タイトル:【SJAS】灰の記憶マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: シリーズ
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/06 01:07

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


 あとどれだけ。
 色褪せた記憶を掘り返せば、終わりが来るのだろう。
 ふたをして、見ない様にしていた記憶があった。
 けれど、それを直視せずに過ごした結果が今の状況なのだと、オレアルティアは目を伏せる。
「今まで針を上げなかったのは、曲が魅力的だったから。だとしてもそれは貴女の怠慢よ」
 ある能力者が、彼女に放った言葉が何度も何度も繰り返される。
 あの時の激昂を恥ずかしくも思うが、正直驚きの方が大きく感じられた。
 まだ、自分には激昂する相手がいたのか、と。
 まだ、自分には感情を素直に見せられる人達がいたのか、と。


 例えば、自分が4年前にもっと強く揺るぎない立場を保っていたなら、こんな事にはならなかったのだろうか。
 4年ぶりに対面する事となった2名の元役員達は、もう口を開く事はないが。
 それでも、表情を見れば分かる。
 彼らは何かに怯えていた。


 □■■□


 被害者達の日記に残された、4年前のある日の記載が、彼女にとっての懸案事項だ。
『サンプル<願い>を回収・配達』
 願い ――Will
 夫であったウィリアムの愛称は、ウィル。
 無関係な方が、不自然だろう。
 自宅に持ち帰り、協力してくれた能力者達が集めた情報を並べて整理しながら、オレアルティアは溜息を1つ吐いた。
「今頃になって何を、と笑うのでしょうね。あの時、私は確かに、彼らの言うがままに動く、傀儡であったのですから」
 情報の向こう側から、誰かに見られている様な気がして。
 彼女は眉を寄せ、それらから一瞬逃れようと視線を逸らそうとする。

 逸らしてはいけない。
 逸らし続けた結果が、今の悲劇に繋がっているのだから。
 分かっている。けれども。
「独りで直視するのは、まだ、痛い」


 □■■□


「‥‥どういう事ですの?」
「ご報告の通りです。我が社の資源輸送ルート上に、キメラが出没すると連絡が御座いました」
 ホワイトヘイヴンから戻り、通常の仕事へと復帰したオレアルティアへとその連絡を入れにやって来たのは、彼女の信頼する『現』役員達だった。
「確認された場所はグロスターのここ。この街道近辺。発見されたキメラの数は1体だって」
「うちのトラックばかり狙うらしいけど、荷物には被害がない、らしいよ」
「けどさ。まだ他に被害がいってないなら、まぁどうにかなるだろ?」
 何故このタイミングで、この社に被害が及ぶのか。
 しかし、悠長に考えている暇は無い。
「分かりましたわ。至急、依頼を出して現場に向かいます。それで、そのキメラの特徴は?」
 問いかけたオレアルティアに、役員達は一瞬黙り込んでしまう。
 無言のまま先を促す彼女へと、一番年老いた役員が、軽く頭を下げながら告げるのだった。
「紅色の毛並みを持った、狼の様な獣。で御座います」


 □■■□


 何故S&J社のトラックだけを狙うのか。その理由は分からない。
 その狙いが、いつ他にも向けられるかも分からない。
「ならば、今度こそ。芽は早めに、摘みましょう」
 もしかすると、これが『切欠』に変わるかもしれないのだから。

 可及的速やかに、出現した紅狼を退治せよ。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
鬼非鬼 ふー(gb3760
14歳・♀・JG
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD
フォルテ・レーン(gb7364
28歳・♂・FT
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
フロスヒルデ(gc0528
18歳・♀・GP

