タイトル:【JK】Photo By WGマスター:風亜 智疾

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 31 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/22 00:27

●オープニング本文


 それで、どうして僕に連絡してくるんだろう。
 電話越しに話を聞きながら、ヴォルフガンクはこみ上げてくる欠伸を噛み殺す事もなく大きく漏らした。

「それで? 僕に一体どうしろっていうのさ」
『ですから、今回はカタログではなく写真集にしたいと思いまして』
「ふぁ‥‥ぁ。‥‥ん。それは分かった。だから、どうしろっていうの」
『その写真集なのですが、今回は『戦う傭兵』をターゲットにしたいんです』

 戦う、と言われてヴォルフガンクはこてりと首を傾げる。

「戦うって言っても。君達、キメラでも捕獲してるの?」
『滅相もない。本当に戦って頂くつもりはないですから。紅白戦の様にチーム分けをして、水鉄砲で戦って頂きます』

 まぁ、紅白戦だというのなら、確かに『戦ってはいる』事になるのだろうけれども。
 よりにもよって水鉄砲? とか。
 そんな事も思ったりしてしまう。

「‥‥まぁ、いいや。分かった。それで集めてみればいいんでしょ」
『えぇ、そうして頂けると助かります。それで、参加条件と場面設定は‥‥』

 電話の向こうから告げられるルールを、ヴォルフガンクは少々面倒臭そうに、癖のある字で書きとめていくのだった。


 □■■□


『写真集モデル募集!

 参加条件:当ブランドの服を着て頂ける能力者の方。年齢・性別不問。
      当ブランドの服をお持ちでない方の参加も受け付けます。衣装の貸し出しも行えます。
      希望される方には販売も行いますので、申請を行って下さい。

 撮影設定:紅白に分かれて頂き、水鉄砲にて合戦を行って頂きます。
      尚、水鉄砲は当社にて準備致しますが、予め持ち込んで頂いても構いません。

 ルール :チームの区別をつける為の簡易キャップと腕章を準備致します。
      キャップと腕章には特殊な素材を使用し、水に濡れると変色する仕組みとなります。
      参加される皆様は、敵を見つけ次第、手にした水鉄砲でキャップもしくは腕章を狙撃して下さい。
      念の為に、使用する水には各チーム毎に着色を施します。
      キャップもしくは腕章が敵に撃たれ、変色した段階でアウトです。
      アウトの判定を下された方は、撃たれた時にいた場所から終了まで動けません。
      制限時間は1時間とし、タイムアップ時に残った人数が多い方が勝ちとなります。
      勝利チームには各々粗品を進呈致します。
      万が一、参加者様が奇数だった場合、偶数にする為に弊社から社員を派遣し人数を合わせます。
      判定等は弊社社員が行います。
      尚、転倒防止のため、靴や靴下は脱いだ状態での合戦となります。

 撮影舞台:弊社の近隣にある公共のプールとなります。
      50m×8コースの広さのプール内が有効エリアです。
      予め水は抜いてあります。

 禁止事項:当ブランドの服を着用しない方の参加。キャップや腕章は衣装としてカウントしません。
      水鉄砲合戦中にキャップ又は腕章を外す・隠す等の行為。
      水鉄砲以外の武器の使用や、水鉄砲を使用せずに戦う事。
      エリア外での合戦。

 皆様のご参加、お待ちしております。                     JackKnight社員一同』

●参加者一覧

/ セシリア・D・篠畑(ga0475) / ケイ・リヒャルト(ga0598) / 翠の肥満(ga2348) / UNKNOWN(ga4276) / サヴィーネ=シュルツ(ga7445) / Cerberus(ga8178) / ロジャー・藤原(ga8212) / ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280) / ロベルト・李(ga8898) / ファイナ(gb1342) / ドニー・レイド(gb4089) / クラリア・レスタント(gb4258) / ウレキサイト(gb4866) / ウラキ(gb4922) / ルノア・アラバスター(gb5133) / 桂木穣治(gb5595) / 流叶・デュノフガリオ(gb6275) / 相賀翡翠(gb6789) / 紫陽花(gb7372) / 白藤(gb7879) / ソウマ(gc0505) / 獅月 きら(gc1055) / サキエル・ヴァンハイム(gc1082) / カイト(gc2342) / インファレンス(gc2581) / スーパーベジータ様(gc3414) / スピカ・C・フリーゲル(gc4012) / 紫 式部(gc4064) / 泉(gc4069) / 戰在雄(gc4072) / Alvah(gc4080

