●リプレイ本文
●戦闘前の下準備
「町民の皆さんに手伝ってもらって、鳴子の設置もスムーズに済みました」
足場の確認を兼ねて、キメラが現れるであろう周辺をぐるりと囲む形で鳴子を設置し終えた風間由姫(
ga4628)が、にっこり笑いながら集合地点に戻って来る。
「転んだりしませんでした?」
町民から細かい情報を収集していた佳奈歌・ソーヴィニオン(
ga4630)が少しからかう様に声を上げた。
「んー‥‥やっぱり畑の中で戦闘するのは避けた方がいいでしょうね。此処から見ても、足場も視界も悪そうですから」
町民の勧めで、カフェの2階にある窓から双眼鏡を覗いて、鳴子で囲まれた畑方面を観察していたリア・フローレンス(
gb4312)が、下にいるメンバーに聞こえる様に大声で提案する。
「まぁ、やっぱりそうなりますよね」
「将来1級シャトーになる大事な葡萄だからな。ここはやっぱ、畑から誘導するしかないだろ」
リアの声に、鉄 迅(
ga6843)とヤナギ・エリューナク(
gb5107)が溜息混じりに呟く。
「今のわらわはまだ飲めぬが、未来のワインを守るのじゃ!」
胸を張りつつ笑う正木・らいむ(
gb6252)に、
「そうだな。ワインの‥‥いや、農家の皆さんの為に‥‥やるか」
同意する様に頷くセグウェイ(
gb6012)。
「此処から予測ポイントまでは10分だそうですから、そろそろ‥‥」
そう言って、鈴葉・シロウ(
ga4772)がふ、と耳を澄ませた。
同じ様に、由姫と佳奈歌も耳を澄ませる。
3人の耳には、此処から離れた場所で僅かに鳴った、鳴子の音が届いたのだ。
「ふむ‥‥そろそろ偵察に出た方がいいかもしれませんね。では、手筈通りに参りましょう」
そう言った直後、シロウが自身を鼓舞する様に覚醒の掛け声を発したのを見やって。
「それ、毎回必ず言わねぇと駄目なのか‥‥?」
少し顔を引き攣らせながら、セグウェイは共に先行偵察する為に、座っていた椅子から立ち上がったのだった。
●先行偵察組・ポイント到着
覚醒したシロウの背に乗ったセグウェイが、覚醒して探査の眼を使用しながら周囲を見渡す。
「鳴子が鳴ったのはこの方角で間違いはありませんから、恐らく周囲にいると思うんですが」
「っつっても、まだ姿が見えねぇんだよ‥‥お、残りのメンバーがこっちに来てんな」
視界の端で他のメンバーを捕らえつつ、セグウェイは引き続き神経を研ぎ澄ましながら警戒を続ける。
次の瞬間。
葡萄の僅かな隙間に、黒く大きな塊を2つ見つけたセグウェイが、目的のものかどうかを注意深く確認し。
「見つけたぜ‥‥あそこだ」
背から降りたセグウェイに促されて、シロウがそちらへと視線を移す。
視線の先、確かに狼より遥かに大きな、しかし姿かたちは狼に酷似した2体のキメラが、低い唸り声を上げていた。
●残メンバー合流・戦闘開始
「よし。なら作戦通りまずは敵を分断させようぜ」
ヤナギの言葉に全員が覚醒し、其々の武器を手に息を潜める。
こくりと頷いて、リアが閃光手榴弾を投擲する体勢を整え、その横で直にでも突っ込めるようにシロウが体勢を低くした。
全員の視線がキメラに集中した、その瞬間。
リアの手から放たれた閃光手榴弾が、まるで吸い込まれる様に2体のキメラの間へと落ち。
「Lets Dance!!」
予め決めていた閃光瞬間の暗号が響き、全員が瞬間目を閉じ。
そしてキメラの中央部で、眩い閃光が放たれた。
「行きます!」
最初に行動を起こしたのはシロウだ。
瞬速縮地を使用して一気に2体の間に飛び込むと、獣突を利用して1体を畑から追い出す様に弾き飛ばした。
「宜しく頼むぜ、相棒達!」
不敵に笑いながら煙草を揉み消したヤナギが、キメラの意識を畑の外に居る自分達へと向ける為に、S−01を発砲する。
「出力最大! 全身全霊を持って‥‥殲滅する!」
続いてシールドをフォルトゥナ・マヨールーへと持ち替えた迅が、更に畑から遠ざけるべく強弾撃を使用して攻撃を加えながら後退する。
「さぁ、はじめましょう」
手にしたクルシフィクスを握り締め、一気に懐へと飛び込んだリアが、円閃を使用して前脚を薙ぎ払う。
そのまま翻した剣で再び円閃を使用し、頭部へと攻撃を加える。
耳障りな鳴き声を響かせるキメラへ畳み掛ける様に攻撃したのは由姫だ。
風天の槍を手に、紅蓮衝撃を使用して防御の薄い眼球目掛けて突きを放つ。
「こちらは任せて下さい!」
「分かりました!」
由姫の言葉に佳奈歌が答え、もう1体のキメラを見据える。
「まだ遠いか。なら、コイツで‥‥」
スナイパーライフルを構えたセグウェイが、すっと目を眇めて、
「狙いは外さない‥‥貫け!」
強弾撃を使用した弾丸は、葡萄の隙間をうまくすり抜けてキメラへと着弾する。
加えられた攻撃に、キメラが畑から躍り出る様に飛び出してきた所へ、ハミングバードを手にしたらいむが駆け込む。
閃かせた細身の剣は、キメラの前脚部分を切り裂く。
そのまま直に後退して距離を取ったらいむに変わって、次に攻撃を加えたのは佳奈歌だ。
