●リプレイ本文
●先行ドラグーン
「赤い毛並みの狼キメラ‥‥見かけないタイプ故か、気になりますね」
「この中で紅狼と遭遇した事があるのは私と湊さんだけですか。でも、妨害工作というには杜撰すぎますよね」
現場へと疾走するバイクが4台。
緊急連絡を受けた12人の能力者のうち、機動力の高いドラグーンメンバーだ。
神棟星嵐(
gc1022)の言葉に返した望月 美汐(
gb6693)に、湊 影明(
gb9566)が小さく頷く。
「二度目か‥‥。彼は既にいないようですね」
「彼、というのは連絡にあったウィリアム・バートンというバグアの事ですよね。紅狼の能力はどれくらいのものなんですか?」
シャーリィ・アッシュ(
gb1884)の問いに、美汐と影明は首を横に振った。
「個体差があり過ぎるらしいんです。私達が戦った個体は俊敏性が高かった様ですけど、更に強い個体は攻撃力も高かったと聞きました」
「とにかく、妨害に投入してきたくらいです。そう簡単には倒れてくれないと思った方がいいでしょうね」
バイクは走る。
やがて、出航準備中の船とバラバラになったコンテナを目視する事が出来た4人は、船に向かい走り寄る4体の紅狼にすぐさま気づいた。
「このまま突っ込みます!」
キメラまであと50m。これならブーストを使わなくともキメラとゼロ距離まで間合いを詰められる。
エンジン音に気がついたキメラが足を止めた。
こうなれば追うドラグーンメンバーにとっては更に有利だ。
追いついたドラグーン全員がAU‐KVを装着する。
「さぁ紅狼。生憎ですが、ここから先へは行かせません!」
美汐が高らかに宣言し、船と1体の紅狼の間へと滑り込む様にセリアティスを翻し。
シャーリィはバスタードソードを。星嵐は神楽と拳銃「スピエガンド」を。影明は忍刀「自来也」と乙女桜を其々握り締め。
残りメンバーが来るまでの時間稼ぎを開始するのだった。
●駆ける
前方から聞こえてきた発砲音に、合流しようと駆けていた残りのメンバーは一瞬眉を寄せた。
「間に合って。間に合って‥‥!」
ロゼア・ヴァラナウト(
gb1055)は小さく呟きながら両手でライフルを握り締める。
「ウィリアム・バートン‥‥またキミか‥‥いやな縁だね。キミの立ち去る後姿を見るのは、もう食傷気味だよ」
「それって確か、お兄ちゃんが追いかけてるっていうヨリシロじゃないですか!?」
今給黎 伽織(
gb5215)の呟きから聞こえたバグアの名に、目を見開いて驚きの声を上げたエレナ・クルック(
ga4247)。
「失敗は許されない。俺達能力者は12人もいるのだから」
「出港まで30分だったか。そんなに付き合ってられるか。早々に片付けさせてもらう」
紅月 風斗(
gb9076)とファルロス(
ga3559)の言葉に全員が胸中で頷く。
徐々に近づいてくる戦闘の音と、目視出来る範囲に入った先行ドラグーン達と紅狼を確認して。
「目標確認っと。んじゃ、急ごうか」
「流石はドラグーンの機動力ってところか。船はまだ無傷だ」
言って隼風を軽く振ったジン・レイカー(
gb5813)の横で、射程に入ったキメラへと軽く握った拳を突き出したブロンズ(
gb9972)から放たれたエネルギー弾が、キメラの足元を抉った。
「追いつきましたね。さぁ、これで役者は揃いましたよ」
微笑んでそう言ったレイミア(
gb4209)だが、瞳は強くキメラを縫い止める様に鋭かった。
キメラと船の間にドラグーン。そして挟み撃ちする形で追いついた残りのメンバー。