●リプレイ本文

●本命は写真集撮影
 参加者ひとりひとりに渡されたのは一枚の書類。
 そこには商品名と写真、そしてサイズと値段がずらりと並んでいた。
「一番上に名前を書いて、商品の横に『合戦着用分』と『購入分』に必要なだけチェックか」
「なぁドニー、ウラキの用紙奪ってきた方がよくないか?」
 購入分のチェック欄を全て埋め尽くしたドニー・レイド(gb4089)の横、自分が持っていない分にチェックを入れながら、相賀翡翠(gb6789)が呟いた。
「いや、相賀さん‥‥ちょっと待て、僕はこういうのとは無縁で‥‥」
「だからここでイメチェン計画発動! ってわけだ。奇跡の一枚を撮ってやるからさ」
 若干ひいているウラキ(gb4922)の意見は何処へやら。
 にっかり笑った桂木穣治(gb5595)にがっちりと腕を取られて、書類もグイッと抜き取られてしまった。
「つべこべ言うな」
「悪い様には‥‥少ししかしないから、心配するな」
「待て、僕はこんな服着た事な‥‥」
「往生際が悪いぞー。チョイ悪というか、折角の『JackKnight』だからさ」
 ふむふむ、と一覧を眺めてから、翡翠はさっさとウラキの名前が記入された書類にチェックを入れていく。
「桂木さんはチェック終わったのか?」
「あぁ。持ってないもの以外全部に。とりあえず合戦中はカメラマンも兼任するから、どっちかっていうとカメラの装備をしっかりしてないと‥‥」
「壊れるよ、穣治」
 突然投げかけられた声に覚えがある。
「よーヴォルフ!」
「ん‥‥久しぶり。そんな事より、カメラの防水はしっかりしてないと‥‥踏み壊すよ」
 小柄な科学者が、物騒な事を口にした。
「ちょっと待って!? 防水と踏み壊すのは違うよ!?」
「‥‥冗談」
 だといいね、なんて副音声でお送りします。なんて冗談です。

 一方。
 戦場(会場)で鉢合わせた恋人達もいた。
「ウラキさんが参加されると聞いて、依頼に飛び込んでしまいました」
「クラリアさん‥‥!?」
 突然姿を現したクラリア・レスタント(gb4258)を見て、ウラキは思わず上ずった声で彼女の名前を呼ぶ。
「あら? ドニーさん。どうしてここに‥‥」
「ウルさん!」
 驚きの声を上げたのはドニーも同じ。
 書類を手に目を丸くして立っていたのは、彼の恋人ウレキサイト(gb4866)だ。
「翡翠、後は頼んでもいいか?」
「おー。いってらっしゃい」
 改造計画を翡翠と穣治に任せたドニーが、ウレキサイトと共に自分の書類を手に離れていく。
「‥‥若いっていいねぇ‥‥」
 ポツリと呟かれた穣治の言葉に、ヴォルフガンクは小さく溜息を吐いてから呟いた。
「翡翠、ウラキの服は決まった?」
「おう。フォトプリントTシャツと、テーラーベスト。それからバングルだな」
「ま、ウラキさんといえばベスト。ってイメージがあるし。中がTシャツに変わるだけでも、だいぶ違って見えるだろうな」
「それなら‥‥まぁ、大丈夫かな‥‥」
 改造計画、なんて大それた名前をつけられていたので若干おっかなびっくりだったウラキも、チョイスを確認してほっと一安心である。

