚えがあることに気付いた。
「あなたには、無理して欲しくない‥‥だって、無理したら治療を受けられなくなるんでしょ?  タロスは、私たちがすぐに追い返すから、お願い、無理しないで‥‥!」
 月居が言う。
「守るために力を振るうことは肯定するが‥‥まだ戻れる道の上にいるのなら、無理はするな」
 シャーリィも説得を諦めない。
「‥‥彼が、貴女に最後の教練を行ったのは‥‥貴女を‥‥生かす為だった‥‥はずです‥‥」
 最期に喋った奏歌の言葉に、今度こそHmは動きを止めた。
『あなた方に、従います‥‥』
 静かに呟くHm。麻宮が言う。
「決まりだな。無事に、ここを終わらせて、みんなで飯でも食おうじゃないか」

 当然の事ながら、説得の間も両軍は動き、戦い続けていた。そしてHmの説得が終わった段階で、白に対峙していたのは、シャーリィ機と、若山 望(gc4533)のリンクスだった。
「さて、何の戦略もなく、ただ都市を攻撃するだけなどという非道、身をもって償っていただきます」
 望はそう言うと、シャーリィと干戈を交える白を、ガトリングで牽制する。だが、白は素早く飛び下がり、F砲を乱射する。
『戦略ならあります。リリア様に逆らう貴方たちに、罰を加えるという崇高な任務がっ!』
 気迫の籠もった白の突きが、シャーリィ機に直撃した。
「損傷軽微‥‥これで全力か?」
 だが、機体の防御力で耐え切れると判断したシャーリィは『当たっているのに倒れない状態』を見せて、相手にプレッシャーを与えようとする。
『な‥‥』
 先程ゴーレムが瞬殺されたこともあり、あからさまに動揺する白。その機体の側を望のスナイパーライフルの弾丸がかすめた。
「空戦とは距離感が違いますね」
 再びガトリングでの攻撃に切り換えつつ、望が冷静に言う。
『くっ!?』
 動揺している為に、外れた弾丸にも怯える白の少女。そこにシャーリィが全開でHDを撃ち込んだ。
「次はこちらの番だ、しっかり受けてみせろ」
 更に、もう一発望のライフル弾が白を外す。だが、今度の弾は白の足元に着弾し、土煙をあげた。
『ひ‥‥!』
 白の少女が情けない悲鳴を上げる。それが決定打だった。体勢を崩した白をシャーリィ機が切り伏せる。白は仰向けに倒され、それでも何とかハルバードでHDを受け止める。
 だが、刃により再生しかけていた、先程Hmがつけた白の肩の傷を再び開いた。 
 望が、その傷にしっかりと照準を合わせた。
「‥‥2発で慣れましたが」
 言葉通り、今度の弾丸は正確に、白の肩の傷口に撃ち込まれた。陸戦の経験に乏しかった望は、的を外しつつも、最終的に陸戦の距離感を掴んだのである。
 弾丸は深く食い込み、タロスの重要な駆動系の一つにまで達した。斧槍を落し、一瞬棒立ちになった後で、がっくりと膝をつくタロス。
『動かないっ!? 何故‥‥あ? ああーっ! リ、リリアさ――』
 それが、白のパイロットの最後の言葉だった。外から見えたのは、さして大きくも無い爆発だったが、内部ではコクピットを含む主要な部位が、吹き飛んだのである。

『憎悪で、戦うな? 確かに。害虫を駆除するのに、憎悪は必要無い』
 月居の援護を受け、自らは月居機の盾となっている飯島機と打ち合いつつ、青の少女はそう言った。だがその時、白の少女の断末魔が、青の耳に届いた。
『あ‥‥?』
 何が起きたのかを把握し切れず、呆然となる青の少女。それに対し、飯島は再び先程の挑発――首切りと地獄へ落ちろ――を繰り返して見せる。
 先程の挑発は、苛立ちを誘発したが、今度の挑発は、仲間を失った青の少女にとって、恐怖を引き起こした。もはや、無表情では無い。必死の形相で離脱を試みる少女。既に、戦闘中の赤の事は眼中になかった。
 だが、飯島はこの時を狙っていた。飯島機は、逃げ出そうとした青にスパークワイヤーを絡めてバランスを崩させ、機槍で地面に倒す。
 青の胴体を踏み付ける飯島機の機槍が、コクピットを貫いた時、人間のものとは思えない悲鳴が響き、何かに押し潰されたように途絶えた。

『あんたたちっ‥‥許さないんだからぁっ!』
 相次いで仲間を殺された赤は怒りに任せ砲を乱射した。だが、その攻撃はルノア機の重装甲に傷一つ、つけられない。
「無駄、です。この、真紅の、女帝の、装甲は、幾多の、砲火を、越え、尚、曇る事の無い様に、磨き上げ、られて、いるのだから」
 逆に、ルノアの放った弾丸は、直撃は免れたにもかかわらず、容易く赤の手を吹き飛ばした。
『化け物‥‥! 同じ赤のくせに‥‥!』
 たまらず空中に退避しようとする赤を麻宮機が狙撃する。今度は足を失う赤。
 このままでは逃げ切れない――そう判断した赤が次にとった行動は、最後の意趣返しか。それとも思い掛けない行動で、傭兵たちの虚を突いて撤退の突破口を開くつもりだったのか。
 いずれにしろ、赤は離陸すると、砲撃を繰り出しながら一直線にHmへと向かった。
『死ね!』
 だが、砲撃は最後の意趣返しを警戒していた山崎機の機盾で防がれた。それでも体当たりするように、ゴーレムに肉薄する赤。
『舐めるなぁ!』
 だが、吠えたHmは、ライフルの銃床のブレードで、怒りを込めて赤を打ち据えた。
『ひっ、ぎっ!?』
 赤の少女が衝撃に呻く。
「赤い、タロス‥‥逃がしは、しません」
 そこに、一瞬で追いついて来たルノア機のルーネ・グングニルが突き込まれる。
『畜生―っ!』
 赤の少女が叫びながら最後に見たのは、自らを見下ろすゴーレムであった。
 敵の全滅を確認した山崎は、Hmに話しかけた。
「ひとつ聞き忘れていたんだが、キミの名前は? Hmじゃなくて、人らしい名前。今度会ったら教えてくれな?」

 戦闘後、Hmの体を案じた望らに搬送されたテントで、寝ているHmのベッドには、少女の名前が記されていた。
『E・ブラッドヒル』、と。
 そして、Hmは飯島の言葉を反芻する。
「私は、何を望めば‥‥教官‥‥教えて下さい‥‥」