タイトル:【NS】三角州の惨劇マスター:稲田和夫

シナリオ形態: イベント
難易度: 難しい
参加人数: 19 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/29 07:13

●オープニング本文


 カリ包囲戦の際、南米へ移動したシェアト(gz0325)に、再び北米のリリア・ベルナールから指令が届いた。とある基地で、面倒そうにシェアトはモニターの向こうのリリアと会話を交わしている。
「シェアト、貴方に命令します」
「断る!」
「まだ、何も言っていませんが‥‥」
「どうせ、北米東海岸への攻勢に対する反撃として、この俺をコキ使おうというのだろう!」
「その通り。ピッツバーグを管轄している『博士』ことドクトル・バージェスへの援軍としての出撃です」
「何故、あの妙な下っ端の為に、このゼオン・ジハイドにして、スーパーバグアたる俺様が、行かねばならんのだ!?」
「あの都市は我々にとっても重要です。易々と落とさせる訳にはいきません」
「俺様は今、ここ南米のラテン気質とかいうものを取り入れた新たなるポーズの開発に忙しいのだ! そんな面倒な戦いに出撃するのは御免だ!」 
「彼からの通信では、檻に閉じ込められたマトを、超高空からディメント・レーザーで撃ち抜いていくだけの簡単なお仕事、だそうですよ?」
「む‥‥ということは、ソルで出ろ、というのか?」
「その通りです‥‥何か不満でも?」
「フフフ‥‥考えてみれば、ソルはジハイド機の中でも、限られた者しか保有していないスペシャル中のスペシャル‥‥!」
「はあ‥‥」
「そして、人間共の言葉で、ソルとはこの恒星系の主星を指すという‥‥つまり、この俺様こそが、エース部隊の中の、エース機を華麗に操る、輝ける太陽! エース・オブ・エース・オブ・エース!」
「とにかく‥‥援軍として出てくれるのですね?」
「良かろう!  下っ端にも通達しておけ! このエー(略)が、特別に、少しだけ本気を見せてやるとな!」

「いいぞ、作戦は順調だ‥‥」
 次々と、ピッツバーグのアレーナ(競技場)跡に着陸しているガリーニンに乗り込んで来る市民を見て、作戦指揮官は呟いた。
 傭兵による潜入作戦の後、北中央軍は、第三次の工作員をピッツバーグに送り込み市長と接触した工作員から、次のような情報を得た。 
 一つは、『博士』が、実験は失敗した、として、近日中に市民たちを処分するつもりであること。
 もう一つは、その前に、博士が、この都市の戦力の大部分を彼の『ダンクルオステウス』に積んで、東京の時のように、どこかの競合地へ援軍として出向くことである。
 これで、北中央軍が次にとるべき行動は、決定された。救出作戦と占領作戦を立案・実行し、ピッツバーグを再び人類の手に取り戻すのだ。
 傭兵による調査で、都市の現状は、ほぼ把握済みだ。正に絶好の、絶好過ぎるくらいのタイミングであった。

 かくして、大部隊が編成され、直ちに作戦が実行に移された。市長の情報通り、こうして、市民を救出していても、キメラが散発的に襲ってくるだけであり、作戦の成功は確実と思われた。
 ただ、問題が起きていた。市長だけが、姿を見せないのだ。
 既に、市長以外の市民は全て輸送機に乗り込んでいた。これ以上時間をかけては、住民たちが危険にさらされる。指揮官は、ガリーニンの離陸を指示した。
 三角州の北西に広がるアルゲイニー河を、一機、また一機と輸送機が飛び越え、最後の一機が河を越えた所で、部隊から歓声が上がった。
 続いて、市内からの攻撃を警戒して、輸送機の後方についていたKV小隊が速度を上げ、北のアルゲイニー河を渡ろうとした時、それは起きた。

 突如、河の中から、タートルワームが姿を現し、上空の編隊に向けて、プロトン砲を発射し、瞬く間に護衛の編隊を全機撃墜する。
「キャハハはは! 命中ダ、めいチュウだ!」
 河から出現した、タートルワームの内、指揮官機らしい一機が、合成音で不気味な笑い声を上げた。
 それを聞いた指揮官が、叫んだ。
「傭兵たちの報告にあった。 子供の思考パターン移植したAIを積んだ無人機か!?」
「せぇかぁい。 それじゃあ、どんどんいってみよっかあ?」
 自らの座乗艦からの、博士の広域通信を合図に、三角州と対岸を結ぶ橋が、次々と時限装置によって爆破され、河の中からTW部隊が現れる。更に、レーダーが新たなる敵影を捕えた。
「都市西部に高速型ビッグフィッシュが複数出現! 艦載機を発進させています!」
「いかん! このままでは囲まれる! 全機、離脱を――!」
 慌てて離陸しようとするKV。 しかし、変形の隙を突いた攻撃が、無防備なKVを貫き、爆発させた。
「わーイ! 当タったよ! ハかせ、褒めテー!」
 それは、西の方に出現したタロスの放った一撃であった。
 一機のKVが、走り出し、河に飛び込んだ。格好の的の筈だが、何故か攻撃されない。その理由はすぐに判明した。KVは身動きの取れぬまま沈んでいく。河の水深は、過去のデータより、遥かに深かった。いや、バグアによって深くされていた。
 指揮官は、ようやくこの作戦自体が敵の罠だったことに気付いた。
「しかし‥‥なら、何故奴は、市民たちを先に――!?」
「ハァーハッハッハッハッ! スーパーバグア! 参・上っ!」
 上空から降り注ぐ、一条の禍々しい真紅の閃光。飛来したソルのD・レーザーが、隊長機を跡形も無く焼き尽くした。
 離陸も出来ない、河を歩行形態で渡河することも出来ない。南北の河には、TWがひしめき、西方からは、大部隊――
 もはや、包囲殲滅ですら無い。檻の中に閉じ込められた奴隷を、野獣に食わせるが如き、虐殺であった。
 唯一の救いは、民間人を乗せた輸送機が、無事安全圏に離脱したことだけだ。かろうじて対岸に残っていた部隊に出来ることは、援軍の緊急出動を要請することだけであった。
「市長? やっぱり、まだ残ってたのぉ? 危ないよぉ? いつソルの主砲そこに当たるかわかんないんだよぉ?」
 博士の通信は、既に無人となった筈の大学の校舎であるビルへ向けて発せられたものだ。
「‥‥私は、市民を、そして、同胞をあなたに売り渡した市長として、責任を取る」
 最上階の執務室で、市長が答える。
「とか何とか言ってぇ。 このショーが見たいだけじゃないのぉ? ねえねえどんな気分? 自分が流した偽情報で味方が全滅していくのを特等席で眺めるのって、どんな気分!? あはっ、あっはははははははははっ!」
「ハァーハッハッハッハッハッ! 不甲斐ないぞ! 人間共!」
 もはや、部隊としての体をなさなくなった眼下のKVを、高笑いしながらDレーザーで狙撃するシェアト。
しかし、Dレーザーの再発射に備えて、一旦チャージ態勢に入ったシェアトはふと表情を曇らせ、G3とT3に話しかけた。
「おい下っ端の下っ端共! ‥‥確かに効果的なようだが、何というか、俺のスーパーバグアとしての美学に反する! つまらん、つまらんぞ!」
「おっしゃる通りでしょう、閣下。 まあ、あのガキも、俺も、碌な死に方は出来ないでしょうよ」
 G3が静かに答えた。

