タイトル:カボチャ畑とスイーツマスター:壱南 藍

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/29 23:53

●オープニング本文


 ある山奥に、小さいながら有名なカボチャを作る畑があった。

 毎年この季節になると畑中にオレンジ色のカボチャが実り、それらは特にハロウィン用に出荷されている。
 ここのカボチャは甘く、菓子業界で重宝されているためなのだが‥‥。


 今年はいささか勝手が違っていた。


 まず、この畑を手入れしている老人が、畑へ向かう途中で倒れているところを発見される。朝出かけたきり帰らない老人を家族が捜しに行ったところ、傷だらけで気を失い

倒れているのを発見されたのだ。

 幸いにも命に別状こそなかったものの、病院で目覚めた老人が語ったのはとんでもない話だった。

 なんと、『大きなな宙に浮いたカボチャ』に襲われたのだという。

 聞けば‥‥


 老人が畑に踏み行った直後。畑から何かが自分に向かってきた。そして前方数メートルで畑から飛び出してきた『それ』は、ハロウィン時期によく見かける目と口を繰り抜かれたカボチャ『ジャック・オ・ランタン』そのものだったという。
 誰かの悪戯かと思ったのだが、けたたましい笑い声とともに、がばっと開いた口が噛みついてきた。それを合図にしたように、畑からは一つ、また一つとカボチャが襲いかかってきて、振り払いつつ逃げて居たら、後方から飛んできたカボチャに頭を強打され‥‥そこから記憶がないということだった。


 勿論、すぐにこの『ジャック・オ・ランタン』退治の依頼はなされたのだが、話はそこで終わらない。


 というのも、本部にもう一つ、同じ場所への討伐依頼が舞い込んだのだ。依頼してきたのは、畑近隣の菓子屋達である。

 何でも毎年この畑で採れるカボチャで、各店ハロウィン向けの菓子を作っているのだそうだ。このままカボチャが収穫されないようなことがあれば、他のカボチャを使う気にはなれないのでハロウィン商戦は絶望的。
 ある種切迫した彼らの依頼には、このような特典が添えられていた‥‥。

『討伐成功の折には、皆さまにどんな菓子でもご用意しましょう!』
 と。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
スピカ・C・フリーゲル(gc4012
14歳・♀・GP
祈宮 沙紅良(gc6714
18歳・♀・HA

●リプレイ本文

●Trick and‥‥

 昼を少し過ぎた時間。
 山奥の畑で、カボチャ退治が始まろうとしていた。


『こちら鐘依、畑の中央付近に不自然なカボチャが三個くらい見えるな。その近くにも怪しいのがある』
 畑を見渡せ、尚且つ木が密集しているおかげで畑側からは気づかれなさそうなもってこいの木の上。
 鐘依 透(ga6282)がトランシーバーで偵察内容を報告していた。
「‥‥ん。わかった」
 その連絡を下で受けた囮班の最上 憐(gb0002)とフローラ・シュトリエ(gb6204)はもう一度自分たちの武器をチェック。そこに木から下りてきた透も加わり、カボチャのおびき寄せ行動を開始した。

 囮の三人が畑へと突入した頃。

 畑へと続く一本道の脇。少々小高くなり、木の隙間から畑が見える場所に陣取った夢守 ルキア(gb9436)が双眼鏡を覗き、畑の状況をチェックしていた。
 その横では、シクル・ハーツ(gc1986)と祈宮 沙紅良(gc6714)がじっと待機している。
「お菓子を待つ人の邪魔をするなど万死に値します‥‥」
 更にそこから道を挟んだ逆側には終夜・無月(ga3084)と
「かぼちゃん、早く来ないかなぁ」
 覚醒しほわほわ、うきうきと囁きながらも辺りを見回すスピカ・C・フリーゲル(gc4012)が準備万端で潜んでいた。

 話は畑の囮班に移る。
 少々荒れた畑の中を、踏み荒らさないよう三人は畑の中央を目指していた。もう少しで透の報告にあった場所‥‥というところで、何ともけたたましいとしか言いようのない笑い声が四方から上がる。と同時に宙に浮かんだカボチャが六個、三人目がけて飛んできた。
「カボチャキメラ。食べられそうかな。とりあえず、倒したら。味見」
 憐が食料を見る目でキメラ達を見ていた。まさか食料にされるとも思っていないカボチャに背を向けて三人は一目散に走り出す。
 巧みに畑を荒らさないようルートを選びながら、追いつかれず、追いかけるのを止めさせない絶妙なスピードで数分走り、とうとう畑を抜ける。更に数メートルほど走ったところで、三人が反転。
 近づいてくるカボチャ達を確認しつつ
「‥‥大きいですね。あまり可愛くありません‥‥かしら」
 沙紅良が少々残念そうに呟いていた。
 そして待機組も攻撃に加わる。

