●リプレイ本文
●竜退治
広場が見渡せる建物の物陰。そこでは傭兵達が作戦行動を開始しようとしていた。
まずは未名月 璃々(
gb9751)とレオーネ・ジュニパー(
gc7368)の少女二人が広場にある机などをドラゴンに近づきすぎない範囲で運び出しはじめる。目をひくのは璃々の格好だろう。祭りに合わせた桃色の着物、簪と下駄、帯には武器が挟んである。これは撮影専門で直接戦闘に加わらないからこそ出来る格好だ。
「璃々おねーさん、こっちは完了です」
「こちらも片付けられるものは片付けましたよー。では次はスブロフです。日本には竜退治をした神が、酒を用いたとの話」
そして、物陰からドラゴンの様子を見ていたルティス・バルト(
gc7633)へ向かい、次の行動を促した。
「バルトさん、援護お願いします。その間にスブロフは持って行くので」
「了解だよ、璃々さん」
身を屈め、散乱する机やテントを影にしながらドラゴンにまず璃々が近づいていく。更に彼女の後ろからはルティスが距離を置きつつ付いていく。
一見眠っているようなドラゴンにどうにか気づかれず近づいたところで璃々が子守唄を使い、ドラゴンを眠らせた。その間にスブロフをドラゴンの目の前へ。そこまで行って、さぁ離脱しようとした時だ。
広場にひしゃげた形でおいてあったテントが、ガシャリと音を立てて崩れた。
途端ドラゴンは目を覚ます。目の前に居る璃々を認識すると、咆哮をあげて彼女へ長い尾を振った。
「そうはさせないよ」
すかさず、近くの机に隠れていたルティスが飛び出し、手にした銃でドラゴンを攻撃、更に呪歌を発動させドラゴンをその場で動けなくする。
その間に璃々をお姫様抱っこすると、ドラゴンの攻撃範囲から離脱しきった。
「レディに手を出そうなんて100年早いよ?」
微笑を浮かべながらそう言うルティスに抱っこされた形で、璃々はと言えば振り返りつつドラゴンを撮影していた。
ここで、一旦動きが止まった敵へ、別方向に隠れていた樹・籐子(
gc0214)とシヴァ・サンサーラ(
gc7774)、更にレオーネが挟撃する形で攻撃を開始した。やはり、シヴァの格好が目を引く。彼は既に璃々が用意していた藍色の着物を纏っているのだ。さすがにそれだけでは寒くコートを羽織っているのがまた、和洋折衷で似合っている。その後ろには雁久良 霧依(
gc7839)が後衛として詰めていた。彼女はこちらもビショップのコスチュームを纏い、女司祭になりきっている。前方三人へ練成強化を施す時も。
「我に加護を!」
とのりのりで叫んでいた。事前の打ち合わせもあり、そんな彼らの姿は
「では、後は任せましたー。着物汚したくないので」
と言って撮影に専念する璃々によって逐一写真へ収められている。
戦闘の方はというと、まずは籐子がドラゴンに突貫し手にした銃を打ち込む。強弾撃で強化された銃弾は、翼へと次々と着弾した。撃ちながら、更に近づくと籐子は脚甲でドラゴンに蹴りを見舞う。そして籐子が離脱を始めると、その間に今度はシヴァがドラゴンに近づきつつ、手にした弓で弾頭矢を尾へと打ち込む。そしてすぐ傍まで近づいたところで、彼も呪歌を発動させる。
ドラゴンも反撃しようともがきはするが、発動した呪歌がそれを許さない。
更に、辺りの警戒をしていたレオーネも、この間にドラゴンへと近づき、手にしたカバンで思い切りドラゴンの尾をぶん殴った。