●参加者一覧

/ 如月・由梨(ga1805) / 終夜・無月(ga3084) / エレナ・クルック(ga4247) / UNKNOWN(ga4276) / アルヴァイム(ga5051) / ハンナ・ルーベンス(ga5138) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / イスル・イェーガー(gb0925) / アレックス(gb3735) / 番場論子(gb4628) / 館山 西土朗(gb8573) / 綾河 零音(gb9784) / ジャック・ジェリア(gc0672) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / ラナ・ヴェクサー(gc1748) / ミリハナク(gc4008) / 黒木 敬介(gc5024) / BEATRICE(gc6758) / 来栖 夢魔(gc6950

●リプレイ本文

 地上の地獄絵図とは対照的な、ピッツバーグ上空の蒼穹にあってその巨体は、なお蒼かった。ブライトン親衛隊・ゼオン・ジハイド専用精鋭機動兵器の中で一際異彩を放つ。要塞型ワーム――ソル。
 その紡錘形の巨体が中央から割れ、爆ぜた肉と脊椎を想させるなぶ構造の中に突き立つ透明な結晶体こそ、主砲であるレーザー発振器である。救出部隊の侵入に際して充電中だった悪魔の光、ディメント・レーザーが、眼下の生贄を狙って、今再び燐光を放ち始める。
 エレナ・クルック(ga4247)のワイバーンMkII『ポン太』が横からミサイルを連射し、必死に発射を妨害する。
「もうこんな弱いもの苛めみたいなかっこ悪いことはやめるですっ!」
「安心しろ! 手応えの無い連中を狙うのはもう止めだ! 望み通りお前たち能力者を狙ってやる! ハァーハッハッ!」
 だが、Dレーザーによる狙撃を妨害されたシェアト(gz0325)は何故か、むしろ嬉しそうにエレナの迎撃に移行した。
「行け! ミニミニソル共!」 
 ソルの側面に埋め込まれた複数の子機が、高速移動で展開。エレナ機に全方位から集中砲火を浴びせる。雨あられと降り注ぐフェザー砲。
「ふにゃ〜‥‥助けてにゃ〜><」
 必死で逃げ惑うエレナだが、そういつまでも逃げ切れるものではない。しかし、あわやとういう所で綾河 零音(gb9784)のアメティストス・オリオンが放ったミサイルが子機に殺到。撃墜は叶わなかったものの、エレナ機への火線を逸らすことには成功した。
「はわわっ‥‥零音さん、ありがとうです〜」
 危うい所で体勢を立て直したエレナは旋回、再びソルに機首を向けると、スラライを発射。ソルの巨体の側面に、余す所無くペイント弾をぶちまけた。
「すっ‥‥スーパーバグアさんが、ペイント弾まみれの機体に乗っている姿なんて、みんなに見られていいんですか? スーパーバグアの名前が泣くですよ?」
「むっ‥‥!?」
 言われて、自機の外装をモニタリングするシェアト。見れば、カラフルな塗料が出鱈目に付着し、子供の落書きのような様相を呈している。
『こ‥‥これはッ! 俺様のソルが‥‥ゼオン・ジハイド機の中でも更に選ばれし者のみが操れる、輝ける俺様の太陽が‥‥!』
 機体の外装を確認し、呆然となるシェアト。彼をに対峙する傭兵たちの眼から見ても、その動きが目に見えて鈍っているのは明らかだ。
 だれもが攻勢に転じようとした、その時である――
『きゃあああああああああッ! スッゲエ! 凄過ぎるよ兄貴! 見えるかい?! あの上空に浮かぶかっこよすぎる機体‥‥っ!』
 いきなり素っ頓狂な声を上げたのは、地上のT3である。
『ああ‥‥、ノーマルのソルも相当イカしたワームだったが、このペイントのかっこ良さは‥‥次元が違いすぎる‥‥こいつは、そう、『スーパー』・ワーム‥‥! 何ていうか、ようやく、ワームのかっこよさが中の人に追いついた感があるぜ‥‥』
『ハァ――ハッハッハッハッハッ!!』
 一気に戦意を回復したシェアトは、ソルの豊富な火力を最大限生かし、フェザー砲と、子機の砲を全方位に撃ちまくる。しかも、タチの悪いことにさすがはゼオン・ジハイド。
 その一撃一撃は出鱈目に見えて、全て的確に各KVを狙っていた。
 それでも、傭兵たちも必死に回避するが、それぞれが少なくない損害を受ける。
「‥‥ちょっとそこの馬鹿、こっち向け」
『む‥‥?』
 戦意が最高潮に達したシェアトに何か言いたいことがあるらしく、零音が回線で語りかける。
「‥‥誰が最強だ。誰が『スーパー』だ。おまえは、ただの、どこにでもいるよーな凡俗で凡庸でありふれた勘違い野郎なんだよ。この世で最強のバグアはお前じゃねー。お前にそんな大層な呼び名は似合わん」
『ほほう‥‥? では、誰に相応しいというのだ人間? お前が相応しいとでも、言うつもりか!?』
 そう問い返すシェアトの口調は不気味なほど落ち着いている。
「‥‥最強を名乗るにふさわしいのはただ一人‥‥ゾディアックが魚座、アスレード(gz0165)だけ! 彼がお前達新参者なんぞに劣ると思うのか!?」
 ドヤ顔で愛の告白を始めた零音に、T3が冷静なコメントをする。
『すげーや兄貴‥‥あの姉ちゃん‥‥盛大に敵に味方に分かれた悲劇の愛の告白を始めちまったぜ‥‥』
『悲劇の愛っつーか、壮大な片想いにも見えるけどな』
『‥‥おい、下っ端共‥‥。元人間であるお前たちに聞くが‥‥お前らのもてはやす『愛』とやらはこういうものなのか‥‥?』
 明らかにテンションダウンしていくネームド三名。
『お姉さん凄いやぁ! まるでロミオとジュリエット気取りだねえ! ああ、アスレード様! 貴方は何故、バグアなの? て所かなぁ?』
 一人、ドクトルだけは、一応テンションを合わせている。
「‥‥お前は、自分の小ささを、一回思い知っとけ。お前以上に凡俗で凡庸でありふれた傭兵のこの私にひと泡吹かされることで! 解ったかこの腹巻野郎!」