●リプレイ本文

●事件解決後 当主の会話
 前ははぐらかして答えていなかったから。
 鬼非鬼 ふー(gb3760)は手にしたティーカップを優雅な仕草でソーサーに戻した。
「私は鬼非鬼家の当主よ。仕えるメイド達も百人以上いるわ。その私が、何故傭兵なんてやっていると思う?」
 小さく首を傾げたオレアルティアの手にも、同じ柄のカップ。
 そこに新しい紅茶を注いだユーリ・クルック(gb0255)も、彼女と同じ様に首を傾げている。
「私は私なりのやり方でこの戦争を終わらせる。けれど、ただメイドに囲まれているだけでは大事は成せないわ」
 同じくテーブルを囲む他のメンバーは、それを黙って聞いていた。
 ふーの視線は、紅茶から眼前に座る女社長へと移されているが、おそらく彼女はその更に向こう側にいるだろう彼女の大切な存在達を見つめているのだろう。
「私はメイド達に『私のために命をくれるか?』と問うた。メイド達は皆、自らの意思で命を捧げてくれたわ」
 メンバーの中で一番小柄なふーだが、その佇まいは常に堂々としたものだった。
 真っ直ぐに通ったその芯とも言えるものが、彼女が彼女である証明なのかもしれない。
「分かるかしら? 私は百の命に支えられ、また背負っている。鬼非鬼家当主鬼非鬼ふーとして、ここに立っているわ。彼女達は、決して『枷』などではない。原動力よ」
 それが、ふーの答えだ。
「貴女を縛っているのは立場じゃないわ。貴女の弱い心よ」
「君の言う事も分かるけれど。でも、そんな風に断言しなくてもいいんじゃないかな」
「いいえ。構いませんわ。お気遣い有難う御座います、今給黎様」
 コーヒーを飲む動作を止めて口を開いた今給黎 伽織(gb5215)へと小さく微笑んでから、オレアルティアはもう一度眼前の小さな鬼非鬼家当主と視線を合わせる。
 今度こそ、しっかりと。
「長い歴史を持つ『他人同士での集合体』である社は、実に狭く偏った見解を育てておりました。私がいかに社を継ぐ家の娘であったとしても、その見解は安易に覆せるものではなかった」
 4年前の真実をお話しましょう、と当時を思い出す彼女の瞳は、以前その事を口にした時とは違い、澄んだものだった。
「4年前に解雇したのは、前回死亡した2名だけでは御座いません。当時の役員を全て解雇し、従業員すらも試したのです」
「ちょっと待った社長。簡単に言ってくれるが、それってつまり『会社を潰しかけた』って事か?」
 額に手をやって唸った嵐 一人(gb1968)の言葉に、社長は表情を苦笑へと変える。
「それで潰れるのであれば、そこまでの会社だった。そういう事ですわ」
「それにしたって、大胆すぎるでしょう」
 大神 直人(gb1865)も、眼前の女性が嘗て行ったその行動に驚きを見せていた。
「確かに、俺も社長が就任する前に、S&Jがバグアと何らかの関係を持っていたんじゃないか、とは睨んでいたが‥‥」
「えぇ、そう思われるのも当然でしょう。実際、社に身を置いていた私がそう感じたのですから。だから、一度全て断ち切りました」
「切って初めて見えてくる事もあるでしょうからね」
 黒川丈一朗(ga0776)と終夜・無月(ga3084)が肩を竦める。
 どうやら現在のS&J社は、バグアと何かしらの関係があるという訳ではない様だ。
「‥‥参った降参だ。社長、あんたやっぱり怖ぇよ」
 両手を挙げて溜息を吐いた一人に、オレアルティアはにっこりと微笑んで見せたのだった。

