●リプレイ本文
●First act
偶然鉢合わせた周太郎(
gb5584)と桂木穣治(
gb5595)は、大きく溜息を吐いた。
「ヴォルフ‥‥」
「何て所で寝てるんだ‥‥」
JK社内の階段で眠りこんでいる、依頼人ヴォルフガンク。
猫柄のクッションを抱きしめている辺り、用意周到というか何というか。
「いやダメだろ寝てたら。おい、起きろー」
「ヴォルフきゅん。仕事の時間だぞ」
「子役の子かと思ったら、今回の依頼人さんだったのか」
ヴォルフを揺さぶる零崎 弐識(
gb4064)の後ろで、大きな体を震わせて笑うロジャー・藤原(
ga8212)と、吃驚した様に声をあげる今給黎 伽織(
gb5215)。
揺さぶられて数分後。
度の入っていない眼鏡を掛け直したヴォルフは噛み殺しきれなかった欠伸を一つ漏らした。
「あれ‥‥?」
「あぁ、起きた? こんな所で寝ると風邪ひくよ?」
首を傾げる彼に、苦笑を浮かべた鷹代 朋(
ga1602)が声を掛ける。
「ふむ‥‥寝ている所をフレームに収める、というのもある、かな」
それを観察していたUNKNOWN(
ga4276)の言葉を聞いてしまった相賀翡翠(
gb6789)が頬を引き攣らせた。
「俺の寝顔は撮らないで下さいね」
とりあえず、起きたヴォルフを苦笑しながら引っ張り立たせた周太郎のその後ろ。
控室で衣装と睨めっこをしていた六堂源治(
ga8154)が、顔を出して声をかけた。
「衣装は一式見たッスよー。‥‥って、あれ? 人数が足りない」
人数を数えているその最中。
「フッ。ロックな雑誌のロックなモデルと聞いて、思わず僕ちゃん、私服も張り切ってしまったぜ」
颯爽と現れた翠の肥満(
ga2348)の姿を見た殆どのメンバーが、絶句してしまった。
「‥‥アレ?」
モヒカンカツラにゴーグル、半裸にマント、スパイダーリングにレザーグローブ。
そして、顔面に施された巨大ハートのペインティング。
「‥‥違う」
突っ込んだヴォルフの言葉は、絶句したメンバーの心の声を代表していた。
●Second act
全員揃った所で、衣装と初対面。モデルメンバーはそれらをじっくりと眺めながら、何を着ようかと思案していた。
「成程。より身近なロックテイスト、か。なら翠、いっそ脱いでボディペインティングでも‥‥」
カメラマン、UNKNOWNの言葉に、生き生きと頷く翠。
「困ったな。モデルって聞いていたから、服を選ぶ所までは考えてなかったよ」
首を傾げた伽織は、スタイリスト源治へと視線を移す。
「そういう事で、六堂君。一式纏めて任せても構わないかな?」
「いいッスよー。それじゃ、大人の男のオフスタイルって事で」
服種とサイズ別に分かれている衣装ラックから、すいすいっと服をチョイスした源治は手にしたそれを伽織へと手渡す。
黒のライダースとラメの入ったペンキを散らした様なブラックデニム。
更に源治の私物から白のシャツと黒のチャッカブーツを合わせ、アクセサリにドッグタグ。
「着こなす時は、シャツは大人の男らしくタックインで。ボタンは2、3開けて、ドッグタグが見える様にお願いするッスよ」
「分かった。じゃあ、着替えてくるね」
一式揃った所で、伽織の着替えが始まった。
「海賊の子孫としては、スカルプリントは外せないよな、うん」
そう言いながらロジャーが手にしたのは白×黒のスカルプリントが施された重ね着Tシャツだ。
続いて、ラメプリントのブラックデニムにウォレットチェーン、ライダースをチョイスして、手際良くモデル達に指示を出していく源治へと振り返る。
「なぁ源治。こんな感じでいいか?」