 零音は、もはや、完全に一人の世界に入った状態で、シェアトを罵倒し続ける。完全に白けた様子で、交戦しつつ、耳を傾けていたシェアトであったが、彼女の最期の言葉を聞いた瞬間クワッ! と怒りを露わにした。
『この腹巻を侮辱するとは‥‥ハハハ‥‥絶体に許さんっ!』
 そこに怒るのかよ‥‥という傭兵・バグア双方の内心の疑問も無視して、ソルの火線が、零音機に集中する。
「甘い! 知覚機乗りだからこそ、わかる弱点がある!」
 そう叫んで、零音は機体をソルの下部に肉薄させ、排熱機関だと思われる個所に集中攻撃を加える。これだけ撃ちまくった後なら、Dレーザー発射直後でなくとも、有効だろうという判断だ。
 しかし、シェアトは、ソルの巨体を慣性制御を利用して小刻みに上下させ、ソルの巨体を零音の機体に激突させる。それも、何度も。
『ハァーハッハッ! 思い知ったか! 俺様のスーパー・ストマック・ベルトを侮辱した報いだ!』
 緻密な連携で、ソルに挑んだ空戦部隊も、これには手出し出来ない。ソルに密着し過ぎて、迂闊に攻撃できないのだ。
 方向によっては、確かにソルの巨体の影に隠れて、安全に攻撃できるかもしれないが、あの慣性制御特有の無茶かつデリケートな動きをされては、逆にソルが零音機を味方の射線上に押しやる危険もある。
 かくして、零音機は圧倒的な質量差による打撃でボコボコにされ、地上へと落ちて行った。
『無様だな! 凡俗で凡庸でありふれた傭兵! 折角だから、死にゆく貴様の名でも聞いておいてやろう!』
「名前?‥‥綾河零音、よーく覚えておくとよろしくて、だよ‥‥?」
 そう呟くのが精一杯。零音は目を回して意識を失いかけていた。だが、シェアトは攻撃の手を緩めない。零音機から射出された脱出ポッドに向けて、子機を飛ばし、止めを刺そうとする。
 しかし、ノーヴィ・ロジーナbis【字】に乗るアルヴァイム(ga5051)が、素早くチェーンガンを発射し、子機の発射を阻止。シェアトの注意を引きつけた。
「各機! 零音さんが落ちました! どなたか救助を‥‥!」
 その隙に乗機のウーフー2『フラウ・ジャンヌ・クローデル』で管制を担当しているハンナ・ルーベンス(ga5138)が、低空で戦う仲間たちへ、通信で救助を要請した。
これを受けて、撃墜された零音を救出したのは、来栖 夢魔(gc6950)のサヴァー『GoodNightmare』である。
 零音が落下した場所を素早く割り出し、敵の攻撃が届かないことを確認してから着陸して変形した。
 零音の機体は、主に翼部分を損傷して飛行能力を失っていたものの、駆動系は辛うじて生きており、無事に脱出した零音自身も重症は免れていた。
 来栖機は、零音の脱出ポッドを抱え、西王母まで搬送する。
 高空では、引き続き傭兵たちがソルとの戦闘を展開中である。
「貴様が、スーパーバグアこと、シェアトか。その歌舞いた振る舞いとは裏腹に‥‥いや、その振る舞い故に、真の手練れと見受ける。我も死力を尽くしてお相手させて頂こう」
 アルヴァイムの通信は、“エース”であるシェアトへとの畏敬と、それ故に戦闘には全力で対応するという決意の表明である。
『ようやく俺様を畏敬出来る、少しはマシな人間が現れたようだな! ハァーハッハッ‥‥』
 だが、コクピットの中のシェアトは、何故か高笑いを中断し、難しい顔で腕組みをした。
『しかし、どうもこそばゆいぞ‥‥やはり敵である人間共からは、さっきの女のように、無理解な罵倒を受けた方が戦意が高まる気が‥‥』
『閣下‥‥どんだけ‥‥イジられ役‥‥』
 シェアトの言葉に、思わずオープン回線で突っ込むG3。
『うるさい下っ端!の下っ端! 俺様は意外に繊細かつ複雑怪奇かつナイーブな心の持ち主なのだ!』
『すげーや兄貴! 俺でも突込みどころが見つからない! さすがゼオン・ジハイドは一味違うね!』
 T3が言う。
「アンタが噂のスーパーバグア‥‥エースか。 真のエースだってんなら手合わせ願おうか!」
 その時、これ以上は味方をやらせまいと、シラヌイS2型『カストル』に乗るアレックス(gb3735)が攻勢に出た。バルカンで装甲の隙間や薄そうな場所に精密射撃を試みた。
 しかし、ソルも、その巨体を素早く回転させ、ギリギリで急所以外に、弾を当てさせて凌ぐ。
『いかにも、この俺は、紛う事無き、真のエース・オブ(略)! だが、貴様はどうかな!? この俺の相手をする資格はあるか!?』
「ほうれほれい、なんじゃ、そのセコい動きは! スーパーバグアも大したことないのう!」
 ペインブラッド『スカラムーシュ・ラムダ』に乗る美具・ザム・ツバイ(gc0857)も挑発でシェアトの集中力をかき乱しつつ、ミサイルを発射する。
 これに加えて、突出を控えているアルヴァイムが、友軍と攻勢の間隙を補完するように攻撃を加え、ソルの挙動を妨害する。
『ええい、小賢しい! こうなったら、お前たち纏めて吹き飛ばしてやる!』
 急加速で、一旦離脱したソルは、子機を展開させて変形し、素早くDレーザーの発射体勢を取る。開いたソル内部のレーザー発振器にエネルギーが集中していく。
 アルヴァイムは、その機首が、同高度の自分たちに向けられることを、素早く先読みした。
 既に突起部分への攻撃は間に合わない。主砲が、眼下の味方では無く、自分たちに向けられてる以上、今から発振機を狙っても、良くて相撃ちだ。アルヴァイムは、味方に緊急回避を指示する。
『かかったな! 慣性制御が利かぬお前らの機体では、このような華麗な挙動は出来まい!? ハァーハッハッ!』
 勝ち誇るシェアト。ソルは、慣性制御で機首方向のみを素早く転換し、射線を地上に合わせた。
「チッ‥‥! アルヴァイムの先読みの裏をかきやがった‥‥! 腐ってもネームドか」
 歯噛みするアレックスのモニターに、深紅の光があふれていく。ソルが遂にDレーザーを発射したのである。