 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)は恋人である皇 流叶(gb6275)と共に互いの服装を選んでいた。
「そうだなぁ。流叶には、タンクトップアンサンブルとデニムのショートパンツ。それからガーターニーハイにしようかな♪」
「少しアンサンブルのサイズが大きい気がするんだけど」
 しかもショートパンツとガーターニーハイはこのブランドで取り扱っていない。
 どうやらヴァレスが持参したらしい。
「仕方ないよ。だって、男性服ブランドだからね。一番小さなサイズなんだよ? これでも」
「それなら、仕方ないかな‥‥」
「それで? 流叶は俺に何を選んでくれたの?」
「明るめのジーンズを持ち込んだから、このブランドで揃えるのはスカルプリントのこのTシャツと羽織にワンポイントシャツ」
 こちらはサイズぴったりだ。
「それから、アクセサリにドッグタグとウォレットチェーンで。私のヴァレスへのコーディネートは完了かな」
「それじゃ、次は約束の確認だね」
 ヴァレスと流叶の2人は、どうやら何かこの合戦を使った新たな戦いを目指している様子。

 セシリア・ディールス(ga0475)とケイ・リヒャルト(ga0598)は一緒にこのJackKnightの水鉄砲合戦に参加していた。
「ふふ。JackKnightは初めてだけど、似合うかしら?」
「色違いも‥‥あるんですね」
 2人は色違いのワンポイントシャツとドックタグを選んで、水鉄砲を借りに係員のもとへと向かうのだった。
 同じ様に、友人同士で参加していたルノア・アラバスター(gb5133)と獅月 きら(gc1055)も、お揃いの服にしようと互いに服を合わせあっていた。
「お揃い‥‥楽しみですね」
「後で2人で撮った写真とかもらえるといいですね」
 ほわほわにこにこ。
 小柄な少女2人が撮影用に選んだのはネクタイ付シャツにテーラーベスト。
 合戦中にはキャップを被らなくてはいけないので、中折れハットはお預けだ。

「さて、こういう揃いの服を着るのはなんか気恥ずかしいな」
「けーちゃん、照れてる?」
 ネクタイ付シャツの上にテーラーベストを羽織り、バングルを締め直すCerberus(ga8178)の前でからかう様に笑うのは白藤(gb7879)だ。
「しぃちゃんこの服でかいー」
 トコトコと歩み寄ってきた泉(gc4069)にも白藤にも、このブランドの一番小さなサイズですら大き過ぎた様子。
「白藤はこの長さでも平気やけど、泉には‥‥ちょーっとおっきかったやろか?」
 自分もネクタイ付シャツの袖を余らせてはいたが、器用に泉の着ているボーダーニットやモッズコートの袖を折り曲げてやる。
「お、いーねェ‥‥こーゆーのすげェ好きなんだよなァ」
「とにかく、やるからには本気でやらんと、まずいんだろうなぁ」
 これは水鉄砲合戦の後で買うか、とライダースジャケットの購入欄にチェックを入れていたサキエル・ヴァンハイム(gc1082)の兄貴分。
 少し苦々しげな表情を浮かべて立っていたロベルト・李(ga8898)は、目の前でわくわくと合戦を楽しみにしている白藤と泉を見ていた。