「ロジャーさん、身長があるから服が映えるッスねぇ。ロックテイストバリバリって感じで。シンプルな方が、逆に目立ちそうッスから、後は髪型だけ弄るッスよ」
「オーケー」
コーディネイトの完了した服へと着替え始めたロジャーの、その後ろ。
「なぁ周太郎。俺ら色違いで一緒に撮ってみねぇ?」
色違いの同じ服を両手に振り返った翡翠が、寝惚けたヴォルフを必死に起こし続けている周太郎へと声を投げる。
「構わないけど‥‥って頼むヴォルフ起きてくれ」
「ま、やる以上はキッチリやりますか。‥‥お。このモッズコートとかいい感じかも」
ファーの感触を確かめながら呟いた朋は、ラックからコートをチョイス。
続いて取り出したのは、割とゆったり目のワインレッドのボーダーが入った黒のニット。
ラメプリントのデニムを合わせて、最後に私物のブーツでコーディネイト完了だ。
「あっ! ちょい待ち鷹代さん。ニットの下にボーダーのシャツ着て欲しいッスよ。甘めの雰囲気出すのに、アクセントがいるッスから」
と、源治が白×黒ボーダーのシャツを追加して、今度こそ朋の服装が決定する。
「周太郎君。ヴォルフ預かっとくから、服を選んできなよ」
カメラマン、穣治がにゅっと腕を出して小柄な科学者を受け取る。
「なぁ源治。俺、ヘアスタイルくらいなら手伝えると思うぜ?」
「助かるッスよ。あ、桂木さん、ヴォルフこっちに。着替えさせないと」
モデル全員に合った着こなし方と、悩んでいる人に提案を繰り返していた源治は、有難い弐識の提案を承諾して、穣治の腕からヴォルフを預かった。
「ヴォルフ、何か着たい服あるッスか?」
「苦しくないの」
「なら、これとかどうッスか?」
言いながら源治がラックから引っ張り出したのはボーダー柄が所々に入ったニットと、ペンキ散らしのジーンズだ。
それにウォレットチェーンとバングルを合わせて、うんうん。と頷いてそれらをヴォルフへと手渡す。
「ヴォルフ、着替え終わったら髪型ちっと弄るから」
「ん」
こくりと頷いたヴォルフが着替えを始めたのを確認して、翡翠と一緒に服を選んでいた周太郎がふと視線を科学者へと向けた。
「なぁ、ヴォルフ。俺、服とかよく分からないんだ。おススメとかないかな」
その言葉に、何故か一瞬目を輝かせたヴォルフは、サクサク自分の着替えを終わらせてラックから一枚のシャツを取り出す。
「これ、腰に巻くといい、と思う」
シャツに付属していたネクタイを外し、袖部分を使って腰へと僅かに中心をずらして括り付けた。
「翡翠がウォレット使うなら、周太郎はシャツをアクセサリにすればいい、かもしれない」
そうこう言ってる内に、弐識はヘアスタイルの手伝いをすべく、自身の服をチョイスしている。
「手持ちのシルバーアクセでアクセントつけるとして、かっちりキレイ目系か外していくか‥‥。源治、どっちがいいと思う?」
「そうッスね‥‥。キレイ目が多いから、カジュアルで行けば違った雰囲気になると思うッスよ」
「りょーかい。んじゃ、ペンキ散らしタイプのデニムでいくか」
黒×銀ストライプのシャツの上から、私物のライダースを羽織り、前を閉めないままネクタイをわざと半分解いた状態に。
ダメージデニムを穿いて、シルバーアクセをワンポイントに。
グレーにラメプリントのニット帽をチョイスして、弐識の着替えは完了だ。
「ヴォルフの髪、猫っ毛なのな。なら、ヘアピンでサイドをちょっと固定して」
手早く黒い癖っ毛を纏めた弐識が、ついでにと近くにあった黒のプリントハンチング帽を持たせる。
「それじゃあ次は僕の髪をお願い出来るかな」
着替えの終わった伽織が、手近な椅子に腰かける。後ろに回って、鏡と髪を交互に見やりながら、弐識は視線をそのままに源治へと声を掛けた。
「なぁ源治。伽織の髪型どーすっか」