 南のモノンガヘイラ河の水面で、TWと交戦しているのは、ラナ・ヴェクサー(gc1748)の愛機グリフォン『シーゼファー』だ。
 水煙を挙げつつ、水面を滑空し、建御雷で、TWの甲羅のブレードと切り結ぶ。
「‥‥ふ、もって下さい‥‥よ。この‥‥身体‥‥」
 敵は連携等頭にないとはいえ、決して低くは無い操縦能力に、ラナは終始押され気味である。
「‥‥言葉、だけじゃない事を‥‥期待、していたのですが‥‥ふ」
 ちらり、と横を見てどこか、皮肉な笑みを浮かべるラナ。彼女とAI機に挟撃を仕掛ける筈であった黒木 敬介(gc5024)のグリフォンは、通常のTWに苦戦し、思うような連携が取れずにいたのである。
「‥‥! これ、は‥‥」
そして、ただでさえ、余裕が無い所に感じた、上空での異変。頭上を見上げればD・レーザーの紅い光りが彼女の頭上付近で明滅していた。
「警報! シェアトクラッシャー発射準備中! 着弾予測地点は‥‥ラナさん! 回避を!」
 管制を担当するハンナが警告した。
 とっさに、大きく回避運動を取るラナ。だが、連携が頭にない故にTWがレーザー着弾等知らぬ顔で、食らいついてくる。
 パワー負けして、抑え込まれる。ラナ機。地上からでも、はっきりと強くなったことが解る光。絶体絶命化と思われたその時である。
 黒木機の放ったプラズマリボルバーが、TWに着弾した。見れば、黒木と戦ていた通常のTWは、首を吹っ飛ばされていた。知覚攻撃を頭部に受け、その攻撃がそのまま貫通したのだろう。
『痛〜イっ!』
「マヌケだね。おいガキ。お前みたいに弱いのは俺一人で十分だ。遊んでやるから来いよ」
 自分がクソガキかつ、既に機体がボロボロなのに、挑発する黒木。
「コいツぅ〜!」
 怒り狂い、折角追い詰めていたラナに止めを刺さず、黒木に向かうTWに、挟み撃ちでプラズマバレットと、ライフル弾をを叩きこむ二人。これには、TWもたまらず、水中に退避した。
 同時に、ラナと黒木も素早く回避行動を取り、無事Dレーザーの着弾地点から退避した。二人の機体は、着弾の衝撃で発生した巨大な水柱のせいで、滝のような水を被る。
「こいつは厄介な戦場だな‥‥デート一回じゃ釣り合わないかもね?」
 そんな、ふざけたような通信をラナによこす黒木。
「‥‥物好きな、方ね。 貴方‥‥も‥‥」
 ラナは、精神安定剤を噛み砕くように飲み込みつつも、微かに微笑みそう言い返すのであった。

