タイトル:ツーリングの行方マスター:壱南 藍

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/26 02:49

●オープニング本文


『こんなはずじゃなかったのに』

 もう何度彼女はそう思っただろう。

 夏も過ぎ去ろうというこの時期。
遅すぎる夏休みをとった彼女は、趣味のバイクでツーリングをしようと思い立った。

 順調に旅程をこなし、その日の目的地は湖であった。景色が良く前々から行ってみたかった場所。
昼を過ぎる頃には到着し、景色を満喫できた。そして、湖のすぐ近くにある森の中でテントを張る。
湖面近くには同じようなライダーのテントが数基立っていたのでそれを避けた形だ。

 まさかそれが、運命を分けるなど思いも寄らなかった。

 そろそろ寝ようとした頃。
最初は動物の声かと思った。
だが、それが複数の人間の叫び声と、何かの咆哮が入り混じったものだと気づく。
何事かと、恐る恐るテントの入り口から、声のした方を覗き見れば。

 先ほどまであったテントが無残に散らばっている。
そしてその場所に、本に出てくるような恐竜が、居た。

 悲鳴が上がる。
信じられないが、人が恐竜に襲われている。

 咄嗟にテントに入り、物音を立てないよう息を殺す。その間にも徐々に外が静かになっていった。


 ‥‥一時間後、ようやく彼女は震える声で、助けを求める連絡をいれたのだった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD

●リプレイ本文

●先行、到着

 まだ日も明け切れていない時間。
 通報を受け、救護の一団が道を走っていた。
 目的の地点付近まで来ると、湖を示す看板と共にキャンプ場の表記が目に入ってくる。

 キャンプ場までの一本道を、一団から抜け先行してきた三人が居た。
 開けた場所までもう一息、という場所で止まり、事前の打ち合わせどおりまずは終夜・無月(ga3084)が装備している天照の拡声機能を使用して呼びかけを行った。
「ULTの傭兵です‥‥皆さんの救助に来ました‥‥」
 静かな場所で、その声は大きく響く。
「俺達は敵を惹きつけます‥‥救護救援専門の隊がすぐ来ますので安全な場所に居る方は其の侭で居て下さい‥‥湖の近くに居る人は出来るだけ離れて下さい‥‥可能なら隠れた侭大きな音を立てない侭で結構ですので地面に振動を与えて下さい‥‥」
 言い終え、無月は即座にバイブレーションセンサーを発動させた。振動が起これば、その場所や大きさをこれで知ることができる。
 数秒の後、
「協力感謝します‥‥」
 隣で周囲を警戒していた二人‥‥藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)と杜若トガ(gc4987)に向き直り、無月が報告する。
「このまままっすぐ先に大きな反応があります。それと‥‥東西に二つ、小さな反応がありました‥‥」
 頷き、三人はキメラであろう反応に向かって走った。

 先行班の三人の眼前には湖が広がっている。
 逃げてくる人影もなく、周囲は不気味なまでに静まり返っていた。
 と、ふと見ると幾つかのテントの残骸が、見るも無残に散らばっている。
 幸いキメラがまだ現れていないことから、三人が手分けして確認をしていると、トガがテントの下から負傷者を発見した。
 息はあるようだが、全身に怪我を負っている。治療を行うものの、どうやら動くことができないようなので、なるべく湖畔から遠い場所まで運ぶ。