 合戦用の服を選びながら歩いていたヴォルフガンクの目の前に、既に『JackKnight』の服を持っていた翠の肥満(ga2348)がいた。
「‥‥? 何やってるの、翠」
「ふっふっふ‥‥。細かいところまで拘るのが僕なのさっ!」
 何やら手元で細かい作業を行っている。
 一体何をしているのかと覗き込んでみれば、翠は腰にガンベルトを巻いて2挺の銃を収納している。
「それ、水鉄砲?」
「そうそう。持ち込み可、って書いてあったからね。予めカスタマイズも済ませておいたんだよ」
 翠の持ち込んだ水鉄砲は、全体を銀に塗装し、スライドには十字架の刻印。本体にぐるりとチェーンを巻きつけ、端を垂らした特別製だ。
「ヴォルフ君のも弄ってあげよーか?」
「‥‥弄り始めると、止まらなくなるんだ。癖で。だから、僕のはいい」
「なるほどな。んーで? ヴォルフきゅんは着替えないのかい?」
「‥‥ロジャー」
 ひょい、とヴォルフガンクの後ろから顔を出したのは、フォトプリントTシャツにブラックジーンズ、ウォレットチェーンを身に着けたロジャー・藤原(ga8212)だった。
「ん‥‥。考えてなかった」
「おいおい、一応ヴォルフきゅんも参加するんだろ? なら着替えようぜ!」
 ぴらり、とヴォルフガンクの書類を抜き取ったロジャーが、科学者と書類に載った写真を交互に見やって。
「サイズは‥‥Sしかないけど、大丈夫か?」
「‥‥それでも大きいけど、仕方ない、と思う」

「ふふ。私の服も大事だけど、今は君のおめかしの方が重要だよスピカ」
「陽炎が選んでくれるのは嬉しいのですよーっ」
 サヴィーネ=シュルツ(ga7445)とスピカ・C・フリーゲル(gc4012)の2人もお互いの服を選びあっていた。
「くっ、なぜ私の求めるスカートがないんだ、この完璧かつ美しいスピカブランドに対する最適解をはじき出すにはどうすれば‥‥」
 それは仕方がない事だ。何せこの『JackKnight』は男性服ブランドなのだから。
「陽炎はとってもスタイルが良いから、どれを着ても似合うのですよー♪」
 見目麗しい少女達が、お互いに選び出したのは。
 サヴィーネは持ち込んだタンクトップにボーダーニット、スピカはネクタイ付半袖シャツにライダースジャケット、本皮バングル。
「中折れハットは合戦の後で受け取りますねー」
 従業員に書類を渡した後は、合戦の会場へ移動だ。

 服装には興味がない、と断言するスーパーベジータ様(gc3414)の横でぐっと意気込んだインファレンス(gc2581)が口を開く。
「この任務油断すむっ! ‥‥」
 どうやら、初任務でテンパってしまったらしい。
 合戦の前に、どうやら彼は舌にダメージを受けた様だ。
「‥‥最後まで生き残ってやる。くそぅ‥‥」

「初任務がまさか水鉄砲合戦とはな‥‥」
 ライダースジャケットと本革バングルをレンタルしたカイト(gc2342)は、初任務への意気込みを口にしていた。
 確かに、遊びの延長線上の依頼だが、雰囲気を掴むには丁度良いかもしれない。

 同じく、傭兵の任務には様々なものがあるのだと思っていたのはソウマ(gc0505)だ。
「つかぬ事をお伺いしますが、『JackKnight』って褌とか作ってますか? ‥‥あ、ない。それは残念」
 良ければ今後、和服もデザインしてみて下さい、とちゃっかりお願いをしてから、自分用のネクタイ付半袖シャツを購入する。
 さて、自分の『キョウ運』はどれくらい通用するだろうか。
 間もなく始まるだろう試合へと、少しだけ胸を躍らせてみた。

 服が買える、と聞いて依頼に参加した紫陽花(gb7372)は、書類を眺めながら自分が着る服を選んでいた。
「『水』とはつくけど鉄砲だからね。それならガンマンのコスプレでいくよ!」
 ガンマンコスチュームの中に少しずつ改造を加えていく。
 スカルプリントTシャツにウォレットチェーン、そしてドッグタグ。
「後は購入、っと。これ、終了後の受け渡しで間違いないですよね?」
 念のためのチェックを行って、水鉄砲を受け取った。