またも上がる咆哮。どうにかぎこちなく動き、一番近くで呪歌を発動させているシヴァへドラゴンの爪が襲い掛かるが、何分勢いが無い。その間に、璃々を退避させたルティスが、こちらも銃撃をしつつ、ドラゴンへと近づき、またも呪歌を発動させる。
そうして、ドラゴンが全く動けなくなったそのタイミングを丁度ドラゴンの真後ろにある建物の影で待っていたのは葵杉 翔太(
gc7634)とエルレーン(
gc8086)。
先に動いたのは翔太。能力を使ってドラゴンへ振り向く間も与えず一気に近づくと、能力が強化された剣でドラゴンの翼を切りつける。全く予期していなかったドラゴンが攻撃に耐え切れずつんのめるが、深追いはせず、来た時同様に一気に離脱。入れ替わりに、エルレーンも走りこみ、
「今日は女の子のお祭り、だよ? ドラゴンさんは、残念ながらおよばれなしなの!」
そう言いながら、やはり翼を狙い斬り付け、即座に離脱する。
既に度重なる攻撃で、ドラゴンの翼はぼろぼろになっている。このままでは生命の危機と察したのか、空中なら分があると思ったのか、ぐっと力を入れると、ばさり、とドラゴンが羽ばたいた。
「させないわよ!」
数センチ、ドラゴンが浮き上がった所を霧依が翼を攻撃する。大体無理をして飛ぼうとしたためか、ぐらりと体勢を崩すドラゴン。
その先には呪歌を発動させているシヴァが居た。
「シヴァおにーさんっ!左へ避けてくださいっ!」
敵と距離を取っていたレオーネがそう叫び、シヴァがすぐさま飛びのく。
入れ替わるように、前衛の籐子が近づくと翼へと更に銃撃を仕掛ける。反対側でもルティスがやはり銃で翼を攻撃。その合間に、少しずれた場所でシヴァがもう一度呪歌を発動させた。
ドスンっ
音を立てて、ドラゴンが地面へ。しかしなおも体勢を立て直そうとしていた。そして、ここで霧依がドラゴンの口元に炎がちらついているのに気づく。
「皆っ、ブレス攻撃をしようとしてるわっ!」
動きが止められつつのためなのか、直ぐに攻撃は来ない。その隙を狙い、移動した霧依が口元を攻撃。上がる咆哮は既にか細いものとなっている。そのドラゴンの背後を取っていたエルレーンが、再度走りより、翼を攻撃。 へたり、と先程まで力を持っていた翼が下を向いた。どうやら飛行能力は無くなったようで。
「これで、終わりだっ!」
エルレーンと入れ替わるようにドラゴンの背後へ向かった翔太。円閃で三度斬り付け、紅蓮衝撃で強化された一撃を叩き込む。
ドラゴンは最後に小さく嘶き、音を立て地面へ倒れこんだ。
「皆さんは、竜退治の英雄ですね」
ドラゴンが倒されたことが確認できたところで、カメラ片手に近づいてきた璃々がそう言った。
「お疲れ様でした。大きな怪我など無くて良かったです」
そういいながら、全員をひまわりの唄で回復させているのはシヴァ。
「じゃあ次は華やかなお祭りの準備万端整えてみせるわよー」
笑いながら籐子が言った。
「それじゃあ、まずはここを片付けないとね」
先に片付けもしていたので、戦闘になった場所以外は全くの無傷である。広場の片づけと、ドラゴンの始末さえすれば、十分祭りを催せるだろう。
「そうだな、とりあえずこの辺りの机とか片付けて‥‥あとはここの町の人が来てから、だな」
ルティスと翔太の言葉にその場の全員が頷いた。
●お片づけ
「まずはコレを片付けないとね」