「今給黎さんは緩くサイドを後ろに流しておいてほしいッス。‥‥って、翠さんUNKNOWNさん、本気で何してんスか!?」
敢えて突っ込んだ勇者・源治の言葉に、ほぼ全員が手を止めた。
視線の先には、上半身裸の翠と、どこか楽しげに彼の裸にペインティングを施すUNKNOWN。
「‥‥ダメ?」
「モデルッスから。せめて、これ着てほしいッスよ。あ、デニムのZIPは閉めていいッスけど、ボタンは開けて下腹部チラ見せで」
残念そうに口を尖らせる翠へと、源治は白×黒の重ね着Tシャツを差し出すのだった。
「仕方がない、ね。翠。下腹部に軽くペインティング入れようか」
UNKNOWNの提案に、翠は渋々頷く。
「鷹代さんは前髪を少し横に流す感じで。周太郎さんと相賀さんは対イメージッスから、周太郎さんを前髪を少し残したオールバック。相賀さんを無造作っぽくお願いするッスよ。零崎さんはワッチ被っても前髪下ろして、ロジャーさんはソフトモヒカンで」
テキパキと指示を出しながら、全員が着こなした服を更に手直ししていく源治は、素人とは思えないほど上手にスタイリストという裏方の仕事をこなしていた。
●Third act
「それじゃあ、周太郎君と相賀さん、零崎さん、ヴォルフを撮らせて貰うかな」
野外撮影をしようと提案した穣治が手頃な階段を見つけて、あれ、と指差した。
「4人は上から降りてきてくれるか? 俺は下から写すから」
手にした愛用のカメラのピントを合わせながら、手際良く指示を出していく。
「最初はゆっくり。最後は駆け足で降りて来てくれ。じゃ、行くぞー」
スタンバイ完了したのを確認して、スタートの合図を出す。
カンカンとステップを踏む音が鳴る中、断続的に重なるシャッター音。
途中、銜え煙草の弐識が態とローアングルのカメラへと手のひらを向け、ノー! とポーズをとったり。
スムーズに進んでいた撮影だったが、最後にそのアクシデントは起った。
駆け降りて来た4人(先頭は周太郎)と、シャッターを切るのに専念し過ぎていた穣治が、ぶつかったのだ。
いや、正しくは、勢いのつき過ぎに気付いた周太郎が急停止しようとしたのだが、後ろから降りて来ていた弐識とヴォルフ、翡翠は勢いを殺しきれず。
「ぎゃっ!」
「あ‥‥」
「え、何?」
「ワリィ」
「うわっ。ごめん桂木さん‥‥」
哀れ、穣治は周太郎に踏みつけられてしまったのだった。
気を取り直して、2ヵ所目。ハンバーガーショップ。
ハンバーガーやポテトを買い込んだ弐識と周太郎、翡翠は、店を出て直ぐの低い段差を椅子代わりにそれらを食べ始める。
その間も、穣治はシャッターを切り続けている。
「あ、これ美味い」
撮影真っ最中だというのに、翡翠はファーストフードに舌鼓を打っていた。
「ほらヴォルフ」
ポテトを1本手にした周太郎が、ヴォルフの口にそれを放り込む。
「ん。美味しい」
「だろー?」
「桂木も食うか?」
弐識が差し出されたその瞬間も写真に収めてから、穣治はポテトを受け取ったのだった。
最後の撮影ポイントは洒落た雰囲気のバーだ。
服装をカジュアルなものからシャツとドッグタグ、私物のジャケットへと変更した翡翠が、パチンと両手を合わせて周太郎を拝み倒していた。
「なぁ周太郎! バーで野郎同士ってどうよ!? ここはひとつ、友情出演ってやつで頼む!」
「女装か‥‥アリだな!」
「いやさっきから一緒に写ってるし。というか、何で俺が女役!?」
「友達に美容師いるんだよね。盛れるぜー、俺」
男性向けの衣料品ブランドのモデルとしてやって来たのに、何故女装。
「嫌だ!」
「そこを何とか!」
「お。カツラ発見」
「女装なら、ヴォルフも似合いそうだな!」
「カメラ踏み壊すよ、穣治」