 こっそり参加を決めたファイナ(gb1342)は、以前から目をつけていた『JackKnight』の商品を所謂『大人買い』指定してから、首を傾げた。
「とりあえず、合戦中はネクタイ付シャツとレイヤードのワンポイントシャツを着て‥‥って、あれ? ホットパンツ、見えるかなぁ」
 ネクタイ付シャツは左右の丈が違っていて長めだ。
 小柄なファイナがホットパンツという更に丈の短いボトムを穿いていたものだから、正直。
 物凄いミニ丈のワンピースの様だ。
「‥‥良かった。僕以外にもいた」
 ファイナの視線の先には。
 飛び跳ねた髪を妙に可愛らしくピンで留められ、オーバーサイズのタンクトップと半袖シャツを身に纏った、黒髪の科学者の姿。
「‥‥何なら、おそろいの格好とかしてみるのもいいかも」
 ‥‥明らかに、死なば諸共的な発想である。

 合戦が始まる前から、実は試合のリタイア者がいた。
 彼は、いつもと変わらぬ身なりをし、このブランドのものを身に着けてはいなかったのだ。
「このブランドは良く知っているが、若者向けだからね。もし今後フロックコートでも出来たのなら、ぜひとも欲しいところだね」
 彼は以前、カタログの写真を撮った事があった人物。
 UNKNOWN(ga4276)は、残念ながら、水鉄砲合戦には不参加である。

●閑話・頭を悩ます従業員
「これは‥‥」
 従業員は、参加者から集めた書類を見て頭を抱えた。
 その理由は、共闘者欄と対戦希望者欄が、思ったより埋まっていた事。
「戦力をなるべく平等にしたかったのですけど‥‥如何しましょう、ヴォルフガンクさん」
「多少は諦めて、希望を優先してあげたら。別に、勝敗とか気にしなくても、いいと思う」
 だって、集まったメンバーは、皆水鉄砲合戦を『楽しみに』来たんだと、思うから。
 そう言ったヴォルフガンクへと、従業員はなるほど、と苦笑しながら頷いてみせる。
「なるほど。だから貴方もその格好なのです‥‥ぐはっ!」
「僕の格好については触れないでよ」
 アルミのクリップボードが、従業員の頭部を直撃した。
 ヴォルフガンクの格好は、死なば諸共としてファイナとまるでお揃いの。
 下半身は、ホットパンツ姿だった。
 男の娘、2名出来上がりである。

●合戦開始直前
 各々水鉄砲と紅白の腕章、簡易キャップを配布されて、メンバーは指定されたプールの内側の両サイドに分かれた。
 簡単に、ここで組み分けを発表しておきたいと思う。

 紅組:セシリア、ケイ、サヴィーネ、スピカ、ロジャー、流叶、ロベルト、サキエル、ウラキ、穣治、翡翠、紫陽花、インファレンス、スーパーベジータ様
 白組:翠、ケルベロス、白藤、泉、ヴァレス、ファイナ、ドニー、ウレキサイト、クラリア、ルノア、きら、ソウマ、カイト、ヴォルフガンク

●ウォーターバトル、スタート!
「いくわよ、セシリア」
「‥‥行きましょう‥‥」
 背中合わせで陣取ったケイとセシリアは、まず敵の中で一番近い場所に立っていたルノアときらを倒すべく水鉄砲を放った。
 放物線を描いて飛び出した水が、2人を捉えるかと思われたが。
 流石はスナイパーの2名。隠密潜行で気配を殺してすっと逃げてゆく。
「危なかった、ですね」
「はい。このまま距離をとって、遠くからの射撃に備えましょう」
「あらら。逃がしちゃったわね」
「‥‥やるからには、全力で、頑張ります‥‥」

