●リプレイ本文
●シマノフスカヤ駅 1両目
「ロシアも変わらんな。バグアが出る様になった事以外は」
紫煙を燻らせ、UNKNOWN(
ga4276)は呟いた。
「目的地はウラジオストク駅」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が、路線図を指しながら説明を開始する。
「この車両は、ウラジオストクまでノンストップで走行する」
「ノンストップ‥‥まいったね」
次いで紫東 織(
gb1607)が淡々とした口調でつげると、その横に立っていた周防 誠(
ga7131)が頭に手をやってポツリと呟いた。
「車両ん中は異常なし」
「まぁ、最初から中にいるはずはないけどね〜」
須佐 武流(
ga1461)とドクター・ウェスト(
ga0241)が、其々口を開きながら姿を現す。
「そろそろ発車だ。各々、最初の持ち場に移動するとしよう」
紫煙を引き連れながら、UNKNOWNは自身が担当する最後尾。ミサイルが積み込まれている10両目へと向かっていく。
「無線は常にON。無線がないUNKNOWNには、須佐から連絡を頼む」
「んじゃ、俺も行きますか」
ホアキンの言葉に頷いて、須佐が向かうのは9両目だ。
「我輩も移動するよ〜」
「俺も行こう」
白衣を翻したドクターは7両目。スーツを身に纏った紫東は2両目へと向かう。
最後に残った周防は、小さく肩を竦めて、もう一度ポツリと呟いた。
「‥‥まいったね」
彼の担当は1両目。つまり、現在いるこの場所だ。
数分後。列車はシマノフスカヤ駅を発車した。
●2両目 紫東
敵がどこから現れるか分からない為、紫東と須佐は交互に屋根の上に上がり、警戒を行なう事になっていた。
双眼鏡で周囲を警戒しながら、紫東は走行中の列車の上だという事を感じさせない足取りで3両目へと足を運ぶ。
「前回はハバロフスクより西で攻撃にあった。だが、油断は出来ない」
呟くと紫東は無線に向かって声を上げた。
「こちら紫東。3両目へ移動中。敵の姿はありません」
●4両目 ホアキン
「‥‥仕事でさえなければ、このシベリア原野を、車窓からのんびり眺めたかった‥‥」
窓を微かに開けている為、煙草の煙が流れていく。
索敵に使用していた双眼鏡から目を離し、流れゆく景色を見やって、少し残念そうに呟いた。
無線機から周防が「仕事以外では乗れませんよ」と小さくツッコミを入れるが、聞かなかった事にする。
「こちらホアキン。敵はまだの様だ」
●9両目と10両目
「さぁて、どこにいらっしゃいますかね?」
窓の外を双眼鏡で眺めながら、須佐は10両目へと足を運ぶ。
列車の連結部分を飛び越える様にして、最後尾へと移る。そこに居るのは、10両目担当のUNKNOWNだ。
「須佐。こちらは異常なしだ」
「こっちも今ん所異常なし。しっかし寒ぃぜ‥‥」
ボヤく須佐に、UNKNOWNが小さく笑ってカップを差し出す。
「珈琲だ‥‥身体よりも、魂を暖めなくては、な」
UNKNOWNの手元にも、珈琲の入ったカップがあった。
「サンキュ!」
嬉しそうに珈琲を口にして、須佐がUNKNOWNへ問い掛ける。
「そういや、あんた前にもロシアに来た事があんのか?」
「あぁ‥‥懐かしいな‥‥奴はまだいるのだろうか、な」
「知り合いか?」
「想像に任せよう」
それ以上は何も聞かず、須佐は持っていた無線機に向かって声を上げた。
「9、10両目。異常なし!」
●7両目
「今回はサンプルを採取出来ないだろうね〜」
双眼鏡で索敵しながら、ドクターは残念そうに呟く。
やおら席を立つと、カツカツとブーツの音を響かせながら、自身の担当から1両前、6両目へと足を運ぶ。