 撃破された正規軍のKVから脱出したパイロットは、必死にビル街を、救出部隊の西王母が待つアレーナ方面へ逃げていた。だが、負傷した仲間に肩を貸している身では、その歩みは遅い。
「ああっ!!」
 悲鳴を上げる兵士。飛翔する残忍なキメラ軍団が、それに目を付けたのだ。空中から、キメラの群れが、二人へと降下する。
「謀られた正規軍は‥‥私たちが無事救出します」
 そこに、超低空からツングースカ機銃が撃ち込まれた。一瞬で血煙とミンチに変わるキメラ軍団。
 二人の前方から飛んで来た、番場論子(gb4628)のグロームは、そのまま彼らの上空を通過、なおも後方から雲霞の如く殺到するキメラの群れにロケット弾を撃ち込んだ。
 密集が仇となり、キメラの群れはまとめた火達磨となり甲高い断末魔を挙げた。
「目論見通り、ですね。 ゴーレム用にロケット弾は温存しなければ」
 だが、次の瞬間、嫌な予感を感じて背後を見る。後方にいるAIタロスが、こちらを狙っているのだ。
『落トしチゃうぞー! ばッキュゥーんッだ!』
「させるかよ! さあ、お邪魔虫の登場だぜ!」
 タロスと、番場機の射線を横切るように、館山 西土朗(gb8573)のイビルアイズがラージフレアをバラ撒いた。
 発射の直前に、重力波を攪乱されたことで、タロスのライフルは大きく的を外すこととなった。
 ●
 北のアルゲイニー河を航行し、浮遊水上砲台として、正規軍への砲撃を狙うTWにジャック・ジェリア(gc0672)の操るスピリットゴースト『ジャックランタン』が、スラスターライフルによる、弾幕制圧射撃を行う。
 その背後から、翼竜の如き姿を備えたミリハナク(gc4008)の愛機竜牙『ぎゃおちゃん』が口腔内に装備した荷電粒子砲で、怯んだTW武装を狙う。
「いきますわよ【コロナエスプロジアーネ】!」
 重体の身を押して、必殺技の名前を叫ぶミリハナク。だが、TWは、素早く頭を引っ込めて水中に潜り、攻撃を回避する。
「亀さん亀さん、首を引っ込めて逃げ隠れするだけかしら?」
 早速、AIを挑発するミリハナク。
「おい、あんまり挑発は避けた方が‥‥」
「問題ありませんわ♪ 私にはジャックランタンシールドがありますもの」
「それ、俺の機体じゃん!」
 レーザーライフルで、牽制しつつ、しれっと言い放つミリハナクに思わず突っ込むジャック。水面にいくつもの水柱が弾ける。
「それに‥‥手負いの竜とはいえ、亀には負けたくありませんからね!」
 無人機の攻撃からジャックランタンに庇ってもらいつつ、充電を完了させた荷電粒子砲の照準を合わせるミリハナク。そこに、何ものかの突込みが入った。
『ただの亀ならねえ? でもボクの実験作は、アーケロン並みの威厳はあると自負するよお?』
 言うまでも無く、野次を飛ばさずにはいられない、ドクトルである。
『ハかせー? アの格好いいノも落トしてイいのー!?』
「フフ‥‥言ってくれますわね。おこちゃま達‥‥私が負傷で操縦下手になっても、ちゃんと動いてくれる愛機のぎゃおちゃんの恐ろしさ、見せてあげますわ!」
 好戦的な笑みを浮かべ。一気に機体を突入させるミリハナク。
「行きますわよ! ジャックランタン・シールド!」
「結局俺頼みかよ!」
 呆れながらも、ジャックはしっかりミリハナク機をフォローし、ガトリングで敵を牽制。爆破された橋の中間地点で、翼竜VSアルケロンの戦いが開幕した。 

 地上では、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)の R−01改『ディース』が西王母の離陸を支援すべく殺到するキメラを機関砲で薙ぎ払う。
「それじゃあ、一番何とか出来そうな人に最初に降りて貰うのが良い、のかな?」
 ユーリが言う。
「‥‥で、東に突っ込むのは私だけかね? まあ、散歩をしてこよう」
 UNKNOWN(ga4276)は、ユーリの通信に飄々と応える。操縦者自身と同じ愛称を与えられたK−111改が、武術の歩法の様な動きで歩み出す。
 イスル・イェーガー(gb0925)は、クノスペ『メースィヒ』で、援護射撃を行いつつ、市長の残るビルへと近づいていく。彼のクノスペは人員輸送コンテナに換装してある。
 やがて、ビルの呼びかけが届く位置についたイスルは市長を説き伏せ始めた。
「‥‥責任を取る、というならここに残らず、寧ろ生きて、言葉や行動で取るべきだよ‥‥」
「既に、事は起こってしまった。罰を厭うつもりはないが、この作戦で亡くなった将兵の生命や、私が人生を狂わせてしまったこの市の住民たちに、贖うには、この手段しかあるまい」
 市長の決心は、固い様だ、しかし思わぬところから、助け舟が来た。
「またまたぁ‥‥なんだかんだ言ったって、死ぬのは怖いんでしょお? 戦闘のどさくさに紛れて行方不明扱いになれば、諜報部に追われる心配も無いしぃ、命だけは助かるもんねえ?」
「小僧! 口を慎め!」
 怒気を孕んだ声で一喝したのは、上空でソルと交戦中の美具である。
「市長殿は、ノブレスオプリージに従って、責任を取ろうとしておられるのだ。その心意気すら解らぬか!」
「‥‥市長さんのことを、大切に思っている人だって、きっと居る筈です。その人たちに、あんな思いはさせてはいけないです‥‥」
 大切な人を大規模で亡くし、人の死について敏感になっている為、命を落す人を少しでも減らしたいと願うエレナの言葉は、重い。
「今、お姉さんが、いい事言ったよぉ! そうそうどんな生物だって、所詮は生き続ける以上の義務なんて、無いんだからねえ」
「万が一、銃殺刑にでもされそうになっても、安心して良いよぉ? 僕がちゃあんと、強化人間にしてあげるからねえ!! あはっ、あははははっ!」
 オープン回線で笑うドクトルの嘲笑に、高空でソルと対峙しているアレックスが、怒りの表情を浮かべた。
「ゲスにも程がある‥‥このままじゃ、済まさねェ‥‥!」
「市長、降りてこなければ‥‥大学のビルを壊す」
 いつの間にか、ビルの真下に機体を進めていたUNKNOWNが、そう言って市長を脅し始めた。
「バグアの蹂躙にも耐えた、この歴史ある建物は、後世に伝えねばならないでは無いか、な?」
 しばしの沈黙の後、再び市長が通信をよこした。
『‥‥わかった。あなた方のご厚意に甘えさせて頂こう‥‥すぐ降りて行く』
 イスルはほっとした様子で、僅かに微笑むと、コンテナの収容準備を整える。その隙をフォローするべく、館山機が、ゴーレムにスラスターライフルを連射する。しかし、その時、南側から、TWの長距離プロトン砲が、イスル機を狙って放たれた。
『隙ダらケだぞー!』
 しかし、UNKNOWN機が素早く射線に割って入り、機盾で攻撃を防ぐ。
「ふむ。危なかった、ね。それにしても‥‥」
「ええ‥‥子供の思考パターン移植したAI‥‥て、なんか嫌ですね」
 相手の言葉にイスルは返し、河に視線を向ける。

