タイトル:狼を襲う羊マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/05 03:00

●オープニング本文


 それはとある農場で起きた、不可解極まりない事件だった。

 最初の被害は農場で飼育されていた羊だった。
 しかし、被害に遭った羊の死亡原因は裂傷や噛み傷による失血死ではなかった。
 死因は ――全身打撲による内臓へのダメージ。

 そして、次に被害に遭った動物が問題だ。
 農場に時折やって来ては家畜を荒らす、狼が殺されたのだ。
 狼が家畜を荒らしていたのだろうと思っていた農場主は驚いた。
 当然、家畜が殺された時から不審には思っていたのだが、それでも狼が家畜を荒らしていたのだと信じていたからだ。
 しかし、被害に遭ったのは狼で、死因は同じく全身打撲による内臓へのダメージ。
 そして今度は、形跡が残されていたのだ。
 狼の死骸の周りに、しっかりと残されていたのは、蹄の跡。
 それも、まるで農場で飼育されている動物、羊と全く同類の。

 農場主は慌てた。
 これは、今まで聞いた事のある『キメラ』とは少し違うのではないか、と。
 だがしかし、蹄の跡だけでは証拠にならないかもしれない。
 そこで農場主は決死の覚悟で見張りを行った。
 震える手でカメラを握り、見張ること1週間。
 農場主は、遂に犯人の決定的な姿を撮影する事に成功した。

 写真に映し出されたキメラは3頭。
 その全てが、羊によく似た姿をしていたのだった。

●参加者一覧

冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859
17歳・♀・AA
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
紫藤 望(gb2057
20歳・♀・HD
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF
カンタレラ(gb9927
23歳・♀・ER
アンナ・キンダーハイム(gc1170
22歳・♀・SF
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
エレシア・ハートネス(gc3040
14歳・♀・GD

●リプレイ本文

●目視
「‥‥見つけた」
「あの羊かわいー! ‥‥じゃなくて、キメラだから成敗っ!」
「そうそう。可愛くしてたってダメなんだからねッ」
「モコモコひつじは可愛くて好きだけど、あれはいやです〜!」
「そうですね。モコモコしていて可愛いのですが‥‥相手がキメラとなれば、見逃すわけにはいきません」
 番 朝(ga7743)の指差した先に現れた3頭の羊型キメラを見て声を上げた紫藤 望(gb2057)とユウ・ターナー(gc2715)、和泉譜琶(gc1967)に頷きながら、リゼット・ランドルフ(ga5171)はカプロイアM2007を軽く握り直した。
 農場主によって牧場を完全に閉鎖させてもらっている為、被害は最小限に済むだろう。
「それじゃあ、先ずは私が出来る限りの事をさせてね」
 全員が覚醒したのを確認してから、カンタレラ(gb9927)は自身と同じ班の前衛、エレシア・ハートネス(gc3040)と星月 歩(gb9056)、そして他班の前衛から紫藤と番へと練成強化を施す。
「童話と全く逆なので、狼を追い回す羊は少し面白かったかもしれませんけど」
「この場合‥‥私達が、狼役‥‥でしょうか。姉上」
 コンユンクシオを両手で握る歩に呟いたエレシアの言葉は、ある意味当たっているのかもしれない。
「では、後は予定通りに。A班は左、B班は中央、C班は右を担当。先ずはリゼット、頼む」
 冥姫=虚鐘=黒呂亜守(ga4859)の言葉に頷いたリゼットが、銃口を固まったキメラへと向ける。
「‥‥いざ」
 アンナ・キンダーハイム(gc1170)の小さな呟きに合わせて、全員が一気にキメラに向かって飛び出した。
 リゼットから放たれた銃弾が、密集したキメラを威嚇する様に上手く散弾する。
 戦闘、開始だ。

●A班・戦闘
「おねーちゃん達、行くよ‥‥っ!」
 ユウの制圧射撃が終わった直後、キメラに接近したのは冥姫だ。
 キメラの横を一気に通り抜けると、すれ違い様にケツァルコアトルを一閃する。
 ジャンプでそれを避けたキメラの背後に陣取った冥姫を確認して、次に肉薄すべくリンドヴルムの装輪を回転させる望を援護するためユウの射撃がキメラの足元を狙う。
「ほら、羊さん‥‥此処からは動けないよ!」
 脚部を削られたキメラが、動きを止めて譜琶へと頭を向けた。
 その隙を逃さず、両手で握ったインサージェントを振りかぶって望が声を上げる。
「いくよHOLY KNIGHT。うちが生命を吹き込んであげる!」
 リンドの愛称を呼びながら、コンパクトにスイング。
 一気にキメラの腹部を浅く裂き、跳び退る。
 ヒット・アンド・アウェイが今回の望の戦術だ。
 素早くそれを避けたキメラが跳び上がったその瞬間を冥姫は逃さない。
「何処へ行く‥‥お前は此処だ」
 まず左側からケツァルコアトルを一閃。そのまま体の回転を利用してもう一閃。
 一撃目よりも二撃目の方が遠心力も加わって重い攻撃になる。
 間一髪避けたキメラの逃げ先で待ち構えていたのは望だ。
「いくよー! 必殺、1080°(テンエイティ)!!」
 ユウの援護射撃を受けつつ望が、竜の翼と装輪を利用し、さらにインサージェントの重みを利用して一回転。
 加速を増大させて、二回転目でキメラの脚部を払い転倒させる。
 加速を殺さない様に最後の三回転目で、竜の爪を発動させ、両手持ちしていたインサージェントを硬く握り込んだ。
 そのまま羊キメラの胴体へとフルスイング。
 鈍い音と共に、勢い良く吹っ飛んだキメラはもう起き上がる事はなかった。