 ――時は、数刻遡る。

●事前準備 グロスター
「襲撃予想時刻までまだ暫くあるな。今のうちにトラックを借りておくべきだろう」
 月城 紗夜(gb6417)の言葉を受けて、メンバーは擬装用のトラック貸し出し手続きを取る事にした。
「私とリードさんは黒川さんのインディーズに乗るでしょ? トラックは誰が運転するの?」
 首を傾げるフロスヒルデ(gc0528)に、挙手したのはフォルテ・レーン(gb7364)だ。
「トラックは俺が運転するぜ。こっちに乗るのはユーリに望月、鬼非鬼と‥‥大神、今給黎、終夜。それと嵐に月城だな」
 確認を行っていたメンバーから少し離れた場所から、電話を片手に彼らに視線を向けていた伽織が手を上げて答えを返す。
「‥‥あぁ、ティア。今どの辺りにいるのかな?」
 彼の電話先は、一足先にグロスターへと到着しているはずの依頼人、オレアルティアだ。
「なるほど、その辺りか。1人で行動するのは危ない。早めに合流しよう。‥‥うん、分かった」
「相手の狙いが分かれば対応しやすいんですけど‥‥。あ、今給黎さん。グレイさんはどうですか?」
 電話を切った伽織は、手を振りながらそう言った望月 美汐(gb6693)の元へと歩み寄る。
「もうそこまで来てるそうだよ。直ぐに着くんじゃないかな」
「銀ハ‥‥確カニ、希少デハアリマス、ガ、目的、ト呼ベルデショウカ‥‥?」
 独特な話し方でそう言ったムーグ・リード(gc0402)は、今回の敵である紅狼の目的を図りかねて呟いた。
「レーンさん。トラックにはオレアルティアさんも乗って頂く予定なので、よろしくお願いしますね」
「オレアルティア‥‥? あぁ、依頼人のグレイのバァさんか。オーケー。けど、戦場に連れてって大丈夫なのかねぇ?」
「社長も能力者だからな。自分の身は自分で守れるだろ」
「いや、そうじゃなくて。血生臭い現場見て、心臓止まらないかって心配なんだが‥‥。げ。トラックの貸し出しに、1人50万の保証金‥‥?」
「えぇ、申し訳御座いませんが、お話した通りに無償提供は致しかねますの。これでも、皆様への負担金は半額に致しましたのよ?」
「‥‥え?」
 真後ろから話しかけられて、フォルテは首を捻りながらもくるりと振り返った。
「‥‥えー、と。ドチラサマ?」
 少なくとも、今回の作戦に参加するメンバーではないはずだ。
 そう思い問いかけたフォルテへと言葉を返したのは、そこに現れた金髪の女性を見て僅かに頬を紅潮させたユーリだった。
「オレアルティアさん、お久しぶりです」
「えぇ。皆様、よくお越し下さいました。依頼人、オレアルティアと申します。はじめましての方は、申し訳御座いませんがここでご挨拶とさせて下さいね。どうぞよろしくお願い致します」
 微笑を湛えながら会釈した依頼人 ――オレアルティアを見て、フォルテは一気に青褪めた。
「‥‥銀食器メーカーの社長だって聞いたんで、御年召してるかと思ったんですけど‥‥」
 初対面の上、資料には写真が載っていなかった為に彼は依頼人がまさかこんなに若いとは思っていなかった。
 どうりで他のメンバーと会話を交わしている時に、会話がちぐはぐになっていた訳だ。
「顔を知らないとはいえ、失礼なことを致しました」
 思い切り頭を下げたフォルテへと、にっこり笑った依頼人の女社長。
 作戦開始前の、ちょっとしたハプニングだ。

●襲撃予想時刻
「強度に少し心配が残りますね。やっぱり戦闘開始と同時にホロは落としましょうか」
「レーンの。悪いけれど運転席から出る時には扉を開けたまま出て頂戴ね」
 ホロの強度を確認するユーリと、携帯品から閃光手榴弾とバンダナを取り出したふー。
 囮のトラックに乗り込んだメンバーは、各々が自身の武器の最終調整を行っていた。
「そろそろか‥‥」
 呟きながら紗夜が予め空けていた穴から外を覗き込んだ。
「援護担当の方々はこのライン。射程範囲に注意して下さいね。オレアルティアさんはここから可能な限り動かない様にお願いします」
 無月が手にした地図にペンで印をつけながら確認をしていく。
 そこに、運転席からフォルテの声が響いた。
「おいでなすったみたいだねぇ! んじゃ、歓迎しようや!!」
 片手で閃光手榴弾のピンを抜きながらもう片手でハンドルを切り、予定の路線からトラックを離す。
 次の瞬間、トラックの荷台からAU‐KVを装着した嵐と紗夜が真っ先に飛び出した。
「こちら先行トラック班、躾のなってない紅狼と接触。交戦開始します」
 無線機越しにそう告げてから、直人は手にした小銃の照準を敵へと向けるのだった。

