●リプレイ本文
●一月四日・昼食
「お節に飽きたら、中華だよね!」
元気よく笑いながら料理を持ってきたのは北条・港(
gb3624)だ。
中華料理を得意とする港料理人が作ったのは、ラーメンにチャーハン、ギョーザの中華3品。
「ラーメンのスープは豚骨に野菜で風味を加えた特製! 麺はちぢれでどうぞ!」
じっくり煮込んだスープは、港シェフ自慢の1品である。
「ラーメンって、あれだよな。ハシ使って食べるやつ」
「まぁ、フォークでは食べませんね」
お節に飽きてしまったメンバーは、それぞれ箸を操りながらラーメンを啜っていた。
「‥‥ハシ、まだ上手く使えないんだよね」
ヴォルフガンクの呟きに、苦笑しながらレンゲを持ったシュレティンガーはチャーハンを口に運ぶ。
「なるほど、これは美味しいですね。シンプルな味付けも、わたくしのような老体には嬉しい限りです」
「確かに中華料理はこってり油っぽいものが多いけど、チャーハンはまた別だからね。塩コショウと香り付けの醤油。具材もネギと卵だけにしてみたんだ」
港はそう言いながら今度はメンバーの目の前に作られた簡易コンロの火をつけた。
「ギョーザは本当に熱いうちじゃないと、パリパリ感がなくなっちゃうから。目の前で焼かせてもらうよ」
熱したフライパンに油を引いて、隅々まで行き渡らせる。
そこに、粉を落としたギョーザをほんの僅かずつ離しながら並べていき、全て並べ終えたところで熱湯を注いだ。
そのまま蓋をして火を中火に。
数分後、お湯がなくなった頃に蓋をとって、今度は油を注ぐ。
もう数分経った頃には、いい匂いと綺麗な焼き色のついた焼きギョーザの完成だ。
「さぁ出来上がり! タレはこっち。ラー油はお好みで!」
好評のうちに完食された中華料理は、お節に飽きたメンバー全員を満足させる事が出来たようだ。
●一月四日・夕食
「お節に飽きたら‥‥何が食べたいかしら?」
「‥‥僕には、よく分からない。ごめん」
「いいんですよ。そうですね‥‥それじゃあ、暖かいお鍋なんてどうですか?」
あまり自分も食事に関して拘りがあるほうではない。
雪待月(
gb5235)はキッチンへと案内するヴォルフガンクに微笑みかけた。
「よろしければ、どなたか一緒に作ってみませんか?」
雪待月の提案に手を挙げたのは、知り合いの彼だったのだ。
「けれど、ヴォルフさんが料理に興味をお持ちだったなんて。知りませんでした」
「‥‥料理って研究に似てる。って思った、から」
その呟きに、雪待月はもう一度笑った。
肉団子鍋にしようと、雪待月が取り出したのは挽肉と豆腐だった。
「それ、どうするの‥‥?」
「お豆腐はレンジで少し加熱して、挽肉と一緒に混ぜるんです。ふわっとした食感を出すのに、いいんですよ」
その準備と同時に、今度は玉葱と生姜、片栗粉を取り出していく。
レンジから出した豆腐をちょっと冷まして、玉葱をみじん切りにしてから生姜を摩り下ろす。
「雪待月、手際、いいと思う‥‥」
挽肉を混ぜる自分の手と、次々に準備を進めていく雪待月の手を交互に見やってそう言ったヴォルフガンクに、彼女は苦笑した。
「いいえ。ただ、レシピ通りにすればいいんですから。さ、ヴォルフさん。これも一緒に入れて混ぜて下さいね」
具材と調味料を彼の手にしていたボウルへと入れてから、雪待月は他の野菜の準備を始めるのだった。
「‥‥え。何。ヴォルフも手伝ったわけ?」
「‥‥誰か毒見を‥‥」
「君達、失礼だよ」
体格のいい男が何人か集まれば、途端に机は狭くなる。
雪待月の作ってくれた肉団子鍋をつつき始めた彼らの中で、ふと彼女は手伝いを買って出てくれたヴォルフガンクへと視線を移した。