 そんな時だ。

 突如、眼前の湖が激しく水しぶきをあげる。
 そして現れたのは、恐竜。一体だけのようで、先行班へ向かってくる。
 恐竜から一番近かった藍紗が不敵に微笑むと。
「ゆくぞ若いの、付いて来れそうならついて来い」
 離れた二人にそう言って、テントが無かった湖畔の方へと恐竜を誘引しはじめる。
 目の前を疾駆する巫女姿の藍紗を認め、恐竜は咆哮をあげながら彼女を追う。
 それを無月とトガが追う形となった。
 藍紗が戦場に選んだのは、湖畔のすぐ近く。先ほど居た場所から数メートル離れた、周囲に何も無い場所。 上手く誘い出した藍紗は恐竜に向き直り、一言。
「でかいの‥‥じゃが陸戦ワームに生身で立ち向かうことに比べればキメラ程度‥‥どうということはないのじゃ」
 そう言って、恐竜の懐に走りこむと手にした扇で打ち払う。煩わしそうに恐竜が首をもたげた所を、反対側から無月が手にした剣で切り込んだ。確かな手ごたえを感じ無月が一旦下がると、間をおかずに今度はトガがグローブからの電磁波で相手をひるませ、隙を突いて脚を刀で切りつける。
 ふらり、恐竜の巨体が揺れ首が垂れた瞬間。
「其の首はある意味弱点では‥‥?」
 言いながら、無月が首目掛けて切り込む。連続攻撃を受け、しかし最後の力を振り絞ったかのように、襲い掛かってこようとする恐竜に。
「見惚れるなよ? ‥‥我が舞はちと‥‥凶暴じゃぞ」
 扇をぱんっと開き、距離をとった後に扇からの電磁竜巻が恐竜を襲った。

 ずんっ‥‥と重い音を響かせ、恐竜は倒れる。そのままピクリとも動かない。

 この立ち回りの中、周囲は未だ静まり返ったままであった。
「おら、とっとと出て来い首長トカゲがぁ」
 水面をグローブで打ちトガが言うも何も現れない。
 そのまま付近の捜索をしている間に、ほぼ同時といって良いタイミングで救護班双方から応援を求める連絡が入ったのだった。



●救護A班

 後発としてキャンプ場の森との境界を、入り口から西に向かって走っていたのは孫六兼元(gb5331)とフローラ・シュトリエ(gb6204)。それぞれ自前のSE−445Rというバイクで、同行する救護班のトラックを先導していた。
 先行班から連絡を受け、既に道中二人を救助している。一人はトガが入り口で助けた負傷者、もう一人はどうやら通報者だったようで、情報を聞いた後救護トラックへ乗せている。
 その後も、フローラはGooDLuckを発動させながら周囲に目を向けていた。
「さーて、なるべく急がないとね」
 言った矢先、視界前方にテントの残骸が現れた。

 一旦バイクから下り、二人はテントを調べて回ると、下から一人見つかる。
 急いでフローラが治療を施し話を聞けば、どうやらここにはあと二名が居たらしい。
「各員へ通達! 252は二人! 至急確認せよ!」
 同行している救護班に兼元が告げ、辺りの探索に入る。
 一人は、湖のほとりで、残る一人は森の中で満身創痍ながら息のある状態で発見された。
「252発見! これより搬送する!」
 兼元が手を貸し、フローラが治療を施し救護トラックへと乗せる。
 どうやらこの先は森が続き、人が居ないようだ。ということも負傷者から聞くことが出来た。
 念のため、森や湖に程近い草むらなどを探すが、どうやら付近に負傷者はこれ以上居ないようではあったが。
「見落としは許されないわね」
 フローラの言葉に兼元も頷く。
 数十分探索するが、それ以上の負傷者は発見されなかった。
「要救は全員確保!離脱を開始する!」
 兼元の言葉を合図に、道を引き返し始めた時だ。

 水音と共に、湖から恐竜が現れ救護トラックに迫ってきた。
「こちら救護A班!キメラに遭遇、先行班、手が空いたら応援求む!」
 兼元が先行班に連絡を入れる。その間にも兼元、フローラの二人はトラックと恐竜の間をさえぎる形でバイクを移動させた。

 まず、動いたのはフローラ。恐竜の近くに寄り、数度靴に取り付けた爪で攻撃を仕掛けた。
 そしてそのまま、救護トラックから引き離す方角へ走り始める。
 兼元も手に持った刀を振るい、恐竜が救護トラックへと向かわないよう誘導する。
 救護トラックから十分距離を取った場所へと恐竜を誘導できた二人は、その足止めのために交互に攻撃を繰り返す。