「それにしても、北欧でドラゴンなんて、ファフニールかしらね? 足元に黄金の指輪があったりして♪まぁ、私は要らないけどね、権力の為に愛を断念するなんて出来ないもの」
「可哀想ですけど、仕方ないですよね‥‥籐子おねーさん、霧依おねーさん」
「そういえば、お‥‥女の子のお祭り、だから‥‥もしかして、‥‥おんなのこのドラゴン?」
籐子、霧依、レオーネ、エルレーンがドラゴンを取り囲みつつ、そんな会話をしていると。
「力仕事なら俺がやりますよ」
「俺も手伝うわ」
レディに重いものは持たせられない、と思っているルティスが片付けを申し出る。一緒に居た翔太もだ。
それじゃあ、ということで女性四人は飛ばされた机や、テントの建て直し。散らかってしまったものを集めたりといった下準備を始める。
一方、この間に避難していた町の人たちに、キメラ討伐完了の連絡を入れ、戻ってきた人たちと縫い物や料理の手伝いを開始していたのは、璃々とシヴァ。二人ともに着ている着物が周囲には珍しいらしく、何処の服装かを尋ねられると。
「この服装は着物と言って、同じく極東の島国の服装です」
と璃々が説明する。更に、彼女は紙が無いかを聞き、もらえるとそれを折り紙の要領で畳んでみせる。
「本来は、こうして人形に悪いものを移して、災厄を祓う儀式の一つです」
そう本来の桃の節句についての説明をも行っていた。そうとは知らない町の人たちに着物の着方や、折り紙を教えることになる。
シヴァはといえば、調理場を借りてお菓子を作る手伝いをしていた。その間に、ドラゴンの始末や大きな物の移動などの手伝いを終えた、翔太とルティスがやってきた。翔太が料理好きなことから、料理やお菓子準備の手伝いを頼まれたからで。
「女が喜びそうなお菓子‥‥ルティスに聞いた方が良さそうだけど‥‥」
材料を準備しつつ、ちらりと視線を投げては見るが、会うたび遊んでくる彼に聞くのも気恥ずかしく。
「まぁ、ショートケーキ位にしておくか」
そう言ってとりかかり出来上がったものは、ほんのりピンク色のクリームが綺麗にデコレーションされたショートケーキで、周囲で準備をしていた女の子達から喝采を浴びることになる。
一方、祭りの会場となる広場。
そこでは女性四人組がせっせと設営準備の手伝いをしていた。
退治されたとはいえ、また何かが襲ってきたら‥‥と不安がる人々に、彼女達は積極的に話しかけ、その不安を取り除いていった。そして四人とも可愛いものが好きだったことも幸いし、飾りつけに追加を施したり、会場で用意している洋服の見立てを行ったりしていくうちに、すっかり町の人たちに溶け込んでいた。
そうして、お祭りの準備が全て整った頃には、日も大分傾き始めていた。
●お祭りだっ!
祭りがはじまると、広場は一気に華やかになる。一応見た目だけとはいえ、女性姿の人ばかりだからだ。しかも、なかなかに皆凝っている。きちんと女装をして、目一杯祭りを楽しんでいた。一角には璃々の持参した桃の花も飾られている。
「皆さん、マカロンはいかがですか?」
会場の一角。お菓子が置かれた机の横に、長身に黒の長髪、端正な顔立ちをしてにこやかな微笑を湛えた和服姿の人が一人。シヴァである。先程準備したお菓子を、道行く人々へ振る舞い、それが終わるとまったりと会場を回りながらお菓子を食べる。その間、道行く人々が『綺麗』と囁いていくのは良いのだが。
(皆さん、私のことを「背がものすごく高い女の子」と思っているのでしょうか‥‥?)