「‥‥ヴォルフさん。お野菜、嫌いなんですか?」
さっきから肉団子ばかり食べていた彼が、まるで敵を見るかのような視線で鍋の中にどんと居座っているネギや白菜を睨みつけていた。
「ん‥‥。野菜、嫌。苦い」
「試してみませんか? 味噌の味もありますから、苦味は消えていると思いますよ?」
雪待月に進められて、渋々鍋から白菜を引っ張り出した科学者が、一気にそれを口に突っ込んだ。
微笑ましそうに見つめてくる雪待月に、何度か咀嚼して飲み込んだヴォルフガンクは目を丸くしてから、ポツリと呟いた。
「‥‥美味しい」
「よかったです」
雪待月シェフの肉団子鍋は、美味しいだけでなく一部の野菜嫌いにさえ認められる一品となったのだった。
●一月五日・昼食
アルストロメリア(
gc0112)は食べるメンバーに意見を聞いて回っていた。
「なるほど〜。結構好き嫌いはっきりした人達なんだなぁ」
これじゃあ何を作ればいいのか余計に分からない。
「しょうがないか。自分が食べたいものを作ろう」
メニューはオムライスに決定だ。
チキンライスを手早く作り、溶いた卵でふんわりと包んだところで、アルストロメリアの『悪い癖』が現れ始めた。
「これだけじゃ面白くないですね‥‥」
品数は多い方がいいかもしれない。
次々に調理を続けて出来上がったのは。
エビフライにナポリタン、ミニハンバーグ。
全てをちょっとずつ盛り付けて、ついでとばかりにプリンを添えたところで、完成。
「って、これお子様ランチやーん!!」
思わず自分で自分に突っ込みを入れて、机へとガンガン頭をぶつけ始める。
アルストロメリアシェフ。今回は料理人なので、自分をいじめるのは止めてあげてください、とか。
そんなフォローも聞こえてきそうだが。
「あぁあ! もう時間ないし‥‥! もういいや、てりゃっ!」
仕方がないと開き直って、アルストロメリアが取り出したのは小さな紙製の国旗。
「確か、ヴォルフガンクさんとシュレティンガーさんはイギリス。アインさんはドイツ。レグズィスさんはイタリア‥‥っと」
食べるメンバーの出身国を聞いておいたのは、別にこの為という訳でもないのだが。
まぁ、使えるところで有効活用するとする。
「おもちゃは流石にいらない、ですよね」
苦笑しながら用意されていた銀色のカートにそれぞれを載せて、いざ、メンバーの元へ。
「これは‥‥」
量としては大人に調度いい量だ。
だが、如何せんぱっと見が可愛らしすぎる。
「でも、いいんじゃねぇの? お節に飽きたところだから、いろんなモン食えるのは嬉しいし」
「老体になって、こんな可愛らしい食事を食べられるとは思ってもみませんでしたよ」
「‥‥っていうか、何で頭に瘤作ってるの?」
問われてアルストロメリアは苦笑して言葉を濁した。
何はともあれ、量の多いお子様ランチは、お節に飽きたメンバーからそこそこの評価を貰えたのだった。
●一月五日・夕食
「えっと、ここで良かった、かな」
地図と建物を交互に見やって、レイン・シュトラウド(
ga9279)はもう一度荷物を背負いなおした。
働いているレストランのオーナーにお願いをして休みを貰ったレインは、今回出張シェフとしてS&J社へやって来たのだ。
ここには彼の知人がいる。
お節に飽きたというメンバーのために、レインが準備してきたのはビーフシチューとカンパーニュ。
どちらも時間がかかるので、予め途中まで仕上げてきていたのだ。
「あ、ヴォルフさんお久しぶりです」
「‥‥ん。わざわざありがと、レイン」
キッチンで仕上げを始めたレインの手元を興味深げに眺めていたヴォルフが、不思議そうに首を捻った。
「何で肉の上にキウイ?」