 〜♪

 道の両サイドに控えていた無月と沙紅良の歌声が辺りに響く。全く違う歌であるにも関わらず、絶妙な調和を持ちカボチャ四体までをその場に留めてしまった。

 出来た隙にカボチャに近い囮組が攻撃をしかける。
「お菓子の為に――飛燕烈波」
 透が手にした魔剣で斬りつけ、
「‥‥ん。大人しく。パイの。材料になって貰う」
 憐も手近なカボチャへ大鎌を素早く振るい、
「カボチャはカボチャでも、凶暴なカボチャはお呼びじゃないのよ」
 フローラが靴に付けられた爪『アクア』で蹴りつける。
 その間に留ったカボチャへと距離を詰めたスピカが、
「かぼちゃんは、アリエルちゃんには勝てないのですよー?」
 言いながらカボチャの顔へと両拳『アリエル』を見舞った。

 他方、歌から逃れたカボチャは慌てて森へと逃げようとしていたが、
「逃げても、飛んだままでは意味がないぞ?」
 一体を後ろから追撃したシクルが、手にした大太刀『風鳥』で素早く二度斬りつけ地面にたたき落とす。
 もう一体はルキアが追いかけ、
「お菓子くれないキメラは、倒しちゃうよっ!」
 言いつつ、歌が響く場所へと向かうよう銃弾を撃ち込む。命中したカボチャは表面を欠けさせながら吹っ飛んで行った。
 その間にも無月が歌を切り上げ、まだ動いているカボチャへと両手で持った剣『明鏡止水』で斬りつける。沙紅良も反撃しようとしてくるカボチャに向かってエネルギーガンで援護射撃を行った。

 と、その音を聞きつけたのか、更に四体笑い声を上げながら向かってきた。
 それを留めたのは、援護射撃後畑近くへ移動していた沙紅良の、祝詞を乗せた歌声だった。
「天清浄 地清浄 内外清浄 六根清浄と 祓給う――」
 二体を足留すると、フローラが単眼鏡型の超機械『カトブレパス』を覗きこみ、電磁波を発生させて攻撃。その間に距離を詰めた透が剣を振るい、同じく移動してきたルキアが銃弾を見舞う。
 残り二体は向かった先で、既に先におびき寄せたカボチャ達へと最後の攻撃を見舞っていたスピカ、憐、無月、シクル達に連続攻撃を受ける羽目になる。

 逃亡も反撃も許さない巧みな連携で、隙を与えない八人の前に、気づけばカボチャの残骸が大量に転がっていた。

「どれどれ?あ、カボチャだ、美味しい」
 まるでスイカ割りした後のスイカ‥‥のようなカボチャキメラの欠片を拾い上げたルキアが試食してみる。
 その横では憐も同じようにカボチャキメラの味見をしていた。
「キメラも。使って。リサイクル。味は。大丈夫。危険も無い。安心」
 既に食べる気満々の二人。
「ルキア、憐、狩り残しはいないか調べ終わるまで我慢しろ」
 そんな二人にシクルが冷静にツッコミを入れた。

 その後、畑を二人ずつ分かれて見回るが、笑い声も聞こえず、襲いかかってくるカボチャもなかった。
 一旦合流したのち、それでは‥‥と全員がこの後のお楽しみのためにカボチャの収穫をはじめる。畑からカボチャキメラを引き離していたおかげで、ほぼ無傷の畑から育って大きいカボチャを各々収穫していく。
 ところで、先ほどカボチャキメラを味見していた二人は‥‥当然のように形が程よく残ったそれを選別し、『収穫』していった。
「あ、やっぱりキメラも食べるんだね(汗)」
 覚醒を解いたシクルが、やっぱり二人に突っ込みを入れた。



●Treat!!