あまりに違和感無く溶け込んでいるためか、誰にも指摘されないため心の中で首を傾げてみるのだった。
一方、和服が目を引くもう一人、璃々の前には今、二人の『女の子』が立っている。
一人はパーティ用ドレスに、金髪の襟足部分を纏め、上から薔薇を刺している。胸元にも同じ薔薇を一輪付け、優雅な物腰。その艶っぽい色気に、先程から通りかかる女性も、女装した男性も目を奪われていた。
その隣。ポニーテールにセーラー服、綺麗というより可愛いという言葉が似合う子が、恥ずかしげにスカートを握り締めつつ立っていた。どちらも完全に化けているが、ルティスと翔太である。
「‥‥翔太さん。可愛いね」
胸元から薔薇を取ると、翔太の髪へと刺し、そう耳元で囁く。
「似合ってないのは判ってる! 判ってるが恥ずかしーだろうがー!!!」
それに猛烈に抗議するが、そんなことお構いなしに笑顔でルティスは
「ふふ‥‥似合うよ」
などと言っていた。
「なにやら禁断の香りが‥‥」
そう言って璃々がカメラを二人へ向けると。
「璃々、写真撮るなよっ! 絶対撮るなよっ!」
元々友人であるこの三人。であるからか‥‥。
「それは振りというやつですかー」
「違うっ!」
「しかもセーラー服なんて、スカートめくりを促しているとしか思えないですよー」
「誰がだっ! とにかく絶対撮るなっ! 隠し撮りも駄目だからなっ!!」
言ってさっさと歩き去る翔太の後を、ルティスが追っていった。
「いやいや、皆様ありがとうございます」
二人が去った後、璃々に声を掛けたのはこの町の町長。そうとみるや、璃々は持ってきていた日本酒を差し出すと‥‥。
「ところで、あの方の、葵杉さんの女装もっと見たいですよねー」
なんてことを囁いていた。セーラー服も良いが、和服も見たいというのがその真意である。
そんなこととは知らない翔太はルティスから貰ったお菓子を食べていた。
そんな姿をルティスは『可愛いなぁ』と眺めていたのだが、翔太の方も相手の女装が似合ってるなーと見惚れていた。そんな時に視線が合い、尚且つ微笑まれたものだから。
「‥‥って、べ、別に見惚れたりしてないからなっ! そりゃ、綺麗だとは思うけど‥‥」
と顔を真っ赤にしつつ、ツンデレっぷりを全開させていた。
そんな人達はさておき。この祭りの本分とも言える女の子達も、それぞれ祭りを楽しんでいた。
「わぁー! 綺麗で可愛いーっ!」
自身もフリル一杯の服を着用しながら、レオーネは祭り会場をきょろきょろと見回していた。どこまでも可愛さを追求した会場、置かれた様々な人形を見て、お菓子を頬張りつつ、道行く『女の子達』を眺めると飽きることが無い。
そんな彼女の隣には、男装した女性‥‥パーティスーツに身を包んだ籐子が居た。彼女は女性であることを利用して、むしろ男装ホストとして、女の子達のエスコートをしていた。その発想は無かったためか、会場内の女性達に籐子は囲まれ、楽しそうに歓談している。
霧依はといえば、戦闘時と同じビショップコスチュームのまま会場に居た。こちらはこちらでドレスアップが多いためか変わったコスチュームということで人気を集めていた。しかし彼女の興味は母国である日本の雛祭りと比較してどんな風に変わったのかと、好みの可愛い女の子だったので‥‥。用意されたお菓子を食べつつ、可愛い女の子が通りかかるたび、嬉しそうな笑みを浮かべながら眺めているのだった。
そして、エルレーン。彼女は祭りが始まる直前、あるものを手に会場の一角を訪れていた。
「うふふ‥‥!」
こっそりと会場の人形達の中に紛れ込ませたのは、彼女手製の人形。
祭りが始まった後、たまたま通りかかったレオーネ、籐子、霧依へ彼女は嬉しそうにその人形を指差し自分の作品だと胸を張るのだが。
「えへへ‥‥私、ねこちゃんがだいすきなの! だからこれ、ねこちゃんのぬいぐるみなんだよ!」
そう指差された先には、中身の綿がちょっとはみ出て、縫い目も粗く、両足の長さはばらばらな‥‥少々、いや大分可哀想な『作品』があった。
「えーと、エルレーンおねーさんも楽しそうで良かったです!」
「うん! 私もお菓子食べに行こうっと!」
レオーネの言葉に、ぱあっと笑顔になると、連れ立ってお菓子を食べに会場を歩き回るのだった。
ともあれ、傭兵達のおかげでこの祭りは大成功を収めたのだった。