タイトル:【CW】語り部の戦いマスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/18 00:29

●オープニング本文


 フランスのとある新聞社。
「君、入社してどれくらいになる?」
 上司に呼び出された女性――ティアナ・ワーズは、首を傾げながら指を折り始めた。
「えー‥‥今日で2年と11ヶ月になりますね」
 髭をたくわえた初老の上司はその答えに頷きを返して、ひらりと1枚の紙切れを彼女へと差し出す。
 そこに書かれていたのは、次にティアナが取材を行う予定になるのであろう、ある土地の名前と詳細。
「今の時勢、他社は全てアメリカで展開されている作戦ばかりを取り扱って、つまらんのだよ」
「はぁ」
 曖昧に答えつつ、彼女は手渡された書類へと目を通し始めた。

(「うちのだって、大抵はアメリカの情報ばっかりだと思うんだけど」)

 そんな事を、胸中で毒づきながら。
「‥‥え? あの、ちょっと待って下さい編集長!」
「なんだい。もうすぐ3年にもなろうかというのに、スクープのひとつも持ってこられないティアナ・ワーズ君」
 目に留まったある文字に、ティアナの表情は一気に青褪めた。
「あの、現地に飛ぶのはわかりましたけど、これ、地名に『ジェノヴァ』って書いてありませんか?」
「そりゃ書いてあるだろうね。現地はイタリア、ジェノヴァ近郊の町だからな」
「イタリアって言ったら、相変わらずの激戦地ですよ!?」
「記事を書くのに、現地視察は必要不可欠だろう」
 イタリア。
 その国は、彼女がこの新聞社に入社する前からバグアとの戦闘で、防衛ラインが日に日に変わる激戦地だ。
 眼前の上司は、能力者でもないティアナに、その戦地へと向かえと言っているのだろうか。
「しかも、内容が『出現したキメラについて』だなんて、私に何をしろと!」
「だーから、取材だよ取材。上に話は通してあるし、能力者にも依頼を出してある。君は取材に専念してくれればいい」

 上司曰く。
 ティアナがジェノヴァで行うのはあくまでも『取材』である。
 とはいえ、キメラが出現しているのは間違いがないので、能力者に依頼を出している。
 そして、いくら取材目的とはいえ、キメラが出現しているのならその退治も必要になる。
 そこで、出現したキメラについてと、能力者とキメラの戦闘を記事にしてくる様に。

 これが、ティアナに下された命だ。

「ジェノヴァに出現した狼型キメラ3頭、かぁ‥‥」
 危険手当は出るのだろうか。
 そんな的外れな事を、現実逃避しかけた頭で想像するティアナだった。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
雨霧 零(ga4508
24歳・♀・SN
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
鮫島 流(gb1867
21歳・♂・HA
イレーヌ・キュヴィエ(gb2882
18歳・♀・ST
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
真山 亮(gb7624
23歳・♂・ST

●リプレイ本文

●序章
「ティアナ・ワーズです。今日はよろしくお願いします!」
 勢いよく頭を下げた今回の同行者に、柔らかく微笑みながら手を差し出したのはロジー・ビィ(ga1031)だ。
「ティアナ。あたしはロジーと申しますわ。宜しくお願いしますわね」
「ま、宜しくなッ、ミズ・ワーズ‥‥ティアナのがいいか?」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)が、小さく口角を上げながら声をかける。
 他の能力者達も各々挨拶を済ませると、連絡用無線のチャンネルを合わせ、何度かテストを行う。
「では、訊き込みを始めるか」
 月城 紗夜(gb6417)の言葉に頷きあった能力者達は、それぞれ行動を開始するのだった。

