タイトル:入学式前の大掃除マスター:壱南 藍

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/04/21 23:58

●オープニング本文


 四月初旬。
 それは、学校が空っぽになる時期。
 日本のある町にある、ぱっと見ちょっとした洋館風の学校も例外なく春休み真っ只中。
 誰も校内には居ない。

 ‥‥はずなのだが、現在そんな校内を三人の生徒が歩いていた。

「休みに学校に借り出されるなんて、本当人使い荒いですよっ」
 ぶつぶつと呟くのは、三人の中で一番背の低いロングヘアの少女。手には大きな段ボール箱を持っている。
「まぁまぁ。新入生のためだし、良いじゃないのさ。私らの場合、家が近いんだしさ」
 そう言ったのは、隣を歩く背の高いショートヘアの少女。丸めた紙の束を幾つも持っている。
「それにしても、こう静かだと‥‥ちょっと不気味ですよね」
 二人の後ろからついて行くのは、やや長めの髪におっとり口調の少年。背は二人の丁度中間。こちらも段ボールを運んでいた。
 言葉どおり、今校内は彼らを含め、数人の手伝いに登校してきている生徒が居るのみ。
 常であれば人の声が絶えない校舎も、しんと静まり返っている。
「あー、確かにね。しかもこの学校古いし」
「ちょ‥‥っ、やめてくださいっ! せっかく考えないようにしてたのにっ!!」
「あはは、ごめんごめん‥‥うん?」

 ぴたり。ショートヘアの少女が足を止めた。
 それにつられ、残りの二人も足を止める。

「どうかしましたか?」
「何か今、変な音しなかった?」
「お、脅かさないでくださいよっ!」
「いや、冗談じゃなくてさー‥‥」

 ぎしり

 三人の後方で、確かに軋む音がした。

 それと同時に、何かが床を這いずる様な音が近づいてくる。
 明らかに、人の足音ではないと解るその音。
 示し合わせたわけではないが、三人が同時に恐る恐る振り向けば‥‥。

「何さ、あれ!?」
「ゼリー?」
 三人に向って突進してきているのは、見た目で言えばナメクジのような物体。
 ただ、色が半透明の緑色。やたらとぷるんとしたそれは軽そうだが、床を軋ませている音がその重量感を示していた。
「というか‥‥こちらに向かってきますね。逃げましょうか」
 少女二人はあまりの状況に、頭が働かなくなっているが、何故か少年だけはやけに冷静に見えた。
 実際には驚いているのだが、現実離れした光景がむしろ頭を冷やしてくれているようで。

「何で入学準備しにきてこんな目にあうのさー!」
「これどういう悪い夢っ!?」
「現実ですよ、それに命の保障が出来そうに無いですし、とりあえずさっさと学校から出ましょう」
 そんな少年が先導しつつ、校内の入り組みようを利用し‥‥。

 途中正面からも同じような、色違いのゼリーっぽいものに遭遇したり。
 それが飛ばして来た粘液で若干のやけどを負ったり。
 そんなこともあったが、何とか大怪我も負わず、学校の脱出に成功した。

 そうして、通報してから解ったのだが。
 彼ら以外、校内に来ていたはずの数人の生徒や教師達と、一切連絡が取れなくなっていたのだった‥‥。

●参加者一覧

セイン(ga5186
16歳・♀・SN
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
未名月 璃々(gb9751
16歳・♀・ER
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
葵杉 翔哉(gc7726
17歳・♂・GP