 その間に、先行班の無月と藍紗が到着した。
 藍紗は長弓を手に取り兼元、フローラとは別の方向から攻撃する。二人の攻撃でその場に釘付けになっている恐竜に、矢が当たる。その間に無月が瞬天速を使用して一気に恐竜へと近づいていた。 連続した攻撃にひるんだ隙に、一気に切りつける。
 たじろいだ恐竜はすぐ後ろの湖で逃げようとする素振りを見せるが、既に退路はフローラによって塞がれていた。
「この湖は返してもらうわよー」
 にっと微笑んだフローラは、再び靴につけられた爪で攻撃。ひるんだ隙に再び無月の刃が今度こそ、恐竜の首を一閃した。

 辺りを確認したのち、そのまま四人は救護トラックを護衛しながら、キャンプ場入り口へと向かうのだった。



●救護B班

 こちらはキャンプ場を入り口から東に向かっている一団。
「首長竜を模したキメラか‥‥。あの足では‥‥陸での動きはさほどではないと‥‥思う‥‥。急ごう‥‥」
 そう呟きつつ、自前の車両ジーザリオのハンドルを握るのは幡多野克(ga0444)。隣にはシクル・ハーツ(gc1986)を乗せている。フローラと同じくGooDLuckを使用し、辺りの探索を行いながら救護トラックを先導していた。
「コウしている間にも失われていく命があると思うと〜!」
 同じく自前の車両ファミラーゼに乗り救護班に同行しているのは、ドクター・ウェスト(ga0241)。
 彼はKVの機動に非能力者の少女を巻き込んで殺してしまったため、今回先行出来ないことを焦っていた。
 思わずアクセルを踏み込みそうになりながらも、電波増強、先見の目を併用し周囲の把握をしながら先へと進む。

 と、前方にテントが四基。間を置きながら倒れているのを発見する。
 すぐさま車両から下り、三人と救護班が周囲の探索に入った。
 テント周辺を捜索していると、シクルが森の中でうずくまる人を発見する。
「大丈夫か? 私達は傭兵だ。救護班も来ているから安心してくれ」
 幸い疲れきっているが軽症のようなので、重ねて尋ねた。
「ここ以外でキャンプをしている人はいるか? それと、ここの利用者名簿はないか?  人数がわかれば、動きやすくなるんだが‥‥」
 その問いに、他に四人ほど恐竜に襲われ、森の中へ吹き飛ばされたとの返事がある。
 すぐにそれを同行者に伝え、救護班に後を託し再び森の中へ入っていく。連絡を受けた克、ドクターも森の中を探索にかかった。

「暗いな‥‥持ってきてよかった」
 持参していた暗視スコープをつけながら、先ほど聞いた方向へとシクルは足を進める。
 数十メートルは歩いただろうか、前方にぐったりと木にもたれている人を見つけた。
「要救助者を発見した。場所は先程のテントから南東に300m」
 救護班に連絡を入れながら、傷の様子を確かめる。出血は止まっているようだが、ぐったりと血の気が無い。
 動かすのも危険なようなので、そこでタンカを待つことにした。
 その頃、克も北東地点で一人の負傷者を発見していた。こちらは比較的救護班に近く、すぐにトラックが駆けつけてきた。傷は多いが深くはなく、ただ身動きがとれないようなので克も手伝いトラックへと乗せる。
 ドクターも、先程の場所から真東に行った先で二人の負傷者を発見していた。傷が多く、すぐに治療を行い救護トラックが来るのを待つ。