「こちらドクターだ。まだ索敵には引っかからないね〜。一先ず、6両目に移るよ〜」
●アムール川鉄橋前 無線会話
「こちら紫東。現在屋根の上から4両目へ移動中。敵の姿はまだありません」
「こちら1両目、周防です。2両目へ移動します」
「りょーかい。こちら須佐。10両目に異常はなかったから、8両目に移動するぜ」
「こちらドクターだ。6両目も異常なし。索敵を続けながら、5両目まで移動するよ〜」
「ホアキン了解。こちらも異常なし。ドクターが5両目に移動するなら、俺は7両目に移動する」
●アムール川鉄橋通過 発見
ドクターがそれを発見したのは、5両目の後部での事だった。
「ドクターだ。4両目左方向にキメラ1体。こちらに接近中の様だね〜」
無線を介しての言葉に、一同に緊張が走る。
「こちら紫東。4両目屋根上。こちらもターゲット確認しました。臨戦体制に入って下さい」
「周防、目標視認しました。援護します」
「こちらホアキン。8両目右側から1体接近中だ」
「こちら須佐。俺も確認したぜ」
其々が無線にて自身の行動を報告する。
「我輩と周防君の射程範囲に入るまであと少しだね〜」
「俺達の射程に入るのもあと少しだ。須佐、後方の彼に連絡を」
「りょーかい。UNKNOWN! 敵さんのお出ましだぜー!」
「見えている。近づく様なら威嚇射撃に入ろう」
無線機を通して大音量で響く須佐の声と、小さくそれに答えるUNKNOWNの声。
「須佐さん、声でかい‥‥」
キメラは2体。それぞれ高速で4両目と8両目へと突っ込んでくる勢いでやって来ている。射程距離まであと僅か。
其々が覚醒し、自身の武器を構えたところで、いざ、戦闘開始!
●紫東・ドクター・周防戦
「牽制させて貰いますよっ」
4両目を襲おうとするキメラへと狙いを定める周防。構えたスナイパーライフルの射程内に敵が入った事を確認すると、引鉄を引いた!
羽根を撃たれた事により、キメラの速度は最初より遅くなっている。
「こちら紫東。上へおびき寄せて下さい」
「ドクターだ。体力は削っておくよ〜」
「周防、了解しました」
ドクターは自身の射程内まで接近してきたキメラに、エネルギーガンで攻撃を開始した!
柔らかい腹部を狙った攻撃のお陰で、キメラの向かう方向が上へと反れる。
「さてと‥‥この一撃で消えてくれませんかね!」
周防は貫通弾を装填し、強弾撃・急所突き・影撃ちを使用した上で、キメラの関節へと攻撃を仕掛ける!
狙い通りに着弾した攻撃に、キメラは更に上――紫東が待ち構える屋根上へと方向を変えた。
キメラと紫東、共にまだ自分達の攻撃範囲には入っていない。
と、ドクターが身を乗り出し屋根上の紫東へと視線を向ける。
「我輩から紫東君へプレゼント〜」
ドクターの言葉の直後、紫東の武器ゼロが淡く光る。それは、ドクターが練成強化を使用した証拠だ。
その数秒後、キメラが4両目の屋根上へと到達する。
「ターゲット排除する」
瞬天速で素早く間合いを詰めた紫東が、キメラへと攻撃を開始する!
不気味な声を響かせながら、キメラが高速移動で紫東へと体当たりを繰り出した!
「‥‥っ」
回避の間に合わなかった紫東がダメージを喰らってしまう。
「紫東さん!」
装備をアラスカ454へと変更した周防が、紫東からキメラを遠ざけ様と援護射撃を行なう!
その間に、連結部分へと移動したドクターが、屋根上の紫東を視認する。
「今、体力の回復と敵の弱体化を行なうよ〜」
ドクターの練成治療によって、紫東のダメージは回復し、練成弱体によってキメラの防御力は低下した。
「終わらせる」
疾風脚を使用した紫東が、素早く間合いを詰め、構えたゼロで斬り裂く!