「行きますよっ!」
紅蓮衝撃を使用し、手にしたフォルトゥナ・マヨールーの攻撃力を引き上げた佳奈歌が、放った銃弾はキメラの腹部を撃ち貫いた。
痛みの余りに体を大きく揺らし、咆哮を上げたキメラが、そのまま口を開き続ける。
「まずいっ‥‥! まさかこいつ等!?」
セグウェイの言葉に、はっとした表情で佳奈歌とらいむが目を見開く。
「そんなっ! ブレスを使うなんて聞いてませんよ!」
回避は間に合わない。このままだと直撃してしまう。
防御の体勢を取った佳奈歌とらいむの前に、滑り込んだ1つの影。
「女性に怪我をさせるわけにはいきません!」
獣の皮膚を使用したシロウが、放たれた火炎のブレスから可能な限り2人を庇った。
「くっ‥‥!」
「鈴葉さん!」
小さく声を上げたシロウへ、直撃は免れたが僅かに火の粉を被ってしまった佳奈歌が焦った様に駆け寄る。
「わらわを守った事は見事じゃが、無理は禁物ぞ?」
同じく僅かに火の粉を被ったらいむが、キメラへと鋭い視線を向けながら呟いた。
「こっちが火炎のブレスを吐くって事は、そっちも気をつけろよ!」
セグウェイが離れた場所でもう1体のキメラと対峙している4人に向けて、声を張り上げる。
火炎を吐いたキメラに同調した様に、口を開いたもう1体のキメラを確認して、ヤナギ、由姫、迅、リアは其々回避を行った。
放たれた火炎から完全には回避が出来なかった4人は、其々軽く火の粉を被ってしまう。
「このデカ物が‥‥舐めた真似してんじゃねぇぞ?」
顔を顰めたヤナギが、軽く舌を出し唇を湿らせる様にして対峙していたキメラと距離を詰める。
武器をイアリスへと持ち替え、素早く屈み込むと円閃を使用して腹部を大きく切り裂いた。
響く咆哮を受けながら、武器をイアリスに変更した迅が懐へと飛び込む。
ファング・バックルを使用して両刃の剣を、脚部に向けて一閃させた。
「ブレスを使用するなら‥‥その口、塞いでしまいましょう」
足への攻撃に怯んだキメラを追い込んで、リアが二連撃を使用してクルシフィクスを閃かせる。
顔面へ1撃加えた後、円閃を利用して弱った脚部へと更にダメージを加える。
絶叫に近い咆哮を上げ、キメラが体勢を崩す。
「そろそろ倒れてくれませんかっ」
由姫が槍を突き出し、頭部へと攻撃を加える。
「こっちは次でカタがつきそうだぜ」
ヤナギの言葉は、もう1体のキメラと対峙しているメンバーへ向けられたものだ。
「ならこっちもカタつけるか」
セグウェイが武器を影風車へと変更し、キメラと間合いを詰める。
自身障壁を使用し防御を高めた後、
「駆けろ、疾風の一太刀‥‥影風車!」
横に投擲された刃に付いているテグスをキメラの足へと絡ませる。
体勢を崩したキメラを確認して、収縮ボタンで引き戻した刃で更に足を切り裂いた。
「今です!」
倒れ込んだキメラへと、イアリスへ装備変更した佳奈歌が駆け込み、刃を閃かせる。
間を置かずに舞い込んだらいむが、ハミングバードを手に声を上げた。
「蝶の様に舞い、蝶の様に刺す。わらわの剣技に惚れるでないぞ、キメラよ!」
二連撃を使用し、初撃前更に円閃を使用してまずは頭部へと攻撃を加える。
身を翻し、二撃目前にもう一度円閃を使用して次は腹部へ。
立て続けに加えられる攻撃に、キメラが唸り声を上げた。
「さぁ、これで終わりですよっ!」
開かれた口に目掛けて突き出されたシロウの槍が、正しく吸い込まれる様に目的の場所を見事貫き。
大きな断末魔の叫びを上げて、シロウ、セグウェイ、佳奈歌、らいむが対峙していたキメラは地に倒れ、起き上がる事はなかった。
「さ、こっちも終わらせますよ!」
キメラの正面に立った由姫が、槍を頭部へと突き出す。
怯んだ敵の死角に立っていたのはヤナギだ。
「おい、デカ物‥‥こっちがガラ空きだ!」
イアリスを腹部に目掛けて一閃させれば、深くそれを切り裂く事に成功する。
「休む暇は与えない」
よろめくキメラの喉元を、リアのイアリスが切り裂けば。
「終わりだ!」
ファング・バックルを使用した迅の一撃が、リアの切り裂いたその箇所を深く切り裂き。
2体目のキメラは、声を上げる事も出来ないままに、動きを止めるしかなかったのだった。
●戦闘の後は‥‥
「ありがとうございました! 皆様のおかげで、今年も良いワインが出来ます!」
深々と頭を下げる町民達は嬉しそうだ。
「葡萄の収穫とかあるなら手伝うぜ?」
ヤナギの言葉に、町民の1人が大きく手を振って
「とんでもない! そこまでして頂く訳にはいきませんよ」
「そうだ! 皆様、これは私達からの心ばかりのお礼ですが、よろしければ受け取って下さい」
成人したメンバーに差し出されたのは、昨年の1級シャトーに認められた某有名ラベルの赤ワイン。
「ワインを飲めない方には、こちらを」
未成年に差し出されたのは、ぶどうジュースだ。
「うわぁ! 有難う御座いますー」
お酒好き、ワイン好きにはたまらないご褒美。
ポーイヤックの町には、久しぶりの陽気な声と歓声が響き渡ったのだった。
END