●訊き込み
 学校ならば情報が集まるかもしれない。
 そう考えた木場・純平(ga3277)は、町にある学校へと足を運んでいた。
「狼の様なキメラ? あぁ! 今、町で噂になり始めてるあれですね」
「なんでも構わないんだが、知っている事があったら教えてもらえるか」
 純平の問いかけに、教員は頷きながら自分の知っている情報を口にしだす。
「何でも、今は使われていない倉庫からここ最近、低い唸り声が響いてるとか」
「成程。その倉庫の場所は?」
 事前にティアナから渡されていた地図を取り出した純平が、その地図を広げて教員へと差し出すと、教員は地図の端へと小さく印をつけた。
「確か‥‥この辺りですよ」
 印を確認して、彼は感謝の意を礼で示した後、教員に生徒達の安全確保を促したのだった。

 同じ頃、イレーヌ・キュヴィエ(gb2882)は紗夜や真山 亮(gb7624)と一緒に警察や自衛団、消防署を周っていた。
「驚いたなぁ。まだ、ULTに依頼を出してないのに、一体何処からその情報を?」
「私たち、今回は新聞記者さんから情報をもらって来たの。狼みたいなキメラが出たって本当?」
 イレーヌが首を傾げて問いかければ、男はこくりと頷いて口を開いた。
「あぁ。町はずれの倉庫を根城にしてるらしいよ。まだ大きな被害は届け出られてないが、だからって放っておくわけにもいかんからな。君達が来てくれて助かった」
「それで。その倉庫は何処に」
 淡々と紡いだ紗夜が、地図を取り出して男に差し出す。
「住所は‥‥ここだ。町で唯一、使われてない倉庫だから、見た目で分かると思うよ」
「念の為に、周辺の人達には避難してもらえるよう、通達を出してもらえますか?」
 亮の願い出に男は頷くと、頑張ってくれ、と伝えて踵を返したのだった。

「それじゃあ、キメラは3体で間違いないんですね?」
「ああ。うちの情報は確かだよ。しかし、本当によく知ってるねぇ」
 地元の新聞社へと足を運んでいたハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)は、そこの記者から情報を得ていた。
「人に被害は出てないけど、時間の問題だと俺は思うんだ。何でも、町はずれで家畜の変死体が見つかってる。明らかに獣に食われた跡の様な様でね」
 まだ人に被害は出ていない事に、少しばかり安心しながら、ハインは家畜の被害についての詳細を記者に問いかける。
「野生動物の仕業、とは違ったんですか?」
「違うね。ありゃ間違いなくキメラだ。食われただけならただの動物の仕業だろうが、変死体は全て『焼け焦げて』る。動物に火は使えんだろう」
「火‥‥」
 もう少し、情報が必要かもしれないと、ハインは気を引き締めたのだった。

 町で家畜の変死体について聞いた鮫島 流(gb1867)は、現場へと向かっていた。
 彼には少しばかり、心当たりがあったのだ。
「狼型やて‥‥?」
 現場からは既に家畜の死体は持ち去られていたが、そこには生々しい攻撃の跡が残っている。
 それをじっくりと観察しながら、流の脳裏に浮かんだのは、ある壊滅した村の光景。
 炎に巻かれた家屋と、何かが焦げる不快な臭い。そして、紅の毛並みを持った狼。
「この痕跡もしかして‥‥。とりあえず、訊き込みを続けるか」
 浮かんだ光景を振り払う様に頭を軽く振って、流はその場から移動を開始したのだった。

「あの、すみません。少しよろしいですか?」
 アリエイル(ga8923)は町中で訊き込みを行っていた。
「この町に、キメラが出たと情報をもらって来たのですが、何かご存じありませんか?」
 歩みをとめた壮年の男は、アリエイルの姿を見てあぁ、と頷く。
「2週間前くらいからだったか‥‥。うちも家畜がやられちまってなぁ。酷いもんだったよ。丸焦げになった上に食われてんだ」
「それ以外に気付かれた事は‥‥?」
 少し考える仕草を見せた男は、手を打ってそういえば、と首を傾げつつも口を開いた。
「昼間は被害に遭わないんだよ。家畜が変死するのは必ず夜なんだ」
 それ以外は分からない、と言って立ち去った男に頭を下げながら、アリエイルは得た情報を整理することにしたのだった。