●リプレイ本文

●階ごとの探索模様

 三階。この学校の最上階であるそこには、巫女装束の少女と物腰柔らかそうな少年が並んで歩いていた。
 未名月 璃々(gb9751)と葵杉 翔哉(gc7726)である。
 殊に璃々は巫女姿に、首からはカメラ、ウェストにはアサシンダガーを仕込んでいるという格好である。
「依頼でお会いするのはー、初めてですね。よろしくですー」
「こちらこそ、よろしくお願いしますー‥‥璃々さんー」
 お互い知人である彼らはそんな挨拶を交わしながら、放送室を目指して歩いていた。
 校内放送が生きているなら、救助に来たことを知らせようとしてのことである。
 階段から歩いて数メートルの所に無事、放送室を発見。ところが。
「‥‥ひっ! ナ、ナメクジー‥‥っ」
 その放送室より彼ら側に、突然上からナメクジが降ってくる。薄いブルーの体がプルプルと揺れて二人に迫ってきた。
 それに翔哉がすぐさま反応。ただしそれは虫嫌いとしての反応であった。
「わわわ‥‥こ、こっち来ないでーー」
 言いながらも、超機械で牽制、続けて手に装備した爪で核を狙い攻撃。
 そして璃々はキメラと、果敢にそれと戦う翔哉の‥‥撮影に回っていた。
 小型と言って良いそれを何とか倒して一息ついている翔哉へ。
「格好良くとれましたよー、翔哉さん」
「えーとー‥‥ありがとうー、璃々さんー」
 3階に上がってきた時から探査の目を発動させていた璃々と共に周囲をもう一度確認してから、目的の放送室へ。
 すると、室内の機材の奥に一人の男子生徒が倒れていた。
 璃々が近づき確認すると、どうやら気絶しているだけらしく、脈拍や呼吸は正常だった。
 そこで、持ってきていたカバンから気付け用アンモニアを取り出し、布に数滴落とすと男子生徒の鼻へと近づける。
 と、声なき声がして、目を丸くした男子生徒が飛び起きた。
 その彼には翔哉が説明をし、その間に璃々は放送室の機材をチェック、マイクを使用して校内全体へと放送をかける。
「ULTの傭兵です。その場から動かず、救出まで待って下さい。此方から伺った際には、手を上げ位置を知らせて下さい」
 二度ほどそれを繰り返し、スイッチを切る。
「璃々さんー、イスネグさんに連絡したらー‥‥一階から外へ救助者を脱出させるようにって言ってたよー」
「解りました。では、行きましょうかー」
 跳ね起きた彼は大きな傷もなかったため、護衛する形で一緒に歩いて外へと誘導する。
 その後再び三階へと戻り、今度は一番奥の教室から順番に開いて確認していく。道中二度キメラと遭遇するも、難なく撃退。そうこうしている間に、今度は間逆の場所にあった音楽室で隠れていた女子生徒を発見した。
 彼女を連れて、再び一階へ降りようとすると、今度は簡単には行かない。
 丁度挟まれる形で二体、身長をはるかに超す緑と黒のぶよぶよした物体。
 すぐさま連絡をしつつ、女子生徒を真ん中にし、それぞれが一体ずつへと向かいあう。
 二人で近づかせないよう超機械で攻撃していると、メシア・ローザリア(gb6467)とイスネグ・サエレ(gc4810)が駆けつけてきた。
 メシアは靴に付けられた脚甲で、イスネグは超機械でそれぞれ加勢し、何とか事なきを得た後、翔哉と璃々とで女子生徒を外へ連れ出し、更にもう一度三階をくまなく捜索。その間に、日が沈み璃々がランタンをつけ、カメラも夜用に調節しなおす。しかし、一度キメラと遭遇して後、救助対象にもキメラにも遭遇することはなく、三階の確認を終えたのだった。

 校内二階。このフロアを回っているのはイスネグ。
 彼は校内に入る前に、キメラに追われて逃げてきた生徒達から校舎の構造や、逃げ遅れた人たちが普段何処にいるかを聞いていた。そして、学校内へ侵入する前にその情報を元に、各階を分担して確認することにしたのだ。
 というのも、準備のために学校へ来ていたため、部活関係の生徒であれば部室に居るともいえるが、移動もしているため確実な場所が解らなかったからなのだ。
 既に日も傾いている為、明るいうちになんとか救助を完了させようということで、全員の考えが一致しそれぞれ割り当てられた階に来たというわけだ。
 そのため、彼の装備は軽めである。これも救助を優先して身動きを取りやすくするためだった。
「ここは‥‥キメラよりも人命優先したいですね」
 小さく呟くと、バイブレーションセンサーを使用する。
 今、彼が居るのは二階の丁度真ん中。E型をした校内の階段は、真ん中部分に設置されていたのでそこを上がってきたのだ。
「ちょっと大きめのが動いてる‥‥あとこれは‥‥救助対象かな?」
 同じ階にもキメラらしき反応は確認されたが、上の階の数メートル先にも反応がある。
 それを三階の二人と、一階のメシアへ連絡。
 二階ということもあって、まだ夕暮れの赤い光が窓から入ってきているため、視界は確保されている。
 救助対象の周辺には、少し距離をあけて一体キメラが居るようなので、救助を邪魔される前に討伐するため、そちらへと向かった。
 先ほど解った距離を歩きながら、彼は窓や扉を開けていく。こちらは、窓から直に移動できるようにするためで、三階の二人にもそう言ってある。
 ほどなく、目的の教室へと到着し、がらりと扉を開く。机が並んでいるだけの普通の教室らしい。
 そして、彼は手に持った超機械でキメラを攻撃していた。天井にへばりつき、彼に向かって腕らしきものを伸ばしていたピンク色のそれに向かって。
 先ほどの周囲の確認で、キメラの高さが違うことが解っていたためで、キメラはべしゃりと床へ落ちてきて動かなくなる。
 それを確認して、すぐに隣の教室へ。
 するとそこには、二人の女子生徒が居た。一人は意識がはっきりしているようで、震えながらも教室へと入ってきたイスネグを見て、ほっとしたような表情になる。もう一人の生徒は、ぐったりとその場に倒れていた。
「もう大丈夫です。すぐに外へお連れしますから」
 その言葉に、こくこくと頷きながらも。
「あの、私がここに逃げてきたら‥‥もう、この子が‥‥倒れてて、全然、起きなくて‥‥」
 泣きじゃくる女生徒も、ところどころに擦り傷を負っている。
 簡単に確認したところ、倒れたままの女生徒も気絶しているだけのようだが、早急に手当てが必要であろう。
 救助対象を発見したことを他の三人に連絡してから、もう一度バイブレーションセンサーで周囲を確認する。
 すると、どうやら一体の大きめなキメラがこちらに向かっているようで。ここは戦闘で時間を取られるよりも手早く移動することにし、二人同時に背負い抱え、急いで一階へと降りていった。
 そこからは、キメラと遭遇することもなく、無事に外に居る救急車へと女生徒達を引き渡し、今度は壁を瞬天速で登って一気に二階へと戻る。そこからもう一度辺りを確認しながら歩きつつ、遭遇した小型のキメラを苦もなく倒していく。
 一度翔哉達三階の手助けをした後、日没が過ぎランタンを片手に救助者の捜索を続けると‥‥一番奥まった場所にある美術室に隣接した準備室の更に奥。そこで倒れている男性教員を見つけ、こちらも簡単な手当てをした後、外へと搬送を行った。