「ふむ、さすがに、こいつは,キツイ、な。 ブルースを口ずさむのも、キツくなって、きた」
 東へと単騎で進行するUNKNOWNだったが、母船であるダンクルオステウスに接近するにつれ、頭痛が強まって来るのを感じていた。
 敵のワームの攻撃は、彼の精鋭機にさしたる損害を与えることは無い。しかし、その隙のない足運びにも、やはりふらつきが見られる。
 その彼の機体の側を、如月・由梨(ga1805)のディアブロ『シヴァ』が放ったスナイパーライフルの弾が霞め、遥か前方で文字通り、頭痛の種であるCWが一体、弾け飛ぶ。
「あの博士とやらが実験を簡単に諦める訳はありません。隙あらば、ここで仕留めてしまいたいですが‥‥戦力的に厳しいですね」
 彼女の言う通り、CWの数はまだ多く焼け石に水である。それでも、彼女とUNKNOWNの精鋭機が東に対する牽制となれば、正規軍が危険に晒される危険は減らせるであろう。
「如月さん、アグリッパに十字砲火をかけますか?」
 支援の為に如月機の上空に飛んで来た番場が通信で問いかけた。
「いや‥‥この距離でしかもあの数のCWでは‥‥それに一機のアグリッパなら、この距離ではそう脅威にはならないでしょう。 引き続きCWの数を減らします」
 この提案を受け入れた番場が飛び去った後、如月はリロードを行い、空を見上げた。
「彼と組んで、シェアトに大規模作戦の借りを返すのも楽しそうでしたけど‥‥今回はお預けですね‥‥どうか、ご無事で」
 そして、重症の身を押して戦う婚約者を案じるのであった。

「先達で、潜入した者として‥‥」
 そう呟いた終夜・無月(ga3084)は、愛機のミカガミ『白皇 月牙極式』で、低空を舞い、同じく低空飛行で侵入してくるゴレームに、レーザーライフルで狙う。
 一撃目は何とか、命中したものの、やはり重体のせいか、急所を外す。止めをさそうと二発目を構えた時、AIタロスの狙撃が放たれる。
 止むを得ず回避を優先する無月。
『あー! 惜っシいー!』
『あれぇ? 随分と具合が悪いみたいだけど、大丈夫ぅ? そんな身体じゃあ、すぐにぽっくり逝っちゃうよぉ』
「ご心配無く‥‥俺は、エミタ・スチムソン(gz0163)と決着をつける前に死んだりはしませんよ‥‥」
 無月は、僅かに呼吸をみだしながらも不敵に笑い、今度こそ止めのレーザーライフルを、ゴーレムに命中させるのだった。

『くそっ! ただでさえ固いってのに、こっちの機体の残骸を盾にされちゃあな‥‥!』
 黒い機体が接近するにつれ、G3とT3、そしてAIタロスはCWの有効範囲までの後退を余儀なくされている。
 黒いKVは、破壊されたゴーレムの残骸を手につつ、敵に応戦していた。
 この一帯は廃墟であり、お互いが遮蔽物を陰にしての銃撃戦が展開されていた。
『兄貴〜! 俺に任せろ〜!』
 T3が叫び、相手の機体では無く、その付近の朽ちかけたビルにフェザー砲を撃ち込んだ。崩れた高層ビルが、機体の上に崩れ落ちる。
『やったか‥‥?』
「中々味なことをする、ね。 折角だから名前でも聞いておこうか、な?」
『ようく覚えておけ! 俺はグレートゴージャス‥‥』
 乗せられて、G3が名乗りを上げた瞬間、瓦礫の下から飛び出した黒い機体が、槍を構えてG3に突進。しかし、ジャミングの影響範囲内ということもあり、ギリギリでG3は攻撃を躱す。続いてT3が、タックルで機体を弾き飛ばした。
『なにすんじゃボケー!』
「あ、すまん。つい」
 悪びれもせずにUNKNOWNが言う。かくして、再び戦線は膠着した。

『全負傷者の収容完了! 生きている奴は全員乗り込みました!』
『ようし、西王母離陸準備! 傭兵にも伝えろ!』
 部下の報告を受け、救出部隊の指揮官が叫ぶ。
 指揮官の言葉を聞いたハンナは、直ちに管制機として、全ての傭兵たちに撤退を勧告した。
『救助完了! 撤退開始です。 各機! 西王母の進路を切り開いて下さい!』
 北で交戦中だったミリハナク、そしてジャックが真っ先に反応した。
「撤退‥‥味方がソルを抑えている内でもなければ脱出すら怖いものね。 ジャックランタンシールド! 生きて帰りますわよ!」
「もう突っ込む気すら起きん‥‥」
 ジャックはミリハナクの言葉に呆れながらも、ファルコンスナイプ併用の200mmによる砲撃を敵に浴びせ、素早く反転した。通常のTWはひとたまりも無く吹き飛んだが、既にミリハナク機に武装を破壊されていたAI機の方は持ち堪え、水中へと対比する。
「残念ですわね‥‥重体の身でなければ‥‥まあ、重症での戦闘もそれなりに楽しめたし、味方の時間稼ぎができただけでも良しとしましょう」
 こうして二機は味方と合流した。
 一方、南では、河の中で、レーザークローでAI機と、ラナ機、黒木機が白兵戦を繰り広げているところに撤退指示が来た。
「残念、です‥‥あと一歩なのに‥‥」
 ラナは、錠剤を噛み砕き、唇を噛み締める。ラナの言う通り、二機は敵に大きな損害を与えていたが、二機の被害も大きかった。撤退指示が出た以上。これ以上の戦闘は危険である。
「いや、時間稼ぎは成功したんだ。俺たちは役割を全うしたよ」
 実際、TWは、プロトン砲や、その他の射撃装備をすべて破壊されていた。もはや離脱の脅威となりえないのは明らかだ。
「さて‥‥無事成功して終わったのだから、一晩寝てくれるかな?」
 水中を飛び出し、高速で離脱しつつ軽口を叩く黒木。ラナは無視していたが、最近の依頼で失態が続いた中、無事役目を務めおおせたことで、その表情は朗らかでもあった。