 ティアナと行動を共にしていたアンドレアスの耳にも、情報は入ってきていた。
「そりゃまた災難だったな。けど、何で夜だけなんだろうな?」
「さぁ。私達にも分かりませんけど‥‥噂では、昼間は動きが鈍るんじゃないかって」
 なるべく一般人を怯えさせない様に、と配慮された会話進行でうまく情報を得ていくアンドレアスの後ろで、同じくティアナもオーダーした珈琲を口にしながらなるべく明るい声を響かせている。
 もちろん。会話の内容は逐一手帳に書き込み、しっかりと取材は行っているが。
「日の光に弱いとか、ニンニクが苦手とか、十字架が弱点とかだったら、完璧にドラキュラですよねぇ」
「ま。今回の場合は鬼じゃなくて狼だけどな」
 ある程度訊き込みを終えたアンドレアスの無線が、音を立てた。

●倉庫へ
 昼は必ず倉庫にいる。
 確信を持ったメンバーは町はずれの倉庫へと集合した。
「あの。私はほんと、何も出来ませんし‥‥外で待っていた方がいいんじゃないですか?」
 今から行われるのが人生初の戦闘だという事に怯えた様子のティアナへと、安心させる様に笑ったアンドレアスが、軽く肩を叩く。
「べったりくっついてっから、安心して取材すりゃイイ」
「そうそう。私達は戦闘のプロ。ティアナさんは取材のプロ。お仕事はしっかりしなくっちゃ」
 にっこり笑うイレーヌの後方で、武器の最終確認を行っていた紗夜と純平も頷いた。
「情報によると、中には貨物コンテナがあるそうです。上手く使えば、盾になりますね」
 アリエイルの言葉に、ロジーが倉庫の扉へと背をつける様な体勢のまま気丈に微笑む。
「大丈夫。私達がティアナには指一本触れさせませんわ」
「‥‥分かりました」
 覚悟を決めたのか、ぐっとこぶしを握ったティアナが、大きく息を吸い込んだのを確認して。
 ロジーと同じく扉に背をつけ、中の様子を窺っていた流が低く呟いた。
「じゃ、躾の成ってない犬っころに、きっちり躾をしたろか」

●戦闘のプロと取材のプロ
 低い唸り声が倉庫の中に響き渡る。
「先に強化をしておきますね」
 言って練成強化を使用した亮が、味方の武器を強化した。
 同じく、イレーヌも練成強化で味方への支援を開始し始めたところで。
 一番奥のコンテナの陰から、紅の塊が3つ、飛び出してきた。
「前衛の皆さんが戦いやすい様にするのが、私の役目です」
 最初に敵へと牽制攻撃を仕掛けたのはハインだ。
 狙撃眼で射程を延ばした上で放たれた弾丸は、見事3つの塊を分断する事に成功する。
 次に素早く倉庫へと飛び込んだのは、前衛の流、ロジー、純平、紗夜、アリエイルだ。
 3体の連携を阻止する為、割り込む形で向き合ったメンバーを確認して、最後に倉庫へと入ったイレーヌ、亮、そしてアンドレアスの後ろにひっつく形でティアナが、一番手近なコンテナへと身を潜める。
「さて。何処まで近づいたもんかな‥‥」
 ポツリと呟いたアンドレアスに、ティアナはごくりと息を飲みながらも手にした手帳とペンを握りしめ。
「女は度胸ですっ‥‥わた、私だって取材のプロですっ!」
 もう少し近づきたい、という意思表示に、護衛担当のアンドレアスはもう一度軽く肩を叩いて周囲に視線を向けて。
「んじゃ、あのコンテナまで行ってみっか!」
 ティアナの手を引きながら、勢いよくコンテナから飛び出したのだった。