 開始直後から睨み合っているのはヴァレスと流叶の2名だ。
「絶対、絶対ぇ勝ってやる‥‥っ!」
「ふふ‥‥負けないよ」
 お互いの腕章と簡易キャップを狙いながら、ジリジリと少しずつ移動していく。
 まずトリガーを引いたのは流叶だ。
 咄嗟に身を翻したヴァレスが、反転しつつ振り向き様に腕章目掛けて水鉄砲を放つ。
 辛うじて腕を引くことで直撃を避けた流叶が、小さく笑った。
「私が勝ったら、何を着てもらおうかな?」
「負けてなるものか‥‥絶対負けてなるものか! 女装なんて絶対嫌だ!」
「‥‥女装? それもいいかもしれないけれど」
「俺が勝ったら流叶には水着を着てもらうからなっ!」
 そんな2人の戦いである。

「ウラキ、カメラ意識すんな! やられたら穣治のカメラ攻めだ!」
「‥‥ああ、やってやる‥‥!」
 翡翠に叱咤され、ウラキが普段戦場に立つ様に、表情を厳しくする。
「とにかく俺はドニーに祝福の攻撃を加えに行く、一緒に来るか?」
「そうだな‥‥」
「待った! 誰にも渡さないっ! ウラキさんは、私の!」
 かかった声の元を辿れば、そこにはウラキの大切な恋人クラリアの姿。
 普段と違った服装の彼女に、思わず見とれてしまった次の瞬間。
「‥‥お手柔らかに ――って、撃ってきた!?」
 まさか彼女から撃たれるとは思っていなかったウラキが動けずにいるところを、翡翠が咄嗟に引っ張り倒す。
「見とれてる暇はないぞ! ヤられる前にヤれ! 撃たれる前に撃て!」
「分かってる‥‥!」
 ウラキとクラリアの直接対決を確認して、翡翠は満足そうに頷くとその場を離れた。
 行き先はドニーとウレキサイトのペアだ。

 その頃、ロジャーは周囲を懸命に警戒しながら敵を少しでも減らそうと水鉄砲を放っていた。
「俺の予想では‥‥やっぱ来た!」
 その視線の先には、今回要注意だと警戒していた翠とヴォルフガンクの姿。
 ばっちり目が合ってしまった。
「やっべ‥‥」
 遠距離だというのに、スキルを使用しての水鉄砲版ヒットアンドアウェイを繰り広げる翠が、まるでスタントマンの様にあちらへこちらへと動き回る。
 必死にその隙を掻い潜るロジャーを冷静に見ていたヴォルフガンクが、そのまま突っ込んできた。
「が、甘い!」
 サイエンティストでどちらかといえば持久力のないヴォルフガンクに比べれば、ロジャーの方が体力はある。
 ヴォルフガンクには体力で勝てる。が、とにかくレベルの高いスナイパーが相手では逃げなければやられてしまう。
「あ〜ばよとぉ〜っあん!」
 身を翻してそのまま逃げていくロジャーを見て、翠とヴォルフガンクは顔を見合わせた。
「どっちがとっつぁん?」
「『とっつぁん』って何」

「おめでとー!」
「‥‥やはり来たな翡翠! ならばこの勝負、遊びと思わずやらせてもらう!」
 ドニーは翡翠からの『祝福の攻撃』を受けていた。
 隣で自分の背を守ってくれているウレキサイトへと水がかからないようにしながらも、自分の腕章とキャップも守っている。
「背後は任せて下さい、ドニーさん!」
 背後から攻めてくる敵を必死に攻撃していくウレキサイトに頷き、ドニーは前方の翡翠を相手にする事に。
「まずはその頭から狙うぜ!」
「最初っから頭しか狙ってないだろ翡翠この野郎!!」
 確かに。
 只管に翡翠はドニーの頭部‥‥もとい、キャップを狙っていた。
「幸せなら撃たれろー!」
「何だそのめちゃくちゃな理屈はーーー!!」
 もしかしなくとも、羨ましい、とか言わないだろうか。いやいや。そんなまさか。

