タイトル:【CW】奪取マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/04 23:19

●オープニング本文


 英国王立兵器工廠は今、とある事に怯えていた。
 それは、数日前、ふらりと工廠のある工場に現れた一人の男が発した言葉が原因である。

「貴様達の作っている兵器を、渡してもらおう」

 鋭い眼光が捕らえているのは、巨大な工場で製造されているナイトフォーゲルだ。

「出来るわけがないだろう! 大体お前は何者だ!?」

 一人の勇気ある工廠員が声を荒げてそう問えば、背の高いその正体不明の男は見下す様に視線を落とした。
 そのまま、身に着けていたショルダーホルスターから1丁の銃を取り出すと、何の躊躇いも迷いも見せず。
 工廠員に向かって、突然発砲したのだ。
 淡々とした行動と無表情のBGMは、火薬の炸裂する音。

「‥‥ぁ‥‥」

 見事に心の臓を撃ち抜かれた工廠員は、目を見開いたまま後ろへと倒れ込んだ。
 数度体を痙攣させた後、ピクリとも動かなくなる。

「う‥‥うわぁあぁあ!?」

 男の行動と、息絶えた工廠員を確認した他の工廠員は恐怖のただ中に突き落とされた。

「名乗りが遅れたか。この体の名はウィリアム・バートン。貴様達のいう『バグア』だ」

 慌てふためく工場内を気にも留めず、男 ――ウィリアムは表情を変えることなくそう告げる。
 再び銃口を別の工廠員に向けながら、もう一度同じ台詞をゆっくりと口にした。

「貴様達の作っている兵器を、渡してもらおう」
「な‥‥何故、バグアが人類側の兵器を奪う必要があるんだ‥‥!」

 中年の工廠員の問いかけに、ウィリアムはちらりと男を一瞥して。

「貴様に言う必要があるのか分からんが‥‥」

 強いて言うならば。

「興味があるからだ。貴様達の縋る能力者。それらが俺達に牙を剥く為に使用する兵器。それに俺達が乗ったらどうなるのか。改良出来たなら、どれほどの力を発揮するのかを」

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
棗・健太郎(ga1086
15歳・♂・FT
ユーリ・クルック(gb0255
22歳・♂・SN
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
鷹谷 隼人(gb6184
21歳・♂・SN
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN

●リプレイ本文

●敵目視前
 イギリス海峡直上・快晴。
 空の青と海の青が交わるその空間に、シュテルン5機とロビン2機、ハヤブサ・ロジーナ・S‐01Hが各1機。
 遥か眼前を飛んでいるであろう目標を索敵していた。
 奪取された『ロビン』捕獲の任に就いていた棗・健太郎(ga1086)は、自身と同じ機種『シュテルン』を駆る友軍、ユーリ・クルック(gb0255)と無線を介して会話を行っていた。
「ユーリ。なにか、因縁があるようだけど、教えてくれない?」
 搭乗前にユーリがULTと『何か』の情報をやり取りしていたのを、彼は覚えていたのだ。
「‥‥今回の機体奪取犯。彼と、俺の特別な人とを、もう会わせたくないんです」
「今回の敵、ウィリアム・バートンとは以前、別の依頼で会った事がありますが。彼は危険ですよ。あの後、僕自身も独自に調べてみたんですけどね、彼はかつて、何も関係のない小さな村を壊滅させた事があるんです。無抵抗な子供も、もちろん」
「そういう事か。確かに、そんな冷徹な相手に、KVをみすみす渡せないね」
 須磨井 礼二(gb2034)も、機体を操りながら無線越しに声を返し、頷く様に健太郎は同意の声を返す。
 以前、別件の依頼でウィリアムと遭遇していたユーリと礼二からの情報に、全員が息を飲んだ。
「だとしても。ロビン乗りの一人としては、見過ごせないわね」
「ボクも同感です」
 今回の依頼に搭乗機ロビンを選択した澄野・絣(gb3855)とソーニャ(gb5824)は、遥か前方を飛んでいる筈の同型機を見据える様に目を細めている。
「奪取された機体には最低限の武装しか積んでない、との事ですけど。でも、相手はヨリシロ。海峡を渡り切って、大陸に乗られたら、戦闘がし難いですから」
「早めの対策が、必要でしょうね」
 ロゼア・ヴァラナウト(gb1055)と五十嵐 八九十(gb7911)の言葉に、全員が同意の声をあげた。
「これまででも、鹵獲機による被害は無視出来ぬものですもの。確実に、撃墜を果たさなければなりませんわね」
「短期決戦‥‥ですね‥‥。最初から、出し惜しみなしで」
 クラリッサ・メディスン(ga0853)が鹵獲機の危険性について示唆した後、鷹谷 隼人(gb6184)は小さく呟く。
「‥‥索敵に反応あり。前方に敵影4‥‥。まずは作戦通り、HWと鹵獲機ロビンを引き離しましょう」
 番場論子(gb4628)のレーダーに表示された『ENEMY』の表示は、友軍全機とも、同じく場所を示していた。
 戦闘時間は、限られている。