これで能力者達は全員揃った。
●出航カウントダウン
散開したメンバーは3人1組のチーム編成で4班を作り、1体ずつキメラの相手をする作戦を立てていた。
A班の先行担当は影明。そこに合流したのはジンと後衛のエレナだ。
「あなたの相手はこっちです〜!」
超機械「PB」の箱を開き、紅狼の周辺に電磁波を発生させ気を引いたエレナの攻撃タイミングに合わせて、次に動いたのは影明。
一気に肉薄し、先ずは忍刀「自来也」を一閃。
飛び上がる事で攻撃を回避した紅狼の脚部を狙って、体を回転させた勢いを乗せて今度は乙女桜を振るう。
足を折り曲げる事で咄嗟の回避を続ける紅狼だったが、浅くその前足は裂かれた。
紅狼の着地地点を予測して隼風を構えたジンが、態と柄の部分でキメラの体へと打撃を与える。
これ以上船に近づければ、キメラの攻撃が船へと当たる可能性があると判断したからだ。
案の定、口を開いたキメラがそこから一気に炎を吐き出す。
ギリギリ、船に当たるか当たらないかという攻撃を、当たると分かっていて割り込んだのは影明だ。
ブレスの直撃寸前に忍刀と乙女桜をクロスさせ、僅かでも威力を殺そうとはするものの、影明は怯まない。
むしろ、そう。どこか楽しそうにも見える。
「‥‥くくっ。この程度か?」
竜の血を使用して徐々に塞がっていく傷に笑いながら、影明はもう一度キメラへと肉薄していくのだった。
B班は先行にシャーリィ。合流したのは風斗と後衛のレイミアだ。
「キメラ如きが調子に乗るなよ」
アポカリプスを握り後方へと一瞬視線を移した風斗に、平気だと頷いたレイミアがエナジーガンを握りながら口を開いた。
「援護は任せて下さい。強化しますから頑張って!」
練成強化を連続使用し、前衛のシャーリィと風斗の攻撃力を上げる。
強化されたバスタードソードを両手で握り、シャーリィが肉薄した紅狼へと一気に振り下ろした。
体勢を一気に低くした紅狼が横をすり抜けていこうとしたのを見て、彼女は咄嗟に身を翻した。
今彼女が横を抜かれてしまえば、紅狼は船へと向かうだろう。
「逃すわけがなかろう‥‥っ!!」
竜の翼でもう一度回りこんで、アポカリプスを分離させ二刀へと変えた風斗の位置を瞬時に確認する。
そのままバスタードソードをキメラに向けて振り抜く。
竜の咆哮を使用した一閃を受けて、紅狼は風斗の側へと弾き飛ばされた。
「お前の相手は俺だ。邪魔されると言っても女性ばかり狙うものじゃないな」
ソニックブームで先ずは僅かに開いた射程を利用してキメラの脚部を狙う。
そのまま間合いを詰めて、分離させたもう一刀オーガニクスを再度脚へと一閃する。
浅く裂かれた傷に、紅狼が呻いたのを見て、風斗は小さく笑った。
C班は先行に美汐。合流したのはブロンズと後衛の伽織だ。
距離50mを取ったまま、オルタナティブMを構えた伽織が、先手必勝にGooDLuck、影撃ちと全てのスキルを合わせた射撃を紅狼の足へと撃ち込む。
「紅狼‥‥もう何回、お前達と戦っていると思ってるんだ‥‥見飽きたんだよ」
小さく口角を上げながら最後の弾丸を撃ち込んで、伽織は低い声で呟いた。
「――消えろ」
その間に間合いを詰めたブロンズが、黒刀「炎舞」を閃かせる。
「炎舞の炎とキメラの炎。どちらが強いかな?」
布斬逆刃を使用したブロンズの一閃が紅狼の脚部を裂く。
低く唸った紅狼が、一瞬ブロンズを見やってから美汐に向かって突進する。
――違う。私じゃない。目標は『船』!