押し問答の結果がどうなったのか。
それは、出来上がったカタログにてのお楽しみ。
●Forth act
UNKNOWNは、被写体である翠、朋、伽織、ロジャーと共に赤レンガ倉庫へとやって来た。
「知的キャラか‥‥。なら、本でも小道具にしてみましょうか」
片膝を立て、倉庫の入り口にある階段に座って本を読む朋の姿を、愛用のフィルムカメラと数種のレンズを巧みに使いこなして写していくUNKNOWNが、ふいに空を見上げる。
「ふむ。ひと雨来る、ね。鷹代、そこの屋根のある場所に移ってくれるかな?」
「なら、立ったポーズの方がいいですかね」
「眼鏡のブリッジに指を掛けて‥‥うん。隣に伽織、立ってもらえるかな。そのまま、視線は憂鬱気に逸らして‥‥。伽織は、少し視線を流して‥‥」
モデルの視線や背景の写り具合、空間にも注意しながら、確実にシャッターを切るUNKNOWN。
その後ろで様子を見ていた翠が、自分の出番はまだかと待ち構えていた。
2ヵ所目はハイウェイだ。
「イメージは『反抗』の代名詞!」
「エミタが俺にもっと輝けと囁いている」
下腹部に『Born to fly』のペインティングを施された翠と、少し足を開いて銜え煙草でカメラ正面を向くロジャーが、薄暗いハイウェイをバックに親指を立てる。
「男はいつでも愛のハンター!」
「バグアさえも食い殺すワイルドさ!」
苦笑しながら器用に紫煙を燻らせるUNKNOWNが、後ろを走る車のタイミングを計りながら、シャッターを切っていく。
走行する車の巻き起こす風に、ライダースを靡かせながら、テンポよくポーズを繰り出す翠とロジャーだったが。
そこで、ちょっとした事件が起きた。
撮影中とは知らずに、一般車両が本当に停まったのだ。
「あれ?」
「しまった」
自分が立てた親指と、停まった車とを交互に見やって首を傾げた翠と、肩を竦めたロジャーに、場に居合わせた朋と伽織が咄嗟に顔を伏せ、肩を震わせる。
「‥‥ふむ。これもあり、かな?」
この状況でもシャッターを切るUNKNOWNの姿が、そこにあった。
●Final act
全員で集合写真を撮ろうという話が出た。
UNKNOWNを除く全員が、JKの衣装又は小物を身につける。
穣治と源治も、最後の写真だけは被写体へと立場を変えた。
「まずは、ベターに。背景は、降りたシャッター、かな」
落書きのされた撮影用のシャッター前に全員が一列に並ぶ。
両の手を使って疑似フレームを作ったUNKNOWNが、少しずつ位置をずらしていく。
「これ、落書き追加してもいいですかね?」
「ペンキ、衣装についても平気か?」
翠と弐識が確認を取り、了承が降りたのを確認して、全員が塗料スプレー缶を持つ。
様々な落書きを終え(『オ‥‥命!』の文字を書いた翠は、大変満足そうだった)
飛び散った塗料を落とそうとする者に、胸を張って汚したままの者。
全員が満足いった所で、カメラのシャッターが切られた。
そして最後は、UNKNOWNの提案で『疾走』シーンの撮影が行われた。
態とペンキの付着を残したまま倉庫街の決して広いとは言えない路地を、能力者達が走る。
スキルを使用して自身の空気を隠しながら、ラビットワインダーでコマ撮りを続けるカメラマン。
躍動感溢れるその写真が、本日最後の一枚だ。
●カタログ『JackKnight Winter』
表紙を飾ったのは、周太郎と翡翠のハンバーガーショップ前のひとコマ。
「より身近なJK」その通りの写真が、JKのロゴと一緒に載せられて。
読者の心を引き付けたのは、表紙をめくった次の見開きの、落書きの前に立っている集合写真。
そして、最後の見開き。
落ちていく陽を背に、薄闇を駆け抜ける能力者達の姿だった。
END