タイトル:【S&J】牙剥く女王マスター:風亜 智疾

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/27 23:46

●オープニング本文


 英国・シェフィールドに本社を構える銀食器メーカー『セブン&ジーズ社』。
 その本社ビルの最下層で、この会社の女社長オレアルティア・グレイ(gz0104)が、手にした1丁の銃を細部までも見落とす事なく確認をしていた。
「これが今回、研究開発チームが作りました新規SES搭載火器になります」
「エミタとシルバーの対比を、威力と外観両者に重点を置き加工しました」
 研究員達の言葉を受けながら、オレアルティアが微笑みを浮かべながら口を開く。
「『グロリア』試作銃、といったところですね」
 『グロリア』と呼ばれたその銃は、今までのSES搭載火器とは全く違った外見をしていた。
 それは、これまで開発・販売されているオートマティックタイプではなく、旧時代的なリボルバータイプだった。
「弾詰まり(ジャム)防止の為、リボルバータイプにしました。ダブルアクション可能です」
「唯一の難点は、銃弾の再装填時に若干時間がかかる点ですわね」
 そこまで言って、オレアルティアはグロリア試作銃を手に背を向けた。
「先ずは私自身が性能実験を行ないます。その後、もう一度お話しましょうか」
 試作銃を片手に、彼女は優雅な足取りで役員用エレベーターへと乗り込み。
「1階層上のテストフロアへ参ります。1時間後、またここに戻ります」
 エレベーターが閉まるまで、研究員達は頭を深く下げたまま顔を上げる事はなかった。

 きっちり1時間後。
 時間通りにオレアルティアは試作銃を片手に地下5階――最下層のフロアへと戻って来た。
「如何でしたか社長」
 研究員達が、自分の製作した銃について感想を求めた。
「そうですね。特に癖もなく、重量も重すぎず。射程も私の腕でそれなりにあります。再装填以外は特に問題もないかと思いますが‥‥それはあくまでも私の意見」
 そう言って、オレアルティアは微笑みながら研究員達へと言葉を発する。
「これを少なくともあと最低8丁作りなさい。それ次第、最後のテストを行ないます」
「最低8丁、ですか?」
 疑問を浮かべた研究員達に、この社の女王様は微笑みを絶やさずに言葉を紡いだ。
「私だけの感想では生産許可など出せません。他の研究者の皆様にご協力願いましょう」
 もちろん、英国王立兵器工廠とは無関係の、ね。
 遂に、セブン&ジーズ社の女王様が、牙を剥いたのだった。

●参加者一覧

ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
オブライエン(ga9542
55歳・♂・SN
トリストラム(gb0815
27歳・♂・ER
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA

●リプレイ本文

●牙を剥くSilver
 セブン&ジーズ本社2階。そこにある応接室の数々。この社の応接室が持つ特徴として、数字が小さくなる程に待遇があがっていく。
 そして、8人の能力者達が通された第1応接室は、この社でも最も重要かつ優先されるべき人物達であると位置付けられているわけだ。
「何だか少し居心地が悪い気がー‥‥」
 もぞもぞと柔らかいソファの上で体を動かしながら、ラルス・フェルセン(ga5133)が呟く。
「高そうなシャンデリア、高そうな家具、高そうな銀食器‥‥」
 同じ様にぐるりと部屋を見回し、そう口にしたのはセレスタ・レネンティア(gb1731)だ。
「流石は銀食器メーカー。このティーセットも自社製品のようじゃな」
「この分では、今回の試作銃も優美なデザインなのでしょうね」
 オブライエン(ga9542)とトリストラム(gb0815)は、入室後に出された紅茶を、その外見も込みで楽しんでいる。
「ふむ‥‥造りは古い建物の様だが、こちらは最新鋭といった所かな」
「はて? ‥‥あぁ、あの換気扇の事ですか」
 煙草を銜えて、高所を見上げたファファル(ga0729)の仕草に習って顔をあげた翠の肥満(ga2348)が、そこに取り付けられている換気扇を見て納得といわんばかりに頷く。
「同じ室内でも煙はあちらにだけ行く様に設置されている。これなら愛煙家も多少は気楽に煙草を吸えるな」
 同じ様に煙草を口にしていたベーオウルフ(ga3640)がポツリと呟いた。
「どんな銃なんでしょうね。リボルバーってSES搭載武器では数少ないから、流通すれば好きな人にはたまらないだろうし」
 紅茶を口にしながら、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)は初めて見る事になる試作銃へと思いを馳せる。
 8人其々が自由に(中には緊張している者もいたが)寛いでいるところに。
 重厚なドアが軽くノックされた。
 そして姿を現したのは、スーツを身に纏った女性と、だぼだぼの白衣を着込み、あちらこちら飛び跳ねたブラウンの髪を気にもしていない、ノンフレームの眼鏡をかけた小柄な男性。
「お待たせして申し訳御座いません」
 女性が微笑みながら深く一礼する。
「弊社の社長を勤めさせて頂いております、オレアルティア・グレイです。この度はご参加誠に有難う御座いますわ」
 そう言って、今度は隣に立つ男性へと視線を向ける。
「こちらは今回皆様にテスト頂く銃を開発したチームの責任者です。ヴァン、ご挨拶を」
 促されて、小柄な男性は大きな瞳を眠そうに眇めながら、ポツリと呟く。
「ヴァン。よろしく」
 それだけ口にして再び黙り込んだヴァンだったが、オレアルティアは気にする様子もなく微笑を浮かべたままだ。
「やっ、グレイさん、こんちは。今日はどうぞよろしく。‥‥あ、これお土産です」
 8人のうち最初に口を開いたのは、オレアルティアと面識のある翠の肥満だった。
 スーツの内側からひょい、とビン牛乳を取り出した彼は、それをオレアルティアへと差し出す。
「まぁ、ご丁寧に有難う御座います。ヴァン、貴方身長がもっと欲しいと言っていましたわね? お飲みなさい」
 微笑みを傍らの小柄な青年へと向けて、受け取った牛乳をその手に持たせた。
「銃の説明をする。下に」
 ビン牛乳を片手に、眠そうな青年は大き過ぎる白衣を翻してとことこと歩いていく。
「彼も一緒に?」
「えぇ。責任者として自分も、とヴァンが申しまして」
 ファファルの問い掛けに、オレアルティアが頷く。
 それと、とオレアルティアは数枚の書類を取り出して8人全員に配布した。
「これはー‥‥設計図、ですか〜?」
 ラルスの言葉に、肯定の言葉を返した女社長は微笑んだままだ。
「えぇ。試作銃『グロリア』の設計図です。社外秘の書類になりますので、持ち出しはご遠慮下さいませね?」
 そこまで言った後、ふとオレアルティアは視線を1人の能力者へと移した。
「‥‥何か?」
 視線を向けられたユーリが声を上げれば、女社長は微笑みを浮かべたまま。
「まず、ユーリ・ヴェルトライゼン様。ご案内しますので、どうぞこちらへ」
「突然? 俺は設計図を見る暇ないのか?」
「設計図はお持ちになって下さい。ユーリ・ヴェルトライゼン様には、少し特別な事をお願いする予定ですので」
 それ以上は何も言わない女社長に、ユーリは溜息をひとつついたのだった。

●ユーリの場合
 案内された地下4階。
 フロア全てをたった2室にしているだけあって、そこは非常に広かった。
 その1室。機械が占拠しているに近い方の部屋。
 そこで、先に下りて待っていたのだろうヴァンが、オレアルティアとユーリをちらりと確認すると呟く。
「準備出来てる」
 言葉の後に視線をずらされたその先には、光る銀の小銃が1丁そこにあった。
「ユーリ・ヴェルトライゼン様は資料によるとまだ未成年という事ですから、申し訳御座いませんが射撃はご遠慮頂きますが‥‥実物を見てご意見を頂ければ、と」
「‥‥撃つのはNG、と」
「えぇ。但し、お手に取られる分には構いません。どうぞ」
 促され、ユーリは置かれた銀の小銃を手に取った。
「‥‥思ったより大きいな」
「やはりそう思われますか」
 ユーリの呟きに、言葉を返したオレアルティアが僅かに眉を寄せた。
「ただ、射程範囲を伸ばす為には、どうしてもそれ以下の大きさにはならなかった様でして。‥‥ヴァン」
 社長の呼びかけに答える様に、ヴァンが説明を始める。
「現行以下の大きさになると、射程が短くなる。100mm縮めて約10mの数値が出た。配合の関係性もある」
「反動はどの程度あるんだ?」
「奇跡的にも、それほどは。安定性はある程度確保されていると思われます。私がテストした時にも、大きな反動は認められませんでしたから」
「ふぅん‥‥命中率も安定性もそれなりの数値は出してるわけだ。因みにそれは両手撃ち?」
 グロリアをあらゆる角度から眺めながら、ユーリは射撃の構えを取った。
「両手撃ちです。片手でもテストしましたが、確実な安定性を求めるならばやはり両手でしょうか」
「なるほどね‥‥」
 構えを解いたユーリと、微笑みながらもデータを次々に提示するオレアルティア。
 そんな2人を眺めながら、交わされた言葉を次々に新しいデータとして記録していくヴァンが、この部屋唯一の時計を眺めて呟く。
「社長。時間」
「あぁ、そうですわね。有難う、ヴァン」
 その言葉に、ユーリは自身のテストが終了した事を悟った。
「それじゃ、残りは設計図に書いておく事にするよ」
 銃を置いたユーリに、オレアルティアは微笑みを絶やさずに頷く。
「はい、有難う御座います。それでは上までご一緒致しますわね」
 部屋を後にする2人に、ヴァンがぽつりと呟いた。
「‥‥1人目、データ収集完了」