 麓の村にある会館。そこに今回の依頼主‥‥お菓子屋さん達が皆が戻ってくるのを待っていた。
 畑がほとんど荒れていないこと、そして待ちに待ったともいうべきカボチャを見てそれはそれは喜んでくれた。

 喜び勇んで、カボチャの恩人達から希望を聞いた彼らはそれぞれカボチャを店に持ち帰り、菓子を作ってきてくれるというのだが。
 さすがにキメラを料理したことは無い上、少々気味悪がれる。持ち帰った二人、特に憐がそれはそれは残念な‥‥泣き崩れそうな表情になる。しかし、そこに鶴の一声。
「あの‥‥キメラは私が調理しましょうか?前にも調理したことあるので‥‥」
 シクルの一言に憐の表情がぱぁっと明るくなる。
「‥‥ん。全部使って。大きいの。大盛りの。パイを作って。凄い巨大なの」
 ずずいとシクルに詰め寄りながら、期待に目を輝かせる憐。
「も、もしかして、このカボチャ全部食べるの‥‥?凄い量だけど‥‥」
 勿論、と言わんばかりの憐にじゃあ、とシクルが洋菓子店に頼み、キッチンを借りられることになった。
 
 一方。

「みかがみ君。私カボチャのシチューとか食べたい」
 無月を『みかがみ』と呼ぶルキアの言葉に彼は頷いた。
「アイスを作ろうと思っていたから、一緒に作ってくるよ。少し早い夕飯にできそうだし‥‥」
 料理も出している菓子店に頼み、こちらもキッチンを借り料理をしに行くことに。

 近所の町からやってきていた菓子店も多いことから、夕方頃に出来上がった菓子や料理を会館に運び込むことになる。手の空いた人たちは束の間の休憩タイムとなった。
 話を聞いて会館にやってきていた村人からお茶を振る舞われ、のんびりと話をしたりしているうちにあっという間に夕日が差し込む時間となった。
 そんな頃には、会館はちょっとしたパーティ会場なほど人が集まっていて。一足早いハロウィンパーティの様相である。
 どうせだから、とやってきていた皆でこの後の食事をしよう、ということになった。


 そうして、会館の一室には‥‥。
 リクエストが多岐に亘ったことと、各菓子店が力を入れたおかげで多種多様なお菓子が、それこそ見本市かと言うほどに並べられた。
 おみやげに、という声もあったのだが商品ではないものや、これから商品にするかもしれないものがあるので、出来ればここで食べきって行ってほしいというのが菓子屋達からの要望であった。
 なら全力で、と皆が案内された部屋へ向かう。


「Trick or Treat!」
 つい先ほど戦ったカボチャキメラのようなフルフェイスヘルメットを被ったルキアが黒いマントをひらり、と翻しながらお菓子屋さんへと一足早いハロウィンを行っていた。
「どれから食べようか、スピカ迷っちゃうのですよー」
 オレンジ色のお菓子達、無月の作ったシチューの良い香りが部屋の中に漂っている。そんな中、スピカは目移りしまくっていた。なにせ種類がある。

 その隣で、沙紅良はまずはということでリクエストしていた和菓子が数種類置いてある場所から、小ぶりの大福を取り皿の上で切り分ける。すると柔らかく真っ白な求肥の中から、鮮やかなカボチャ色の餡が出てきた。口に含めば舌触りが良いことも然ることながら、中のカボチャ餡が程よい甘み。
「美味しゅう御座いますね」
 幸せそうな微笑に、作ってきた職人も嬉しげである。他にも用意してきた練りきりや団子を勧めてくれる。

 フローラは、手にパンプキントルテを持っている。さくさくとした歯ごたえの良いタルト生地。そして中に入っているフィリングはとても滑らかで、カボチャの甘みがそのまま感じられる。
「トルテはちょくちょく食べてるけど、やっぱりプロの作るものとなると食べたくなるわよねー」
 その美味しさに思わず頬が緩む。

 透はと言うと、その手にはガラスの器に盛りつけられたカボチャプリン・ア・ラ・モードのようなものを持っている。カボチャプリンの上に真っ白なソフトクリーム、更にその上にはキャラメルソース、バナナチップス、マーブルチョコ、クッキークランチという数種類のトッピングが、味を殺さない程度にかけられている。
 何でも今回特別に作ったとのこと。作った洋菓子店では今度から店頭にも出そうかと思っているのだとか。
 見た目がカラフル、口に含めばソフトクリームと甘さ控えめのプリンが丁度良いバランス。トッピングが良いアクセントになっていて触感が楽しい。
「美味しいですっ」