●弾幕のカーテンが開く
 K‐01とK‐02を装備した機体が、射程内に敵機を捉えた。
「敵機捕捉」
 ターゲットを目視した健太郎のシュテルンを追い越しながら、ブーストで急速先行を行うユーリのシュテルンと礼二のシュテルン。
 こちらも、弾頭のセットは完了している。
 HWに肉薄しながら、その目はまだ前方を飛行するロビンを見据えていた。
「カウント‥‥3、2、1。ファイアー!」
 兵装にK‐01、02を装備した機体が、HWとその前方のロビンへと一斉に攻撃を開始する。
 空に、弾頭のカーテンが下ろされた。飽和状態ともいえるその一斉射の攻撃を潜る様に、ユーリと礼二はHWの横をすり抜け、更に前。
 ウィリアムの奪取したロビンの前方に回り込もうとスロットルを弾き、距離を詰めようと試みる。
 次の瞬間。それは彼らの眼前で間違う事なく起こった。
「なっ‥‥!?」
 弾頭の半数以上が、彼らの狙った弾道から反れ、違う方向へと曲がり。そして弾頭同士がぶつかり合ったのだ。
 バグアは重力を操るという。つまりこの現象は、HWが咄嗟に周囲の重力を変えたという事だろう。
「だとしても、全弾回避は出来てないはず。ここで、たたみ掛けます」
 ロゼアと健太郎、論子と八九十の2ロッテは、3機のHWへとなお攻撃の手を緩めない。
「HWは引き受けた! 残りの3ロッテは、作戦通り鹵獲ロビンに行ってくれ!」
「了解!」
「さて。人様の物に手を出す盗人退治と行きますか!!」
 3機のHWのうち、右翼の1機へと照準を合わせた八九十が声をあげる。
「左は任せます」
 論子の言葉に、健太郎とロゼアが了解の声を返した。
 そのまま、3機のHWを鹵獲ロビンへと向かう他の友軍機へと向かわせない様に連携して攻撃を加えていく。
「狙い撃つっ!」
 誤差の生じていたキャリブレを再調整し、健太郎が叫ぶ。
 その一瞬、エレベーターを引きつつ機体をわざとストールさせ、弾道の角度を更に自身の狙う方向へと微調整。
 健太郎のシュテルンを援護する様に、ロゼアが主兵装のヘビーガトリングの射程内まで一気に詰め寄る。
 目一杯まで引き付け、斉射。弾丸の豪雨が、HWを襲う。其処に狙いを定めた健太郎が残弾のK‐02とライフルでの波状攻撃を加えていく。
 しかし、HWも弾丸の雨を巧みにかわしていた。
「ありえねー動きしてるんじゃねぇよ!」
 一気に加速し、そのまま機体をロールさせる。追い越した状態から、再度ターン。
 同じ様に、攻撃をかわす敵機相手に、論子と八九十も苦戦する。
「小さくても流石は護衛代わりですね」
「だとしても。こちらで落ちてもらわなければ困りますよっ!」
 敵が避けるのならば、その避ける先を狭めてやればいい。
 論子はツングースカを使用した攻撃で、HWの逃げ道を徐々に狭めていく。
 その後方から、ブレス・ノウを使用した八九十がライフルで予測されるHWの行動先をタイミングよく撃ち抜いていく。
 見事、4人は3機のHWを引きつけ、撹乱し始めていた。