●ファファル、翠の肥満、ベーオウルフ、ラルス、オブライエン、トリストラム、セレスタの場合
「よろしく頼む。早速だが、銃を見せてもらえるか?」
 同じく案内された地下フロアで、残りの7人は今回の依頼に必要不可欠な試作銃を手渡された。
 但し、7人が通されたのは機械が占拠している方ではなく、広い空間に数個の機器があるだけの部屋だったが。
「こちらが『グロリア』試作銃で御座います」
 オレアルティアが微笑みながら告げると、全員が手に取ったグロリアを数度上下に動かした。
「さすがに、質量感があるな‥‥」
「実用性を求めるなら、軽量化が必要だろうな」
「ふむ‥‥私には些か小さく感じますね〜」
「大きさはあるが、名前に相応しい優美なデザインじゃな」
「残る問題点はリロードにどれだけ時間がかかるか、ですね」
「軽量化は安定性を失う。改良はしてみる」
 そこに、銃を手に少し離れた場所へと行っていた翠の肥満が戻って来た。
「なる程‥‥空撃ちしてみましたが、真新しいせいですかね? トリガーが少し硬い気がしますが‥‥」
「作りたて。使ううちに慣れる」
 其々の感想に答えるヴァンに、苦笑するオレアルティア。
「これは用途としてはサイドアームを前提としているのか?」
「それは顧客のニーズの問題となりますわね」
 其々が細部まで確認している最中。
 翠の肥満は特技のガンプレイを軽やかに披露して。
「‥‥これだけ軽いとデカくても回しやすいや。握った感触も悪くない。とりあえずコレクション用としては気に入ったぞ」
「コレクションでは困りますけどね〜」
 苦笑するラルスに、冗談ですよと言葉を返す翠の肥満。
「流石にこの全長では‥‥な。弾倉の強度は十分なのか?」
 同じく苦笑するファファルに、又もヴァンがぽつりと呟く。
「耐久性テスト。クリア済み」
「リロードは出来んのだったな?」
 オブライエンの問いに、オレアルティアは微笑みながら頷く。
 やはり気になるのはリボルバー式にしては長すぎる全長とリロードか。
 データとして追記を行なうヴァンが、時計をちらりと見てオレアルティアへと視線を移す。
「社長」
「分かりましたわ、ヴァン。‥‥それでは皆様、準備は宜しいでしょうか」
「あぁ‥‥さて、では仕事を始めようか‥‥」
「では始めますね‥‥」
「OKだ」
「はい、大丈夫ですよ」
 スキルを使用する予定の翠の肥満、ラルス、オブライエン、トリストラムが瞬時に覚醒する。
 敵ホログラフィの出現ポイントを説明して、オレアルティアとヴァンはもうひとつの部屋へと移動した。
「では‥‥開始!」