 各々が見つけた負傷者を救護班のトラックが駆けつけ乗せていく間に、再び捜索に移る。

 既に聞いていた人数は発見していたため、その他の負傷者が居ないか森の中を探索し再び三人と救護班が湖に戻って来たときだった。

 叫び声と、キメラのものと思しき咆哮が聞こえる。

 見れば、湖畔に程近い場所で人が恐竜に襲われていた。
 急いで駆けつけようとするも、恐竜の歯に捕らえられた人はそのまま森の方へ吹き飛ばされた。
「‥‥っ!こんな時に‥‥」
 キメラに向かいながら、シクルが先行班に応援要請の連絡を入れる。
 克も周囲に人が居ないことを確認し、手にした銃S−01で威嚇射撃を開始する。
「覚醒していれば、これくらいなら大丈夫。そちらの人‥‥助けてあげて」
 同行していた救護班にそう言い残し、恐竜をその場から引き離すよう動く。
 一方、ドクターは先程吹き飛ばされた人の救護へと向かっていた。湖に程近い森の中でぐったりと横たわり、酷く出血していた。
 手早く治療を施し、同じく駆けつけた救護班に後を任せる。
 その様子を見ながら、ふと、以前の出来事を思い出しドクターはその場にうずくまってしまった。
 だが、それも数秒のこと。今度は目前で間に合わなかった自分への理不尽な怒りがこみあげてきた。
 足早に恐竜へと近づくと、
「我輩は能力者だ! 全てのバグアを滅ぼしてくれる!!」
 叫ぶや否や、ドクターの周辺に覚醒紋章が、まるで雄クジャクの羽根のような形で背後に無数に現れる。
 再び電波増強を使用し自身の知覚能力を上昇させ、恐竜のすぐ近くまで迫る。そして、両手に持った銃と剣で斬りつける。至近距離からの攻撃に逃げられもせず、恐竜はなすがままにされていると。

 そこに、連絡を受け先行班のトガが合流した。

「助けたあとだからな、思う存分キメラを凹すだけだぁ」
 ドクターや克の攻撃でふらつく恐竜に近づき、脚を狙い刀を振るう。
「助かった、後は頼む」
 トガの合流で、シクルは救護班の護衛に回る。その間にも、ドクター、克の援護射撃を受けながら、トガが至近距離での攻撃を行っていた。すると、苦し紛れか恐竜が長い首を近くにいるトガ目掛けて振り下ろしてきた。
 だが、すでに予想していたトガは竜の咆哮を使い、相手を弾き飛ばした。自身が振り下ろした勢いそのままに恐竜は後方、湖の方へ吹き飛ばされる。
恐竜が起き上がる前に、ドクターと克が射撃。恐竜はその場で絶命した。

 辺りを一応確認するが、どうやら救助者も恐竜の仲間も居ないらしい。
 四人と救護トラックは、救護A班と連絡をとりキャンプ場入り口で合流することになった。



●離脱
 全員が集まったのは、捜索から一時間半ほど経った頃合だった。
 空は白み始めている。

 念のため先行班を残したまま、救護班に回った五人がそのまま救護トラックをキャンプ場出口まで護衛することにする。
 数分後、救護班から先行班に無事出口まで送り届けたとの連絡が入り、先行班も撤収を開始した。

 その矢先だった。

 何処に潜んでいたのか、一番後方を走っていたトガに向かって恐竜が突進してきた。
 すんでの所でかわし、救護班にまだ恐竜が残っていることを知らせ先行班三人が迎撃していると、救護班から克、シクル、フローラが戻り合流した。
「これだけ暴れて、ただで済むと思うな!」
 克がキメラに接近し、手にした刀で流し斬りを使い側面に回る。そこから剣劇を使って恐竜の身体を切りつける。
「まだいたのか‥‥どちらにしろ放置はできないな」
 シクルが呟きながら、手に持った弓を射る。フローラも隙を狙い攻撃。同じく藍紗も手にした弓で恐竜に射掛けた。
 無月、トガも再び接近し恐竜を攻撃。難なく恐竜はその場に倒れた。

 数十分その場で警戒するも、それ以上何か現れる事はなく。
「キメラがいるのに‥‥みんな命がけで動いてた‥‥。助かる人が一人でも多いことを‥‥祈るよ‥‥」
 そんな克の言葉に全員が頷く。

 こうして、湖での救出劇は幕を閉じた。

 全員の働きのおかげで、死亡者は0であったという。