「あ、これですか? キウイを置くだけじゃなくて、ワインにも漬け込むんですよ。お肉が柔らかくなるんです」
そんな料理の豆知識も披露されたり。
完成したビーフシチューとカンパーニュを全員の前に配ったレインが、ぺこりと頭を下げる。
「まだまだ未熟者ではありますが、精一杯作りました。どうぞご賞味下さい」
こういうところは、さすがレストランのシェフだ。
「美味しいですね」
「やっぱ、あったかい食事ってのはいいなぁ」
お節を作った張本人が忙しすぎるせいもあるだろうが、どうやらメンバーは冷えたお節ばかりを食べていたようだ。
食事は温かいうちに。
レインの心遣いは、温かいビーフシチューとカンパーニュと一緒に心も温めてくれたようだ。
●一月六日・昼食
高甄 奈乃葉(
gc0133)はキッチンでコショウを探していた。
「コショウ‥‥コショウ‥‥」
ハンバーグの下味に欠かせないスパイスが見当たらないのだ。
彼女が作るのはハンバーグとお味噌汁、ご飯。
「あったあった♪」
見つけたコショウを挽肉に適量ふりかけて、粘りが出るまで混ぜ合わせる。
タネが出来たら、今度はお味噌汁の準備だ。
奈乃葉のお味噌汁イメージは赤味噌。
出汁を取った鍋の中には具材が浮かんでいる。
「赤味噌は‥‥このくらいかな?」
小皿にとって味見をして、あと少しだけ赤味噌を加えて完成だ。
タネを焼く前にソースを手早く作っていく。
「ハンバーグのタレは‥‥っと‥‥」
手早く調味料を合わせて、フライパンでしっかり混ぜ合わせ加熱する。
その横で別のフライパンを熱し、タネを焼いていく頃にはご飯も炊き上がりだ。
「これで終わり‥‥っと」
綺麗に盛り付けを終わらせて、奈乃葉は人数分を銀色のカートに載せていった。
「へぇ。ハンバーグにミソスープって、結構合うんだ」
「わたくし達では、あまり想像出来ない組み合わせですね」
イギリスで暮らすS&J社メンバーには、ハンバーグに味噌汁という組み合わせは新鮮だったようだ。
「まだお若いのに、お料理が上手なのは素晴らしいですね」
「え、と。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた奈乃葉シェフの初々しさに、お節に飽きたメンバーは笑って食事を続けるのだった。
●一月六日・夕食
藤田あやこ(
ga0204)は何故か屋外で下ごしらえを行っていた。
「初めて食べるだろうから、やっぱり処理はきっちりしとかないと」
アルミホイルの中に置いた食材は『くさや』だ。
くさやの下に敷いたのは茶葉。
匂いを消すのに大切なポイントだ。
そこに醤油を垂らし、そのままアルミで包み込む。
「じゃあ、次は鯖の下ごしらえ下ごしらえ。熱湯かけて臭みを消して〜っと」
処理をテキパキとこなしていく辺り、主婦としての日頃食事を作っているあやこは慣れていると言えるだろう。
場所をキッチンに移して。
オーブンに水入りパットを敷いてから、アルミホイルに包まれたくさやを入れる。
臭いのきつい食材を、人あたりのいい食材にする為にあやこは一切手を抜かない。
「焼き加減は表が7に裏が3〜」
鼻歌を歌いながら、今度は大根を取り出して摩り下ろしていく。
もちろん、米を研いで炊飯器にセットするのも忘れない。
手際のよさは、さすが主婦である。
炊き立ての白米と突き出しの鯖の生姜焼き。味噌汁とくさやのホイル包み。
あやこは全員に『一番美味しい食べ方』を教えていく。
「最初は白米と鯖の生姜焼きをどうぞ〜。それから、メインのくさやには、お好みでマヨネーズとチーズを!」
「‥‥へぇ。変わった料理だけど‥‥これ、魚?」
「ほう‥‥調理方法に拘りを感じますね。流石は主婦の方です」