「何があろうと全力で挑む。それが仕事を請けたプロというものだ」
「あんたにゃァ負けねー。‥‥びっちゃびちゃにしてやんよ!」
 淡々と告げたケルベロスに対して、思わず笑い声が聞こえてきそうな宣戦布告をしたのはサキエルだ。
「ロベルト、覚悟しぃや?」
 銃口は定めながらも周囲の警戒を怠らないケルベロスの前で、ロベルトとサキエルを狙いながら白藤が笑う。
「‥‥やれやれ。これも仕事か」
 放たれる水と格闘しながらも、危うくサキエルが被弾しそうになったところを、ロベルトが庇った。
「‥‥煩い。ニヤニヤ笑ってないでとっとと応戦しろ」
「‥‥クク、いやいや、悪ィな兄貴。‥‥サンキュッ!」
 まだキャップと腕章に直撃は受けてないロベルトも必死に応戦するが、残念ながら人を庇いながらだと動きが鈍ってしまう。
「残念やなぁロベルト、もろぅたよ」
 白藤の銃口が、頭部を捕らえた。
 水鉄砲から放たれた水が、ロベルトのキャップを直撃する。アウトだ。
「ロベルト、絶対そっちのほうが似合う‥‥」
 前髪の降りた状態のロベルトへと笑って、次に白藤がサキエルへと銃口を向ける。
「サキ♪ 殺ろっか?」

「ルノアちゃんを狙う輩は許しません」
「左右、から、きます‥‥。連射で、一気に!」
 丁度対面していたサヴィーネとスピカのタッグと、ルノアときらのタッグ。
「陽炎の背中はスピカが守るですよー」
「いくよスピカ、何時もどおり、私が狙撃で君が遊撃だ」
 サヴィーネの射撃を必死に回避し続けるルノアときらだったが、やがて体力が続かなくなってしまったスピカときらが相打ちの形で撃たれてしまう。
「くっ‥‥! スピカが‥‥!」
「きらさん‥‥!」

 端の方から敵を選んでいたカイトが、中央辺りで戦っていたインファレンスとスーパーベジータ様を見つけた。
「狙い撃つぜぇぇ!」
「やかましいわぁぁ! 来ると思ってたぜこのヤロウがぁぁ!!」
 カイトとインファレンスの口論交じりの銃撃戦の真っ最中は、スーパーベジータ様がインファレンスの背後を守っている。

●途中経過発表
 奮戦したものの、アウトとなった人物達が増え始めた。
 単独であれば能力の高かった翠も、ケイとセシリアのタッグに撃ち落されてしまいアウト。
 ヴァレスと流叶の一騎打ちは思っても見なかった同時アウト。当たった箇所が多かったので、取りあえず二人の間では流叶の勝ち。
 ドニーとウレキサイトへ祝福の攻撃を行っていた翡翠は、残念ながら彼の直ぐ側で戦っていた紫陽花の盾とされてしまいアウト。
「危ないっ!」
「紳士じゃねぇのかぁ!」
「ありがとう翡翠くん、衣装濡らしたくないんだ」
「だからって壁にするなよ!」
「君の死は無駄にしないよっ!」
「勝手に殺すなぁぁ! しかも十字切って行くな! 不吉すぎるわ!」
 なんてミニコントが繰り広げられたりもしていたが。
 しかしドニーとウレキサイトも、翡翠を盾にしていた紫陽花に撃たれてしまいアウト。
 そしてカメラマンの穣治は、執拗なまでにヴォルフガンクに追われた結果、カメラを死守する事には成功したがびしょ濡れになりアウト。
「ヴォルフ! 何か俺に恨みでもある!?」
「‥‥ない。けど、勝負だから」
 仕方ないと、カメラマンに徹しようと考えを切り替える穣治だった。
 その穣治をアウトにしたヴォルフガンクも、ロジャーからの不意打ちに撃たれてしまいアウト。
 ルノアときらのタッグは、対峙していたサヴィーネとスピカのタッグに競り負けてしまい、結果サヴィーネ以外の3人がアウト。
 単独で戦闘を行っていたカイトは、インファレンスとスーパーベジータ様に挟み撃ちされてしまいアウト。
 しかし味方であった筈のインファレンスが唐突に自分へと直撃しそうになった水から逃げる為に、スーパーベジータ様を盾にしてしまい、スーパーベジータ様もアウト。
「ス以下略、貴様はもう用済みだ。‥‥だからさぁ‥‥もう消えろよぉぉぉ!!!」
「これがスーパーベジータのビックバン水鉄砲アタックだ! ‥‥って、貴様裏切ったな!!」
 こちらも軽くコント状態である。