●テスト終了
「データの解析はヴァンに任せましょう。私は皆様に感想を伺いますので、もう一度応接室へご案内しますわね」
 各々がスキルを使用したり、距離を取ったり、構えを変えてみたり。
 用意されたテスト用の弾丸全てを撃ち終わった8人と、その様子を見ていたオレアルティアが向かったのは、彼らが最初に通された応接室だった。
 到着の直ぐ後に、飲物と手軽なスイーツを出されたが、能力者達の興味はやはり、先程までテストに使用していた試作銃『グロリア』。
「やはり大きさがネックになるだろうな‥‥」
「ロマンよりも実用性が重要だろう。装填数を1発減らしてでも、もう少し小型化・軽量化する事をお奨めしたい」
 ファファルの言葉に頷いたのは、ベーオウルフだ。
 一方、その言葉に首を傾げたのはラルスだ。
「普段から大型の弓を使用しているせいですかねー‥‥私はそれほど、大きいとは感じないのですがー‥‥」
「確かに、慣れるまでは時間がかかりそうですけど、慣れれば気にならないと思うんですがね」
 ラルスに同意したのは翠の肥満。
「鋭覚狙撃を使用した時、異常な命中率に驚いたのう」
「確かに。長身故に取り回しが効き辛い点や、反動が大きいというデメリットはありますが、それを加味しても有り余る安定性と命中精度がありました」
 オブライエンの言葉に、続いてセレスタが口を開く。
「寧ろこの銃身でこの軽量、威力、装飾の優美さ。慣れるまで時間が掛かるというそのデメリットも、銃好きにはたまらない逸品ですね」
「俺は射撃はしてないけど、やっぱり大きさは気になるかな。リロードに関しては、リローダーを作ってみるっていう手もあると思うけど」
 トリストラムとユーリが設計図を見つめ、意見を交換しながら紅茶を口に運ぶ。
「リローダーは今後検討して参りましょう。好き好きがあるとは思いますが、実用性を兼ね備える為には必要になるかと、私も考えておりますから」
 設計図に、次々と書き込まれていく改善点。
「これより小さくなった場合の命中率はどの程度になるんだ?」
 ベーオウルフの問い掛けに、オレアルティアは苦笑しながら設計図の端に数値を書き記した。
 その数字を見て、一瞬全員が口を閉ざす。
「‥‥グロリアのコンセプトは『SES搭載のリボルバー銃』と『高い命中率と安定性』だったか」
「この数字だと、コンセプトから離れてしまいますねー‥‥」
 記された数値は、一般に支給されている小型銃と大差ない数値だ。
 先程までテストしていたグロリアを知っている彼らにとっては、その数値でははっきり言って『お話にならない』ものだった。
「シルバーとの配合を変更すると、少し不具合が発生してしまいますので‥‥配合率は変更が出来かねるのが現状で御座います」
 微苦笑を浮かべたままのオレアルティアに、全員が思わず頷いてしまったのは言うまでもない。

 意見の提出が済み、後は報酬を受け取って各自解散、という時だった。
「‥‥で、参加記念にこいつを1挺、贈呈してくださるなんて事は‥‥あります? ありません?」
 そう言ったのは翠の肥満だ。
「ダメならフルーツ牛乳も付けますよ。あ、あ、乳酸菌飲料も!」
 言いながら、スーツの一体何処にそれほどの飲物があったのか、といわんばかりに次から次へと飲物を取り出し始めた。
「フルーツ牛乳も乳酸菌飲料もありませんが、自分も同意見ですね。報酬代わりでも構いませんから、こちらの試作銃を、というわけには行きませんかね?」
 眼前に並べられたグロリア試作銃を、名残惜しそうに見つめて続けたのはトリストラム。
「私もこの銃‥‥一丁欲しいな」
 セレスタもこの扱い難いグロリアが気になる様子。
 口にしないメンバーも、片隅にはやはりその『希少価値のある銃』に対する興味が尽きないのだろう。
 目を輝かせる者、無言ながらも社長を見つめる者。其々だ。
 しかし、オレアルティアは残念そうに首を横に振って口を開いた。
「確かに、安定性や実戦でしか分からない数値というのも発生するでしょう。ですが、あくまでこのグロリアは試作品。私共としても、正規のラインに乗った商品でない限りは、お客様がいくら望まれ様とお渡しするわけには参りませんから‥‥」
「フルーツ牛乳と乳酸菌飲料でも?」
 顔見知りの翠の肥満が、それならと別の飲物を取り出そうとする。
 けれど、女社長はその行動を制止しながら言葉を続ける。
「改良の余地が山の様に存在する銃器です。この言い方は好きではないのですが、本日テストして頂いたグロリアは『不完全』。皆様の手にお渡しするなら、やはり完全に出来上がった品でなければなりません。こればかりは私の信念ですので、大変申し訳御座いませんが、今回はお断りさせて下さいませね」
 どうやらこれ以上ねだっても、この女社長は首を縦に振ってくれる事はない様だ。
 残念そうに肩を落とすメンバーに、本当に申し訳なさそうにオレアルティアは深く頭を下げたのだった。

 END