珍しいくさやという食材を上手に調理したあやこに、S&J社のメンバーは同じお節でも和食のレパートリーは色々あるのだと教えてもらうのだった。
●一月七日・昼食
「この度はご用命頂き有難う御座います。今日はお節に飽きられた方の為に、お節をアレンジしたものをご用意いたしました。ご賞味下さい」
折り目正しく頭を下げたユーリ・クルック(
gb0255)は、今までの料理人とはちょっと違った食事をS&J社のメンバーに出していた。
「こちらは紅白かまぼこと御煮しめの筍、椎茸、蓮根をアレンジした炊き込みご飯です」
既に調理の済んでいた食材を、もう一度手を加えたのがユーリの料理だ。
「このフライは何ですか?」
「そちらは素揚げした餅です。出汁、醤油、味醂で味付けをしております。お好みで大根おろしと刻みネギをどうぞ」
飽きてしまったお節に、どうやってもう一度興味を持ってもらおうか。
そう考えたユーリの工夫が料理には現れている。
「こっちは?」
「はい。そちらの天ぷらは、かまぼこと煮しめの具を串にさしたものです」
一人ひとりの疑問に答えるユーリは、調理をしている最中よりも顧客の疑問に答える方が料理に興味を持ってもらえるだろうと思っていた。
もちろん。それだけではなく、食べてくれた人の笑顔を見ると嬉しくなるから、という理由もあるのだが。
事前に机のセッティングを細やかにするのも、笑顔を見るためのユーリの策だ。
「デザートには黒豆を使ったパウンドケーキと豆大福をご用意しました。日本茶もご用意しておりますので、どうぞお楽しみに」
「細やかな配慮、感謝致しますわ。お食事も、美味しいです」
「お褒めに預かり光栄です」
珍しく顔を出していた女社長に、満面の笑みで応えながらユーリはもう一度頭を下げるのだった。
●一月七日・夕食
最後のシェフ、シャツの腕を捲くったUNKNOWN(
ga4276)は事前に準備していた材料をリズミカルに切っていく。
とは言っても、彼が作る料理の具材は少しばかり変わったものばかりだ。
芹、薺、御形、繁縷、仏の座。菘、蘿蔔。日本の米に少しの塩とたっぷりの水に、正月にあまった餅も少し。
素材はどれも、彼のこだわりで天然のものを使用している。
米を研いで水を切って、土鍋にたっぷりの水と一緒に入れる。
コンロの火をつけて、最初はぐらりと強火で煮だした。
底に焦げ付いた米をしゃもじではがして、今度は弱火でじっくりと。
数十分煮込んだ後は、用意した変わった食材『七草』の登場だ。
刻んだ七草を土鍋の中でぐつぐつしている白米達に混ぜ合わせて、塩を適量入れて味を調える。
予め焼いていた餅をそこに入れて、蓋をしたら蒸らし作業。
簡単に見えて難しい、粥の完成である。
「これは七草粥といってね。まぁ、様々な意味を持ってはいるが、纏めると胃を休め、季節的に野菜の栄養源が減る冬にこれで補う、という効果があるのだよ」
「野菜‥‥」
「好き嫌いは駄目、だよ?」
ポツリと呟かれたヴォルフガンクの一言にきっちり釘をさして。
全員の前に小さな取り皿を置いていく。
「なるほど。その様な意味があるのですか」
「シンプルに見えるけど、結構奥が深いんだな」
お節に続いて様々な料理を口にしていたメンバーの胃は、きっと疲れているだろう。
それに、日付としても一月七日。調度いい。
UNKNOWNの作った七草粥は、確かにシンプルだが意味合いはきっちり取ってあるのだ。
「‥‥美味しいかね?」
「ん」
自分自身はワインを口に運びながら、物珍しそうに粥を口にするメンバーを見て、彼は小さく笑うのだった。
■□□■
美味しい料理とは、作り手が心を込めたものの事。
お節に飽きたメンバーは、4日間でそれを学ぶ事が出来たのだ。
END