 残りは紅組が8人、白組が6人だ。

●最後には混戦。壁の悲劇
 ファイナはとにかく目立たないように、ばれない様にと逃げ回っていた。
「何時もとは違う格好だし、ばれないだろうし、大丈夫だとおもうっ」
「甘い!」
 目の前に現れたのはロジャーだった。
 慌てて後方へと下がろうとしたが、背後にはロジャーと同じ紅組のインファレンス。
「でもごめんなさい! 僕ひたすら逃げますので!」
 その間を縫う様に、ファイナは一気に駆け抜けた。

 ソウマも持ち前の『キョウ』運でここまで何とか逃げ回っていた。
「僕にとって、運は立派な実力なんですよ」
 不敵に笑いながら対峙しているのは、相方を失ったサキエルだ。
「‥‥さァて。そろそろ終いかァ? ‥‥どっちが勝つか、やってみようや」
「負けませんよ」

 アウト判定を下されたメンバーは、哀れな盾役になっていた。
「紫陽花、いい加減に俺を盾にするのやめろーーー!!!」
 とか。
「ロジャー‥‥。いい度胸だね‥‥」
 とか。
 そんな会話も飛び交っている。

 試合終了まであと僅かだ。
 ちょこまかと逃げ回っていた泉が、はっと何かに気づいて駆け出した。
「しぃちゃん‥‥!」
 その先には、セシリアとケイのタッグに追い込まれていたケルベロスと白藤の姿。
 咄嗟に射線上に体を割り込ませた泉のキャップに、ケイの射撃が当たった。
「泉‥‥、あぁもう、びしょ濡れになってしもぅたね」
「しぃちゃんの役に立てたならいいよ!」
 そんな無邪気な声が響いた次の瞬間。

 プールにホイッスルが鳴り響いた。
 試合終了である。

 結果は‥‥。
「紅組残り8人。白組残り5人。勝者、紅組です!」

●終了後のお話
「いやぁ、おかげ様でいい写真が撮れました」
 びしょ濡れの能力者達にタオルを配布しながら笑って、プールサイドでカメラを構えていた社員達が告げる。
「でも、シャッター音とかフラッシュとかあんまり感じなかったんですけれど」
 参加者からの問いに、従業員は集中力を切らせてはいけないと配慮して音も光も極力抑えた旨を説明した。
「よろしければシャワー室がありますので、そちらで温まってからお帰り下さい。お買い上げ頂いた商品で本日ご用意出来なかった品に関しましては、後日必ずお届け致しますので、ご安心下さい」
 勝利チームへ配布されたのは『JackKnight』のファッショングラスだった。

 帰り際の話である。
 ロベルトは泉とサキエル、白藤を呼んで何かを手渡していた。
 特別にラッピングが施されていたそれには、其々にとロベルトが選んだ『JackKnight』の商品が入っている。
 妹のような存在であるサキエルにはウォレットチェーンを。誕生日祝いにと白藤にはワンポイントシャツを。
 そして、泉が開けたラッピングの中には、ハンチング帽が入っていた。
「‥‥これなら、目線も隠せるだろう?」
 ハンチング帽を泉の手からそっと取り、目線を合わせない様にしながら頭へと被せてやる。
 その様子は、社員のカメラではなく穣治のカメラでそっと写された。

 ドタバタと行われた水鉄砲合戦と、本命の写真集撮影は無事に終了。
 少し早めの、夏休み代わりになったのなら、幸いである。



 END