 3体のキメラが、コンテナから飛び出したアンドレアスとティアナに意識を飛ばしたその瞬間を、前衛メンバーは見逃さなかった。
 素早く身を翻そうとした1体へと、竜の瞳を使用した流が肉薄する。
「このっ‥‥止まれや!!」
 脚部を切りつけて直ぐに元の距離を保つ。
 同じく、移動しようとした他のキメラへとソニックブームを放ったのはロジーだ。
「さぁ。あなたのお相手はあたしですわ‥‥」
 キメラが低く唸り、彼女へと向き直る。
 残りの1体と向き直っていた純平は、キメラが動き出すその前に、疾風脚で眼前へと迫った。
「よそ見はいかんな」
 握り込んだ一撃に、キメラが後ろへと吹っ飛ぶ。
 そこへ滑り込んだのはアリエイルだ。
「能力限定‥‥解除。導きの天使アリエイル‥‥行きます!」
 流し斬りでキメラを追いこんだ彼女と同じタイミングで、ロジーの対峙していたキメラの元へと駆け込んだのは紗夜。
「この双剣。かわせるものならかわしてみろ」
 竜の瞳を使用しながら、脚部を切り裂いた彼女の双剣が、鈍い光を放った。

 戦闘は、傷を負いながらも能力者達に優勢かと思われた。
 だが、キメラもただでは倒れない。
 それはほんの一瞬の出来事だった。
 キメラとコンテナの陰に隠れていたティアナの間に、一直線の隙間が出来てしまったのだ。
「ティアナさんっ!」
 真っ先に気付いたイレーヌが、声を上げる。
 全員の視線が一瞬だけ、キメラからティアナへと移された。
「くっ‥‥! 間に合わない!」
 影撃ちを使用するも、ハインの銃弾はキメラの攻撃態勢を崩せない。
「っロジー!」
「‥‥っ! 危ないですわ‥‥ッ!!」
 声音だけで意思疎通を行って、ロジーとアンドレアスがキメラとティアナの間に割り込む。
 次の瞬間、射線上のキメラが炎を吐き出した。
 回避では駄目。人を抱えて逃げられるほど、炎は遅くない。
 蛍火で炎を切り裂く様にしながらダメージを軽減するロジーと、若干弱まった炎から身を呈してティアナを庇うアンドレアス。
「ロジーさん! アンドレアスさん!!」
 ティアナが上げた悲鳴の様な叫び声に、攻撃を受けた2人がそれぞれ声をかける。
「あたしは大丈夫ですわ。気にせず、取材を続けて下さいな」
「でもっ‥‥!」
「うっせ、いいから取材してろ。コレが俺らの仕事、お前さんにゃお前さんの仕事、だ」
 その言葉に、はっとした表情でティアナは息を飲んだ。
 今回彼女が同行しているのは、この事件を取材する為だと、改めて意思を固める。
「分かりました‥‥。しっかり、取材させて頂きます!」
 気丈に声を上げた彼女に、能力者達は小さく笑みを浮かべたのだった。