「インディーズ班、了解! 黒川さん!」
「聞こえてる、大丈夫だ。飛ばすぞ、舌噛むなよ!」
 運転席で無線の報告を聞いた丈一朗が、一気に愛車のブーストを点火した。
 ギアを巧みに操り、開いた距離を一気に詰めていく。
「‥‥クハッ! クハハッ! ‥‥コレ、ハ、癖ニ、ナリマス‥‥ネ!」
「きゃ〜はや〜い!」
 狭い車内の中で体を曲げつつそれでもスピードを体感するムーグと、意外と怖いもの知らずなフロスヒルデ。
 どうやら自分の心配は杞憂だった様だと、丈一朗は小さく苦笑した。

●戦闘開始
 その紅狼は一直線にトラックへと突進してきた。
「全くうろちょろしやがって‥‥! 少しはオレガノが甘える時間を寄越しやがれってんだ!」
 最初に攻撃を仕掛けたのは一人だ。
 すれ違い様に機械刀を一閃し、紅狼へと牽制の意味を含めた一撃を放つ。
 加速しながらも紅狼は巧みにその一撃を避けると、そのままトラックへと駆け続ける。
「足止めにはやっぱりコイツだろっ! 残り10カウント!」
 運転席からピンの抜かれた閃光手榴弾を投擲したフォルテが、勢いよく飛び出した。
 開け放たれた運転席へ、隠密潜行でするりと入り込んだのはふーだ。
「保険はいつでも必要だものね。‥‥さて、こんな感じでいいかしら」
 アクセルと閃光手榴弾の安全ピンをバンダナで括り、一定の距離を保った状態である事を確認するとそのままドアを開けっ放しにして荷台へと戻る。
 元の位置へと戻ったふーの別方向で、リボルバーの照準を紅狼に合わせながらユーリは周囲の警戒を続けていた。
 ピンッと金属音が続けて4回。
 風と跳ね上げられた勢いでホロが一気に捲くりあがる。
「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
 弦を限界まで引き絞り、荷台に残っていた無月が弓を一射。
 態と外された矢の行き先は、突進してくるキメラの足元だ。
「任務を遂行する」
 紅狼の後ろへと回り込んだ紗夜の両手に握られた日本刀が閃く。
 一閃の後、紅狼の後ろ足1本から鮮血が上がるも致命傷には至らなかった。
 トラックの荷台でオレアルティアの護衛を行っている伽織が、スキルを駆使して周辺への警戒を強くする。
 それでも紅狼は疾走をやめない。
 唸り声を上げた敵が、大きく口を開いた。
 直線状には ――荷台に能力者達を載せたトラックのみ。
 このままでは、大きな炎の塊が吐き出されてしまう。
 しかしその状況でも、誰もが絶望の表情を向けることはなかった。
 何故なら。
「3、2、1。ファイヤ!!」
 全員が遮光対策に移った、次の瞬間。
 フォルテが先刻投擲した閃光手榴弾が、強烈な光を放って炸裂した。