 校内一階に居るのはメシア。美しい漆黒のドレスを纏った姿で、片手にはランタン、逆の手には超機械を携えた姿で校内を歩いている。
 自身の能力である探査の眼を発動させながら、辺りを警戒しつつの移動である。
 移動しているのが一階でもあるので、校内に入ってから彼女は目につく窓を閉めて歩いていた。
 勿論、キメラが校外に逃げ出すのを防ぐためだ。
「ナメクジ型なんて、美しくないわ。けれど、知能が低そうなのは僥倖ね」
 そう呟きつつも、その目は鋭く周囲を観察している。
 生徒達が使う玄関を抜けて、斜め向かいにある教室の扉を注意深く開く。
「本部より派遣されました、能力者ですわ。いらっしゃったら返事を!」
 がらんと広い教室は、台所が幾つも並んでいることから、どうやら家庭科室のようである。しかし、この場所には人もキメラもどちらも居ないようであった。
 中に入り、素早く辺りをチェックするも、特に問題はなさそうなため、外に面した窓の戸締りを行う。
 そうして、教室を出て、隣の教室へ。
 見れば、そこは事務机が幾つも並んだ職員室。こちらも見る限りは何もなさそうだが‥‥。
「何か‥‥」
 仄かな人の気配。警戒を緩めずに彼女は真っ直ぐと歩いて行く。
 向かっているのは職員室一番奥の、簡易な仕切りで区切られた箇所。そこを覗き込むと、カーディガンにスカート姿の女性が倒れていた。
 どうやらこの学校の教師らしく、ざっと見る限り小さな切り傷が出来た状態で気絶しているようで。
 ひとまず、簡単に手当てを済ませ、他二班に連絡を入れる。
「一階のメシアよ。要救助者を保護しました」
 外に居る救急車へと引き渡すため、その教師を抱きかかえると扉の前まで来て、ある気配に気づく。
「‥‥待ち伏せされているようですわね」
 閉じた職員室の扉の向こう。そこに人ではないものの気配を感じる。
 扉から離れた場所に救助した女性を避難させておこうかと考えるが、敵に取り囲まれた場合に直に連れて撤退することも考え、近くにある机の上をざっと寄せ、そこに女性を横たえる。
 扉を開けてすぐ攻撃に入れるよう、扉の横に立ち一気に開く。
 その向こうに、感じた通り黄色のゼリーのようなものが広がっていた。
 突然開いた扉に反応が遅れた相手へ、手にした超機械で先制攻撃を仕掛ける。
 表面から蒸発していくような音を立てて、形を持っていたはずのそれはどろりと溶けてしまった。
 しばらく様子を見ていると、けばけばしいほどの黄色が徐々に色を失っていく。
 最後には寒天のような無色に近い状態になり、その場に水溜りのように溜まっていった。
「どうやら、これで大丈夫のようですわね。辺りにも‥‥今のところ他の気配はなさそうですし」
 再度周囲の確認をすると、今度こそ救助した女性を連れ、一度生徒玄関から学校の外へと出たメシア。
 その後、他の階を調査している三人からの連絡を受けつつ、一階の他の教室もチェック。
 途中、小振りなキメラと遭遇したりする場面もあったり、三階の璃々達の援護にも赴いたが、手にした超機械一つで苦もなく討伐することができた。
 そして完全に校内が闇に包まれた頃。
 一階にある教室の確認を全て終えたのだった。