 戦闘も終盤に差し掛かる。
「ティアナさんの仕事が取材なら、私達の仕事は戦ってる皆さんの援護ね」
「同感だ。敵には後方支援なんて高度な技は使えないだろう」
 イレーヌと亮が、負傷者へと練成治療を施し、紗夜と流は竜の血で自身の傷を再生していく。
「戦人である限り、膝はつかん‥‥戦い続ける」
 傷の再生を終えて、紗夜がポツリと呟き、二振りの剣を翻した。
「躾の成ってない犬は死刑っ! ‥‥これで確実に潰したるっ!!」
 竜の翼と竜の角を併用した流は、一気にキメラへと肉薄し手にした剣を一閃させる。
 甲高い鳴き声を上げて、まずは1体のキメラが地に伏したのだった。
「こっちもそろそろお開きとしようか」
 純平が身を屈め、瞬天速を使用して弾丸の様にキメラの眼前へと移動する。
 同時に急所突きでキメラの頭部へと打撃を与えた。
 昏倒するキメラに素早く駆け寄ったのはアリエイルだ。
「これで最後‥‥蒼電機槍撃‥‥!」
 スマッシュを使用し、一気に急所を貫けば、2体目のキメラはもう動く事すら出来なくなった。
 残り1体。
 ここまでくれば、後はもう能力者達の独壇場だ。
「さっきのお返しくれてやるよ。さぁ、コイツはビリビリ効くぜ?」
 エネルギーガンを握り込んだアンドレアスが、後方から援護射撃を行う。
「最後まで全力で行きます」
 同じく、こちらはSMGを構えたハインが、前衛の動きを助けるべく射撃を続け。
「さぁ、お遊びは終わりでしてよ‥‥」
 紅蓮衝撃と流し斬りを併用したロジーが、蛍火を翻しながら駆け込む。
 そして、倉庫に零れ入る光にその刃が照り返された次の瞬間。
 最後のキメラが、地に伏したのだった。

●真相はまだ
「それにしても‥‥何でここにキメラが現れたんでしょうね」
「いくらイタリア南端が競合地区になったと言っても、腑に落ちんな‥‥」
 銜え煙草の亮と、彼に向き合っていた純平が零したその言葉に、流は苦虫を噛み潰した様な表情で口を開いた。
「前に戦ったヤツと見た目は一緒やったけど、強さが違う。あんなもんやなかった」
「それって‥‥」
「鮫島のいう前のヤツ、というのは分からんが。敵ならば排除する。それが仕事だ」
 その言葉に絶句するイレーヌに、紗夜が淡々と言葉を紡ぐ。
「キメラは倒し終わりましたが‥‥取材の方は、大丈夫だったのでしょうか?」
 気遣う様なアリエイルの言葉に、ティアナはしっかりと頷き手帳を広げてみせた。
「はい! 皆さんのおかげで、今回は編集長もびっくりの内容になると思います」
 びっしりと書き込まれた手帳と、首に下げられたカメラを見る限り、どうやら取材も無事に成功した様子だ。
「ティアナ様も、最前線での取材なんて大変ですね」
「いえ。私なんてまだまだです」
 ハインに向かって照れくさそうに笑うティアナの頭を、後ろから軽く小突いたアンドレアスが、右手を差し出す。
「全く。写真撮るのはいいけど、そのフィルム落としてどーすんだ」
 慌てふためきながらもぺこりと頭を下げてフィルムを受け取ったティアナに、ロジーが微笑む。
「大丈夫。ティアナは立派な記者さんですよ」
 その柔らかい言葉に、ティアナはそこでやっと気が抜けたのか。
 へたりと、腰を抜かしてしまったのだった。

●今はまだ遠く
 何か手掛かりはないか、と全員で倉庫の探索を続けていた時に、それは発見された。
「これ、なんや‥‥?」
 倉庫の隅に置かれた、3つのアルミ皿に気付いた流が、全員を呼び寄せた。
「餌入れ‥‥かな」
 イレーヌが表情を強張らせながらも呟く。
「だとしたら、誰かがキメラ達に餌をやってたって事か」
「けどよ。使われたのは随分前みたいだぜ? 少なくとも、ここ2週間くらいは使われてねぇ様に見えんだけどな」
「家畜が襲われ始めたのも、確か2週間ほど前でしたわよね?」
 まさか。
 全員の脳裏に、想像もしたくない事態が過った。
 空の餌入れ。食われた家畜。紅の狼。

 ――それらが繋がるのは、もう少し後の事。

「所詮、失敗作か」
 一人の男が、遠い空の下で、小さく吐き捨てたのを、まだ誰も知らない。

 END