「陸戦形態の方は、急いで変形して離陸を! 番場さん、ユーリさんは引き続き低空で、敵ワームを牽制! 離陸支援を! 館山さんはジャミングを絶やさないでください!」
 切り掛かってきたゴーレムをシヴァで一刀両断にした如月機も、潮時とばかり味方の航空支援の下に退却し、素早く離陸する。
 遅れて、市長を無事収容したイスル機も続いた。
 更に、少し離れて応戦していた無月の機体も、安全圏にまで撤退する。
「無月さん‥‥ご無事でしたか‥‥」
 如月の安堵をにじませた通信に、無月は微笑んだ。

『どうしたどうした! 下っ端共! 随分と手こずっているではないか!』
『面目ない限りでさぁ! いかんせん下っ端なので、連中の精鋭機を相手取るのは中々骨が折れますぜ、閣下』
 高空からのシェアトの通信に、地上で戦うG3が応じた。
『よかろう、この俺様が助太刀してやる! 泣いて喜ぶがいい! ハァーハッハッハッ!』
『‥‥』
『‥‥』
『‥‥』
『何だその間は! 仮にも俺は精鋭部隊ゼオン・ジハイド! 下々のものの、支援位してやらんでもない!』
『勿体無いお言葉。 恐縮の極みです』
 ドクトルが言う。
『フン‥‥それに、空で人間共に付き合うのも飽きてきた! 少々連中に思い知らせてやりたくもあるからな! ククッ!』
 シェアトが浮かべた笑みは、彼にしては珍しく、哄笑では無く、何かを企んでいる腹黒い笑いである。