●あと一人

 一通りの確認が済んだことと、あらかたの討伐が終わったことを確認し、四人は一階職員室前へと集合していた。
「聞いてきた話だと、残り一人なんですが‥‥」
 既に教師二人に、生徒を四人救助し終わっている。あと一人、教師が残っているはずなのだが。
 暗くなってからはまだ誰も救助対象者を発見できていない。
「とりあえず、校内の電気を全て付けましょうかー? 大分暗いですしー」
 璃々の言葉に、それでは、と職員室から拝借した鍵で隣にある配電室へと赴く。スイッチを入れれば、先ほどまで真っ暗だった校内が一気に明るくなった。
「そういえば、体育館はまだでしたわね」
 細い渡り廊下を渡った先にあるそこは、まだ誰も確認していない。
 そう言ったメシアに、イスネグが提案した。
「では、もう一度分担しましょうか? 私はバイブレーションセンサーでもう一度校内を確認していきますので、皆さんは体育館の捜索をお願いします」
「お一人は危険では?」
「大方、皆で片づけましたし、大丈夫だと思いますよ」
 イスネグの言葉に頷くと、三人はそのまま体育館へと向かった。

「何か、居ますわね」
 体育館前。ぴったりと閉められた扉の向こうに気配を感じ、メシアが呟く。
「ローザリアさんもですか、私も何か居るような感じがー」
「ま、またあのナメク‥‥キメラかなー‥‥?」
「とはいえ、探していないのはここだけですし‥‥」
 言って、数瞬メシアが考え込み。
「わたくしが中のキメラを引きつけますわ。未名月様達はその間に、救助対象者が居ないか確認してくださるかしら?」
「わかりましたー」
「は、はいー‥‥」
 相談が終わり、入口にはメシアだけが立っている。扉を開けば、今まで遭遇した中で一番大きい赤いナメクジが音に反応したように入口へと向かってきた。
「ローザリア侯爵家子女、メシアがお相手しますわ」
 声高く宣言し、注意を自分に引き付けるため、サバットの戦い方で蹴りを見舞いながらも、徐々に後退していく。その隙に、璃々と翔哉が中に入り、手分けして体育館を捜索すると、ほどなく用具が置かれた倉庫の中でぐったりと倒れる男性教師を発見した。
 翔哉が、救助者を発見したことをイスネグに連絡する間に、璃々が状態を確認。すると、呼吸が止まっていた。まだ体は暖かいので、長い時間ではないらしく、直に心臓マッサージと人工呼吸を施す。
 数度繰り返していると、むせるような仕草と共に、目は覚めないものの呼吸が戻る。その様子を見て、璃々は微笑みつつ。
「目の前に負傷者が転がってると、無性に医療行為をしたくなります」
 と、呟いていた。

 その間に、メシアに合流したイスネグと、キメラの背後からは翔哉が追撃する。
 見た目は大きいものの、間断なく三人からの攻撃を受け続け、最後は音を立てて溶けていった。

「終わりましたわね。未名月様、そちらはどうかしら?」
「大丈夫ですー、呼吸はしてますー。そして今の皆さんの雄姿もばっちり撮影できましたー」
 そう言う璃々にメシアが満足げに頷く。
「私もさっき校内を確認してましたが、キメラも救助対象も残っていないようです」
 イスネグの報告に、安堵する一同。そんな中倒したキメラを見て、翔哉は‥‥。
「あー‥‥気持ち悪かったー‥‥!」
 ずっと我慢していた一言を漏らすのだった。


●傭兵からのメッセージ

 再度の見回りをかねて、四人は今校舎の中に居た。
 そういえば、この学校は数日後には入学式を迎えるという。それならば、一年生の教室にメッセージを書き残して行こうというのだ。
 璃々は丁度外に咲いていた月夜に浮かぶ夜桜を撮影し、それを黒板に貼りながら。
「夜桜、いいですねぇ」
 と笑みを浮かべていた。
「綺麗ですねー‥‥」
「春って感じがしますね」
「日本の春、と言う感じですわね」
 三人も写真を気に入り口々にそう感想を言いながら、メッセージも書き残して行く。
 そんな中、メシアはくるくると丸いフランス語筆記体を綴っていった。

『Felicitations! Je suis fiere de toi.』
 ――おめでとう! あなた達を誇りに思います、と。

 後日、この学校では無事入学式が行われ、新一年生たちは四人から残されたメッセージをそれぞれの思いで受け取っていたという‥‥。