●鹵獲『ロビン』
「くっ‥‥! 追いつけない!?」
 ブーストで肉薄しているにも関わらず、ユーリと礼二はまだ鹵獲ロビンの前方に回り込めずにいた。
「ウィリアムも、こちらに攻撃するより、奪取した機体を持ち帰る事を優先しているんですかね」
 追い縋る2機のシュテルンを、振り解こうと更に加速する鹵獲ロビン。
「そういう事なら、これでどう!?」
 その後方から鹵獲ロビンへと向かっていた絣が、マイクロブースターで一気に距離を詰め、別ロッテのソーニャが、絣の機体を確認しつつも、ターゲットへのポイントを続ける。
「研ぎ澄ませ、研ぎ澄ませ。針の穴ほどの隙に楔を打ち込みこじあけるのよ」
 アリスシステムとマイクロブースターの併用により、格段に上がった命中率を、更に自身の経験則で跳ね上げる。
「捕まえた!」
 そのまま、G放電装置とUK‐10AEEMを叩き込み、鹵獲ロビンの体勢を崩す。
「今よ、火力を集中して、一気に押し込んでっ!」
「火力には自信があるわよ!」
 肉薄した絣のロビンが、ドゥオーモで更に敵機の回避行動を制限し、オメガレイを放った。
 大きくバランスを崩した鹵獲ロビンを捉えた、絣と同ロッテのクラリッサが、小さく唇を引き上げて呟く。
「告死天使の裁きの刃から、いつまでも逃れられると思わないで頂きたいですわね。速やかに、堕ちて貰いますわよ」
 PRMシステムを起動させ、攻撃力と命中率を上げ、G放電装置を放つ。
 その横をすり抜けたのは隼人のハヤブサだ。
「我が名は鷹谷隼人‥‥日のいづる地より馳せ参じた‥‥手合わせ願う」
 同ロッテのソーニャが放つ援護射撃に沿う様に愛機『隼』を駆る。
 高高度から一気にエレベーターを押し込み、ブーストで急接近。そのまま、太陽の光を使用して相手の死角をつく様に突撃用ガトリングを叩き込む。
 一気に離脱し、勢いを利用しつつバレルロール。
「追いついた!」
 初めて、鹵獲ロビンの前方を取ったユーリと礼二のロッテが、インメルマンターンでウィリアムと向き合う様に機体を操る。
「前回は援護の為に戦えませんでしたが、今回こそは‥‥! あの人の為に‥‥貴方には、ここで消えてもらいます!」
 射線上に友軍機がない事を確認し、コクピットを狙って対空機関砲を放つ。
 逃げる暇すら与えないとばかりに、礼二がPRMシステムを起動させ命中率を上げた2種類のミサイルを繰り出した。
 命中するか。この距離ならば、回避は難しいはず。なら、多少なりともダメージはいくはずだ。
 鹵獲ロビンと対峙していた全員が、そう思った。
 次の瞬間。
『何の用だ?』
 全コクピットの無線を通じて、低く威圧的な声が響いた。

●ウィリアム・バートン
 その声は、空をも凍らせんとばかりの力を持っていた。
『お前達は、何か勘違いをしている様だな』
 鹵獲ロビンからの無線に、全員が息を飲む。
『俺が、何の為にお前達の兵器を奪ったのか。そして何故、お前達に攻撃を加えないのか。よく考えたのか?』
「何をっ‥‥!」
 最初に叫んだのはユーリだ。
 噛みつかんばかりに響いた声に、ウィリアムは無線越しに息を吐いてみせる。
『教えてやらねばならんか?』
 声の直後、コツ、コツという音が無線から響いた。
『まず一つ目。お前達は、無線を軽視し過ぎた。この機体は俺が乗っているとはいえ、仮にもお前達人間の搭乗する予定だった代物だ。傍受どころか、筒抜けだという事に気づきもしなかったか?』
「しまったっ‥‥!」
 クラリッサが瞬間、無線へと視線を走らせる。
 そう。連携の為に無線を使用して砲撃のタイミングや友軍の位置確認を行っていた。
 それが全て筒抜けだったという事は、攻撃タイミングは全て、ウィリアムに聞かれていたという事に他ならない。
「だとしても、私達人間にしか出来ない攻撃がある!」
 インメルマンターンで高度を取ったソーニャが、ブーストで速度の上がった急降下を使って全兵装を叩き込もうと試みる。
 けれど、それすらもウィリアムの乗った鹵獲ロビンは容易く避けてしまうのだ。
『二つ目。お前達は俺の戦闘力を見くびっていた。お前達がいかに能力者であったとしても、経験した戦場の数が違う』
 そのまま、ウィリアムは機体を半ロールさせ、先程の攻撃で降下していたソーニャの機体に向かって、ライフルを1発放つ。
「‥‥きゃあっ!?」
 たった1発の狙撃にも関わらず、ソーニャの機体を掠めていったウィリアムの攻撃。
『わざと外した。此処でお前達を撃墜する事は、俺の任務ではない。面倒だ』
 淡々と告げられる言葉に、全員が戦慄と憎悪を湧き上がらせた。