体力の尽きたキメラが屋根上から転がり落ちる。場所は丁度、ホール川渡河の真上。冷たい川の中へ、キメラは姿を消したのだった。
●須佐・ホアキン戦
「羽根を傷つければ早くは動けないだろう」
無線越しのホアキンの言葉に、須佐が声を上げる。
「確かに。10両目にも1人配置してるが‥‥俺がここで抑えちまう方が安全だろうな」
ホアキンはエネルギーガンの照準を接近してくるキメラへと合わせる。そうして、射程距離にキメラが入った事を確認して。
「攻撃を開始する」
言うが早いか、キメラの羽根へと攻撃を開始した!
キメラの片羽に、確実に命中した攻撃は、敵の移動速度を遅くする事に成功する。それを確認して更に攻撃を続ける。
打ち込まれた攻撃にキメラが声を上げ、須佐目掛けて体当たりを仕掛けた!
「おっと!」
攻撃を回避した須左は、不敵に笑う。
「おまえ、腹部と関節が弱いんだろ? 悪いが、そこ狙って一気に叩き潰すぜ!」
須佐は急所突きを使用して、足に取り付けられた刹那の爪で、キメラへと回し蹴りを繰り出す!
腹部へと叩き込まれた攻撃に、キメラが再度声を上げる。
「まだまだ!」
続けて連続で蹴りを叩き込み、キメラの体を微かに宙へと浮かせる。
その時。
「遅くなった」
屋根の上へと姿を現したのは、左手に長剣ソードを携えたホアキンだ。
「風景を楽しみたい。消えてくれ」
構えたソードを振りかぶる。ソニックブームを使用した衝撃波が、キメラに襲い掛かる!
攻撃を受けたキメラは、雪原へと落ちて動かなくなった。
●2体撃退後 無線会話
「こちら紫東。4両目のキメラ1体、殲滅しました」
「周防です。援護終了。1両目へ戻ります」
「ドクターだ。敵は高速移動と体当たりのみの単純なキメラの様だね。羽根と腹部、関節を攻撃をするといいよ〜」
「ホアキン、8両目のキメラ殲滅完了。持ち場の4両目へ戻る」
「こちら須佐。紫東、交代の時間だぜ」
「その前に、10両目のUNKNOWNさんに連絡を」
「おーい、UNKNOWN! 4両目と8両目、1体ずつ撃退したぜー!」
「だから声‥‥」
「我輩は7両目へ戻ろう〜」
「こちら紫東。須佐さんと交代後、2両目に戻ります」
●暫しの休息 7両目
「ティータイムは重要だね〜」
紅茶を口に運びながら、7両目の席に腰を下ろしたドクターが呟く。
「ずるい‥‥」
恨めしそうな周防の声が、無線機から響いた。
●暫しの休息 10両目
紫煙を燻らせながら、UNKNOWNは双眼鏡で周囲を警戒していた。銜え煙草の状態で、器用にブルースを口ずさむ。
「‥‥足りんな。他のはどこだ?」
まだ、彼自身の射程範囲に敵の姿はない。けれどもUNKNOWNは、双眼鏡から目を離す事はなかった。
●暫しの休息 1両目
「眠い‥‥」
「周防、寝るなよ」
‥‥暇さのあまりにうとうとする周防に、無線で釘を刺すホアキン。
旅はまだまだ。
●ウスリースク駅通過直前 発見
UNKNOWNがそれを発見したのは、目的地まであと数駅という場所だった。
「――来たか」
愛銃ナインティーンを構え、9両目の左側から接近してくる敵へ銃口を向ける。
「UNKNOWN、あんたも見つけたか?」
9両目の屋根上から声をかけてきたのは須佐だ。
「あぁ。連絡を頼む」
「りょーかい。こちら須佐! 9両目左方向にキメラ1体確認!」
「こちらドクターだ。8両目に移動しているよ〜。援護を行なうとしようか〜」
無線機を通じての須佐の言葉に、最初に返答を返したのはドクターだった。
そして、次に聞こえてきたのは1両目の周防の声。
「こちら周防です。1両目右側からキメラ1体接近中。攻撃体制に入ります」
「こちら紫東。1両目屋上へ上がります」
「ホアキン了解。2両目に移動して援護を行なう」
其々敵を確認すると、持ち場へと移動する。いざ、二戦目開始!