●強襲
 その戦場へ文字通り走り込んで来たのは、丈一朗の運転するインディーズだ。
「さぁ、わんちゃん。次は右にダッシュかなっ?」
 助手席から身を乗り出したフロスヒルデが、小さく唇を湿らせながら小銃を紅狼へと向ける。
 牽制の意味を含めた攻撃を叩き込んだところで、今度はムーグが巨体を後部座席へと丸めた体勢で声をあげた。
「黒川サン‥‥! 御願イシマス!」
「了解。今度こそ、舌噛むなよ!!」
 車体を滑らせる様に急停車。ブレーキが泣く。
 ガトリングの先端を後部座席の窓から突き出したムーグが、その大きな火器の銃口を紅狼に合わせる。
「おっと!」
 突然の閃光によって視界を奪われた紅狼の傍に位置していた一人と紗夜が飛び退る。
 腹に響く音が断続的に続き、今度こそ紅狼の足が止まった。
 恐らく、放たれたガトリングのうちの何発かが当たったのだろう。
 それを能力者達は見逃さない。
「攻撃は最大の防御。完全に駆逐するのが、我々兵器の役目だ」
 後方から伽織、無月、ふー、直人、ユーリの援護射撃を受けて、前衛は一気に間合いを詰めていく。
 両の手で二振りの日本刀を閃かせた紗夜が、紅狼の後ろ足の腱を絶つ。
 獣の鳴き声が響く中、次に仕掛けたのは一人。
 機械刀で一閃したその先は頭部。耳が絶たれた。
 もがく紅狼へと止めを刺すべく、駆け込んだのは斧を装備したフォルテだ。
「これでどうだ〜!」
 その更に後方から貫通弾を装填したフロスヒルデが、敵の動きを止める為にスキルを使用して引き金を弾いた。
 腹部を貫通した弾の影響で、紅狼が完全に動きを止める。
「ドカンと吹っ飛んでもらう!!」
 スキルを重ねて勢い良くフルスイングされた斧が、敵を真っ二つにした。
 紅狼が無力化された、その次の瞬間。
「全員、伏せて!!」
 トラックの荷台で叫んだ伽織の声と。
「オレアルティアっ!」
 咄嗟の判断で自身を盾にする様に彼女を引き倒したユーリの声。
 そして。
 パンパンッ!!
 二度の発砲音が戦場に響いた。

●理由
 その男は、硝煙の上がる銃口越しに、能力者達を見やっていた。
「‥‥彼が?」
 無月の問いかけに、オレアルティアが是と答える。
「グレイの。下がりなさい」
「やはり、出てきましたね。ウィリアム・バートン」
 ゆっくりと体勢を立て直し始めたふーと直人をはじめとする能力者達。
 それを眺める男 ――ウィリアム・バートンは剣呑な光を湛えた瞳をしていた。
「‥‥いい加減、ティアを解放してあげてほしいな‥‥。『願い』の名を持つ‥‥過去の亡霊」
 低く響く伽織の言葉に続いて、貫通弾を装填した銃を構えたユーリが吼えた。
「これならっ!」
 銀に輝く銃から放たれた一発を、ウィリアムは更に不快そうな表情をしつつ回避する。
 回避のスピードを使って一気に詰め寄ったウィリアムが、今度はユーリの眼前へと躍り出た。
「なっ!?」
「不愉快だ。その銃も、貴様のその行動も」
 彼は手にした黒の自動拳銃の照準を、ユーリの胸部に合わせると、そのまま引き金を弾こうと――。
「それ以上はさせるか」
 言葉と共に駆け込んだ丈一朗が、己の拳を振るってウィリアムの行動を阻害する。
 更に後方からムーグのガトリングとフロスヒルデの射撃も続けられ、ユーリは何とか敵の射程から離れる事が出来た。
「死んだはずの男が何の為に現れた」
 同じく距離を取った丈一朗の問いかけに、剣呑な雰囲気を漂わせたままの男が珍しく小さく舌打ちをする。
「提供されるべきものが滞っている。そこの人間なら、事情を知ると判断した」
 視線の先には、ユーリと伽織に庇われる様に立つオレアルティア。
 冷たい視線を受けながらも、彼女は怯む事無く口を開いた。
「私には最早関係のない事。バグアに提供するものなど、私達には御座いませんわ」
 対峙する能力者達を交互に見やった後。
 ウィリアムは、一人とオレアルティア、そしてユーリの持つ銃を忌々しげに睨み付けてから背を向けた。
 去るのなら今回は追わない。
 体力の落ちた状態で深追いするという致命的なミスは、彼らにはあり得ないのだから。

 グロスターに出現した紅狼キメラの殲滅ミッション、クリア。
 敵の目的、未だ不明。

END