 HW3機と対峙していた2ロッテも、後僅かで全機を撃墜するといった所だった。
「出し惜しみなしです。全部、出し切ります」
「健太郎ハリケーン!」
 咄嗟に無線をオフにしたロゼアが、火力全てをHWへと叩き込み、健太郎が眼前のHW2機へとソードウィングを向け、高高度からストールターンで一気に高度を落とした。
「無線が傍受されるなら、目で確認すればいいだけの事です。五十嵐さん!」
「了解!」
 別ロッテの論子も、僚機である八九十の行動を確認しながら、弾道を計算し攻撃を続ける。
 計算された弾道に、対応出来ないHWと違い、八九十は論子の援護射撃を受けつつ止めのライフルを放つ。
 そこでまずHW1機が撃墜された。
 失速の後、加速する健太郎のシュテルン。そのソードウィングが、残り2機のHWを引き裂いた、次の瞬間。
『三つ目。お前達は、捨て駒にすぎないHWへと注意を向け過ぎた。俺にとって、そいつらは文字通り捨て駒だ』
 まるで、健太郎の攻撃を見越したかの様な言葉だった。
『お前達は、俺の奪取したロビン撃墜だけに専念すればよかったものの、捨て駒に過ぎんHWも全機撃墜しようとした。確かに、お前達に提示された任務の成功は、この機体とHW全機の撃墜だっただろう。だが』
 もう一度半ロールしたウィリアムの機体は、一気に加速して戦闘へと躍り出る。
『二兎を追うものは一兎も得ず。奪取したこのロビンを本気で堕としたかったのなら、捨て駒のHWなど捨て置いて、全機でこちらに来るべきだったな』
 愚かしいとばかりに言い切ったウィリアムへと、火力を集中させながら奥歯を噛みしめる能力者達。
 そうだ。最初から分かっていた筈だったのだ。
 ウィリアム・バートンが、何を目的にロビンを奪取したのか。
 彼は、機体を『持ち帰る事』が最大の目的だったのだ。
「なら今からでも‥‥撃墜すればいい話だ」
「待って!」
 追い縋る隼人とユーリに、制止の声を掛けたのは絣。
 それに小さく感嘆の声を上げて、ウィリアムは珍しく楽しげな雰囲気を醸し出す。
『成程‥‥切れ者がいる様だ。懸命な判断は、命を僅かばかり延ばしてくれるだろうな』
 制止した絣も、悔しそうに眉を顰めている。
 睨みつける先には、鹵獲ロビンと ――陸地が見えた。

 タイムアップだ。

●齎された『成功』
 ウィリアムの奪取したロビンが、索敵範囲から消えていくのをモニター越しに確認しながら、彼らは悔しそうに奥歯を噛みしめていた。
 撃墜した機体数はHW3機。数だけ言えば、彼らの任務は成功と言えるものである。
 しかし。
 ロビンは、奪われた。
「くそっ‥‥強くなりたい‥‥!」
 コンソールを叩いて叫んだ健太郎の声が、無線を通して全員のコクピットに響く。
 彼の言葉は、全員に共通するものだ。
「ヨリシロ‥‥。これほどの力を持っているとは‥‥」
「面倒な事になりましたね‥‥」
 隼人とロゼアの呟きに、けれど、と言葉を続けたのはクラリッサだ。
「確かに、最も脅威になるであろうロビンは鹵獲されてしまいましたけれど、彼の言葉にはひとつ、間違いがありますわね」
 その言葉に、疑問の声を掛ける八九十へと、彼女は言葉を続けた。
「確かに、鹵獲機による被害は無視出来ませんけれど。それはHWも同じ事でしょう」
 その通りだ。
 確かに、ウィリアムはロビンを奪取した。その機体は後に脅威となるに違いない。
 だが、彼らが撃墜したHWもまた、脅威に違いないのだ。
「全てをクリアする事は出来ませんでしたが、まずは目の前の脅威は排除出来た。といった所でしょうね」
 礼二に続いて、絣も同意の言葉を返した。
「今度、会う事があったら‥‥。その時こそ、ロビンを解放してあげましょう」
 もう見えなくなったロビンの姿を思い描きながら、ソーニャは小さく呟いたのだった。

 齎された成功は、目の前の脅威の排除という後味の悪いものではあったが。
 それでも彼らの任務は、成功したに間違いはないのだから。

 今は、全員が無事に生き残った事に胸を張って、帰還を。

 END