●B班・戦闘
「ん‥‥目標のキメラは、あれかな‥‥?」
「では、行きましょうエレシア」
「はい‥‥姉様」
 歩の呼びかけに頷いて、エレシアは手にしたヒベルティアとポリッシュシールドを握り直した。
 先手を取ったのはキメラだった。
 一度足を踏み鳴らすと、そのまま一直線に歩へと突進してくる。
 咄嗟に回避ではなく防御を選択した歩が、コンユンクシオを地面へと突き立てた。
 両刃の大剣の刃を認めて、キメラは慌てて足を止める。
「‥‥さ、て。お仕置きの時間ですね」
 妖艶な笑みを浮かべたカンタレラが、超機械「雷光鞭」を地に打ち付ける様に振るった。
 電波増幅で雷光鞭の威力を上げつつ、唇の端を引き上げたままポツリと呟く。
「‥‥毛皮。ある程度は残しておかないと、ですね?」
 あれだけフワフワモコモコなのだもの。もしかしたら被害にあった依頼人の足しに、羊毛的な何かとして売れるかもしれない。
 何より、気持ちよさそうじゃない。
 一気に振るった雷光鞭が、羊キメラの足を叩いた。
 同じ箇所をもう一度、的確に打つ。
「足止めはカンタレラさんがしてくれてます。今のうちに」
 大剣を一気に引き抜いた歩が、流し斬りを使用して一気に剣を横に薙ぐ。
 まだ腱を断ち切るには至らなかった傷もお構いなしに、今度はエレシアへと向かっていく。
「‥‥農場の人に、安心してもらう為‥‥早めに、倒す‥‥」
 ポリッシュシールドを前面に立て、キメラの突進を防ぐべく体勢を低く取る。
 ぶつかる直前にシールドスラムを使用したエレシアが、衝撃を殺しつつヒベルティアを持った手を引いた。
 カウンター攻撃として、ヒベルティアを腹部目掛けて突き出す。
 深く刺さったエレシアのヒベルティアが楔になって、キメラの動きが鈍くなった瞬間。
 一気に駆け込んだ歩が、両断剣を使用してコンユンクシオを勢い良く振り下ろした。
 どさり、と音を立てて倒れこんだキメラは、A班の戦ったキメラと同様にもう起き上がらなかった。

●C班・戦闘
 突進してくるキメラを確認したリゼットは、武器をベルセルクへと切り替えてそのまま剣を振りかぶった。
 剣の間合いではない。それでもファイターのリゼットには十分な間合いだ。
 リゼットの一閃から発生したソニックブームは、キメラの脚部を狙って放たれる。
 キメラが射程範囲に入った事を確認したアンナが、キメラへと練成弱体を放つ。
 後方支援はアンナが間違いなく行ってくれるから大丈夫だ。
 勢い良く飛び込んだ朝が、大剣「樹」を構える。
 流し斬りを使用して勢い良く横薙ぎに一閃。
 キメラの腱を狙ったその一撃は浅く敵にダメージを与えるに留まった。
「まだ浅いですか。それなら‥‥。和泉さん!」
「りょーかいです! 羊さんストーップ!」
 マーシナリーボウを構えた譜琶が、鋭覚狙撃で羊の足を狙う。
 矢の1本が足を貫いたのを確認して、リゼットが一気に加速する。
「番さん!」
 頷いた朝が、リゼットの反対側から樹を構えて駆け込む。
 動きが鈍ったキメラは、どちらへ逃げればいいのか判断出来なかった。
 まず閃いたのはリゼットのベルセルクだ。
 急所突きと豪破斬撃を併用したリゼットの一閃が、羊型キメラの脚部を一気に薙ぎ払う。
 タイミングをずらして朝が紅蓮衝撃と急所突きを併用してその腹部を払った。
「やったぁ!」
 譜琶の声のその先で、キメラは他班の敵と同じ様に倒れ伏すのだった。

●戦闘の後のお楽しみ
 キメラの殲滅が確認されてから、農場主は感謝の言葉を述べた。
 そして、本当の羊が見たい! という希望者の為に農場へと羊を放牧してみせた。
「モコモコひつじさん可愛いです〜!」
 大人しいから抱きついても平気ですよ、と促されて抱きついた譜琶が満面の笑みで声を上げる。
「本当にふわもこですね‥‥可愛いです」
「ねぇねぇ歩ちゃんも一緒に触ろうよ!」
 リゼットと望の呼び声に、歩は控えめに笑いながら首を横に振った。
 今度、ゆっくりと観光出来た時に見せてもらおうと思いながら。
 一方、倒れたキメラを纏めていた冥姫やカンタレラは、農場主と何やら話をつけている。
「農場主さん‥‥もしかしたら、このキメラの羊毛、売れるかもしれませんよ?」
「羊毛は売るとして。残った体は私達が処分するのが筋だろうな」
「毛刈なら俺出来るぞ! 任せてくれ」
 覚醒も解けて元来の元気さが戻った朝が手を挙げる。
「羊肉だから、ジンギスカンかな。ならうちも手伝うよー!」
「ん‥‥私も、手伝う‥‥レシピとか覚えたい‥‥」
 調理の手伝いを名乗り出たのは望とエレシアだ。
 朝の手伝いにカンタレラとアンナ、そしてユウ。
 まるっと毛を刈られた羊型キメラを見て、誰かが歓声をあげていたり。

 きっちりと使えるところは有効活用していく能力者達の逞しさに、農場主も思わず苦笑い。
 美味しいところは美味しく。そして一部の羊毛は能力者達の手に渡り。
 まるで童話の逆転劇だった農場での一連の事件は、無事終結となったのだった。


 END