●UNKNOWN・須佐・ドクター戦
自身の射程距離に入った瞬間、UNKNOWNは強弾撃を使用して攻撃を開始する!
キメラは羽根を傷つけられ、飛行角度を列車の屋根上へと変更した。
「相手が、悪かったかもしれんな」
呟きながらも、屋根上に誘導するように攻撃を続ける。
キメラが完全に9両目の屋根上へと上がる直前、ドクターが窓から顔を出して須佐を見やった。
「須佐君に我輩からプレゼントだ〜」
ドクターの練成強化によって、須左の武器が淡く光る。直後、キメラが9両目の屋根上へと上がって来た。
須佐は瞬天速を使用して間合いを詰めると、キメラの腹部へと連続で蹴りを加える!
須佐の攻撃の後、キメラが体当たりを繰り出すが。
「当たんねーよ!」
須佐は素早く回避し、攻撃をかわした。
10両目から、漆黒のコートを靡かせながらUNKNOWNが姿を現す。照準を標的へと定めると。
「‥‥冷たき大地に眠りたまえ」
鋭覚狙撃を使用した弾は、確実に関節を打ち抜いた!
「そろそろ終わらせてしまいたいね〜」
ドクターはそう言いながらキメラへと視線を向ける。
練成弱体を使用して、ドクターはキメラの防御力を低下させると、自身はエネルギーガンで攻撃を続ける!
「須佐‥‥今だ」
弱り始めたキメラを見てUNKNOWNが告げる。その言葉の直後、須佐がキメラへと間合いを詰めた。
「一撃で叩き潰す!」
言って急所突きを使用し、腹部へと目掛けて攻撃を繰り出した!
落ちていくキメラへ、UNKNOWNが止めとばかりに狙撃眼と鋭覚狙撃を使用して射撃する!
声も出せず、キメラは9両目の屋根上から雪原へと転がり落ち、動きを止めたのだった。
●周防・紫東・ホアキン戦
「直ぐ行くから持ちこたえろよっ」
無線から響くのは先程まで9両目で戦っていた須佐だ。
「周防です。射程に入りました。攻撃を開始します」
「屋根上にて排除行為を行なう」
「こちらホアキン。援護射撃開始する」
まず攻撃を開始したのは周防だ。
急所突きを使用したSMGから繰り出された攻撃は、キメラの腹部へと叩き込まれた!
「こちらも射程に入った」
同じくホアキンもエネルギーガンで攻撃を加える!
飛行角度を変えられて、キメラが1両目の屋根上へと現れた。
「排除開始する」
間合いを詰め、紫東は急所突きを使用してゼロで攻撃を開始する!
キメラが体当たりを仕掛けてくるが、紫東は素早く回避した。
それを見た周防が4発攻撃を加える!
続いてホアキンが援護射撃を行なう!
「しぶといっ」
紫東が連撃を加えるが、なかなかキメラは倒れない。
と、次の瞬間。
「待たせたなっ!」
瞬天速を使用したのだろう、須佐が屋根上へ姿を現した。直後回し蹴りの要領でキメラへと攻撃を与える!
「弱体化させるよ〜」
効果範囲に姿を現したドクターが、キメラへと練成弱体を使用し防御力を下げた!
「これで終わりだ!」
周防の放った弾丸が、キメラに止めを刺す!
雪多い原野に、最期の1体が落ちて消えていった。
●終点 ウラジオストク駅
「無事ミサイルは守りきれたな」
煙草を燻らせながら言ったUNKNOWNが、全員に珈琲を配る。若干一名、紅茶派がいたが。本人は自身で持っていた紅茶を飲んでいた。
「キメラも殲滅したし、これで依頼は完遂だな」
暖かい珈琲と紅茶。寒く長いシベリア鉄道の旅は、やっと暖かく終わったのだった。
END