 しかし、この中で一番目を惹くのはカボチャ型の大型パイであろう。

 それはあのカボチャキメラでシクルが作ってきたものである。中にぎっしりとキメラで作ったカボチャペーストが詰め込まれ、外側はカーブを描く棒形パイで取り囲みカボチャの形になっているのだ。
 それを手に取っているのは憐。きらきらと目を輝かせて食べ始め‥‥あっという間に一個消化。人の顔と同じくらいの大きさがあるのだがお構いなし。
「‥‥ん。美味しい。シクル。ありがと」
「良かった、憐ちゃんが気に入ってくれて」
 笑顔で応じるシクルは、カボチャのプリンを手に持っている。和菓子屋が作ったというそれは甘さひかえめながら、カボチャ独特の甘みがしっかり生きている。
「うん、おいしいね」
 やはり甘いものを食べると笑顔がこぼれる。

 その一方で、ルキアは無月手製のシチューを食べていた。カボチャ色のルーの中には芋や人参、玉ねぎ、鶏肉、更にはキノコやブロッコリーと言った山の幸がふんだんに入っている上、ルーにも隠し味が効いて滑らかながら深みのある味であった。
「みかがみ君! これ美味しいっ!! すっごく美味しいっ!!!」
 その横ではスピカもシチューを食べていた。
「お菓子も美味しいけど、シチューも美味しいですっ」
 と大絶賛。
「ありがとう。作った甲斐があるよ‥‥」
 そう言ってから、彼はこの会場にやってきていたあの畑を手入れしていて、キメラに襲われた老人にあるものを持って行った。

「無事に畑は取り戻しましたので安心して下さい‥‥」
 その言葉に、
「こちらこそ、おかげで皆さんに今年もあのカボチャを食べてもらえますよ。ありがとうございます」
 老人の方も嬉しそうに返した。怪我も良くなったようだが、頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「これ、良かったらどうぞ‥‥」
 言って差し出したのはカボチャのアイスである。シチューを作りながら同時に作っていたものである。
「おお、ありがとうございます。 ‥‥ああ、うちのカボチャの味だ‥‥本当に良かった」
 涙を浮かべる老人の、そんな様子を見て無月も微笑んだ。

 そうして、しばし全員と村人たちで賑やかに立食パーティが続いた。
 ルキアは同じ傭兵仲間達にもハロウィンの決まり文句を良いながら、お勧めのお菓子を貰って食べまくっていたのだが。
「‥‥ん。駄目」
 カボチャキメラのパイを一人ですっかり平らげ、お次はカボチャを丸ごと器として使ったプリンへ移っていた憐にすげなく断られた。その一言を待ってましたと言わんばかりに。
「じゃあイタズラしちゃう!」
 言うや否や憐をくすぐり始めた。そこにスピカも混じり、わいわいと賑やかになる。
 そんな様を眺めながら。

「こんなに色々あると、つい全種類食べてみたくなるね」
 透が手にパウンドケーキを持ちながら言えば、
「そうなのよね、こんなに色んな種類食べる機会ってないわよねー」
 フローラはカボチャが練りこまれたお団子を食べながらそう返す。
「どれも味が違って飽きませんね」
 一息休憩しお茶を飲みながら、沙紅良も満足の吐息を漏らす。

 既にパーティが始まってから二時間。
 あんなにたくさんあったお菓子も、ほぼ全てが全員の胃袋に入った頃。

 無月がお菓子屋から袋詰めになったものを数十袋受け取っていた。

「あら、無月さん、それは?」
 沙紅良が気づき尋ねれば。
「せっかくだから、子供たちに‥‥やり方が逆なのと、ちょっと早いけどね‥‥」
 その言葉に、皆が食いついた。
 結局、周辺に来ていてこれから帰宅する子供達に八人で配ろう、ということになる。

「じゃあ、このカボチャでジャックランタンも作ろうよっ! その方が雰囲気でるし!」
 ルキアが指差したのはプリンの容器になっていたカボチャ。少し中を削いで、目と鼻をつければすぐに完成できそうなので、それも一人一個作ることになった。
 あっという間に、個性の出る八個のジャックランタンが出来上がる。
「じゃあ、種火のウィルを入れようね」
 そのルキアの言葉に、それぞれのランタンに灯が入れられて。

 それから、やってきていた子供達に、皆でお菓子を配って歩いた。勿論、先ほど作ったランタンを持ちながら。


 一足早いながら、皆がハロウィン気分を満喫した一日となったのだった。