「ええい! うるさい子機じゃ! 一掃してくれる!」
 美具が叫び、ドゥオーモを発射する。だが、ソルは素早く子機を収納すると、主砲を閉じ、巡航形態に変形し。フェザー砲でミサイルを迎撃して急降下を開始する。
『ハァーハッハッ! 残念だが遊びは終わりだ! 人間共!』
「ソルが急降下‥‥? 狙いは西王母か!」
 ハンナの指示を受けて、遅滞後退に入っていたアルヴァイムであったが、常にソルと救助部隊の移動経路及び相対位置の変遷に注目していたため、真っ先にシェアトの狙いに気付いた。
『このままでは‥‥! 手助けどころか‥‥足を引っ張る可能性もありますが‥‥!』
 アルヴァイムの指示を受けて、BEATRICE(gc6758)が、ソルを食い止めるべく動いた。
 ソルの上空西側方向距離120位置で待機していたBEATRICEのロングボウII『ミサイルキャリア』が、射程ギリギリから『パンテオン』を発射した。五十発のミサイルがソル只一機に向かう。
 着弾。だが、爆炎を突き破り無傷のソルが、慣性制御で瞬時に降下を中止、加速してBEATRICE機に突進する。
『ハァーハッハァッ! 安心しろ! このソルには、手足に相当する部位は無い! よってそんな心配は入らん!』
「は‥‥? いえ、そういう意味では‥‥では無くて! 残念‥‥目を付けられましたか‥‥」
 自機の十倍以上ある相手に体当たりされてはひとたまりも無い。一時距離を離そうと、速度を上げ、再びパンテオンを放つが、ソルは全く意に介さずに突っ込んで来る。
「させぬわ! 美具のアーマゲドン・スプラッシュで消し飛ぶがいい!」
 高空からの急降下。そして、ブラックハーツで強化したミサイル流星雨の大技をソルに仕掛ける美具。
 だが、頑強なソルに対しては決定打を与えられない。それでも、かろうじてBEATRICEが回避行動に移る一瞬の時間を稼ぐことには成功する。
「ソードウィング、アクティブ! いっけぇぇぇぇぇッ!!」
 そこに、最後の手段とばかりブーストを全開にしたアレックス機が、剣翼突撃をかける。
『スゥウパァッ・バッグアッ・クッロォオオウッ!』
 しかし、ソルもすかさず変形し、格闘用アームを展開。ソードウィングとクローが交錯し、火花が散る。最終的に、質量で勝るソルがアレックス機を弾き飛ばし、フェザー砲を放つ。
「AEC全開ッ! 踏ん張れ、カストル!」
 だが、アレックスは危うい所でAECを起動してこれを凌ぎ、墜落を免れた。
 遂に、ソルは低空で、既に離脱を開始していたダンクルオステウスの隣に到着すると、再度砲撃形態取った。
『ハァーハッハッ! 大盤振る舞いだ! この距離からソルの主砲をあのデカいKVに直撃させてくれる!』
『‥‥既に戦意を失って、背を見せる相手を後ろから‥‥? それは閣下のご趣味に合わなかったのでは?』
 ドクトルが戦意満々のシェアトに、意外そうに質問する。
『フン! 連中は戦意を失ってなどいない! この俺に対してここまで抗って見せたのだ! ならば最強のスーパーバグアとして受けて立たつ! 発射カウントを始める! さっさと味方を、射線から退避させろ!』
『もう避難してます〜!』
 間の抜けた声と共に、粉じんが舞い上がって視界の悪くなった地表からG3とT3が上昇して来た。
『無事だったみたいだねぇ。 あの、黒い精鋭機は?』
『この通り視界の悪い中で撃ち合っていましたからねえ、正確な位置はちょっと‥‥』
『構わん! 下がれ下っ端共! 纏めて薙ぎ払う! 超口径プロトン主砲充電完了! ディメント・レーザーによる出力増強! 惑星自転及び重力による誤差修正! 最終照準!』
 強大なエネルギーが紅い渦となって、ソルの発振器に収束する。そのエネルギーの揺らぎは、遠目にはまさしく『太陽』の名にふさわしい。
 その光は、西王母を直衛する傭兵たちからも確認できるほどだ。
「スーパーバグアのくせに、後ろから狙い撃ちって何だ、それ‥‥弱い物いじめは駄目だろう!」
 アルヴァイムが、素早く相手の狙いを見抜いたことを受け、ユーリが、咄嗟に機体を方向転換させ味方編隊の真後ろに移動した。地表や建造物の残骸に、手当たり次第ミサイルを撃ち込む。土砂を巻き上げて、西王母への照準を逸らす為だ。
 同時に、館山機も最後の錬力でジャミングを全開にする。
「仲間は死なせねえ!」
『む‥‥これは』
 ソルのコックピットでシェアトが当惑している。館山のジャミングで照準が狂わされたのは勿論、ユーリの撒き揚げた土砂によって、目視による照準も阻害されてしまったのだ。
『ハァーハッハッ! やるではないか!』
 シェアトはむしろ嬉しそうに高笑いする。
『閣下、曲者が‥‥』
 レーダーを見たドクトルが警告を発した。UNKNOWN機が、ソルに向けて迫って来ていたのである。
「さて、もう発射直前か。西王母に直撃で、三角州は惨劇となる、かな?」
 そう言いつつも、彼の目的が発射妨害にあることは明らかだ。
『中々の動きだ! しかし、ちょっと遅かったようだな! ハァーハッハッハッ!』
 だが、あと一歩というところで、遂にソルが主砲を発射した。
発射の瞬間、周囲が真紅に染まる。低空から、地表付近で撃ちだされたプロトン砲は、廃墟の建造物や道路を、瞬時に蒸発させながら西王母を中心とした編隊へと迫る。
 やがて、着弾した光線が、紅い粒子を散らし、凄まじい爆発が起きる。着弾点付近の建造物が一瞬で消し飛んだ。
 だが――爆発による粉塵の中から、西王母の巨体が、そしてそれを護衛する傭兵たちの編隊が、無事姿を現した。発射には間に合わなかったものの、ソル本体を穿ったUNKNOWN機の銃弾が、僅かにレーザーの着弾点を逸らしていたのだ。
『フン‥‥! やはり、照準が合わせきれなかったか‥‥見事、と、特別に本気で無かったとはいえ、褒めておいてやろう!』
『さて、今日はまだ本気を出す時ではないし、この辺で切り上げるとするか!』
『撤退にさんせーい』
『さんせーい!』
『異議なーし』
『よかろう! では今日はここまでだ、人間共! また遊んでやる! ハァーハッハッハッ‥‥』
 こうして、高笑いを残して、自称最強のスーパーバグアと、その下っ端たちは夕暮れの空を東方面に撤退していった。
「作戦終了‥‥全機、帰投願います‥‥」
 ハンナの指示の下、ソルに対応していたメンバーも、次々と高空から編隊に合流して来ていた。そして、一番最後に合流して来たのは、廃墟と化した市街地から離陸した。UNKWONの機体である。その片腕は失われていたが、全体的に損傷は軽微であった。
「やっぱり、簡単にはやられないよね‥‥こっちの、地上戦の主役はあの人だからね」
 イスルが微笑して呟く。
 被害が少なかったことに、安堵しつつも、ハンナは何故か深いため息をついた。
「リリア・ベルナール(gz0203)姉様‥‥この空を見上げておいででしょうか‥‥」
 だが、その憂いに満ちた表情は、直ぐに、静かな強い決意を秘めたものに変わる。
「リリア姉様‥‥私は、私達は何者にも屈しません。‥‥貴女を取り戻すその日まで‥‥」

『オープン回線だから、しっかり聞こえてるんだよねえ』
 ハンナの独り言を聞いてしまったドクトルが、椅子の上で肩をすくめる。
『また、ファンという奴か‥‥いっそ精神攻撃でも仕掛けてみるか!?』
 シェアトもソルの操縦席で、やる気のない様子で相槌を打った。
『‥‥リリア閣下と、ツーショット写真でも撮影して、送りつけて嫉妬心をあおる、というのはいかがでしょう?』
『で、誰が一緒に写るんで?』
 ドクトルの適当な提案に、G3がやはりやる気ゼロで質問する。
『よし、下っ端! お前やれ!』
 シェアトが即答した。
『閣下にお譲りいたします』
 ドクトルも即答した。
『お断りだ!』
 シェアトはやっぱり即答した。
『‥‥駄目ですねぇ』
 一同は嘆息した。
『むぅ‥‥そもそも、アスレードやリリアの奴にファンや追っかけがいて、この俺様にいないことが、おかしいではないか!』
 一人憤慨するシェアト。そんな彼を宥めつつ、とりあえず上司であるリリアに通信で報告を入れるドクトルであった。

 北米、バグア軍拠点
『作戦の首尾は解りました‥‥まあ、北中央軍にそれなりの損害を与えたことは、良しとしましょう。ご苦労でした』
『ところで、二人ともギガワームに帰還したら、私が直々にねぎらってあげますので、覚悟しておいてくださいね‥‥?』
『理由? 何となく‥‥ええ、何となく、でしょうか‥‥ウフ、ウフフフフ‥‥!(怒)』