紅狼の目的は船だ。ならば。
「ブロンズさん、今給黎さん。押し戻します、やっちゃって下さい」
竜の咆哮を載せた一閃をセリアティスから繰り出した美汐の攻撃を受けて、紅狼は再び船から距離を取らされるのだった。
D班は先行に星嵐。合流したのはロゼアとファルロスだ。
竜の瞳で命中率を上げたスピエガンドで牽制し、神楽で斬りつける。
「あれは狼‥‥犬じゃない‥‥」
その後方から、ライフルを構えたロゼアが星嵐の攻撃タイミングを見計らって、強弾撃を使用しつつ弾丸を放つ。
更に後方、小銃「シエルクライン」を構えたファルロスが、狙撃眼で射程を延ばし紅狼へと銃口を向けている。
星嵐に向けて紅狼が鋭い爪を翻そうとしたところで、援護射撃を使用して弾丸を放った。
「出航まであと少しか。船には行かせない」
数箇所のかすり傷を受けた紅狼が身を翻し、間もなく出航する船へと間合いを詰め、ブレス攻撃を仕掛けようとするが。
放たれたブレスと船の間に割り込んだ星嵐が、竜の鱗を発動させて攻撃を受ける。
「ドラグーンの防御力、甘く見ない方がいい」
ちり、と僅かに殺しきれなかったダメージに顔を顰めながらも呟いた星嵐から紅狼を引き離すべく、ロゼアが再度強弾撃を使用して脚部を狙い撃つ。
「当ててみせる!」
ライフルから放たれた弾丸は、見事紅狼の脚部へと着弾した。
その時、ハウリングが場を一瞬支配した。
外部スピーカーをオンにしたのだろう、それは出航準備中だった船からの、能力者達へのアナウンスだった。
『協力に感謝する。出航準備完了。我々はこれよりチュニジアへと向かう!』
第1関門の30分、能力者達は船を紅狼達から守りきる事に成功したのだ。
●殲滅戦
これでもう背後を気にして戦う、防衛戦ではなくなった。
ここからはそう。 ――殲滅戦だ。
A班の影明とジンは、紅狼を挟む様に同時に踏み込んだ。
「おとなしくしてくださいですっ」
エレナの放つ練成弱体によって、紅狼の防御力が落ちた。
それでも、スピードは落ちない。
「ひはっ。ちょこまか良く動く奴だなぁ、いいねぇ、楽しませてくれるじゃねぇか!」
鋭い爪に何度か引っかかれ傷を受けているというのに、活性化で傷を塞ぎつつジンは楽しそうに笑う。
「どうした、もう終わりか?」
お返しだとばかりに隼風を翻し、流し斬りで今度こそ紅狼の後ろ足を切り裂いた。
ガクリと体勢を崩した紅狼の前方、忍刀「自来也」と乙女桜を態とだらりと両脇に下ろした状態の影明がキメラに突っ込んでいく。
にぃ、と悪鬼の様に口角を上げて笑ってみせた。
まだ、武器は振るわれない。
体だけで突っ込んでくるその姿に、紅狼が戸惑い動きを鈍らせた。その瞬間。
大きく両腕を広げた影明が、キメラの直前で態と駆けていた足を止めた。
振られた両腕は、停止の反動でスピードと威力を加えられる。
「自来也」と乙女桜を交差させる様に与えられた二撃によって、紅狼の頭は胴から綺麗に離された。
B班の決着もあと僅かだ。
船を逃がしてしまった事に苛立ったのか、紅狼はくるりと振り返り大きく口を開いた。
標的とされたのはシャーリィだ。
放たれるまでには間に合わない。それならば、と彼女は逆に紅狼へと詰め寄った。
「援護する。レイミア、後は頼んだ」
咄嗟の判断で武器を小銃「シエルクライン」へと変更した風斗の放つ弾丸が紅狼へと叩き込まれる。
最後の足掻きだろうか、紅狼は腹部に弾丸を食らいながらもブレスを放つ事をやめようとしない。
そして、放たれたブレス。
バスタードソードを両手で握り締め、あえてそのブレスの直撃を受けつつもシャーリィは声を上げた。
「笑止! その程度の炎で竜を焼けるものかっ!!」
加速の勢いとバスタードソードの重量。そして、スキル竜の爪。
思い切り振り抜かれた両手剣は、見事に紅狼の胴を薙ぎ払った。
周囲の警戒を続ける風斗に援護されて、レイミアは自身のスキル有効範囲にシャーリィが入る様に移動する。
いくら防御力の高いドラグーンでも、直撃を受ければ無傷とはいかない。
僅かに息を切らしたシャーリィへと、レイミアは微笑みかけた。
「すぐに手当てしますね」
レイミアの練成治療を受けて、シャーリィの傷口が塞がっていく。
怪我をした人を治療するのも、レイミアの担当だ。
C班もあと僅か。
真デヴァステイターの射程まで接近した伽織が、すぅっと目を細めながらその大振りな特殊銃の銃口を紅狼へと合わせる。
「僕は『消えろ』と言ったはずだ。同じ事を二度も言わせるな」
影撃ちを使用して放たれた3発の銃弾が、紅狼の腹部へと着弾する。
ギャイン。と声を上げて足を止めた紅狼に竜の翼で迫ったのは美汐だ。
「一本、貰い受けますよ」
セリアティスを紅狼の前足へと突き刺して、そのまま竜の咆哮で吹き飛ばす。
倒れこみながら弾き飛ばされたその先には ――黒刀「炎舞」を構えたブロンズの姿があった。
まずい。と本能のままに口を開き、咄嗟にブレス攻撃を放つ紅狼の攻撃を虚闇黒衣で回避したブロンズは、手にした「炎舞」を握り直して息を吐く。
「ケルベロスの炎も防いだんだ。そんなものが効くわけねぇだろ」
完全に狙って打たれたブレスならまだしも、今回のは不完全な状態での攻撃だったのだから、回避も容易い。
紅狼の横をすり抜け様に、刀を一閃させたブロンズの後方で、腹部を深く裂かれた紅狼が倒れこんだ。
「なんだこんなもんか。ちょいがっかりだな」
呟かれた言葉は、もう動かない紅狼には届かない。
D班も最後の締めにかかっていた。
「これまでのキメラとは違うか‥‥だが、仕留められない相手ではない!」
星嵐は初撃で神楽を閃かせ、続いてスピエガンドで脚部へと銃弾を叩き込んでいく。
そんな彼の背後で、火線を確認しながら2人のスナイパーが銃口の先に紅狼を捉えていた。
「そろそろ終わらせる‥‥!」
火線上から星嵐が飛び退く。
次の瞬間、ライフルを構えたロゼアが、強弾撃を再度使用して紅狼の脚部を撃ち抜いた。
4本全てに弾丸を食らった紅狼ががくりと体勢を崩す。
急所突きを使用して、その紅狼の急所であろう眼球や喉元、腹部を狙ってシエルクラインの弾丸20発を一気に撃ち込んだファルロス。
その攻撃とタイミングを僅かにずらして、星嵐が止めを刺すべく再び紅狼へと肉薄した。
ファルロスの弾丸が全て命中し、最早虫の息の紅狼へと、神楽を閃かせる。
鈍い音を立てて、紅狼は倒れ伏すのだった。
●作戦終了
「おつかれさまです〜♪」
「皆、お疲れ様。被害状況はどうなってる?」
「何も残っていませんね?」
「船の損害はゼロ。潜入もゼロ。ミッションは無事クリアだな」
怪我人の手当てをしていくエレナやレイミアに、周辺の状況確認を続ける美汐やジン。
そして同じ班で行動していたシャーリィとレイミアへとコーヒーとミックスジュースを手渡しながら答える風斗。
見えなくなっていく船を見送って、影明が端に寄せた紅狼の死体をちらりと眺めた後、ぐ、と空を見上げて伽織は低く呟いた。
「いつかは、この手で‥‥キミ自身へ引導を渡す日を‥‥バートン」
睨んだその先に広がるのは空。
けれど、恐らく伽織が睨んだのは、空ではなく‥‥。
UPC軍のチュニジア上陸部隊、出航援護 ――クリア。
4体の紅狼キメラの殲滅 ――クリア。
END